骨盤部のヘルニアにおける症状と特徴について
「骨盤のヘルニア」と呼ばれるものには、腰の一番下の椎間板ヘルニアと、腸などが骨盤の近くではみ出すヘルニアがあり、症状も受診先も違います。腰から脚へ響く痛みやしびれなら整形外科、脚の付け根のふくらみや腹痛を伴う痛みなら外科で調べます。
太ももの内側の痛みに腹痛や嘔吐が重なるときは、骨盤の奥で起こる閉鎖孔ヘルニアも疑います。強い腹痛や繰り返す嘔吐があれば、予約の日まで待たずに救急を受診してください。
この記事では、骨盤の近くに起こるヘルニアの種類、腰の一番下や太ももの内側に出る症状、検査と受診先の選び方を解説します。
目次
骨盤の近くに起こるヘルニアは種類で受診先が変わる
「骨盤のヘルニア」は1つの病名を指す表現ではありません。痛む位置だけで判断せず、背骨の椎間板に起きているのか、おなかの内容物がはみ出しているのかを区別します。
腰椎椎間板ヘルニアは背骨のクッションに起こる
腰椎椎間板ヘルニアは、腰の背骨の間にあるクッション状の組織がはみ出し、近くの神経を刺激する病気です。腰の一番下にある第5腰椎と、その下で骨盤の後ろ側を支える仙骨の間にも椎間板があり、この部分の異常で骨盤の周囲から脚に症状が広がります。
腰の画像を見ながら「骨盤のすぐ上にヘルニアがある」と説明されたなら、この腰椎下部の椎間板を指している可能性があります。診療明細や説明書に記載された正式な病名が、どの組織の病気なのかを整理する助けになります。
閉鎖孔ヘルニアは骨盤の奥に腸などが入り込む
閉鎖孔ヘルニアは、骨盤の左右にある閉鎖孔という骨の穴の近くで、神経や血管が通る狭い通路に腸などが入り込む病気です。骨盤の奥で起こるため、皮膚の表面から分かるふくらみがなくても発症します。
この通路に近い閉鎖神経は、太ももの内側の感覚や、脚を内側へ寄せる筋肉の働きに関わります。腸が入り込んで神経を圧迫すると、腹部の病気でも太ももの痛みとして現れます。
脚の付け根のふくらみも外科で調べる
鼠径ヘルニアは、脚の付け根にあたる鼠径部で、おなかの壁の弱い部分から腸や脂肪がはみ出す病気です。その近くには大腿ヘルニアという別の出口からはみ出す病気もあり、いずれも一般外科や消化器外科が担当します。
| 種類 | 主に気づく症状 | 受診先の基本 |
|---|---|---|
| 腰椎下部の椎間板ヘルニア | 腰から脚への痛み、しびれ | 整形外科 |
| 閉鎖孔ヘルニア | 太ももの内側の痛み、腹痛、嘔吐 | 一般外科・消化器外科 |
| 鼠径ヘルニア・大腿ヘルニア | 脚の付け根のふくらみや痛み | 一般外科・消化器外科 |
ふくらみがあるかどうかは区別に役立つものの、外から見えない閉鎖孔ヘルニアを除外する基準にはなりません。強い症状があるときは、診療科の名前より救急で評価を受けられるかを優先します。
腰の一番下のヘルニアで骨盤まわりに出る症状
腰と骨盤の境目の椎間板から出る症状は、離れた脚にも及びます。近くを通る神経が脚へ続いているため、腰の下部だけでなく脚にも痛みやしびれが出ます。
第5腰椎と仙骨の間から脚へ痛みが広がる
第5腰椎と仙骨の間は、検査結果では L5/S1 と表記される部分です。この椎間板の近くで神経が刺激されると、腰の下部やおしりの周囲から、太もも、下腿、足へ痛みが広がります。
| 症状を感じる場所 | 感じ方の例 | 受診時に伝える内容 |
|---|---|---|
| 腰の下部・骨盤の後ろ側 | 局所の痛み、脚へ響く痛み | 腰と脚のどちらが先に痛んだか |
| 太ももから下腿 | 線状に走る痛み、しびれ | 左右差と、痛みが続く範囲 |
| 足の周囲 | しびれ、感覚の違和感 | 触れた感じの変化、症状の始まった時期 |
表は症状が出る可能性のある範囲で、一部の場所だけに症状が出る患者さんもいます。腰の一番下の異常でも症状の広がりは重なり合うため、痛む場所だけでは圧迫された神経を決められません。
痛みとしびれは感じ方を分けて伝える
脚へ響く痛みと、触っても感覚が鈍い状態は分けて伝えると、症状が整理しやすくなります。「太ももが痛い」だけでなく、表面がピリピリするのか、奥に痛みが走るのかを言葉にすると、診察で調べる範囲が定まります。
長引く痛みがあると、骨盤の中で何か悪い変化が起きているのではと不安になるのは自然です。診察では、痛む位置、感じ方、時間とともに変わった症状を伝えましょう。骨盤付近が痛むという理由だけで腸の病気とも、腰の病気とも決めずに評価を受けられます。
腰の病変だけで腹部の症状まで説明しない
腰椎椎間板ヘルニアがある患者さんでも、新たな腹痛や嘔吐が出たら、腹部の病気を別に調べる必要があります。以前から腰痛があるという経過は、同時に閉鎖孔ヘルニアなどが起きていない根拠にはなりません。
また、太ももの内側の痛みが目立つときは、その痛みだけを腰から来た症状と結びつけず、食事が取れるか、おなかが張るかも合わせて伝えると判断に役立ちます。症状が増えた順番は、腰と腹部のどちらの評価を急ぐかを決める手がかりになります。
閉鎖孔ヘルニアは太ももの内側の痛みに注意する
太ももの内側の痛みに腹痛や嘔吐が重なったら、閉鎖孔ヘルニアも疑って外科で調べます。頻度は低い病気ですが、腸が狭い通路にはまり込むと、放置によって腸の傷みが進む危険があります。
高齢でやせた女性に多くみられる
閉鎖孔ヘルニアは、高齢でやせた女性、出産経験のある女性に多くみられます。骨盤の構造に加えて、通路の周りの脂肪が少なくなるなどの条件が重なり、腸が入り込みやすくなると考えられています。
ただし、年齢や体形は診断の条件そのものではなく、男性や若い人でも症状に応じた評価が必要です。「高齢者の病気だから自分は違う」と決めず、太ももの痛みと腹部の変化が同時に起きていないかに目を向けましょう。
内ももの痛みと腹部の変化を一緒に捉える
閉鎖神経が圧迫されると、脚の付け根から太ももの内側、膝の内側へ痛みが響き、脚を伸ばす動きで強まる場合があります。こうした痛みは特徴の1つですが、出ない患者さんもいます。そのため、自分で脚を動かして痛みが出るか試しても診断はできません。
- 太ももの内側から膝へ響く痛み
- 腹痛や、普段より強いおなかの張り
- 吐き気、繰り返す嘔吐
- 便やガスが出にくくなる変化
腹痛や嘔吐を伴うときは、内ももの痛みの強さにかかわらず、腸の通り道がふさがっていないかを急いで評価します。
腸閉塞とは、腸の内容物が先へ進みにくくなり、腹痛や嘔吐などを起こす状態です。脚の症状から始まったように感じても、あとからおなかが張ってきたなら、その変化も同じ病気の症状かもしれないので、診察時に伝えましょう。
腸の血流が損なわれる前に発見する
閉鎖孔ヘルニアを早く見つける理由は、はまり込んだ腸の血流が悪くなり、腸の組織が傷むのを避けるためです。腸が戻らなくなる状態を嵌頓、さらに締めつけで血流が妨げられた状態を絞扼と呼び、緊急の手術が必要になります。
診断や受診の遅れは経過の悪化に関わるため、腹痛と嘔吐が続くときに、太ももの痛みが軽くなるまで自宅で待つのは危険です。腸の状態が保たれているうちに治療できる場合と、傷んだ腸の切除が必要な場合では、手術後の回復も変わります。
骨盤まわりの痛みは症状の組み合わせと検査で絞る
痛む場所に加えて、しびれ、ふくらみ、腹部の変化を組み合わせると、どの病気を調べるべきかが整理できます。診断は自己判断のチェックだけで終えず、診察と必要な画像検査を合わせて行います。
神経の症状と腸の症状を分けて整理する
脚への痛みにしびれが伴うときと、内ももの痛みに嘔吐が伴うときでは、先に調べる対象が変わります。高齢でやせた女性に腹痛と大腿部の痛みが重なるなら、外からふくらみが見えなくても閉鎖孔ヘルニアを候補に入れます。
| 原因の候補 | 組み合わせて捉える症状 | 区別するときの注意 |
|---|---|---|
| 腰椎椎間板ヘルニア | 腰から脚へ響く痛みとしびれ | 痛む範囲だけでは神経を特定できない |
| 閉鎖孔ヘルニア | 内ももの痛みと腹痛・嘔吐 | 表面のふくらみが目立たない |
| 鼠径部のヘルニア | 脚の付け根のふくらみと局所の痛み | 強い痛みや嘔吐が出たら緊急性を評価 |
表は受診先を選ぶための目安です。典型的な組み合わせから外れていても症状の悪化が続くなら、候補を1つに固定せず評価し直します。
閉鎖孔ヘルニアは腹部から骨盤のCTで調べる
CTは体の内部を断面の画像として見る検査で、閉鎖孔ヘルニアが疑われるときは腹部から骨盤にかけて撮影します。骨盤の奥に入り込んだ腸の位置や腸閉塞の状態を調べるのに役立ちます。一方で、腰を中心に撮った画像に異常がなくても、骨盤内の腸まで十分に評価できたとは限りません。
受診時には検査名だけでなく、撮影した範囲や検査を受けた時期も伝えると、追加で調べる対象を整理できます。
以前の診断と違う症状が出たら評価を更新する
以前に腰のヘルニアと診断されていても、今の痛みの原因が同じとは限らないため、症状が変わった時点で評価し直してもらいます。画像はその時点の体の状態を示すものであり、後日始まった腹痛や内ももの痛みを自動的に説明するものではありません。
たとえば、腰痛で通院中に自宅で内ももの痛みが始まり、その後におなかが張って吐いたなら、腰の次回予約を待つのではなく救急で腹部の評価を受けます。受付で「腰痛の治療中ですが、今日から内ももの痛みと嘔吐が加わりました」と伝えると、新しい症状の存在が明確になります。
整形外科と外科は困っている症状から選ぶ
しびれを伴う腰から脚の痛みが中心なら整形外科、脚の付け根のふくらみや腹部症状が中心なら一般外科・消化器外科が受診先です。複数の症状が重なるときは、受診時に全体を伝え、必要な診療科につないでもらいます。
腰から脚の痛みが続くときは整形外科へ
腹痛や嘔吐がなく、腰から脚へ響く痛みやしびれによって仕事、睡眠、着替えなどに支障が出ているなら、整形外科で原因を調べます。「何週間たったら受診」と日数だけを決めるより、生活への影響や症状の変化に応じて受診時期を判断します。
緊急の神経障害がなければ、薬や体の動かし方の調整など、手術をせずに痛みを和らげる治療から始めるのが一般的です。改善の見通しは痛みの残り方や神経症状で変わるため、治療開始時には再診の予定と、予定を早める症状を確認しましょう。
内ももの痛みに腹部症状が加わったら外科へ
内ももの痛みと腹痛が重なるときや、脚の付け根にふくらみがあるときは、一般外科・消化器外科で腹部のヘルニアを評価します。受診先を探す際には「ヘルニア」という語だけでなく、腹部の症状や痛む位置を受付に伝えると、腰の病気との取り違えを避けられます。
閉鎖孔ヘルニアの治療では、入り込んだ腸を戻し、その通り道を修復する手術が基本になります。腸が傷んでいるか、全身の状態が安定しているかによって治療内容は変わり、痛みを和らげる処置と並行して原因に対処します。
別の診療科へ移るときは診療情報も引き継ぐ
通院中に別の原因が疑われたら、現在の担当医に紹介状を、受付や検査窓口に画像データの準備を依頼できます。病名だけでなく、発症の経過や治療への反応が伝わると、次の受診先で何を追加評価するかが整理しやすくなります。
引き継ぐ情報の中心は、紹介状、検査結果、画像データ、現在使っている薬の情報です。緊急の症状があるときは書類の完成を待たず、分かる範囲の経過と通院先を伝えて救急受診を優先します。
強い腹痛や急な体調の悪化は受診を急ぐ
強い腹痛と嘔吐、戻らなくなった痛いふくらみがあるときは、腸の血流が妨げられている危険があるため、すぐに救急受診してください。症状が始まってからの時間だけで安全とは判断できず、普段の予約を待たずに対応する必要があります。
痛み以外の変化も救急受診の目安になる
緊急性は痛みの点数だけでなく、吐く、便やガスが出ない、全身の状態が悪くなるといった変化から判断します。内ももが最も痛くても、同時に腹部症状が進んでいれば、腸の病気を含めた速やかな評価が必要です。
- 突然の強い腹痛、または強まっていく腹痛
- 繰り返す嘔吐、飲食が難しい状態
- おなかの張りに伴う、便やガスが出ない状態
- 脚の付け根のふくらみが硬くなり、強く痛む変化
- 冷や汗、ふらつき、意識がぼんやりするほどの体調悪化
症状がすべてそろうのを待つ必要はなく、強い痛みが続く場合や全身状態が悪い場合には、その時点で救急の評価を受けます。
受診まで無理に押したり動かしたりしない
痛いふくらみを力で押し戻したり、内ももの痛みを確かめるために強く脚を伸ばしたりする行為は避けます。自宅で戻せるかを試しても、腸の状態を安全に評価できるわけではなく、受診の遅れにつながります。
痛みが強く移動が難しい、冷や汗や意識の変化があるときは、119番で救急車を呼んでください。救急要請では、現在の症状と始まった時刻を伝え、移動や飲食については受診先や救急隊の指示に従います。
痛みが一度弱まっても経過を伝える
痛みが一時的に軽くなっても、腹痛や嘔吐を繰り返しているなら、症状が強かったときの様子を含めて評価する必要があります。受診した時点の痛みだけを伝えると、食事が取れなかった時間や腹部の張りなど、判断に必要な経過が抜けてしまいます。
なお、腰痛に急な脚の脱力や排尿の変化、股の間の感覚低下が加わったときも、神経の強い圧迫を疑って直ちに救急受診してください。腹部の緊急症状がなくても、このような変化があれば通常の外来予約を待つ対象から外れます。
よくある質問
「骨盤のヘルニア」と言われたら閉鎖孔ヘルニアですか?
その表現だけでは閉鎖孔ヘルニアと決まりません。腰の一番下の椎間板を指している場合もあるため、診断書や検査の説明に書かれた正式な病名を確かめると、病気の場所と担当科が分かります。
太ももの内側だけが痛くても外科へ行くべきですか?
内ももの痛みだけなら原因は決められず、腹部症状の有無や体の状態に応じて受診先を選びます。腹痛や嘔吐がある場合、高齢でやせていて原因の分からない痛みが続く場合には、外科で閉鎖孔ヘルニアを調べてもらいます。
腹部の変化がなく脚の動きに伴う痛みが中心なら、まず整形外科での評価も選択肢になります。受診後に吐き気や腹痛が加わったら、腰の病気と決まったと思い込まず、新しい症状を受診先に伝えてください。
ふくらみがなければ閉鎖孔ヘルニアは否定できますか?
ふくらみがないだけでは否定できません。閉鎖孔ヘルニアは骨盤の奥に生じるため、見た目で変化が分からなくても、腹痛や内ももの痛みの組み合わせから疑い、必要に応じてCTで調べます。
腰の治療を受けても痛みが変わらないときはどうすればよいですか?
次の診察で、痛みが続く場所と治療後の変化を伝え、診断や治療方針を再評価してもらいます。何回治療したかだけで結論を出さず、当初の症状が続いているのか、別の場所に新しい症状が出たのかを分けて話すと再評価に役立ちます。
強い腹痛や繰り返す嘔吐が新たに出たときは、次の予約日を待たず救急受診してください。受診時には、腰の治療内容が分かる資料が手元にあれば持参し、急に変わった症状を先に伝えると評価につながります。
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