つり革につかまっている時や洗濯物を干していると腕がだるくなる、ボールを投げるときや投げた後に腕が痺れる、などの症状を認める場合、『胸郭出口症候群』を疑う必要があります。
今回は、この胸郭出口症候群についてお伝えしていきます。
また胸郭出口症候群は、なで肩やいかり肩といった姿勢との関係性もあるため、その関連性についてもお伝えしていきます。
同様に肩から手のしびれを生じる疾患に、頸椎症性神経根症や頸椎ヘルニア、そして手の痺れを認める手根管症候群がございます。これらの疾患については、下記の記事をお読みください。
頸椎症性神経根症:肩から腕の痛みや痺れの原因・治療
頸椎椎間板ヘルニアの症状・診断・治療
手根管症候群:手のしびれ・握力低下の原因と治療
目次
今回の10秒まとめ
①肩から手にかけてのしびれや痛みの原因の一つに胸郭出口症候群と呼ばれる疾患があります。
②肩から手にかけて支配している腕神経叢の通り道が圧迫されることで、胸郭出口症候群の症状を発生します。
③胸郭出口症候群は、斜角筋症候群・肋鎖症候群・小胸筋症候群(過外転症候群)に分けられ、いかり肩は斜角筋症候群の、なで肩は肋鎖症候群・小胸筋症候群の原因になることがあります。
④胸郭出口症候群治療方法として大切なことは痛みを生じる動作の回避・原因となる姿勢の改善です。
胸郭出口症候群とは
胸郭出口症候群とは、首から出て腕にかけて走行している神経の束、腕神経叢(わんしんけいそう)が圧迫されることによって起こる症状のことです。
腕神経叢は、肩から手にかけての様々な運動神経や感覚神経に加えて、血管への自律神経も含まれています。
この神経の束が圧迫されることにより、胸郭出口症候群の代表的な症状である肩から手にかけてのしびれや痛みや冷感が生じます。
胸郭出口症候群という特殊な名前の由来ですが、腕神経叢の通り道を知ることで理解することが出来ます。
腕神経叢は、首から手に至るまでの間に筋肉と骨の隙間でできているいくつかのトンネル様の部分を通ります。
胸の付近にある(胸郭)トンネルの部分(出口)で、神経や血管が圧迫されることにより起こる疾患のため、胸郭出口症候群という名前の疾患なのです。
胸郭出口症候群の症状
胸郭出口症候群では、下記のような症状を認めます。
- 肩から手にかけてのしびれや痛み、ダルさ
- 握力の低下、指が動かしづらい
- 手のむくみ
- 手の冷え
特徴的な症状として、つり革につかまっている時や洗濯物を干していると腕がだるくなる、ボールを投げるとき、または、投げた後に腕が痺れる、など
胸郭出口症候群の3タイプ
胸郭出口症候群は、神経や血管が圧迫される部位により以下の3つに分けられます。
胸郭出口症候群の種類
- 斜角筋症候群
- 肋鎖症候群
- 小胸筋症候群(過外転症候群)
この言葉のままでは分かりづらいので、一つずつ見ていきましょう。
斜角筋症候群
斜角筋症候群は、斜角筋という筋で構成される斜角筋隙という通り道が狭くなることで痛みやしびれなどの症状が出現するものです。
斜角筋とは主に首の動きに関わる筋肉で、肋骨から頚椎にかけて存在しています。
斜角筋隙が狭くなる原因は何でしょうか。
実は、その原因がいかり肩なのです。
いかり肩は、男性に多い姿勢で肩を上に引き上げたような姿勢となっています。
この姿勢では、斜角筋が緊張した状態になってしまうため、斜角筋の間が狭まり斜角筋症候群を誘発します。
肋鎖症候群
肋鎖症候群は、肋骨と鎖骨の間の肋鎖間隙という通り道が狭くなることで痛みやしびれなどの症状が出現するものです。
この肋鎖症候群は通常は骨のない肋骨と鎖骨の間に頸肋という骨ができることが原因である場合が多いです。
他にも、肋骨と鎖骨の間が狭まる原因を考えてみましょう。
先ほどとは正反対の姿勢ですが、この原因がなで肩なのです。
なで肩の姿勢の場合、鎖骨が下がって肋骨との間が狭まり、肋鎖症候群を引き起こす原因となります。
小胸筋症候群(過外転症候群)
小胸筋症候群は、小胸筋と鳥口鎖骨靭帯という靭帯でできる小胸筋下間隙という通り道が狭くなることで痛みやしびれなどの症状が出現するものです。
小胸筋は、鎖骨のやや下の烏口突起という部分から肋骨にかけて存在する筋肉です。
電車の吊り革を握ったり、高い場所のものを取ろうとする時に、腕神経叢の通り道が角度を変えるため、小胸筋と肋骨の隙間で圧迫されやすくなります。
また、なで肩の姿勢が定着している人が手を挙げると更に腕神経叢が圧迫されやすくなります。
胸郭出口症候群のチェック
以下に、代表的な胸郭出口症候群のチェックテストを紹介します。
※強い痛みやしびれが生じる場合は我慢せず、中断するようにしてください。
①アドソンテスト
痛みがある側に顔を向け、そのまま首を反らせます。
深呼吸をして、手首の脈が弱くなり手先の冷感やしびれが生じる場合は、斜角筋症候群の可能性があります。
②ライトテスト
写真のように肘を曲げたまま肩を外に開きます。
この姿勢を取った時に手先のしびれや冷感が生じる場合は、肋鎖症候群の可能性があります。
※あくまで簡易的な検査ですので、上記の検査が胸郭出口症候群を確定させるわけではありません。
胸郭出口症候群の治療法
胸郭出口症候群の治療の基本は、運動療法(リハビリテーション)による保存療法です。それでも改善しない場合、手術療法を選択します。
運動療法(リハビリテーション)
リハビリテーション による保存療法において大事なことは以下の2つです。
①原因となっている姿勢を改善する
前述の通り、体幹に対して肩が下がる『なで肩』や、体幹に対して肩が上がってしまう『いかり肩』は、胸郭出口症候群の原因となります。頚部周囲や肩関節周囲、そして肩甲骨周囲の筋肉のバランス異常がこのような姿勢異常の原因となるため、リハビリテーション
姿勢の改善に関しては以下のコラムで解説しております。
ぜひ1度お読みください。
胸郭出口症候群:腕の痺れと姿勢について
②痛みやしびれを誘発する動作を避ける
痛みやしびれが生じているにも関わらず、無理な動作を続けることで回復するまでの期間が長くなってしまいます。
痛みを生じる動作を避けるために以下のことに注意しましょう。
- 高い場所のものを取る際には、踏み台などを用いて手が高く挙がらないように工夫する。
- 休憩をはさみながら、手を挙げている時間が長くならないようにする。
- 同じ姿勢を長く取り続けないように注意する。
それでも改善が難しい場合に、前斜角筋腱の切離・第1肋骨の切除・小胸筋腱の切離などの手術療法を行う場合もあります。
胸郭出口症候群が気になる方は一度当院にご相談ください。
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