足立慶友医療コラム

膝の怪我の種類と応急処置 – 症状別の対応方法

2025.06.12

膝の怪我は、スポーツ活動中だけでなく、日常生活の些細な動作でも発生する可能性があります。急な痛みや腫れ、動かしにくさに戸惑う方も少なくないでしょう。

膝の怪我には様々な種類があり、それぞれに適した初期対応が重要です。この記事では、代表的な膝の怪我の種類とその特徴、そしてご家庭でもできる基本的な応急処置について、症状別に詳しく解説します。

怪我の状態を正しく理解し、適切な判断を下すための一助としてください。ご自身の膝の状態を把握し、今後の対応を考えるための情報を提供します。

突然の膝の痛みに対する初期対応

膝に突然の痛みを感じたとき、まず行うべきは基本的な応急処置です。悪化を防ぎ、回復を助けるための第一歩となります。ここでは、怪我の直後に行うべき対応の基本を紹介します。

応急処置の基本原則 RICE処置

膝の怪我に対する応急処置の基本として、世界的に知られているのがRICE処置です。これは4つの処置の頭文字をとったもので、内出血や炎症、痛みを抑える目的で行います。

RICE処置の各要素

要素処置内容目的
Rest (安静)体重をかけず、患部を動かさないようにする。損傷の拡大を防ぎ、回復を促す。
Ice (冷却)氷のうなどで15~20分冷やし、一度外して再度繰り返す。血管を収縮させ、内出血や腫れ、痛みを抑制する。
Compression (圧迫)弾性包帯などで患部を軽く圧迫する。過度な腫れを防ぐ。しびれや変色に注意。
Elevation (挙上)患部を心臓より高い位置に保つ。重力を利用して腫れや内出血を軽減する。

冷却と安静の重要性

RICE処置の中でも特に重要なのが「冷却(Ice)」と「安静(Rest)」です。受傷直後の冷却は、炎症反応を効果的に抑制します。

直接氷を当てるのではなく、タオルで包んだ氷のうや冷却パックを使用し、凍傷に注意してください。

また、無理に動かすと損傷が悪化する可能性があるため、体重をかけないようにし、楽な姿勢で安静を保つことが大切です。松葉杖の使用も有効な手段の一つです。

応急処置で注意すべき点

応急処置はあくまで初期対応です。自己判断で無理な処置を続けることは避けてください。特に、強い圧迫による血行障害や、長時間の冷却による凍傷には十分な注意が必要です。

また、温める行為は急性期(受傷直後)には炎症を助長する可能性があるため、行わないでください。

痛みが激しい場合や、明らかな変形がある場合は、速やかに医療機関を受診する判断が求められます。

膝の構造と怪我が発生しやすい部位

膝関節は人体で最も大きな関節であり、複雑な構造をしています。歩く、走る、跳ぶといった動作を支える重要な役割を担っているため、常に大きな負担がかかっています。

この構造を理解することが、怪我の種類を把握する上で役立ちます。

膝関節を構成する要素

膝関節は主に骨、軟骨、靭帯、半月板で構成されています。これらの組織が連携して、スムーズで安定した動きを生み出しています。

膝の主要な構成要素と役割

構成要素主な役割特徴
骨・関節軟骨体重を支え、関節の土台となる。軟骨は衝撃を吸収する。大腿骨、脛骨、膝蓋骨から成り、表面は滑らかな関節軟骨で覆われる。
靭帯骨と骨をつなぎ、関節の安定性を保つ。十字靭帯(前後)と側副靭帯(内外)が主なもの。
半月板衝撃を吸収するクッションの役割と、関節の適合性を高める。大腿骨と脛骨の間にあるC字型の軟骨組織。

靭帯の役割と損傷

靭帯は、膝の前後左右への安定性を保つ強靭な結合組織です。スポーツなどで急な方向転換やジャンプの着地時に強い力が加わると、伸びたり切れたりすることがあります。

これを靭帯損傷と呼び、膝の不安定感の主な原因となります。

半月板の役割と損傷

半月板は、大腿骨と脛骨の間でクッションの役割を果たしています。体重がかかった状態で膝をひねるような動作が加わると、半月板が傷ついたり断裂したりすることがあります。

この損傷は、膝の引っかかり感や痛みを引き起こします。

スポーツで多発する膝の靭帯損傷

スポーツ活動は膝に大きな負担をかけ、特に靭帯損傷のリスクを高めます。ここでは、代表的な4つの靭帯損傷について、その原因や症状を詳しく解説します。

前十字靭帯(ACL)損傷

ジャンプの着地や急な方向転換、ストップ動作など、非接触型の損傷が多いのが特徴です。特にバスケットボールやサッカー、スキーなどのスポーツで頻繁に発生します。

受傷時には「ブツッ」という断裂音を感じることがあり、その後、膝が腫れて強い痛みが出現します。放置すると膝がガクッと崩れる「膝崩れ」という現象が起きやすくなります。

靭帯損傷の種類と主な原因

靭帯の名称主な原因となる動作発生しやすいスポーツ
前十字靭帯(ACL)ジャンプ着地、急な方向転換バスケットボール、サッカー、スキー
後十字靭帯(PCL)膝前面への強い打撃、転倒ラグビー、柔道、交通事故
内側側副靭帯(MCL)膝の外側からの衝撃サッカー、ラグビー、アメリカンフットボール

後十字靭帯(PCL)損傷

膝を曲げた状態で脛の前面を強く打つことで発生します。ラグビーのタックルや柔道、あるいは交通事故などで見られることが多い怪我です。

前十字靭帯損傷に比べて症状が軽い場合もありますが、膝の裏側の痛みや、階段を下りる際の不安定感を訴えることがあります。

内側側副靭帯(MCL)損傷

膝の外側から内側に向かう強い力が加わった際に損傷します。タックルなどのコンタクトスポーツで発生しやすい怪我です。

膝の内側に痛みや圧痛があり、損傷の程度によっては不安定感も生じます。多くの場合、単独損傷であれば保存的治療で良好な結果が期待できます。

外側側副靭帯(LCL)損傷

内側側副靭帯とは逆に、膝の内側から外側への力で損傷します。発生頻度は内側側副靭帯損傷よりも低いですが、他の靭帯や神経との複合損傷が起こりやすく、注意が必要です。

膝の外側に痛みや腫れ、不安定感が出現します。

膝のクッション機能に関わる半月板損傷

半月板は膝関節の衝撃吸収と安定化に重要な役割を担っています。この組織が損傷すると、膝の痛みや機能障害を引き起こします。

半月板損傷の原因

スポーツ活動中に体重がかかった状態で膝をひねる動作が主な原因です。また、加齢によって半月板自体がもろくなり、些細な動作で損傷することもあります。

ジャンプの着地や急な切り返し動作は、特にリスクが高いと考えられています。

半月板損傷でみられる症状

半月板を損傷すると、膝の曲げ伸ばしの際に痛みや「ゴリッ」「コキッ」といった音(クリック音)を感じることがあります。

また、断裂した半月板の一部が関節に挟まり、急に膝が動かなくなる「ロッキング」という状態に陥ることも特徴的な症状です。

半月板損傷の代表的な症状

症状具体的な内容日常生活への影響
痛み膝をひねる、深く曲げる動作で痛みが増強する。関節の隙間に沿った圧痛。階段昇降や正座が困難になる。
ロッキング膝が特定の角度から動かせなくなる。歩行中に突然動けなくなることがある。
引っかかり感膝の曲げ伸ばしの際に、何かが挟まるような感覚がある。スムーズな動作が妨げられる。

半月板損傷と変形性膝関節症の関係

半月板は膝のクッションであるため、その機能が失われると、関節軟骨への負担が増加します。

長期間にわたり半月板損傷を放置すると、関節軟骨がすり減り、将来的に変形性膝関節症へと進行するリスクが高まることが知られています。

このため、適切な時期に適切な対応をすることが重要です。

骨や軟骨に関わる膝の怪我

靭帯や半月板だけでなく、膝関節を構成する骨や関節軟骨そのものが損傷することもあります。これらは強い外力によって発生することが多い怪我です。

膝蓋骨脱臼

膝蓋骨(ひざのお皿)が本来の位置から外側にずれてしまう怪我です。スポーツ活動中や転倒時に、膝を少し曲げた状態で急にひねる動作が加わると発生しやすいです。

一度脱臼すると、靭帯が緩んで反復性脱臼(脱臼を繰り返す状態)に移行することがあります。若い女性に比較的多く見られます。

膝関節周辺の骨折

強い衝撃によって膝関節を構成する骨(大腿骨、脛骨、膝蓋骨)が折れることです。交通事故や高所からの転落など、大きなエネルギーが加わった際に発生します。

激しい痛みと腫れ、明らかな変形を伴い、歩行は不可能になります。緊急の対応が必要な重篤な怪我です。

膝蓋骨脱臼と骨折の症状比較

項目膝蓋骨脱臼膝関節周辺の骨折
主な症状激痛、膝の変形(皿が外側にある)、膝を伸ばせない激痛、著しい腫れ、広範囲の内出血、歩行不能
特徴自然に元の位置に戻ることもあるが、不安定感が残りやすい緊急の処置と多くの場合、手術が必要になる

離断性骨軟骨炎

関節軟骨の一部が、その下にある骨とともにはがれ落ちてしまう病気です。10代の成長期の男子に多く、野球やサッカーなどのスポーツ選手に見られます。

初期は運動時の鈍い痛み程度ですが、進行して軟骨片が関節内にはがれ落ちる(関節ねずみ)と、激痛やロッキングの原因となります。

年代や生活背景でみる膝の怪我

膝の怪我は、年齢や性別、生活習慣によっても発生しやすい種類が異なります。それぞれの年代で特徴的な膝のトラブルについて解説します。

成長期の子供に多いオスグッド病

小学校高学年から中学生にかけての、スポーツを活発に行う男子に多く見られます。

急激な骨の成長に筋肉の成長が追いつかず、膝蓋骨の下の骨(脛骨結節)が、太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)によって強く引っ張られることで、炎症や骨の突出が起こります。

運動時に痛み、安静にしていると和らぐのが特徴です。

若い女性にみられる膝蓋骨の不安定性

もともと関節が柔らかい、膝蓋骨がはまり込む溝が浅いといった身体的な特徴を持つ若い女性では、膝蓋骨が不安定になりやすい傾向があります。

膝蓋骨脱臼まで至らなくても、膝のお皿周りの痛みや不安感を訴えることがあります。これを膝蓋骨不安定症と呼びます。

年代別の代表的な膝の傷害

年代代表的な傷害主な特徴
10代(成長期)オスグッド病、離断性骨軟骨炎骨の成長に関連したスポーツ障害が多い。
20~40代(活動期)靭帯損傷、半月板損傷、膝蓋骨脱臼スポーツや外傷による急性の怪我が中心。
50代以降(壮年期~)変形性膝関節症、半月板損傷(変性断裂)加齢による組織の変性が背景にあることが多い。

加齢と変形性膝関節症

加齢に伴い関節軟骨がすり減り、骨の変形や炎症が起こるのが変形性膝関節症です。

長年の負担の蓄積が主な原因ですが、過去の靭帯損傷や半月板損傷、骨折などの怪我が、将来的な発症リスクを高めることもあります。

初期は動き始めの痛みですが、進行すると安静時にも痛むようになり、日常生活に大きな支障をきたします。

医療機関を受診する目安と準備

膝の怪我をした際、どのタイミングで医療機関を受診すべきか迷うことがあるかもしれません。

ここでは、専門家による診断が必要な症状のサインと、受診の際に役立つ準備について説明します。

受診を検討すべき症状

応急処置を行っても改善しない場合や、以下のような症状が見られる場合は、自己判断をせずに整形外科の受診を検討してください。正確な診断が、適切な対応への第一歩となります。

医療機関の受診を推奨する症状リスト

  • 明らかに膝が変形している
  • 体重を全くかけられないほどの激しい痛み
  • 膝が腫れあがり、熱を持っている
  • 膝が不安定で、歩行中に崩れる感じがする
  • 膝の曲げ伸ばしができない(ロッキング)

受診時に医師に伝えるべき情報

正確な診断のためには、怪我をした時の状況をできるだけ詳しく伝えることが重要です。以下の点を整理しておくと、診察がスムーズに進みます。

医師への伝達事項

項目伝える内容の例
いつ(When)「昨日の午後3時頃」「3日前から徐々に」
どこで(Where)「サッカーの試合中」「階段で」
どのように(How)「ジャンプの着地でひねった」「相手と接触した」
どのような症状(What)「内側が痛い」「膝が抜ける感じがする」

診断のために行われる検査

医療機関では、まず問診と身体診察(膝を動かしたり、圧迫したりして損傷部位を特定する)を行います。この情報をもとに、必要に応じて画像検査を追加します。

レントゲン検査では骨の状態を、MRI検査では靭帯や半月板、軟骨といった軟部組織の状態を詳細に評価することが可能です。これらの検査を通して、正確な診断を下します。

膝の怪我に関するよくある質問

ここでは、膝の怪我に関して多くの方が抱く疑問について、Q&A形式で回答します。

Q. 膝の怪我は癖になりますか?

A. 一度の怪我、特に靭帯損傷や半月板損傷、膝蓋骨脱臼などは、膝の安定性を低下させることがあります。

このことにより、適切なリハビリテーションを行わないと、同じ怪我を繰り返したり(反復性)、別の怪我を引き起こしたりする可能性があります。

膝の機能と筋力を回復させることが、再発予防には重要です。

Q. 痛みがあるときは温めるのと冷やすの、どちらが良いですか?

A. 一般的に、怪我の直後(急性期)で腫れや熱感がある場合は「冷却」が基本です。炎症を抑える効果があります。

一方、慢性的な痛みで腫れがない場合(慢性期)は、「温熱」によって血行を促進し、筋肉の緊張を和らげることで痛みが軽減することがあります。

時期や状態によって使い分けることが大切です。

Q. サポーターは着けた方が良いですか?

A. サポーターには、関節の動きを制限して安定性を高めるものや、保温効果があるものなど、様々な種類があります。怪我の種類や状態によって適切なサポーターは異なります。

膝の不安定感を軽減し、安心感を得るためには有効な場合がありますが、長期的な使用は筋力低下を招く可能性も指摘されています。使用については専門家の意見を参考にすることをお勧めします。

質問と回答の要点

質問回答の要点
怪我は癖になるか?適切なリハビリをしないと再発しやすい。筋力回復が重要。
温める?冷やす?急性期は冷却、慢性期は温熱が基本。
サポーターは必要か?安定性向上に有効な場合もあるが、種類と使用期間には注意が必要。

以上

参考文献

HUNT, P. A.; GREAVES, Ian. Presentation, examination, investigation and early treatment of acute knee injuries. Trauma, 2004, 6.1: 53-66.

STRUDWICK, Kirsten, et al. Best practice management of common knee injuries in the emergency department (part 3 of the musculoskeletal injuries rapid review series). Emergency Medicine Australasia, 2018, 30.3: 327-352.

YASEN, Sam K. Common knee injuries, diagnosis and management. Surgery (Oxford), 2023, 41.4: 215-222.

JACKSON, Jeffrey L.; O'MALLEY, Patrick G.; KROENKE, Kurt. Evaluation of acute knee pain in primary care. Annals of internal medicine, 2003, 139.7: 575-588.

DUONG, Vicky, et al. Evaluation and treatment of knee pain: a review. Jama, 2023, 330.16: 1568-1580.

KOUTURES, Chris. Acute Knee Injuries. In: Pediatric Sports Medicine. CRC Press, 2024. p. 251-258.

PESKUN, Christopher J., et al. Diagnosis and management of knee dislocations. The Physician and Sportsmedicine, 2010, 38.4: 101-111.

MOATSHE, Gilbert, et al. Diagnosis and treatment of multiligament knee injury: state of the art. Journal of ISAKOS, 2017, 2.3: 152-161.

HOWELLS, Nick R., et al. Acute knee dislocation: an evidence based approach to the management of the multiligament injured knee. Injury, 2011, 42.11: 1198-1204.

HSU, Joseph R., et al. Clinical practice guidelines for pain management in acute musculoskeletal injury. Journal of orthopaedic trauma, 2019, 33.5: e158-e182.

Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

Symptoms 症状から探す

症状から探す

Latest Column 最新のコラム

膝の怪我の種類と応急処置 – 症状別の対応方法

膝の怪我の種類と応急処置 – 症状別の対応方法

2025.06.12

膝から下がしびれる症状の原因|神経の働きと治療

膝から下がしびれる症状の原因|神経の働きと治療

2025.06.11

膝から下がしびれる両足の症状|神経障害との関連性

膝から下がしびれる両足の症状|神経障害との関連性

2025.06.10

両膝の痛みが続くときの症状と治療法|早期発見のポイント

両膝の痛みが続くときの症状と治療法|早期発見のポイント

2025.06.09

膝に良いサプリの選び方

膝に良いサプリの選び方

2025.06.08

Ranking よく読まれているコラム

information 診療案内