足立慶友医療コラム

急性腰痛症の経過|痛みの推移と回復までの期間

2025.12.16

急性腰痛症、いわゆるぎっくり腰を発症すると、あまりの激痛に「この痛みはいつまで続くのだろうか」「本当に元通りに治るのだろうか」と強い不安を感じることでしょう。

一般的に、急性腰痛症は発症直後が最も痛みが強く、その後時間の経過とともに炎症が治まり、多くの場合は数週間から1ヶ月程度で日常生活に支障がないレベルまで回復していきます。

ですが、初期対応を誤ったり無理を重ねたりすると、痛みが慢性化し長引くこともあります。この記事では、急性腰痛症の典型的な経過や痛みの変化、回復を早めるための具体的な過ごし方について詳細に解説します。

急性腰痛症の発症から回復までの全体的な流れ

急性腰痛症は発症直後の激しい痛みから始まり、炎症期、修復期を経て徐々に日常を取り戻していくという一定のパターンをたどります。この流れを理解しておくことは、過度な不安を取り除き、冷静に対処するために非常に重要です。

発症直後の激しい痛みと身体の反応

重い荷物を持ち上げた瞬間や、ふとした拍子に腰に激走する痛みは、まさに急性腰痛症の始まりを告げるサインです。この段階では、腰周辺の筋肉や靭帯、関節包などが急激な負荷によって損傷を受け、強い炎症反応が引き起こされています。

身体は損傷部位を守ろうとして、周囲の筋肉を硬く緊張させる防御反応を示します。これを筋性防御と呼びますが、この反応自体がさらなる痛みの原因となることもあります。

発症直後は身動きが取れないほどの痛みに襲われることが多く、トイレに行くことさえ困難になる場合もあります。この時期は無理に動こうとせず、最も楽な姿勢を見つけて安静を保つことが大切です。

身体の中で起きている「火事」のような炎症を鎮めることが最優先事項であり、焦って動くことは火に油を注ぐ結果になりかねません。

炎症がピークに達する時期と症状の特徴

発症から48時間から72時間程度は、炎症がピークに達する時期と考えられています。損傷した組織では、プロスタグランジンやブラジキニンといった発痛物質が盛んに産生され、痛覚受容器を刺激し続けます。

そのため、安静にしていてもズキズキとした痛みが続くことがあり、夜間も痛みで目が覚めてしまうことがあるかもしれません。

患部に熱感や腫れが見られることもあり、これは体が組織の修復のために血液を集めている証拠でもあります。この時期の不適切な処置、例えば温めすぎたり、無理なマッサージを行ったりすることは、炎症を拡大させ痛みの期間を延長させるリスクがあります。

冷却などの適切な処置を行いながら、炎症の嵐が過ぎ去るのを待つ忍耐強さが必要です。

痛みが落ち着き始める回復期のサイン

炎症のピークを過ぎると、組織の修復が進み、痛みは徐々に和らいでいきます。これを回復期と呼びますが、完全に痛みが消えるわけではありません。「昨日より少し動きやすくなった」「特定の角度なら痛くない」といった変化を感じられるようになります。

これが回復のサインです。この時期に入ると、過度な安静は逆効果になることがあります。

痛みのない範囲で少しずつ日常生活の動作を再開することで、血流が改善され、筋肉の柔軟性が戻ってきます。寝たきりの状態を続けると筋力が低下し、回復が遅れることが分かっています。

自分の身体の声に耳を傾けながら、慎重に活動量を増やしていくバランス感覚が求められます。

時期ごとの身体の状態と対応の目安

時期身体の状態主な対応
発症直後〜3日目
(急性期)
組織の損傷と激しい炎症。安静時でも強い痛みがある。筋肉が硬直している。まずは安静を第一に考える。患部を冷やし、炎症を抑える。無理な動作は一切避ける。
4日目〜1週間
(亜急性期)
炎症がピークアウトし、痛みが鈍痛へと変化する。動ける範囲が少しずつ広がる。痛みのない範囲で日常生活動作を再開する。冷やすのをやめ、徐々に温める方向へシフトする。
2週間〜1ヶ月
(回復期)
組織の修復が進み、痛みは違和感程度になる。筋力や柔軟性が回復し始める。通常の生活に戻し、ストレッチや軽い運動を取り入れる。再発防止のためのケアを開始する。

完治に向けた慢性化予防の重要性

痛みが治まったからといって、すぐに完治したと判断するのは早計です。損傷した組織が完全に元の強度を取り戻すまでには、さらに時間がかかります。

痛みがなくなった直後に無理な負担をかけると、再発のリスクが高まるだけでなく、痛みが慢性化してしまう恐れがあります。

慢性腰痛へと移行させないためには、この回復後期における管理が非常に重要です。正しい姿勢の維持、適度な運動による筋力の強化、そして柔軟性の向上など、腰への負担を減らす身体作りを意識的に行う必要があります。

一時的な痛みの解消をゴールとするのではなく、長期的な視点で腰の健康を考えることが、本当の意味での回復につながります。

急性期における痛みの推移と特徴的な症状

急性期の痛みは非常に強烈であり、生活の質を著しく低下させます。しかし、その痛みの性質や推移には特徴があり、それを知ることで冷静な対処が可能になります。

発症から48時間以内の激痛への対処

発症から48時間以内は、まさに痛みの嵐の中にいるような状態です。この時期の激痛は、組織の損傷を知らせ、それ以上の破壊を防ぐための身体からの警告信号です。

どのような姿勢をとっても痛い場合が多いですが、一般的には膝を曲げて横向きに寝る姿勢や、仰向けで膝の下にクッションを入れる姿勢が腰への負担を軽減しやすいと言われています。

この段階での無理なストレッチや、痛みを我慢しての仕事や家事は厳禁です。鎮痛剤や湿布などを上手に活用し、とにかく痛みをコントロールすることに注力してください。

痛みが強すぎて眠れない、排尿排便に障害がある、足に力が入らないといった症状がある場合は、通常の急性腰痛症ではない可能性もあるため、迷わず専門医を受診することが大切です。

急性期に見られる主な症状の特徴

症状のタイプ特徴と感覚注意点
激しい運動時痛身体を動かそうとした瞬間に走る鋭い痛み。特定の方向への動きが著しく制限される。無理に動かすと筋肉の攣縮(スパズム)を誘発し、さらに痛みが悪化するため、痛む動作は避ける。
持続的な自発痛動かなくてもズキズキと脈打つような痛み。炎症が強い時に見られる。患部が熱を持っている場合はアイシングが有効。温めると逆効果になることが多い。
放散痛・関連痛腰だけでなく、お尻や太ももにも広がるような痛みや痺れ。足の指先にまで痺れがある場合や、感覚が鈍い場合は神経圧迫の疑いがあるため、早急な受診が必要。

炎症反応に伴う熱感や腫れの確認

腰の痛む部分に手を当ててみると、他の部位よりも熱く感じることがあります。これは炎症反応による熱感であり、内部で血液量が増え、代謝が亢進しているサインです。

また、見た目には分かりにくい場合もありますが、深部の筋肉が腫れ上がり、触ると硬いしこりのように感じることもあります。

熱感があるうちは、身体が一生懸命に修復作業を行っている最中ですが、過剰な熱は周囲の正常な細胞にもダメージを与える可能性があります。そのため、氷嚢や保冷剤を使って患部を冷やすアイシングが推奨されます。

ただし、冷やしすぎによる凍傷には十分注意し、一度に15分から20分程度を目安に行うことが大切です。

安静時痛と動作時痛の違いを理解する

痛みの種類を「安静時痛」と「動作時痛」に分けて考えることは、回復の程度を測る上で役立ちます。安静時痛とは、じっとしていても感じる痛みのことで、これは炎症が活発であることを示しています。

一方、動作時痛は体を動かした時だけ感じる痛みで、損傷部位に物理的な負荷がかかった時に生じます。

経過とともに、まずは安静時痛が治まり、次に動作時痛が軽減していくのが一般的な流れです。「じっとしていれば痛くない」という状態になれば、炎症のピークは越えたと判断できます。

この違いを意識することで、自分の腰の状態がどのフェーズにあるのかを客観的に把握し、次の行動指針を立てやすくなります。

回復期間に影響を与える主な要因

同じ急性腰痛症でも、数日で元気になる人もいれば、数ヶ月も不調を引きずる人もいます。この回復期間の個人差には、様々な要因が複雑に関係しています。

年齢や基礎体力による回復速度の違い

年齢は回復速度に大きな影響を与える要因の一つです。若い世代は細胞の代謝が活発であり、組織の修復能力も高いため、比較的短期間で回復する傾向にあります。

これに対し、年齢を重ねると椎間板の水分量が減少し、筋肉の柔軟性も低下していることが多いため、回復にはより多くの時間を要することが一般的です。

また、日頃からの基礎体力も重要です。普段から運動習慣があり、背筋や腹筋などの体幹がしっかりしている人は、腰への負担を筋肉がサポートしてくれるため、回復が早い傾向にあります。

逆に運動不足で筋力が低下していると、腰椎への依存度が高くなり、治癒までの道のりが長くなる可能性があります。

過去の腰痛歴が与える影響

過去に腰痛を経験したことがあるかどうかも、今回の回復期間を左右します。初めてのぎっくり腰であれば、組織の損傷も新鮮であり、適切な処置を行えばスムーズに回復することが多いです。

しかし、何度も繰り返している「再発型」の場合、腰の組織が慢性的に脆弱になっている可能性があります。

過去の損傷が瘢痕化して筋肉が硬くなっていたり、関節の動きが悪くなっていたりすると、血流が阻害されやすく、修復に必要な栄養や酸素が届きにくくなります。その結果、回復までの期間が長引く傾向にあります。

過去に腰痛歴がある人は、より慎重なケアと、根本的な体質改善に取り組む姿勢が必要になります。

回復を左右するその他の要因

要因回復への影響対策のポイント
喫煙習慣ニコチンによる血管収縮作用で血流が悪化し、椎間板への栄養供給が滞るため、回復が遅れる。回復を早めるためには禁煙が強く推奨される。血流改善を意識した生活を送る。
肥満・体重体重が重いほど腰椎にかかる物理的な負担が増大し、炎症が治まりにくくなる。急性期は難しいが、回復期に入ったら食事管理などで適正体重を目指すことが重要。
精神的ストレスストレスは痛みを抑制する脳の機能を低下させ、痛みをより強く、長く感じさせる原因となる。リラックスできる時間を作り、痛みへの過度な恐怖心を持たないように心がける。

日常生活での姿勢や動作の負荷

日中の大半をどのように過ごしているかは、回復スピードに直結します。デスクワークで長時間座りっぱなしの姿勢や、重い荷物を頻繁に運ぶ肉体労働などは、腰にとって過酷な環境です。

特に座り姿勢は、立っている時よりも椎間板にかかる圧力が高いことが知られており、長時間同じ姿勢を続けることは回復を妨げる大きな要因となります。

回復を早めるためには、こまめに体勢を変える、座る時間を減らす、作業環境を見直すといった工夫が必要です。仕事の内容によっては調整が難しい場合もあるかもしれませんが、腰への負担を減らすちょっとした意識の積み重ねが、結果として回復期間の短縮につながります。

医療機関を受診すべきタイミングと検査

多くの急性腰痛症はセルフケアで改善しますが、中には重大な疾患が隠れている場合もあります。自己判断で様子を見過ぎることなく、適切なタイミングで医療機関の助けを借りることが重要です。

直ちに救急受診が必要な危険なサイン

腰痛の中には「レッドフラッグ」と呼ばれる、危険な徴候が存在します。これらが見られる場合は、単なる筋肉や関節のトラブルではなく、神経の重大な圧迫や内臓疾患、感染症、骨折などが原因である可能性があります。

例えば、安静にしていても痛みが全く変わらない、あるいは強くなる場合や、発熱を伴う場合などは注意が必要です。

また、足に力が入らずつまづきやすくなったり、お尻の周りの感覚がなくなったりする場合、排尿や排便のコントロールができなくなる場合(失禁など)は、馬尾神経という重要な神経が圧迫されている可能性があり、緊急の手術が必要になることもあります。

早期受診を検討すべき具体的な症状

  • 転倒や高所からの転落、交通事故など、明らかな外傷がきっかけで発症した場合
  • 安静にしていても痛みが激しく、夜も眠れないほどの痛みが続く場合
  • 発熱、冷や汗、急激な体重減少など、全身症状を伴う場合
  • お尻や足に強い痺れがあり、感覚が鈍くなっている、または足に力が入らない場合
  • 排尿や排便のコントロールが困難になっている場合
  • ステロイド剤を長期使用している、または骨粗鬆症の診断を受けている場合
  • がんの既往歴がある場合

整形外科での画像診断の役割

整形外科を受診すると、問診や触診に加え、レントゲン撮影を行うことが一般的です。レントゲンでは骨の形状や配列、骨折の有無などを確認することができます。その結果、圧迫骨折や脊柱管狭窄症、すべり症といった骨の異常による腰痛を除外あるいは診断することが可能です。

さらに詳細な情報が必要な場合には、MRI検査が行われます。MRIは骨だけでなく、椎間板、神経、筋肉などの軟部組織を鮮明に映し出すことができます。

椎間板ヘルニアによる神経圧迫の程度や、筋肉の炎症の広がりなどを正確に把握するためには、MRIが非常に有用です。これらの画像診断は、的確な治療方針を決定するための羅針盤となります。

痛みが長引く場合の再受診の目安

一度受診して「急性腰痛症」と診断された後も、痛みが予想以上に長引く場合は再受診を検討するべきです。一般的な目安として、1週間経っても痛みの改善傾向が見られない場合や、むしろ悪化している場合は、最初の診断時には見つからなかった別の原因が潜んでいる可能性があります。

また、痛み止めが全く効かない場合や、新たな症状(足の痺れなど)が出てきた場合も、治療方針の見直しが必要かもしれません。医師とコミュニケーションを取り、現在の症状を正確に伝えることで、より適切な治療や追加の検査へとつなげることができます。

我慢しすぎず、専門家のアドバイスを仰ぐことが早期回復への近道です。

痛みの段階に応じた適切な過ごし方

急性腰痛症の回復をスムーズにする鍵は、痛みのステージに合わせたメリハリのある対応です。時期を間違えた対処は、回復を遅らせる原因となります。

急性期の安静と冷却の基本原則

発症直後の急性期においては、「RICE処置」の考え方を応用した対応が基本となります。特に重要なのがRest(安静)とIcing(冷却)です。

痛みが激しい間は、無理に動かすことで損傷が拡大する恐れがあるため、痛みの出ない姿勢で安静を保つことが最良の治療です。

冷却については、氷嚢や保冷剤をタオルで包み、患部に15分程度当てる方法が効果的です。冷やすことで血管を収縮させ、内出血や炎症の広がりを抑えることができます。

温湿布や入浴などで温めてしまうと、血流が良くなりすぎて炎症が悪化し、痛みが増すことがあるため、この時期は避けるのが賢明です。

ステージ別:推奨される具体的な行動指針

ステージ推奨される行動避けるべき行動
急性期
(〜3日目)
横向きなど楽な姿勢で寝る。
トイレなど必要最低限の移動に留める。
アイシングで炎症を抑える。
無理なストレッチや体操。
長時間の入浴や患部を温める行為。
重いものを持つ、激しい動き。
亜急性期
(4日目〜)
痛みのない範囲で家の中を歩く。
少しずつ座る時間を設ける。
シャワーだけでなく湯船に短時間浸かる。
長時間の同一姿勢(座りっぱなし等)。
急な動作やひねる動き。
痛みがある動作を無理に行うこと。
回復期
(2週間〜)
ウォーキングの距離を延ばす。
軽いストレッチを開始する。
通常の仕事や家事に徐々に戻る。
準備運動なしの急なスポーツ。
中腰姿勢での長時間の作業。
再発への恐怖から過度に安静にすること。

亜急性期からの温熱療法への切り替え

ズキズキとした鋭い痛みが引き、重だるいような鈍痛に変わってきたら、それは炎症が落ち着いてきたサインです。このタイミング(亜急性期)からは、治療の方針を「冷やす」から「温める」へと180度転換します。

温めることで血行を促進し、修復に必要な酸素や栄養を患部に送り届けるとともに、硬直した筋肉を緩める効果が期待できます。

ぬるめのお湯にゆっくり浸かる入浴は、全身のリラックス効果もあり、非常に有効な温熱療法です。また、蒸しタオルやカイロを使って局所的に温めるのも良いでしょう。

ただし、温めて痛みがぶり返すようであれば、まだ炎症が残っている可能性があるため、すぐに中止して様子を見る柔軟さが必要です。

徐々に活動量を増やす日常生活の工夫

痛みが落ち着いてきたら、恐る恐るでも身体を動かし始めることが重要です。長期間の安静は、筋肉を萎縮させ、関節を固くし、逆に腰痛を長引かせる「廃用症候群」のような状態を招きかねません。

まずは家の中を歩くことから始め、徐々に近所の散歩へと活動範囲を広げていきましょう。

日常生活の中での動作も工夫が必要です。例えば、洗顔時は膝を軽く曲げて腰への負担を減らす、物を拾うときは腰を曲げるのではなく膝を使ってしゃがみ込む、といった動作を意識的に行います。

これらの「腰に優しい動作」を習得することは、今回の回復だけでなく、将来の再発予防にも大きく役立ちます。

早期回復を目指すためのセルフケア

医療機関での治療に加え、自宅で行うセルフケアの質が回復の早さを左右します。自分の体と向き合い、積極的にケアを行う姿勢が大切です。

無理のない範囲で行うストレッチの方法

筋肉が固まったままだと血流が悪く、痛みが残りやすくなります。回復期に入ったら、お尻や太ももの裏(ハムストリングス)を中心に、ゆっくりとしたストレッチを取り入れましょう。

これらの筋肉は腰と密接に関係しており、柔軟性を取り戻すことで腰への負担を大幅に軽減できます。

ポイントは「痛気持ちいい」範囲で行うことです。反動をつけたり、痛みを我慢して伸ばしたりするのは逆効果です。息を吐きながらゆっくりと筋肉を伸ばし、20秒から30秒ほどキープします。

お風呂上がりなど、体が温まっているタイミングで行うとより効果的で安全です。

自宅でできる簡単なセルフケア一覧

ケアの種類具体的な方法期待できる効果
お尻のストレッチ椅子に座り、片足をもう片方の膝に乗せ、背筋を伸ばしたまま体を前に倒す。臀部の筋肉を緩め、腰椎への牽引力を減らすことで腰の負担を軽減する。
太もも裏伸ばし仰向けになり、タオルを足裏にかけて両手で持ち、膝を伸ばしたまま足を上げる。骨盤の動きをスムーズにし、前屈動作時の腰へのストレスを減らす。
ドローイン
(腹横筋運動)
仰向けで膝を立て、お腹をへこませるように息を吐ききり、その状態をキープする。天然のコルセットと呼ばれるインナーマッスルを活性化し、腰椎を安定させる。

コルセットやサポーターの正しい活用法

コルセットは、腹圧を高めて腰椎を安定させ、過度な動きを制限することで痛みを和らげる効果があります。特に動き始めや、どうしても仕事をしなければならない時には心強い味方となります。

しかし、24時間つけっぱなしにしたり、痛みがなくなっても長期間依存し続けたりすることは避けるべきです。

長期間の着用は、本来自分の筋肉で支えるべき部分をコルセットに頼ることになり、結果として筋力の低下を招く恐れがあります。

あくまで「痛みが強い時期の補助」や「負担のかかる作業時の一時的な使用」に留め、回復に伴って徐々に外す時間を増やしていくことが、自立した強い腰を取り戻すためには重要です。

睡眠環境の見直しと寝具の選び方

人生の3分の1を占める睡眠時間は、腰の回復にとって極めて重要な時間です。しかし、寝具が体に合っていないと、寝ている間に腰に負担をかけ、朝起きた時に痛みが増しているという事態になりかねません。

柔らかすぎるマットレスは腰が沈み込みすぎて不自然な姿勢になり、硬すぎる敷布団は腰の隙間ができて筋肉が緊張しやすくなります。

理想的なのは、寝返りが打ちやすく、立っている時の自然な背骨のカーブを保てる適度な硬さの寝具です。すぐに買い替えるのが難しい場合は、膝の下にクッションを入れて腰を丸めやすくしたり、抱き枕を使って横向き寝を安定させたりする工夫も有効です。

睡眠中に腰をしっかり休ませる環境を整えることは、回復への大きな投資となります。

再発を防ぐための生活習慣の改善

急性腰痛症は一度治まっても、生活習慣が変わらなければ再発するリスクが高い疾患です。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」とならないよう、痛みのない生活を維持するための習慣を身につけることが大切です。

腰への負担を減らす座り方と立ち方

日常生活の中で、無意識のうちに腰に負担をかける姿勢をとっていることは少なくありません。特に座り姿勢は要注意です。

椅子に浅く腰掛け背もたれにもたれる「仙骨座り」や、猫背でのデスクワークは、椎間板に甚大な圧力をかけます。骨盤を立てて深く座り、足裏をしっかり床につける姿勢が理想的です。

立ち作業の場合も、片足に重心をかけ続けるのではなく、左右均等に体重を乗せるか、小さな足台に片足を乗せて交互に入れ替えるなどの工夫をすると腰への負担が分散されます。

常に「今の姿勢は腰に優しいか?」を自問自答し、正しい姿勢を意識的にキープすることが、最強の予防策となります。

筋力低下を防ぐための運動習慣

腰椎を支えるのは、周りの筋肉です。特に「天然のコルセット」と呼ばれる腹横筋や多裂筋などのインナーマッスルを鍛えることは、腰痛予防において非常に重要です。

ハードな筋力トレーニングをする必要はありません。ウォーキングや水中歩行、ピラティスなど、無理なく続けられる運動を習慣化しましょう。

運動は筋力を維持するだけでなく、血流を改善し、体重管理にも役立ち、ストレス解消にもなります。腰痛にとってプラスの要素しかありません。

「痛くなるのが怖いから動かない」のではなく、「痛くならないために動く」という意識転換が必要です。

再発予防のためのチェックリスト

  • 長時間同じ姿勢を続けるときは、30分に1回は立ち上がって体を動かす。
  • 重い物を持ち上げる際は、腰を落として膝を使い、荷物を体に密着させる。
  • 入浴はシャワーで済ませず、湯船に浸かってその日の疲れをリセットする。
  • 腹筋や背筋、インナーマッスルを鍛える軽い運動を週に数回行う。
  • ストレスを溜め込まないよう、趣味や休息の時間を大切にする。
  • ハイヒールなど不安定な靴を避け、クッション性の高い靴を選ぶ。
  • 喫煙者は禁煙に取り組み、血管の健康を取り戻す。

ストレス管理と痛みの関係

意外に思われるかもしれませんが、精神的なストレスと腰痛には深い関係があります。脳には本来、痛みを抑制するシステムが備わっていますが、強いストレスや抑うつ状態が続くと、このシステムがうまく機能しなくなり、痛みを感じやすくなってしまうのです。

これを「心因性腰痛」と呼ぶこともあります。仕事や家庭でのプレッシャー、人間関係の悩みなどが、知らず知らずのうちに腰痛の引き金や増悪因子になっていることがあります。

趣味に没頭する時間を持ったり、十分な休息をとったりして心身をリフレッシュさせることは、腰痛対策としても非常に意味のあることです。心と体は繋がっているということを忘れずに、心の健康にも気を配りましょう。

Q&A

ぎっくり腰はどれくらいで治りますか?

一般的には、激しい痛みは発症後2〜3日でピークを迎え、その後1週間程度で大幅に改善します。日常生活に支障がないレベルまで回復するには、個人差はありますが2週間から1ヶ月程度かかることが多いです。

ただし、完全に元の状態に戻るまでには、無理をせず慎重に過ごす必要があります。

お風呂に入っても大丈夫ですか?

発症直後で患部に熱感や腫れがあり、ズキズキと痛む急性期(受傷後2〜3日程度)は、入浴によって血行が良くなりすぎると炎症が悪化する可能性があるため、シャワー程度に留めるのが無難です。

痛みが落ち着いてきたら、逆に入浴で温めることで筋肉の緊張がほぐれ、回復を助ける効果が期待できます。

マッサージはいつから受けられますか?

発症直後の炎症が強い時期に、患部を強く揉むようなマッサージを行うと、損傷した筋肉をさらに傷つけ、炎症を広げてしまう危険性があります。

強い痛みがあるうちは避け、痛みが落ち着いて回復期に入ってから、専門知識を持った施術者のもとで、周囲の筋肉をほぐす目的で受けるのが良いでしょう。

仕事復帰の目安はどのくらいですか?

仕事の内容によって大きく異なります。デスクワークであれば、痛みがコントロールでき、座っていられるようになれば数日で復帰できることもあります。

一方、重い物を持つなどの肉体労働の場合は、再発のリスクが高いため、痛みがほぼ消失し、医師の許可が出てから復帰することが望ましいです。

無理をして早期復帰すると、結果的に長期間の休職につながることもあるため慎重な判断が必要です。

ずっと寝ていたほうが早く治りますか?

かつては絶対安静が推奨されていましたが、近年の研究では、過度な安静(3日以上の寝たきりなど)は筋力を低下させ、かえって回復を遅らせることが分かっています。

発症直後の激痛時は安静が必要ですが、動けるようになったら、痛みのない範囲で少しずつ日常生活を続けるほうが、早期回復につながるとされています。

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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