足立慶友医療コラム

腰椎狭窄症の症状と進行度|診断基準と治療

2025.12.18

腰椎脊柱管狭窄症は、加齢に伴う骨や靭帯の変化によって神経の通り道が狭くなり、足腰の痛みやしびれを引き起こす疾患です。

症状の進行度を正しく理解し、早期に適切な保存療法や生活習慣の改善を取り入れることで、手術を回避し、日常生活の質を維持できる可能性が高まります。

本記事では、この病気の原因から進行度別の症状、治療法までを体系的に解説し、現在不安を抱えている方がご自身の状態を把握するための一助となる情報を提供します。

腰椎脊柱管狭窄症が引き起こされる原因と身体への仕組み

腰椎脊柱管狭窄症は、脊柱管と呼ばれる神経の通り道が物理的に狭くなることで発症します。この状態は単一の要因ではなく、長年の生活習慣や加齢による身体的変化が複合的に絡み合って生じるものです。

神経組織が圧迫を受けると、血流障害や炎症が発生し、結果として下肢の痛みやしびれといった特徴的な症状が現れます。病態を正しく理解することは、適切な治療法を選択する上での第一歩となります。

加齢による椎間板や靭帯の変化

背骨は椎骨と呼ばれる骨が積み重なって構成されており、その間にはクッションの役割を果たす椎間板が存在します。

加齢とともに椎間板は水分を失い、弾力性が低下して変性します。同時に、椎骨同士をつなぐ黄色靭帯も厚くなり、脊柱管の内腔へ向かって突出してくるのです。

さらに、骨自体も変形して骨棘(こっきょく)と呼ばれるトゲのような突起を形成します。これらの変化が同時多発的に進行することで脊柱管の空間が徐々に狭まり、中を通る馬尾神経や神経根を圧迫することになります。

神経が圧迫される部位による分類

圧迫される神経の部位によって、現れる症状や治療方針は大きく異なります。主に、神経の根元が圧迫される「神経根型」、脊柱管の中心を通る神経の束が圧迫される「馬尾型」などに分類されます。

神経圧迫の部位と特徴的な症状の分類

分類圧迫される部位主な特徴と症状
神経根型脊髄から左右に枝分かれする神経の根元主にお尻から足にかけての片側に、鋭い痛みやしびれが生じます。特定の神経支配領域に症状が出るため、痛む場所が明確です。
馬尾型脊柱管の中心を通る神経の束(馬尾神経)両足のしびれ、脱力感、冷感などが広範囲に現れます。進行すると排尿・排便障害を引き起こすリスクが高くなります。
混合型神経根と馬尾神経の両方神経根型と馬尾型の両方の症状を併せ持ちます。両足のしびれに加え、激しい痛みを伴うことが多く、重症化しやすい傾向にあります。

それぞれの型によって痛みの感じ方や範囲が異なるため、自身がどのタイプに当てはまるかを知ることは極めて重要です。

日常生活における姿勢や負担の影響

加齢だけでなく、日々の姿勢や動作も発症に深く関与します。特に、腰を反らす動作(後屈)は脊柱管をさらに狭くするため、神経の圧迫を強める原因となります。

長時間立ったままの作業や、重いものを持ち上げる動作を繰り返す職業に従事している人は、腰椎への負担が蓄積しやすくなります。

また、猫背などの不良姿勢が常態化していると、腰椎のバランスが崩れ、特定の部位に過度な負荷がかかり続けることで組織の変性を早めることにつながります。

初期から末期まで段階別にみる症状の進行度

症状は一朝一夕に現れるものではなく、時間をかけて徐々に進行します。初期段階では軽微な違和感から始まり、放置すると日常生活に支障をきたす重篤な状態へと変化していきます。

現在の自身の状態がどの段階にあるのかを客観的に把握し、進行度に応じた対策を講じることが重要です。時間の経過とともに変化する症状の特徴を詳しく解説します。

初期の違和感と間欠性跛行の特徴

初期段階では、安静にしている時には症状がほとんどありません。しかし、歩き始めるとお尻や太ももに痛みやしびれが生じ、少し休むと治まるという特徴的な症状が現れます。

進行度別に見る具体的な自覚症状の変化

進行度歩行可能距離の目安日常生活での主な症状
初期500m以上歩行時に軽いしびれや痛みを感じますが、少し休めばすぐに回復します。日常生活には大きな支障がなく、様子を見る段階です。
中期100m〜500mスーパーでの買い物や駅までの移動が辛くなります。足の裏に砂利を踏んでいるような異常感覚や脱力感を覚えることがあります。
末期100m未満家の中での移動(トイレや浴室など)すら困難になります。安静時にも痛みやしびれが続き、睡眠を妨げることもあります。

これを「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」と呼びます。初期の頃は、一度に歩ける距離が長く、日常生活への影響も限定的です。

前かがみになって休むと神経の圧迫が一時的に緩むため、症状が改善します。この段階で異常に気づき、対策を始めることが将来的な悪化を防ぐ鍵となります。

中期に見られる排尿障害や感覚異常

症状が進行して中期に入ると、神経の圧迫が強まり、持続的な血流障害が起こります。そのため、足の感覚が鈍くなったり、逆に過敏になったりする知覚異常が現れるのです。

「足の裏に餅が張り付いているような感覚」や「火照るような熱感」を訴える患者も少なくありません。馬尾神経への圧迫が進むと、膀胱や直腸のコントロール機能に影響が出始めます。

尿が出にくい、残尿感がある、頻尿になるといった排尿障害の兆候が見られた場合は、神経のダメージが深刻化しているサインであるため、早急な医療機関の受診が必要です。

末期における重度の麻痺と歩行困難

末期に至ると、下肢の筋力が著しく低下し、麻痺症状が現れます。つま先立ちができなくなったり、スリッパが脱げやすくなったりするのは、筋力低下の典型的な例です。

この段階では、わずか数メートル歩くだけで激痛や強いしびれが生じ、実質的に歩行が困難な状態となります。

さらに、排尿・排便のコントロールが完全に効かなくなる膀胱直腸障害が進行すると、オムツやカテーテルが必要になる場合もあります。この状態まで進行すると保存療法での回復は極めて難しく、手術療法が第一選択となることが一般的です。

医療機関で行われる具体的な検査と確定診断の基準

正確な診断を下すためには、患者の自覚症状と画像所見が一致しているかを確認する必要があります。似たような症状を示す他の疾患も多いため、専門医は多角的な視点から検査を行います。

整形外科などの医療機関で一般的に行われる検査の流れと、医師が診断を確定する際に重視するポイントについて解説します。

問診と理学的所見によるスクリーニング

最初の診察では、詳細な問診が行われます。「いつから痛むか」「どのくらい歩けるか」「どのような姿勢で楽になるか」といった情報は、病態を推測する上で極めて重要です。

診断を確定するための重要なチェック項目リスト

  • 間欠性跛行の有無:歩行と休息を繰り返す特徴的な症状があるかを確認します。
  • 姿勢による症状の変化:前かがみになると楽になり、後ろに反らすと悪化するかを確認します。
  • 下肢の知覚異常と筋力低下:足の感覚の鈍さや、親指に力が入るかどうかを徒手検査で確認します。
  • 深部腱反射の異常:膝やアキレス腱を叩いた際の反応が減弱または消失していないかを確認します。
  • SLRテスト(下肢伸展挙上検査):仰向けで足を上げた際の痛みの反応を見ますが、狭窄症では陰性(痛みが出にくい)ことが多いです。

医師はハンマーで膝や足首を叩いて反射を見たり、足の触覚や痛覚をチェックしたりする理学的検査を行います。さらに、足の脈拍を触れることで、血管性の病気である閉塞性動脈硬化症との鑑別を行います。

この段階で腰椎脊柱管狭窄症の疑いが強まれば、画像検査へと進みます。

MRI検査による神経圧迫の可視化

確定診断において最も重要な役割を果たすのがMRI(磁気共鳴画像)検査です。レントゲン検査では骨の形や並び方は分かりますが、神経や椎間板、靭帯などの軟部組織は写りません。

一方、MRIでは神経がどこで、どの程度、何によって圧迫されているかを鮮明な画像として確認することができます。

脊柱管の断面積が正常値よりも著しく減少していることや、馬尾神経が締め付けられている様子が画像上で確認でき、かつ患者の症状と一致した場合に診断が確定します。

脊髄造影検査が必要となるケース

多くの場合はMRI検査で診断が可能ですが、ペースメーカーを装着しているなどMRIが撮影できない方や、詳細な骨と神経の関係性を知る必要がある場合には、脊髄造影検査を行うことがあります。

これは、造影剤を脊髄腔に注入し、脊柱管の形状や脳脊髄液の流れをレントゲンやCTで撮影する方法です。

体勢を変えた状態での圧迫の変化を動的に観察できる利点がありますが、入院が必要になるケースが多く、侵襲性もあるため、必要性を慎重に判断して実施します。

痛みをコントロールする保存療法の種類と効果

診断がついたからといって、すぐに手術が必要になるわけではありません。排尿障害や重度の麻痺がない限り、まずは保存療法を選択し、症状の緩和を図ります。

保存療法の目的は、神経の炎症を抑え、血流を改善することで痛みを軽減し、日常生活動作を維持・向上させることです。多くの患者は、適切な保存療法を継続することで、手術をせずに症状と上手に付き合っていくことが可能です。

薬物療法による炎症と痛みの抑制

薬物療法は保存療法の中心となります。主に使用されるのは、神経周辺の血流を改善する薬や、神経障害性疼痛に特化した鎮痛薬です。

主な治療薬の種類と期待される効果

薬剤の種類主な作用と目的対象となる主な症状
プロスタグランジンE1製剤血管を拡張させて神経への血流を増やします。狭窄症治療の第一選択薬として広く用いられます。足のしびれ、冷感、間欠性跛行の改善
神経障害性疼痛治療薬過敏になった神経からの痛みの伝達物質の放出を抑え、鎮痛効果を発揮します。ビリビリとする鋭い痛み、焼けるような痛み
NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬)炎症を引き起こす物質の生成を抑えます。急性の強い痛みがある時に短期間使用します。腰痛、動作時の鋭い痛み

これらを症状に合わせて適切に組み合わせることで、辛い痛みやしびれをコントロールします。自己判断で服用を中断せず、医師の指示に従って継続することが効果を最大化するために大切です。

ブロック注射による局所的な除痛効果

内服薬だけでは痛みが治まらない場合、神経ブロック注射を検討します。これは、痛みの原因となっている神経の近くや脊柱管の中に、局所麻酔薬と抗炎症薬(ステロイドなど)を直接注入する方法です。

硬膜外ブロックや神経根ブロックなどがあり、神経の興奮を直接鎮めるため、即効性と強い鎮痛効果が期待できます。

痛みの悪循環を断ち切ることで、リハビリテーションに取り組みやすい状態を作ることができます。

理学療法とリハビリテーションの役割

痛みが落ち着いてきたら、理学療法を開始します。物理療法として、患部を温める温熱療法や、電気刺激を与える牽引療法などを行い、筋肉の緊張をほぐして血流を促します。

運動療法として、理学療法士の指導のもと、腰回りの筋肉を強化する体操やストレッチを行います。特に体幹の筋肉を鍛えることは、腰椎を支えるコルセットのような役割を果たし、脊柱管への負担を減らす効果があります。

リハビリは即効性はありませんが、長期的な再発予防と機能維持には極めて重要です。

手術が必要と判断されるタイミングと術式の選択

保存療法を十分に試みても症状が改善しない場合や、生活の質が著しく低下している場合には、手術療法が検討されます。

手術は、物理的に狭くなった脊柱管を広げ、神経の圧迫を取り除く唯一の根本的治療法です。医師は患者の年齢、活動レベル、全身状態、そして患者自身の希望を考慮して、慎重に適応を判断します。

保存療法で改善が見られない場合の判断

一般的に、3ヶ月から6ヶ月程度保存療法を行っても効果が不十分で、間欠性跛行により歩ける距離が極端に短くなり、買い物や外出が困難になった時が手術を考える一つのタイミングです。

主な手術方法の特徴と適応の違い

術式手術の内容適応となるケース
除圧術(椎弓切除術など)神経を圧迫している骨や黄色靭帯の一部を削り取り、脊柱管を広げます。背骨の動きは温存されます。腰椎の不安定性(ぐらつき)が少なく、主に神経の圧迫を取り除く必要がある場合。
固定術(脊椎固定術)除圧に加え、ボルトやケージなどの金属を用いて骨同士を固定します。骨の安定性を確保します。腰椎すべり症や側弯症などを伴い、背骨の不安定性が強い場合。
内視鏡下手術小さな切開口から内視鏡を挿入して除圧を行います。筋肉へのダメージを最小限に抑えます。比較的限局した狭窄病変で、早期の社会復帰を希望する場合。

これとは別に、排尿・排便障害が出現した場合や、足の筋肉が痩せて麻痺が進行している場合は、神経が不可逆的なダメージを受ける前に、緊急または早期の手術が必要となります。

痛みだけで判断するのではなく、神経機能の低下度合いが重要な判断基準となります。

除圧術と固定術の違いと適応

手術方法は大きく分けて「除圧術」と「固定術」の2つがあります。除圧術は、神経を圧迫している骨の一部や肥厚した靭帯を取り除く方法で、腰椎の安定性が保たれている場合に選択します。

一方、固定術は、骨を削る範囲が広い場合や、腰椎すべり症などで背骨がグラグラと不安定な場合に選択します。

固定術は除圧と同時に、金属のスクリューや自分の骨を使って背骨を固定するため、手術規模は大きくなりますが、長期的な安定性が得られます。どちらの術式が適切かは、術前の画像検査に基づいて決定します。

低侵襲手術による身体的負担の軽減

近年では、医療技術の進歩により、体への負担が少ない低侵襲手術が普及しています。顕微鏡や内視鏡を使用した手術では、皮膚の切開を数センチにとどめ、筋肉を剥がす範囲も最小限にします。

このアプローチにより、術後の痛みが少なく、回復が早まるため、早期の退院や社会復帰が可能となります。特に高齢者や持病がある患者にとって、低侵襲手術は身体的リスクを低減する有効な選択肢です。

ただし、高度な技術を要するため、専門的な設備と技術を持つ医療機関を選ぶことが大切です。

治療後の生活と再発を防ぐための日常生活の工夫

手術をしたとしても、あるいは保存療法で症状が落ち着いたとしても、腰への負担がかかる生活を続けていれば再発するリスクがあります。

腰椎脊柱管狭窄症は「生活習慣病」のような側面も持っているため、日々の行動を見直し、腰をいたわる生活を送ることが長期的な健康維持につながります。

正しい姿勢の維持と腰への負担軽減

日常生活で最も避けるべきなのは、腰を強く反らす動作です。高いところにある物を取る、うつ伏せで本を読む、長時間ハイヒールを履くといった行動は、脊柱管を狭めるため控えるようにします。

日常生活で意識すべき再発予防リスト

  • 姿勢の改善:反り腰にならないよう、お腹に少し力を入れた姿勢を意識します。台所仕事などでは片足を低い台に乗せると腰が楽になります。
  • 杖やカートの使用:歩行時にシルバーカーやショッピングカートを利用し、少し前かがみの姿勢をとることで、長く歩けるようになります。
  • 寝具の選び方:柔らかすぎるマットレスは腰が沈み込み反り腰を助長するため、適度な硬さのある寝具を選びます。
  • 保温の徹底:腰や足を冷やすと血流が悪くなり症状が悪化するため、入浴やサポーターで温める習慣をつけます。
  • 分割歩行の実践:無理に長く歩こうとせず、症状が出る前にこまめに休憩を取る歩き方を心がけます。

椅子に座る際は深く腰掛け、背もたれを適切に使うことで腰への負担を分散させます。

長時間同じ姿勢を続けると筋肉が固まるため、30分に1回は立ち上がったり、軽く体を動かしたりして血流を滞らせない工夫が必要です。

自宅でできる簡単なストレッチと筋力強化

腰椎を支える筋肉を維持することは、天然のコルセットを身につけることと同じです。痛みがない範囲で、腹筋や背筋、そして太ももの筋肉を鍛える運動を継続します。

例えば、仰向けになり両膝を抱えて胸に引き寄せるストレッチは、脊柱管を広げ、腰の筋肉を伸ばす効果があります。

ドローイン(お腹をへこませて呼吸する運動)は、腰に負担をかけずに深層の筋肉を鍛えることができるため、高齢の方にも推奨できる安全なトレーニングです。

体重管理と喫煙習慣の見直し

体重が重いと、それだけで腰椎にかかる物理的な負荷が増大します。適正体重を維持することは、腰への負担を減らすための基本かつ効果的な手段です。

バランスの取れた食事を心がけ、体重のコントロールを行います。また、タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させ、神経への血流を悪化させる強力な要因となります。

さらに椎間板の変性を早めることも分かっているため、禁煙に取り組むことは、症状の改善と再発予防において非常に大きな意味を持ちます。

似た症状を持つ他疾患との鑑別と注意点

足のしびれや痛みは腰椎脊柱管狭窄症だけの症状ではありません。血管の病気や他の神経疾患でも似たような症状が現れるため、自己判断は危険です。

間違った対処法を行うと、本来必要な治療が遅れ、状態を悪化させる可能性があります。特に間違いやすい他の疾患との違いや見分け方のポイントについて解説します。

閉塞性動脈硬化症との見分け方

最も鑑別が重要なのが、足の血管が詰まる閉塞性動脈硬化症です。この病気も間欠性跛行(歩くと痛む)を示しますが、原因は神経ではなく血流不足です。

症状が類似する疾患との比較表

疾患名主な原因狭窄症との見分け方のポイント
閉塞性動脈硬化症(ASO)足の血管が動脈硬化で詰まり、血流が悪くなる。前かがみで休んでもすぐには回復しません。足の甲の動脈(脈拍)が触れにくく、足が冷たく青白くなるのが特徴です。
腰椎椎間板ヘルニア椎間板の中身が飛び出し、神経を圧迫する。20代〜40代の比較的若い世代に多く発症します。前かがみになると痛みが強くなる点が、狭窄症とは逆の特徴です。
糖尿病性神経障害高血糖により末梢神経がダメージを受ける。両足の裏や指先に「砂利を踏むような」感覚が生じます。歩行に関係なく、安静時や就寝時にもしびれや痛みが続くことが多いです。

そのため、姿勢を変えても症状は改善せず、単に立ち止まって時間を置くことで血流が戻り、痛みが引きます。

自転車に乗る場合、狭窄症の人は前かがみになるため楽に乗れますが、血管性の場合は運動量に応じて痛くなるため自転車も辛いという違いがあります。足の脈が弱い場合は、循環器内科や血管外科での検査が必要です。

椎間板ヘルニアとの症状の違い

腰椎椎間板ヘルニアも坐骨神経痛を引き起こす代表的な疾患ですが、発症年齢と痛む姿勢が異なります。

ヘルニアは椎間板への圧力が強まる「前屈姿勢」で痛みが悪化することが多い一方、脊柱管狭窄症は「後屈姿勢」で悪化します。

ただし、高齢者ではヘルニアと狭窄症が合併しているケースも少なくないため、MRI検査による詳細な評価が必要です。どちらの要素が強いかによって治療方針も調整されます。

糖尿病性神経障害の可能性

糖尿病の合併症として起こる神経障害も、足のしびれを引き起こします。特徴的なのは「靴下を履いているような感覚」と表現される、左右対称のしびれです。

狭窄症のようなお尻から太ももにかけての痛み(坐骨神経痛)よりも、足先や足裏の感覚異常が主体となります。

糖尿病の治療歴がある方で足のしびれが出てきた場合は、整形外科だけでなく内科医とも連携し、血糖コントロールを行うことが症状改善の土台となります。

よくある質問

手術を受ければ完治し再発もしませんか?

手術は狭くなった神経の通り道を広げるものであり、圧迫されていた神経の機能が完全に回復するかどうかは、神経が受けていたダメージの深さと期間に依存します。

痛みの改善率は高いですが、長期間続いたしびれは手術後も一部残ることがあります。

また、手術をした部位以外の椎間板や靭帯が新たに加齢変化を起こし、数年後に別の場所で狭窄症を発症する可能性はゼロではありません。そのため、術後も継続的なケアと定期検診が大切です。

やってはいけない運動や動作はありますか?

腰を大きく反らす動作(過度な後屈)や、重いものを無理な姿勢で持ち上げる動作は避けるべきです。また、長時間歩き続けることも症状を悪化させる可能性があります。

運動としては、腰への衝撃が強いジョギングや、腰を捻るゴルフなどは医師と相談の上で行ってください。

推奨されるのは、前かがみの姿勢が自然にとれる自転車こぎ(エアロバイク)や、浮力により腰への負担が少ない水中ウォーキングです。

この病気は遺伝しますか?

腰椎脊柱管狭窄症そのものが直接遺伝するわけではありませんが、生まれつき脊柱管が狭い傾向(発育性脊柱管狭窄)を持っている場合、加齢による少しの変化でも症状が出やすくなる体質を受け継ぐことはあります。

親族に同じ病気の方がいる場合は、若いうちから腰への負担を減らす生活習慣を意識することで、発症のリスクを下げたり、発症時期を遅らせたりすることが期待できます。

手術をせずに自然に治ることはありますか?

一度変形した骨や厚くなった靭帯が自然に元に戻ることはありません。その意味で、構造的な狭窄が自然治癒することはありません。

しかし、神経の炎症が治まり、身体がその状態に適応することで、痛みやしびれといった症状が気にならないレベルまで軽快することは十分にあります。

多くの患者は保存療法によって症状をコントロールしながら生活できていますので、診断されたからといって必ずしも悲観する必要はありません。

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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