腰椎の神経根症状|しびれと痛みの部位による特徴
「腰だけでなく、足に電気が走るような痛みが走る」「お尻から太ももの裏側が常にしびれている」。こうした症状に悩み、不安な日々を過ごしていませんか。
それは単なる筋肉疲労ではなく、腰椎の問題によって神経の根元が圧迫される「神経根症状」である可能性が高いです。
どの神経が障害されているかによって、痛みやしびれが出る場所(デルマトーム)は驚くほど明確に異なります。
本記事では、L4、L5、S1といった神経根ごとの特徴的な症状分布から、日常生活で注意すべき点までを詳しく紐解きます。
痛みの正体を正しく知り、適切な対処への一歩を踏み出しましょう。
目次
なぜ腰ではなく足が痛むのですか?神経根が圧迫される原因とは
腰椎から出ている神経の根元が、ヘルニアや骨の変形によって物理的に圧迫されることで、腰そのものよりも、その神経がつながっている足や指先に激しい痛みやしびれが生じます。
神経の根元が締め付けられるとなぜ痛みが走るのか
私たちの背骨、特に腰の部分である腰椎は、上半身の重さを支えながら、柔軟に動くという過酷な役割を担っています。
この腰椎の隙間から、左右に枝分かれして伸びているのが「神経根」です。この神経根は、脳からの指令を足の筋肉に伝えたり、足の皮膚で感じた感覚を脳に送ったりする重要な器官です。
加齢や過度な負担によって、背骨と背骨の間にあるクッション(椎間板)が飛び出したり、神経の通り道(脊柱管)が狭くなったりすることがあります。
こうなると、神経根が物理的に圧迫され、締め付けられてしまいます。神経は圧迫に非常に弱いため、そこが炎症を起こし、「痛みの信号」を過剰に発信してしまいます。
不思議なことに、障害されているのは腰の神経の根元であるにもかかわらず、脳はその痛みを「神経の末端(足やすね)」で起きていると錯覚することがあります。
これを「放散痛」と呼びます。「腰は少し重い程度なのに、すねが痛くて歩けない」といった現象が起こるのはこのためです。
代表的な二つの原因疾患の違いを知りましょう
神経根を圧迫する原因として最も多いのが「腰椎椎間板ヘルニア」と「腰部脊柱管狭窄症」です。どちらも神経根症状を引き起こしますが、痛くなるタイミングや好発年齢には違いがあります。
自分の症状がどちらに近いのかを知ることは、医師に症状を伝える際にも非常に役立ちます。それぞれの特徴を整理しました。
二大疾患の特徴的な違い
| 比較項目 | 腰椎椎間板ヘルニア | 腰部脊柱管狭窄症 |
|---|---|---|
| 発症しやすい年齢 | 20代から40代の比較的若い世代に多い | 50代以上の中高年に多く見られる |
| 痛みが強くなる姿勢 | 前かがみになると痛む(靴下を履く動作など) | 後ろに反らすと痛む・立つと辛くなる |
| 症状の現れ方 | 急激な激痛として現れることが多い | 徐々に進行し、歩行時に悪化する(間欠性跛行) |
「坐骨神経痛」と「神経根症状」は同じものですか?
よく「坐骨神経痛」という言葉を耳にしますが、これは病名ではなく「症状」を表す言葉です。
坐骨神経は、腰椎の神経根(主にL4、L5、S1など)が合流して一本の太い神経となり、お尻から足にかけて伸びていくものです。
つまり、腰椎の神経根が圧迫された結果として、お尻や太ももの裏、ふくらはぎに痛みが出ている状態を、総称して「坐骨神経痛」と呼びます。
医師が「神経根症状がありますね」と言う場合、それは「坐骨神経痛の原因が、腰の神経の根元にあることが特定されましたよ」という意味だと捉えてください。
大切なのは、「坐骨神経痛」という言葉で片付けず、どの高さの神経根(L4なのか、L5なのか)がやられているのかを突き止めることです。
太ももの前やすねの内側が痛むのはなぜ?L4神経根の特徴
太ももの前からすねの内側にかけての痛みや、膝を伸ばす力の低下は、腰椎の4番目の神経根(L4)が障害されている典型的なサインです。
太ももの前側からすねの内側に走る独特な痛み
もし、あなたが「お尻の後ろ」ではなく、「太ももの前側」や「すねの内側(親指側)」に痛みやしびれを感じているなら、それは第4腰椎神経根(L4)が圧迫されている可能性があります。
L4神経根は、腰椎の3番目と4番目の間、あるいは4番目と5番目の間から出て、足の前内側へと伸びていきます。
多くの人がイメージする坐骨神経痛(お尻から裏もも)とは異なり、L4の障害は大腿神経という太ももの前を通る神経の領域に影響が出やすいのが特徴です。
「階段を降りるときに太ももがピリピリする」「弁慶の泣き所(すね)の内側が感覚鈍麻になっている気がする」といった訴えが多く聞かれます。
時には、膝のお皿周りに痛みが集中することもあり、膝関節そのものの病気と勘違いされることもありますが、整形外科で検査を受けると腰が原因だったというケースは少なくありません。
膝の力が抜けたり、階段が怖くなったりしませんか?
神経根が強く圧迫されると、痛みだけでなく「運動麻痺」つまり筋力の低下が現れます。L4神経根は、主に膝を伸ばす筋肉(大腿四頭筋)や、足首を上に反らす筋肉の一部を支配しています。
そのため、L4神経根症状が進むと「膝折れ」といって、歩いている最中に急に膝の力が抜けてガクッとなる現象が起きることがあります。
特に階段を降りるときは、体重を支えながら膝をコントロールする必要があるため、非常に怖さを感じたり、手すりがないと降りられなくなったりします。
また、和式トイレのようなしゃがんだ姿勢から立ち上がることが困難になるのも、この神経領域の筋力低下の特徴です。
すねの外側や親指にしびれがある?最も多いL5神経根の症状
腰椎ヘルニアなどで最も障害されやすいのがL5神経根です。すねの外側から足の甲、親指にかけてのしびれや、つま先を持ち上げにくくなる症状が顕著に現れます。
すねの外側から足の甲へ抜けるような痛み
腰椎の神経根症状の中で、最も頻度が高いと言われるのがこの第5腰椎神経根(L5)の障害です。第4腰椎と第5腰椎の間、あるいは第5腰椎と仙骨の間で神経が圧迫されることで発症します。
L5の症状の特徴は、痛みのラインが「外側」にあることです。お尻の横から太ももの外側を通り、すねの外側、そして足の甲を通って親指(母趾)へと痛みが走ります。
「足のすねの外側をずっと手でさすっていたくなるような重だるさ」や「足の甲に正座の後のようなしびれが残る」といった感覚は、L5神経根の圧迫を強く疑わせます。
スリッパが脱げやすかったり、何もないところでつまずきませんか?
L5神経根は、足首を上に反らす筋肉(前脛骨筋)や、足の指を上に持ち上げる筋肉(長母趾伸筋など)を動かす命令を送っています。ここが麻痺すると、非常に特徴的な歩行障害が現れます。
いわゆる「下垂足(ドロップフット)」に近い状態になりやすくなります。つま先をしっかりと持ち上げることができないため、歩くときに足先が地面に引っかかってしまいます。
何もない平らな場所でつまずいてしまったり、家の中でスリッパを履いていると、知らぬ間にスリッパが足から抜け落ちてしまうという現象もよく起きます。
L4・L5神経根症状のチェックポイント
| 確認部位・動作 | L4神経根(太もも前) | L5神経根(すね外側) |
|---|---|---|
| 感覚エリア | 太もも前側〜すね内側 | すね外側〜足の甲〜親指 |
| 筋力低下 | 膝を伸ばす力が弱い | かかと立ちができない |
| 生活動作 | 階段の昇降が不安定 | スリッパが脱げやすい |
足の裏や小指側がしびれませんか?S1神経根の特徴
お尻の真後ろからふくらはぎ、足の裏、小指にかけての痛みはS1神経根の特徴です。つま先立ちができなくなるなど、歩行を蹴り出す力に影響が出ます。
太ももの真裏から小指まで一直線に走る電撃痛
第1仙骨神経根(S1)は、腰椎の一番下(第5腰椎)と仙骨の間から出る神経です。この神経が圧迫されると、教科書的な「坐骨神経痛」のイメージに最も近い、足の真裏を通る痛みが出現します。
痛みやしびれのルートは、お尻のエクボのあたりから始まり、太ももの真裏、ふくらはぎ、そしてかかとを通り、足の裏や足の小指側にまで達します。
L5の症状が「足の甲・親指」だったのに対し、S1は「足の裏・小指」であることが決定的な違いです。「足の裏に何かが張り付いているような違和感がある」といった訴えはS1神経根症状の典型例です。
つま先立ちができなかったり、地面を蹴る力が弱まりませんか?
S1神経根は、ふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋)や、足の指を曲げる筋肉を支配しています。これらの筋肉は、歩くときに地面を強く蹴り出し、体を前に進めるために必要不可欠です。
この神経が麻痺すると、つま先立ちができなくなります。健康な状態なら片足でつま先立ちができますが、S1障害があると、かかとが浮かなかったり、すぐに着地してしまったりします。
歩行時には地面を蹴る力が弱くなるため、歩幅が狭くなり、ペタペタとした歩き方になることがあります。アキレス腱反射が消失するのもこの神経根障害の特徴であり、診断の際の重要な手がかりとなります。
すぐに病院へ行くべき危険なサインとは?保存療法では治せない症状
痛みやしびれだけでなく、排尿障害や重度の麻痺が現れた場合は一刻を争う緊急事態です。これらは自然治癒が期待できず、放置すると後遺症が残る危険性があります。
様子を見てはいけない「馬尾症状」という緊急事態
多くの神経根症状は、安静や薬で改善する可能性がありますが、絶対に放置してはいけない危険なサインがあります。
それは、神経根だけでなく、その束である「馬尾(ばび)」という神経の束そのものが強く圧迫された場合に起こる「馬尾症候群」です。
もし、以下のリストにある症状が一つでも当てはまる場合は、整体やマッサージに行っている場合ではありません。神経が不可逆的(元に戻らない)なダメージを受ける前に、直ちに脊椎専門の整形外科を受診してください。
- おしっこが出にくい、または勝手に漏れてしまう(排尿障害)
- 便秘がひどい、または便失禁がある(排便障害)
- お尻の周りや性器周辺の感覚がなくなっている(サドル麻痺)
- 両足が同時に激しく痛む、または両足の力が完全に入らない
- 足首を全く動かせないほどの重度な麻痺がある
しびれが「痛み」に変わった時や、感覚がなくなった時も要注意
痛みは辛いものですが、実は「痛い」と感じているうちは、神経がまだ生きている証拠でもあります。
逆に、痛みが急に消えて「感覚が全くない」「触っても自分の足ではないようだ」という状態になった場合は、神経の機能が完全に遮断されている恐れがあります。
「痛くなくなったから治った」と自己判断するのは危険です。麻痺が進行している場合は、早期に圧迫を取り除かないと、一生足を引きずって歩くことになりかねません。
手術しなくても治りますか?効果的な保存療法と薬の選び方
神経根症状の多くは、適切な保存療法で改善が期待できます。炎症を抑える薬や神経ブロック注射、リハビリテーションを組み合わせることで、辛い時期を乗り越えることが可能です。
まずは炎症を鎮めることが最優先の選択肢
幸いなことに、ヘルニアなどによる神経根症状の8割から9割は、手術をせずに症状が軽快すると言われています。飛び出したヘルニアが自然に吸収されたり、神経が圧迫された環境に順応したりするからです。
治療の第一歩は、興奮して過敏になっている神経の炎症を抑えることです。痛みを我慢して無理に動くと、炎症が長引き、痛みの悪循環に陥ります。
医師と相談しながら、以下の治療法を症状の強さに合わせて組み合わせていきます。「薬に頼りたくない」と我慢しすぎず、まずは痛みのレベルを下げて、普段の生活を取り戻すことが大切です。
- 消炎鎮痛薬(NSAIDs):ロキソプロフェンなど、炎症と痛みを抑える基本的な薬。
- 神経障害性疼痛治療薬:プレガバリンなど、神経の過剰な興奮を鎮める専門薬。
- 神経ブロック注射:痛みの原因となっている神経の近くに麻酔薬を直接届け、痛みの伝達を遮断する強力な方法。
- 筋弛緩薬:痛みのためにこわばってしまった筋肉をほぐし、血流を良くする薬。
リハビリテーションで神経への負担を減らす
激しい痛みが落ち着いてきたら、物理療法や運動療法を開始します。腰椎を持続的に引っ張る「牽引療法」や、温熱療法などは、筋肉の緊張を解き、血流を改善するのに役立ちます。
また、理学療法士の指導のもと、体幹の筋肉(インナーマッスル)を鍛えたり、股関節の柔軟性を高めたりすることも非常に重要です。
腰椎そのものにかかる負担を筋肉のコルセットで支え、分散させることができれば、神経根への圧迫ストレスを減らすことができます。これは再発予防の観点からも非常に意義のある取り組みです。
痛みを悪化させない生活の知恵とは?姿勢と動作の工夫
日々の何気ない姿勢や動作が、神経根への圧迫を強めているかもしれません。腰への負担を減らす「正しい動き」を身につけることが、回復への近道となります。
無意識の「悪い姿勢」が神経を締め付けている
治療を受けていてもなかなか良くならない場合、日常生活の中に原因が潜んでいることが多いです。例えば、柔らかすぎるソファに深く沈み込むように座ったり、洗面所で不用意に前かがみになったりしていませんか?
神経根症状は、姿勢によって圧迫の度合いが変化します。一般的に、ヘルニアタイプ(前かがみで悪化)と狭窄症タイプ(反ると悪化)では避けるべき姿勢が逆になることもありますが、共通して言えるのは「同じ姿勢を長時間続けないこと」です。
日常のシーン別に、推奨される動作と避けるべき動作をまとめました。少しの工夫で痛みのレベルは大きく変わります。
腰と神経を守るための動作リスト
| 場面 | 避けるべき動作(NG) | 推奨される動作(OK) |
|---|---|---|
| 洗面・洗顔 | 膝を伸ばしたまま腰だけを曲げる(中腰) | 膝を軽く曲げる、片足を台に乗せる |
| 荷物を持つ | 腕の力だけで床の荷物を持ち上げる | 一度しゃがみ、荷物を体に密着させる |
| 座り仕事 | 猫背でお尻が前にずれた座り方 | 骨盤を立てて座る、30分に一度立つ |
| 寝る時 | うつ伏せ寝、柔らかすぎるマットレス | 膝下にクッション(仰向け)、丸まる(横向き) |
冷えは大敵、温めて血流を確保する
神経は血流不足に非常に敏感です。冷えると血管が収縮し、神経への酸素供給が滞るため、痛みやしびれが強く感じられるようになります。
特に冬場や、夏場の冷房が効いた部屋では注意が必要です。お風呂にゆっくり浸かって全身を温めることは、筋肉の緊張をほぐし、精神的なリラックス効果も得られるため、痛みの緩和に有効です。
ただし、患部が熱を持って腫れているような急性期(ぎっくり腰の直後など)は、温めると逆効果になることもあるため、冷やすべきか温めるべきかは医師の指示に従ってください。
よくある質問
診察室では聞きそびれてしまった疑問や、治療中にふと浮かぶ不安についてお答えします。
腰椎の神経根症状によるしびれはいつまで続きますか?
個人差が大きいですが、神経の回復には時間がかかる傾向があります。
痛み自体は炎症が治まれば数週間から数ヶ月で軽減することが多いですが、しびれや感覚の鈍さは、痛みが消えた後も数ヶ月から半年、場合によっては年単位で残ることがあります。
神経のダメージが回復するスピードは1日に1mm程度と言われるほどゆっくりですので、焦らず気長に付き合っていく心構えが必要です。
腰椎椎間板ヘルニアと診断されましたが手術は必要ですか?
いいえ、絶対に必要というわけではありません。排尿障害や重度の麻痺がない限り、まずは保存療法を選択するのが一般的です。
実際に多くの患者さんが、薬物療法やブロック注射、リハビリテーションなどの保存療法で、日常生活に支障がないレベルまで回復しています。
手術は、保存療法を3ヶ月ほど続けても激痛が治まらない場合や、社会生活への早期復帰を強く望む場合などに検討されます。
L5神経根の障害で足が上がりにくい時はどんな運動をすべきですか?
無理のない範囲で、足首や足の指を動かす運動を続けることが大切です。麻痺している筋肉(前脛骨筋など)は放っておくと硬く縮こまってしまいます。
手を使って足首をゆっくりと上に反らせるストレッチや、タオルを足の裏にかけて手前に引っ張る運動などが有効です。
また、反対にふくらはぎの筋肉が硬くなるとつま先が上がりづらくなるため、ふくらはぎのストレッチも併せて行うと良いでしょう。
自分でL4やL5のどの神経根が悪いのか判断できますか?
ある程度の推測は可能ですが、自己判断は禁物です。記事内で紹介した痛みの場所(デルマトーム)はあくまで目安であり、実際の患者さんの体では症状が複雑に混ざり合って出ることがあります。
また、似たような症状でも、腫瘍や血管の病気など、全く別の原因が隠れている可能性もあります。
正確な診断には、MRI検査や医師による詳細な神経学的検査が必要です。
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