右の鼠径部痛みが続くときの検査と治療方針
右鼠径部痛みが続く場合、股関節との関連を考える必要があります。日常生活での動作が制限されるほか、長引くと筋肉や関節だけでなく神経や骨の問題へと発展することがあります。
痛みを放置するとさらに症状が悪化する場合もあるため、原因の特定や適切な治療が大切です。
この記事では、右側の鼠径部に痛みが続く場合に考えられる原因や検査方法、治療方針を詳しくお伝えし、今後のケアや受診の流れについても解説します。
目次
右鼠径部痛みと股関節の関係
右側の鼠径部に痛みが生じるとき、股関節との関連を考える人は多くありません。しかし、骨盤と大腿骨をつなぐ股関節は、立つ・歩くといった日常動作に深く関わります。
鼠径部と股関節は解剖学的にも近接し、互いに影響を及ぼし合います。
このような痛みが継続する場合、単なる筋肉痛や疲労ではなく、関節や骨の問題を含めて総合的に判断することが重要です。
右鼠径部痛みの特徴
右の鼠径部痛みは、歩行や階段の昇降など、股関節に負荷がかかる動作で増す場合が多いです。
とくに最初の数歩や立ち上がり時に強い痛みを感じたり、休息後に再び動くときに違和感が出やすかったりします。
痛みは鋭いケースもあれば、重だるい圧迫感のような形で表れることもあります。
股関節の構造
股関節は骨盤側の寛骨臼と大腿骨の骨頭からなり、球関節構造を持つためさまざまな方向に動かせる柔軟性が特徴です。
強い負荷がかかりやすく、軟骨や筋肉・腱など多くの組織が連携して動作を支えています。
右側であっても左側であっても、動きのメカニズム自体は同じですが、体の使い方や負荷のかけ方の差によって、左右片側に症状が出るケースがあります。
なぜ右側に痛みが出やすいのか
人は日常動作の中で利き足や体のくせによって左右どちらかに体重をかけたり、片側に重心を置いたりすることがあります。
右利きの場合、右足を軸として踏ん張るシーンが多いため、右の股関節や筋肉が酷使されて痛みが生じるケースも考えられます。
また仕事やスポーツで特定の動作を繰り返す人の場合、負荷が片側に集中して右鼠径部痛みを引き起こすことがあります。
右側の股関節と鼠径部の主な負荷要因
負荷要因 | 具体的な例 |
---|---|
体のくせ | 座るときに右足を組む、右側に重心を傾けるなど |
利き足の影響 | ボールを蹴る、踏ん張る、階段を昇るときに右を優先 |
日常の姿勢 | 立ち仕事で片脚に体重をかけやすいなど |
スポーツの反復動作 | ゴルフのスイングで右側に負担がかかるなど |
右鼠径部痛みが続く主な原因
右の鼠径部痛みは複合的な要因で引き起こされることが多く、一概に「痛いから○○が原因」と断定するのは難しいです。
ここでは複数の背景を知り、症状から考えられる原因を理解することで受診の際の参考にしてください。
筋肉・腱のトラブル
長時間の運動や不自然な姿勢が続き、筋肉や腱の炎症が起きる場合があります。とくに腸腰筋や内転筋といった股関節を支える筋肉は、疲労が蓄積しやすいです。
筋肉の微細損傷や腱炎などになれば、右鼠径部痛みにつながります。
関節の疾患(変形性股関節症、関節唇損傷など)
変形性股関節症は加齢や過度の負荷により軟骨がすり減り、骨同士の摩擦が大きくなる疾患です。関節唇損傷は股関節のふちを取り囲む関節唇が擦り切れたり、破けたりするものです。
どちらも股関節の機能が低下し、歩行時や立ち上がりに痛みを生じやすくします。
神経のトラブル(坐骨神経痛、絞扼性神経障害など)
股関節まわりを走る神経に負荷がかかったり圧迫が加わったりすると、右鼠径部痛みや下肢への痺れが出ることがあります。
坐骨神経痛のように腰椎から連なる神経の影響で痛みが放散するケースもあるため、MRIなどで腰や骨盤まわりをあわせて確認することが必要です。
その他に考えられる病気
骨盤内の臓器疾患や股関節以外の関節の障害など、別の要因から痛みが生じるケースもあります。例えば股関節以外の骨盤近くの筋膜障害や骨の腫瘍などが原因となることも否定できません。
股関節以外の要因と痛みの特徴
疾患・要因 | 痛みの特徴 |
---|---|
骨盤内臓器の問題 | 生理周期や排尿時に痛みが増す場合がある |
腰椎椎間板ヘルニア | 立ち座りのたびに腰から鼠径部に放散痛が生じることがある |
腹股溝ヘルニア | 立ち仕事や重いものを持ち上げると痛みが増強しやすい |
骨や関節の腫瘍 | 夜間痛やじっとしていても強い痛みが続くことがある |
右鼠径部痛みの早期受診が大切な理由
痛みは体からの信号です。右の鼠径部に違和感を覚えながら放置すると、股関節だけでなく全身のバランスにも影響する可能性があります。
早期の受診は、痛みを軽減するうえで大きな意味を持ちます。
痛みの悪化を防ぐ
軽度の痛みを放っておくと、日常動作の中で体をかばう動作が増えます。その結果、他の部位へ余計な負担をかけてしまい、痛みが増幅する悪循環に陥ります。
早期受診によって、痛みの原因に合った治療やリハビリを始めることで、さらに悪化するのを防ぐことができます。
適切な治療につなげる
痛みの原因によって、治療法は大きく異なります。筋肉の炎症であれば安静や運動療法、関節の疾患であれば手術が必要な場合もあります。
正確な診断を受け、適切な治療へつなげるためにも、専門医への早期相談が必要です。
生活の質を維持する
右の鼠径部痛みが長期化すると歩行や階段の昇降、荷物の持ち上げなどに支障が出てしまいます。
仕事や家事を含む日常生活に大きな影響を及ぼす前に、原因を特定し、痛みをコントロールすることで、生活の質を維持しやすくなります。
受診が遅れた場合に生じるリスク
リスク | 具体例 |
---|---|
痛みの慢性化 | 姿勢の歪みや筋力低下で慢性的に痛みや違和感が残りやすくなる |
二次的な部位への負担増大 | かばう動作で反対側の股関節や腰、膝など他の関節にも痛みが出る |
日常動作の制限拡大 | 歩行困難や階段昇降の不安定などで外出機会が減る |
精神的ストレスの増大 | 不調が続くことで不安感やストレス、眠りの質の低下につながる |
検査方法について
右側の鼠径部に痛みが続く場合、問診や画像検査などさまざまな方法で原因を調べます。どの検査を行うかは症状や医師の判断によって変わりますが、複合的に評価することが欠かせません。
問診と視診
医師はまず痛みの性質や出現タイミング、過去のケガや手術歴などを問診します。歩行時の様子や姿勢などを視診し、痛みの原因を推測します。
具体的には痛む場所を指さしてもらい、立ったり座ったりする動作を見ることで、痛みの部位と動作時のクセを把握します。
画像検査(レントゲンやMRIなど)
関節や骨の状態を確認するにはレントゲン撮影が代表的な方法です。骨の変形や骨折の有無、関節の隙間の程度などをチェックします。
一方、軟骨や筋肉などの軟部組織を詳しく調べる必要がある場合、MRIを追加検査として検討することもあります。MRIは骨だけでなく、筋肉や腱、神経などの状態を細かく評価できる利点があります。
超音波検査の活用
超音波検査は腱や靭帯、滑液包などの観察に役立ちます。動かしながらリアルタイムで観察できるため、痛みが出る動作を再現しながら問題箇所を特定する場合があります。
放射線被ばくの心配がないため、妊娠中や小児の検査にも適用しやすい方法です。
その他の検査
血液検査では炎症反応や感染症の有無を調べられます。必要に応じてCT検査で骨の状態をより詳しく評価することもあります。
また神経由来の痛みが疑われる場合、末梢神経や筋電図の検査を行い、神経障害を確認することがあります。
検査方法別の特徴と得られる情報
検査方法 | 得られる主な情報 |
---|---|
レントゲン | 骨の変形、骨折、関節のすき間の変化 |
MRI | 軟骨、筋肉、腱、神経などの軟部組織の詳細 |
超音波 | 腱や靭帯の損傷、滑液包の炎症など動きのある状態を観察 |
CT | 骨形態の3次元的な評価、細かな骨病変の確認 |
血液検査 | 炎症反応、感染症の有無、リウマ系指標の評価 |
神経伝導検査等 | 神経の圧迫や伝導障害の確認 |
治療方針と主な治療法
右鼠径部痛みが続く場合、股関節や筋肉、神経などの状態を総合的に判断した上で治療方針を立てます。原因や症状の程度により、保存的治療や手術的治療など選択肢はさまざまです。
保存療法(運動療法やストレッチなど)
比較的症状が軽度の場合や初期段階での治療として、運動療法やストレッチなどの保存的治療を行います。筋力や柔軟性を高めて股関節周辺の負担を減らすことを目的とします。
リハビリテーションでは専門家の指導のもと、無理のない範囲でエクササイズを行います。
股関節周辺をサポートする簡易的な運動例
- 太ももの前面を伸ばす運動
- 腰回りのストレッチ
- 足を開いたり閉じたりする運動
- 軽いスクワットで筋力を鍛える
薬物治療
痛みが強い場合は消炎鎮痛薬などを使用することがあります。関節や筋肉の炎症を抑え、痛みを和らげる役割を果たします。
服用薬だけでなく、炎症部位に塗る外用薬や患部に注射を行う場合もあります。薬の種類や使い方は、患者さんの病歴やアレルギー、症状の強さなどを考慮して選びます。
注射療法
関節内や炎症を起こしている部位、神経周囲に直接薬剤を注入する方法も検討されます。
局所麻酔薬やステロイド薬を組み合わせることで、炎症を抑えながら痛みを軽減し、リハビリテーションを進めやすくする目的があります。注射の効果や持続期間は個人差があります。
手術療法
変形性股関節症が進行している場合や、関節唇損傷などの修復が必要なケースでは手術を考えることもあります。人工股関節置換術や関節鏡視下手術など、症状に合わせた方法を選択します。
手術後はリハビリテーションが重要で、回復に応じて筋力強化や可動域の確保を段階的に進めます。
主な治療法と対応する症状・特徴
治療法 | 対応する症状・ケース |
---|---|
運動療法・ストレッチ | 筋肉・腱の炎症が軽度な場合、関節の負担軽減を目指す |
薬物治療 | 痛みが中等度の場合や炎症の抑制を要するとき |
注射療法 | 特定部位の炎症や神経痛など局所的に強い痛みがあるとき |
手術療法 | 軟骨の大きな損傷、変形性股関節症の進行、関節唇損傷などを修復 |
右鼠径部痛みを軽減する日常生活の工夫
股関節の負担を減らすためには、日頃の生活習慣や動作を見直すことが大切です。
痛みが続いているときこそ、体への負荷をコントロールし、回復を促すための工夫を取り入れると効果が期待できます。
体重管理と栄養
体重が増えると股関節にかかる負荷が大きくなり、右の鼠径部痛みが出やすくなる可能性があります。
適正体重を維持するためには、バランスの良い食事や過度なカロリー摂取の見直しが必要です。
栄養面では、タンパク質やカルシウム、ビタミンD、ビタミンCなど、筋肉や骨をサポートする成分を意識的に摂取すると良いでしょう。
栄養素の例と期待できる効果
栄養素 | 期待できる効果 | 食品例 |
---|---|---|
タンパク質 | 筋肉の修復、維持 | 肉、魚、大豆製品、卵など |
カルシウム | 骨の強化、骨密度の維持 | 牛乳、ヨーグルト、小魚など |
ビタミンD | カルシウム吸収の助け | きのこ類、魚の干物など |
ビタミンC | コラーゲン生成、免疫機能のサポート | 柑橘類、イチゴ、ブロッコリーなど |
正しい姿勢と歩行
日常の姿勢が崩れていると股関節に余計な力がかかる可能性があります。背筋を伸ばし、左右の足に均等に体重を乗せる姿勢を心がけましょう。
歩行時には、足裏全体を使い、かかとから着地して蹴り出す動きを意識し、過度に片側に重心を寄せないように注意します。
休息とセルフケア
痛みが強いときは無理せず休息を取り、患部を温めたり冷やしたりしてみるのも一手です。炎症が続くようなら氷で冷やし、慢性化しているようならお湯で温めて血行を促す方法も検討できます。
また入浴後のマッサージや簡易的なストレッチなど、セルフケアを習慣づけると股関節まわりの柔軟性維持に役立ちます。
運動習慣
痛みがあるからといって完全に運動を避けると、筋力や柔軟性が衰え、かえって痛みを長引かせることもあります。
股関節に大きな負担がかからないウォーキングや水中運動など、無理なく続けられる活動を選び、適度に体を動かすと良い結果につながりやすいです。
痛みがあるときに避けたい動作や習慣
動作・習慣 | 理由 |
---|---|
長時間の立ちっぱなし | 股関節に持続的な負荷がかかりやすい |
深い屈伸運動(深いスクワット) | 過度な屈曲で関節や筋肉に急激な負担がかかる |
重い荷物を片方だけで持つ | 体のバランスが崩れて右の鼠径部痛みが増幅する可能性がある |
座り方が偏る姿勢(足組みなど) | 股関節まわりの筋肉を不均等に引き伸ばし、痛みが続きやすい |
当院での診療の流れ
右の鼠径部痛みがある場合、一連の流れを知っておくと受診時の不安を軽減できます。当院では専門医が診察し、必要な検査や治療方針を提案します。
予約と受付
初めての方も、再診の方も、まずはお電話やインターネットから予約を取ることができます。予約日時に来院していただき、受付を済ませた後、問診票を記入します。
問診票には、症状の起こり方や期間、痛みの強さ、過去の既往歴などをできる限り詳しく記入してください。
医師の診察
受付が済んだら医師の診察へ移ります。痛む場所や痛み方、どのような動作で痛みが増すかを伝えてください。
必要に応じて姿勢や歩き方、股関節の可動域をチェックし、痛む箇所を軽く押す触診などを行います。
検査・治療開始
診察結果を踏まえ、レントゲンやMRIなどの画像検査を実施し、原因を探ります。その後、炎症が強ければ消炎鎮痛薬の処方や注射を検討し、場合によっては手術の選択肢も視野に入れます。
保存的治療ではリハビリテーションの方針を立て、医師と理学療法士が連携してサポートします。
当院で行う主な画像検査とメリット
画像検査 | メリット |
---|---|
レントゲン | 骨の状態を簡易的かつ迅速に把握できる |
MRI | 軟部組織の詳細な評価が可能で、神経病変を捉えやすい |
超音波 | 動きのある患部をリアルタイムで観察できる |
CT | 骨の3D構造を精密に観察できる |
アフターケア
治療後は再発防止のために継続したリハビリテーションを行います。通院期間中は、理学療法士による運動指導や生活指導のほか、経過観察も実施します。
通院が終了した後でも症状を確認するための定期的な受診をすすめる場合があります。
よくある質問
レントゲンとMRIはどちらがいいのか
骨の変形や骨折の有無を調べるにはレントゲンが有用です。筋肉や腱、神経などの軟部組織が痛みの原因と考えられる場合はMRIの詳細な情報が役立ちます。
症状や疑われる疾患によって、最初にレントゲンを撮影した後、必要があればMRIを追加する流れが多いです。
手術は必ず必要なのか
右の鼠径部痛みの原因によっては、手術ではなく保存的治療で回復を図ることが十分に可能です。
変形や軟骨の損傷が高度で生活に支障が出る場合や、関節唇損傷が大きい場合などは手術を検討します。医師と相談しながら、症状やライフスタイルを総合的に踏まえて決定します。
治療期間はどれくらいかかるのか
痛みの原因や治療方法によって異なります。筋肉の炎症が軽度なら、数週間から数か月程度で改善することもあります。
変形性股関節症が進行している場合や手術が必要な場合は、リハビリを含めて数か月から半年、あるいはそれ以上の期間を要することがあります。
予防はできるのか
日頃から体重管理や適度な運動を行い、股関節周辺の筋力や柔軟性を保つと右鼠径部痛みの予防に役立ちます。
姿勢を整えて左右の足にバランスよく体重を乗せることや、筋肉を過度に酷使しないような生活習慣を身につけることも大切です。
以上
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