足立慶友医療コラム

右股関節の痛みと鼠径部の痛みの関連性

2025.03.13

右股関節の痛みや鼠径部の痛みを抱える方のなかには、立ち上がるときに違和感を覚えたり、歩行動作で足を引きずるような感覚になったりして、日常生活に支障をきたすケースが少なくありません。

これらの痛みは体の構造上、互いに密接に関係しやすいため、原因や症状、適切な対処法を知ることが大切です。

こちらでは、股関節と鼠径部周辺の解剖学的背景から、痛みの主な原因、診断の流れ、具体的な治療や日常生活の注意点などを詳しく説明します。

右股関節痛みと鼠径部痛みの基本的な関係

股関節と鼠径部は骨格や筋肉、神経、血管が複雑に交わる部分です。

右股関節痛みがあるとき、鼠径部にも関連した痛みを伴うことが多く、日常動作やスポーツ活動で支障が出ることがあります。まずはこの関係の背景を知ることが重要です。

股関節と鼠径部の解剖学的つながり

体の中で股関節は骨盤と大腿骨がつながる部位であり、動きを支える多くの筋肉や靭帯が集中しています。鼠径部は腹部と太ももの境界付近に位置し、大腿部へ向かう血管や神経が通過します。

股関節に痛みが起こるとき、鼠径部にも強い違和感が広がることがあるのは、これらの組織が密接に連動して動くからです。

右側特有の症状と姿勢のかかわり

右側ばかりに負担がかかる姿勢や体の使い方が癖になると、右股関節痛みが生じやすくなります。

例えば利き足が右足の人は右脚の方が筋肉を多用する傾向が強く、骨盤の位置がずれることによって鼠径部まで違和感を引き起こすことがあります。

姿勢の崩れによる痛みの波及

立位や歩行時の姿勢が崩れていると、体重のかかり方が偏り、右股関節痛みがきっかけで鼠径部にまで負荷が波及しやすくなります。

体を水平に保つためには骨盤周りと下肢全体のバランスが大切ですが、重心がずれると筋肉や関節に余計な負担がかかります。

痛みを悪化させる主な要因

痛みをより強める要因は複合的です。突然の激しい運動や無理な姿勢での作業、長時間の座りっぱなしなどは負荷が集中し、股関節と鼠径部の両方に違和感を生むきっかけになります。

日頃からのケア不足が痛みの慢性化につながるため、気になる違和感があれば早めに対応することが重要です。

右股関節周辺と鼠径部をつなぐ主な要素

要素役割
骨盤体幹と下肢を結び、体重を支える土台
大腿骨股関節を構成し、脚の運動軸として機能
股関節周囲筋骨盤と大腿骨を安定させ、歩行や姿勢維持を助ける
血管・神経鼠径部から下肢全体へ栄養や信号を送る
靭帯関節の位置関係を維持し、動きを制限

右股関節痛みと鼠径部痛みの主な症状

股関節と鼠径部が連動して痛む場合、初期段階では症状が比較的軽度なこともありますが、放置すると歩行障害や姿勢異常を伴うレベルに悪化する可能性があります。

ここでは、段階的にみられる症状の特徴について解説します。

初期段階にみられる違和感

初期段階では、立ち上がる瞬間や歩き始めにピリッとした痛みや軽度の違和感を覚えやすいです。

日常動作で数分間足を動かした後には痛みが和らぐことも多く、「気になるけれど我慢できるレベル」として見過ごされがちです。

痛みが進行した場合の特徴

症状が進行すると、鼠径部や太ももの付け根に鋭い痛みや鈍い重さを感じやすくなります。長時間立っているだけでも負担を感じ、歩幅が小さくなったり、体をかばう動きが増えたりします。

また、階段の昇り降りや床にしゃがむ動作で強い痛みに変わる場合もあります。

日常生活に及ぼす影響

右股関節痛みが顕著になると、通勤や家事など通常の生活動作にも支障が出ます。

痛みを回避するために歩き方が変わると、筋肉のアンバランスが生じ、さらなる腰痛や膝痛を招くこともあります。痛みの影響は体の局所だけでなく、姿勢全体に波及するため注意が必要です。

受診のタイミングの目安

軽度の痛みでも1週間以上続く場合や、急激に痛みが増した場合は医療機関の受診を検討してください。

痛みの原因や進行度によって治療方法は異なり、放置すると関節の変形リスクが高まるケースがあります。

痛みの進行度と主な症状

症状レベル主な症状・特徴
軽度立ち上がりや歩き始めにわずかな違和感
中等度歩行中や立位保持で鼠径部がズキズキ痛む
重度体重を乗せるだけでも強い痛み、日常動作困難
最重度安静時でも痛みを感じ、夜間痛や睡眠障害を伴う

右股関節痛みと筋肉・靭帯の関係

股関節痛みには骨や軟骨だけでなく、筋肉や靭帯の異常も大きく関与します。痛みが特に鼠径部に広がる場合は、特定の筋肉の過度な緊張や靭帯の炎症が関連していることもあります。

股関節周囲に負担がかかりやすい筋肉

ハムストリングスや腸腰筋、大殿筋などは歩行や階段昇降の際によく使われる部位であり、これらの筋肉に疲労や緊張が蓄積すると、股関節の動きが制限されて鼠径部に痛みが出やすくなります。

特に右股関節痛みが出現している場合、運動習慣や日常生活の動作で右脚に負担をかける姿勢が根本にあることが考えられます。

インナーマッスルの重要性

外見ではわかりにくい深層部の筋肉、いわゆるインナーマッスルは股関節や骨盤を支えるうえで大切です。

これらが弱いと、関節の安定性が低下して動作が不安定になるため、周囲の筋肉や靭帯が過剰に働かざるを得ません。過度の緊張は痛みや炎症の元になります。

靭帯が果たす役割

靭帯は関節を正しい位置に保ち、動きを制御する働きがあります。

股関節周りには関節包や靭帯がいくつも存在し、これらに炎症や損傷が起こると、痛みだけでなく可動域の低下も顕著になります。

股関節が不安定な状態で運動を続けるとさらに痛みが増すケースもあります。

血流と筋疲労の関係

運動不足や冷え症などで下半身の血流が滞ると、筋肉が回復しづらくなります。

血流が悪いと疲労物質が蓄積しやすく、筋肉の柔軟性も下がるため、股関節痛みがより感じやすくなり、鼠径部の動きにも支障が出やすいです。

主な股関節周囲の筋肉と靭帯

名称主な機能痛みに関連しやすい動作
腸腰筋股関節の屈曲や体幹の安定長時間座位、立ち上がり
ハムストリングス膝関節の屈曲、股関節の伸展歩行、階段の上り下り
大殿筋股関節の伸展や外旋立位保持、歩行
内転筋群股関節を内側に寄せ安定させるバランス保持、方向転換
関節包・靭帯関節を安定させ可動域を制御捻転や激しいスポーツ動作

右股関節痛みや鼠径部痛みが疑われる主な疾患

右股関節痛みや鼠径部痛みが続いている場合、変形性股関節症だけでなく、関節唇損傷やグロインペイン症候群などさまざまな疾患の可能性があります。

それぞれに応じた適切な治療を行うためにも、まずは疑われる疾患を把握することが大切です。

変形性股関節症

主に軟骨がすり減って関節が変形し、痛みや可動域の制限が生じます。進行すると鼠径部やお尻、膝にまで痛みを感じることがあり、特に歩行や階段の昇り降りに顕著な痛みが現れます。

女性に多い傾向ですが、体重増加や長年の負担などさまざまな要因が重なって発症します。

関節唇損傷

股関節の関節唇は骨盤側のふちにある軟骨組織で、衝撃を吸収しながら関節液を保持する働きを担います。

激しいスポーツでのひねり動作や繰り返しの負荷によって損傷すると、右股関節痛みや鼠径部痛みを引き起こすことがあります。

症状が悪化すると関節が不安定になり、変形性関節症に進行する可能性があります。

グロインペイン症候群

鼠径部を中心とした痛みを総称してグロインペイン症候群と呼ぶことがあります。

サッカー選手やランナーなど、走る・蹴る動作が多い人に多く、筋肉や腱が炎症を起こすことで慢性的な痛みを感じます。

右側に痛みが強いケースや反対側も含めて両側に症状が出るケースなど、症状は個々で異なります。

臼蓋形成不全

臼蓋(股関節を包む骨盤側の部分)の形状が浅い、あるいは偏った形をしていると、大腿骨頭が十分に覆われず、関節が不安定になります。

その結果、股関節や鼠径部の痛みが生じやすくなり、変形性股関節症に移行するリスクも高まります。遺伝的要素だけでなく、成長期の姿勢の影響も指摘されています。

股関節や鼠径部で疑われる疾患の比較

疾患名主な原因痛みの特徴
変形性股関節症軟骨のすり減り歩行時や起立時に強く感じる
関節唇損傷スポーツなどの繰り返し負荷動作によって鋭い痛みが走る
グロインペイン症候群筋肉や腱の炎症慢性的な鼠径部痛みが続く
臼蓋形成不全先天的または発育過程の問題股関節の不安定感と慢性痛

検査と診断の流れ

右股関節痛みや鼠径部痛みの原因を特定するためには、医師による視診や触診のほか、画像検査などさまざまな検査を組み合わせた総合的な診断が必要です。

正確な診断によって治療方針が大きく変わります。

触診と可動域テスト

最初に、医師は股関節周囲を触診して痛みの部位や腫れ、筋肉の硬さなどを確認します。

その後、可動域テストで股関節をさまざまな角度に動かし、痛みの有無や関節の動きに制限がないかをチェックします。

画像検査(X線・MRIなど)

関節の変形や骨折、軟骨の損傷の有無を調べるためにX線撮影が行われることが多いです。

また、より詳細な情報が必要な場合はMRIやCT検査で軟部組織や骨の内部状態を把握し、損傷部位や炎症の程度を評価します。

血液検査

リウマチや感染症が疑われる場合、血液検査によって炎症反応や特定の抗体の有無を調べます。痛みの原因が自己免疫疾患などによる場合は血液検査が手がかりとなります。

総合診断と治療方針

これらの検査結果を総合して、医師は最終的に診断を下します。特定の疾患が疑われるときは、専門科との連携も視野に入れながら治療計画を立てることになります。

痛みが複合的な場合でも、原因をしっかりつかむことで適切な対処が見込めます。

診断に用いられる主な検査と特徴

検査方法主な目的特徴
視診・触診痛みの部位・程度の把握直接触れることで痛みの箇所や腫れを確認
可動域テスト関節の動きの確認関節の角度や動作制限の有無を調べる
X線撮影骨格構造や変形の確認主に骨の状態を捉え、変形や骨折の有無を把握
MRI軟部組織や炎症の詳細確認関節唇や軟骨、靭帯などの状態を評価
血液検査リウマチ、感染症などのスクリーニング炎症反応や自己抗体の有無などを調べる

治療とリハビリテーションの実際

診断結果に応じて選択する治療法は異なり、保存療法で経過を観察しながら回復を目指す場合もあれば、手術療法に踏み切るケースもあります。

また、治療中にリハビリテーションを取り入れることで痛みの緩和や再発予防が期待できます。

保存療法

比較的軽度から中等度の痛みの場合、まずは保存療法を試みることが多いです。

具体的には、安静や鎮痛剤の服用、消炎鎮痛の塗り薬などを併用し、痛みが強いときは歩行補助具を利用して負担を軽減します。

日常生活の動きを調整するだけでも症状が和らぐことがあります。

保存療法で取り入れられる主な方法

  • 痛みが強いときは無理をせず休息を取る
  • 負担の少ない歩行練習や軽いストレッチを行う
  • コルセットやサポーターなどで関節を安定させる
  • 消炎鎮痛剤や湿布で炎症を抑える

物理療法

痛みを緩和したり血流を改善したりする目的で、温熱療法や電気刺激、超音波などが行われることがあります。

これらの物理療法は筋肉のコリをほぐし、痛みを感じにくくする効果が期待できます。ただし、やりすぎると逆効果になりかねないため、専門家の指示に従うことが大切です。

リハビリテーション

痛みが軽減した段階から、専門の理学療法士の指導のもと筋力トレーニングやストレッチを行います。姿勢矯正や体幹の強化を図ることで、股関節と鼠径部の負荷を軽減し、再発を防ぎます。

特に右股関節痛みが続く人は、体幹と下肢のバランスを整えるメニューを重点的に取り入れることが有効です。

手術療法

保存療法やリハビリテーションを続けても症状が改善しない場合や、変形が高度に進行している場合は手術を検討します。

関節唇損傷の場合は関節鏡視下手術、変形性股関節症が重度の場合は人工関節置換術を検討することがあります。術後にはリハビリテーションを通じて機能回復に取り組みます。

治療方法と主なメリット・注意点

治療法主なメリット主な注意点
保存療法体への負担が少ない改善がゆるやか、根本治療にならない場合も
物理療法痛み緩和や血流改善が期待できる過度な適用や長期依存は効果減少の恐れ
リハビリテーション再発予防と機能回復が見込める正しいフォームと持続が不可欠
手術療法根本的な修復が期待できる術後のリハビリが長期に及ぶ場合あり

予防とセルフケアの大切さ

股関節と鼠径部の痛みを長引かせないためには、日常生活でのケアと正しい動作を意識することが大切です。再発を防ぐうえでも、適度な運動と休養のバランスを取ることが重要です。

日常生活で意識したいポイント

日常生活のちょっとした癖や姿勢の乱れが痛みの原因になることがあります。とくに右股関節痛みを感じている方は、右脚への体重負担が偏りすぎていないか注意が必要です。

左右の重心バランスを確認しながら、椅子や車の座席に座るときも腰と膝が直角に近い位置になるよう調整してください。

エクササイズの導入

股関節周りの筋肉やインナーマッスルを強化するために、適度なストレッチやエクササイズを取り入れると効果的です。

特に体幹トレーニングは骨盤の安定に寄与し、鼠径部への負担を軽減します。

ただし、痛みが強いときに無理をすると悪化の原因になるため、痛みが落ち着いたタイミングで軽めの運動から始めるとよいでしょう。

股関節周りを柔軟に保つための例

  • 太ももの前側を伸ばすストレッチ
  • 大臀筋やハムストリングスをほぐす体操
  • 骨盤を立てるよう意識しながらゆっくりとスクワット
  • 体幹を安定させるためのプランク系の運動

体重管理と食事の見直し

体重が増加すると股関節にかかる負担が大きくなり、右股関節痛みが出やすくなる可能性があります。

無理のない範囲で体重を管理し、バランスのとれた食生活を送ることが予防につながります。また、ビタミンやカルシウムなど栄養素の摂取によって筋肉や骨の健康を維持できます。

痛みを感じた時の対処

軽度の痛みであっても数日続くようであれば、早めに医療機関を受診することが望ましいです。

痛み止めや湿布を自己判断で長期に使い続けるよりも、正確な診断を受け、原因に合わせた処置を行うほうが回復を早めることが期待できます。

日常生活で気をつけたい動作と対策

動作トラブル例対策
長時間のデスクワーク同じ姿勢で血流が滞り、筋肉が硬くなる定期的に立ち上がってストレッチを入れる
無理な体勢での作業腰や股関節に負担が集中して痛みが増す膝を曲げて腰を落とし、負担を分散させる
片足重心での立位右側への負担が偏り、股関節にストレス重心を左右均等に分散させて立つ
ヒールの高い靴の使用前傾姿勢になりやすく、関節に過度の負荷安定した履き物を選び、痛みがあるときは避ける

よくある質問

Q1: 健康保険で治療を受けることは可能ですか?

はい、一般的に整形外科での診察や検査、リハビリテーションは健康保険の適用範囲に含まれます。

ただし、特別な検査や先進医療に該当する治療は自己負担が発生することもあるため、医療機関で事前に確認してください。

Q2: 病院にはどのくらいの頻度で通院すればいいのでしょうか?

診断内容や症状の進行度によって異なります。保存療法を中心とする場合でも、初期のうちは週1回から2回程度通院して症状の変化を観察することが多いです。

リハビリが必要な場合は、医師や理学療法士と相談しながら通院スケジュールを決めるとよいでしょう。

Q3: リハビリは自宅でも行えますか?

医師や理学療法士から自宅でできる運動やストレッチを指導されるケースが多いです。正しいフォームと適切な強度を守れば、自宅でのエクササイズも痛みの改善や予防に役立ちます。

ただし、痛みが強いときや急激な悪化がみられるときは自己判断をせず、医療機関で再度相談してください。

Q4: 痛みが長期間続いている場合はどうすればいいですか?

痛みが長引くときは、自己流のケアだけでは改善しない可能性があります。

疾患が進行している場合や複数の要因が重なっている場合があるので、医師のもとで再検査を受けて詳細を確認することが大切です。

正しい診断がつけば、より効果的な治療計画を立てることができます。

以上

参考文献

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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