足立慶友医療コラム

膝を捻った時の対処法 – 応急処置から治療まで

2025.05.29

日常生活やスポーツ中に、不意に膝をひねってしまう経験は誰にでも起こり得ます。その瞬間、激しい痛みと共に「どうすれば良いのだろう」と不安になることでしょう。

この記事では、膝をひねった際の適切な初期対応である応急処置から、考えられる怪我の種類、医療機関を受診する目安、そして専門的な治療法やリハビリテーションに至るまで、段階を追って詳しく解説します。

正しい知識を持つことで、悪化を防ぎ、早期回復への一歩を踏み出す手助けとなることを目指します。

膝をひねった直後に現れる主な症状

膝をひねった際には、様々な症状が現れることがあります。これらの症状の程度や組み合わせは、損傷の部位や重症度によって異なります。

初期の症状を正確に把握することは、その後の適切な対処法を選択する上でとても重要です。

痛みとその特徴

膝をひねった際に最も一般的に感じる症状は痛みです。この痛みは、ひねった直後から現れることもあれば、数時間経過してから徐々に強くなることもあります。

痛みの性質も様々で、ズキズキとした鋭い痛み、ジンジンとした鈍い痛み、あるいは膝を動かした時だけ特定の場所に感じる痛みなどがあります。

安静にしていても痛むのか、体重をかけた時だけ痛むのかなど、痛みの出現する状況を把握することも大切です。

痛みの種類と現れ方

痛みの種類特徴主な状況
鋭い痛み瞬間的、または持続的にズキズキする受傷直後、動作時
鈍い痛みジンジン、重苦しい感じ安静時、受傷後しばらくしてから
限局的な痛み膝の特定の場所を押すと痛む圧痛点が存在する場合

腫れ(はれ)の出現

膝関節の内部や周辺組織が損傷すると、炎症反応として腫れが生じることが多くあります。腫れは、受傷直後から数時間以内に出現し始め、時間とともに増大することがあります。

関節内に血液や関節液が溜まること(関節内血腫や関節水腫)が原因で、膝全体がパンパンに腫れ上がり、熱感を持つこともあります。腫れの程度は、損傷の大きさを反映している場合があります。

内出血の確認

皮膚の下で血管が損傷すると、内出血が起こり、皮膚の色が青紫色や赤紫色に変化することがあります。内出血は、受傷から数時間後、あるいは翌日以降に現れることもあります。

最初は膝の周辺に限局していても、時間とともに重力の影響で下方へ広がり、ふくらはぎや足首にまで及ぶこともあります。

内出血の範囲や色の濃さも、損傷の程度を推測する手がかりの一つです。

可動域の制限

膝をひねった後、痛みや腫れ、あるいは関節内部の構造的な問題により、膝の曲げ伸ばしがしにくくなることがあります。これを可動域制限と言います。

完全に膝を伸ばせない、深く曲げられない、あるいは特定の角度でロックされたように動かせなくなる(ロッキング)といった症状が現れることがあります。

ロッキングは、特に半月板損傷などで見られる特徴的な症状の一つです。

膝の動きで確認するポイント

  • 完全に伸ばせるか
  • 深く曲げられるか
  • 動かす途中で引っかかる感じはないか

膝をひねった時の応急処置「RICE」

膝をひねってしまった場合、医療機関を受診するまでの間に行うべき適切な応急処置があります。

その基本となるのが「RICE(ライス)処置」です。RICE処置は、Rest(安静)、Ice(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)の4つの要素の頭文字を取ったもので、損傷部位の炎症や腫れ、痛みを最小限に抑えることを目的としています。

早期に適切なRICE処置を行うことで、その後の回復にも良い影響を与えることが期待できます。

Rest 安静

まず最も重要なのは、負傷した膝を安静に保つことです。痛みを感じる動作は避け、体重をかけないようにします。

スポーツ活動中であれば直ちに中止し、日常生活においても無理に動かしたり、膝に負担をかけたりしないように注意します。

必要であれば、松葉杖などを使用して免荷(体重をかけないこと)することも検討します。安静にすることで、損傷の拡大を防ぎ、さらなる組織のダメージを避けることができます。

Ice 冷却

次に、患部を冷却します。氷嚢(アイスバッグ)やビニール袋に氷と少量の水を入れ、タオルで包んでから患部に当てます。冷却することで、血管を収縮させ、内出血や腫れを抑制し、痛みを和らげる効果があります。

1回の冷却時間は15分から20分程度を目安とし、感覚がなくなったり、凍傷になったりしないように注意します。冷却は、受傷直後から24時間から72時間程度、断続的に行うと効果的です。

冷却時の注意点

ポイント説明具体例
直接当てない凍傷を防ぐためタオルなどで包む薄手のタオル一枚を挟む
時間1回15-20分程度感覚が鈍くなったら一旦外す
頻度1-2時間おきに繰り返す受傷後2-3日間

Compression 圧迫

患部を適度に圧迫することも、内出血や腫れを抑えるのに役立ちます。弾性包帯やサポーター、テーピングなどを用いて、膝関節周囲を軽く圧迫します。

ただし、強く圧迫しすぎると血行障害を引き起こしたり、神経を圧迫したりする可能性があるため、注意が必要です。

圧迫した後に、指先が冷たくなったり、しびれが出たりした場合は、すぐに緩めるようにします。圧迫の強さは、心地よい程度に留めることが大切です。

Elevation 挙上

最後に、負傷した膝を心臓より高い位置に保つようにします。これを挙上と言います。横になる際は、足の下にクッションや座布団などを入れて膝を高くします。

挙上することで、重力を利用して血液やリンパ液の還流を促し、腫れの軽減を図ります。特に就寝時など、長時間安静にする際には意識して行うと良いでしょう。

これらのRICE処置は、あくまで応急処置であり、症状が強い場合や改善が見られない場合は、速やかに医療機関を受診することが重要です。

膝をひねることで起こりうる怪我の種類

膝をひねるという動作は、膝関節に複雑なストレスをかけるため、様々な組織が損傷する可能性があります。代表的なものとして、靭帯損傷、半月板損傷、軟骨損傷などが挙げられます。

これらの怪我は単独で起こることもあれば、複合して発生することもあります。どの組織がどの程度損傷しているかによって、症状や治療法、回復期間が大きく異なります。

靭帯損傷

膝関節には、内外側側副靭帯(ないがいそくそくふくじんたい)、前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい)、後十字靭帯(こうじゅうじじんたい)という4本の主要な靭帯があり、関節の安定性を保つ役割を担っています。

膝をひねった際に、これらの靭帯が伸びたり、部分的に断裂したり、完全に断裂したりすることがあります。特に前十字靭帯損傷はスポーツ活動中によく見られ、受傷時に「ブチッ」という断裂音を感じることもあります。

靭帯損傷は、膝の不安定感や「膝が抜ける感じ(giving way)」の原因となります。

主な膝靭帯とその役割

靭帯名主な役割損傷しやすい状況
前十字靭帯 (ACL)脛骨が前方へずれるのを防ぐジャンプ着地時、急な方向転換
後十字靭帯 (PCL)脛骨が後方へずれるのを防ぐ膝前面への強い打撃
内側側副靭帯 (MCL)膝の外反(外側への曲がり)を防ぐ膝の外側からの衝撃

外側側副靭帯 (LCL)は膝の内反(内側への曲がり)を防ぎ、膝の内側からの衝撃で損傷しやすいです。

半月板損傷

半月板は、膝関節の大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)の間にあるC字型の軟骨組織で、内側と外側にそれぞれ存在します。

クッションのように衝撃を吸収したり、関節の安定性を高めたりする重要な役割を果たしています。

膝をひねった際に、半月板に亀裂が入ったり、断裂したりすることがあります。半月板を損傷すると、膝の曲げ伸ばしの際に痛みや引っかかり感(キャッチング)、ロッキング(膝が動かせなくなる状態)などの症状が現れることがあります。

軟骨損傷

関節軟骨は、大腿骨や脛骨の表面を覆っている滑らかで弾力性のある組織で、関節の動きをスムーズにし、衝撃を和らげる働きをしています。

膝を強くひねったり、衝撃を受けたりすることで、この関節軟骨がすり減ったり、剥がれたりすることがあります。軟骨には血管や神経が乏しいため、一度損傷すると自然治癒しにくいという特徴があります。

軟骨損傷が進行すると、痛みが慢性化したり、関節の変形(変形性膝関節症)につながったりする可能性があります。

半月板と関節軟骨の機能

組織主な機能損傷時の代表的症状
半月板衝撃吸収、関節安定化引っかかり感、ロッキング、痛み
関節軟骨円滑な関節運動、衝撃緩和動作時痛、腫れ、進行すると変形

その他の損傷(骨折など)

非常に強い力で膝をひねった場合や、転倒して直接膝を打った場合などには、膝関節周囲の骨が折れること(骨折)もあります。特に、脛骨高原骨折(脛骨の関節面に近い部分の骨折)や膝蓋骨骨折(お皿の骨の骨折)などが考えられます。

また、稀ではありますが、脱臼(関節が完全に外れてしまうこと)を伴うこともあります。これらの骨損傷は、激しい痛みや著しい腫れ、変形、動かせないといった症状を引き起こします。

医療機関を受診する目安

膝をひねった後、どのような場合に医療機関を受診すべきか悩むことがあるかもしれません。

軽い打撲程度であれば自然に治ることもありますが、中には専門的な診断や治療が必要なケースも少なくありません。受診のタイミングを逃すと、症状が悪化したり、回復が遅れたりする可能性もあります。ここでは、医療機関、特に整形外科の受診を検討すべき具体的な目安について説明します。

痛みが強い、または持続する場合

受傷直後から激しい痛みがある場合や、RICE処置を行っても痛みが軽減しない、あるいは数日経っても痛みが続く場合は、医療機関の受診を考えましょう。

特に、安静にしていてもズキズキとした痛みが続く、体重をかけると激痛が走る、夜間に痛みで目が覚めるなどの症状がある場合は、靭帯損傷や骨折など、比較的重い怪我の可能性があります。

腫れがひどい、または引かない場合

膝全体がパンパンに腫れ上がり、熱感を持っている場合や、腫れが数日経っても引かない、むしろ悪化するような場合は、関節内に出血や多量の関節液が溜まっている可能性があります。

このような状態は、靭帯損傷や半月板損傷、軟骨損傷、骨折などで見られることがあり、専門的な診断が必要です。腫れが強いと、関節の動きも悪くなり、日常生活にも支障をきたします。

腫れのチェックポイント

  • 左右の膝を見比べて太さに差があるか
  • 膝のお皿の輪郭がぼやけていないか
  • 押すとブヨブヨとした感触があるか

膝が不安定な感じがする場合

歩いている時や階段の上り下りの際に、膝がガクッと崩れるような感じ(膝崩れ、giving way)がしたり、膝に力が入らない、頼りないといった不安定感がある場合は、靭帯損傷、特に前十字靭帯損傷などが疑われます。

このような不安定性は、放置すると繰り返し膝を痛める原因になったり、半月板や軟骨の二次的な損傷を引き起こしたりする可能性があるため、専門医の診察を受けることが大切です。

膝の曲げ伸ばしが困難な場合

膝を完全に伸ばせない、深く曲げられない、あるいは特定の角度で膝が引っかかって動かせなくなる(ロッキング)といった可動域制限がある場合も、受診の目安となります。

ロッキングは半月板損傷の典型的な症状の一つであり、放置すると日常生活に大きな支障をきたします。

また、痛みや腫れによって一時的に動きが悪くなっているだけでなく、関節内部に構造的な問題が生じている可能性も考えられます。

受診を考慮すべき症状のまとめ

症状具体的な状態考えられる主な原因
強い痛み・持続する痛み安静時痛、荷重時痛、夜間痛靭帯損傷、骨折、半月板損傷
著しい腫れ・引かない腫れ膝全体の腫脹、熱感関節内血腫、関節水腫(各種損傷に伴う)
不安定感膝崩れ、力が入らない靭帯損傷(特に前十字靭帯)
可動域制限伸ばせない、曲げられない、ロッキング半月板損傷、遊離体、重度の腫れ

整形外科で行われる検査と診断

膝をひねり医療機関を受診すると、医師はまず問診と身体診察(視診、触診、徒手検査など)を行い、症状や膝の状態を詳しく評価します。

その上で、より正確な診断を下すために、必要に応じて画像検査などを実施します。

これらの検査結果を総合的に判断し、どの組織がどの程度損傷しているのかを特定し、適切な治療方針を決定します。

問診と身体診察

問診では、いつ、どこで、どのように膝をひねったのか(受傷機転)、その時の状況、自覚症状(痛み、腫れ、不安定感など)の程度や変化、過去の怪我や病気の有無などについて詳しく尋ねます。

身体診察では、医師が膝の状態を直接見て(視診)、触って(触診)、動かして(徒手検査)評価します。

腫れや内出血の有無、圧痛点(押して痛む場所)、関節の可動域、靭帯の緩み(不安定性)、半月板損傷を示唆する所見などを確認します。

問診で確認される主な内容

項目確認内容の例
受傷機転スポーツ中か、日常生活か、具体的な動作
自覚症状痛みの部位・程度・性質、腫れの有無、不安定感の有無
受傷時の音「ブチッ」「ゴリッ」などの音の有無

レントゲン検査(X線検査)

レントゲン検査は、骨の状態を評価するための基本的な画像検査です。骨折の有無や骨の変形、関節の隙間の状態などを確認することができます。

靭帯や半月板、軟骨といった軟部組織はレントゲンには写りませんが、骨折の合併がないかを除外診断するために、多くの場合はまず行われます。

また、稀に軟骨の一部が骨化して剥がれる骨軟骨骨折などもレントゲンで発見されることがあります。

MRI検査

MRI(磁気共鳴画像)検査は、磁気と電波を利用して体内の詳細な断面像を得る検査です。

レントゲンでは評価できない靭帯、半月板、関節軟骨、筋肉、腱といった軟部組織の状態を非常に鮮明に描出することができます。

靭帯の断裂の程度や部位、半月板損傷の形態や範囲、軟骨損傷の深さなどを詳細に評価できるため、膝の怪我の診断において非常に有用な検査です。治療方針の決定にも大きく関わってきます。

超音波検査(エコー検査)

超音波検査は、超音波を体表から当てて、その反響を画像化する検査です。靭帯や筋肉、腱などの軟部組織の状態をリアルタイムに観察することができます。

MRI検査ほど詳細な情報は得られませんが、簡便で被ばくの心配もなく、関節の動きや血流の状態なども評価できる利点があります。

特に、関節内の液体の貯留(関節水腫や血腫)の確認や、靭帯損傷の初期評価、注射を行う際のガイドなどに用いられることがあります。

画像検査の比較

検査方法主な評価対象特徴
レントゲン検査骨(骨折、変形)簡便、迅速、被ばくあり
MRI検査軟部組織(靭帯、半月板、軟骨)詳細な情報、時間がかかる、高価
超音波検査軟部組織(表層)、液体貯留簡便、リアルタイム、被ばくなし

膝の怪我に対する治療法

膝をひねったことによる怪我の治療法は、損傷した組織の種類、損傷の程度、患者さんの年齢、活動レベル、生活様式など、様々な要因を考慮して決定されます。

治療法は大きく分けて、手術を行わない「保存的治療」と、手術による「手術的治療」があります。

どちらの治療法を選択するかは、専門医と十分に相談し、それぞれのメリット・デメリットを理解した上で決定することが重要です。

保存的治療

保存的治療は、主に比較的軽度な靭帯損傷や半月板損傷、軟骨損傷、あるいは手術を希望しない場合や手術が適さない患者さんに対して行われます。

安静、薬物療法、装具療法、リハビリテーションなどを組み合わせて行い、痛みや炎症を抑え、関節機能の回復を目指します。

保存的治療の主な内容

  • 安静・固定(ギプス、シーネ、サポーター)
  • 薬物療法(消炎鎮痛剤の内服、外用薬、注射)
  • 物理療法(温熱療法、寒冷療法、電気刺激療法)
  • 運動療法(筋力トレーニング、可動域訓練)

薬物療法では、痛みや炎症を抑えるために非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の内服薬や外用薬(湿布、塗り薬)が用いられます。

痛みが強い場合や炎症が著しい場合には、関節内にステロイド注射やヒアルロン酸注射を行うこともあります。

装具療法では、ギプスやシーネで一時的に固定したり、サポーターやブレースを装着して関節の安定性を高めたり、負担を軽減したりします。

手術的治療

保存的治療では十分な効果が得られない場合や、損傷の程度が重く、関節の不安定性が強い場合、あるいは早期のスポーツ復帰や高い活動レベルを望む場合には、手術的治療が検討されます。

代表的な手術には、靭帯再建術(前十字靭帯再建術など)、半月板縫合術や切除術、軟骨修復術などがあります。

近年では、関節鏡(内視鏡)を用いた低侵襲手術(体への負担が少ない手術)が主流となっており、傷が小さく、術後の回復も比較的早いという利点があります。

代表的な手術的治療

手術名対象となる主な怪我手術の概要
靭帯再建術前十字靭帯損傷、後十字靭帯損傷など自分の腱や人工靭帯を用いて損傷した靭帯を再建する
半月板縫合術・切除術半月板損傷損傷した半月板を縫い合わせる、または部分的に切除する
軟骨修復術関節軟骨損傷自家骨軟骨移植、自家培養軟骨移植など

リハビリテーションの重要性

保存的治療であれ、手術的治療であれ、膝の怪我の治療においてリハビリテーションは非常に重要な役割を果たします。

リハビリテーションの目的は、痛みや腫れを軽減し、関節の可動域を回復させ、筋力を強化し、最終的には受傷前の日常生活やスポーツ活動への復帰を目指すことです。

理学療法士などの専門家の指導のもと、個々の状態に合わせたプログラムを段階的に進めていくことが大切です。焦らず、根気強く取り組むことが、良好な回復につながります。

治療後のリハビリテーションと日常生活での注意点

膝の怪我の治療が一段落した後も、機能回復と再発予防のためには、継続的なリハビリテーションと日常生活での注意深い管理が求められます。

医師や理学療法士の指示に従い、焦らず慎重にリハビリテーションを進めることが、スムーズな社会復帰やスポーツ復帰への鍵となります。

また、日常生活においても膝に負担をかけない工夫をすることが、長期的な膝の健康を保つ上で大切です。

段階的なリハビリテーションプログラム

リハビリテーションは、一般的に「急性期」「回復期」「復帰期」といった段階に分けて進められます。

急性期は、手術直後や受傷直後の炎症が強い時期で、安静やアイシング、軽い可動域訓練が中心となります。

回復期に入ると、徐々に筋力トレーニングやバランストレーニングなどを取り入れ、関節機能の向上を図ります。復帰期では、より実践的な動作訓練やスポーツ特有の動きを取り入れ、競技復帰や社会復帰を目指します。

各段階での目標設定と、それに応じた適切な運動療法が重要です。

リハビリテーションの段階と主な内容

段階主な目的主なリハビリ内容例
急性期炎症・痛みのコントロール、関節保護RICE処置、軽い自動・他動運動
回復期可動域改善、筋力向上、バランス能力向上ストレッチ、筋力トレーニング(自体重、ゴムバンド、マシン)、片足立ち
復帰期日常生活・スポーツ動作の獲得、再発予防ジョギング、ジャンプ、アジリティトレーニング、スポーツ特有動作訓練

筋力トレーニングの継続

膝関節の安定性を高め、負担を軽減するためには、太ももの筋肉(特に大腿四頭筋やハムストリングス)、お尻の筋肉(殿筋群)、体幹の筋力をバランス良く鍛えることが重要です。

これらの筋力が低下すると、膝への負担が増加し、再受傷のリスクが高まります。リハビリテーション期間中だけでなく、治療終了後も自主的な筋力トレーニングを継続することが、長期的な膝の健康維持に繋がります。

ウォーキングや水泳など、膝への負担が少ない運動を取り入れるのも良いでしょう。

日常生活での膝への配慮

日常生活においても、膝に負担をかけないような工夫を心がけることが大切です。

例えば、長時間の正座やあぐら、和式トイレの使用はできるだけ避ける、重い物を持ち上げる際は膝を曲げて腰を落とす、階段昇降は手すりを利用する、体重管理を心がける、などが挙げられます。

また、靴選びも重要で、クッション性があり、足にフィットする靴を選ぶことで、膝への衝撃を和らげることができます。これらの小さな配慮の積み重ねが、膝の保護に役立ちます。

スポーツ活動への復帰時期と注意点

スポーツ活動への復帰は、医師や理学療法士の許可を得てから、段階的に行うようにします。復帰の目安としては、痛みがなく、関節の可動域や筋力が十分に回復し、スポーツ特有の動作(ジャンプ、ダッシュ、カッティングなど)が問題なく行えることなどが挙げられます。

復帰初期は、練習時間や強度を抑え、徐々に上げていくようにします。

また、ウォーミングアップやクールダウンを十分に行い、必要であればサポーターやテーピングを使用するなど、再発予防策を講じることが重要です。

よくある質問 (FAQ)

膝をひねった際の対処法や治療に関して、多くの方が疑問に思われる点をまとめました。個別の症状や状況によって対応が異なる場合があるため、最終的な判断は専門医にご相談ください。

膝をひねった後、お風呂に入っても良いですか

受傷直後や炎症が強い時期(急性期)は、温めることで血行が良くなり、腫れや炎症が悪化する可能性があるため、入浴は避けた方が良いでしょう。

シャワー程度であれば問題ありませんが、患部を温めすぎないように注意が必要です。炎症が落ち着き、痛みが軽減してきたら、医師の指示に従って入浴を再開してください。

温めることで血行が改善し、筋肉の緊張が和らぐ効果も期待できます。

サポーターはどのようなものを選べば良いですか

サポーターの種類は様々で、保温目的の簡易なものから、関節の動きを制限したり安定させたりする機能的なものまであります。膝の状態や目的に応じて適切なサポーターを選ぶことが大切です。

例えば、靭帯損傷後の不安定感がある場合は、支柱(ステー)が入ったものやストラップで固定力を調整できるものが適している場合があります。

自己判断せずに、医師や理学療法士に相談し、自分の症状に合ったものを選ぶようにしましょう。

サポーター選択時の考慮点

目的サポーターのタイプ例注意点
保温・軽度の圧迫筒状の布製サポーター締め付けすぎない
関節の安定化支柱付き、ストラップ付きサポーター適切なサイズと装着方法
特定の動きの制限機能的ブレース医師の指示のもと使用

痛みが引けば運動を再開しても大丈夫ですか

痛みが引いたからといって、すぐに元のレベルで運動を再開するのは危険です。

痛みは重要なサインの一つですが、痛みがなくなったからといって、損傷した組織が完全に修復され、関節機能が元通りになったとは限りません。

筋力や柔軟性、バランス能力などが十分に回復していない状態で無理に運動を再開すると、再受傷のリスクが高まります。

運動再開のタイミングや強度は、医師や理学療法士の指示に従い、段階的に進めることが重要です。

予防のためにできることはありますか

膝をひねる怪我を完全に予防することは難しいですが、リスクを減らすためにできることはあります。

まず、日頃から膝周りの筋力(特に大腿四頭筋、ハムストリングス)や体幹の筋力を鍛え、柔軟性を高めるストレッチを行うことが大切です。また、スポーツを行う前には十分なウォーミングアップを行い、終了後にはクールダウンを欠かさないようにしましょう。

自分の体力や技術レベルに合った運動を選び、無理のない範囲で行うことも重要です。適切な靴を選び、不整地などでの活動には注意することも予防に繋がります。

以上

参考文献

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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