股関節の痛みと病気の関係|早期発見のために
股関節の痛みや違和感は、加齢による一時的な疲れだけでなく、背後に何らかの病気が隠れている可能性を示唆する重要なサインです。
多くの人が「そのうち治るだろう」と我慢してしまいがちですが、股関節の病気は進行性のものが多く、放置することで手術が必要になるケースも少なくありません。
しかし、早い段階で異変に気づき、適切な対処を行えば、症状の進行を遅らせたり、生活の質を維持したりすることが十分に可能です。
この記事では、股関節の痛みと病気の関係性を深く掘り下げ、早期発見につなげるための知識をわかりやすく解説します。
目次
股関節の痛みが示すサインと初期症状
股関節の病気における初期症状は、激しい痛みではなく、動き始めのわずかな違和感やこわばりとして現れることがほとんどであり、これらは関節内部での炎症や変形の始まりを示す合図です。
日常生活における「なんとなく脚が重い」といった感覚を見逃さず、早期に専門機関へ相談することが、将来的な歩行機能を守る鍵となります。
動き始めや立ち上がり時の違和感
多くの股関節疾患、特に変形性股関節症の初期段階で頻繁に見られるのが、動作を開始する瞬間の痛みや違和感です。これを「始動時痛」と呼びます。
例えば、朝起きて布団から出ようとしたとき、椅子から立ち上がろうとしたとき、あるいは車から降りようとしたときなどに、鼠径部(脚の付け根)やお尻のあたりにズキッとした痛みや重だるさを感じます。
興味深いことに、この痛みは動き始めてしばらくすると消えてしまうことが多くあります。歩いているうちに血液循環が良くなり、関節の滑りが一時的に改善するためです。
その結果「気のせいだったかもしれない」と判断し、受診を先送りにしてしまう方が非常に多くいらっしゃいます。
しかし、この始動時痛こそが軟骨の摩耗や関節炎の始まりを告げる重要な警告であり、この段階で対策を講じることが病気の進行を食い止める上で重要です。
可動域の制限と日常生活への支障
痛みが進行してくると、次に関節の動く範囲(可動域)が徐々に狭くなっていきます。
初期の段階では、あぐらをかきにくくなったり、正座がしにくくなったりするといった変化として現れます。
これは関節包や周囲の筋肉が炎症によって硬くなり、関節の柔軟性が失われていくために起こります。
さらに症状が進むと、爪切りや靴下の着脱といった日常の些細な動作が困難になります。
足の爪を切ろうとしても股関節が曲がらず足先まで手が届かない、あるいは和式トイレの使用が辛くなるといった具体的な不便さが生じます。
可動域の制限は徐々に進行するため、自分では気づかないうちに無意識に体を傾けて代償動作を行っていることもあります。
股関節の症状進行レベルと特徴的なサイン
| 進行レベル | 主な症状と特徴 | 日常生活への影響 |
|---|---|---|
| 初期 | 動き始めや立ち上がり瞬間の違和感(始動時痛)。休むと治まることが多い。 | 長時間歩くと少し疲れる程度。日常生活には大きな支障はないが、あぐらがかきにくくなる。 |
| 進行期 | 動いている最中にも痛む(運動時痛)。可動域制限が顕著になる。 | 爪切り、靴下履き、階段の上り下りが辛くなる。正座や和式トイレが困難になる。 |
| 末期 | 安静にしていても痛む(安静時痛)。夜間に痛みで目が覚める(夜間痛)。 | 長い距離を歩けなくなる。常に杖が必要になる。家事や仕事など生活全般に大きな制限がかかる。 |
痛みが出る場所の特定と広がり
股関節の異常であっても、必ずしも脚の付け根だけが痛むわけではありません。股関節に関連する痛みは、お尻(殿部)、太ももの前側や外側、さらには膝にまで広がることがあります。
これを関連痛と呼びます。特に膝の痛みを訴えて受診した結果、実は原因が股関節にあったというケースは珍しくありません。
痛みの場所が特定しにくい、あるいは日によって痛む場所が変わるというのも股関節疾患の特徴の一つです。
神経の圧迫や筋肉の緊張が広範囲に及ぶことで、患部から離れた場所に症状が出現します。
したがって、膝や腰に痛みがある場合でも、股関節の動きを確認し、根本的な原因を探ることが大切です。
痛みの範囲が広がっている場合は、炎症が周囲の組織に波及している可能性も考慮する必要があります。
年代別に見る股関節の病気の特徴
股関節の痛みや病気は高齢者だけの問題ではなく、乳幼児から若年層、そして高齢者に至るまで、それぞれの年代で発症しやすい特有の病気が存在します。
年齢に応じたリスクを把握しておくことは、自分自身や家族の異変に対する適切な判断を助けます。
乳幼児期から小児期に多い疾患
乳幼児期においては、先天的な要因や発育過程での異常が主な原因となります。代表的なものとして「発育性股関節形成不全(旧称:先天性股関節脱臼)」が挙げられます。
これは生まれつき、あるいは生後まもなく股関節が脱臼していたり、関節の受け皿が浅かったりする状態です。
おむつ交換の際に脚が開きにくい、左右の太もものしわの数が違うといったサインで気づくことが多いです。
また、小児期(特に男児)には「ペルテス病」という病気も見られます。これは大腿骨頭への血流が一時的に途絶え、骨の一部が壊死してしまう病気です。
初期には膝の痛みを訴えることが多いため、見逃されやすい傾向にあります。
子供が痛みを訴えたり、びっこを引いて歩いていたりする場合は、成長痛と決めつけずに専門医の診察を受けることが重要です。
早期に発見し装具療法などで対処することで、将来的な障害を残さずに治癒できる可能性が高まります。
思春期から若年層に見られる症状
思春期、特に成長期の活発な子供たちに見られるのが「大腿骨頭すべり症」です。これは大腿骨の骨端線(成長線)で骨頭がずれてしまう病気で、肥満傾向のある男児に多く発症します。
股関節だけでなく膝の痛みを訴えることが多く、運動時の痛みや歩行障害が現れます。急激にずれると激痛を伴い、緊急の手術が必要になることもあります。
また、若年層から中年層にかけては、スポーツや過度な運動による「股関節唇損傷」が増加しています。
股関節唇は関節の安定性を保つゴムパッキンのような役割を果たしていますが、激しい動きの繰り返しによって損傷することがあります。
年代別に注意すべき主な股関節疾患
| 年代 | 主な疾患名 | 特徴と注意点 |
|---|---|---|
| 乳幼児〜小児 | 発育性股関節形成不全 ペルテス病 単純性股関節炎 | 「おむつ替えで脚が開かない」「左右の脚の長さが違う」などがサイン。痛みより機能障害で気づくことが多い。 |
| 思春期〜若年 | 大腿骨頭すべり症 股関節唇損傷 大腿骨寛骨臼インピンジメント | スポーツ活動や肥満が引き金になることがある。膝の痛みとして現れることがあり、誤診されやすい。 |
| 中高年〜高齢 | 変形性股関節症 大腿骨頭壊死症 関節リウマチ | 加齢による軟骨摩耗が主原因。女性に多い。放置すると歩行困難になり、生活の質が著しく低下する。 |
中高年以降に急増する変形性股関節症
中高年以降、特に女性に圧倒的に多いのが「変形性股関節症」です。これは長年の使用による軟骨の摩耗や、加齢に伴う骨の変形が主な原因です。
日本では、もともと股関節の受け皿が浅い「寛骨臼形成不全」を持っている人が多く、これが長年の負荷によって中高年になってから変形性股関節症を発症させる大きな要因となっています。
加齢とともに筋力が低下することも、関節への負担を増大させます。
ホルモンバランスの変化、特に閉経後の女性は骨粗鬆症のリスクも高まるため、股関節の骨折リスクも同時に考慮しなければなりません。
この年代の痛みは、単なる老化現象として片付けず、骨や軟骨の状態を医学的に評価し、適切な保存療法や手術療法を検討する時期といえます。
変形性股関節症の進行と身体への影響
最も患者数が多い変形性股関節症は、長い年月をかけて「前期」「初期」「進行期」「末期」へと徐々に進行していきます。
この進行過程を理解し、現在の自分の状態を把握することは、適切な対策を講じる上で不可欠なステップです。
初期の軟骨摩耗と自覚症状
病気の始まりである「前期」や「初期」では、関節軟骨の表面がわずかに毛羽立ったり、厚みが減少し始めたりします。
レントゲン画像では関節の隙間がわずかに狭くなっている程度で、骨の変形はまだ顕著ではありません。しかし、この段階ですでに体はSOSを出しています。
この時期の特徴は、前述した「始動時痛」です。軟骨には神経が通っていないため、軟骨が削れること自体には痛みがありません。
しかし、軟骨の摩耗粉が関節包を刺激して炎症(滑膜炎)を起こすことで痛みを感じます。
まだ軟骨が残っているため、安静にしていれば痛みは治まりますが、無理を重ねると炎症が慢性化し、次のステージへと進行を早めてしまいます。
進行期の骨変形と痛みの慢性化
「進行期」に入ると、軟骨の摩耗がさらに進み、部分的には骨の下の層が露出してきます。
体は不安定になった関節を安定させようと反応し、骨のふちに「骨棘(こつきょく)」と呼ばれるトゲのような余分な骨を作り始めます。
また、骨の中には「骨嚢胞(こつのうほう)」という空洞ができることもあります。
この段階になると、痛みは動き始めだけでなく、歩行中や活動中にも持続するようになります(運動時痛)。
関節の適合性が悪くなるため、可動域の制限も強くなり、靴下の着脱や爪切りなどの動作が明らかに不自由になります。
痛みを避けるために無意識に体を揺らして歩く「跛行(はこう)」が見られるようになるのもこの時期です。
末期の関節破壊と歩行困難
「末期」では、関節軟骨がほとんど消失し、骨と骨が直接ぶつかり合う状態になります。レントゲン画像では関節の隙間が完全になくなっているのが確認できます。
骨同士が擦れ合うため、激しい痛みが生じ、動かさなくても痛む「安静時痛」や、寝ていても痛む「夜間痛」に悩まされるようになります。
変形性股関節症の病期別チェックポイント
- 前期・初期:起床時や立ち上がり時に痛みがあるが、動いていると楽になる
- 前期・初期:長時間歩いた後や運動後に、脚の付け根にだるさを感じる
- 進行期:歩行中ずっと痛みが続き、長い距離を歩くのが億劫になる
- 進行期:足の爪切りや靴下の着脱が一苦労になり、足が開かなくなる
- 末期:じっとしていても痛く、夜も痛みで目が覚めてしまう
- 末期:痛みのために外出を控えがちになり、家の中での移動もつらい
股関節の動きは著しく制限され、拘縮(関節が固まること)が起こります。脚の長さが短くなることもあり、杖なしでの歩行は困難になります。
この状態まで進行すると、保存療法での改善は難しく、人工股関節置換術などの手術療法が検討されることが一般的です。生活範囲が極端に狭まり、精神的にも大きな負担となります。
股関節の痛みを引き起こす代表的な病気
股関節の痛み=変形性股関節症だけではなく、特発性大腿骨頭壊死症や関節リウマチなど、他の重大な病気が原因であることもあります。
病気によって治療法や進行速度が異なるため、自己判断を避け、正確な診断を受けることが大切です。
大腿骨頭壊死症の原因と特徴
特発性大腿骨頭壊死症は、大腿骨の頭(骨頭)への血液供給が何らかの原因で途絶え、骨組織が死んでしまう(壊死する)病気です。
壊死した部分が体重の負荷に耐えきれずに潰れてしまうと、急激な激痛が生じます。
主な原因として、ステロイド薬の大量使用やアルコールの多飲が関連していることが分かっていますが、原因不明の場合もあります。
この病気の恐ろしい点は、壊死が発生しても骨が潰れるまでは無症状であることです。ある日突然、強烈な痛みに襲われて発覚することが少なくありません。
国の指定難病の一つであり、早期の段階であれば骨切り術などの関節温存手術が可能ですが、進行して骨頭が圧潰すると人工関節が必要になることが多いです。
寛骨臼形成不全と将来的なリスク
寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)は、骨盤側の受け皿(寛骨臼)の発育が不十分で、屋根が浅い状態を指します。
これにより、大腿骨頭を十分に覆うことができず、接触面積が小さくなるため、一点にかかる圧力が極端に高くなります。
日本人の変形性股関節症の原因の約8割が、この寛骨臼形成不全に起因していると言われています。
若い頃は筋力でカバーできているため無症状のことも多いですが、加齢や出産、体重増加などをきっかけに痛みが発症します。
この状態を放置すると、高い確率で将来的に変形性股関節症へと進行します。
早期に発見できれば、筋力トレーニングや体重管理、場合によっては骨盤の形を整える手術(骨切り術)によって、関節を長持ちさせることが可能です。
関節リウマチによる股関節への影響
関節リウマチは、免疫の異常により自分自身の関節を攻撃して破壊してしまう全身性の病気です。手や指の関節に症状が出ることが有名ですが、股関節にも病変が及ぶことがあります。
リウマチによる股関節炎は、滑膜が増殖し、軟骨や骨を急速に溶かしていくのが特徴です。
主な股関節疾患の比較一覧
| 病気の種類 | 主な原因・要因 | 痛みの特徴と進行 |
|---|---|---|
| 特発性大腿骨頭壊死症 | ステロイド大量投与、アルコール多飲など(血流障害)。 | 骨が潰れた瞬間に急激な痛みが出る。それまでは無症状。進行すると歩行困難に。 |
| 寛骨臼形成不全 | 先天的な発育不全。女性に多い。 | 初期は無症状だが、徐々に痛み出す。変形性股関節症の最大の予備軍。 |
| 関節リウマチ | 自己免疫異常。全身の関節に炎症が及ぶ。 | 安静時でも痛む。朝のこわばりが特徴。進行が速く、骨破壊や変形が強い。 |
| 化膿性股関節炎 | 黄色ブドウ球菌などの細菌感染。 | 高熱、激痛、腫脹を伴う。緊急処置が必要な急性疾患。 |
変形性股関節症が機械的な摩耗であるのに対し、リウマチは化学的な炎症による破壊であるため、進行スピードが速い傾向にあります。
また、骨粗鬆症を併発しやすいため、骨が脆くなっていることも治療を難しくする要因です。
しかし、近年は生物学的製剤などの優れた薬が登場しており、早期に適切な薬物療法を開始すれば、関節破壊を食い止めることが可能になっています。
その他の股関節炎や感染症
その他にも、細菌が関節内に侵入して起こる「化膿性股関節炎」や、痛風や偽痛風による結晶誘発性の関節炎などが痛みの原因となることがあります。
特に化膿性股関節炎は緊急性が高く、早急に排膿処置や抗生物質の投与を行わないと、数日で関節が破壊され、敗血症などの命に関わる状態になることもあります。
急激な発熱や激痛、腫れが見られる場合は、一刻も早い受診が必要です。
痛みを放置した場合のリスクと合併症
股関節の痛みを放置することは、単なる痛みの継続だけでなく、全身へ悪影響を及ぼすドミノ倒しのような事態を招きます。
股関節の機能不全は腰や膝への負担を増大させ、二次的な障害を引き起こすため、早期治療は全身の健康を守るために重要です。
腰や膝など他の関節への負担増加
股関節が痛むと、無意識のうちにその痛みを避けようとする「逃避姿勢」や「代償動作」をとるようになります。例えば、股関節をかばって歩くと、反対側の脚や膝に過度な負担がかかります。
また、股関節の動きが悪くなると、その分を腰椎(腰の骨)が過剰に動いてカバーしようとします。
この結果、股関節の病気が原因で「変形性膝関節症」や「腰部脊柱管狭窄症」「腰椎椎間板ヘルニア」などを併発してしまうケースが非常に多く見られます。
これを「Hip-Spine Syndrome(股関節-脊椎症候群)」と呼ぶこともあります。
股関節の治療が遅れることで、結果的に複数の部位の手術や治療が必要になるという悪循環に陥るリスクが高まります。
筋力低下によるロコモティブシンドローム
痛みがあると、どうしても動くことが億劫になり、活動量が低下します。股関節周囲の筋肉、特に中殿筋や大殿筋は歩行時の安定性を保つために重要ですが、使わなければ急速に衰えていきます。
筋力が低下すると関節への衝撃吸収能力が落ち、さらに痛みが増すという負のスパイラルが生じます。
股関節痛放置による二次的障害
| 影響を受ける部位・機能 | 起こりうる障害・合併症 | メカニズム |
|---|---|---|
| 腰椎(腰) | 腰椎椎間板ヘルニア 脊柱管狭窄症 側弯症 | 股関節の可動域制限を腰の動きでカバーしようとし、過剰な負荷がかかる。 |
| 膝関節(膝) | 変形性膝関節症 | 痛む脚をかばったり、O脚が進んだりすることで膝の内側に偏った荷重がかかる。 |
| 筋肉・全身 | 廃用症候群 ロコモティブシンドローム サルコペニア | 痛みによる活動量低下が筋力低下を招き、さらに動けなくなる悪循環。 |
| 精神面 | 抑うつ状態 社会的な孤立 | 外出困難や慢性の疼痛ストレスにより、精神的な活力が失われる。 |
長期間の活動低下は、股関節だけでなく全身の筋力低下を招き、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)の原因となります。
つまずきやすくなったり、転倒しやすくなったりすることで、大腿骨近位部骨折などの重篤な怪我につながる危険性も高まります。
高齢者の場合、これをきっかけに寝たきり状態になってしまうことも危惧されます。
生活の質の低下と精神的なストレス
慢性の痛みは、身体面だけでなく精神面にも大きな影を落とします。
旅行や趣味のスポーツを諦めなければならなくなる、買い物に行くのが辛い、友人と出かけるのが億劫になるなど、生活の質(QOL)が著しく低下します。
「いつ痛くなるかわからない不安」や「歩けなくなるかもしれない恐怖」は大きなストレスとなり、うつ状態や引きこもりの原因にもなり得ます。
痛みによって社会とのつながりが希薄になることは、認知機能の低下にも影響を与える可能性があります。
したがって、股関節の痛みを取り除くことは、心身の健康と社会生活を維持するために極めて重要です。
早期発見のためのセルフチェックと受診目安
レントゲン撮影を行う前でも、日常的な動作チェックによって股関節の異常を推測することは可能です。
セルフチェックで自身の状態を客観的に把握し、「日常生活に少しでも不便を感じた時」を逃さずに受診することが、将来の健康を守ることにつながります。
自宅でできる簡単な可動域チェック
最も分かりやすい指標の一つが「パトリックテスト」と呼ばれる動きに似たチェック方法です。
仰向けに寝て、片方の足首をもう片方の膝の上に乗せ、数字の「4」の字を作るように膝を外側に開きます。
この時、股関節に痛みがあったり、膝が床の方へ十分に下がらなかったり(左右差がある)する場合、股関節に何らかの問題がある可能性が高いです。
また、仰向けで膝を抱え込み、胸の方へ引き寄せる動作も確認してください。
健康な股関節であれば太ももが胸につきますが、異常があるとお尻が浮いてしまったり、股関節が詰まるような痛みを感じて曲がらなかったりします。
このように、左右の脚で動きの範囲に違いがないかを確認することが大切です。
痛みの種類や持続期間による判断
一時的な筋肉痛であれば、数日から1週間程度で痛みは消失します。しかし、2週間以上痛みが続く場合や、安静にしていても痛む場合、痛みの強さが徐々に増している場合は注意が必要です。
また、痛み止めを飲まないと生活できない状態が続いているのなら、すでに組織の損傷が進んでいる可能性があります。
受診を検討すべき危険サインリスト
- 足の付け根やお尻に、2週間以上続く痛みや違和感がある
- あぐらをかくと脚の付け根が痛い、または左右で膝の高さが大きく違う
- 足の爪を切る姿勢が辛い、または靴下を履くのに時間がかかる
- 歩き始めに痛みを感じるが、しばらくすると楽になる現象が繰り返される
- 家族に股関節が悪い人がいる(遺伝的要素の確認)
- 歩いていると、人から「体が揺れている」「足を引きずっている」と指摘される
- 左右の脚の長さが違うように感じる(ズボンの裾の長さが合わない)
「どの動作で痛むか」も重要な情報です。歩き始めだけ痛いのか、歩いている間ずっと痛いのか、階段の上り下りで痛むのか。
これらの情報は医師が診断を下す上で非常に役立つため、痛みのパターンを記録しておくことも有効です。
痛みが鼠径部だけでなく、太ももや膝にある場合も、股関節由来の関連痛である可能性を疑う必要があります。
整形外科を受診するタイミング
「まだ歩けるから大丈夫」と過信するのは危険です。受診の目安としては、「日常生活動作に少しでも不便を感じた時」がベストなタイミングです。
例えば、靴下が履きにくくなった、和式トイレが使いにくい、長い距離を歩くと足を引きずってしまうといった変化が現れた時点で受診してください。
早期であれば、手術をせずにリハビリや薬で症状をコントロールできる期間を長く保つことができます。
また、もし手術が必要になったとしても、骨や筋肉の状態が良い段階であれば、術後の回復も早く、社会復帰もスムーズになります。
早期発見・早期治療こそが、将来の自分の足を守るための最大の防御策です。
診断から保存療法までの流れ
整形外科では詳細な検査で病気の進行度や原因を特定した後、直ちに手術をするのではなく、まずは「保存療法」から開始するのが一般的です。
薬物療法や運動療法を通じて痛みをコントロールし、病気の進行を遅らせることが、この治療段階の主な目的となります。
問診と画像診断の重要性
診察では、いつから痛いのか、どんな動作で痛むのかといった問診に加え、触診や可動域の計測が行われます。そして診断の確定に欠かせないのが画像診断です。
まずは単純X線検査(レントゲン)で、骨の形、関節の隙間の広さ、骨棘の有無などを確認します。
レントゲンだけでは判断が難しい初期の軟骨の状態や、骨頭壊死の有無、股関節唇の損傷などを詳しく調べるために、MRI検査が行われることもあります。
また、骨の立体的な形状を把握するためにCT検査を用いることもあります。
これらの検査結果を総合的に分析し、現在の病期(ステージ)を正確に診断することで、適切な治療方針が決定されます。
薬物療法による痛みのコントロール
痛みが強いと筋肉が緊張し、さらに血流が悪くなって痛みが強まるという悪循環に陥ります。これを断ち切るために薬物療法が行われます。
主に非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)の内服や湿布などの外用薬が処方されます。
最近では、痛みの原因物質に直接作用する新しいタイプの鎮痛薬も登場しており、選択肢が増えています。
主な保存療法の種類と目的
| 治療法 | 主な内容 | 目的と期待される効果 |
|---|---|---|
| 生活指導 | 体重管理、杖の使用、和式から洋式生活への変更など。 | 関節にかかる物理的な負荷を減らし、病気の進行を抑制する。 |
| 運動療法(リハビリ) | 筋力トレーニング、ストレッチ、水中運動、貧乏ゆすり(ジグリング)。 | 関節の安定性を高め、衝撃を吸収する。血流を改善し軟骨へ栄養を送る。 |
| 薬物療法 | 消炎鎮痛薬(飲み薬・湿布)、オピオイド系鎮痛薬など。 | 炎症と痛みを抑え、日常生活を送りやすくする。運動療法を行いやすくする。 |
| 物理療法 | 温熱療法(ホットパック)、電気療法など。 | 患部を温めて血行を良くし、筋肉の緊張をほぐして痛みを緩和する。 |
ただし、薬はあくまで痛みを抑える対処療法であり、すり減った軟骨を元に戻すものではありません。
痛みが取れたからといって無理に動くと、かえって関節の破壊を進めてしまうリスクがあります。
薬で痛みをコントロールしながら、並行して運動療法を行い、関節を支える環境を整えることが重要です。
ヒアルロン酸の関節内注射が行われることもありますが、股関節は深い位置にあるため、膝ほど一般的ではありません。
運動療法とリハビリテーションの効果
保存療法の中心となるのが運動療法です。股関節にかかる負担を減らすためには、体重コントロールとともに、関節を支える筋肉(中殿筋、大殿筋、大腿四頭筋など)を強化することが重要です。
また、硬くなった関節包や筋肉をストレッチでほぐし、可動域を維持・拡大することも大切です。
理学療法士の指導のもと、正しいフォームでトレーニングを行うことが重要です。間違った方法で運動すると、逆に関節を痛めてしまう可能性があるためです。
水中ウォーキングは浮力によって関節への負荷が減るため、股関節症の方には特に推奨される運動の一つです。
地道なリハビリを継続することで、痛みの軽減や進行の抑制に大きな効果が期待できます。
Q&A
股関節の痛みや病気に関して、患者様から頻繁に寄せられる疑問についてお答えします。日々の生活で迷いやすいポイントをまとめましたので、参考にしてください。
股関節が痛いときは冷やすべきですか、温めるべきですか?
基本的には、慢性的な痛みやこわばりがある場合は「温める」ことが効果的です。お風呂でゆっくり温まると楽になるのは、血流が良くなり筋肉の緊張がほぐれるためです。
一方で、急に激しい痛みが出た場合や、熱を持って腫れているような急性期には、一時的に「冷やす」ことで炎症を抑えるのが良いでしょう。
ただし、冷やしすぎは血行不良を招くため、長期間の冷却は避けてください。
診断を受けましたが、運動は控えたほうがよいですか?
過度な安静は筋力を低下させ、かえって病気を進行させる原因になります。痛みが強くない範囲で、適度な運動を続けることが大切です。
ただし、飛んだり跳ねたりする衝撃の強いスポーツや、重い荷物を持つ動作は避けてください。
水中ウォーキングや固定式自転車など、関節への負担が少なく筋力を維持できる運動が推奨されます。
医師や理学療法士と相談し、自分の状態に合った運動メニューを組むことが重要です。
手術は必ず必要になりますか?
必ずしも全員が手術になるわけではありません。
早期に発見し、適切な保存療法(体重管理、筋力トレーニング、生活習慣の改善など)を継続することで、手術をせずに生涯自分の股関節で過ごせる方もいらっしゃいます。
手術は、保存療法を行っても痛みが取れず日常生活に大きな支障がある場合や、骨の変形が著しく進行した場合に検討される選択肢です。
股関節に良い食べ物はありますか?
特定の食品を食べれば股関節が治るというものはありませんが、骨や筋肉を強くするための栄養素を摂ることは大切です。
骨の材料となるカルシウム、カルシウムの吸収を助けるビタミンDやビタミンK、筋肉を作るタンパク質を意識的に摂取しましょう。
また、何より重要なのは「体重管理」です。食べ過ぎを防ぎ、適正体重を維持することが、股関節への最大のいたわりになります。
貧乏ゆすりは股関節に良いと聞いたのですが本当ですか?
はい、医学的に「ジグリング」と呼ばれ、変形性股関節症への効果が注目されています。
小刻みに脚を揺らすことで関節液の循環が促され、軟骨への栄養補給がスムーズになると考えられています。また、関節への負担をかけずにリラックス効果を得ることもできます。
ただし、やり方や症状によっては適さない場合もあるため、医師に相談の上で取り入れることをお勧めします。
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