足立慶友医療コラム

股関節の病気はどのような症状で発見されるか

2025.12.06

足の付け根やお尻、太ももに違和感を覚え、日常生活でふとした瞬間に痛みを感じることはありませんか。股関節は体重を支え、歩行や立ち座りといった基本的な動作を司る重要な関節です。

そのため、ひとたび不調が生じると生活の質に大きな影響を及ぼします。

しかし、初期段階では痛みが断続的であったり、休めば治まったりすることも多いため、つい受診を先送りにしてしまう方が少なくありません。

股関節の病気一覧を把握し、自身の症状と照らし合わせることは、早期発見と適切な治療への第一歩となります。

本記事では、痛む場所や年代、具体的な症状から考えられる股関節の病気を網羅的に解説し、皆様の不安を解消する手助けをします。

痛みの場所から疑われる股関節の病気一覧

股関節の病気は、必ずしも足の付け根だけが痛むわけではなく、お尻や太もも、時には膝に痛みが現れることがあり、痛む場所によって疑われる疾患がある程度絞り込めます。

股関節は体の深部にあるため、痛みを感じる場所が分散しやすい特徴を持っています。これを関連痛や放散痛と呼びます。

自身の痛みがどこから来ているのかを正確に把握することは、原因特定のために極めて重要です。

痛みの部位ごとに考えられる主要な疾患とその特徴を以下に整理しましたので、まずは全体像を把握してください。

主な痛みの部位と関連する疾患の整理

痛む主な部位疑われる主な疾患特徴的な症状の現れ方
足の付け根(鼠径部)変形性股関節症
大腿骨頭壊死症
股関節唇損傷
立ち上がりや歩き始めに鋭い痛みを感じる。
深屈曲(深く曲げる動作)で痛む。
お尻・殿部変形性股関節症
梨状筋症候群
腰椎疾患(参考)
長く歩くとお尻が重だるくなる。
座っているとお尻の奥が痛む。
膝・太もも変形性股関節症(関連痛)
単純性股関節炎(小児)
膝自体には異常がないのに痛む。
太ももの前面や内側に放散する痛みがある。

足の付け根(鼠径部)に痛みがある場合

鼠径部(そけいぶ)、いわゆるコマネチラインと呼ばれる足の付け根の前面は、股関節の病気において最も痛みが現れやすい場所です。

この部分に痛みを感じる場合、股関節そのものに何らかのトラブルが起きている可能性が高いと考えられます。

特に歩き始めや立ち上がり動作の瞬間にズキッとした痛みが走る場合は、変形性股関節症の初期段階である可能性が疑われます。

あぐらをかいたり、靴下を履く動作で鼠径部が痛む場合は、関節の可動域が制限されているサインです。大腿骨頭壊死症や関節唇損傷なども、この部位に痛みを引き起こす代表的な疾患です。

鼠径部の痛みは、股関節疾患の最も直接的なサインであると認識し、長引く場合は注意が必要です。

お尻や太ももの外側に痛みやだるさがある場合

股関節の不調は、お尻のえくぼのあたりや、太ももの外側に痛みとして現れることも頻繁にあります。

これは、股関節を支える筋肉(中殿筋など)に過度な負担がかかっている場合や、坐骨神経が圧迫されている場合に生じやすい症状です。

変形性股関節症が進行し、関節の動きが悪くなると、周囲の筋肉が硬くなり、結果としてお尻や太ももが痛むことがあります。

腰椎の病気(腰部脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニア)が原因で、お尻から足にかけて痛みやしびれが出ている場合もあり、股関節疾患との鑑別が必要です。

お尻の奥の方が痛む場合は、梨状筋症候群などの可能性も考えられます。股関節そのものの骨の異常だけでなく、周囲の筋肉や神経の状態も考慮に入れる必要があります。

膝の上が痛むが実は股関節が原因のケース

一見関係なさそうに見えますが、膝の痛みが実は股関節の病気によるものであるケースは珍しくありません。

これは「関連痛」と呼ばれ、股関節の神経支配領域と膝の神経支配領域が重なっているために脳が痛みの場所を誤認することで起こります。

特に閉鎖神経という神経が刺激されると、太ももの内側から膝にかけて痛みを感じることがあります。

膝の治療を続けていてもなかなか良くならない場合、実は股関節が悪かったという事例は多々あります。

特に変形性股関節症の初期には、股関節そのものの痛みよりも膝の違和感を先に訴える患者さんもいます。

膝に腫れや熱感がないにもかかわらず痛みが続く場合は、股関節のチェックを行うことが大切です。

年代別に発症しやすい股関節疾患の特徴

股関節の病気は、乳幼児から高齢者まであらゆる年代で発症する可能性がありますが、年齢層によって発症しやすい疾患の傾向は大きく異なります。

子供の頃の股関節異常が見過ごされたまま大人になり、その後遺症として二次的な障害が出ることもありますし、加齢による変性が主な原因となることもあります。

年齢という軸で股関節の病気一覧を見ることで、自身のライフステージ特有のリスクを理解しやすくなります。各年代で特に注意すべき傾向を表にまとめました。

各年代で注意すべき股関節の病気傾向

年代・時期発症しやすい主な病気注意すべきサイン・背景
乳幼児・小児発育性股関節形成不全
ペルテス病
足の開きが硬い、左右差がある。
歩行時に足を引きずる(跛行)。
思春期・青年期大腿骨頭すべり症
臼蓋形成不全
スポーツ後の股関節痛。
肥満傾向の男児や、女性の関節の浅さ。
中高年・高齢者変形性股関節症
大腿骨近位部骨折
立ち上がり時の痛み、可動域制限。
骨粗鬆症や転倒による骨折リスク。

乳幼児期から学童期に見られる股関節の異常

この時期の股関節疾患は、発育や成長に大きく関わるため早期発見が何よりも重要です。乳児期には発育性股関節形成不全(かつての先天性股関節脱臼)が代表的です。

おむつ替えの際に足の開きが悪い、太もものシワの数が左右で違う、といったサインで気づかれることが多いです。

学童期に入ると、ペルテス病や単純性股関節炎などが挙げられます。子供が「膝が痛い」と訴えたり、少し足を引きずって歩いていたりする場合は注意が必要です。

成長痛として片付けられがちですが、股関節の動きを確認し、痛みが続くようであれば専門医の診断を仰ぐことが大切です。

早期に対応することで、将来的な変形を予防できる可能性が高まります。

思春期から若年層に多い股関節トラブル

活動量が増える思春期には、スポーツ障害に関連した股関節痛が増加します。

しかし、それ以外にも大腿骨頭すべり症という、大腿骨の骨端線がずれてしまう病気がこの年代特有のものとして知られています。

特に肥満傾向の男児に多く見られ、股関節や膝の痛みを訴えます。

若年層の女性を中心に、臼蓋形成不全(寛骨臼形成不全)が発見されることも多いです。

これは股関節の屋根にあたる部分の被覆が浅い状態で、将来的に変形性股関節症へ移行するリスクが高い状態です。

若い頃から股関節に軽い違和感や疲れやすさを感じていた場合、この骨格的な特徴を持っている可能性があります。

中高年以降に増加する退行性変性疾患

40代、50代以降になると、長年の使用による関節軟骨の摩耗や、加齢に伴う組織の変性が原因となる病気が圧倒的に増えます。その代表格が変形性股関節症です。

特に日本人の場合、前述の臼蓋形成不全をベースに持っている方が多く、年齢とともに軟骨がすり減り、痛みが出現するケースが大半を占めます。

高齢になるほど、骨粗鬆症を背景とした大腿骨近位部骨折(大腿骨頸部骨折など)のリスクが急上昇します。転倒などの軽微な外傷で骨折し、寝たきりの原因となることもあります。

この年代では、「痛み」だけでなく「動きにくさ」や「筋力低下」も顕著なサインとなります。

変形性股関節症の進行度と自覚症状の変化

大人の股関節の病気の中で最も数が多い変形性股関節症は、ある日突然重症化するのではなく、時間をかけて徐々に進行していく病気です。

病期(ステージ)によって自覚症状は変化し、初期のサインを見逃さずに適切なケアを行うことで進行を緩やかにすることが可能です。

ここでは、病気の進行度に応じた症状の移り変わりを解説します。まずは全体的な進行の流れを表で確認しましょう。

病期ごとの症状レベルと生活への影響

進行度(ステージ)主な自覚症状日常生活での具体的な困りごと
前期・初期動き始めの痛み(スターティングペイン)。
休むと治まることが多い。
長時間歩行後のだるさ。
特定の動作での軽い違和感。
進行期歩行中の持続的な痛み。
関節が硬くなる(可動域制限)。
靴下履きや爪切りが困難。
階段の昇り降りが辛い。
末期安静にしていても痛む。
夜も痛みで目が覚める。
短い距離しか歩けない。
家事や仕事に重大な支障が出る。

初期段階における違和感と動作開始時痛

変形性股関節症の初期は、レントゲン上では関節の隙間がわずかに狭くなっている程度や、骨硬化が見られる程度の段階です。この時期の最大の特徴は「動作開始時痛」です。

朝起きて布団から出る時、椅子から立ち上がる時、車から降りる時など、動き始めの瞬間に股関節に痛みを感じます。

一度動き出してしばらく歩いていると痛みが消えてしまうことが多いため、「また痛くなくなったから大丈夫だろう」と放置されがちです。

一方で、長時間の歩行や運動後に、股関節周辺に重だるさや疲労感を強く感じることもあります。

この段階で体重管理や筋力トレーニングを開始することが、将来の関節温存にとって非常に重要です。

進行期に見られる可動域制限と持続的な痛み

軟骨の摩耗が進み、関節の隙間が明らかに狭くなってくると進行期に入ります。この段階になると、動き始めだけでなく、動いている最中にも痛みが続くようになります。

長い距離を歩くことが辛くなり、外出を控えるようになる方もいます。炎症が強くなると、夜間寝ている時にも痛む「夜間痛」が現れることもあります。

痛みに加えて「関節の動きの悪さ(可動域制限)」が顕著になります。

靴下が履きにくくなる、爪切りが難しくなる、和式トイレが使えなくなる、正座ができなくなるなど、日常生活の具体的な動作に支障が出始めます。

足を引きずって歩く(跛行)ようになり、周囲から歩き方の変化を指摘されるのもこの時期の特徴です。

末期症状としての安静時痛と生活への支障

関節軟骨がほとんど消失し、骨と骨が直接ぶつかり合う状態になると末期と呼ばれます。この段階では、動かしていなくても痛む「安静時痛」が出現することがあります。

じっとしていても痛い、痛くて眠れないなど、精神的にも大きなストレスとなります。股関節の動きは著しく制限され、日常生活の多くの場面で介助や道具が必要になります。

骨の変形が進むと、見かけ上の脚の長さが短くなる(脚長差が生じる)こともあり、立っている時の姿勢バランスが崩れます。

その結果、反対側の股関節や膝、腰にも二次的な痛みが広がることがあります。保存療法(薬やリハビリ)での除痛が困難な場合は、人工股関節置換術などの手術療法が検討される段階です。

急激な痛みや発熱を伴う緊急性の高い病気

股関節の病気の多くは慢性的に進行しますが、中には急激な発症を見せ、早急な医療処置を必要とするものがあります。

これらは命に関わることや、関節機能が短期間で破壊されるリスクがあるため、悠長に様子を見ている時間はありません。

激しい痛みや全身症状を伴う場合、以下のチェックポイントに当てはまる際は、一刻も早く専門医療機関を受診する必要があります。

緊急対応が必要な症状のチェックポイント

  • 転倒などの直後から歩けないほどの激痛があり、自力で動けない状態。
  • 股関節の痛みに加えて38度以上の発熱や悪寒があり、全身状態が悪い。
  • 安静にしていてもズキズキとした激しい痛みが治まらず、悪化している。
  • 患部が赤く腫れ上がり、熱を持っており、触れると痛む。
  • 足の向きが不自然に外側を向いており、自分で動かすことができない。

細菌が原因となる化膿性股関節炎

化膿性股関節炎は、黄色ブドウ球菌などの細菌が股関節内に侵入し、感染を起こす病気です。乳幼児や高齢者、糖尿病などで免疫力が低下している人に発症しやすい傾向があります。

関節軟骨は細菌に対して非常に脆弱で、治療が遅れるとわずか数日で軟骨が破壊されてしまうこともあります。

症状としては、股関節の激痛に加え、高熱、悪寒、食欲不振などの全身症状を伴うことが特徴です。患部は熱を持ち、腫れ上がり、少し動かそうとするだけでも激痛が走ります。

小児の場合は、機嫌が悪くなり、おむつ交換で足を動かすと激しく泣くといった様子が見られます。緊急の手術や抗生物質の投与が必要です。

高齢者に多い大腿骨近位部骨折

骨粗鬆症が進行している高齢者の場合、室内で軽く転んだ、あるいは尻餅をついたといった軽微な外力でも大腿骨の骨折を起こすことがあります。

骨折をすると、基本的には歩くことができなくなります。足の付け根に激痛が走り、骨折した側の足が外側を向いて短くなっているように見えるのが特徴的な所見です。

稀に、骨折が完全ではなくヒビが入った程度(不全骨折)の場合、痛みがありながらも歩けてしまうことがあります。しかし、無理に動くことで骨折部がずれて重症化するリスクがあります。

「転んだ後から股関節が痛い」という場合は、歩けるからといって安心せず、必ずレントゲンやMRIでの検査を受けることが大切です。

女性に多い特発性大腿骨頭壊死症と初期サイン

大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)は、大腿骨の頭(ボールの部分)への血流が何らかの原因で途絶え、骨組織が死んでしまう難病です。

骨が壊死しただけでは痛みはありませんが、壊死した部分が体重の負荷に耐えきれずに潰れた(圧潰した)瞬間に、急激な痛みが出現します。

特定のリスク要因を持つ人に発症しやすい傾向があります。

ステロイド使用やアルコール摂取との関連

この病気にはいくつかのタイプがありますが、日本で多いのは「特発性」と呼ばれる原因が完全には特定されていないものです。

しかし、強力なリスク因子として「ステロイド薬の大量使用」と「アルコールの多飲」が明らかになっています。

全身性エリテマトーデスなどの膠原病治療でステロイドを服用している方や、日常的に大量の飲酒をする習慣がある男性に多く見られます。

これといったリスク因子がないにもかかわらず発症するケースもあります。

特に中高年の女性に見られることがありますが、全体としてはやはりステロイド治療歴のある方や愛飲家に多い疾患です。

リスク因子に心当たりがある方は、股関節に違和感を感じた時点で早めの検査を受けることが推奨されます。以下の特徴的なサインを見逃さないようにしましょう。

特発性大腿骨頭壊死症を疑うべき特徴

  • ある日突然、日時を特定できるほどの急激な股関節痛が生じた。
  • 過去に膠原病などの治療でステロイド薬を大量に使用した経験がある。
  • 長期間にわたり、毎日多量のアルコールを摂取する習慣がある。
  • 安静にしていても痛みが続く時期があり、休んでも改善しない。
  • 初期のレントゲン検査では「異常なし」と言われたが痛みが続く。

突然の痛み発作と急速な進行リスク

変形性股関節症が徐々に痛くなるのに対し、大腿骨頭壊死症は「急に痛くなった日時を覚えている」ほど突然発症するのが特徴です。

骨が潰れた瞬間に鋭い痛みを感じるためです。初期にはレントゲンで異常が見つからないことも多く、MRI検査によってはじめて診断がつくことも珍しくありません。

一度発症して骨の圧潰が始まると、進行を止めることは難しい場合があります。

しかし、壊死の範囲が小さい場合や、体重がかからない位置の壊死であれば、手術をせずに経過観察で済むこともあります。

早期に発見し、骨が大きく潰れる前に松葉杖で免荷(体重をかけないこと)をするなどの対策をとることが、関節を温存するために重要です。

スポーツや運動が引き金となる股関節のトラブル

スポーツ愛好家やアスリートにおいて、股関節の痛みはパフォーマンスを低下させる大きな要因です。

オーバーユース(使いすぎ)による筋肉系のトラブルだけでなく、骨の形状の問題が運動によって顕在化するケースがあります。

ここでは、運動に関連して発見されることが多い股関節の病気である、股関節インピンジメント症候群(FAI)と股関節唇損傷について解説します。

まずはスポーツ動作と症状の関連を見てみましょう。

スポーツ動作と関連する症状のパターン

動作・シチュエーション疑われる病態具体的な症状のサイン
深くしゃがむ、足を内側に捻る股関節インピンジメント(FAI)鼠径部の奥が詰まったような痛み。
可動域の限界で骨が当たる感覚。
キック動作、方向転換股関節唇損傷股関節の中でクリック音が鳴る。
特定の角度で鋭い痛みが走る。
ランニング、ジャンプ疲労骨折、滑液包炎着地時の衝撃で痛む。
運動後に痛みが強くなる。

股関節インピンジメント症候群(FAI)のメカニズム

股関節インピンジメント症候群(FAI)は、大腿骨と骨盤の骨の一部が、特定の動作の際に衝突(インピンジメント)してしまう状態を指します。

骨の形状に生まれつきの特徴がある場合や、発育期の激しいスポーツ活動によって骨が隆起してしまった場合に起こりやすくなります。

この衝突が繰り返されることで、軟骨や関節唇が傷つきます。

深くしゃがみ込んだり、足を内側に捻ったりする動作で痛みが出やすいのが特徴です。

サッカー、野球のキャッチャー、バレエ、ヨガなど、股関節を深く曲げる動作が多いスポーツをしている人で多く発見されます。

単なる筋肉痛だと思ってストレッチを過度に行うと、かえって衝突を助長し症状を悪化させることもあるため注意が必要です。

股関節唇損傷による引っかかり感

関節唇(かんせつしん)は、股関節の受け皿の縁を取り巻いているゴムパッキンのような軟骨組織で、関節の安定性を高める役割をしています。

上記のインピンジメントや、瞬間的な外傷、あるいは加齢による変性で、この関節唇に亀裂が入ったり断裂したりするのが股関節唇損傷です。

特徴的な症状として、股関節を動かした際の「痛み」だけでなく、何かが挟まったような「引っかかり感」や、ゴリッという「クリック音」が挙げられます。

鋭い痛みが瞬間的に走ることもあれば、鈍い痛みが続くこともあります。

放置すると軟骨の摩耗を早め、若くして変形性股関節症へ移行する原因となるため、スポーツ復帰を目指す場合は専門的な治療計画が必要です。

子供の歩き方や姿勢で気づく股関節の異常

子供は痛みを正確に言葉で表現できないことが多いため、親や周囲の大人が歩き方や姿勢の異変に気づいてあげることが発見のきっかけとなります。

小児期の股関節疾患は、成長に伴って自然治癒するものもあれば、放置すると永続的な障害を残すものもあります。

子供特有のサインを見逃さないためのポイントを表に整理しました。

子供の股関節異常に気づくための観察ポイント

観察すべきポイント考えられる状態推奨される対応
風邪の後に足を引きずる単純性股関節炎の疑い数日間の安静観察。痛みが続くなら受診。
膝が痛いと言うが膝に異常なしペルテス病
大腿骨頭すべり症
股関節が原因の可能性大。
早急に整形外科で股関節を確認。
足の長さが違う、跛行がある発育性股関節形成不全(見逃し)専門医によるレントゲン検査が必要。

単純性股関節炎とペルテス病の見分け方

子供が急に「足が痛い」と言い出し、足を引きずって歩くようになった場合、最も頻度が高いのは単純性股関節炎です。

これは風邪をひいた後などに一時的に股関節に炎症が起きるもので、通常は安静にしていれば1週間から10日程度で自然に治癒します。痛みの割には元気であることが多いです。

一方、より深刻なのがペルテス病です。大腿骨頭への血流が悪くなり骨が壊死する病気で、5歳から10歳くらいの活発な男児に多く見られます。

単純性股関節炎と症状が似ていますが、痛みが長期間続く、あるいは繰り返す場合はペルテス病を疑う必要があります。MRI検査を行えば早期に鑑別が可能です。

ペルテス病は治療に数年単位の時間を要することもあるため、安易な自己判断は禁物です。

大腿骨頭すべり症と思春期の肥満

小学校高学年から中学生にかけて、特に肥満傾向のある子供が股関節や膝の痛みを訴えた場合、大腿骨頭すべり症が疑われます。

成長期の骨の端(骨端線)が弱くなっており、体重の負荷に耐えきれずに骨頭がずれてしまう病気です。痛みのために足先が外側を向いてしまい、内側に捻ることが困難になります。

この病気は、慢性的に少しずつずれるタイプと、転倒などをきっかけに急激にずれるタイプがあります。急激にずれた場合は激痛を伴い、歩行不能となります。

手術が必要になるケースが多いため、太り気味のお子さんが股関節の不調を訴えた際は、整形外科での精密検査を優先してください。

Q&A

最後に、股関節の病気や症状に関して、患者さんから寄せられることの多い疑問についてお答えします。

股関節の悩みは日常生活に直結するため、多くの方が不安を抱えています。ここでは代表的な質問を取り上げ、一般的な知識として回答します。

股関節の痛みは温めるべきですか、冷やすべきですか?

痛みの性質や時期によって対処法が異なります。

急激に痛くなり、患部が熱を持っているような急性期(炎症が強い時期)は、冷湿布や氷嚢などで冷やすことで炎症を抑え、痛みを緩和できる場合があります。

一方で、変形性股関節症などの慢性的な痛みや、筋肉の緊張からくる痛み、お風呂上がりだと調子が良いといった場合は、温めることで血流を改善し、筋肉をほぐすことが有効です。

ご自身の状態が「炎症」なのか「慢性的な凝り・血行不良」なのかを見極めることが大切です。

変形性股関節症と診断されましたが、すぐに手術が必要ですか?

診断されたからといって、すぐに手術が必要とは限りません。変形性股関節症の治療は、まずは保存療法から始めるのが基本です。

体重のコントロール、股関節周りの筋力トレーニング、杖の使用による負担軽減、痛み止めの内服などを組み合わせることで、痛みをコントロールしながら日常生活を送ることは十分に可能です。

手術を検討するのは、保存療法を行っても痛みが強く生活に大きな支障がある場合や、骨の変形が進行し続けている場合などです。

主治医とライフスタイルを相談しながら決定していくことが重要です。

股関節に良い運動やストレッチはありますか?

股関節への負担を減らすためには、関節を支える筋肉(特に中殿筋や大腿四頭筋)を鍛えることが有効です。

例えば、横向きに寝て上の足をゆっくり持ち上げる運動や、プールでの水中ウォーキングは、関節への負荷を抑えながら筋力をつけるのに適しています。

ただし、痛みが強い時に無理に動かすと逆効果になることがあります。また、痛みを伴う過度なストレッチは関節唇などを傷めるリスクもあります。

「痛気持ちいい」範囲にとどめ、専門の理学療法士などの指導を受けることをお勧めします。

急に股関節が痛くなりましたが、何科を受診すればよいですか?

股関節の痛みは、骨や軟骨、筋肉の異常が原因であることが多いため、まずは「整形外科」を受診してください。特に「股関節専門医」がいる医療機関であれば、より詳細な診断が可能です。

ただし、鼠径部の腫れや出っ張りがある場合は「鼠径ヘルニア(脱腸)」の可能性があり、その場合は消化器外科や外科が専門となります。

婦人科疾患との鑑別が必要なこともありますが、まずは整形外科で骨や関節に異常がないかを確認するのがスムーズです。

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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