股関節の上部に痛みが出る原因|診断と治療
股関節の周辺、特に上部に痛みを感じる場合、それは単なる疲れではなく、骨や関節、あるいは神経に関わる疾患のサインである可能性があります。
日常生活において「立ち上がるときに痛む」「歩くと違和感がある」といった症状は、放置すると慢性化し、歩行そのものが困難になるリスクを孕んでいます。
この痛みは、股関節そのものの変形や炎症だけでなく、腰椎のトラブルや筋肉の緊張、さらには内臓疾患が関連しているケースも少なくありません。
本記事では、股関節の上が痛いと感じる方に向けて、その多様な原因を解き明かし、医療機関での診断方法や具体的な治療の選択肢について、詳しく丁寧に解説します。
正しい知識を持つことが、痛みのない快適な生活を取り戻すための第一歩となります。
目次
股関節の上部とはどこを指すのか具体的な場所と構造
股関節の上部に痛みがある場合、その原因は骨盤の縁、関節唇、仙腸関節など多岐にわたり、正確な部位の特定が治療の第一歩です。
医学的に「股関節の上」と呼ばれるエリアは、腸骨稜や大転子の上部を含む広い範囲を指します。
股関節は骨盤と大腿骨をつなぐ人体で最大級の関節であり、その周囲には多くの筋肉や神経が複雑に入り組んでいます。主要な部位とその特徴を以下に整理しました。
股関節上部を構成する主要な部位と特徴
| 部位名称 | 主な役割と特徴 | 痛みの感じ方 |
|---|---|---|
| 腸骨稜(ちょうこつりょう) | 腹筋や背筋が付着する骨盤の縁 | 押すと痛い、体を捻ると痛む |
| 関節唇(かんせつしん) | 関節の安定性を保つ軟骨組織 | 深く曲げると痛い、引っかかり感がある |
| 仙腸関節(せんちょうかんせつ) | 衝撃吸収を担う骨盤後方の関節 | 座っていると痛む、仰向けが辛い |
| 中殿筋(ちゅうでんきん) | 骨盤を安定させ歩行を支える筋肉 | 歩行時に外側や上部が痛む |
| 大転子(だいてんし) | 太ももの外側の骨の出っ張り | 横向きで寝ると痛い、触れると痛い |
これらの構造を理解した上で、具体的な各部位の詳細を見ていきましょう。
骨盤の縁にあたる腸骨稜周辺の構造
腰骨の出っ張りとして触れることができる腸骨稜は、多くの腹筋群や背筋群が付着する重要なポイントです。
この部分は体幹を支える土台としての役割を担っており、上半身の重さを下半身へと伝える中継地点として機能します。
ここに痛みが出る場合、関節内部の問題というよりは、筋肉の付着部炎や末梢神経の絞扼が疑われます。
特に、ベルトが当たる位置や、横向きに寝た際に圧迫される部位などは、物理的な刺激を受けやすく、慢性的な痛みの発生源となりやすい傾向があります。
大腿骨頭とかぶりを形成する臼蓋の役割
股関節の「屋根」にあたる部分を臼蓋と呼び、ここが大腿骨頭を包み込むことで関節の安定性を保っています。
股関節の上部が痛いと感じる際、この臼蓋の縁にある関節唇という軟骨組織が損傷しているケースがあります。
関節唇はゴムパッキンのような役割を果たしており、股関節の密閉性を高め、スムーズな動きをサポートしています。
この部分に負荷が集中すると、鼠径部から股関節の外側、上部にかけて鋭い痛みが走ることがあります。
仙骨と腸骨をつなぐ仙腸関節の機能
お尻の割れ目の少し上、腰の中央寄りに位置する仙腸関節は、上半身と下半身をつなぐ免震装置のような働きをしています。
わずかな可動域しかありませんが、この関節の動きが悪くなったり、逆に緩みすぎたりすると、臀部の上部から股関節周辺にかけて放散痛が生じます。
仙腸関節由来の痛みは、しばしば一般的な腰痛や股関節痛と混同されやすく、鑑別には詳細な身体所見の確認が必要です。
骨や軟骨の異常が引き起こす股関節痛の主要な原因
骨や軟骨の変性・損傷は、股関節上部痛の直接的な原因となり、進行すると可動域制限や歩行障害を招きます。
加齢による変化や先天的な骨の形状、外傷などによって関節の噛み合わせが悪くなると、炎症が生じ、持続的な痛みへとつながります。
初期段階では違和感程度であっても、放置すれば安静時にも痛むようになり、生活に大きな支障をきたします。
早期の発見と適切な管理が必要となる代表的な疾患とその特徴は以下の通りです。
骨・軟骨由来の疾患とその特徴的な症状
| 疾患名 | 好発年齢・性別 | 特徴的な症状 |
|---|---|---|
| 変形性股関節症 | 中高年女性に多い | 動き始めの痛み、可動域制限 |
| 大腿骨寛骨臼インピンジメント | 若年〜中年層、スポーツ愛好家 | 深く曲げた時の痛み、つまり感 |
| 大腿骨頭壊死症 | 30〜50代、ステロイド使用歴等 | 急な発症、安静時や夜間の痛み |
| 関節唇損傷 | 20〜40代、ダンサーや競技者 | クリック音、引っかかり感、鋭い痛み |
| 骨盤の脆弱性骨折 | 高齢者、骨粗鬆症患者 | 荷重時の激痛、寝返り時の痛み |
表に示した疾患について、それぞれの病態を詳しく解説します。
進行性の変形性股関節症による痛み
長年の使用による摩耗や、生まれつきの骨盤形成不全などが原因で、関節軟骨がすり減る病気です。軟骨が消失すると骨同士が直接ぶつかり合い、骨棘という棘状の変形が生じます。
これが周囲の組織を刺激し、股関節の深部や上部に強い痛みを引き起こします。
初期には立ち上がりや歩き始めに痛む「始動時痛」が特徴ですが、進行すると靴下の着脱や爪切りなどの動作も困難になります。
日本人女性に多く見られる疾患であり、遺伝的素因も関与していると考えられています。
大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)の影響
大腿骨と骨盤の形が構造的にぶつかりやすい形状をしているために起こる障害です。
股関節を深く曲げたり捻ったりした際に、大腿骨のネック部分と臼蓋の縁が衝突(インピンジメント)し、その繰り返しによって関節唇や軟骨が傷つきます。
スポーツ活動が盛んな若年層から中年層に多く見られ、あぐらをかいたり、車から降りたりする動作で股関節の上部や前面に激痛が走ることがあります。
放置すると将来的に変形性股関節症へ移行するリスクがあります。
骨粗鬆症に伴う脆弱性骨折の可能性
高齢者の場合、転倒などの明らかな外傷がなくても、骨密度の低下によって骨盤や大腿骨に微細な骨折が生じることがあります。これを脆弱性骨折と呼びます。
特に仙骨や恥骨、大腿骨頚部の不全骨折は、レントゲンでは発見しにくい場合があり、MRI検査で初めて判明することも珍しくありません。
急に股関節の上部や鼠径部、殿部に痛みが出現し、体重をかけると痛みが強くなる場合は、この微細な骨折を疑う必要があります。
筋肉や腱の炎症に由来する痛みと負担のかかり方
レントゲンで骨に異常がない場合、中殿筋や腸腰筋などの筋肉・腱の炎症が痛みの主因であるケースが大半を占めます。
股関節を動かす筋肉は非常に強力であり、過度な使用や運動不足による柔軟性の低下、姿勢の悪さなどが蓄積すると、筋肉の付着部や滑液包に炎症を引き起こします。
筋肉由来の痛みは、適切な休養やストレッチ、リハビリテーションによって改善する可能性が高いものの、無理を続けると難治性の疼痛症候群へと発展することもあります。
まずは以下のチェックリストで、ご自身の症状と筋肉由来のトラブルの可能性を照らし合わせてみてください。
筋肉や腱のトラブルに関するチェックリスト
- 長時間歩いた後、お尻の外側や上部が重だるく痛む
- 患部を下にして横向きで寝ると、痛みが強くなり目が覚める
- 椅子から立ち上がる瞬間、股関節の前や外側に鋭い痛みが走る
- 片足立ちをすると、ふらついたり支えている側の股関節が痛む
- 階段を上るときに、太ももの付け根や外側が痛む
- ストレッチをすると、筋肉が突っ張るような痛みがあるが、その後少し楽になる
- 特定の動作を繰り返すと、同じ場所に熱感や腫れを感じる
これらの症状に当てはまる場合、以下のような筋肉の障害が疑われます。
中殿筋障害による側面の痛み
骨盤の外側に位置する中殿筋は、片足立ちをする際や歩行時に骨盤を水平に保つために働きます。
長時間の歩行やランニング、あるいは筋力低下によりこの筋肉に過度な負担がかかると、筋肉自体や骨への付着部が損傷します。
これを中殿筋腱炎や中殿筋損傷と呼びます。痛みは股関節の上部外側に現れ、患部を下にして寝ることができないほどの夜間痛を伴うこともあります。
歩行時に体が左右に揺れるような跛行が見られる場合、この筋肉の機能不全が疑われます。
滑液包炎による摩擦と炎症
筋肉や腱と骨の間には、摩擦を軽減するためのクッションである滑液包が存在します。
大転子滑液包炎は、太ももの外側の出っ張り部分で頻発し、股関節の外側から上部にかけて痛みを生じさせます。
ランナーや自転車競技者など、股関節の曲げ伸ばしを繰り返す人に多く見られますが、加齢により腱が硬くなった高齢者にも発症します。
階段の昇り降りや、椅子から立ち上がる際に痛みが強くなるのが特徴です。
腸腰筋の拘縮と関連痛
腰椎から大腿骨の内側にかけて走行する腸腰筋は、股関節を屈曲させる主要な筋肉です。デスクワークなどで長時間座りっぱなしの姿勢が続くと、この筋肉が短縮し、硬くなります。
その状態で急に立ち上がったり動いたりすると、股関節の前面から深部、あるいは上部にかけて痛みが出ます。
腸腰筋のトリガーポイント(発痛点)からの関連痛として、腰や股関節上部に痛みを感じることもあり、腰痛と股関節痛の合併を引き起こす主要な要因の一つです。
腰椎や神経の問題が股関節に痛みを飛ばすケース
股関節上部の痛みは、患部そのものではなく、腰椎ヘルニアや脊柱管狭窄症などによる神経圧迫が原因で生じる関連痛である場合があります。
人間の神経ネットワークは複雑であり、痛みの信号が脳に伝わる過程で、原因箇所とは異なる部位に痛みを感じさせることがあります。
整形外科領域では、股関節の痛みを訴える患者さんに対して、必ず腰椎のチェックを行うほど、両者の関係は密接です。神経由来の痛みには特有のパターンがあります。
神経由来の痛みと股関節症状の関連
| 病態 | 主な痛みのパターン | 痛みが悪化する動作 |
|---|---|---|
| 腰椎椎間板ヘルニア | 鋭い痛み、しびれ、感覚鈍麻 | 前かがみ、重いものを持つ、咳・くしゃみ |
| 腰部脊柱管狭窄症 | 両側または片側のしびれ、脱力感 | 背筋を伸ばして歩く、長時間立つ |
| 上殿皮神経障害 | 骨盤の縁周辺の刺すような痛み | 腰を捻る、反らす、患部を押す |
| 梨状筋症候群 | お尻の深部から太もも裏の痛み | 長時間の座位、股関節の内旋 |
| 仙腸関節障害 | お尻から股関節、鼠径部への関連痛 | 仰向け寝、寝返り、片足荷重 |
このような症状が見られる場合、以下のような疾患が潜んでいる可能性があります。
腰椎椎間板ヘルニアによる神経根圧迫
腰の骨の間にある椎間板が飛び出し、神経を圧迫する疾患です。
特に腰椎の上位(L1〜L3など)でヘルニアが起こると、坐骨神経痛のような下肢裏側の痛みではなく、股関節の前面や上部、太ももの前側に痛みが放散します。
これを大腿神経痛と呼ぶこともあります。
腰を前屈したり、咳やくしゃみをしたりすると股関節周辺に響くような痛みが走る場合、腰椎由来の可能性が高まります。
腰部脊柱管狭窄症と間欠性跛行
加齢に伴い、神経の通り道である脊柱管が狭くなり、中の神経が締め付けられる病態です。
歩行を続けると股関節周辺や下肢全体にしびれや痛みが出現し、前かがみになって休むと症状が和らぐ「間欠性跛行」が特徴的です。
股関節の可動域は保たれているのに、歩くとすぐに股関節周りが痛くなる、足が前に出にくくなるといった症状は、狭窄症による神経症状であるケースが多く見られます。
上殿皮神経障害による臀部痛
近年注目されている病態で、腰からお尻にかけて走る細い感覚神経が、筋肉の膜などを貫通する部分で締め付けられて痛みを起こします。
腸骨稜(骨盤の縁)付近に激しい痛みが生じ、そこからお尻全体や股関節上部へと痛みが広がります。
腰を捻ったり反らしたりすると痛みが誘発されやすく、指で押すと強い痛みを感じる圧痛点が存在します。ブロック注射などで劇的に改善することも多いため、正確な診断が重要です。
内臓疾患やその他の要因による警告サイン
安静時痛や発熱を伴う股関節上部の痛みは、鼠径ヘルニアや婦人科疾患、内臓病変のサインである可能性があり、整形外科以外の視点も不可欠です。
これらの原因は見過ごされやすく、発見が遅れると重篤な状態に陥るリスクもあります。単なる関節痛と片付けず、内科的あるいは外科的な視点での精査が必要です。
特に、以下のような兆候がある場合は、速やかに専門医の診察を受けてください。
整形外科疾患以外を疑うべきサインのリスト
- どのような姿勢をとっても痛みが変化せず、楽になる姿勢がない
- 痛みとともに37.5度以上の発熱が続いている
- 食欲がない、意図せず体重が減少している
- 腹部にしこりや拍動(ドクドクする感じ)を触れる
- 月経のサイクルと痛みの強さが連動している
- 排尿時や排便時に股関節の奥やお腹に痛みを感じる
- 鼠径部(足の付け根)に膨らみがあり、押すと戻る、または戻らない
- 皮膚に発疹や変色が見られる(帯状疱疹などの可能性)
これらのサインを踏まえ、具体的に注意すべき疾患には次のようなものがあります。
鼠径ヘルニア(脱腸)の初期症状
腸などの臓器が筋膜の隙間から皮膚の下にはみ出してくる病気です。初期には立った時やお腹に力を入れた時に、股関節の内側上部や鼠径部に膨らみと鈍い痛みを感じます。
進行すると痛みが強くなり、はみ出した腸が戻らなくなる「嵌頓(かんとん)」を起こすと緊急手術が必要になります。
股関節の動きに関係なく、腹圧をかけた時に違和感や痛みが増すのが特徴です。
婦人科系疾患からの関連痛
女性の場合、子宮内膜症や子宮筋腫、卵巣嚢腫などの疾患が、骨盤内の神経を刺激し、股関節周辺に痛みを及ぼすことがあります。
特に月経周期に合わせて股関節の痛みが強くなる、月経痛がひどいといった症状がある場合は、婦人科の受診を検討する必要があります。
また、妊娠中のホルモンバランスの変化による骨盤の緩みも、股関節上部の痛みの原因となります。
その他の感染症や腫瘍の影響
稀ではありますが、化膿性股関節炎や骨盤内の腫瘍が痛みの原因となることもあります。
細菌感染による関節炎は、激しい痛みとともに高熱を伴い、急速に関節が破壊されるため緊急の治療が必要です。
また、悪性腫瘍の骨転移などが骨盤や大腿骨に生じた場合も、安静時に強まる持続的な痛みが現れます。
夜も眠れないほどの痛みや、原因不明の体重減少がある場合は早急な検査が必要です。
痛みの原因を特定するための診断フロー
痛みの原因特定には、問診、理学所見、そしてMRIや超音波を含む画像診断を組み合わせた多角的な評価が必要です。
自己判断で湿布を貼って様子を見るだけでなく、専門医による客観的な評価を受けることが、早期回復への近道となります。
現代医学では、骨だけでなく筋肉や神経の状態まで詳細に可視化することが可能です。各検査方法で何が分かるのかを理解しておきましょう。
主な検査方法とそれで分かること
| 検査方法 | 主な目的と分かること | メリット |
|---|---|---|
| 単純X線(レントゲン) | 骨の形状、関節裂隙、骨折の有無 | 簡便で全体像を把握しやすい |
| MRI(磁気共鳴画像) | 軟骨、靭帯、筋肉、神経、炎症 | 早期病変や軟部組織の描出に優れる |
| CT(コンピュータ断層撮影) | 骨の3次元構造、微細な骨折 | 骨の形を詳細に確認できる |
| 超音波(エコー) | 筋肉・腱の動き、炎症、水腫 | 動的評価が可能、被爆がない |
| 関節造影・ブロック | 痛みの発生源の特定 | 診断と同時に一時的な除痛が可能 |
ここからは、それぞれの検査の重要性について詳述します。
問診と理学所見の重要性
医師はまず、いつから痛いか、どのような動作で痛むか、既往歴はあるかなどを詳細に聞き取ります。
その後、パトリックテスト(股関節を開くテスト)やFADIRテスト(股関節を曲げて内側に倒すテスト)などの徒手検査を行い、痛みが誘発されるかをチェックします。
この検査を通して、関節内病変か、関節外の筋肉の問題か、あるいは腰由来のものかをおおよそ推測することができます。
可動域の計測や歩き方の観察も重要な診断材料となります。
画像診断による客観的評価
レントゲン撮影は基本となる検査で、骨の形、関節の隙間の広さ、骨棘の有無などを確認します。しかし、初期の変形性股関節症や軟骨、筋肉、神経の異常はレントゲンには写りません。
そこで、MRI検査を行い、関節唇の損傷や骨髄の浮腫、筋肉の炎症、神経の圧迫などを詳細に評価します。また、骨の3次元的な形状を把握するためにCT検査を行うこともあります。
必要に応じて、関節内に局所麻酔剤を注入し、痛みが消えるかどうかを確認するブロック注射も診断的治療として行われます。
超音波検査(エコー)の活用
近年、整形外科領域で急速に普及しているのが超音波検査です。レントゲンでは見えない筋肉や腱、靭帯の動きをリアルタイムで観察できる利点があります。
診察室ですぐに行うことができ、炎症が起きている部位の血流増加(ドプラ法)を確認したり、動かしながら痛みの原因部位を特定したりするのに役立ちます。
また、エコーガイド下で正確に筋膜や関節内に注射を行う際にも使用されます。
保存療法から手術まで症状に応じた治療戦略
治療は、薬物やリハビリによる保存療法を基本とし、重症度や生活背景に応じて手術療法を選択する段階的なアプローチがとられます。
痛みをコントロールしながら、関節の機能を維持・改善することを目指します。しかし、保存療法で効果が得られない場合や、骨の変形が著しく進行している場合は、手術療法が検討されます。
治療のゴールは「痛みのない生活」を取り戻すことであり、現在行われている主な治療法と期待される効果は以下の通りです。
主な治療法と期待される効果
| 治療区分 | 具体的な方法 | 期待される効果 |
|---|---|---|
| 薬物療法 | 内服薬、湿布、軟膏 | 炎症と痛みの緩和 |
| 物理療法 | 温熱、電気刺激、超音波 | 血流改善、筋肉の緊張緩和 |
| 運動療法 | 筋力強化、ストレッチ、可動域訓練 | 関節安定化、機能改善、再発予防 |
| 注射療法 | ヒアルロン酸、ステロイド、ハイドロリリース | 即効性のある除痛、滑走性改善 |
| 手術療法 | 骨切り術、関節鏡手術、人工関節置換術 | 根本的な構造改善、痛みの劇的解消 |
具体的な治療選択肢について、詳しく解説します。
薬物療法と注射による炎症コントロール
痛みが強い時期には、消炎鎮痛剤(NSAIDs)の内服や湿布などの外用薬を使用し、炎症を鎮めます。神経由来の痛みが疑われる場合は、神経障害性疼痛治療薬が処方されることもあります。
また、痛みの部位が特定できれば、ヒアルロン酸やステロイド、局所麻酔剤を関節内や滑液包に直接注入する注射療法が行われます。
この処置によって、痛みの悪循環を断ち切り、リハビリテーションを行いやすい環境を整えます。
リハビリテーションと運動療法
股関節痛治療の要となるのが運動療法です。
理学療法士の指導のもと、硬くなった筋肉をほぐすストレッチや、関節を支える筋力(特に中殿筋や大殿筋、腸腰筋)を強化するトレーニングを行います。
また、股関節に負担のかからない歩き方や、立ち上がり方の動作指導も行われます。水中ウォーキングなどは浮力を利用して負荷を減らしつつ運動できるため有効です。
継続的なリハビリは、変形の進行を遅らせ、痛みの再発を防ぐために極めて重要です。
手術療法の適応と種類
保存療法を十分に行っても痛みが改善せず、日常生活に支障をきたす場合は手術を検討します。
関節温存手術としては、自分の骨を生かして骨盤の形を整える「骨切り術」や、内視鏡を使って傷んだ関節唇などを修復する「股関節鏡視下手術」があります。
一方、変形が高度で関節が破壊されている場合は、人工関節に置き換える「人工股関節全置換術(THA)」が行われます。
近年では、筋肉を切らずに行う低侵襲手術(MIS)が普及しており、術後の回復が早く、早期の社会復帰が可能になっています。
Q&A
Q.温めるのと冷やすの、どちらが良いでしょうか?
急な痛みや腫れ、熱感がある急性期(痛めてから2〜3日)は、炎症を抑えるために冷やすことが推奨されます。
一方、慢性的な痛みや筋肉の強張りがある場合は、温めて血流を良くすることで症状が緩和する傾向にあります。入浴後に楽になるようであれば、温めることが適しています。
Q.どの程度の痛みなら病院へ行くべきですか?
A.安静にしていても痛む、痛みが日に日に増す、歩行に支障がある、発熱を伴うといった場合は、速やかに医療機関を受診してください。
また、軽い痛みでも2週間以上続く場合は、慢性化を防ぐためにも一度専門医の診断を受けることをお勧めします。
Q.運動は続けても大丈夫でしょうか?
A.痛みが強い時は安静が必要ですが、過度な安静は筋力を低下させ、かえって症状を悪化させることがあります。
医師や理学療法士の指導のもと、痛みの出ない範囲での軽い運動やストレッチは継続することが望ましいです。痛みが強くなる動作は避けてください。
Q.整骨院と整形外科、どちらに行けば良いですか?
A.まずは正確な診断をつけることが先決ですので、レントゲンやMRIなどの画像検査ができる整形外科を受診してください。
医師の診断を受けた上で、治療の一環としてリハビリテーションや施術を受ける場所を選択するのが安全です。
Q.寝る時の姿勢で気をつけることはありますか?
A.痛む側を上にして横向きになり、両足の間にクッションや抱き枕を挟むと、股関節への負担が軽減されます。
仰向けで寝る場合は、膝の下にクッションを入れて軽く膝を曲げると、腰や股関節の緊張が和らぎ、楽になることが多いです。
以上
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