足立慶友医療コラム

股関節形成不全の早期発見から治療までの道のり

2025.12.08

股関節に違和感を覚えたり、将来的な変形性股関節症への不安を抱えたりしている方にとって、正しい知識を持つことは自分自身の体を守るための最大の武器となります。

股関節形成不全は、生まれつき、あるいは発育過程で股関節の屋根となる部分が十分に形成されない状態を指しますが、診断されたからといって直ちに手術が必要になるわけではありません。

重要なのは、自身の股関節の状態を正しく把握し、適切な時期に適切な対策を講じることです。

本記事では、股関節形成不全の基礎知識から、早期発見のポイント、保存療法、そして手術療法に至るまでの一連の流れを詳細に解説し、読者の皆様が前向きに治療と向き合えるようサポートします。

長い道のりですが、医師や専門家と共に歩むことで、痛みのない生活を取り戻すことは十分に可能です。

股関節形成不全とはどのような病態かを知る

股関節形成不全とは、骨盤にある寛骨臼(かんこつきゅう)という受け皿が浅く、大腿骨頭(だいたいこっとう)を十分に覆えていない状態です。

その結果、股関節にかかる負荷が局所に集中しやすくなり、関節の損傷を早める原因となります。

股関節は、球状の大腿骨頭が骨盤のくぼみである寛骨臼にはまり込む構造をしています。

正常な股関節であれば、寛骨臼が大腿骨頭の約8割を包み込んでおり、体重を分散して支えることができます。

一方、股関節形成不全の場合はこの被覆が浅いため、接触面積が小さくなります。物理学的に見ても、同じ力が加わった場合、接触面積が小さいほど単位面積当たりの圧力は増大します。

この過剰な圧力が長期間続くことで、骨の表面を覆っている関節軟骨が摩耗し、最終的には変形性股関節症へと進行するリスクが高まります。

主な特徴とリスクの比較

項目正常な股関節股関節形成不全
寛骨臼の被覆大腿骨頭を約80%以上覆っている被覆が不十分で浅い
体重負荷の分散広い面積で均等に分散される狭い範囲に集中し圧力が高い
将来的なリスク加齢による変化は緩やか変形性股関節症への進行リスクが高い

多くの場合、乳児期の発育性股関節形成不全(かつての先天性股関節脱臼)が基礎にあることが多いですが、成長期に特に症状がなく経過し、成人してから初めて診断されるケースも少なくありません。

特に女性に多く見られる疾患であり、ホルモンバランスや骨盤の形状差が影響していると考えられています。

初期の段階では痛みを感じないこともありますが、年齢を重ねて活動量が増えたり、体重が増加したりすることで、股関節への負担が限界を超え、痛みとして現れ始めます。

この病態を理解する上で大切なのは、骨の形そのものだけでなく、関節唇(かんせつしん)という軟部組織の存在です。

寛骨臼の縁には関節唇が付着しており、浅い骨の代わりとなって骨頭を安定させる役割を果たしています。

形成不全があると、この関節唇に過度な負担がかかり、関節唇損傷を引き起こすことが痛みの最初の原因となる場合が多いです。

股関節の構造と負担のメカニズム

正常な股関節と形成不全の股関節では、日常動作における負担のかかり方が全く異なります。歩行時、股関節には体重の約3倍から4倍の力がかかると言われています。

階段の昇降や走る動作では、その負荷はさらに増大します。形成不全の方の場合、この強大な力を支える面積が狭いため、軟骨へのストレスは健常者の数倍に達することもあります。

軟骨には血管や神経が通っていないため、初期の摩耗段階では痛みを感じません。これが早期発見を遅らせる一因となります。

痛みを自覚した時には、すでにある程度軟骨がすり減っているか、あるいは関節唇が損傷して炎症を起こしている可能性が高いです。

したがって、股関節の構造的な弱点を知識として持っておくことは、日常生活での動作に注意を払うきっかけとなり、関節の寿命を延ばすことにつながります。

日常生活に潜む初期症状を見逃さない

股関節形成不全の初期症状は、脚の付け根の痛みだけでなく、お尻や膝の痛み、あるいは単なる疲労感として現れることが多く、これらを見逃さずに自身の体の変化に気づくことが重要です。

多くの人が「股関節の痛み」と聞くと、太ももの付け根(鼠径部)の激痛を想像しますが、実際にはもっと曖昧な不調から始まります。

例えば、長時間歩いた後になんとなく脚全体が重だるい、椅子から立ち上がる瞬間に違和感がある、といった症状です。

さらに、股関節の痛みをかばうために無意識に歩き方が変わり、腰痛や膝痛として症状が現れることも珍しくありません。

これを「関連痛」と呼び、股関節そのものの異常が見過ごされる原因となります。

セルフチェックで確認できるポイント

  • 長時間歩行した後や運動後に、脚の付け根やお尻に重だるさを感じる。
  • 椅子から立ち上がる際や、動き出しの瞬間に股関節付近に痛みや違和感がある。
  • 足の爪を切る姿勢や、靴下を履く動作が以前より窮屈に感じるようになった。
  • 仰向けに寝て膝を抱えたとき、膝が真っ直ぐ胸の方へ近づかず、外側に逃げてしまう。
  • 歩いているときに、人から「体が左右に揺れている」と指摘されたことがある。
  • あぐらをかいたとき、左右の膝の高さに明らかな違いがある。

特に注意が必要なのは「始動時痛」と呼ばれる症状です。

朝起きて動き出す時や、長く座っていて立ち上がる時など、動作の開始時に痛みやこわばりを感じ、少し動いていると楽になるというパターンです。

これは関節の炎症や軟骨の摩耗が始まっているサインである可能性が高いです。

この段階で「疲れのせいだろう」と放置せず、専門医を受診することで、将来的な手術を回避したり、時期を遅らせたりする対策を立てることができます。

また、股関節からの「音」も重要なサインです。

脚を動かした時に「ポキッ」「コキッ」という音がする場合、弾発股(だんぱつこ)と呼ばれる状態や、関節内での引っかかりが生じている可能性があります。

痛みはなくても、関節内で物理的な摩擦や衝突が起きている証拠であり、繰り返すことで組織を傷つける恐れがあります。

痛みが出る前の違和感に気づく

痛みが出る前段階として、可動域の制限に気づくこともあります。

例えば、爪切りがしにくくなった、靴下が履きにくくなった、あぐらをかくと片方だけ膝が高く上がってしまう、といった変化です。

これらは股関節の動きが悪くなっている証拠であり、骨の変形や筋肉の拘縮(こうしゅく)が始まっている可能性があります。

女性の場合、妊娠や出産を機に股関節の痛みが顕在化することもあります。

妊娠中はリラキシンというホルモンの影響で骨盤周りの靭帯が緩むため、もともと形成不全で不安定だった股関節にさらなる負荷がかかるためです。

産後の不調を「骨盤の歪み」だけで片付けず、股関節の形状に問題がないか疑ってみる視点も大切です。

専門医による診断と検査の流れ

専門医による診断では、問診による症状の確認に加え、レントゲン撮影による骨の形状評価とMRIによる軟部組織の確認を組み合わせ、総合的に股関節の状態を判定します。

整形外科を受診すると、まず問診が行われます。

いつから痛むのか、どのような動作で痛むのか、過去に股関節の治療を受けたことがあるか(乳児期の脱臼など)、家族に股関節が悪い人がいるかなどを詳細に伝えます。

この情報は診断の確度を高めるために非常に重要です。

次に理学所見をとります。医師が実際に患者の脚を動かし、可動域(動く範囲)をチェックしたり、特定の方向に力を加えた時の痛みの有無(誘発テスト)を確認したりします。

パトリックテストやインピンジメントテストなどが代表的です。これにより、痛みの原因が関節の中にあるのか、あるいは筋肉や腱などの関節外にあるのかを推測します。

確定診断のために最も基本となるのが単純X線(レントゲン)検査です。正面像だけでなく、脚を開いた状態など複数の角度から撮影します。

ここで医師が注目するのが「CE角(Center-Edge angle)」という数値です。これは骨頭の中心と寛骨臼の外縁を結ぶ線が、垂線となす角度のことです。

一般的に、この角度が25度以上であれば正常、20度から25度が境界型、20度未満であれば股関節形成不全と診断されます。

また、関節の隙間の広さを見て、軟骨がどの程度残っているか、変形性股関節症へ進行していないかも確認します。

主な検査方法と得られる情報

検査項目目的分かること
単純X線(レントゲン)骨の形状と位置関係の把握寛骨臼の被覆度(CE角)、関節裂隙の狭小化
MRI検査軟部組織の詳細な評価関節唇損傷の有無、関節内水腫、骨髄浮腫
CT検査三次元的な骨構造の把握寛骨臼の正確な形状、手術計画の立案

精密検査の必要性

レントゲンだけでは分からない情報を得るために、MRI検査を行うことがあります。

レントゲンは骨の状態を映し出すのに対し、MRIは軟骨、関節唇、筋肉、靭帯などの軟らかい組織を描出することに長けています。

特に、股関節形成不全に伴って合併しやすい「関節唇損傷」の有無を確認するにはMRIが有用です。

関節唇が切れていたり、剥がれていたりすると、それが痛みの直接的な原因となっている場合があり、治療方針を決定する上で重要な判断材料となります。

場合によってはCT検査を行い、骨の形状を三次元的に把握することもあります。

手術を検討する段階では、骨盤の傾きや寛骨臼の被覆状況を立体的にシミュレーションするために、CTデータが用いられます。

これらの検査結果を統合し、現在の病期(ステージ)がどこにあるのか、どの治療法が適しているかを医師は判断します。

保存療法で進行を遅らせる取り組み

保存療法は、手術を行わずに症状の緩和と病期の進行抑制を目指す治療法であり、体重管理、運動療法、生活指導を三本柱として継続することが求められます。

股関節形成不全と診断されたからといって、すぐに手術になるわけではありません。痛みが軽度であり、軟骨が十分に保たれている初期の段階では、まずは保存療法から開始します。

その中で最も基本的かつ効果が高いのが「体重管理(減量)」です。歩行時、股関節には体重の3倍以上の負荷がかかります。

つまり、体重を1kg落とせば、股関節にかかる負担を3kgから4kgも減らすことができる計算になります。逆に言えば、わずかな体重増加が股関節にとっては大きなダメージとなり得ます。

適正体重を維持することは、物理的なストレスを減らし、軟骨の寿命を延ばすための直接的な手段となります。

次に取り組むべきは「運動療法(リハビリテーション)」です。股関節周りの筋肉、特に中殿筋(ちゅうでんきん)などの外転筋群を鍛えることが重要です。

筋肉は「天然のコルセット」や「衝撃吸収材」としての役割を果たします。筋力が強ければ、着地時の衝撃を筋肉が吸収し、関節への直接的な負担を和らげることができます。

さらに、骨盤を安定させることで、歩行時のブレを減らし、関節面がこすれ合うのを防ぐ効果も期待できます。

ただし、痛みが強い時に無理な筋トレを行うと逆効果になるため、理学療法士の指導のもと、正しいフォームと強度で行うことが大切です。

保存療法の具体的なアプローチ

療法具体的な内容期待される効果
体重コントロール食事療法や有酸素運動による減量関節にかかる機械的ストレスの軽減
運動療法中殿筋強化、水中ウォーキング関節の安定性向上、可動域維持
生活指導杖の使用、洋式生活への切り替え日常生活における関節負担の回避

薬物療法と生活様式の見直し

痛みが強い時期には、薬物療法を併用します。非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)を用いて炎症を抑え、痛みの悪循環(痛いから動かない→筋肉が衰える→さらに痛くなる)を断ち切ります。

湿布や塗り薬などの外用薬も補助的に使用します。また、ヒアルロン酸の関節内注射を行うこともありますが、膝関節ほどの劇的な効果は得られない場合もあり、効果には個人差があります。

日常生活の中での動作を見直すことも保存療法の重要な要素です。和式トイレや深いソファーなど、股関節を深く曲げる動作は避けるようにします。

重い荷物を持つことは極力避け、持つ場合はリュックサックやキャリーバッグを利用して荷重を分散させます。また、痛みが強い時は杖を使用することも恥ずかしがらずに検討してください。

杖は股関節にかかる負担を大幅に軽減する優れた道具です。このように、関節を守る生活習慣(Joint Sparing)を身につけることが、長期的に自分の股関節を守ることにつながります。

手術療法の選択肢と決定のタイミング

手術療法には、自身の関節を温存する「骨切り術」と、人工のものに置き換える「人工股関節置換術」の大きく二つの選択肢があり、それぞれの適応とライフプランを考慮して決定します。

保存療法を行っても痛みが改善しない場合や、定期的な検査で変形が進行していることが確認された場合は、手術療法を検討します。

手術の最大の目的は、痛みを取り除き、生活の質(QOL)を向上させること、そして将来的な歩行機能を確保することです。

比較的若い世代(10代から40代くらいまで)で、軟骨がある程度残っている場合に適応となるのが「骨切り術(こつきりじゅつ)」です。

代表的なものに、寛骨臼回転骨切り術(RAO)や寛骨臼移動術(CPO/SPO)があります。

これらは、自分の骨盤の骨を一度切り離し、角度を変えて回転させてから固定することで、寛骨臼が大腿骨頭をしっかりと覆うように作り変える手術です。

最大のメリットは、自分の関節を残せることです。成功すれば、スポーツ復帰や長期的な関節機能の維持が期待できます。

一方で、骨が癒合するまでの期間が必要であり、リハビリ期間が比較的長く(数ヶ月)、社会復帰までに時間を要するというデメリットもあります。

一方、変形が進行して軟骨がほとんどなくなってしまった場合や、50代、60代以降で早期の社会復帰を望む場合に選択されるのが「人工股関節置換術(THA)」です。

傷んだ関節を取り除き、金属やポリエチレン、セラミックなどでできた人工関節に置き換えます。この手術のメリットは、痛みが劇的に取れることと、リハビリ期間が短いことです。

手術翌日から立つ練習を始めることも多く、早期に歩行が可能になります。

近年では人工関節の耐久性も向上しており、20年から30年以上持つとも言われていますが、若年で行うと将来的に入れ替えの手術が必要になる可能性があるため、手術時期の決定には慎重な判断が必要です。

主な手術方法の比較

手術法対象となる主な状態メリット
骨切り術(RAO/CPOなど)軟骨が残っている若年層から中年層自分の関節を温存できる、活動制限が少ない
人工股関節置換術(THA)軟骨が消失した進行期・末期、高齢者除痛効果が高い、リハビリ期間が短い

内視鏡手術という選択肢

近年では、股関節鏡(内視鏡)を用いた手術も行われるようになっています。

これは、骨の形そのものを大きく変えるのではなく、損傷した関節唇を縫合したり、骨の出っ張りを削ったりする低侵襲な手術です。

形成不全が軽度で、主に関節唇損傷による痛みが問題となっている場合に適応となります。

傷が小さく回復が早いのが特徴ですが、形成不全自体を治すわけではないため、適応の見極めが非常に重要です。

どの手術法を選ぶにしても、医師からの説明(インフォームド・コンセント)を十分に受け、自分自身のライフプラン(仕事、出産、趣味など)と照らし合わせて納得のいく選択をすることが大切です。セカンドオピニオンを利用して、複数の専門医の意見を聞くことも有益な手段の一つです。

リハビリテーションと日常生活への復帰

リハビリテーションは単なる機能回復訓練ではなく、手術の効果を最大限に引き出し、新しい股関節との付き合い方を体に覚えさせるための重要なプロセスです。

手術の種類によってリハビリの進み方は異なりますが、基本となるのは「可動域訓練」「筋力増強」「歩行訓練」です。

術後早期は、手術による炎症や腫れを抑えつつ、関節が硬くならないように他動的(理学療法士の力で)に動かすことから始めます。

また、血栓症(エコノミークラス症候群)を予防するために、足首を動かす運動なども直後から行います。

骨切り術の場合、切った骨がくっつくまで患部に全体重をかけることができません。そのため、松葉杖を使用した免荷(めんか)期間が数週間から数ヶ月続きます。

この期間にいかに筋力を落とさないか、そして徐々に荷重を増やしていくコントロールができるかが重要です。

一方、人工股関節置換術の場合は、骨の固定性が良ければ術後早期から全荷重が許可されることが多く、歩行獲得までのスピードは速いです。

退院後もリハビリは続きます。病院でのリハビリ期間が終わっても、自宅での自主トレーニングを継続することが大切です。特に中殿筋のトレーニングは一生続けるくらいの意識が必要です。

筋力が戻ってくれば、跛行(はこう:びっこを引くこと)が改善し、きれいに歩けるようになります。

きれいな歩行フォームを獲得することは、手術した股関節だけでなく、反対側の股関節や膝、腰を守ることにもつながります。

術後や保存療法中に避けるべき動作と工夫

  • 重い荷物を床から持ち上げる際は、股関節だけを曲げず、膝もしっかり使うか、台を利用する。
  • 長時間の正座やあぐらは股関節への負担が大きいため、椅子の生活を中心にする。
  • 階段の昇り降りは手すりを積極的に利用し、衝撃を腕に逃がすようにする。
  • 痛みが強い時は無理に歩かず、プールでの歩行など浮力を利用した運動に切り替える。
  • ハイヒールや底の硬い靴は避け、クッション性の高いスニーカーを選ぶ。

日常生活での注意点とスポーツ

日常生活への完全復帰には、動作の工夫も求められます。

人工関節の場合、脱臼を防ぐための「禁忌肢位(やってはいけない姿勢)」が設定されることがあります(手術アプローチや機種により異なります)。

一般的には、股関節を深く曲げながら内側に捻る動作などがリスクとなります。しかし、近年の手術技術の向上により、脱臼リスクは低減しており、過度な制限を設けないケースも増えています。

スポーツに関しては、衝撃の少ない種目が推奨されます。水泳、サイクリング、ウォーキング、ゴルフなどは多くの患者さんが楽しんでいます。

一方で、コンタクトスポーツやジャンプを繰り返す競技(バレーボール、バスケットボールなど)は、人工関節の摩耗や骨切り部の負担を考慮し、慎重な判断が必要です。

主治医と相談しながら、自分の体の状態に合わせた活動レベルを見つけていくことが、長く健康な生活を送る秘訣です。

一生付き合うための長期的視点

股関節形成不全は、一度の治療で完結するものではなく、長期的な視点を持って股関節をケアし続けることで、健康寿命を延ばし、活動的な人生を維持できます。

手術を受けたとしても、あるいは保存療法で痛みが落ち着いたとしても、股関節形成不全という素因が消えてなくなるわけではありません(骨切り術で形状が改善した場合を除く)。

また、人工関節にも耐用年数があります。そのため、「治った」と思って油断するのではなく、「うまく管理していく」という意識を持つことが大切です。

定期的なレントゲン検査を受け、骨の状態や人工関節のゆるみがないかを確認し続けることは、予期せぬトラブルを未然に防ぐために欠かせません。

長期的な管理に必要な心がけ

項目内容目的
定期検診年に1回程度のレントゲン検査変化の早期発見、人工関節の不具合チェック
継続的な運動筋力トレーニング、ストレッチ関節を支える力の維持、可動域の確保
体重維持暴飲暴食を避け、適正体重をキープ関節負荷の永続的な軽減

加齢とともに筋力は自然と低下していきます。若い頃と同じ生活をしていても、筋力が落ちれば関節への負担は増します。

したがって、年齢に応じた適切な運動習慣を維持することが、股関節を守る最強の盾となります。また、反対側の股関節にも負担がかかりやすいため、両側のケアを忘れてはいけません。

精神的なケアも重要です。慢性的な痛みや将来への不安は、心にストレスを与えます。

同じ悩みを持つ患者会に参加したり、趣味の時間を持ったりして、病気のことばかり考えない時間を作ることも大切です。股関節は体の要ですが、それが人生の全てではありません。

制限の中で何ができるかを探し、工夫して楽しむ前向きな姿勢が、結果として良い治療経過をもたらします。

Q&A

股関節形成不全は遺伝しますか?

遺伝的な要因は関与していると考えられています。家族に股関節形成不全や変形性股関節症の方がいる場合、そうでない人に比べて発症する確率は高くなる傾向にあります。

特に女性の親族に患者さんがいる場合は注意が必要です。ただし、遺伝だけで全てが決まるわけではなく、生活習慣や環境要因も大きく影響します。

ご家族に既往歴がある場合は、症状がなくても一度専門医でチェックを受けておくと安心できます。

妊娠や出産は可能ですか?

基本的には可能です。多くの股関節形成不全の女性が、無事に出産されています。

ただし、妊娠後期には体重が増加し、ホルモンの影響で骨盤が緩むため、股関節の痛みが強くなることがあります。

また、股関節の開き具合によっては分娩方法(自然分娩か帝王切開か)について産科医と整形外科医の連携が必要になることもあります。

妊娠を希望される場合は、事前に股関節の状態を評価し、妊娠中の体重管理やケアについて主治医と相談しておくことをお勧めします。

どのような運動ならしても良いですか?

股関節への衝撃が少ない運動が推奨されます。最も良いとされるのは水中ウォーキングや水泳です。浮力によって関節への負担が減り、水の抵抗で効率よく筋力を鍛えることができます。

また、固定式自転車(エアロバイク)も良い運動です。サドルの高さを適切に調整すれば、関節への衝撃を避けつつ有酸素運動が可能です。

逆に、ジャンプや急な方向転換を伴うスポーツ、コンタクトスポーツ、長距離のマラソンなどは、軟骨の摩耗を早めるリスクがあるため、医師と相談して慎重に行う必要があります。

子供の頃に治療しましたが、大人になって再発することはありますか?

乳児期に装具療法などで治療を受け、一度は治ったとされた場合でも、成長の過程で再び寛骨臼の発育が遅れ、形成不全の状態になることがあります。

これを「遺残性亜脱臼(いざんせいあだっきゅう)」や形成不全の残存と呼びます。

子供の頃に治療歴がある方は、大人になってから痛みが出るリスクが一般の方より高い可能性があるため、違和感を覚えたら早めに整形外科を受診することが大切です。

痛み止めを飲み続けても大丈夫ですか?

痛みが強い時期に一時的に使用することは有効ですが、長期間にわたって漫然と飲み続けることは推奨されません。胃腸障害や腎機能障害などの副作用のリスクがあるためです。

また、薬で痛みを消して無理に動いてしまうと、かえって関節の破壊を進めてしまう恐れもあります。

薬はあくまで痛みの悪循環を断つための補助的な手段と考え、運動療法や生活改善と組み合わせて使用するものです。

痛みがコントロールできない場合は、手術を含めた次の治療段階を検討する時期かもしれません。

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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