足立慶友医療コラム

膝関節の病気|症状による種類と治療法の違い

2025.07.08

膝の痛みと一言でいっても、その原因は多岐にわたります。ズキズキとした鋭い痛み、動かし始めの鈍い痛み、腫れや熱感を伴う痛みなど、症状はさまざまです。

これらの症状は、加齢による体の変化、スポーツによる怪我、あるいは他の病気が原因で起こることがあります。

この記事では、膝に痛みや違和感をもたらす代表的な病気について、症状や原因、そして一般的な治療法を解説します。ご自身の症状を理解し、適切な対処法を知るための一助としてください。

膝の痛みの原因は一つではない?症状から考えられる病気

膝の痛みは多くの人が経験する症状ですが、その背後にはさまざまな病気が隠れている可能性があります。痛みの感じ方や場所、タイミングなどから、原因となっている病気をある程度推測できます。

しかし、自己判断は禁物です。正確な診断のためには、専門医による診察が重要です。

ここでは、膝の構造を理解し、どのような症状がどの病気のサインとなり得るのか、その基本的な考え方について解説します。

膝関節の基本的な構造

膝関節は、人体で最も大きな関節の一つであり、複雑な構造をしています。

主に、太ももの骨である「大腿骨」、すねの骨である「脛骨」、そしてお皿と呼ばれる「膝蓋骨」の3つの骨で構成されています。

これらの骨の表面は「関節軟骨」という滑らかな組織で覆われており、衝撃を吸収し、関節の動きをスムーズにするクッションの役割を果たしています。

また、関節全体は「関節包」という袋で包まれ、その内側にある「滑膜」から分泌される関節液が、潤滑油や軟骨への栄養補給の役割を担っています。

靭帯と半月板の役割

膝関節の安定性は、骨だけではなく、強靭な靭帯によって支えられています。関節の内側と外側には「側副靭帯」があり、横方向へのぐらつきを防ぎます。

関節の内部には「前十字靭帯」と「後十字靭帯」が十字の形に交差しており、前後方向への安定性を保っています。

さらに、大腿骨と脛骨の間には「半月板」というC字型の軟骨組織があり、衝撃を分散させ、関節の適合性を高める重要な働きをしています。

これらの組織が連携することで、私たちは歩く、走る、曲げるといった複雑な動きをスムーズに行えるのです。

症状が示す病気のサイン

膝の症状は、どの組織に問題が起きているかを知るための重要な手がかりです。例えば、「腫れ」や「熱感」は、関節内部で炎症が起きているサインかもしれません。

関節リウマチや偽痛風、感染症などが考えられます。

「動かしにくい」「特定の角度でロックされる」といった症状は、半月板損傷や関節内に関節軟骨のかけら(関節ねずみ)が存在する可能性を示唆します。

「歩行中に膝がガクッと崩れる感じ(膝折れ)」がする場合、靭帯損傷や筋力低下が原因かもしれません。

これらのサインを見逃さず、どのような状況で症状が現れるかを把握することが大切です。

専門医による診断の重要性

膝の痛みの原因を正確に特定するには、専門医による診察が必要です。

医師は、問診で症状の詳細(いつから、どこが、どのように痛むかなど)を確認し、視診や触診で膝の状態(腫れ、圧痛、可動域、不安定性など)を評価します。

その上で、レントゲン(X線)検査、MRI検査、超音波(エコー)検査、関節液検査、血液検査などを必要に応じて行い、総合的に診断を下します。

レントゲンでは骨の状態を、MRIでは軟骨や靭帯、半月板といった軟部組織の状態を詳しく調べることが可能です。正確な診断に基づいて、一人ひとりに合った治療方針を決定します。

痛みの場所で探る膝の病気

膝のどの部分が痛むかは、原因となっている病気を特定するための大きなヒントになります。

膝の内側、外側、前面(お皿の周り)、あるいは裏側など、痛みの発生場所によって、関連する代表的な病気は異なります。

ご自身の痛む場所と照らし合わせながら、どのような可能性が考えられるかを見ていきましょう。

膝の内側の痛み

膝の内側に痛みが生じる場合、最も一般的な原因の一つが「変形性膝関節症」です。特に中高年の方で、歩き始めや立ち上がり時に痛む場合は、この病気の可能性が高まります。

加齢などにより関節軟骨がすり減り、骨同士がこすれることで痛みや炎症が生じます。また、スポーツをする人では「鵞足炎(がそくえん)」も考えられます。

これは、膝の内側にある鵞足という部分に付着する腱が炎症を起こすもので、ランニングやジャンプ動作の多い競技で見られます。

膝の外側の痛み

膝の外側が痛む場合、特にランニングなど長時間の運動後に痛みが出るのであれば、「腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)」が疑われます。

これは、太ももの外側にある長い靭帯(腸脛靭帯)が、膝の外側の骨とこすれて炎症を起こす病気で、「ランナー膝」とも呼ばれます。

また、スポーツ中のひねり動作などで「外側半月板損傷」や「外側側副靭帯損傷」を起こしている可能性もあります。

膝の前面(お皿周辺)の痛み

膝のお皿(膝蓋骨)の周りや下に痛みがある場合、さまざまな原因が考えられます。

ジャンプやダッシュを繰り返すスポーツ選手に多いのが「膝蓋腱炎(しつがいけんえん)」で、「ジャンパー膝」とも呼ばれます。

お皿の下にある膝蓋腱に負担がかかり、炎症や小さな断裂が生じます。また、お皿と大腿骨の間で軟骨がすり減る「膝蓋大腿関節症」も、階段の上り下りなどで痛みを引き起こす原因となります。

痛みの場所と関連する主な病気

痛む場所考えられる主な病気特徴的な症状
膝の内側変形性膝関節症、鵞足炎歩き始めの痛み、階段での痛み
膝の外側腸脛靭帯炎、外側半月板損傷ランニング中の痛み、膝のぐらつき
膝の前面膝蓋腱炎、膝蓋大腿関節症ジャンプや階段での痛み
膝の裏側ベーカー嚢腫、後十字靭帯損傷膝裏の腫れや圧迫感、膝の不安定感

膝の裏側の痛み

膝の裏側に痛みや腫れ、圧迫感がある場合、「ベーカー嚢腫(のうしゅ)」の可能性があります。これは、膝の関節液が関節包の後方に流れ込み、袋状に溜まってしまう状態です。

変形性膝関節症や関節リウマチ、半月板損傷などに合併して起こることが多く、嚢腫が大きくなると正座がしにくくなったり、神経を圧迫してしびれを引き起こしたりすることもあります。

動きや状況で変わる膝の痛み

どのような動きや状況で膝の痛みが強くなるか、あるいは和らぐかは、病気の原因を探る上で非常に重要な情報です。

安静にしていても痛むのか、それとも特定の動作でのみ痛むのか。症状の現れ方を詳しく観察することで、膝の内部で何が起きているのかを推測する手がかりが得られます。

歩き始めや立ち上がるときの痛み

椅子から立ち上がる瞬間や、歩き始めの一歩目に膝が痛むのは、「変形性膝関節症」の初期から中期にかけてよく見られる特徴的な症状です。これは「始動時痛」と呼ばれます。

しばらく動かずにいたことで関節の動きが硬くなり、動き始めに痛みを感じるのです。しかし、少し歩き続けると痛みが和らぐことが多いのも特徴です。

病気が進行すると、歩行中も痛みが持続するようになります。

階段の上り下りで痛む

階段の上り、特に下りるときに膝が痛む場合、膝への負担が大きくなっているサインです。平地を歩くときと比べて、階段昇降時には膝に体重の何倍もの負荷がかかります。

このため、「変形性膝関節症」や「膝蓋大腿関節症」では、階段昇降時に痛みが強く出やすくなります。また、太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)の筋力低下も、この症状の一因となります。

動作や状況と痛みの特徴

動作・状況痛みの特徴関連が考えられる病気
歩き始め・立ち上がり動き始めに痛み、少し動くと楽になる変形性膝関節症(初期)
階段の上り下り特に下りるときに痛みが強い変形性膝関節症、膝蓋大腿関節症
曲げ伸ばし引っかかり感、特定の角度で痛む半月板損傷、関節ねずみ
安静時・夜間じっとしていてもズキズキ痛む関節リウマチ、感染症、痛風

曲げ伸ばしで引っかかる感じがする

膝を曲げたり伸ばしたりする際に、スムーズに動かず、何かが引っかかるような感じ(キャッチング)や、急に膝が動かなくなる「ロッキング」という現象が起きる場合、「半月板損傷」が強く疑われます。

損傷して断裂した半月板の一部が関節の間に挟まり込むことで、これらの症状が引き起こされます。

また、関節軟骨の一部が剥がれて関節内を浮遊する「関節ねずみ(関節内遊離体)」も、同様の症状の原因となることがあります。

安静にしていても痛む

運動や動作に関係なく、じっとしていても膝が痛む(安静時痛)、あるいは夜間に痛みが強くて目が覚めてしまう(夜間痛)場合は、注意が必要です。

これらの症状は、関節内で強い炎症が起きていることを示唆しており、「関節リウマチ」や「偽痛風」、「化膿性関節炎」などの感染症の可能性があります。

特に、膝が赤く腫れて熱を持っている場合は、速やかに医療機関を受診することが重要です。

加齢とともに増える膝の病気

年齢を重ねると、体のさまざまな部分に変化が現れます。膝関節も例外ではなく、長年の使用によって軟骨がすり減ったり、組織が変性したりすることで、特定の病気が起こりやすくなります。

ここでは、特に加齢と関連の深い代表的な膝の病気について詳しく解説します。

変形性膝関節症

変形性膝関節症は、加齢による膝の病気の中で最も代表的なものです。関節のクッションである軟骨が、年齢や体重の負荷、過去の怪我などによって徐々にすり減っていくことで発症します。

初期には立ち上がりや歩き始めに痛む程度ですが、進行すると軟骨の下の骨が露出し、骨の変形(骨棘)が生じます。

このことにより、痛みが強まり、膝の曲げ伸ばしが困難になったり、O脚変形が目立つようになったりします。日本国内には多くの患者がいるとされ、特に50歳以上の女性に多く見られます。

変形性膝関節症の進行度

進行度レントゲン所見主な自覚症状
初期関節の隙間がわずかに狭くなる立ち上がり、歩き始めの痛み
中期軟骨がすり減り、骨棘が見られる階段昇降時の痛み、正座が困難
末期関節の隙間がなくなり、骨が変形安静時痛、歩行困難、O脚変形

偽痛風(ピロリン酸カルシウム沈着症)

偽痛風は、関節内にピロリン酸カルシウムという物質の結晶が沈着し、それが何らかのきっかけで関節内に散らばることで急性の激しい炎症を引き起こす病気です。

突然、膝が赤く腫れ上がり、熱感と激痛を生じます。症状が痛風の発作と似ているため「偽痛風」と呼ばれますが、原因となる物質は異なります。

高齢者に多く見られ、変形性膝関節症がある膝に発症しやすい傾向があります。発作は数日から数週間で自然に治まることが多いですが、繰り返すこともあります。

ベーカー嚢腫

ベーカー嚢腫は、膝の裏側にある滑液包という袋に関節液が過剰に溜まることで発生します。膝裏が腫れ、圧迫感や鈍い痛みを感じます。

多くは変形性膝関節症や関節リウマチ、半月板損傷など、関節内に炎症や損傷がある場合に合併して起こります。

嚢腫が小さい場合は無症状のこともありますが、大きくなると膝の曲げ伸ばしがしにくくなったり、神経や血管を圧迫して下腿にしびれやむくみを生じさせたりすることがあります。

まれに嚢腫が破裂し、ふくらはぎに激痛と腫れが広がることもあります。

加齢と関連する膝疾患の比較

病名主な原因痛みの特徴
変形性膝関節症軟骨の摩耗、加齢動作開始時の慢性的な痛み
偽痛風結晶の沈着突然発症する急性の激痛
ベーカー嚢腫関節液の過剰産生膝裏の腫れと圧迫感を伴う鈍痛

スポーツや外傷による膝の病気

スポーツ活動中の急な方向転換やジャンプ、あるいは交通事故や転倒といった外傷は、膝に大きなダメージを与えることがあります。

特に、若年層やスポーツ愛好家に見られる膝の痛みは、これらの怪我が原因であることが少なくありません。ここでは、スポーツや外傷によって引き起こされる代表的な膝の病気を紹介します。

半月板損傷

半月板は、膝関節の中でクッションの役割を果たす軟骨組織です。スポーツ中に膝をひねったり、強い衝撃が加わったりすることで損傷します。

損傷すると、膝の曲げ伸ばしの際に痛みや引っかかり感が生じ、重症の場合は断裂した半月板が関節に挟まって膝が動かなくなる「ロッキング」状態になることもあります。

また、関節に水(関節液)や血が溜まり、腫れを伴うことも多いです。加齢により半月板がもろくなっている場合は、ささいな動作で損傷することもあります。

靭帯損傷

膝の安定性を保つ靭帯は、スポーツ外傷で損傷しやすい組織の一つです。

ジャンプの着地や急な方向転換で損傷することが多い「前十字靭帯損傷」、ラグビーのタックルなどで膝の前方から強い衝撃を受けて損傷する「後十字靭帯損傷」、膝の外側や内側から力が加わることで損傷する「側副靭帯損傷」などがあります。

受傷した瞬間に「ブチッ」という断裂音を感じることがあり、その後、激しい痛みと腫れ、膝がぐらつくような不安定感が生じます。

主な靭帯損傷の種類と特徴

靭帯名主な受傷機転主な症状
前十字靭帯ジャンプ着地、急停止、方向転換膝折れ、不安定感、激しい痛み
後十字靭帯膝前面への強い衝撃(ダッシュボード損傷)膝裏の痛み、不安定感
内側側副靭帯膝の外側からの衝撃(外反強制)膝内側の痛み、圧痛、不安定感
外側側副靭帯膝の内側からの衝撃(内反強制)膝外側の痛み、圧痛、不安定感

腸脛靭帯炎(ランナー膝)

腸脛靭帯炎は、長距離ランナーに多く見られることから「ランナー膝」とも呼ばれるオーバーユース(使いすぎ)による障害です。

ランニングなどで膝の曲げ伸ばしを繰り返すことにより、太ももの外側にある腸脛靭帯が膝の外側の骨(大腿骨外側上顆)とこすれて炎症を起こし、痛みを引き起こします。

特に、走り始めてから数キロメートルで痛みが出現し、休むと痛みが和らぐのが特徴です。坂道の下りなどで痛みが強くなる傾向があります。

膝蓋骨脱臼

膝蓋骨脱臼は、通常はお皿(膝蓋骨)が収まっている大腿骨の溝から、外側に外れてしまう状態を指します。

スポーツ中のジャンプの着地や急な方向転換、あるいは膝を強く打ったときなどに発生します。脱臼すると、激しい痛みとともに膝が腫れ、変形しているのが外からでもわかります。

多くの場合、自然に元の位置に戻ります(自然整復)が、一度脱臼すると靭帯が緩み、脱臼を繰り返す「反復性膝蓋骨脱臼」に移行することがあります。特に10代の女性に多いとされています。

スポーツで起こりやすい膝の障害

障害名好発するスポーツ主な原因
半月板損傷サッカー、バスケットボール、スキーひねり動作、衝撃
前十字靭帯損傷バスケットボール、バレーボール、サッカージャンプ着地、急な方向転換
腸脛靭帯炎長距離ランニング、サイクリング繰り返しの曲げ伸ばし(使いすぎ)

膝の病気に対する一般的な治療法

膝の病気の治療は、原因となっている病気、症状の程度、年齢、活動レベルなどを総合的に考慮して決定します。

治療法は大きく分けて、手術をしない「保存療法」と、手術を行う「手術療法」の二つがあります。

多くの場合、まずは保存療法から開始し、症状の改善が見られない場合や、特定の病状に対して手術が有効と判断された場合に手術療法が検討されます。

保存療法

保存療法は、手術以外の方法で痛みや炎症を和らげ、機能の回復を目指す治療法の総称です。複数の方法を組み合わせて行います。

  • 薬物療法: 痛みを和らげるために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の飲み薬や貼り薬、塗り薬を使用します。関節リウマチなどでは、病気の活動性を抑えるための特殊な薬を用います。
  • 運動療法: 膝周りの筋肉、特に太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)や裏側の筋肉(ハムストリングス)を鍛えることで、膝関節の安定性を高め、負担を軽減します。また、ストレッチで関節の動く範囲を広げることも重要です。
  • 物理療法: 温熱療法で血行を促進して痛みを和らげたり、電気刺激で筋肉を強化したりします。
  • 装具療法: サポーターや足底板(インソール)を使用して膝の安定性を高めたり、O脚を矯正して内側への負担を減らしたりします。

主な保存療法の種類と目的

治療法主な内容目的
薬物療法消炎鎮痛薬の内服・外用痛みと炎症の軽減
運動療法筋力トレーニング、ストレッチ関節の安定化、可動域の改善
装具療法サポーター、足底板関節の保護、負担の軽減

注射による治療

保存療法の一環として、関節内への注射も行われます。代表的なものに「ヒアルロン酸注射」と「ステロイド注射」があります。

ヒアルロン酸は、もともと関節液に含まれている成分で、関節の動きを滑らかにし、軟骨を保護する作用があります。

変形性膝関節症に対して、痛みの軽減と機能改善を目的に繰り返し注射します。

一方、ステロイド注射は非常に強力な抗炎症作用があり、関節リウマチや偽痛風など、強い炎症と痛みを伴う場合に用います。

ただし、頻繁に使うと軟骨や組織を傷める可能性があるため、使用は限定的です。

手術療法

保存療法で十分な効果が得られない場合や、靭帯断裂や半月板の重度な損傷など、構造的な問題がある場合には手術療法が選択されます。代表的な手術には以下のようなものがあります。

  • 関節鏡視下手術(かんせつきょうしかしゅじゅつ): 小さなカメラ(関節鏡)を関節内に挿入し、モニターで内部を観察しながら行う低侵襲な手術です。損傷した半月板の切除や縫合、剥がれた軟骨の処置、靭帯の再建などを行います。
  • 高位脛骨骨切り術(こういけいこつこつきりじゅつ): O脚変形が進行した変形性膝関節症に対して行います。すねの骨(脛骨)の一部を切って角度を矯正し、体重がかかるラインを膝の内側から外側へ移動させることで、痛みを和らげます。自分の関節を温存できるのが利点です。
  • 人工膝関節置換術(じんこうひざかんせつちかんじゅつ): 傷んだ関節の表面を削り、金属やポリエチレンなどでできた人工の関節に置き換える手術です。変形性膝関節症や関節リウマチが末期まで進行し、痛みが強く日常生活に大きな支障が出ている場合に行われます。痛みを取り除く効果が高い治療法です。

膝の健康を維持するためのセルフケア

医療機関での治療と並行して、日常生活の中で自分自身でできるケアも膝の健康を保つためには非常に重要です。

日々の少しの心がけが、膝への負担を減らし、痛みの予防や悪化の防止につながります。ここでは、今日から始められるセルフケアのポイントを紹介します。

適切な体重管理

体重は膝に直接的な負荷をかけます。歩行時には体重の約3倍、階段の上り下りでは約7倍もの負荷が膝にかかると言われています。

つまり、体重が1kg増えるだけで、膝にはその数倍の負担がかかることになります。逆に、体重を減らすことは、膝への負担を大きく軽減する効果的な方法です。

バランスの取れた食事を心がけ、過食を避けることが、膝を守るための第一歩です。

膝を支える筋力トレーニング

膝関節は、周りの筋肉によって支えられ、安定しています。特に、太ももの前の筋肉である「大腿四頭筋」は、膝にかかる衝撃を吸収する重要な役割を担っています。

この筋肉を鍛えることで、膝の安定性が増し、軟骨や半月板への負担を減らすことができます。

椅子に座ったまま膝を伸ばす運動など、膝に負担をかけずにできるトレーニングから始めるとよいでしょう。

ただし、痛みが強いときには無理をせず、医師や理学療法士に相談することが大切です。

膝に優しい生活習慣のポイント

  • 和式トイレではなく洋式トイレを使う
  • 床に直接座る(正座、あぐら)のを避け、椅子を使う
  • 重い荷物を持つときは、一度膝を曲げてから持ち上げる
  • クッション性の高い、かかとの安定した靴を選ぶ

生活習慣の見直し

日常生活の中の何気ない動作が、知らず知らずのうちに膝に負担をかけていることがあります。

例えば、膝を深く曲げる正座やあぐら、和式トイレでのしゃがみ込み動作は、膝関節に大きな圧力をかけます。

できるだけ洋式の生活スタイル(椅子、ベッド、洋式トイレ)に切り替えることで、膝への負担を減らせます。

また、クッション性が高く、足に合った靴を選ぶことも、歩行時の衝撃を和らげる上で重要です。

膝の病気に関するよくある質問

ここでは、膝の痛みや病気に関して、多くの方が抱く疑問についてお答えします。セルフケアの参考にしつつも、気になる症状があれば専門医に相談することを忘れないでください。

Q. 膝がポキポキ鳴るのは問題ない?

A. 痛みや腫れを伴わない場合、膝が鳴る音の多くは生理的なもので、あまり心配はいりません。関節内の圧力の変化で気泡が弾ける音(クラッキング音)などが原因と考えられています。

ただし、音とともに痛みや引っかかり感がある場合は、半月板損傷や軟骨のすり減りなどが原因の可能性もあるため、一度、整形外科で相談することをお勧めします。

Q. サプリメントは効果がある?

A. グルコサミンやコンドロイチン、ヒアルロン酸などの成分を含むサプリメントが市販されています。

これらの成分は軟骨の構成要素であり、一部の研究では痛みを和らげる効果が報告されていますが、科学的な根拠はまだ十分とは言えません。

治療の基本は運動療法や体重管理であり、サプリメントはあくまで補助的なものと考えるのがよいでしょう。使用する際は、かかりつけの医師に相談してください。

Q. 痛いときは温める?冷やす?

A. 温めるべきか冷やすべきかは、症状によって異なります。

急な怪我(打撲や捻挫)や、関節が赤く腫れて熱を持っているような急性の炎症の場合は、冷やす(アイシング)のが基本です。

血管を収縮させて腫れや内出血、痛みを抑えます。一方、変形性膝関節症のような慢性の痛みで、腫れや熱感がない場合は、温める(温熱療法)のが効果的です。

血行を良くし、筋肉の緊張をほぐして痛みを和らげます。判断に迷う場合は、自己判断せず専門医に確認してください。

温める場合と冷やす場合の判断目安

対応適した状況目的・効果
冷やす(アイシング)怪我の直後、急な痛み、腫れ、熱感がある時血管を収縮させ、炎症や腫れを抑える
温める(温熱療法)慢性の痛み、こわばりがある時(腫れ・熱感なし)血行を促進し、筋肉の緊張を緩和する

Q. どんな病院に行けばいい?

A. 膝の痛みや怪我については、骨、関節、筋肉、靭帯などを専門とする「整形外科」を受診するのが適切です。

整形外科では、問診や診察、レントゲンやMRIなどの画像検査を通じて、痛みの原因を正確に診断し、専門的な治療を受けることができます。

特に、スポーツによる怪我の場合は、スポーツ整形外科を専門とする医師に相談すると、より専門的なアドバイスや治療が期待できます。

以上

参考文献

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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