足立慶友医療コラム

整形外科医が診る股関節の重要性と機能

2025.07.01

股関節は、私たちの身体を支え、活動的な毎日を送る上で中心的な役割を担う、とても重要な関節です。

しかし、その大切さは、痛みや不調を感じて初めて意識することが多いのではないでしょうか。

この記事では、整形外科医の視点から、股関節が持つ本来の構造と機能、年齢による変化、そして不調のサインについて、専門的な知識をわかりやすく解説します。

ご自身の身体への理解を深め、股関節の健康を長く保つための一助となれば幸いです。

股関節とは?身体の要となる構造

私たちの身体の中心近くに位置し、上半身と下半身をつなぐ股関節は、まさに「身体の要」と呼べる存在です。

この関節が滑らかに機能することで、私たちは安定して立ち、自由に歩き回ることができます。

ここでは、その精巧なつくりと、なぜそれほど重要なのか、基本的な構造から見ていきましょう。

股関節の位置と骨格

股関節は、骨盤の側面にある「寛骨臼(かんこつきゅう)」というお椀のような凹みに、太ももの骨である「大腿骨(だいたいこつ)」の先端にある球状の「大腿骨頭(だいたいこっとう)」がはまり込む形で構成されています。

この「球関節(きゅうかんせつ)」と呼ばれる構造により、脚を様々な方向に自由に動かすことが可能です。

寛骨臼が大腿骨頭を深く包み込んでいるため、肩関節などに比べて安定性が高く、身体をしっかりと支える頑丈なつくりになっています。

関節軟骨と関節唇の役割

寛骨臼と大腿骨頭の表面は、「関節軟骨(かんせつなんこつ)」と呼ばれる厚さ数ミリの滑らかで弾力のある組織で覆われています。

この関節軟骨は、水分を豊富に含み、関節が動く際の摩擦を減らし、衝撃を吸収するクッションの役割を果たします。

また、寛骨臼の縁には、「関節唇(かんせつしん)」という線維軟骨でできたリング状の組織があり、股関節の適合性を高めて安定性を向上させる働きを担います。

これらの組織が正常に機能することで、私たちは痛みなくスムーズに関節を動かすことができます。

関節を構成する主要な組織

組織名主な素材主な役割
関節軟骨コラーゲン、プロテオグリカン衝撃吸収、摩擦の軽減
関節唇線維軟骨関節の安定化、適合性の向上
関節包線維膜、滑膜関節の保護、関節液の産生

股関節を支える筋肉と靭帯

股関節の安定性と運動性は、骨格だけでなく、その周囲を取り巻く強力な筋肉と靭帯によって支えられています。

お尻の筋肉(殿筋群)や太ももの筋肉(大腿四頭筋、ハムストリングス)、内ももの筋肉(内転筋群)などが連携して、歩く、走る、立つ、座るといったあらゆる動作を生み出します。

さらに、関節を包む「関節包(かんせつほう)」は強靭な靭帯で補強されており、関節が外れないように、また異常な方向へ動きすぎないように制御しています。

血行の重要性

関節軟骨には血管が通っていないため、栄養は主に関節を潤す「関節液(かんせつえき)」から供給されます。関節液は、関節を動かすことで循環が促されます。

一方、大腿骨頭への血行は非常に重要です。

大腿骨頭へ血液を供給する血管は限られており、何らかの原因でこの血流が滞ると、骨の組織が壊死してしまう「大腿骨頭壊死症」という深刻な病態を引き起こすことがあります。

股関節の健康を維持するためには、骨そのものへの良好な血行も大切です。

立つ・歩くを支える股関節の基本的な機能

私たちは、日常生活の中で意識することなく股関節を使っています。

朝起きてベッドから立ち上がる時、通勤で歩く時、椅子に座る時など、あらゆる場面で股関節はその重要な機能を果たしています。

ここでは、股関節が担う基本的な3つの機能について、具体的に解説します。

体重を支える支持機能

立っている時、股関節には体重の約3倍、歩いている時には約4〜5倍、階段の上り下りではさらに大きな負荷がかかるといわれています。

股関節は、このような大きな力を受け止め、上半身の重さを安定して支える「支持機能」を持っています。この機能により、私たちは重力に抗してまっすぐな姿勢を保つことができます。

この強固な支持力は、骨盤と大腿骨がしっかりと組み合わさった構造と、周囲の強力な筋肉群によって実現しています。

脚を動かす運動機能

股関節は、脚を前後、左右、そして回旋させるなど、非常に広い可動域を持つ関節です。

この「運動機能」のおかげで、私たちは歩行、走行、方向転換、段差の上り下りなど、複雑な下半身の動きを滑らかに行うことができます。

股関節の動きは、日常生活の質に直結しており、この可動域が制限されると、靴下を履く、爪を切るといった些細な動作も困難になります。

股関節の主な動き

動きの名称動きの方向日常生活での例
屈曲ももを前に上げる階段を上る、椅子に座る
伸展脚を後ろに伸ばす歩く時に地面を蹴る、立ち上がる
外転・内転脚を横に開く・閉じる車を乗り降りする、横歩きする

衝撃を吸収するクッション機能

歩いたり走ったりする時、地面から足へ伝わる衝撃は、足首、膝、そして股関節へと伝わります。股関節の関節軟骨や周囲の筋肉は、これらの衝撃を和らげるクッションの役割を果たしています。

この「衝撃吸収機能」により、衝撃が直接、背骨や頭部へ伝わるのを防ぎ、身体全体を守っています。

加齢や過度な負担によってこの機能が低下すると、股関節自体の痛みだけでなく、膝や腰など他の部位へも悪影響が及ぶことがあります。

年齢と共に変化する股関節

人の一生を通じて、股関節もまた成熟し、そして少しずつ変化していきます。

生まれたばかりの赤ちゃんの未熟な股関節から、活動的な成人期、そして様々な変化が現れる高齢期まで、それぞれのライフステージで股関節の状態は異なります。

ここでは、年齢による股関節の変化について見ていきます。

幼少期から青年期の股関節の発達

出生時の股関節はまだ軟骨成分が多く、骨格も未熟です。特に寛骨臼の発育が不十分な場合があり、これを「臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)」と呼びます。

歩行を開始し、活発に動くようになるにつれて、骨格は徐々に成熟し、安定した股関節が形成されます。この時期に適切な発達を遂げることが、生涯にわたる股関節の健康の土台となります。

成人期における股関節の変化

成人期に入ると股関節は完成しますが、スポーツや仕事など、日々の活動による負荷が蓄積し始めます。特に女性は、骨盤の形状から股関節に負担がかかりやすい傾向があります。

この時期の過度な負担や体重の増加は、将来的な股関節の不調につながる可能性があるため、注意が必要です。

男女の骨盤形状の違いと股関節への影響

比較項目男性の骨盤女性の骨盤
全体の形状縦長で狭い横に広く低い
寛骨臼の向きやや前向きより前向きの傾向
股関節への影響比較的安定している可動域が広いが、負担もかかりやすい

高齢期に起こりやすい変化

高齢期になると、長年の使用により関節軟骨がすり減ったり、骨がもろくなったり(骨粗鬆症)、筋力が低下したりと、様々な変化が現れます。

これらの変化は「変形性股関節症」の主な原因となります。また、骨粗鬆症が進行すると、転倒などの軽い衝撃でも大腿骨頚部骨折といった重大な怪我につながりやすくなります。

この時期の変化を正しく理解し、適切に対処することが健康寿命を延ばす鍵となります。

変化のサインを見逃さないために

股関節の変化は、初期の段階では自覚症状が乏しいことも少なくありません。

「なんとなく足の付け根がだるい」「長時間歩くと疲れる」といった些細なサインが、実は股関節からのSOSである可能性があります。

特に、臼蓋形成不全の既往がある方は、中年期以降に症状が現れやすいことが知られています。

自身の身体の変化に注意を払い、気になることがあれば早めに専門家へ相談することが大切です。

股関節の不調が引き起こすサイン

股関節に何らかの問題が生じると、身体は様々なサインを発します。痛みはその代表的なものですが、それ以外にも動きの悪さや歩き方の変化など、注意すべき兆候は多岐にわたります。

これらのサインに早期に気づくことが、問題の悪化を防ぐために重要です。

痛みの出る場所と特徴

股関節の痛みは、「足の付け根(鼠径部)」に感じることが最も一般的です。

しかし、時にはお尻や太ももの前面、膝のあたりに痛みを感じることもあり、股関節の問題とは気づきにくいケースもあります。

痛みは、歩き始めや立ち上がる時などの「動き始め」に強く感じたり、長時間歩いた後に増強したりするなど、特徴的な現れ方をすることが多いです。

痛みの場所と考えられる原因

痛みの主な場所考えられる主な状態痛みの特徴
足の付け根(鼠径部)変形性股関節症、関節唇損傷など動かし始めの痛み、深く曲げた時の痛み
お尻(殿部)腰からの関連痛、梨状筋症候群など座っていると痛む、しびれを伴うことがある
太もも・膝股関節からの関連痛股関節の動きで膝周りが痛む

関節の動きの制限(可動域制限)

痛みに伴い、あるいは痛みよりも先に、股関節の動きが悪くなることがあります。

これを「可動域制限」と呼びます。具体的には、「あぐらがかけない」「靴下が履きにくい」「足の爪が切りにくい」といった症状で自覚されます。

特に、内側に脚をひねる動き(内旋)や、横に開く動き(外転)が制限されやすい傾向があります。

この動きの制限は、関節軟骨のすり減りや、関節内の炎症、骨の変形などが原因で起こります。

歩行時の異常(跛行)

股関節に問題があると、無意識のうちに痛みをかばうような歩き方になります。これを「跛行(はこう)」と呼びます。

痛い方の足で地面を踏んでいる時間が短くなったり、身体を左右に揺らすように歩いたりするのが特徴です。

跛行は、単に見た目の問題だけでなく、反対側の足や腰にも余計な負担をかけるため、二次的な痛みを引き起こす原因にもなります。

日常生活で感じる具体的な困難

股関節の不調は、日常生活の様々な場面で具体的な困難として現れます。最初は些細な不便さでも、進行すると生活の質を大きく損なうことになりかねません。

どのような時に不便を感じるか、意識してみることが大切です。

股関節の不調で困難になる動作の例

  • 和式トイレの使用や正座
  • 階段の上り下り
  • 車の乗り降り
  • 長い距離の歩行

整形外科で扱う代表的な股関節の疾患

股関節の痛みや不調を引き起こす原因は様々です。整形外科では、問診、身体所見、そしてレントゲンやMRIなどの画像検査を通じて原因を特定し、それぞれの状態に応じた対応を考えます。

ここでは、外来でよく見られる代表的な股関節の疾患について紹介します。

変形性股関節症

加齢や体重増加、あるいは臼蓋形成不全などを背景として、関節軟骨がすり減り、骨の変形が生じる疾患です。日本の股関節疾患の中で最も頻度が高く、特に中高年の女性に多く見られます。

初期は立ち上がりや歩き始めに軽い痛みを感じる程度ですが、進行すると持続的な痛みや可動域制限が強くなり、日常生活に大きな支障をきたします。

変形性股関節症の進行度

進行度レントゲン所見主な自覚症状
初期関節の隙間がわずかに狭くなる動き始めの痛み、だるさ
進行期軟骨がすり減り、骨棘ができる持続的な痛み、可動域制限
末期関節の隙間がなくなり、骨が変形する安静時痛、強い可動域制限、跛行

大腿骨頭壊死症

大腿骨頭への血流が悪くなることで、骨の組織が壊死し、骨が潰れてしまう病気です。

ステロイド剤の多量使用やアルコールの多飲が関連することがありますが、原因が不明な「特発性」のものも多く、比較的若い世代にも発症します。

初期は症状がないこともありますが、壊死した範囲が潰れる(陥没する)と、急に強い痛みが生じ、関節機能が著しく低下します。

関節リウマチによる股関節障害

関節リウマチは、自己免疫の異常により全身の関節に炎症が起こる病気です。股関節に発症すると、関節を包む滑膜が腫れて増殖し、軟骨や骨を破壊していきます。

両方の股関節に同時に症状が現れることも少なくありません。

近年は薬物療法の進歩により、病気の進行をうまくコントロールできるようになってきましたが、発見が遅れると関節の破壊が進行してしまいます。

股関節周辺の骨折(大腿骨頚部骨折など)

高齢者が転倒した際に起こりやすい骨折の代表例が、大腿骨の付け根部分で折れる「大腿骨頚部骨折」や「大腿骨転子部骨折」です。

これらの骨折は、強い痛みを伴い、ほとんどの場合、自力で立つことができなくなります。

骨折をきっかけに寝たきりになってしまうことも少なくないため、早期の手術とリハビリテーションが非常に重要です。骨粗鬆症がある方は、特に注意が必要です。

股関節の健康を維持するためのセルフケア

股関節の健康を長く保つためには、医療機関での治療だけでなく、日々の生活習慣を見直すことも非常に大切です。

体重管理や適度な運動、正しい身体の使い方を意識することで、股関節への負担を減らし、症状の悪化を防ぐことができます。

ここでは、自分で取り組めるセルフケアのポイントを紹介します。

適度な運動の重要性

股関節の周りの筋力を維持し、関節の動きを滑らかに保つためには、適度な運動が効果的です。ただし、ジャンプや急な方向転換など、股関節に強い衝撃がかかる運動は避けるべきです。

水中での運動や自転車など、体重の負荷が少ない運動から始めるのが良いでしょう。運動は関節液の循環を促し、軟骨に栄養を届ける助けにもなります。

股関節に優しい運動の例

  • 水中ウォーキングや水泳
  • エアロバイク(固定式自転車)
  • ゆっくりとしたストレッチ

体重管理と食生活

体重が1kg増えると、歩行時の股関節への負担は約3〜4kg増えるといわれています。適正な体重を維持することは、股関節への負担を直接的に軽減する最も効果的な方法の一つです。

バランスの取れた食事を心がけ、過食を避けることが重要です。骨の健康を保つために、カルシウムやビタミンD、ビタミンKなどを意識して摂取することも良いでしょう。

股関節の負担を減らす体重管理

項目内容股関節への影響
適正体重の維持BMI(体格指数)を25未満に保つ関節にかかる機械的なストレスを軽減する
バランスの良い食事タンパク質、ビタミン、ミネラルを摂取筋肉や骨の健康を維持し、関節を支える力を保つ
急激な減量の回避筋肉を落とさないよう運動と並行する筋力低下を防ぎ、関節の安定性を損なわない

正しい姿勢と動作の心がけ

日常生活の何気ない動作でも、意識することで股関節への負担は大きく変わります。

例えば、椅子から立ち上がる時は、浅く腰掛けてから片足を少し後ろに引き、テーブルなどに手をついてゆっくりと立つと、股関節への負担を減らせます。

床の物を拾う時は、膝を曲げて腰を落とすようにしましょう。

日常動作での注意点

動作負担の少ない方法避けるべき方法
椅子からの立ち上がり浅く腰掛け、テーブルに手をついて立つ深い椅子から勢いをつけて立つ
床の物を拾う膝をしっかり曲げ、腰を落として拾う膝を伸ばしたまま前屈みになる
歩行歩幅をやや小さくし、かかとから着地する大股で歩く、すり足で歩く

靴選びのポイント

足元が不安定だと、股関節を含む下半身全体に余計な負担がかかります。靴を選ぶ際は、かかとがしっかりとホールドされ、衝撃を吸収するクッション性の良いものを選びましょう。

ハイヒールのように不安定な靴や、靴底が硬すぎる靴は、長時間の使用を避けるのが賢明です。足に合った靴を正しく履くことが、股関節を守る第一歩となります。

股関節と全身の健康との関わり

股関節は、単に脚を動かすためだけの部品ではありません。身体の中心に位置するこの関節の健康は、姿勢、他の関節の状態、そして心身全体の活動性にまで深く関わっています。

股関節の不調が、いかに全身へと影響を及ぼすかを知ることは、その重要性を再認識する上で助けとなります。

膝や腰への影響

股関節の動きが悪くなると、その動きを補うために、すぐ隣にある膝関節や腰(腰椎)に過剰な負担がかかります。

例えば、股関節が十分に曲がらない状態で椅子に座ろうとすると、骨盤を後ろに倒して背中を丸めることで代償しようとします。

このことにより、腰痛を引き起こすことがあります。また、痛みをかばって歩くことで、反対側の膝に負担が集中し、膝の痛みを誘発することもあります。

全身のバランスと姿勢の崩れ

股関節は、骨盤の傾きをコントロールし、身体の左右のバランスを保つ上で重要な役割を果たします。

片側の股関節に問題が生じると、骨盤が傾き、それを補正するために背骨が曲がり、結果として全身の姿勢が崩れてしまいます。

姿勢の悪化は、見た目の問題だけでなく、肩こりや頭痛、さらには内臓の機能低下につながる可能性も指摘されています。

活動量の低下がもたらす健康リスク

股関節の痛みや機能低下がもたらす最も大きな問題の一つは、「活動量の低下」です。歩くことが億劫になると、外出の機会が減り、運動不足になります。

この活動量の低下は、肥満、高血圧、糖尿病といった生活習慣病のリスクを高めるだけでなく、さらなる筋力低下や骨密度の低下を招き、悪循環に陥ります。

活動量低下による二次的な問題

領域具体的なリスク影響
身体的側面生活習慣病、心肺機能低下、サルコペニア全身の健康状態の悪化
骨・筋肉骨粗鬆症の進行、さらなる筋力低下転倒・骨折リスクの増大
精神的側面社会的孤立、抑うつ状態生活の質の低下

心の健康への影響

「自由に歩ける」「行きたい場所へ行ける」という能力は、私たちが自立した生活を送る上で、自信や満足感の源となります。

股関節の不調によって行動が制限されると、社会的な交流が減り、孤立感を深めたり、気分が落ち込んだりすることがあります。

身体の痛みは、心の健康にも密接に結びついており、QOL(生活の質)を維持するためには、身体機能の維持が非常に大切です。

よくある質問

股関節について、患者さんから日々の診療でよくいただく質問があります。皆様が抱える疑問や不安を解消するため、代表的な質問とその回答をここにまとめました。

ご自身の状態を理解する上での参考にしてください。

股関節がポキポキ鳴るのは問題ないか

痛みを伴わない場合、股関節が鳴る音の多くは生理的なもので、あまり心配する必要はありません。関節の周りの腱や筋肉が骨の上を通過する際に弾ける音であることがほとんどです。

ただし、音と共に痛みや引っかかり感がある場合は、関節唇の損傷や、軟骨のかけら(関節内遊離体)などが原因である可能性も考えられるため、一度整形外科で相談することをお勧めします。

どのような時に整形外科を受診すべきか

我慢できる程度の痛みであっても、症状が続いたり、悪化したりするようであれば、早めに専門医の診察を受けることが重要です。

特に、以下のようなサインが見られる場合は、受診を検討してください。早期に原因を特定し、適切な対処を始めることが、将来の関節機能を守ることにつながります。

受診を検討するべき症状

  • 足の付け根の痛みが2週間以上続いている
  • だんだんと痛みが強くなってきた
  • 歩く時に足を引きずるようになった
  • 靴下を履く、爪を切るなどの動作がやりにくくなった

湿布やサプリメントは効果があるのか

湿布は、炎症による痛みを一時的に和らげる効果(消炎鎮痛効果)が期待できます。痛みが辛い時の対症療法としては有効ですが、疾患の根本的な原因を治すものではありません。

一方、コンドロイチンやグルコサミンなどのサプリメントについては、その効果を裏付ける質の高い科学的根拠は、現時点では十分とは言えません。

これらに頼りすぎるのではなく、まずは医療機関で正確な状態を把握することが大切です。

一般的な対処法の比較

対処法期待できること注意点
湿布薬一時的な痛みの緩和根本的な解決にはならない
サプリメント気休め程度(効果は不明確)過度な期待はせず、補助的に考える
運動療法筋力維持、可動域改善専門家の指導のもと、正しく行うことが重要

運動はどのくらいすれば良いか

運動の適切な量や強度は、個人の年齢、体力、そして股関節の状態によって大きく異なります。一概に「毎日30分」といった基準があるわけではありません。

重要なのは、「痛みが出ない範囲で、継続すること」です。

まずは水中ウォーキングや固定式自転車など、負担の少ない運動を週に2〜3回、1回15〜20分程度から始めてみて、身体の反応を見ながら徐々に調整していくのが良いでしょう。

やり方がわからない場合や不安な場合は、自己判断で行わず、かかりつけの医師や理学療法士に相談してください。

以上

参考文献

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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