足立慶友医療コラム

膝の腫瘍における良性と悪性の違いと見分け方

2025.07.15

膝に原因不明の腫れやしこり、長引く痛みを感じると、「何か悪いものではないか」と不安になる方は少なくありません。

特に「膝のガン」という言葉が頭をよぎることもあるでしょう。膝にできる腫瘍には、命に関わらない「良性腫瘍」と、ガンである「悪性腫瘍」の二種類が存在します。

この記事では、膝の腫瘍に関する基本的な知識から、良性と悪性の症状に見られる違い、ご自身で注意すべき点、そして医療機関で行う専門的な検査や治療法までを詳しく解説します。

膝の腫瘍とは何か 基本的な知識

まず、膝にできる「腫瘍」とはどのようなものなのか、基本的な事柄から理解を深めていきましょう。

私たちの体を構成する細胞が、何らかの原因で異常に増殖することで形成される塊が腫瘍です。膝関節周辺の骨や、筋肉、脂肪、神経といった軟部組織のどちらにも発生する可能性があります。

多くの場合は良性ですが、中には悪性のもの、いわゆる「膝のガン」も存在するため、正確な知識を持つことが重要です。

ここでは、腫瘍の定義や種類、そして良性と悪性の根本的な違いについて解説します。

腫瘍の定義と発生部位

腫瘍とは、体の正常な制御を離れて細胞が過剰に増殖した塊のことです。

膝関節周辺では、大腿骨(太ももの骨)、脛骨(すねの骨)、膝蓋骨(膝のお皿)といった骨自体にできる「骨腫瘍」と、筋肉、脂肪、血管、神経、関節を包む膜などにできる「軟部腫瘍」に大別します。

膝は骨腫瘍、軟部腫瘍ともに発生しやすい部位の一つとして知られています。これらの腫瘍が膝の痛みや腫れ、関節の動かしにくさといった症状を引き起こすことがあります。

膝に腫瘍ができる原因

膝に腫瘍が発生する明確な原因は、多くの場合まだ解明されていません。

遺伝子の異常が関与していると考えられていますが、なぜ特定の人の特定の部位に腫瘍ができるのか、その詳細な発生機序は研究段階です。

一部のまれな遺伝性疾患では骨腫瘍が発生しやすいことが知られていますが、ほとんどの膝の腫瘍は遺伝とは関係なく偶発的に発生します。

過去のケガや特定の生活習慣が直接的な原因となるという科学的な根拠は、現在のところ確立していません。

良性腫瘍と悪性腫瘍(ガン)の根本的な違い

腫瘍を理解する上で最も重要なのが、良性と悪性の違いです。この二つは性質が全く異なります。良性腫瘍は増殖が比較的緩やかで、発生した場所にとどまります。

周囲の組織を押しのけるように大きくなることはあっても、染み込むように破壊(浸潤)したり、体の他の場所に飛び火(転移)したりすることはありません。

一方、悪性腫瘍(ガン)は増殖スピードが速く、周囲の正常な組織を破壊しながら広がります。

さらに、血管やリンパ管を通って肺などの遠くの臓器に転移し、新たな腫瘍を作ることがあります。この転移する能力が、悪性腫瘍が生命を脅かす最大の理由です。

良性腫瘍と悪性腫瘍の比較

性質良性腫瘍悪性腫瘍(ガン)
増殖の速さゆっくり速いことが多い
周囲への影響圧迫するが破壊はしない破壊しながら広がる(浸潤)
転移しないする可能性がある

膝の良性腫瘍によく見られる症状

膝にできる腫瘍の多くは良性です。良性腫瘍は悪性腫瘍(ガン)に比べて症状の進行が穏やかで、特徴的なサインを示すことがあります。

しかし、良性であっても痛みや機能障害の原因となるため、決して軽視はできません。

ここでは、膝の良性腫瘍でよく見られる痛みの特徴や腫れの状態、関節の動きへの影響について解説し、代表的な良性腫瘍についても紹介します。

痛みの特徴

良性腫瘍による膝の痛みは、悪性腫瘍に比べて軽いことが多いです。特徴的なのは、体を動かした時や膝に体重がかかった時に痛みを感じ、休むと和らぐ「動作時痛」が中心である点です。

夜間や安静にしている時に強い痛みで目が覚める、ということは比較的少ない傾向にあります。

ただし、腫瘍が大きくなって神経を圧迫したり、骨の強度が低下して微小な骨折を起こしたりすると、痛みが強くなることもあります。

良性腫瘍における痛みの傾向

項目特徴補足
痛みの強さ軽度から中等度腫瘍の種類や大きさによる
痛むタイミング運動時や荷重時安静にすると軽快することが多い
痛みの変化長期間、変化が少ない急激に悪化することはまれ

腫れやしこりの状態

膝の腫れやしこりも、良性腫瘍の重要な症状の一つです。良性腫瘍はゆっくりと大きくなるため、腫れやしこりに気づくまで数ヶ月から数年かかることも少なくありません。

触ってみると、しこりの境界が比較的はっきりしており、表面が滑らかで、動かそうとすると少し動くことがあります。

ただし、体の深い部分にできた腫瘍は、外からではしこりとして触れにくく、膝全体の腫れとして感じることがあります。

関節の動きへの影響

腫瘍が膝関節の近くにできると、関節の動きに影響が出ることがあります。

特に、腫瘍が大きくなると物理的に関節の動きを妨げ、「膝が完全に曲がらない」「伸ばしきれない」といった可動域制限が生じます。

また、痛みを避けるために無意識に膝をかばうことで、関節が硬くなってしまうこともあります。運動時に引っかかりを感じる、といった症状で気づく場合もあります。

代表的な膝の良性腫瘍

膝の周辺には、様々な種類の良性腫瘍が発生する可能性があります。ここでは、比較的よく見られる代表的なものをいくつか紹介します。

  • 骨巨細胞腫(こつきょさいぼうしゅ)
  • 内軟骨腫(ないなんこつしゅ)
  • 骨軟骨腫(こつなんこつしゅ)
  • 線維性骨異形成(せんいせいこついけいせい)

これらの腫瘍は、それぞれ発生しやすい年齢や部位、画像検査での見え方に特徴があります。

例えば、骨巨細胞腫は20代から40代の成人の膝周辺の骨に好発し、骨を溶かす性質があるため、痛みや病的骨折(腫瘍によって弱くなった骨が折れること)の原因となりやすいです。

良性ですが、再発しやすく、まれに悪性化することもあるため注意深い経過観察が必要です。

膝の悪性腫瘍(ガン)で警戒すべき症状

膝にできる悪性腫瘍、すなわち「膝のガン」は、良性腫瘍とは対照的に進行が速く、生命に関わる可能性があるため、早期発見と早期治療が極めて重要です。

悪性腫瘍の症状は、良性腫瘍よりも強く、特徴的なサインを示すことが多くあります。これらの警戒すべき症状を知っておくことは、万が一の際に迅速な行動をとるために役立ちます。

ここでは、膝のガンで特に注意したい症状について詳しく解説します。

安静時にも続く強い痛み

悪性腫瘍の最も特徴的な症状の一つが、安静時にも軽快しない持続的な痛みです。特に、夜間に痛みが強くなり、眠りを妨げられるほどの「夜間痛」は、悪性腫瘍を強く疑うサインです。

運動している時だけでなく、じっとしていてもズキズキとした痛みが続く場合は、単なる関節痛や筋肉痛とは異なる可能性を考える必要があります。

この痛みは、腫瘍が骨を破壊したり、周囲の神経に浸潤したりすることによって生じます。

悪性腫瘍における痛みの傾向

項目特徴補足
痛みの強さ中等度から高度徐々に増強していく
痛むタイミング安静時、特に夜間鎮痛薬が効きにくいことがある
痛みの変化数週間から数ヶ月で悪化進行性の痛みが特徴

急速に大きくなる腫れ

悪性腫瘍は細胞増殖のスピードが速いため、膝の腫れやしこりが数週間から数ヶ月という短期間で目に見えて大きくなります。

「先月は気にならなかったのに、今月は明らかに腫れている」といった急速な変化は、警戒すべきサインです。

腫れている部分に熱感があったり、皮膚の表面の血管が浮き出て見えたりすることもあります。しこりの境界は不明瞭で、周囲の組織と固く癒着しているように感じることが多いです。

全身に現れる症状

膝のガンが進行すると、膝の局所的な症状だけでなく、全身にも影響が及ぶことがあります。

これは、ガン細胞が体全体のエネルギーを消費したり、体の状態を変化させる物質を放出したりするためです。

思い当たる原因がないのに、以下のような症状が見られる場合は注意が必要です。

  • 体重減少
  • 原因不明の発熱
  • 全身の倦怠感(だるさ)
  • 食欲不振

これらの全身症状は、膝の腫瘍だけでなく他の病気でも見られますが、膝の痛みや腫れと同時に現れた場合は、悪性腫瘍の可能性を念頭に置く必要があります。

代表的な膝の悪性腫瘍

膝周辺に発生する悪性腫瘍にもいくつかの種類があります。代表的なものは骨に発生する「骨肉腫」や軟骨に由来する「軟骨肉腫」です。

  • 骨肉腫(こつにくしゅ)
  • 軟骨肉腫(なんこつにくしゅ)
  • ユーイング肉腫

特に骨肉腫は、10代の若年層の膝周辺に最も多く発生する代表的な骨のガンです。活発な成長期に起こるため、成長痛と間違えられやすいこともあり、注意が必要です。

初期症状として持続的な痛みや腫れが見られます。早期に発見し、化学療法(抗がん剤治療)と手術を組み合わせた治療を行うことで、治療成績は大きく向上します。

良性と悪性の見分け方と自己チェックの限界

膝の痛みや腫れに気づいたとき、それが良性なのか悪性なのか、ご自身である程度見分けることができればと思うのは自然なことです。

症状の進行スピードや痛みの性質など、注意深く観察することで推測の手がかりになる点は確かに存在します。

しかし、症状だけで良性・悪性を完璧に判断することは専門医でも難しく、自己判断には大きな危険が伴います。

ここでは、見分けるためのポイントと、なぜ専門医の診断が重要なのかを解説します。

症状の進行スピードに注目する

良性腫瘍と悪性腫瘍を見分ける上での一つの大きな手がかりは、症状が進行する速さです。

一般的に、良性腫瘍は数年単位でゆっくりと大きくなるのに対し、悪性腫瘍は数週間から数ヶ月という短い期間で急速に増大します。

膝の腫れやしこりが、短期間で明らかに大きくなっていると感じる場合は、悪性を疑う重要な所見です。

痛みの強さも同様で、日に日に痛みが強まっていく、あるいは痛みの範囲が広がっていくような場合は注意が必要です。

痛みの性質を比較する

痛みの性質も、良性と悪性を考える上での参考になります。前述の通り、良性腫瘍の痛みは体を動かした時に起こりやすく、休むと楽になることが多いです。

一方、悪性腫瘍の痛みは、じっとしていても、特に夜寝ている間にも続くのが特徴です。この違いは、腫瘍が周囲の組織にどう影響しているかを反映しています。

良性腫瘍は主に圧迫による刺激で痛みますが、悪性腫瘍は組織を破壊しながら浸潤していくため、持続的で強い痛みを生じさせます。

痛みの性質による比較の目安

比較項目良性を疑う傾向悪性を疑う傾向
痛む状況動いた時、体重をかけた時安静時、夜間
痛みの経過長期間、同程度の痛み短期間で急激に悪化
鎮痛薬の効果比較的効きやすい効きにくいことがある

自己判断の危険性と専門医受診の重要性

これらのポイントはあくまで一般的な傾向であり、例外も多く存在します。

例えば、良性腫瘍でも急に大きくなったり強い痛みを伴ったりすることもありますし、逆に進行の遅い悪性腫瘍も存在します。

症状だけで「これは良性だろう」と自己判断してしまうことには、大きな危険が伴います。

もし悪性腫瘍であった場合、診断が遅れることで治療の選択肢が狭まったり、治療がより困難になったりする可能性があるからです。

膝の腫瘍、特に悪性腫瘍(膝のガン)の診断と治療は非常に専門性が高く、整形外科の中でも特に「骨・軟部腫瘍」を専門とする医師が担当します。

気になる症状があれば、決して自己判断で放置せず、できるだけ早く専門の医療機関を受診することが何よりも大切です。

医療機関で行う専門的な検査方法

膝の腫れや痛みといった症状で医療機関を受診すると、正確な診断を下すために段階的に専門的な検査を行います。

診断の目的は、まず腫瘍の有無を確認し、もし腫瘍があった場合には、それが良性か悪性か、どのような種類の腫瘍なのかを特定することです。

このことにより、最適な治療方針を決定できます。ここでは、医療機関で行われる一般的な検査の流れと、それぞれの検査の役割について解説します。

問診と触診

検査の第一歩は、医師による問診と触診です。問診では、いつからどのような症状があるのか、症状は時間とともにどう変化しているか、過去の病気やケガについてなど、詳しく話を聞きます。

特に、痛みの性質(安静時痛、夜間痛の有無)や腫れの進行スピードは、良性と悪性を鑑別する上で重要な情報となります。

その後、医師が膝を直接見て、触って状態を確認します。腫れの大きさ、硬さ、熱感の有無、しこりが動くかどうか、関節の動きはどうかなどを丁寧に診察します。

画像検査の種類と役割

問診と触診で腫瘍が疑われた場合、次に画像検査を行います。

画像検査にはいくつかの種類があり、それぞれ得られる情報が異なるため、目的に応じて使い分けたり組み合わせたりします。

レントゲン(X線)検査

レントゲン検査は、骨の状態を調べるための最も基本的な画像検査です。

骨にできた腫瘍の場合、骨が溶けている(骨破壊)、骨が異常に作られている(骨形成)、腫瘍の境界がはっきりしているか不明瞭か、といった特徴的な所見が捉えられます。

このレントゲン画像から、多くの骨腫瘍の種類をある程度推測することが可能です。

軟部腫瘍の場合はレントゲンには直接写りませんが、腫瘍内に石灰化(カルシウムの沈着)がある場合や、腫瘍が骨に影響を及ぼしている場合にその変化を捉えることができます。

CT検査

CT検査は、レントゲンを応用して体の断面を撮影する検査です。レントゲンよりも詳細に骨の微細な変化を捉えることができます。

特に、腫瘍による骨の破壊の範囲や、腫瘍内部の石灰化の様子などを立体的に評価するのに優れています。手術計画を立てる際にも重要な情報を提供します。

MRI検査

MRI検査は、磁気と電波を使って体の内部を撮影する検査です。骨だけでなく、筋肉、脂肪、神経、靭帯、関節軟骨といった軟部組織の状態を非常に詳しく描き出すことができます。

腫瘍の正確な大きさや広がり、周囲の重要な組織(血管や神経)との位置関係を把握するために極めて重要です。

この検査により、腫瘍が骨の中にとどまっているのか、周囲の軟部組織にまで広がっているのかを詳細に評価できます。

良性か悪性かの鑑別においても、MRIの画像パターンは多くの情報を提供してくれます。

画像検査の役割分担

検査方法主な役割わかることの例
レントゲン骨腫瘍の初期評価骨の破壊・形成、腫瘍の大まかな性質
CT骨の詳細な評価微細な骨構造、石灰化の様子
MRI軟部組織と腫瘍の広がり評価腫瘍の正確な範囲、周囲組織への影響

確定診断のための生検(組織検査)

問診、触診、画像検査の結果、悪性腫瘍が強く疑われる場合や、良性か悪性かの判断が難しい場合には、確定診断のために「生検」を行います。

生検とは、腫瘍の一部を採取し、それを顕微鏡で詳しく調べる病理検査のことです。この検査によって、腫瘍細胞の顔つき(悪性度)や種類を最終的に確定します。

生検には、針を刺して組織を採取する方法(針生検)と、皮膚を切開して組織を採取する方法(切開生検)があります。

悪性腫瘍の治療において、生検は極めて重要な手技であり、後の治療に影響を与えないよう、腫瘍専門医が慎重に行います。

膝の腫瘍における治療法の選択肢

膝の腫瘍の治療法は、診断の結果、つまり腫瘍が良性か悪性か、またその種類や進行度によって大きく異なります。

治療の目標は、良性であれば症状を取り除き機能回復を目指すこと、悪性であれば腫瘍を完全に取り除き、生命を救い、可能な限り膝の機能を温存することにあります。

ここでは、良性腫瘍と悪性腫瘍、それぞれの代表的な治療法の選択肢について概説します。

良性腫瘍の治療

良性腫瘍の治療方針は、腫瘍の種類、大きさ、場所、そして症状の有無によって決まります。

症状がなく、偶然発見されたような小さな良性腫瘍の場合は、すぐに手術をせず、定期的な画像検査で大きさなどに変化がないかを確認する「経過観察」を選択することもあります。

しかし、痛みが強い場合や、腫瘍が大きくて将来的に病的骨折のリスクがある場合、関節の動きを妨げている場合などには手術的な治療を検討します。

良性腫瘍の主な治療法

治療法内容対象となる主なケース
経過観察手術はせず定期的に検査無症状で小さい腫瘍
掻爬術(そうはじゅつ)腫瘍を掻き出し、空洞を骨セメントなどで充填骨巨細胞腫など
切除術腫瘍を周囲の組織ごと切除再発リスクが高い腫瘍

悪性腫瘍の治療

悪性腫瘍(膝のガン)の治療は、複数の治療法を組み合わせた「集学的治療」が基本となります。治療の三本柱は「手術」「化学療法(抗がん剤)」「放射線治療」です。

どの治療法をどのように組み合わせるかは、腫瘍の種類(組織型)、悪性度、進行度(ステージ)、患者さんの年齢や全身状態などを総合的に考慮して、専門家チームが慎重に決定します。

悪性腫瘍の主な治療法

治療法内容主な目的
手術腫瘍を周囲の正常組織を含めて切除(広範切除)局所の腫瘍を完全に取り除く
化学療法抗がん剤を点滴などで全身に投与目に見えない微小転移の根絶、手術補助
放射線治療高エネルギーの放射線を照射してガン細胞を破壊手術が困難な場合、痛みの緩和

手術では、腫瘍を再発しないように周囲の正常な組織で包み込むように切除する「広範切除術」が原則です。

骨や関節を大きく切除した後は、人工関節や自分の体の一部(骨など)を用いて再建手術を行い、できるだけ元の機能を取り戻すことを目指します(患肢温存手術)。

骨肉腫などの化学療法が有効な腫瘍では、手術前に化学療法を行って腫瘍を小さくし、手術後に再発予防のための化学療法を追加することが標準的な治療となっています。

治療法を決定する上で考慮する要素

最終的な治療方針は、医学的な情報だけでなく、患者さん本人の価値観やライフスタイルも考慮して決定します。

医師は、病状、各治療法の利点と欠点、予想される結果や副作用について十分に説明します。その上で、患者さんとその家族が納得できる最善の道を選択していくことが重要です。

特に悪性腫瘍の治療は長期間にわたることが多く、身体的、精神的、社会的なサポート体制を整えることも治療の一環として考えます。

膝の腫瘍に関するよくある質問(Q&A)

ここでは、膝の腫瘍に関して患者さんやそのご家族からよく寄せられる質問について、Q&A形式でお答えします。不安や疑問の解消に役立ててください。

子供や若い人でも膝の腫瘍になりますか?

はい、なります。むしろ、膝周辺にできる骨腫瘍の中には、子供や10代、20代の若年層に特有の種類が多く存在します。代表的な悪性腫瘍である骨肉腫は、10代の成長期に好発します。

また、良性腫瘍である骨軟骨腫や内軟骨腫なども若年期に見つかることが多いです。

成長期の膝の痛みを「成長痛」と自己判断せず、痛みが長引く、腫れがある、片足だけ痛むといった場合は、一度専門医に相談することが大切です。

膝の打撲が腫瘍の原因になることはありますか?

膝を強くぶつけたことが直接的な原因となって、腫瘍が発生するという医学的な証拠はありません。

しかし、打撲をきっかけに医療機関を受診し、レントゲン検査を受けたことで、それまで気づかれていなかった腫瘍が偶然発見されることはよくあります。

打撲による痛みがなかなか引かない、腫れが異常に長引くといった場合には、打撲そのものの影響だけでなく、背景に別の病気が隠れている可能性も考えて検査をすることがあります。

治療後の生活はどうなりますか?

治療後の生活は、腫瘍の種類(良性か悪性か)や行われた治療の内容によって大きく異なります。小さな良性腫瘍の切除であれば、比較的早く元の生活に戻れることが多いです。

悪性腫瘍で広範切除術や人工関節による再建手術を行った場合は、機能回復のために長期間のリハビリテーションが必要です。

スポーツ活動などには一定の制限がかかることもありますが、多くの患者さんが日常生活を不自由なく送れるレベルまで回復することを目指します。

定期的な通院による経過観察は、再発や転移がないかを確認するために、治療後も長期間にわたって重要です。

どの診療科を受診すればよいですか?

膝の痛みや腫れ、しこりなど、腫瘍が疑われる症状に気づいた場合は、まず「整形外科」を受診してください。

整形外科は骨、関節、筋肉など運動器の専門家です。

近くの整形外科クリニックで初期的な診察やレントゲン検査を受け、もし骨・軟部腫瘍が疑われる所見があれば、より専門的な検査や治療が可能な大学病院やがん専門病院などの高次医療機関を紹介してもらうのが一般的な流れです。

最初から腫瘍を専門とする医師のいる大きな病院を探して受診することも一つの方法です。

以上

参考文献

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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