膝関節炎の症状と治療 – 日常生活での管理方法
膝の痛みは、多くの方が経験する身近な症状の一つです。特に「歩き始めが痛い」「階段の上り下りがつらい」と感じる場合、それは膝関節炎のサインかもしれません。
膝関節炎は、放置すると症状が進行し、日常生活に大きな支障をきたすこともあります。
しかし、その性質を正しく理解し、適切な対処を行うことで、痛みと上手に付き合っていくことは十分に可能です。
この記事では、膝関節炎の基本的な知識から、具体的な症状、病院で行う治療法、そしてご自身でできる日常生活での管理方法まで、幅広く、そして詳しく解説します。
目次
膝関節炎とは?その原因と種類
私たちの膝関節は、スムーズな歩行や立ち座りを可能にする重要な役割を担っています。この大切な関節に問題が生じる代表的な病気が膝関節炎です。
ここでは、膝関節炎がどのような病気で、何が原因で起こり、どのような種類があるのか、基本的な知識を解説します。ご自身の膝の状態を理解する第一歩として、ぜひお読みください。
膝関節炎の基本的な知識
膝関節炎は、膝関節の骨の表面を覆っている「関節軟骨」が、何らかの原因ですり減ったり傷ついたりすることで、関節内に炎症が起きて痛みや腫れを引き起こす病気の総称です。
関節軟骨は、骨同士が直接ぶつかるのを防ぐクッションの役割と、関節の動きを滑らかにする潤滑油のような役割を果たしています。
この軟骨がすり減ると、骨同士がこすれ合い、痛みが生じます。また、すり減った軟骨のかけらが関節を包む「滑膜」を刺激し、炎症を起こすことで水が溜まる(関節水腫)こともあります。
主な原因は加齢や体重増加
膝関節炎を引き起こす原因は一つではありませんが、最も一般的なものは加齢です。長年使い続けることで、関節軟骨が少しずつすり減っていきます。
また、体重の増加も膝への負担を大きくする主要な原因です。歩行時、膝には体重の約3倍の負荷がかかるといわれており、体重が5kg増えれば、膝への負荷は15kgも増える計算になります。
この他にも、過去の怪我(骨折や靭帯損傷、半月板損傷など)や、O脚・X脚といった脚の変形、仕事やスポーツによる膝の酷使なども原因となりえます。
膝関節炎の主な誘因
誘因 | 内容 | 膝への影響 |
---|---|---|
加齢 | 長年の使用による軟骨の摩耗 | クッション機能が低下し、痛みが出やすくなる |
体重増加 | 膝関節への物理的な負荷の増大 | 軟骨のすり減りを加速させる |
過去の怪我 | 骨折、靭帯・半月板損傷の後遺症 | 関節の不安定性が増し、特定の部分に負担が集中する |
代表的な膝関節炎の種類
膝関節炎にはいくつかの種類がありますが、代表的なものは「変形性膝関節症」と「関節リウマチ」です。
変形性膝関節症
膝関節炎の中で最も多く見られるのが変形性膝関節症です。主に加齢や肥満、筋力低下などが原因で関節軟骨がすり減り、炎症や変形が生じます。
特に内側の軟骨がすり減りやすく、進行するとO脚変形が進むことが多いのが特徴です。初期は立ち上がりや歩き始めに痛む程度ですが、進行すると安静時にも痛みが続くようになります。
関節リウマチ
関節リウマチは、自己免疫疾患の一つです。免疫システムが異常をきたし、自分自身の関節を攻撃してしまうことで炎症が起こります。
膝だけでなく、手首や足首、指の関節など、複数の関節で同時に症状が現れることが多いのが特徴です。朝起きた時に関節がこわばる「朝のこわばり」も代表的な症状です。
若い人でも起こりうる膝の痛み
膝関節炎は高齢者に多い病気というイメージがありますが、若い世代でも発症する可能性はあります。
スポーツによる膝の酷使や、靭帯損傷・半月板損傷といった外傷がきっかけで、将来的に変形性膝関節症に移行するケース(二次性変形性膝関節症)も少なくありません。
また、関節リウマチは30代から50代の女性に発症しやすい傾向があります。年齢に関わらず、膝の痛みが続く場合は注意が必要です。
膝関節炎の代表的な症状
膝関節炎の症状は、病気の進行度や個人の状態によってさまざまです。初期のわずかな違和感から、生活に大きな影響を及ぼすほどの強い痛みまで、その現れ方は多岐にわたります。
ここでは、膝関節炎の代表的な症状について、初期段階から進行期まで順を追って解説します。ご自身の症状と照らし合わせ、早期発見・早期対処につなげましょう。
初期症状を見逃さない
膝関節炎は、多くの場合、ゆっくりと進行します。そのため、初期のサインに気づきにくいこともあります。
しかし、この段階で対処を始めることが、その後の進行を遅らせる上で非常に重要です。以下のような症状に心当たりがないか、チェックしてみましょう。
- 立ち上がる時や歩き始める時に膝が痛む
- 長時間座った後、動き出す時に膝がこわばる
- 階段、特に下りる時に痛みを感じる
- 正座がしにくい、またはできなくなった
これらの症状は、動いているうちに軽快することが多いため、「年のせい」と見過ごされがちです。しかし、これらは関節軟骨が傷つき始めているサインかもしれません。
進行度による症状の変化
膝関節炎が進行すると、症状も変化していきます。初期の段階では動作の開始時に痛みを感じる程度ですが、進行するにつれて痛みの頻度や強さが増していきます。
病気の進行度と症状の一般的な関係を理解しておきましょう。
膝関節炎の進行度と主な症状
進行度 | 主な症状 | 日常生活への影響 |
---|---|---|
初期 | 動作開始時の痛み、こわばり | 長距離の歩行や階段で違和感を感じる程度 |
中期 | 階段昇降や歩行が常につらい、関節の可動域制限 | 正座が困難になり、日常生活の動作に支障が出始める |
末期 | 安静時痛、夜間痛、関節の著しい変形 | 歩行が困難になり、杖や手すりが必要になる |
痛み以外の症状(腫れ・熱感・こわばり)
膝関節炎の症状は痛みだけではありません。炎症が強くなると、膝が腫れたり、熱っぽく感じたりすることがあります。
これは「滑膜炎」を起こし、関節液が過剰に分泌されるために起こる現象で、いわゆる「膝に水が溜まる」状態です。
また、朝起きた時や長時間同じ姿勢でいた後に関節が動かしにくくなる「こわばり」もよく見られる症状です。
通常、このこわばりは少し動かすと改善しますが、関節リウマチの場合は1時間以上続くこともあります。
日常生活への影響
膝の痛みや機能低下は、徐々に日常生活のさまざまな場面に影響を及ぼします。最初は「少し歩きにくい」程度だったものが、進行すると買い物や掃除といった家事全般が困難になります。
さらに、外出が億劫になることで友人との交流が減ったり、趣味を楽しめなくなったりと、社会的な活動や精神面にも影響が及ぶことがあります。
膝の健康を保つことは、生活の質(QOL)を維持する上で非常に大切です。
膝関節炎の診断方法
膝の痛みが続く場合、まずは専門医の診察を受け、正確な診断を得ることが治療の第一歩です。
自己判断で様子を見たり、誤った対処を続けたりすると、かえって症状を悪化させる可能性があります。
ここでは、整形外科で一般的に行われる膝関節炎の診断の流れについて解説します。どのような検査が行われるのかを事前に知っておくことで、安心して診察に臨むことができます。
専門医による問診と視診・触診
診断は、まず医師が患者さんの話を詳しく聞く「問診」から始まります。
いつから、どのような時に、膝のどこが痛むのか、過去の怪我の有無、家族の病歴、現在行っている仕事やスポーツなど、できるだけ具体的に伝えることが重要です。
その後、医師が膝の状態を直接見て、触って確認します。腫れや熱感の有無、O脚などの変形の程度、押して痛む場所(圧痛点)、関節の動く範囲などを丁寧に診察し、痛みの原因を探ります。
問診で伝えるべきポイント
項目 | 伝える内容の例 |
---|---|
痛みの性質 | 「ズキズキ痛む」「重だるい感じ」「歩き始めだけ痛い」 |
症状の経過 | 「1ヶ月前から」「転んだ後から」「だんだん悪化している」 |
生活への影響 | 「階段が使えない」「10分以上歩けない」「正座ができない」 |
レントゲン(X線)検査の重要性
問診や診察の後は、レントゲン(X線)検査を行うのが一般的です。レントゲン検査は、骨の状態を確認するための基本的な検査であり、膝関節炎の診断において非常に重要です。
この検査により、関節の隙間の広さ(関節裂隙)を確認します。
軟骨そのものはレントゲンには写りませんが、軟骨がすり減ると骨と骨の間の隙間が狭くなるため、その程度から軟骨のすり減り具合を推測できます。
また、骨の変形(骨棘:こつきょく)の有無や、O脚・X脚の程度も評価することができます。
必要に応じて行う詳細な検査
レントゲン検査だけでは診断が難しい場合や、半月板や靭帯の損傷、あるいは他の病気が疑われる場合には、より詳細な検査を行います。
これらの検査は、より正確な診断と、適切な治療方針の決定に役立ちます。
主な追加検査
検査名 | 目的 | この検査でわかること |
---|---|---|
MRI検査 | 軟部組織(軟骨、半月板、靭帯など)の詳細な評価 | レントゲンでは見えない初期の軟骨損傷や半月板・靭帯の断裂 |
関節エコー(超音波)検査 | 滑膜の炎症の程度や水が溜まっているかの確認 | リアルタイムでの関節内部の炎症状態の評価 |
血液検査・関節液検査 | 関節リウマチや痛風、感染症など他の病気との鑑別 | 炎症反応の数値、リウマトイド因子、尿酸値、細菌の有無 |
自己判断の危険性
膝の痛みを感じても、「しばらくすれば治るだろう」と自己判断で放置してしまうことは大変危険です。
膝の痛みの原因は多岐にわたり、中には早期の治療が必要な病気も隠れている可能性があります。
例えば、細菌感染による化膿性関節炎は、急速に関節破壊が進行するため、緊急の対応が必要です。
正確な診断に基づいた適切な治療を受けるためにも、症状が続く場合はためらわずに専門医を受診しましょう。
膝関節炎の治療法 - 保存療法
膝関節炎の治療は、多くの場合、手術をしない「保存療法」から始めます。保存療法の目的は、痛みをコントロールし、病気の進行を遅らせ、膝の機能を維持・改善することです。
治療法は一つではなく、運動療法、物理療法、薬物療法、装具療法などを、患者さん一人ひとりの症状や状態に合わせて組み合わせて行います。
ここでは、保存療法の具体的な内容について詳しく見ていきましょう。
治療の基本となる運動療法
保存療法の中でも特に中心的な役割を果たすのが運動療法です。薬で一時的に痛みを抑えても、膝を支える力が弱いままだと、根本的な解決にはなりません。
運動によって膝周りの筋力を強化することで、関節への負担を減らし、安定性を高めることができます。特に、太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)を鍛えることは非常に重要です。
また、関節が硬くなるのを防ぎ、動きをスムーズにするためのストレッチも同時に行います。
代表的な運動療法の種類
運動の種類 | 主な目的 | 注意点 |
---|---|---|
筋力トレーニング | 膝関節の安定化、衝撃吸収能力の向上 | 膝に痛みが出ない範囲の負荷で行う |
ストレッチング | 関節可動域の維持・改善、筋肉の柔軟性向上 | 反動をつけず、ゆっくりと気持ちの良い範囲で伸ばす |
有酸素運動 | 体重管理、全身の血行促進、体力維持 | 水中ウォーキングやエアロバイクなど膝への負担が少ないものを選ぶ |
痛みを和らげる物理療法
物理療法は、温熱や電気などの物理的なエネルギーを利用して、痛みの緩和や血行の改善を図る治療法です。
運動療法や薬物療法と組み合わせて行うことで、より高い効果が期待できます。
- 温熱療法
- 寒冷療法
- 電気刺激療法
- 超音波療法
慢性的で鈍い痛みには、ホットパックなどで膝を温めて血行を良くする温熱療法が有効です。
一方、急な痛みや腫れ、熱感がある場合には、アイスパックなどで冷やして炎症を抑える寒冷療法が適しています。
どちらを選ぶべきかは症状によって異なるため、医師や理学療法士の指示に従いましょう。
薬物療法による症状のコントロール
痛みが強く、日常生活に支障が出ている場合には、薬物療法を行います。薬物療法は、あくまで症状を和らげるための対症療法であり、病気そのものを治すものではありません。
痛みを薬でコントロールしながら、その間に運動療法などを進めていくのが基本的な考え方です。
使用する薬には、飲み薬、貼り薬や塗り薬といった外用薬、そして関節内への注射があります。
飲み薬としては、まず比較的副作用の少ないアセトアミノフェンが使われ、効果が不十分な場合には非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が用いられます。
関節内注射には、関節の潤滑油の役割を果たすヒアルロン酸注射や、強い炎症を抑えるステロイド注射があります。
装具療法で膝の負担を軽減
装具療法は、サポーターや足底板(インソール)などを用いて、膝関節の安定性を高め、負担を軽減する方法です。
O脚変形が進んでいる場合には、膝の内側にかかる負担を軽減するために、靴の外側を高くする楔状の足底板が有効なことがあります。
また、膝関節用のサポーターは、膝を保温し、安定させることで安心感を与え、痛みを和らげる効果が期待できます。
ただし、長期間サポーターに頼りすぎると筋力が低下する可能性もあるため、運動療法と並行して行うことが大切です。
膝関節炎の治療法 - 手術療法
さまざまな保存療法を続けても症状が改善せず、痛みによって日常生活に大きな支障が生じている場合には、手術療法が選択肢となります。
手術と聞くと不安を感じるかもしれませんが、近年の手術技術の進歩は目覚ましく、多くの患者さんが痛みから解放され、活動的な生活を取り戻しています。
ここでは、代表的な手術療法の種類と、それぞれがどのような場合に適しているのかについて解説します。
手術を検討するタイミング
手術に踏み切るかどうかの判断は、レントゲン写真の進行度だけで決まるわけではありません。最も重要なのは、患者さん自身が膝の痛みによって「どれだけ生活に困っているか」です。
例えば、「痛くて夜も眠れない」「杖なしでは5分も歩けない」「趣味の旅行やスポーツを諦めなければならない」といった状況であれば、手術を前向きに検討する時期かもしれません。
年齢や活動レベル、全身の状態などを総合的に考慮し、医師と十分に相談した上で決定することが重要です。
関節鏡視下手術(クリーニング)
関節鏡視下手術は、関節に数ミリの小さな穴をいくつか開け、そこから関節鏡(内視鏡)と手術器具を挿入して行う低侵襲な手術です。
主に、傷ついた半月板のささくれを切除したり、炎症を起こしている滑膜を取り除いたり、関節内に浮遊している軟骨のかけら(関節ねずみ)を除去したりします。
この手術は、変形がまだ軽度で、半月板損傷などが痛みの主因と考えられる場合に良い適応となります。
体の負担が少なく、回復も早いのが利点ですが、すり減った軟骨を元に戻す手術ではないため、効果は一時的となる可能性もあります。
高位脛骨骨切り術
高位脛骨骨切り術(こういけいこつこつきりじゅつ)は、O脚変形が強い場合に適応となる手術です。
すねの骨(脛骨)の膝に近い部分で骨を切り、角度を調整して固定し直すことで、体重がかかるラインを膝の内側から外側へと移動させます。
このことにより、すり減って痛んでいる内側の軟骨への負担を減らし、まだ傷んでいない外側の軟骨に体重を分散させて痛みを和らげます。
自分の関節を温存できるため、術後もスポーツなどの活動が可能な点が大きな利点です。比較的活動性の高い、60代くらいまでの患者さんによく行われます。
人工膝関節置換術
人工膝関節置換術は、変形性膝関節症や関節リウマチによって傷んでしまった関節の表面を取り除き、金属やポリエチレンなどでできた人工の関節(インプラント)に置き換える手術です。
痛みの原因となる部分そのものを除去するため、除痛効果が非常に高く、多くの場合で劇的に痛みが改善します。
変形が強く、日常生活に著しい支障が出ている高齢の患者さんに最も良い適応となります。
手術後は、正座などの深い膝の曲げ伸ばしは難しくなりますが、通常の歩行や階段昇降は問題なく行えるようになります。
主な手術療法の比較
手術名 | 主な対象 | 特徴 |
---|---|---|
関節鏡視下手術 | 変形が軽度で、半月板損傷などが痛みの主因の場合 | 体への負担が少ないが、効果の持続性は限定的 |
高位脛骨骨切り術 | O脚変形があり、比較的活動性の高い若年〜中年層 | 自分の関節を温存でき、術後の活動制限が少ない |
人工膝関節置換術 | 変形が強く、痛みが激しい高齢者 | 除痛効果が非常に高く、安定した成績が期待できる |
日常生活でできる膝関節炎の管理とセルフケア
膝関節炎の治療は、病院で行うものだけではありません。日々の生活の中で少し工夫を凝らし、セルフケアを継続することが、痛みの管理と進行予防にはとても重要です。
医師の治療と両輪で取り組むことで、より良い状態を長く保つことができます。ここでは、今日からでも始められる、日常生活での管理方法とセルフケアのポイントをご紹介します。
適正体重の維持と減量
膝関節炎の管理において、体重コントロールは最も基本的かつ効果的な方法の一つです。
前述の通り、膝には体重の何倍もの負荷がかかるため、体重を減らすことは膝への負担を直接的に軽減します。
1kgの減量でも、膝への負担は歩行時に約3kg、階段昇降時にはさらに大きく減少します。
急激な減量は体に負担をかけるため、食事内容の見直しと、膝に負担の少ない運動(水中ウォーキングや自転車など)を組み合わせ、無理のない範囲で継続的に取り組むことが大切です。
膝に負担をかけない生活の工夫
日常生活の何気ない動作が、知らず知らずのうちに膝に負担をかけていることがあります。動作の方法や生活環境を少し見直すだけで、膝への負担は大きく変わります。
生活場面ごとの工夫
場面 | 工夫の例 | ポイント |
---|---|---|
床からの立ち座り | 椅子やベッド中心の生活に切り替える | 膝を深く曲げる動作を減らす |
階段の上り下り | 手すりを使い、痛くない方の足から上り、痛い方の足から下りる | 一段ずつゆっくりと昇降する |
靴選び | かかとが低く、クッション性の良い靴を選ぶ | 足に合ったサイズの靴で、足元を安定させる |
この他にも、和式トイレを洋式にしたり、重い荷物を持つ際はカートを利用したりするなど、さまざまな工夫が考えられます。
自分の生活スタイルに合わせて、できることから取り入れてみましょう。
自宅でできるストレッチと筋力トレーニング
痛みを恐れて動かさないでいると、関節はますます硬くなり、筋力も低下してしまいます。痛みがない、あるいは少ない範囲で、積極的に膝を動かすことが重要です。
特に、膝を支える太ももの筋肉(大腿四頭筋)やお尻の筋肉(殿筋群)を鍛える運動は、自宅で簡単に行うことができます。
- 太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)のトレーニング
- 太ももの後ろの筋肉(ハムストリングス)のストレッチ
- お尻の筋肉(殿筋群)のトレーニング
- ふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋)のストレッチ
例えば、椅子に座った状態で片足をゆっくりと水平まで持ち上げ、5秒ほど静止してからゆっくり下ろす運動は、大腿四頭筋を安全に鍛えるのに効果的です。
無理のない回数から始め、毎日続けることを目標にしましょう。
食生活で気をつけたいこと
特定の食品が膝関節炎を治すという科学的な証拠はまだありませんが、バランスの取れた食事は、健康な体作りと体重管理の基本です。
特に、骨や軟骨、筋肉の材料となる栄養素を意識して摂取することは、関節の健康をサポートする上で役立ちます。
膝の健康をサポートする栄養素
栄養素 | 主な働き | 多く含む食品 |
---|---|---|
カルシウム | 骨を丈夫にする | 牛乳、乳製品、小魚、大豆製品 |
ビタミンD | カルシウムの吸収を助ける | きのこ類、鮭、さんま |
タンパク質 | 筋肉や軟骨の材料となる | 肉、魚、卵、大豆製品 |
これらの栄養素をバランス良く摂ることを心がけ、暴飲食を避けて適正体重を維持することが、何よりも膝に優しい食生活といえるでしょう。
膝関節炎との上手な付き合い方
膝関節炎、特に変形性膝関節症は、加齢に伴う変化の一環であり、完全に元通りにすることが難しい側面もあります。
そのため、病気を根治させることだけを目指すのではなく、症状をコントロールしながら「いかに上手に付き合っていくか」という視点を持つことが非常に大切になります。
ここでは、痛みと向き合い、活動的な生活を維持するための心構えについてお伝えします。
痛みとどう向き合うか
膝に痛みがあると、どうしても活動を避けてしまいがちです。
しかし、過度な安静はかえって筋力低下や関節の拘縮(こうしゅく:固まって動きにくくなること)を招き、悪循環に陥る可能性があります。
「痛いから動かない」のではなく、「痛みをコントロールしながら、できる範囲で動く」という発想の転換が重要です。痛みの少ない時間帯や、自分に合った運動を選んで体を動かす習慣をつけましょう。
痛みが強い時は無理をせず、薬や休息をうまく利用して乗り切るなど、自分の体の声を聞きながら、痛みの波を乗りこなしていく工夫が求められます。
精神的なサポートの重要性
慢性的な痛みは、気分の落ち込みや不安感、孤立感などを引き起こし、精神的な健康にも影響を与えることがあります。
痛みのつらさは、本人にしかわからないことも多く、周囲に理解されにくいこともあります。一人で抱え込まず、家族や友人、あるいは同じような悩みを持つ仲間と話をすることで、気持ちが楽になることもあります。
また、医師や理学療法士といった医療専門家も、身体的な問題だけでなく、患者さんの精神的な側面のサポートも重要な役割と考えています。
不安なことや困っていることがあれば、遠慮なく相談してみましょう。
定期的な受診と状態の確認
症状が安定しているように感じても、定期的に専門医の診察を受けることは大切です。自己判断で治療を中断してしまうと、気づかないうちに病状が進行している可能性があります。
定期的な受診は、現在の膝の状態を客観的に評価し、治療法が適切であるかを確認する良い機会です。
レントゲン検査などで関節の状態の変化を時系列で追うことで、将来的な見通しを立てることもできます。このことにより、治療方針を適宜見直し、常にその時点での最善の策を講じることが可能になります。
活動的であり続けるための心構え
膝関節炎になったからといって、すべての活動を諦める必要はありません。むしろ、目標を持って活動的な生活を続けることが、心身の健康を保つ上で非常に重要です。
「膝が痛くなるから」と家に閉じこもるのではなく、例えば「近所の公園まで散歩する」「友人と一緒にプールで歩く」など、具体的で達成可能な目標を設定してみましょう。
小さな成功体験を積み重ねることが、自信につながり、さらに活動範囲を広げていく意欲を生み出します。
膝と相談しながら、自分らしい生活を続けていくという前向きな姿勢が、病気と上手に付き合っていくための鍵となります。
よくある質問
ここでは、膝関節炎に関して患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。多くの方が抱く疑問は、あなたの疑問でもあるかもしれません。
治療やセルフケアを進める上での参考にしてください。
Q. 膝の水を抜くと癖になりますか?
A. 「水を抜くと癖になる」というのは誤解です。膝に水が溜まるのは、関節内で炎症が起きている結果であり、原因ではありません。
水を抜く(関節穿刺)のは、溜まった水による圧迫で生じる痛みを和らげたり、水の性状を調べて診断に役立てたりするためです。炎症が治まらない限り、水は再び溜まってきます。
つまり、水を抜く行為自体が原因で水が溜まりやすくなるわけではなく、根本的な原因である炎症が続いているために水が溜まるのです。治療の目的は、この炎症を抑えることにあります。
Q. サプリメントは効果がありますか?
A. グルコサミンやコンドロイチン、コラーゲンといった成分を含むサプリメントが、膝の痛みに効果があるかのように宣伝されていることがあります。
これらの成分は軟骨の構成要素ではありますが、経口摂取したものが直接膝の軟骨となって再生されるという明確な科学的根拠は、現時点では確立されていません。
痛みが和らいだと感じる方もいますが、その効果は限定的と考えられています。サプリメントはあくまで健康食品であり、医薬品ではありません。
過度な期待はせず、治療の基本である運動療法や生活習慣の改善を主軸に、補助的なものとして考えるのが良いでしょう。利用する際は、必ずかかりつけの医師に相談してください。
Q. どのような運動がおすすめですか?
A. 膝関節炎の方におすすめの運動は、膝に過度な負担をかけずに筋力を強化し、関節の柔軟性を高めるものです。
具体的には、プールの中で歩く「水中ウォーキング」や、サドルの高さを調整して膝の曲がりが浅くなるようにした「エアロバイク」などが代表的です。
これらの運動は、体重の負荷を軽減しながら安全に有酸素運動と筋力トレーニングができます。
自宅で行う場合は、椅子に座って行う足上げ運動や、仰向けに寝て行うストレッチなどが推奨されます。
ジャンプや急な方向転換を伴う激しいスポーツは、症状を悪化させる可能性があるため避けるべきです。
どのような運動が自分に合っているか、医師や理学療法士に相談して指導を受けることが最も安全で効果的です。
Q. 寒い日や雨の日に痛みが強くなるのはなぜですか?
A. 「天気が悪いと古傷が痛む」とよくいわれますが、これにはいくつかの理由が考えられています。まず、気圧の低下が関係しているという説があります。
気圧が下がると、体を外から押す力が弱まり、相対的に関節内部の圧力が上がって神経を刺激するため、痛みを感じやすくなるのではないかと考えられています。
また、気温が下がると、体の血行が悪くなったり、筋肉や関節周囲の組織が硬くなったりすることも、痛みを増強させる一因とされています。
痛みがつらい日は無理をせず、膝を温めたり、軽いストレッチで血行を促したりするなどの工夫をしてみましょう。
以上
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