急に始まる股関節の痛み|緊急性の判断と対処法
「歩き始めた瞬間、右の股関節にズキッとした痛みが…」「立ち上がろうとしたら、急に股関節が痛くて力が入らない」。
これまで感じたことのない股関節の痛みが突然現れると、何か大変な病気ではないかと不安になりますよね。
特に、体の片側、例えば右の股関節だけに痛みが出ると、原因が分からず戸惑う方も少なくありません。
この記事では、なぜ急な股関節痛が起こるのか、その背景にあるさまざまな原因を紐解きます。
さらに、ご自身でできる応急処置の方法、痛みを悪化させないための注意点、そして何よりも大切な「医療機関を受診すべき危険なサイン」の見分け方まで、専門的な観点から分かりやすく解説します。
あなたの不安を和らげ、適切な次の一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。
目次
急な股関節の痛み、なぜ右側だけに起こりやすいのか
股関節の痛みが左右どちらか一方、特に右側にだけ現れることには、体の構造や日々の生活習慣が深く関わっています。
多くの人は無意識のうちに体に左右非対称な負担をかけており、その積み重ねが痛みの引き金となることがあります。
ここでは、なぜ右の股関節に痛みが集中しやすいのか、その背景にあるいくつかの要因を探ります。
体の歪みと利き足の影響
多くの人には「利き足」があります。ボールを蹴る、一歩目を踏み出すなど、力を入れたり軸にしたりする足のことです。
例えば右利きの人の多くは、左足を軸足にして右足で動作を行う傾向があります。
この軸足と動かす足の役割分担が非対称な負荷を生み、長年にわたることで骨盤の歪みや筋肉のバランスの崩れにつながります。
特に、軸足側は体を支えるために持続的な緊張を強いられ、動かす側は大きな可動域を求められます。
このバランスの乱れが、結果としてどちらか一方の股関節に過剰なストレスをかけ、痛みを引き起こす原因となるのです。
内臓の位置と関連痛の可能性
体内の臓器の配置も、片側の痛みと無関係ではありません。例えば、肝臓は体の右上に位置し、虫垂(盲腸)も右下腹部にあります。
これらの臓器に炎症などの問題が起こると、その痛みが股関節周辺に放散し、「関連痛」として感じられることがあります。
特に、股関節自体には問題が見当たらないのに右側だけが痛む場合、内臓由来の痛みの可能性も視野に入れる必要があります。
これは、内臓の感覚を伝える神経と、股関節周りの感覚を伝える神経が、脊髄で近い場所を通るために起こる現象です。
特定の動作やスポーツによる負荷の偏り
ゴルフや野球のスイング、テニスのサーブなど、体を一方向にひねる動作を繰り返すスポーツは、左右非対称な負荷の典型例です。
特定の方向に体を回転させたり、片足で強く踏み込んだりする動きは、片側の股関節やその周辺の筋肉に集中的な負担をかけます。
また、トラック競技のように常に同じ方向にカーブを走る陸上選手なども、左右でかかる負荷が異なります。
このようなスポーツ習慣がなくても、例えば仕事で重い荷物をいつも同じ側で持つ、といった日常的な動作の偏りも、同様に痛みの原因となり得ます。
負荷が偏りやすいスポーツの例
スポーツの種類 | 主な動作 | 負担がかかりやすい側 |
---|---|---|
ゴルフ(右打ち) | スイング時の体重移動と回転 | 左股関節(軸足)、右股関節(フォロースルー) |
野球(右投げ右打ち) | 投球、打撃 | 左股関節(踏み込み足) |
テニス(右利き) | サーブ、フォアハンド | 左股関節(軸足)、右股関節(踏み込み) |
考えられる股関節痛の主な原因
急に股関節が痛む背景には、さまざまな原因が隠されています。筋肉の単純な使いすぎから、関節内部の構造的な問題、さらには股関節とは別の場所にある問題が影響していることまであります。
痛みの原因を正しく理解することは、適切な対処への第一歩です。ここでは、急な股関節痛を引き起こす代表的な原因をいくつか紹介します。
筋肉や腱の炎症・損傷
股関節周りには、お尻の筋肉(殿筋群)、太ももの内側の筋肉(内転筋群)、足の付け根の筋肉(腸腰筋)など、多くの筋肉が存在します。
急な運動や普段しない動きによってこれらの筋肉や、筋肉と骨をつなぐ腱に過度な負担がかかると、炎症(筋膜炎や腱炎)や微細な損傷(肉離れ)を起こし、痛みの原因となります。
特に、準備運動不足で急に走り出したり、重いものを持ち上げたりした際に起こりやすいです。痛みは動かしたときに強くなることが多く、安静にすると和らぐ傾向があります。
股関節周辺の主な筋肉と役割
筋肉名 | 主な場所 | 役割 |
---|---|---|
殿筋群 | お尻 | 脚を後ろや横に上げる、体を支える |
内転筋群 | 太ももの内側 | 脚を閉じる、歩行時の安定 |
腸腰筋 | 足の付け根の深部 | ももを上げる、姿勢を保つ |
関節唇損傷や軟骨の問題
股関節は、骨盤の受け皿(寛骨臼)に大腿骨の先端(大腿骨頭)がはまり込む形をしています。
この受け皿の縁には、関節唇という軟骨組織があり、関節を安定させるクッションの役割を果たしています。
スポーツや日常生活での繰り返しの動作、あるいは急なひねり動作によってこの関節唇が傷つくと、「関節唇損傷」となり、股関節の奥に鋭い痛みや引っかかり感が生じます。
また、関節の表面を覆う関節軟骨がすり減ったり傷ついたりすることでも、痛みや動きの制限が現れます。
変形性股関節症の初期症状
変形性股関節症は、主に関節軟骨がすり減ることで関節の変形や痛みが生じる病気で、中高年の女性に多く見られます。
一般的にはゆっくりと進行しますが、何かのきっかけで急に痛みが現れ、病気に気づくケースも少なくありません。
初期症状としては、立ち上がりや歩き始めに足の付け根に痛みを感じる「始動時痛」が特徴です。長時間歩くと痛みが強くなることもありますが、少し休むと楽になる傾向があります。
急な痛みであっても、このような病気の初期段階である可能性を考える必要があります。
腰椎由来の痛み(関連痛)
股関節自体には問題がないのに、股関節が痛むことがあります。
その代表が、腰の問題から来る「関連痛」です。腰椎(背骨の腰の部分)で神経が圧迫される腰部脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアがあると、お尻から足にかけて伸びる神経が刺激され、股関節周辺に痛みが放散することがあります。
この場合、股関節を動かしても痛みはあまり変わらず、むしろ腰を反らしたり、長時間立っていたりすると痛みが強くなる、といった特徴が見られます。足のしびれを伴うことも多いです。
緊急性の高い股関節痛の見分け方
急な股関節の痛みを感じたとき、多くの人が「少し様子を見ようか」「病院に行くべきか」と迷うことでしょう。
ほとんどの場合は急を要しませんが、中には迅速な対応が必要な危険な状態も含まれています。自己判断で放置した結果、症状が悪化してしまう事態は避けなければなりません。
ここでは、どのような症状があればすぐに医療機関を受診すべきか、緊急性の高いサインについて解説します。
安静にしていても激しい痛みが続く
動いているときだけでなく、座ったり横になったりして楽な姿勢をとっていても痛みが全く和らがない、あるいは夜も眠れないほどの激しい痛みが続く場合は注意が必要です。
これは、単純な筋肉痛や関節の軽い炎症ではなく、骨折や関節内の深刻な問題(例えば化膿性股関節炎など)を示唆している可能性があります。
痛みの強さが尋常でないと感じたら、ためらわずに専門医の診察を受けてください。
発熱や悪寒を伴う痛み
股関節の痛みに加えて、38度以上の発熱、体全体の倦怠感、悪寒(寒気)や震えがある場合、細菌感染による「化膿性股関節炎」の可能性があります。
これは関節内に細菌が入り込んで膿がたまる非常に危険な状態で、緊急の治療が必要です。治療が遅れると関節が破壊され、後遺症が残ることもあります。
股関節が赤く腫れて熱を持っている場合も、同様に感染症を疑う重要なサインです。
緊急受診を要する症状のチェックリスト
チェック項目 | 考えられる状態 | 推奨される行動 |
---|---|---|
転倒後、立てないほどの激痛 | 大腿骨頸部骨折など | 動かさずに救急車を要請 |
発熱、悪寒、関節の腫れ | 化膿性股関節炎 | 夜間・休日でも救急外来を受診 |
急な足のしびれ、力が入らない | 重度の神経圧迫など | 早急に整形外科を受診 |
足のしびれや麻痺、感覚の異常
股関節の痛みと共に、足先に力が入らない(スリッパが脱げるなど)、感覚が鈍い、あるいは強いしびれが現れた場合、腰や骨盤内の神経が強く圧迫されている可能性があります。
これは、重度の椎間板ヘルニアや、まれに腫瘍などが原因で起こることもあります。
神経の障害は、時間が経つと回復が難しくなることがあるため、このような症状に気づいたら、できるだけ早く整形外科を受診することが重要です。
転倒や事故などの明らかな外傷後
転んだ、高いところから落ちた、交通事故に遭ったなど、はっきりとした原因の後に股関節が痛みだし、体重をかけることができない場合は、骨折の可能性を第一に考えます。
特に高齢者の場合、軽く尻もちをついただけでも大腿骨頸部骨折(足の付け根の骨折)を起こすことがあります。
この骨折は寝たきりの原因になりやすく、早期の手術が必要です。明らかな外傷後は、痛みの程度にかかわらず、必ず医療機関でレントゲンなどの検査を受けてください。
痛みが始まった直後に家庭でできる応急処置
急な股関節痛に見舞われた際、すぐに病院へ行けない状況もあるでしょう。そのようなとき、痛みを少しでも和らげ、悪化を防ぐために家庭でできる応急処置を知っておくことは非常に大切です。
ただし、これらの方法はあくまで一時的な対処であり、痛みの原因を根本から取り除くものではありません。
適切な応急処置で症状をコントロールしつつ、早めに専門家の診断を受けるようにしてください。
RICE処置の基本(安静・冷却・圧迫・挙上)
打撲や捻挫など、急なケガの応急処置として知られるRICE処置は、股関節の急な痛みにも応用できます。
- Rest(安静): 痛みを引き起こす動作を避け、楽な姿勢で休みます。
- Ice(冷却): 痛む部分を氷のうなどで15〜20分冷やします。炎症を抑え、痛みを和らげる効果が期待できます。
- Compression(圧迫): 弾性包帯などで軽く圧迫することで、腫れの広がりを抑えます。ただし、強く巻きすぎないよう注意が必要です。
- Elevation(挙上): 痛む方の脚をクッションなどの上に乗せ、心臓より高い位置に保ちます。これも腫れの軽減に役立ちます。
特に、熱感や腫れがある場合に有効な方法です。
痛みを増強させない姿勢と動作の工夫
痛いときは、無理に動かないことが基本です。日常生活の中で、股関節に負担をかけない工夫をしましょう。例えば、椅子から立ち上がる際は、机や手すりに手をついてゆっくりと。
床に座る生活は避け、できるだけ椅子を使いましょう。寝るときは、痛い方を上にして横向きになり、膝の間にクッションを挟むと、股関節への負担が軽減され、楽になることがあります。
湿布や市販薬を使用する際の注意点
痛みを和らげるために、市販の消炎鎮痛成分が含まれた湿布薬や塗り薬、飲み薬を使うことも一つの方法です。
ただし、これらは一時的に症状を抑えるだけで、原因を治すものではないことを理解しておく必要があります。薬を使って痛みが軽くなったからといって、無理に動くと症状を悪化させる可能性があります。
また、胃腸が弱い方やアレルギーがある方は、薬剤師に相談の上で使用してください。長期的な連用は避け、数日使っても痛みが改善しない場合は、医療機関を受診しましょう。
温めるべきか冷やすべきかの判断基準
「痛いときは温める?冷やす?」と迷う方は多いです。これは痛みの原因や時期によって異なります。適切な判断が、症状の緩和につながります。
温める・冷やすの判断基準
対応 | 適した状況 | 目的と注意点 |
---|---|---|
冷やす(冷却) | 急な痛み、熱感、腫れがある時(急性期) | 炎症を抑え、痛みを鎮める。冷やしすぎによる凍傷に注意。 |
温める(温熱) | 慢性的な痛み、筋肉のこわばりがある時 | 血行を促進し、筋肉の緊張を和らげる。炎症が強い時は避ける。 |
急に始まった痛みで、ズキズキと脈打つような感じや熱っぽさがある場合は「急性期」と考え、まずは冷やすのが原則です。
一方、痛みが長引いていて、筋肉が硬くなっているような慢性的な痛みには、温めて血行を良くする方が効果的な場合があります。
股関節の痛みを悪化させるNG行動
股関節に痛みがあるとき、良かれと思って取った行動が、実は症状を悪化させる原因になっていることがあります。痛みの原因がはっきりしない段階で自己判断のケアを行うのは危険です。
ここでは、急な股関節痛の際にやってはいけない「NG行動」を具体的に解説します。これらの行動を避けることが、回復への近道となります。
痛みを我慢しての運動やストレッチ
「体を動かした方が早く治るのでは?」と考え、痛みをこらえてウォーキングやストレッチを続けるのは最も避けるべき行動の一つです。
痛みは、体からの「それ以上負担をかけないで」という危険信号です。この信号を無視して運動を続けると、炎症を悪化させたり、傷ついた組織の修復を妨げたりします。
特に、股関節を深く曲げたり、強くひねったりするようなストレッチは、関節唇損傷などの原因を助長する可能性があり、非常に危険です。まずは安静を第一に考えましょう。
自己流の強いマッサージ
痛い部分を強く押したり揉んだりすると、一時的に気持ちよく感じることがあるかもしれません。しかし、これも危険な行動です。
炎症が起きている部分を強く刺激すると、かえって炎症を広げてしまい、症状が悪化することがあります。
また、痛みの原因が筋肉ではなく関節の内部にある場合、マッサージは何の効果もないばかりか、周辺の組織を傷つけるリスクさえあります。
マッサージなどの物理的な刺激は、専門家による正確な診断の後に行うべきです。
長時間同じ姿勢でいること
安静は重要ですが、かといって何時間も全く同じ姿勢で固まっているのも良くありません。長時間同じ姿勢でいると、股関節周りの筋肉が硬直し、血行も悪くなります。
このことにより、いざ動こうとしたときに強い痛みを感じたり、関節の動きがさらに悪くなったりすることがあります。
デスクワーク中やテレビを見ているときなど、30分〜1時間に一度はゆっくりと立ち上がったり、座ったままで足首を動かしたりするなど、少しでも体を動かすことを意識してください。
股関節に負担をかける日常動作とその改善策
NGな動作 | 負担がかかる理由 | 改善策 |
---|---|---|
床にあぐらをかく | 股関節が深く曲がり、ねじれが生じる | 椅子に座る生活を基本にする |
脚を組んで座る | 骨盤が歪み、左右の負荷が不均等になる | 両足を床につけて深く座る |
重い荷物を片側で持つ | 体のバランスが崩れ、片側の股関節に負荷が集中する | リュックサックを利用するか、左右交互に持つ |
専門家による診断とアプローチ
家庭での応急処置で痛みが改善しない場合や、緊急性の高いサインが見られる場合は、速やかに専門家である医師の診断を受けることが重要です。
医療機関では、痛みの根本原因を特定するためのさまざまな検査を行い、その結果に基づいて一人ひとりに合ったアプローチを提案します。
ここでは、整形外科を受診した際の一般的な流れや、どのような治療法があるのかについて解説します。
整形外科での一般的な診察の流れ
整形外科を受診すると、まずは問診から始まります。医師があなたの症状について詳しく質問し、痛みの原因を探る手がかりにします。
その後、視診・触診で股関節の動きや圧痛の有無などを確認し、必要に応じてレントゲンやMRIといった画像検査を行います。これらの情報を総合的に判断して、診断を確定します。
原因が特定できれば、それに応じた治療計画を立てていきます。
問診で伝えるべき重要な情報
正確な診断のためには、あなた自身の情報が何よりも重要です。医師に症状を伝える際は、以下の点を整理しておくとスムーズです。
痛みの原因を特定し、適切な治療方針を立てるために、できるだけ具体的に情報を伝えるよう心がけましょう。
医療機関に伝えるべき情報リスト
情報項目 | 伝えるべき具体例 | なぜ重要か |
---|---|---|
いつから痛いか | 「昨日の朝、起きた時から」「3日前の夕方、急に」 | 急性の問題か慢性の問題かを判断する材料になる |
痛みのきっかけ | 「重い物を持ち上げた後」「特に思い当たることはない」 | 外傷や特定の動作との関連性を探る |
どんな痛みか | 「ズキズキする」「電気が走るよう」「奥が重い感じ」 | 痛みの性質から原因(神経、筋肉など)を推測する |
画像診断(レントゲン・MRIなど)でわかること
問診や触診だけではわからない関節内部の状態を詳しく調べるために、画像診断を行います。レントゲン(X線)検査は、骨の形や関節の隙間の広さを確認する基本的な検査で、骨折や変形性股関節症の診断に有効です。一方、MRI検査は、レントゲンでは写らない軟骨や筋肉、腱、関節唇といった軟部組織の状態を詳細に観察することができます。関節唇損傷や筋肉の断裂、初期の骨の変化などを診断するのに非常に有用な検査です。
診断に基づいた保存的アプローチと理学療法
手術をしない治療法を「保存的アプローチ」と呼びます。急な股関節痛の多くは、まずこの保存的アプローチから開始します。
具体的には、薬物療法(消炎鎮痛薬の内服や外用)、物理療法(温熱や電気刺激による治療)、そして理学療法士による運動療法などが中心となります。
理学療法では、股関節周りの筋肉のバランスを整えるためのストレッチや筋力トレーニング、正しい体の使い方を習得するための動作指導などを行い、痛みの根本的な改善と再発予防を目指します。
主な保存的アプローチの種類
アプローチの種類 | 具体的な内容 | 主な目的 |
---|---|---|
薬物療法 | 消炎鎮痛薬の内服・外用、注射 | 痛みと炎症を抑える |
物理療法 | 温熱療法、電気刺激療法 | 血行促進、痛みの緩和 |
理学療法 | 運動療法、動作指導 | 機能改善、再発予防 |
日常生活で股関節の負担を減らす工夫
股関節の痛みを改善し、再発を防ぐためには、治療と並行して日常生活を見直すことがとても大切です。
無意識に行っているかもしれない股関節に負担をかける習慣を改め、股関節に優しい生活を心がけることで、痛みの軽減と長期的な健康維持につながります。
ここでは、今日から実践できる具体的な工夫を紹介します。
正しい座り方と立ち方
長時間座ることが多い現代人にとって、座り方は股関節の健康に大きく影響します。深く腰かけ、背筋を伸ばし、膝の角度が90度くらいになるように椅子の高さを調整するのが基本です。
足は組まずに、両足の裏をしっかりと床につけましょう。ソファなどの柔らかすぎる椅子は、腰が沈み込み股関節に負担がかかるため、避けた方が賢明です。
立ち上がる際は、一度浅く腰かけてから、テーブルなどに手をついてゆっくりと立ち、股関節への急な負荷を避けます。
股関節に優しい座り方のポイント
ポイント | 良い例 | 悪い例 |
---|---|---|
椅子の高さ | 膝が股関節より少し低くなる | 膝が股関節より高くなる低い椅子 |
背もたれ | 背中をしっかり預けて骨盤を立てる | 背もたれに寄りかからず浅く座る |
足の位置 | 両足を床にしっかりつける | 脚を組む、つま先だけで座る |
靴の選び方と歩き方の見直し
毎日履く靴も、股関節の負担を左右する重要な要素です。クッション性が高く、かかとが安定している靴を選びましょう。
ハイヒールや、底が薄く硬い靴は、地面からの衝撃が直接股関節に伝わりやすいため、痛いときには避けるべきです。
歩くときは、大股で歩こうとせず、歩幅を少し狭くして、かかとから着地し、足の裏全体で体重を支えるように意識すると、股関節への衝撃を和らげることができます。
股関節に優しい寝方と寝具
睡眠中の姿勢も股関節に影響を与えます。仰向けで寝るのが理想的ですが、その際に膝の下にクッションや丸めたタオルを入れると、腰と股関節の緊張が和らぎます。
横向きで寝る場合は、痛い方を上にして、両膝の間に抱き枕やクッションを挟むと、上の足の重みで股関節が内側に倒れ込むのを防ぎ、負担を軽減できます。
柔らかすぎるマットレスは腰が沈んで寝返りが打ちにくくなるため、適度な硬さのあるものを選ぶのが良いでしょう。
体重管理の重要性
股関節は、歩行時に体重の3〜4倍、階段の上り下りではそれ以上の負荷がかかる、体を支える重要な関節です。
つまり、体重が1kg増えるだけで、股関節には3〜4kg以上の余分な負担がかかることになります。体重を適正範囲に保つことは、股関節への負担を直接的に減らす最も効果的な方法の一つです。
食事内容の見直しや、股関節に負担のかからない水中ウォーキングなどの運動を取り入れ、長期的な視点で体重管理に取り組むことが、股関節の健康を守る上で重要です。
よくある質問
急な股関節の痛みについて、多くの方が抱く疑問や不安にお答えします。ご自身の状況と照らし合わせながら、参考にしてください。
痛みはどれくらいで治まりますか?
痛みが治まるまでの期間は、原因によって大きく異なります。筋肉の使いすぎによる一時的な痛みであれば、数日から1週間程度の安静で軽快することが多いです。
しかし、関節唇損傷や変形性股関節症などが原因の場合は、痛みが長引いたり、良くなったり悪くなったりを繰り返したりすることがあります。
2〜3日経っても痛みが全く変わらない、あるいは悪化するようなら、自己判断で様子を見ずに医療機関を受診することをお勧めします。
何科を受診すればよいですか?
股関節や骨、筋肉の問題を専門とするのは「整形外科」です。急な股関節の痛みでどの科に行けばよいか迷った場合は、まずは整形外科を受診するのが最も適切です。
整形外科で検査をしても股関節自体に異常が見つからず、内臓疾患などが疑われる場合には、そこから内科など適切な診療科を紹介してもらえます。
受診する診療科の目安
主な症状 | 推奨される診療科 | 理由 |
---|---|---|
歩行時痛、動作時痛、外傷後 | 整形外科 | 骨・関節・筋肉の専門家であるため |
痛み+発熱・腫れ | 整形外科(救急) | 化膿性股関節炎など緊急対応が必要な場合があるため |
痛み+腹痛・下痢など | 内科 → 整形外科 | 内臓の関連痛の可能性も考え、まずは内科で相談するのも一手 |
ストレッチはしてもいいですか?
痛みが強い急性期に、自己流でストレッチを行うのは避けるべきです。炎症が悪化する可能性があります。
痛みの原因がはっきりして、医師や理学療法士から指導を受けた場合に限り、適切なストレッチを行うことは有効です。
特に、股関節周りの筋肉の柔軟性を高めることは、長期的に見て痛みの改善や再発予防につながります。焦らず、専門家の指示に従って、痛みのない範囲でゆっくりと行うことが大切です。
サプリメントは効果がありますか?
グルコサミンやコンドロイチンといった、関節に良いとされるサプリメントが数多く市販されています。
これらの成分は関節軟骨の構成要素であり、一部で痛みの緩和効果が報告されていますが、科学的な効果についてはまだ議論が分かれているのが現状です。
サプリメントはあくまで栄養補助食品であり、医薬品のような治療効果を保証するものではありません。
頼りすぎるのではなく、バランスの取れた食事を基本とし、体重管理や適切な運動といった生活習慣の改善を優先することが、股関節の健康にとって最も重要です。
以上
参考文献
CHAMBERLAIN, Rachel. Hip pain in adults: evaluation and differential diagnosis. American family physician, 2021, 103.2: 81-89.
TIBOR, Lisa M.; SEKIYA, Jon K. Differential diagnosis of pain around the hip joint. Arthroscopy: The Journal of Arthroscopic & Related Surgery, 2008, 24.12: 1407-1421.
LIVINGSTON, Jennifer I.; DEPREY, Sara M.; HENSLEY, Craig P. Differential diagnostic process and clinical decision making in a young adult female with lateral hip pain: a case report. International Journal of Sports Physical Therapy, 2015, 10.5: 712.
BATTAGLIA, Patrick J.; D’ANGELO, Kevin; KETTNER, Norman W. Posterior, lateral, and anterior hip pain due to musculoskeletal origin: a narrative literature review of history, physical examination, and diagnostic imaging. Journal of chiropractic medicine, 2016, 15.4: 281-293.
HAMMOUD, Sommer, et al. The recognition and evaluation of patterns of compensatory injury in patients with mechanical hip pain. Sports health, 2014, 6.2: 108-118.
CLOHISY, John C., et al. AOA symposium: hip disease in the young adult: current concepts of etiology and surgical treatment. JBJS, 2008, 90.10: 2267-2281.
BIERMA-ZEINSTRA, S. M. A., et al. Sonography for hip joint effusion in adults with hip pain. Annals of the rheumatic diseases, 2000, 59.3: 178-182.
BEDI, Asheesh, et al. Static and dynamic mechanical causes of hip pain. Arthroscopy: The Journal of Arthroscopic & Related Surgery, 2011, 27.2: 235-251.
BUCKLAND, Aaron J., et al. Differentiating hip pathology from lumbar spine pathology: key points of evaluation and management. JAAOS-Journal of the American Academy of Orthopaedic Surgeons, 2017, 25.2: e23-e34.
Symptoms 症状から探す
