足立慶友医療コラム

フレイルの予防と治療

2019.08.02

筋力の低下や疲れやすさを認めるフレイル。

今回はそのフレイルの予防・治療についてまとめました。

今回の10秒まとめ。

① 摂取カロリーの低下が活動量の低下に繋がり、さらに摂取カロリーが低下するため、この悪循環(フレイルサイクル)を断ち切る必要がある。

② 高齢の方は、活動性の向上や筋力を維持・増強するための、積極的にタンパク質を摂取する必要がある。(ただし腎機能に注意!)

③ 1日30分程度の運動とタンパク質摂取で、筋力・筋量は増加する。

④ ビタミンD不足は筋力・筋量の低下や転倒リスクを高めるので、補う必要がある。

⑤ 漢方薬の人参栄養湯はフレイル予防に効果が期待される。

⑥ 予防やセルフメディケーションの観点から、漢方薬は今後注目されるべき薬と個人的に感じている。

栄養による予防と治療

フレイルサイクル

フレイルは、「一度体調を崩すとなかなか回復できず、良くなったとしても体調を崩す前の状態にはなかなか戻れない状態」です。

これは身体機能を維持するためのエネルギー予備能力が低下している状態と考えられます。このエネルギー予備能力の低下は、フレイルサイクル*によって形成されると考えられています。

活動量が低下することで、消費エネルギー量が低下すると、食事摂取量や食欲が低下し、体重減少を引き起こします。体重減少の原因の一つに筋肉量の低下(=サルコペニア)があり、筋肉量が低下することで、基礎代謝も低下しまた活動性量も低下します。

そして、さらに消費エネルギー量が低下し、食事摂取量や食欲が低下するという負のスパイラルが形成されます。これがフレイルサイクルと呼ばれるのものです。

フレイルを予防・治療するためにはこのサイクルをどこかで断ち切る必要があります。

*葛谷雅文:老年医学におけるSarcopenia & Frailtyの重要性:日老医誌 46:279-285, 2009.

低摂取カロリーはフレイルリスクを高める

海外の研究*になりますが、一日の摂取カロリーが21kcal/kg体重より多い群と少ない群で比較した場合、摂取カロリーが少ない群は多い群に比べ1.24倍もフレイルになるリスクが高いという報告があります。

フレイルサイクルにもあるように、摂取カロリーの低下は最終的に活動量の低下に繋がり、さらなる摂取カロリーの低下に繋がります。

* Bartali B : J Gerontol A Biol Sci Med Sci 61 (6): 589-593, 2006.

低タンパク質摂取はフレイルを高める

タンパク質の摂取に関して、1日70g以上タンパク質を摂取した場合、フレイルの発症リスクが低下するという報告*1があります。

人は摂取したタンパク質を元に体の中で筋肉を合成します。フレイルの原因の1つに筋肉量の減少があり、摂取タンパク質量が少なければ、体内で筋肉を合成することができず、フレイル発症のリスクを高めてしまいます。

また、高齢者と若年者を比較した場合、摂取したタンパク質が筋肉になりにくい傾向があります。高齢者群(65歳〜80歳)と若年者群(18歳〜37歳)の2群で筋肉の最大合成速度に達するために必要な摂取タンパク質量を比較した研究*2では、高齢者群が0.40g/kg体重であったのに対して若年者群は0.24g/kg体重と、実に1.7倍の差があったという報告もあります。

65歳以上の方は、積極的にタンパクを摂取を心がける必要があります。ただし腎機能に問題がある方は注意が必要です。

腎機能障害のある方は、下記サイトが参考になりますので、ぜひご覧ください。

CKDとタンパク質制限について

*1 Kobayashi S : Nutr J 12: 164, 2013.

*2 Moore DR : J Gerontol A Biol Sci Med Sci 70 (1): 57-62, 2015.

ビタミンDの摂取が高齢者の転倒を予防する

近年、ビタミンDの摂取は骨粗鬆症の予防や治療のみならず、ビタミンD不足の高齢の方に対して筋肉量や増加高齢者の転倒予防*にも関わっている考えられております。

平成30年9月から、骨粗鬆症で治療中の患者さんは治療薬選択のために血中ビタミンD濃度を検査することが可能となりました。ビタミンD不足を認める場合は、食事や日光浴のみならず、ビタミンD製剤の内服も検討します。

* Annweiler C : J Neuroeng Rehabil 7: 50, 2010.

運動による予防と治療

筋肉の加齢性変化

加齢に伴い筋肉は減少しやすくなる組織の一つですが、特に体の比較的表層に位置し姿勢保持に関わる抗重力筋は萎縮や筋力低下しやすい筋肉と言われております。

この筋肉が萎縮することで、姿勢保持能力や移動能力が低下し、活動量が低下していくことがフレイルの原因と考えられます。

どのような運動をすればいいのか?

前述の通り、抗重力筋の低下がフレイルにつながるため、抗重力筋を維持・増強する運動がフレイルの予防・治療に繋がります。

抗重力筋を鍛えるための最も簡単は運動は、「歩行」です。

外来では、週に3回ほど、少し疲れを感じるぐらいの速度で体力に合わせて20~30分ほどウォーキングを指導しております。

また、運動に合わせてタンパク質摂取量を増やすことも筋量を増やすのに効果的です。

運動は性ホルモンの分泌を促しフレイル予防に関与する。

近年、性ホルモンの低下と筋力低下やフレイルの関係性が取り上げあげられています。

高齢の方に対する研究で、副腎と呼ばれる組織で作られるDHEAという性ホルモンの前段階の物質が低下していると、転倒しやすく、記銘力が低いという関係が報告*1されております。

そして、1日30分程度の運動(筋力トレーニング)によってDHEAが上昇するという報告*2もあります。

運動はこの点からもフレイル予防に重要であると考えられます。

*1 Fukai S : Geriatr Gerontol Int 11: 196-203, 2011.

*2 Akishita M: J Am Geriatr Soc 53: 1076-1077, 2005.

薬による予防と治療

ビタミンD

ビタミンD不足の高齢の方に対して、ビタミンDを補うことにより筋力・筋量が増加し、転倒予防効果があるという報告もあります。

外来では骨粗鬆症のある患者さんに対して、積極的に処方を行なっております。

漢方薬:人参栄養湯

フレイルやプレフレイルの状態は、完全な病気の状態ではなく、病気に近づいている状態と考えることができます。漢方の世界ではこのような状態を「未病」として捉え、治療の対象としております。その観点から、私は外来でフレイルの状態にある方に、人参栄養湯をお出しする場合があります。

国内の研究で、高齢の方の術後の全身状態改善効果、整形外科術後の感染予防にも効果があるという報告もあり、最近では高齢の方の筋力・筋量の増加に貢献するという報告もあります。

漢方薬や病院にかからなくても手に入れることができる薬剤であるため、予防やセルフメディケーションの観点から、今後注目されるものと個人的に感じております。

その他の漢方薬やセルフメディケーションについてご興味のある方は、下記のサイトをご覧ください。

なぜ今、「セルフメディケーション」なのか?

Author

北城 雅照

医療法人社団新潮会 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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