足立慶友医療コラム

腰部の解剖学的構造と痛みが生じる原因|病態の理解

2025.08.15

腰は「体の要」と書くように、私たちの体を支え、複雑な動きを可能にする中心的な部分です。

しかし、その重要さゆえに負担がかかりやすく、多くの人が生涯で一度は腰の痛みを経験するといわれています。腰痛と一言でいっても、その原因は多岐にわたります。

この記事では、腰の基本的な構造(解剖学)から、なぜ痛みが生じるのか、そしてその背景にある代表的な病気について、専門的な知見を基に分かりやすく解説します。

はじめに知っておきたい腰の基本構造

私たちの体を根幹で支える腰は、骨、軟骨、筋肉、靭帯、神経といった様々な組織が精巧に組み合わさってできています。

これらの組織が互いに連携し、調和を保つことで、立つ、座る、歩く、物を持ち上げるといった日常のあらゆる動作を可能にしています。

このセクションでは、腰を構成する主要なパーツの役割と構造を一つひとつ見ていき、腰の機能に対する理解を深めていきます。

腰椎の役割と構造

背骨は、椎骨というブロック状の骨がいくつも連なって構成されています。このうち、胸椎(胸の部分)と仙骨(骨盤の一部)の間にある5つの椎骨を「腰椎」と呼びます。

腰椎は、上半身の重みを支えながら、体を曲げたりひねったりする動きを担う、非常に重要な部分です。

一つひとつの腰椎は、前方の円柱状の「椎体」と、後方の突起がある「椎弓」から成り立っています。この椎体と椎弓に囲まれた空間が、後述する神経の通り道「脊柱管」です。

腰椎の各部位の名称

部位主な役割特徴
椎体体重の支持円柱状で、腰椎の中で最も大きい部分。
椎弓神経の保護椎体の後方にあり、脊柱管を形成する。
椎間関節背骨の動きの制御上下の椎骨をつなぐ関節。動きの安定性に関わる。

椎間板の働きと重要性

腰椎の椎体と椎体の間には、「椎間板」という軟骨組織が存在します。椎間板は、中心部にあるゼリー状の「髄核」と、それを取り囲む「線維輪」という丈夫な層でできています。

この構造により、歩行やジャンプの際に地面から伝わる衝撃を吸収するクッションの役割を果たします。また、背骨のしなやかな動きを可能にする関節のような働きも担っています。

健康な椎間板は水分を豊富に含んでいますが、加齢などにより水分が失われると、クッション機能が低下し、様々な問題を引き起こす原因となります。

腰を支える筋肉と靭帯

腰の安定性は、骨だけでなく、その周りを取り巻く筋肉と靭帯によっても保たれています。筋肉は、意識的に体を動かすだけでなく、無意識のうちに姿勢を維持する役割も担います。

特に、体の深い部分にある腹横筋や多裂筋といったインナーマッスルは、天然のコルセットのように腰椎を安定させ、負担を軽減する上で非常に重要です。

一方、靭帯は骨と骨とをつなぐ強固な結合組織で、関節が動きすぎるのを防ぎ、背骨の構造的な強度を高めています。

腰の安定性に関わる主要な筋肉

  • 脊柱起立筋群
  • 多裂筋
  • 腹横筋
  • 腰方形筋

神経の通り道である脊柱管

背骨の中には、脳から続く重要な神経の束である「脊髄」が通るトンネル状の空間があります。これを「脊柱管」と呼びます。

腰椎の部分では、脊髄から枝分かれした「馬尾神経」という神経の束が通っており、ここからさらに枝分かれした神経が、足の感覚や運動を支配しています。

何らかの原因でこの脊柱管が狭くなると、中の神経が圧迫され、腰の痛みだけでなく、足のしびれや歩行障害といった症状が現れることがあります。

腰痛を引き起こす主な原因とは

多くの人が経験する腰痛ですが、その原因は一つではありません。

重い物を持ち上げたときのような急な負荷から、日々の姿勢の癖、運動不足、さらには心理的な要因まで、様々なことが引き金となります。

ここでは、腰痛につながる代表的な原因を掘り下げ、どのような要因が私たちの腰に影響を与えているのかを具体的に解説します。

原因を理解することは、適切な予防や対策への第一歩です。

物理的な負荷による損傷

腰痛の最も分かりやすい原因は、腰への直接的な物理的負荷です。

例えば、重い荷物を持ち上げようとした瞬間や、急に体をひねった時などに、筋肉や靭帯、椎間板といった組織が損傷を受けることがあります。

いわゆる「ぎっくり腰」もこの一種です。

また、一度の大きな負荷だけでなく、スポーツや仕事などで繰り返し腰に負担がかかる動作を続けることも、組織の微細な損傷を蓄積させ、慢性的な痛みの原因となることがあります。

姿勢の乱れがもたらす影響

現代生活において、長時間のデスクワークやスマートフォンの使用は、多くの人の姿勢を乱す原因となっています。

猫背や反り腰といった不適切な姿勢は、腰椎や椎間板、周辺の筋肉に偏った負担をかけ続けます。特定の筋肉は常に緊張状態に置かれ、血行不良や疲労を引き起こします。

一方で、使われない筋肉は弱っていきます。このアンバランスな状態が長く続くと、腰の支持機能が低下し、痛みが生じやすくなります。

姿勢による椎間板への負荷の違い

姿勢負荷の目安(立位を100として)解説
仰向け25最も負担が少ない姿勢。
立っている100基準となる負荷。
前かがみで座る185デスクワークなどで負担が大きい姿勢。

運動不足による筋力低下

腰椎を安定させるためには、腹筋や背筋、殿筋(お尻の筋肉)といった体幹の筋力が重要です。しかし、日常的に運動の習慣がないと、これらの筋力は徐々に低下していきます。

筋力が低下すると、上半身の重みや動作による負荷を十分に支えきれず、その分の負担が直接、腰椎や椎間板にかかるようになります。

これにより、腰の安定性が損なわれ、ちょっとした動作でも腰を痛めやすくなったり、慢性的な鈍い痛みを感じるようになったりします。

心理的ストレスと痛みの関連

意外に思われるかもしれませんが、腰痛は心理的なストレスとも深く関連しています。ストレスを感じると、体は無意識に緊張し、筋肉が硬直しやすくなります。

この状態が続くと、腰周りの血行が悪化し、痛みの原因物質が溜まりやすくなります。

また、脳には痛みを抑制する機能がありますが、強いストレスや不安、抑うつ状態が続くと、この機能がうまく働かなくなり、通常なら感じないような弱い刺激でも痛みとして認識してしまったり、痛みをより強く感じてしまったりすることがあります。

代表的な腰の病気とその特徴

腰の痛みやしびれが続く場合、その背景には特定の病気が隠れている可能性があります。腰椎や椎間板、神経などに構造的な問題が生じ、症状を引き起こしている状態です。

ここでは、腰痛の原因としてよく見られる代表的な病気を取り上げ、それぞれの病気がどのような状態で、どのような特徴的な症状を示すのかを解説します。

ご自身の症状と照らし合わせ、病態への理解を深めましょう。

腰椎椎間板ヘルニア

腰椎椎間板ヘルニアは、椎間板の中にある髄核が、外側の線維輪を破って後方に飛び出し、神経を圧迫する病気です。比較的若い世代にも多く見られます。

主な症状は、腰の痛みに加えて、お尻から太ももの裏、ふくらはぎ、足先にかけての鋭い痛みやしびれ(坐骨神経痛)です。

咳やくしゃみ、前かがみの姿勢で痛みが強くなるのが特徴です。圧迫される神経の場所によって、痛みやしびれが出る範囲が異なります。

腰部脊柱管狭窄症

腰部脊柱管狭窄症は、加齢に伴う骨や靭帯の変化などによって、神経の通り道である脊柱管が狭くなる病気です。主に中高年以降に発症します。

特徴的な症状は「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」です。これは、しばらく歩くと足に痛みやしびれが出て歩けなくなり、少し前かがみになって休むと症状が和らぎ、また歩けるようになる、という状態を繰り返すものです。

体を後ろに反らすと症状が悪化し、逆に自転車をこぐような前かがみの姿勢では症状が出にくい傾向があります。

腰部脊柱管狭窄症の主な症状

  • 間欠性跛行
  • 両足のしびれや痛み
  • 足の感覚が鈍くなる
  • 立っているだけでも症状が出る

腰椎すべり症・分離症

腰椎すべり症は、腰椎が前後にずれてしまう状態を指します。

加齢による椎間板や関節の変性が原因で起こる「変性すべり症」と、腰椎の一部(椎弓)が疲労骨折を起こして分離し(腰椎分離症)、その結果として椎骨がずれる「分離すべり症」があります。

分離症は、成長期にスポーツをしていた人に多く見られます。

症状は、腰痛のほか、すべりの程度が大きくなると脊柱管が狭くなり、脊柱管狭窄症と同様に足の痛みやしびれを引き起こすことがあります。

腰の代表的な病気の比較

病名好発年齢特徴的な症状
腰椎椎間板ヘルニア20~40代片側の足にかけての鋭い痛み・しびれ(坐骨神経痛)
腰部脊柱管狭窄症50代以降歩行で悪化し、休息で改善する間欠性跛行
腰椎すべり症中高年(変性)、若年(分離)腰痛、進行すると狭窄症様の症状

ぎっくり腰(急性腰痛症)

ぎっくり腰は、突然、腰に激しい痛みが走り、動けなくなる状態の通称で、正式には「急性腰痛症」といいます。

重い物を持ち上げたり、急な動作をしたりした際に発症することが多いですが、特別なきっかけなく起こることもあります。

その原因は、腰椎の関節(椎間関節)の捻挫、筋肉の損傷、椎間板の微細な損傷など様々ですが、画像検査では異常が見つからないことがほとんどです。

多くは安静にすることで数日から数週間で改善しますが、痛みが非常に強いのが特徴です。

加齢と腰痛の深い関係

年齢を重ねると、体の様々な部分に変化が現れますが、腰も例外ではありません。

若い頃は何ともなかったのに、中高年になってから腰痛に悩まされるようになった、という方は少なくありません。

加齢は、腰を構成する骨、椎間板、筋肉のすべてに影響を及ぼし、腰痛のリスクを高める要因となります。

このセクションでは、加齢が腰にどのような変化をもたらすのかを具体的に解説します。

骨密度の低下と圧迫骨折

加齢、特に閉経後の女性では、骨の密度が低下する「骨粗鬆症」が進行しやすくなります。

骨がもろくなると、通常では考えられないような軽い衝撃、例えばくしゃみや、尻もちをついただけでも、腰椎の椎体が潰れるように骨折してしまうことがあります。

これを「圧迫骨折」と呼びます。圧迫骨折が起こると、背中や腰に強い痛みが生じ、背中が丸まって身長が縮む原因にもなります。

骨粗鬆症が背景にある場合、複数の腰椎に骨折が連鎖して起こることもあります。

椎間板の水分減少と変性

クッションの役割を果たす椎間板は、主成分の約80%が水分です。しかし、20歳頃をピークに、加齢とともに椎間板内の水分量は徐々に減少していきます。

水分が失われた椎間板は弾力性を失い、硬く、薄くなっていきます。この「椎間板変性」が進行すると、衝撃吸収能力が低下し、腰椎や椎間関節への負担が増大します。

このことが、慢性的な腰痛や、後述する腰部脊柱管狭窄症などの原因の一つとなります。

加齢による椎間板の変化

項目若年期(健康な状態)加齢による変性後
水分量豊富(約80%)減少
弾力性高い低い
高さ保たれている低くなる

筋肉量の減少と支持力の低下

筋肉量は、一般的に30代を過ぎると自然に減少し始め、特に活動量が少ない場合はその減少ペースが速まります。

腰を支える脊柱起立筋や腹筋などの体幹筋力が低下すると、腰椎を正しい位置に安定させる力が弱まります。

この支持力の低下は、姿勢の悪化を招き、腰椎や椎間板への負担を増やすことにつながります。

また、筋肉のポンプ作用による血行促進効果も弱まるため、腰周りの疲労が回復しにくくなり、痛みを引き起こしやすくなります。

日常生活に潜む腰への負担

特別な病気やケガがなくても、私たちの普段の何気ない生活習慣が、知らず知らずのうちに腰に負担をかけ、痛みの原因となっていることがあります。

長時間にわたる同じ姿勢や、誤った体の使い方、さらには寝具といった環境要因まで、腰痛のリスクは日常のあらゆる場面に潜んでいます。

ここでは、腰への負担となりやすい具体的な生活習慣を取り上げ、その改善点を探ります。

長時間同じ姿勢でいることのリスク

デスクワークや長距離運転などで、長時間座りっぱなしの姿勢を続けることは、腰にとって大きな負担となります。

座った姿勢、特に前かがみの姿勢は、立っている時よりも椎間板にかかる圧力が大幅に増加します。また、同じ姿勢が続くと、特定の筋肉が緊張し続け、血流が悪化します。

この血行不良は、筋肉の硬直や痛みを引き起こす原因物質の蓄積を招きます。定期的に立ち上がって体を動かすなど、こまめに姿勢を変えることが大切です。

不適切な物の持ち上げ方

床にある重い物を持ち上げる際に、膝を伸ばしたまま腰を曲げて持ち上げる動作は、腰を痛める典型的な例です。

この動作では、荷物の重さが直接腰椎や椎間板に集中し、ぎっくり腰などの急性腰痛を引き起こすリスクが非常に高くなります。

物を持ち上げる際は、まず対象物に体を近づけ、膝をしっかりと曲げて腰を落とし、背筋を伸ばしたまま、足の力を使って立ち上がるように心がけることが重要です。

安全な物の持ち上げ方

ポイント良い例悪い例
膝の使い方しっかり曲げる伸ばしたまま
腰の位置低く落とす高い位置で曲げる
背筋伸ばす丸める

就寝環境と腰への影響

人生の約3分の1を過ごす睡眠中の環境も、腰の健康に大きく影響します。特にマットレスの硬さは重要です。

柔らかすぎるマットレスは、お尻の部分が沈み込みすぎて、腰が「く」の字に曲がった不自然な寝姿勢になります。

逆に、硬すぎるマットレスは、腰とマットレスの間に隙間ができてしまい、腰が浮いた状態で支えられず、筋肉の緊張を招きます。

理想的なのは、体の凹凸に合わせて適度に沈み込み、自然な背骨のS字カーブを保てる硬さのものです。

痛みのサインを見逃さないために

腰痛を感じたとき、それが一時的なものなのか、あるいは何らかの病気が隠れているサインなのかを判断することは容易ではありません。

しかし、痛みの性質や、同時に現れる他の症状に注意を払うことで、体の状態をより正確に把握することができます。

このセクションでは、注意すべき痛みの種類や、専門医による診察を急ぐべき危険なサインについて解説します。自分の体からのメッセージを正しく受け止めましょう。

痛みの種類と性質を理解する

腰痛の感じ方は人それぞれです。「ズキズキするような鋭い痛み」「重く鈍い痛み」「電気が走るような痛み」など、表現は様々です。

どのような時に痛みが強くなるのか(例:動いた時、安静時、朝起きた時)、どのような姿勢で楽になるのかを観察することが、原因を探る上で重要な手がかりになります。

例えば、動くと痛む場合は筋肉や関節の問題、安静にしていても痛む場合は内臓の病気や炎症の可能性も考えられます。

しびれや筋力低下が伴う場合

腰の痛みに加えて、足のしびれや筋力低下が見られる場合は、特に注意が必要です。

これらの症状は、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などによって、神経が圧迫されていることを示唆しています。

しびれは「ジンジンする」「ピリピリする」「感覚が鈍い」などと表現されます。

筋力低下のサインとしては、「足に力が入らない」「スリッパが脱げやすい」「つま先立ちができない」といったものが挙げられます。

これらの症状がある場合は、自己判断で放置せず、整形外科を受診することをお勧めします。

注意すべき神経症状

  • 足や足の指のしびれ
  • 感覚の麻痺
  • 足に力が入らない
  • つまずきやすくなる

専門医の診察が必要な危険なサイン

ほとんどの腰痛は生命に危険を及ぼすものではありませんが、中には緊急の対応を必要とする重篤な病気のサインである場合があります。

これらは「レッドフラッグ(危険信号)」と呼ばれ、見逃してはなりません。例えば、発熱を伴う腰痛は、背骨の感染症(化膿性脊椎炎)の可能性があります。

また、排尿や排便のコントロールが難しい「膀胱直腸障害」は、馬尾神経が重度に圧迫されている状態で、緊急手術が必要になることもあります。

これらのサインが見られた場合は、速やかに医療機関を受診してください。

危険な腰痛のサイン(レッドフラッグ)

症状考えられる病気対応
発熱、安静時も激しく痛む感染症、腫瘍など速やかに医療機関を受診
排尿・排便の異常重度の神経圧迫(馬尾症候群)救急受診を検討
急激な体重減少を伴う悪性腫瘍など速やかに医療機関を受診

腰の健康を保つためのセルフケア

腰痛の多くは、日々の生活習慣を見直すことで、そのリスクを減らすことが可能です。

一度痛めてしまった腰も、適切なセルフケアを継続することで、再発を防ぎ、健やかな状態を保つことができます。

ここでは、特別な器具や時間を必要とせず、日常生活の中で意識的に取り組める腰の健康法を紹介します。毎日の小さな積み重ねが、将来の腰の健康を守る大きな力となります。

正しい姿勢を意識する

腰の健康を保つ基本は、正しい姿勢を維持することです。

立っている時は、頭のてっぺんから糸で吊られているようなイメージで、あごを軽く引き、背筋を伸ばします。耳、肩、股関節、膝、くるぶしが一直線上に並ぶのが理想です。

座る時は、椅子に深く腰かけ、背もたれを利用して骨盤を立てるように意識します。足の裏全体が床につくように椅子の高さを調整することも大切です。

長時間同じ姿勢にならないよう、30分に一度は立ち上がって軽く体を動かす習慣をつけましょう。

適度な運動の習慣化

腰痛の予防・改善には、体幹の筋力を維持・向上させることが重要です。ウォーキングや水泳などの有酸素運動は、全身の血行を促進し、筋力維持にもつながるためお勧めです。

また、腰に負担をかけずに腹筋や背筋を鍛えるストレッチや体操を日常的に取り入れることも効果的です。

ただし、すでに痛みがある場合は、無理に運動すると症状を悪化させる可能性があります。どのような運動が自分に適しているか、専門家のアドバイスを求めるのが安全です。

体重管理の重要性

体重が増加すると、その分、腰にかかる負担も増大します。特に、お腹周りに脂肪がつくと体の重心が前に移動し、バランスを取るために腰を反らせるような姿勢になりがちです。

この反り腰は、腰椎や椎間関節に大きな負担をかけ、痛みの原因となります。適正体重を維持することは、腰への力学的な負担を直接的に軽減する上で非常に効果的です。

バランスの取れた食事と、前述した適度な運動を組み合わせ、健康的な体重管理を心がけましょう。

よくある質問

腰痛に関して、多くの方が抱く疑問についてお答えします。一般的な知識として参考にしてください。

ただし、個々の症状や状態によって最適な対処法は異なるため、具体的な治療や判断については、必ず専門の医師にご相談ください。

Q. 温めるのと冷やすのはどちらが良いですか?

A. 一般的に、ぎっくり腰のような急性の痛み(発症から48時間以内)で、熱感や腫れがある場合は、炎症を抑えるために冷やすのが適しています。

一方、慢性的な鈍い痛みや、筋肉のこわばりが原因の場合は、血行を促進して筋肉の緊張を和らげるために温めるのが効果的です。

どちらが良いか迷う場合や、試してみて痛みが増すような場合は、自己判断を中止してください。

温める・冷やすの使い分け

温める(温罨法)冷やす(冷罨法)
適した状態慢性的な痛み、筋肉のこり急性の痛み(ぎっくり腰など)、炎症・熱感がある時
目的血行促進、筋肉の弛緩炎症抑制、痛みの鎮静

Q. どのような寝具を選べば良いですか?

A. 寝具選びは腰痛対策において重要ですが、「これが絶対良い」という唯一の正解はありません。基本的には、寝た時に背骨の自然なS字カーブが保たれるものが理想とされます。

柔らかすぎてお尻が沈み込むものや、硬すぎて腰が浮いてしまうものは避けましょう。実際に寝てみて、腰や背中に違和感がなく、リラックスできると感じるものを選ぶことが大切です。

枕の高さも、首から背骨にかけてのラインが自然になるように調整する必要があります。

Q. コルセットは常に着けていた方が良いですか?

A. コルセットは、腰の動きを制限し、腹圧を高めることで腰椎を安定させ、痛みを和らげる効果があります。痛みが強い急性期に、一時的に使用するのは非常に有効です。

しかし、長期間にわたって常に使用していると、腰を支える自身の筋力が低下してしまう可能性があります。

痛みが和らいできたら、徐々に使用時間を減らし、コルセットに頼らなくても良いように、自身の筋力を鍛えていくことが根本的な解決につながります。

Q. 痛みが軽い場合、放置しても大丈夫ですか?

A. 軽い腰痛であれば、安静やセルフケアで自然に改善することも多くあります。

しかし、痛みが長期間続く場合や、徐々に悪化する場合、足のしびれなど他の症状を伴う場合は、放置せずに一度整形外科を受診することをお勧めします。

軽い症状だと思っていても、背景に何らかの病気が隠れている可能性も否定できません。早期に原因を特定し、適切な対処を始めることが、症状の悪化や慢性化を防ぐ上で重要です。

以上

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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