足立慶友医療コラム

腰の骨折における歩行可能な状態と安静の必要性

2025.08.16

腰の骨折は、特に高齢の方において、転倒や尻もちといった比較的軽い衝撃で発生することがあります。

「骨折」と聞くと、激しい痛みで動けなくなる状態を想像するかもしれませんが、腰の骨折の中には、骨折しているにもかかわらず「なんとか歩ける」ケースが存在します。

この「歩ける」という事実が、かえって発見を遅らせ、症状を悪化させる原因となることも少なくありません。

腰に痛みを感じながらも、「動けるから大丈夫だろう」と自己判断してしまうのは大変危険です。

この記事では、腰の骨、すなわち腰椎の骨折について、その種類や症状、歩ける場合でも安静がなぜ重要なのか、そして適切な治療法や回復への道のりについて、専門的な観点から詳しく解説します。

腰の骨折とはどのような状態か

私たちの体を支える背骨の一部である「腰の骨」、専門的には腰椎(ようつい)と呼ばれる部分が折れてしまう状態を指します。

腰椎は日常生活の様々な動きを支える重要な役割を担っているため、ここに骨折が生じると体に大きな影響を及ぼします。

ここでは、腰椎の基本的な構造から、骨折が起こる主な原因までを掘り下げて見ていきましょう。

腰の骨(腰椎)の構造と役割

背骨は、椎骨(ついこつ)というブロック状の骨がいくつも積み重なってできています。このうち、腰の部分にある5つの椎骨を「腰椎」と呼びます。

腰椎は背骨の中でも特に大きく頑丈にできており、上半身の重みを支え、体を曲げたりひねったりする動きの中心的な役割を果たします。

それぞれの椎骨の間には、クッションの役割を果たす椎間板(ついかんばん)が存在し、衝撃を和らげています。

この腰椎が、外部からの強い力によって損傷し、ひびが入ったり潰れたりするのが腰の骨折です。体を支えるという重要な機能を持つため、この部分の骨折は慎重な対応を必要とします。

腰椎の主な機能

機能内容重要性
体重の支持上半身の全体重を支え、骨盤へと伝える。立ったり座ったりする基本的な姿勢の維持に必要。
体の動き前屈、後屈、回旋など、体幹の動きを可能にする。日常生活における柔軟な動作を支える。
神経の保護脊髄や馬尾神経といった重要な神経を内部に保護する。手足の感覚や運動機能を正常に保つ。

骨折が起こりやすい部位

腰椎は5つの骨から構成されますが、特に骨折が起こりやすいのは、胸椎(胸の背骨)と腰椎の移行部である「胸腰椎移行部」です。

具体的には、一番下の胸椎(第12胸椎)と一番上の腰椎(第1腰椎)周辺です。

この部分は、比較的動きが少ない胸椎と、動きが大きい腰椎の境目にあり、構造的にストレスが集中しやすいためです。

転倒や高所からの転落など、体に強い衝撃が加わった際に、この胸腰椎移行部に力が集中し、椎体が圧迫されて骨折に至るケースが多く見られます。

腰の骨折の主な原因

腰の骨折を引き起こす原因は、年齢や骨の健康状態によって大きく異なります。

若い世代では非常に大きなエネルギーが加わらないと骨折しませんが、高齢者ではささいな出来事が原因となることがあります。

  • 高エネルギー外傷
  • 転倒・転落
  • 骨粗しょう症

若年層や骨が健康な人では、交通事故や高所からの転落といった、非常に強い力が体に加わる「高エネルギー外傷」が主な原因です。

一方、高齢者、特に骨がもろくなる骨粗しょう症(こつそしょうしょう)を患っている方の場合、尻もちをつく、くしゃみをする、重い物を持ち上げるなど、日常生活におけるささいな動作がきっかけで骨折することがあります。

これを「脆弱性骨折(ぜいじゃくせいこっせつ)」と呼び、気づかないうちに骨折している「いつの間にか骨折」の代表例です。

高齢者に多い圧迫骨折

高齢者の腰の骨折で最も頻度が高いのが「圧迫骨折(あっぱくこっせつ)」です。これは、椎骨が上下からの力で押しつぶされるように折れる状態を指します。

骨粗しょう症によって骨の密度が低下し、骨がスカスカの状態になると、椎体は非常に脆くなります。

そのため、健康な骨であれば耐えられるようなわずかな力でも、椎体が潰れてしまうのです。圧迫骨折は、一つだけでなく複数の椎体に同時に、あるいは時期をずらして発生することもあります。

骨折した椎体がくさび形に変形し、背中が丸くなる原因にもなります。

腰の骨折でみられる主な症状

腰の骨を骨折すると、様々な症状が現れます。しかし、その現れ方は骨折の程度や場所、個人の体質によって異なります。

ここでは、腰椎骨折の際に一般的に見られる症状について具体的に解説します。これらのサインを見逃さないことが、早期発見と適切な治療につながります。

激しい腰の痛み

腰の骨折における最も代表的な症状は、腰や背中に生じる激しい痛みです。

この痛みは、じっとしている時には比較的軽いものの、起き上がろうとしたり、寝返りをうったり、立ち上がったりといった、体に力が入る動作の際に急激に強くなる特徴があります。

まるで電気が走るような鋭い痛みを感じることもあり、患者さんを非常に苦しめます。痛みのために、これまで普通にできていた日常の動作が一つ一つ困難になります。

痛みが強まる動作の例

動作痛みの特徴日常生活への影響
起き上がりベッドから体を起こす際に、腰に激痛が走る。朝、布団から出ることが億劫になる。
寝返り夜中に無意識に体を動かした際に、痛みで目が覚める。熟睡できず、睡眠不足になることがある。
立ち座り椅子から立ち上がったり座ったりする瞬間に痛む。トイレや食事など、生活の基本動作が苦痛になる。

寝返りや起き上がりが困難になる

前述の通り、腰の骨折による痛みは動作時に顕著になります。特に、体をひねる動作や、上半身を起こす動作は、骨折した腰椎に直接的な負担をかけるため、激痛を伴います。

このため、多くの患者さんが「寝返りがうてない」「自力で起き上がれない」といった状態になります。

誰かの支えがないと体を起こすことができず、日常生活における自立度が著しく低下する原因となります。この状態が続くと、活動量が減り、筋力が低下するという悪循環に陥りやすくなります。

背中が丸くなる(後弯変形)

圧迫骨折が起こると、潰れた椎骨は元の高さには戻りません。特に、椎体の前方が潰れてくさび形に変形することが多く、これが背骨全体のアライメント(配列)を崩す原因となります。

骨折した部分が治癒する過程で、この変形が固定されてしまうと、背中が後方に突き出るように丸まってしまいます。これを「後弯変形(こうわんへんけい)」と呼びます。

後弯変形が進行すると、身長が縮んだり、内臓が圧迫されて逆流性食道炎や呼吸機能の低下を引き起こしたりすることもあります。

神経症状(しびれや麻痺)の可能性

通常、圧迫骨折のような安定した骨折では、神経症状が出ることは稀です。

しかし、骨折の程度がひどく、折れた骨の破片が背骨の中を通る神経(脊髄や馬尾神経)を圧迫したり傷つけたりすると、神経症状が現れることがあります。

これは「破裂骨折(はれつこっせつ)」などの不安定な骨折でみられることが多いです。

注意すべき神経症状

症状内容緊急性
下肢のしびれ・痛みお尻から太もも、ふくらはぎにかけてしびれたり痛んだりする。専門医の診察が必要。
足の麻痺・脱力足に力が入らない、つま先が上がらない。緊急性が高い場合がある。
排尿・排便障害尿が出にくい、便秘になる、失禁する。直ちに医療機関を受診する必要がある。

これらの神経症状は、将来的に後遺症として残る可能性もあるため、一つでも当てはまる場合は、速やかに専門医の診察を受けることが重要です。

なぜ腰を骨折しても歩けることがあるのか

「骨が折れたら、痛くて歩けないはず」と多くの人が考えます。しかし、腰の骨折、特に高齢者に多い圧迫骨折では、骨折直後から歩行が可能なケースが少なくありません。

この意外な事実が、診断の遅れにつながることもあります。なぜ歩けてしまうのか、その理由と、それに伴うリスクについて理解を深めましょう。

骨折のタイプによる安定性の違い

腰椎骨折は、その折れ方によって「安定型骨折」と「不安定型骨折」に大別されます。この違いが、歩行の可否に大きく関わっています。

  • 安定型骨折(圧迫骨折など)
  • 不安定型骨折(破裂骨折など)

安定型骨折の代表である圧迫骨折は、椎体の前方が主につぶれるもので、背骨の後方部分の構造は保たれていることが多いです。

この後方部分が体重を支える機能をある程度維持するため、激しい痛みを伴いながらも、なんとか体を支えて歩くことができてしまうのです。

一方、交通事故などで起こる破裂骨折のような不安定型骨折は、椎体が全体的に破壊され、後方の構造も損傷しているため、体を支えることができず、歩行は困難、あるいは不可能になります。

圧迫骨折の特徴と歩行

圧迫骨折は、骨粗しょう症を基盤に持つ高齢者に多く、比較的弱い力で発生します。

骨折した瞬間の衝撃がそれほど大きくないため、本人は骨折したとは気づかず、「腰をひねった」「ぎっくり腰になった」程度にしか感じないこともあります。

痛みは動作時に強くなりますが、安静にしていると和らぐため、痛みを我慢しながら日常生活を送れてしまう場合があります。

この「我慢すれば動ける」という状態が、医療機関の受診を遅らせる大きな要因となります。

「歩ける」ことの危険性と自己判断のリスク

歩けるからといって、骨折が軽いわけでは決してありません。むしろ、歩けることで骨折した部分に継続的に負担がかかり、症状を悪化させる危険性が高まります。

歩行継続によるリスク

リスク内容結果
骨の変形進行潰れた椎体にさらに体重がかかり、圧迫がひどくなる。背中の曲がり(後弯)が強くなる。
偽関節の形成骨折部が安定せず、骨がくっつかない状態(偽関節)になる。いつまでも痛みが続き、体を動かせなくなる。
遅発性神経麻痺骨の変形が進行し、後から神経を圧迫し始める。時間差で足のしびれや麻痺が出現する。

「歩けるから大丈夫」という自己判断は、これらの深刻な事態を招きかねません。

転倒や尻もちの後に腰痛が続く場合は、たとえ歩けても安易に考えず、専門医に相談することが大切です。

痛みの感じ方の個人差

痛みの感じ方には大きな個人差があります。もともと慢性的な腰痛を持っている方の場合、新たな骨折による痛みを「いつもの腰痛」と思い込んでしまうことがあります。

また、高齢になると感覚が鈍くなる傾向もあり、骨折による痛みをそれほど強く感じない人もいます。

これらの要因が組み合わさることで、本人が骨折の事実に気づかないまま生活を続けてしまい、後になって背中の変形などで異常が判明するケースもあります。

歩ける場合でも安静が重要な理由

腰の骨折の治療において、最も基本かつ重要なのが「安静」です。

たとえ痛みを我慢して歩くことができたとしても、医師が安静を指示するのは、骨折を正しく、そして確実に治癒させるために必要だからです。

ここでは、なぜ安静がそれほどまでに重要なのか、その医学的な理由を詳しく解説します。

骨の癒合を促すため

骨折した骨が再びくっつくこと(骨癒合:こつゆごう)には、一定の時間がかかります。

骨折部では、まず血の塊(血腫)ができ、そこから新しい骨(仮骨:かこつ)が作られ、最終的に元の丈夫な骨に置き換わっていきます。

この一連の修復作業がスムーズに進むためには、骨折部がぐらぐらと動かないように安定した環境を保つことが絶対条件です。

歩いたり、体を動かしたりすると、骨折した腰椎に体重の負荷や動きのストレスがかかり、せっかくでき始めた仮骨が壊れてしまいます。

安静を保つことは、骨がくっつくための最適な環境を整えることに他なりません。

骨の変形(偽関節や後弯)を防ぐ

安静が不十分で、骨折した腰椎に負担がかかり続けると、潰れた骨がさらに変形してしまう危険性があります。

圧迫された椎体は、治癒の過程で固まっていきますが、その前に動き回ってしまうと、変形したまま固まってしまい、背中が丸くなる「後弯変形」が残ってしまいます。

さらに深刻なのは、骨折部がいつまでたっても安定せず、骨癒合が得られない「偽関節(ぎかんせつ)」という状態です。

偽関節になると、体を動かすたびに骨折部で異常な動きが生じ、頑固な痛みが永続的に残ってしまいます。こうなると、大規模な手術が必要になることもあります。

安静不足が招く合併症

合併症状態主な症状
後弯変形背骨が後ろに曲がったまま固まる。姿勢の悪化、逆流性食道炎、呼吸困難感。
偽関節骨折部がくっつかず、不安定なままになる。体を動かすたびに続く腰の痛み。
遅発性神経麻痺変形した骨が後から神経を圧迫する。数ヶ月後に足のしびれや麻痺が出現。

痛みの増悪を避ける

骨折による痛みは、体が発する「これ以上動かさないで」という警告信号です。この信号を無視して活動を続けると、骨折部の炎症が強まり、痛みはさらに増悪します。

痛みが強くなると、体を動かすことが一層困難になり、結果として回復が遅れるという悪循環に陥ります。

また、強い痛みが長期間続くと、精神的なストレスも大きくなります。

安静を保ち、骨折部の炎症を鎮めることは、痛みをコントロールし、心身ともに穏やかな状態で回復期を過ごすために重要です。

神経へのダメージを防ぐ

不安定な骨折の場合、体を動かすことで折れた骨片が移動し、脊柱管の中にある神経を傷つけてしまう危険性があります。

最初は神経症状がなくても、不適切な動きによって神経麻痺を引き起こす可能性があるのです。

これを防ぐためにも、医師の許可が出るまでは、定められた範囲での安静を守ることが極めて重要です。

特に、足にしびれや力の入りにくさを少しでも感じた場合は、自己判断で動かず、直ちに医療スタッフに伝える必要があります。

安静は、将来的な後遺症のリスクを最小限に抑えるための重要な予防策なのです。

腰の骨折における検査と診断

腰の痛みが骨折によるものかどうかを正確に判断するためには、専門医による適切な検査と診断が必要です。

「いつもの腰痛」と自己判断せず、疑わしい症状があれば医療機関を受診しましょう。ここでは、医師がどのようにして腰の骨折を診断するのか、具体的な検査の流れを説明します。

問診と身体診察

診断の第一歩は、患者さんから詳しく話を聞く「問診」です。医師は、いつから、どこが、どのように痛むのか、痛みの原因となるような出来事(転倒など)がなかったかなどを尋ねます。

次に「身体診察」で、痛みの場所を特定します。背骨を軽く叩いて特定の場所に強い痛み(叩打痛:こうだつう)があれば、骨折が強く疑われます。

また、足の感覚や筋力をチェックし、神経に異常がないかも確認します。

問診で確認する主な項目

確認項目質問の例診断上の意義
受傷機転「いつ、何をしていて痛くなりましたか?」骨折の原因を推測する。
痛みの性状「どんな時に痛みが強くなりますか?」動作時痛は骨折を疑う重要な所見。
既往歴「骨粗しょう症と言われたことはありますか?」脆弱性骨折のリスクを評価する。

レントゲン(X線)検査

レントゲン検査は、骨の状態を簡便に確認できる基本的な画像検査です。椎体が潰れてくさび形になっていないか、骨折線が入っていないかなどを確認します。

多くの圧迫骨折はレントゲン検査で診断がつきます。しかし、骨折した直後や、骨折の程度が非常に軽い場合は、レントゲン写真だけでは変化が分かりにくいこともあります。

そのため、初回の検査で異常が見つからなくても、痛みが続く場合は時間を置いて再検査を行うことがあります。

CT検査で見る詳細な骨の状態

CT(Computed Tomography)検査は、レントゲンを応用して体の断面を撮影する検査です。

レントゲンよりもはるかに詳細に骨の形状を観察できるため、骨折の具体的な状態を立体的に把握するのに役立ちます。

特に、骨片が神経の通り道である脊柱管内に飛び出していないかなど、不安定な骨折の評価に有用です。

手術を検討する際には、骨の破壊の程度を正確に評価するために、ほとんどの場合で実施します。

MRI検査で見る神経や軟部組織の状態

MRI(Magnetic Resonance Imaging)検査は、磁気を利用して体の内部を撮影する検査です。骨だけでなく、神経や椎間板、筋肉といった軟部組織の状態を詳しく見ることができます。

MRI検査の最大の利点は、骨折が「いつ起きたか」を推測できる点にあります。

骨折したばかりの「新鮮骨折」では、骨折部に炎症による水分(浮腫)が溜まっているため、特定の撮影方法で白く写ります。

この情報により、いつくかある圧迫骨折のうち、どれが今回の痛みの原因なのかを特定できます。また、神経の圧迫の有無を評価するためにも非常に重要な検査です。

腰の骨折に対する治療法とリハビリテーション

腰の骨折の治療目標は、痛みを和らげ、骨の癒合を促し、できる限り元の生活に戻れるようにすることです。

治療法は、骨折のタイプ(安定型か不安定型か)、症状の強さ、患者さんの年齢や全身状態などを総合的に考慮して決定します。

主に「保存的治療」と「手術的治療」の二つに分けられます。

保存的治療(コルセットと安静)

神経麻痺がなく、骨のずれが少ない安定型の圧迫骨折の場合、基本的には手術を行わない「保存的治療」を選択します。

治療の主軸は、安静とコルセットによる固定です。

  • 安静期間:骨折の安定性を保つため、最初の数週間はベッド上での安静を基本とします。
  • コルセット装着:骨折部を安定させ、上半身の重みによる負担を軽減するために、硬めのコルセット(体幹装具)を作成し装着します。これにより、骨の変形を防ぎ、痛みを和らげる効果が期待できます。

痛みが落ち着いてきたら、医師や理学療法士の指導のもと、徐々にベッドから起き上がり、歩行訓練を開始します。

コルセットは、骨がある程度固まるまでの約2〜3ヶ月間、起きている間は常に装着することが一般的です。

痛みを和らげる薬物療法

保存的治療では、痛みの管理も重要です。痛みが強い時期には、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンなどの鎮痛薬を使用します。

これらの薬で痛みが十分にコントロールできない場合は、より強力な鎮痛薬を用いることもあります。

また、骨折の背景に骨粗しょう症がある場合は、骨折の再発を予防するために、骨を強くする薬(骨粗しょう症治療薬)の投与を並行して開始することが非常に重要です。

主な骨粗しょう症治療薬

薬剤の種類作用投与方法
ビスホスホネート製剤骨の破壊を抑える。内服(毎日、週1回など)、注射(月1回など)
抗RANKLモノクローナル抗体骨の破壊を強力に抑える。注射(6ヶ月に1回)
副甲状腺ホルモン製剤新しい骨の形成を促す。自己注射(毎日、週2回)

手術が必要となるケース

以下のような場合には、手術的治療を検討します。

  • 骨片が神経を圧迫し、足の麻痺や排尿障害などの神経症状が出ている場合(破裂骨折など)。
  • 保存的治療を続けても痛みが全く改善せず、日常生活に大きな支障が出ている場合(偽関節など)。
  • 骨の変形が進行し、体を支えることが困難な場合。

手術方法には、潰れた骨にセメントを注入して安定させる「経皮的椎体形成術(BKP)」や、スクリューなどで背骨を固定する「脊椎固定術」などがあります。

どの手術を選択するかは、骨折の状態や患者さんの希望を考慮して慎重に決定します。

回復を支えるリハビリテーションの役割

腰の骨折の治療において、リハビリテーションは非常に重要な役割を果たします。

安静期間が長くなると、足腰の筋力が低下し、関節が硬くなり、歩行能力が落ちてしまいます(廃用症候群)。

これを防ぎ、スムーズに社会復帰・在宅復帰するため、早期からリハビリを開始します。

理学療法士の指導のもと、ベッドサイドでできる筋力トレーニングから始め、徐々に起立訓練、歩行訓練へと進めていきます。

正しい体の使い方や、再転倒を予防するための指導も受けます。

腰の骨折に関するよくある質問

最後に、腰の骨折を経験された患者さんやそのご家族から、特によく寄せられる質問についてお答えします。治療や療養生活における不安や疑問の解消にお役立てください。

骨折が治るまでの期間はどのくらいですか

骨折の治癒期間には個人差がありますが、一般的な圧迫骨折の場合、骨がある程度くっついて痛みが和らぐまでに約2〜3ヶ月かかると考えてください。

ただし、これはあくまで骨癒合の目安であり、完全に元の生活に戻れるまでには、さらにリハビリ期間が必要です。

レントゲンで骨の修復が確認できても、しばらくは重い物を持ったり、腰をひねる激しい運動をしたりすることは避ける必要があります。

コルセットはいつまで着ける必要がありますか

コルセットの装着期間は、骨折の状態や治療方針によって異なりますが、多くの場合、骨癒合が得られるまでの約2〜3ヶ月間が目安となります。

日中の活動時(座っている時や立っている時)に装着し、骨折部への負担を軽減します。就寝時は外しても構いません。

医師がレントゲン写真で骨の治癒状態を確認しながら、徐々に外す時間を長くしていくのが一般的です。

自己判断で装着をやめてしまうと、骨の変形が進むことがあるため、必ず医師の指示に従ってください。

コルセットの役割

役割具体的な効果注意点
固定・安定化骨折部が動かないように支える。長期間の装着は筋力低下の原因にもなる。
負担軽減上半身の重みが直接骨折部にかかるのを防ぐ。正しい位置に装着することが重要。
痛みの緩和安定性が増すことで、動作時の痛みが和らぐ。コルセットに頼りすぎない筋力維持も必要。

日常生活で気をつけることは何ですか

治療中や回復期には、日常生活でいくつか注意すべき点があります。

まず最も重要なのは「再転倒の予防」です。自宅内の段差をなくしたり、手すりを設置したり、滑りにくい履物を選んだりする工夫が大切です。

また、前かがみの姿勢や、腰をひねる動作、重い物を持ち上げる動作は、治りかけの骨に大きな負担をかけるため、避けるようにしましょう。

床の物を拾う際は、腰を曲げるのではなく、膝を曲げてしゃがむように心がけると、腰への負担を減らすことができます。

骨粗しょう症の治療も必要ですか

はい、非常に重要です。特に高齢の方で、ささいなきっかけで圧迫骨折を起こした場合は、その背景に骨粗しょう症が存在する可能性が極めて高いです。

骨折した部分の治療だけでなく、骨粗しょう症自体の治療をしっかりと行わないと、将来的に別の場所に新たな骨折(連鎖骨折)を起こすリスクが非常に高くなります。

骨密度検査を受け、必要であれば食事療法、運動療法、薬物療法を組み合わせた骨粗しょう症の治療を継続的に行っていくことが、将来の健康を守る上で大切です。

以上

参考文献

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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