足立慶友医療コラム

膝の捻挫どのくらいで治る?歩けるけど痛いと感じるときに知りたい診療の流れ

2025.01.20

膝をひねった直後は「歩けるから大丈夫」と思っても、しばらくしてから痛みや腫れが出てくることが多いです。

捻挫は関節や靭帯に損傷を引き起こし、回復までの期間や治療の方法によっては日常生活に支障が出る可能性があります。

膝の捻挫がどのくらいの時間で治るのか、どのような治療法があるのか、病院や整形外科を受診する目安などをまとめました。

痛みを感じる段階からリハビリ、再発防止までを理解することで、膝関節の健康を保ちやすくなります。

膝の捻挫とは何か

捻挫というと足首を思い浮かべる人が多いですが、膝も外力や誤った動作の影響で捻挫を起こします。

特にスポーツや転倒時の外傷で靭帯や関節の一部が損傷し、痛みや腫れが続く状態です。

膝関節は大腿骨と脛骨、膝蓋骨などの骨、そして複数の靭帯や半月板などさまざまな組織が集まる複雑な構造を持ちます。

膝関節が捻挫を起こしやすい理由

・身体の中でも比較的大きな負荷がかかる関節
・曲げ伸ばしなどの動きが多い
・ジャンプや着地など衝撃の大きい動作で負担が集中
・スポーツ時や日常生活で足をひねりやすい構造

軽度・中度・重度の捻挫の違い

膝の捻挫は損傷の程度によって分類されます。

靱帯の断裂がない軽度の場合は数週間で痛みが軽くなることも多いですが、完全断裂を伴う重度の場合は手術や長期のリハビリが必要になる場合があります。

痛みと腫れのメカニズム

捻挫で靭帯や周辺組織が傷つくと、炎症反応が起こります。血や体液が関節内にたまることで腫れや熱感が生じ、強い痛みを感じやすくなります。

初期の安静や冷却など、適切なケアを行わないと症状が長引く原因になりやすいです。

半月板を含む組織の損傷リスク

捻挫と同時に半月板を痛めることがあります。半月板損傷があると膝関節の安定性が低下し、歩行や日常動作に影響を及ぼす可能性が高いです。

膝の捻挫に関連する部位と症状の表

部位主な役割損傷したときの症状
靭帯関節の安定性を保つグラつき、不安定、痛み
半月板衝撃吸収と関節保護関節のロッキング、痛み
軟骨衝撃吸収と滑らかな動き動作時の痛み、炎症
骨(大腿骨、脛骨など)身体を支える強い外力で骨折リスクあり
膝蓋骨(膝のお皿)膝関節を保護皿周辺の痛みや脱臼の可能性

膝の捻挫の原因と起こりやすい動作

膝捻挫はスポーツだけでなく、日常生活でも起こります。関節に外力が加わったときに膝をひねったり、誤って転倒したりすることで靭帯や半月板が傷つくケースが多いです。

スポーツ中の外力や無理な動き

・サッカーやバスケットボールなど、急激な方向転換やストップ動作が多い競技
・ジャンプの着地時に膝が外側や内側に大きく揺れる
・他の選手と接触する衝撃

日常生活での場面

・階段を急いで降りたときに足を滑らせる
・荷物を抱えた状態で膝を大きく曲げる
・段差につまずき、膝をひねる

膝関節が不安定になりやすい要因

・筋力の低下(太ももの筋肉やお尻の筋肉が弱い)
・変形性膝関節症の既往
・体重増加により膝へ過度な負担がかかる

「歩けるけど痛い」状態が起こる理由

捻挫であっても靭帯の損傷が軽度の場合、完全に動けなくなるわけではなく、ある程度歩行が可能です。ただし痛みは続くため無理を続けると悪化しやすいです。

膝に加わる主な外力の一覧表

外力の種類主な発生場面代表的な影響
ねじれ力急なひねりや回転動作靭帯損傷、半月板損傷
衝撃転倒や他者との接触骨折、膝蓋骨脱臼
過伸展膝を必要以上に伸ばす動作前十字靭帯の断裂
過屈曲深く膝を曲げる動作内側・外側側副靭帯への負荷など

どのくらいで治る?回復までの期間と目安

膝の捻挫がどの程度で治るかは、損傷の度合い、受診のタイミング、治療法の選択などで変わります。

早めに医療機関へ相談すると、重度化を防ぎやすくなり、日常生活への支障を少しでも抑えられます。

軽度(Ⅰ度)の場合

・靱帯が伸びているが部分的な断裂はない
・2~4週程度で痛みが落ち着くケースが多い
・安静と固定を中心にリハビリを開始

中度(Ⅱ度)の場合

・靱帯の部分断裂や半月板の軽度損傷がある
・3~6週以上かかることもある
・膝の動きに制限が加わるので、固定と段階的なリハビリが重要

重度(Ⅲ度)の場合

・靱帯が完全に断裂
・骨折が疑われることもある
・手術が検討される場合もあり、回復には3~6カ月、場合によってはそれ以上かかる

リハビリ期間の考え方

重症度が高いほどリハビリも長くなる傾向にあり、筋肉や関節の安定性を取り戻すにはしっかりとしたトレーニングが必要です。

損傷度合い別の回復期間と主な治療法

損傷度合い回復目安期間主な治療法日常生活への影響
軽度2~4週安静、テーピング、冷却痛みはあるが歩行は可能
中度3~6週以上固定(サポーターなど)とリハビリ動作時の痛みと腫れが残る
重度3~6カ月以上手術検討、長期のリハビリ日常動作が困難になる場合あり

整形外科での診察から治療の流れ

膝の捻挫を疑ったら、整形外科や専門の医療機関を受診して正確な診断を行うことが大切です。自己判断で放置すると症状が悪化し、靭帯損傷や半月板損傷が広がるリスクもあります。

医師による問診と触診

・どんな動きで受傷したかを正確に伝える
・痛みや腫れの状態を把握するための触診やテスト
・既往症(変形性膝関節症や過去の骨折など)の確認

画像検査の種類

レントゲン(X線)で骨折がないかを調べ、必要に応じてMRIで靭帯や半月板などの軟部組織の損傷状況を確認します。

MRIは内部の細かい組織までチェックできるので、靱帯損傷や半月板損傷の有無を判断する際に役立ちます。

診断と治療方針の提案

医師は検査結果を踏まえて診断し、保存療法(固定、サポーター、安静など)か手術が必要かを判断します。

前十字靭帯などが完全断裂した場合は、手術で修復しなければならないケースもあります。

リハビリテーションと再診

痛みが落ち着いた後、段階的にリハビリを行います。筋肉強化や柔軟性の向上を目指してトレーニングを進め、再発防止にも気を配ります。

症状が続いている場合は継続的な受診が推奨されます。

受診から治療までの流れの表

ステップ内容ポイント
1.問診受傷時の状況を医師に伝える時間や動作、痛みの度合いを具体的に伝える
2.触診関節や靭帯の状態を直接チェック腫れ、熱感、安定性を確認
3.画像検査X線やMRIで骨や組織を検査靱帯や半月板の断裂を見極める
4.治療方針保存療法か手術かを決定症状と生活背景を考慮して選択
5.リハビリ痛み軽減と機能回復を目指す専門家の指導で計画的に進める

自宅でできるケアと再発防止のポイント

膝の捻挫で症状がある場合、医療機関での治療と並行して日常生活でのセルフケアも重要です。

痛みを無理に我慢すると回復が遅れるだけでなく、変形性膝関節症や半月板への負担が増える恐れもあります。

安静と固定

・初期段階の腫れや痛みが強いときは冷却と圧迫を行う
・サポーターやテーピングを活用し、膝関節の安定性を保つ
・足を伸ばしたり曲げたりする動作が痛いときは無理をしない

日常生活で気をつけたい動作

・急な方向転換や過度な屈伸動作は控える
・階段を使うときは手すりを活用し、負担を減らす
・長時間の立ち仕事や歩行は膝に負担がかかりやすいので休みをはさむ

膝を守る日常生活の注意点リスト

膝に負担をかけない心がけ

  • 椅子から立ち上がるときは、足全体に体重を乗せる
  • 床からの立ち上がりは手を床につくなどしてサポートする
  • 運動前に太もも周りの筋肉を伸ばしておく
  • 急に走り出さず、ウォーミングアップを心がける

筋力トレーニングと体重管理

膝の関節を安定させるには、太ももの前側(大腿四頭筋)や後ろ側(ハムストリングス)の筋力強化が大きな助けになります。

過剰な体重は関節への負荷を高めるため、適度な運動や食事のコントロールで管理することが有用です。

再発防止に役立つ動きの改善

以前と同じスポーツや動作を再開する際は、動作フォームを見直し、衝撃をうまく逃がす足の使い方を身につけることが大切です。

膝を安定させるトレーニング種目の表

種目名方法期待できる効果
スクワットゆっくり膝を曲げていき、戻る大腿四頭筋やハムストリングスの強化
レッグプレスジムなどでマシンを使い足を伸ばす膝関節への負荷を調整しやすい
ブリッジ仰向けで腰を持ち上げ、太ももと体幹を鍛える安定性と筋力バランスの向上
カーフレイズかかとを上げ下げするふくらはぎの強化と足首の安定性

受診のタイミングとよくあるQ&A

膝の捻挫では、初期の応急処置を適切に行えば軽度で済む場合がある一方、痛みや腫れが長引く場合は早めの受診が大切です。

骨折や靱帯損傷を見逃すと取り返しのつかない悪化を招くリスクがあります。

こんな症状があるときは早めに受診

・腫れや痛みが2~3日以上続く
・階段の昇り降りや歩行が困難
・膝がぐらぐらして安定しない
・曲げ伸ばしするときに強い痛みを感じる

どの科を受診すればいい?

整形外科が第一候補です。関節や筋肉、骨に関する診療を中心に行い、適切な検査や治療法を提示してくれます。

また、膝関節捻挫と判明した場合は、リハビリテーション科なども併用すると回復がスムーズになる場合があります。

病院と整骨院の違いは?

病院は検査機器(レントゲン、MRIなど)を使った正確な診断が可能です。

整骨院では、手技や物理療法などで症状改善を図りますが、骨折や重度の靱帯断裂を疑う場合はまず整形外科を受診したほうがよいです。

医療機関・整骨院それぞれの特徴をまとめた表

種類主なメリット注意点
病院(整形外科)検査機器が充実し正確な診断が可能待ち時間が長い場合がある
整骨院身体の動きや痛みのケアが得意レントゲンやMRI検査が行えない場合がある

膝の捻挫は放置しても自然に治る?

軽度なら徐々に痛みがなくなる場合もありますが、靭帯断裂など重症の場合は自然治癒が難しいです。放置しておくと状態が悪化し、慢性的な痛みや変形性膝関節症につながる可能性があります。

受診の必要性と見極めリスト

早めに病院へ行ったほうがよいと判断する基準

  • 痛みで夜も眠れない
  • 膝が大きく腫れ上がって熱感がある
  • 歩行時にガクッと力が抜ける
  • 1週間以上経過しても痛みや腫れが改善しない

リハビリと日常生活でのケア

捻挫の治療後には、再発防止と回復を両立させるためのリハビリテーションが重要です。

筋肉量や柔軟性を高めることで、膝関節の安定性を保ち、日常生活での痛みや支障を減らしやすくなります。

リハビリの基本ステップ

・初期段階:炎症を抑え、痛みを緩和する
・中期段階:筋力回復と関節可動域の改善
・後期段階:スポーツや日常動作への復帰を目指す

周辺の関節や筋肉へのアプローチ

膝だけでなく、足首や股関節、体幹の筋力バランスも整えると、膝の負担が軽減される可能性が高まります。

肩や腰痛など他の部位のトラブルも運動フォームに影響を及ぼし、結果的に膝を痛める原因になることも多いです。

膝周辺の筋肉と役割の表

筋肉名称役割強化方法
大腿四頭筋(前面)膝を伸ばすスクワット、レッグエクステンション
ハムストリングス(後面)膝を曲げる、膝関節を安定させるレッグカール、ブリッジ
内転筋群太ももの内側を引き締め、膝の安定ボールを挟んだトレーニング
中臀筋・大臀筋骨盤や体幹を安定させるヒップリフト、サイドレッグレイズ

自宅での運動時の注意

・柔軟体操を行って筋肉を温める
・痛みが出たら無理せず中断し、休養をとる
・トレーニングの回数や負荷は少しずつ増やす

リハビリを続けるうえでの注意点リスト

続けやすいリハビリの工夫

  • 無理な目標を立てず、少しずつ習慣化する
  • 痛みの状況をメモして、医師や理学療法士に相談する
  • 階段の昇り降りをトレーニングとして活用する場合は手すりを使用する
  • 重度の場合は医療機関での定期チェックを怠らない

まとめ

膝の捻挫は、靭帯や半月板といった関節周囲の組織が損傷を受ける状態です。受傷直後は痛みがそれほど強くない場合でも、数日後に腫れや痛みが悪化することがあります。

捻挫の程度によって回復期間は変わり、軽度なら2~4週、中度では3~6週以上、重度では3~6カ月以上かかることも珍しくありません。

痛いと感じたときや腫れが引かないときは整形外科の受診を検討し、早めの対処で回復を促したほうがよいです。

冷却や圧迫などの処置、医師の診断をもとにした適切な固定やサポーターの使用、そしてリハビリによる筋力回復が重要です。

再発防止のためには、膝への負荷をコントロールしつつ、日常生活から運動まで無理のない範囲で取り組む姿勢が大切です。

以上

参考文献

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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