足立慶友医療コラム

膝関節痛がつらい方へ知っておきたい原因と治療

2025.01.27

膝関節痛(ひざの痛み)は、変形性膝関節症や半月板損傷など、さまざまな疾患によって引き起こされます。

日常生活での立ち上がりや歩行など、普段何気なく行う動作が困難になることも多く、痛みによるストレスが大きい症状です。

整形外科では、診察と検査によって原因を特定し、保存的治療や手術、リハビリなどを組み合わせて患者の負担を軽減する方法を考えます。

この記事では、膝関節痛の原因や進行過程、治療や予防の実際について詳しく解説します。

膝関節痛とは

膝(ひざ)は日常生活の中で大きな負担を受けやすい関節です。歩くときや階段の上り下り、しゃがむ動作など、多岐にわたる場面で膝関節が使われています。

膝関節痛とは、そのような膝の部分に生じる痛みの総称です。変形性膝関節症やスポーツによる靭帯損傷など、原因も症状もさまざまで、整形外科での適切な診断と治療が大切です。

膝関節の基本構造

膝関節は、大腿骨と脛骨、さらに膝蓋骨の3つの骨が組み合わさってできています。それを支える靭帯や半月板、軟骨などがクッションや安定性の役割を担います。

運動や加齢で軟骨がすり減ると、骨と骨の間で摩擦が起こりやすくなり、痛みや炎症の原因になりがちです。

痛みの出やすい部位

膝の痛みは、内側や外側、膝蓋骨(お皿)の周辺など、さまざまな部位に現れます。

痛みの場所によって原因が異なることもあり、たとえば内側の痛みは変形性膝関節症や半月板損傷が疑われます。

一方、スポーツを頻繁に行う方では腸脛靭帯炎など、特定の部位に炎症が起こることもあります。

関節軟骨と膝への負担

膝関節を構成する軟骨は、骨同士の摩擦を軽減する重要な組織です。加齢や酷使によって軟骨がすり減ると、関節が直接こすれ合って痛みを引き起こします。

また、体重の増加は膝への負担を増やし、軟骨の消耗をさらに進行させる要因になります。

膝関節痛に多い性別や年齢

一般的に、膝の痛みは中高年の女性に多いとされます。加齢による軟骨の変性が起こりやすいことに加え、ホルモンバランスの変化も影響するといわれています。

また、若い方でもスポーツや仕事で膝を酷使している場合には、急性・慢性の膝関節痛を発症しやすい傾向があります。

膝関節を構成する主な要素

要素役割
大腿骨太ももの骨で、膝関節の上部を形成する
脛骨すねの骨で、膝関節の下部を形成する
膝蓋骨いわゆる「お皿」の骨で、膝の曲げ伸ばしを補助
軟骨骨同士の摩擦を軽減し、衝撃を吸収する
半月板膝の内側・外側に位置する軟骨組織で安定性を保つ
靭帯関節を固定し、膝が過度に動かないよう支える

膝関節がどのような構造なのかイメージすると、痛みの原因を把握しやすくなります。

日常生活での活動が増えるほど、膝への負担は大きくなり、軟骨や半月板、靭帯などの障害につながります。

膝への負担を減らすために気をつけたいこと

  • 体重を増やしすぎないよう管理する
  • 運動前後のストレッチを意識する
  • 無理な姿勢や急激な動作を避ける
  • ひざに違和感があれば早めに整形外科を受診する

小さな痛みを放置すると、症状が進行して慢性化する場合があります。早い段階で原因を見極め、必要な処置を始めることが重要です。

膝関節痛の原因

膝関節痛は単一の要因ではなく、変形性膝関節症や靭帯損傷、半月板損傷、関節リウマチなど、複数の疾患や状態によって引き起こされます。

さらに、肥満やO脚、運動不足など、生活習慣から生じる負担増が影響していることも少なくありません。

変形性膝関節症とは

変形性膝関節症は、中高年以降に多い膝の代表的な疾患です。軟骨がすり減って関節が変形し、膝に痛みや腫れが起こることがあります。

初期には「朝起きたときに膝がこわばる」「立ち上がり時に痛む」などの症状があり、進行すると膝が曲がりにくい、歩行が困難になるなど、日常生活に支障が出ます。

変形性膝関節症の進行段階と主な特徴

段階症状の特徴
前期膝の違和感が断続的に起こる。軟骨に小さな傷がつく
初期歩行や立ち上がりの際に痛みが出現。軟骨のすり減りがはじまる
進行期膝の変形が顕著になり、階段の上り下りがつらい。日常生活で痛みが続く
末期軟骨がほぼなくなり、関節が強く変形。鎮痛剤や手術が必要になるケースも多い

軟骨が完全にすり減ると骨同士が直接こすれ、強い痛みが生じるだけでなく、歩行や立ち座りに大きな困難を伴うようになります。

半月板損傷と靭帯損傷

膝の半月板は、軟骨の一種でクッションの役割を果たしています。

スポーツ中の急な切り返しやジャンプの着地などで傷つきやすく、損傷すると膝内部でロッキング(動きが引っかかるような状態)や痛みが起こります。

靭帯損傷は、膝関節を安定させる靭帯に断裂や伸びなどの障害が生じることで、関節が不安定になり、痛みや腫れがみられます。

スポーツによる膝への負担

長距離走ではランナー膝(腸脛靭帯炎)やジャンパー膝(膝蓋靭帯炎)などが起こりやすく、バスケットボールやバレーボールなど跳躍動作の多い競技でも膝の負担は大きいです。

予防には適切なウォーミングアップやクールダウンに加え、運動フォームの見直しが必要になります。

生活習慣との関わり

肥満やO脚、運動不足は膝関節痛を悪化させる要因として知られています。体重が増えるほど膝にかかる荷重は増し、軟骨や半月板へのストレスが大きくなります。

また、筋力低下による膝周辺の安定性不足も痛みを誘発する一因です。

膝関節痛を引き起こす主な要因

原因特徴
変形性膝関節症加齢や軟骨のすり減りによる慢性痛が中心
半月板損傷スポーツや日常動作での急激な負荷
靭帯損傷ねじれや転倒などで靭帯が伸びる・断裂
関節リウマチ自己免疫の異常による慢性的な炎症
肥満・O脚・運動不足などの生活習慣膝への負担増や筋力低下が痛みを引き起こす

原因を正しく知ることで、整形外科で行う治療方針や予防策が明確になります。

膝関節痛の原因を考えるポイント

  • 一過性の痛みではなく慢性的な痛みか
  • スポーツ中に痛みや腫れを感じ始めたか
  • 体重や姿勢など生活習慣による影響はあるか
  • 変形性膝関節症を疑わせる家族歴があるか

これらの観点を踏まえて診察を受けると、より的確な診断につながります。

膝関節痛の症状と進行過程

膝の痛みは、初期には軽度な違和感や軽い痛みとして現れることが多いです。そのままにしておくと徐々に症状が進み、歩行障害や強い痛みを伴うようになるケースが少なくありません。

放置すると関節の変形が進行する可能性があるため、早めに整形外科を受診し、痛みの原因を探ることが大切です。

初期段階の症状

初期には、立ち上がる瞬間や歩き始めに「膝が痛い」「ひざがこわばる」などの違和感を覚えることがあります。

朝一番に膝を動かすときに軽度の痛みが生じ、少し動くと軽快する場合は、変形性膝関節症の始まりかもしれません。

痛みが進行すると起こること

痛みが進行すると、関節の内側や外側の腫れ、膝関節の変形などがはっきりしてきます。

軟骨のすり減りが悪化すると、階段の上り下りや長時間の歩行が困難になるだけでなく、安静にしていても痛むようになるケースもみられます。

膝関節痛の進行過程と主なサイン

段階主なサイン
軽度膝を動かしたときの軽い違和感やうずくような痛み
中等度階段の上り下りがつらい。膝が変形し始める場合もある
重度歩行困難や立ち座りの激しい痛み。変形が進んでいる

この進行過程は必ずしも均一ではなく、急に悪化するケースもあります。痛み方や発症状況を丁寧に振り返ると、整形外科での診断がスムーズに進みます。

疾患ごとの特徴

  • 変形性膝関節症:加齢・肥満などが影響し、徐々に痛みや変形が進む
  • 半月板損傷:膝をひねったり衝撃を受けたりして損傷。痛みと腫れを伴いやすい
  • 靭帯損傷:急な方向転換や衝突などでの断裂。膝の不安定感が生じる
  • 関節リウマチ:免疫の異常が原因。全身の関節に炎症が波及して膝にも痛み

放置した場合のリスク

膝の痛みを放置すると、変形の進行や筋力の低下によって日常生活が大きく制限されます。

また、痛みをかばう姿勢が長く続くと、股関節や腰、足首など他の関節にも悪影響が及ぶ可能性があります。

痛みを悪化させる主な行動

  • 痛いのを我慢して無理に運動を続ける
  • 体重増加を放置して膝への負荷を高める
  • 痛みをかばい続けて、さらに筋力が落ちる
  • 自己判断で長期間放置し、変形を招く

こうした行動は症状を重くし、治療に時間がかかる原因になります。

膝関節痛の検査と診断

膝関節痛が疑われる場合、整形外科で問診や触診、画像検査などを行い、痛みの原因を特定します。正確な診断が適切な治療への第一歩です。

レントゲンやMRIによる確認

レントゲン検査では、骨の変形や関節の隙間の狭さなどをチェックし、変形性膝関節症の進行度合いを把握します。

MRI検査は軟骨や半月板、靭帯などの軟部組織を詳しく観察でき、損傷の有無や程度をより詳細に把握できます。

検査の特徴と役割

検査方法特徴
レントゲン骨の状態や変形を確認。変形性膝関節症の診断に有用
MRI軟骨や半月板、靭帯の損傷を詳しく把握
CT骨の三次元的な形態を確認
血液検査炎症反応や自己免疫異常を調べ、関節リウマチを疑う

一見症状が似ていても、検査によって原因が異なるケースは多々あります。レントゲンだけではわからない軟部組織の状態を、MRIやCTで補完することが重要です。

痛みの原因を探る問診のポイント

整形外科では、いつ痛みが始まったか、どのような動作で痛むか、痛みが強くなる時間帯や持続時間などを丁寧に確認します。

患者が自覚している生活習慣やスポーツ歴、既往症も含めて総合的に判断することが求められます。

適切な診断による治療方針

変形性膝関節症であれば保存的治療が中心になることが多く、半月板損傷や靭帯断裂の場合は手術療法を検討することがあります。

診断の精度が高いほど、無駄のない治療方針を組み立てやすくなります。

整形外科を受診するメリット

膝の痛みが慢性化していると、日常生活に支障が出て精神的なストレスも増えます。専門的な診察や治療を受けると、病態の進行を最小限に食い止め、症状を改善する機会を得やすくなります。

受診前に整理しておきたい情報

  • 痛みの開始時期と経緯
  • 痛む場所(内側・外側・膝裏など)
  • スポーツや仕事での膝の使い方
  • 既往症(捻挫や靭帯損傷の有無)
  • 体重の変化や日常の歩行状況

これらをまとめておくと、医師とのコミュニケーションがスムーズに進み、正確な治療計画につながります。

膝関節痛の治療方法

膝の痛みに対する治療は、保存的治療から手術療法まで幅広い選択肢があります。患者の年齢や症状の程度、生活スタイルなどを考慮しながら、医師が治療方針を決定します。

保存的治療の概要

保存的治療には、湿布や鎮痛剤の内服、運動療法や物理療法、サポーターの装着などが含まれます。

変形性膝関節症の初期から中期では、これらの方法を組み合わせて痛みの軽減や進行の抑制を目指すことが多いです。

保存療法と手術療法の比較

項目保存的治療手術療法
対象初期〜中等度の変形性膝関節症・軽度損傷重度の変形・靭帯や半月板の大きな損傷
主な方法投薬、リハビリ、装具、注射など人工関節置換、半月板縫合、靭帯再建など
メリット体への負担が少ない、通院で実施可能変形や損傷を直接修復し、痛みや不安定感を解消
デメリット劇的な改善は期待しにくい入院や術後リハビリが必要

保存療法で改善が見込めない、あるいは痛みや変形が深刻で日常生活が困難な場合には、手術療法を検討することがあります。

ヒアルロン酸注射や再生医療

関節内にヒアルロン酸を注入し、関節の動きを滑らかにする治療方法があります。軽度から中等度の変形性膝関節症には一定の効果が見込まれます。

また、軟骨再生を目指す再生医療技術も発展していますが、適応や効果には個人差があるため、担当医と十分に相談することが求められます。

手術療法の検討と流れ

膝の変形や半月板・靭帯の損傷が重度の場合、関節鏡による縫合・切除、人工関節置換などの手術を検討します。術前には詳しい検査を行い、術後にはリハビリを含めた長期的なフォローアップが必要になります。

リハビリと日常生活の改善

保存的治療でも手術後でも、リハビリを通じた筋力強化や柔軟性の向上が痛みの再発予防に大きく貢献します。

太ももの大腿四頭筋やハムストリングスを鍛える運動を取り入れると、膝への負担を減らす効果が期待できます。

膝関節痛に対する主な治療の流れ

  • 整形外科の受診・検査
  • 痛みの原因や症状に応じた治療方針の決定
  • 保存的治療(投薬・物理療法・装具など)または手術療法
  • リハビリを含めた経過観察と再発防止策
  • 必要に応じて治療内容の再検討

長期的に痛みのない状態を維持するには、医師の指示を守りながら日常のケアを続けることが大切です。

膝関節痛を予防・改善するために

膝の痛みは、急に発症する場合とゆっくり進行する場合があります。原因が何であれ、日常生活の工夫や運動習慣を整えることで、痛みの予防と改善をめざすことができます。

日常で実践できる運動

水中ウォーキングや自転車こぎなど、膝に大きな負担をかけにくい有酸素運動が勧められます。筋力維持には、太もも周辺のストレッチや軽度のスクワットも効果的です。

無理のない範囲で定期的に続けることが大切です。

膝を安定させる運動例

種目期待できる効果
水中ウォーキング体重が軽減され、膝への負荷が少ない
自転車こぎ有酸素運動と太ももの筋力維持を両立できる
スクワット大腿四頭筋や臀部の筋力を強化する
ラジオ体操膝だけでなく全身を適度に動かせる

運動を始める前にストレッチを行い、膝周辺の関節や筋肉をやわらかくしておくと、ケガを予防できます。

膝に負担をかけにくい体重管理

体重が増えると膝への負担が増大し、軟骨や半月板のすり減りが進行しやすくなります。適正体重を意識したバランスのよい食事と定期的な運動は、膝関節痛の予防と改善に大きく寄与します。

暖め方と冷やし方の使い分け

急性の炎症やケガによる痛みには冷却が有効で、腫れや熱感を抑えます。

一方、慢性の痛みや変形性膝関節症などでは、入浴やホットパックで膝を温めて血行を促進し、痛みの軽減を目指します。症状に応じて使い分けることが重要です。

変形性膝関節症予防のポイント

大腿四頭筋を強化し、膝関節を安定させることが痛みの改善に直結します。また、日常動作を見直し、正しい姿勢や歩き方を心がけると、膝への余計な負担を減らせます。

膝関節痛対策として押さえておきたい習慣

  • 座るときはなるべく正座を避け、イスを活用する
  • 適度な筋力トレーニングを取り入れる
  • 体を温め、血流をよくするために湯船にしっかり浸かる
  • シューズの選び方に注意し、クッション性のあるものを選ぶ

最後に、痛みを感じたら早期に整形外科を受診し、原因を確認したうえで必要な治療を受けることが大切です。

日々の生活習慣を見直すことで、膝関節痛の進行を遅らせたり、痛みを改善させたりできる可能性があります。

膝関節痛の予防をサポートする食事例

食材役割・栄養素
魚(特に青魚)良質なタンパク質とオメガ3脂肪酸が含まれ、炎症を抑える働きも期待できる
大豆製品植物性たんぱく質とイソフラボンで骨や関節の健康をサポート
野菜・果物ビタミンやミネラルが豊富で、抗酸化作用により軟骨の劣化を抑制
ヨーグルトやチーズカルシウムとタンパク質を含み、骨や筋肉の強化に有効

このような食材を組み合わせることで、膝の健康維持につなげられます。過度な食事制限は筋力低下を引き起こす可能性があるため、バランスを考えた体重管理が大切です。

以上

参考文献

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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