膝のガングリオンの特徴と治療方針 – しこりができる原因
膝まわりにできるガングリオンは、見た目や触ったときの感触が気になり、しこりを意識して整形外科を受診する方が多いです。
放置して問題がないケースもありますが、痛みや関節の動かしにくさを引き起こす場合もあります。
どういった経過で膝ガングリオンが生じるのか、どのように予防したらよいのかを理解しておくと、適切に対処しやすくなります。
本記事ではガングリオン膝にまつわる特徴や治療の流れを幅広く紹介します。
目次
膝ガングリオンとは何か
膝まわりに生じる膨らみやしこりがあると、まず膝ガングリオンを疑う人が多いです。これは関節や腱の近くにゼリー状の液体がたまってできる球状の袋を指します。
大きさはさまざまで、米粒程度からピンポン玉程度になる場合もあります。気づかないほど小さいケースもあれば、皮膚の上から見てはっきりわかる大きさになるケースもあります。
膝しこりが気になる方は、まずその特徴を正しく知ると不安が軽減しやすくなります。
ガングリオンという言葉の由来
英語の「ganglion」という言葉が由来で、古代ギリシャ語の「結び目」「腫瘍」などを意味する言葉からきています。医学的には関節包や腱鞘などの周辺に生じる良性の腫瘤を指します。
悪性ではないため、急速に体に悪影響を及ぼすことは少ないです。
ガングリオンの内部構造
内部には粘度が高いゼリー状の液が存在し、関節液や腱鞘液に由来しています。外側は被膜で覆われ、弾力のある触感が特徴的です。
膝ガングリオンが大きくなるメカニズムは、関節内の圧力や摩擦、繰り返し加わる微細な負荷など複数の因子が重なって起こります。
膝に生じやすい理由
膝は体重を支える重要な関節であり、日常的に大きな負荷がかかります。曲げ伸ばしの動きも頻繁に行う部位です。
そのため、関節包や腱鞘にわずかな亀裂が生じて液体が出たり、摩擦が繰り返されたりすると、ガングリオン膝として腫瘤が形成されやすくなります。
ガングリオンと類似症状の特徴比較
項目 | ガングリオン膝 | 関節水腫 | 変形性関節症の初期 |
---|---|---|---|
原因 | 関節包や腱鞘付近の液体蓄積 | 膝関節内の炎症に伴う関節液増加 | 軟骨の摩耗による骨への負荷増 |
触ったときの感触 | 弾力がある球状のしこり | 皮膚全体が腫れむくんだ印象 | 関節全体にわずかな熱感やこわばり |
痛みの有無 | 痛みがないことが多いが圧迫時に鈍い痛みや違和感 | 炎症により痛みを自覚しやすい | 動かし始めに痛みやすいが、休むと緩和 |
膝しこりの原因とガングリオン膝の特徴
膝のまわりにできるしこりにはいくつかの原因があります。ガングリオン膝は膝しこりのなかでも代表的なものですが、ほかの原因と見分ける必要があります。
痛みの程度や質、しこりの硬さや可動性などが手がかりになります。
膝しこりの主な原因
- ガングリオン膝
- 脂肪腫などの良性腫瘍
- 過去の外傷に由来する瘢痕組織の肥厚
- 変形性膝関節症に伴う骨や軟部組織の肥厚
- 滑膜炎による関節周囲の炎症
ガングリオン膝の特徴的な症状
ガングリオン膝があるときは、明確なしこりを触れることが多いです。サイズが小さい場合は、曲げ伸ばしの角度や姿勢によってわずかに感じる程度になります。
大きくなると、膝の曲げ伸ばし時にひっかかり感や違和感を覚える場合があります。痛み自体は強くないことが多いですが、繰り返し刺激すると痛むこともあります。
自己判断と受診の目安
しこりを見つけて放置してよいか迷う方は少なくありません。ガングリオン膝の多くは良性であり、無症状なら経過観察という選択肢もあります。
ただし、サイズが急激に大きくなる、または膝が曲げにくい、痛みが強いなどの症状がある場合は医療機関への受診を検討したほうがよいです。
膝にしこりを感じたとき意識したい点
- 触って痛みがあるか
- どの程度の固さか
- 日常生活で膝の曲げ伸ばしが困難か
- 大きさや形が変わっていないか
病院で行う検査と診断の流れ
膝しこりや膝ガングリオンを疑ったとき、整形外科ではさまざまな手法で状態を把握します。触診や超音波検査、場合によってはMRIなどを用いて総合的に診断します。
診察での確認事項
医師はしこりの存在だけでなく、痛みの程度、生活習慣、既往歴などを合わせて確認します。ガングリオン膝であるか、それ以外の疾患によるしこりなのかを区別するためです。
単に見た目やサイズだけでは判断が難しいことがあります。
主な検査方法
- 視診:しこりの位置や皮膚の状態を確認
- 触診:固さや動かしたときの変化などを確かめる
- 超音波(エコー)検査:内部の構造をリアルタイムで確認できる
- MRI検査:軟部組織や骨、関節全体の詳しい状態を把握できる
- X線検査:骨の変形や他の骨病変を除外するために行うことがある
診断時のポイント
ガングリオン膝と診断するときは、しこりの内部構造がゼリー状の液体かどうか、関節包や腱鞘とつながりがあるかどうかが焦点になります。
超音波検査やMRI検査での画像所見、触診時の独特の弾力から総合的に判断します。万が一、腫瘍との鑑別が必要な場合は必要に応じて細胞診などを追加することがあります。
しこり診断のために用いる検査の概要
検査名 | 特徴 | メリット | 使用目的 |
---|---|---|---|
視診・触診 | 医師が直接観察・触れる方法 | 簡便で迅速に把握できる | 表面的な大きさや痛みの有無などを確認 |
超音波検査 | 音波を使い内部の様子を画像化 | リアルタイムで観察可能 | しこり内部が液体か固形か区別 |
MRI検査 | 磁気を利用し軟部組織を詳細に描写 | 関節全体・靭帯の状態などもわかりやすい | ガングリオン膝以外の異常の有無確認 |
X線検査 | 放射線を使い骨を中心に映し出す | 骨の変形や骨折の有無を確認 | 他の骨疾患との鑑別 |
膝ガングリオンが引き起こす症状とリスク
膝ガングリオンは良性のしこりとはいえ、日常生活に支障をきたすことがあります。
とくに膝は立ったり座ったり、歩行、階段の昇降など動きが多い関節なので、ガングリオンによる違和感や痛みが出ると行動範囲が狭まる恐れがあります。
痛みやしびれ
ガングリオン膝が神経や血管を圧迫する位置にあると、周辺の組織に刺激を与えて痛みやしびれが生じることがあります。
神経を圧迫するような大きさの場合は、歩きや姿勢に悪影響を及ぼすリスクがあるため、積極的な治療を検討する必要があります。
関節の動かしにくさ
膝ガングリオンが関節の屈曲伸展を妨げる位置に発生すると、曲げ伸ばしの際に引っかかりを感じるケースがあります。
人によっては無意識に膝をかばって歩くようになり、結果的に他の部位(腰や反対側の膝)に負担をかけてしまうこともあります。
放置による影響
痛みがなければ放置する選択もあり得ますが、放置することでしこりが大きくなったり、日常動作に不快感を伴うようになったりすることもあります。
とくに膝しこりを頻繁にぶつけるような作業やスポーツを続けていると、炎症を起こしたり、周囲組織に負担がかかったりするため注意が必要です。
ガングリオン膝が大きくなったときに起こりうる変化
起こる変化 | 原因 | 注意すべき点 |
---|---|---|
膝の可動域減少 | しこりの物理的な妨害 | 充分に曲げ伸ばしができず姿勢が不安定になる場合がある |
痛みやすい状態 | 周辺組織や神経への圧迫 | 歩行時や階段昇降時に強い痛みを感じやすい |
二次的な炎症 | しこりを繰り返し刺激 | しこりがさらに腫れたり組織を痛める恐れがある |
- しこりを過度に圧迫すると、急激に痛みが生じる場合がある
- スポーツや肉体労働で膝を酷使する方は特にリスクが高い
- サイズが大きい膝ガングリオンは自然に消失しにくい傾向がある
膝ガングリオンの治療方針
膝ガングリオンの治療には大きく分けて「経過観察」と「積極的な処置」の2つがあります。痛みや機能障害の程度、患者さんの希望などを踏まえて治療方針を決定します。
経過観察と保存療法
痛みや機能障害が軽度、またはまったくない場合は経過観察を選ぶことがあります。ガングリオン膝は良性の腫瘤なので、そのまま小さくなるケースもまれにあります。
必要に応じて固定具を用いたり、患部への負荷を軽減したりして様子を見ます。
固定具はサポーターやテーピングなどが代表的で、膝の過度な動揺を抑えたり、しこりへの刺激を和らげたりします。
注射による穿刺と硬化療法
ガングリオン内部の液を注射器で吸引し、小さくする方法があります。これにより痛みや違和感が軽減することがあります。ただし、袋の壁が残るため再発の可能性は否めません。
再発予防として硬化剤やステロイド剤を注入する方法もありますが、どれも絶対的に再発を防げるわけではありません。
手術による摘出
再発を繰り返すガングリオン膝や、サイズが大きく日常生活に支障をきたすケースでは手術を提案する場合があります。
ガングリオンの被膜ごと摘出する方法で、再発リスクを大きく下げられます。局所麻酔や全身麻酔など麻酔の種類は症状や患者さんの状態によって異なります。
主な治療法とメリット・デメリット
治療法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
経過観察 | 侵襲がなく体への負担が少ない | しこりが消えず機能障害が続く可能性がある |
注射による吸引 | 外来で実施でき、比較的短時間で終わる | 袋の壁が残るので再発する可能性がある |
硬化療法 | 注射後に硬化剤を注入して再発率を減らす効果が期待できる | それでも再発を完全に防げない場合がある |
手術による摘出 | 被膜ごと除去できるため再発リスクを低減 | 手術のリスク(感染など)とリハビリ期間が必要 |
- 痛みが軽度で生活に影響が少なければ経過観察を選ぶ
- 穿刺後に痛みが急に軽減する人は多いが、再発リスクも考慮する
- 手術は大きさや症状、患者の希望を考慮して判断する
予防とセルフケアのポイント
膝ガングリオンを完全に防ぐ方法は難しいですが、日常生活の工夫で負担を軽減すると、しこりの悪化を防ぐうえで役立つ可能性があります。
膝への過度な衝撃や繰り返しの摩擦を減らすことが大切です。
生活習慣の改善
長時間同じ姿勢で膝を曲げたままにしないように気をつけると、関節周囲への負担が軽減します。
デスクワークが多い方は、適度に立ち上がったり、足を伸ばしたりして膝を動かす時間を設けると良いです。
ウォーキングや軽めのストレッチも関節の可動域を保つうえで有益です。
サポーターやブレースの活用
日常的に膝に負担がかかるスポーツや作業をする場合、サポーターやブレースを使用すると膝の安定性が増し、繰り返しの摩擦を和らげることにつながります。
しこりへの直接的な刺激も減らしやすいです。
適度な筋力トレーニング
膝を安定させるうえで大腿四頭筋やハムストリングスなどの筋力が重要です。適度な筋力があれば、膝にかかる負荷を上手に分散できます。
ただし、過度な筋トレはかえって負担となるため、無理のない範囲で継続することが望ましいです。
膝への負担を減らす対策
項目 | 具体的な内容 | 期待できる効果 |
---|---|---|
運動前の準備運動 | ストレッチで関節や筋肉を温める | 怪我や炎症の予防、膝の柔軟性向上 |
適切な靴の選択 | クッション性に優れたシューズを履く | 膝への衝撃を和らげる |
体重管理 | 適度な運動とバランスの良い食事を心がける | 膝への過度な負荷を防ぎ、しこりの悪化リスク減少 |
休息の確保 | 無理な運動を避け、痛みがあるときは休む | 関節や筋肉を回復させ、過剰な炎症を防ぐ |
- 日頃から軽いストレッチをして膝まわりの血行を促す
- 長時間の正座やしゃがみ込みなど、膝への強い負荷を避ける
- 適切なサポーターで不安定感や摩擦を軽減する
膝ガングリオンと間違いやすい症状・病気
膝ガングリオンが疑われるしこりのなかには、実際にはほかの病気が隠れているケースもあります。
膝しこりの原因として似た症状をもつ疾患を知っておくと、不安がある場合に早めに対処しやすくなります。
関節水腫
炎症や外傷が原因で関節内に水がたまり、膝全体が腫れぼったくなるものです。
触れたときにぷよぷよとした感触を覚えることがありますが、ガングリオン膝のように局所的な球状のしこりというよりは、関節全体がむくんだ状態になります。
変形性膝関節症
膝関節の軟骨がすり減って変形し、関節周囲に肥厚や骨棘が生じることでこぶのように感じる場合があります。
階段の昇降時に痛みやすい、長時間歩くと痛むなどの症状がある点でガングリオン膝と異なる特徴をもつことが多いです。
腱鞘炎によるしこり
膝まわりの腱鞘が炎症を起こして肥厚すると、触ったときに硬いしこりのように感じる場合があります。ガングリオン膝との違いは、腱の動きに合わせてしこりも動くことがある点です。
痛みが強い場合は炎症を抑える治療が必要です。
間違いやすい疾患を見極める視点
疾患名 | 主な特徴 | ガングリオン膝との違い |
---|---|---|
関節水腫 | 関節全体が腫れる、膝に水がたまり痛みを伴うことが多い | 局所的なしこりではなく全体がむくんだ状態 |
変形性膝関節症 | 軟骨摩耗と骨変形、動き始めに強い痛みが出やすい | しこりではなく骨や関節の変形が主な原因 |
腱鞘炎(腱鞘肥厚) | 腱の動きでしこりも移動する、炎症に伴い痛みが強い | ゼリー状の液体の袋ではなく腱組織が肥厚している |
よくある質問
膝ガングリオンは自然に消えることがありますか?
小さくなるケースはありますが、自然に完全に消失するかどうかは個人差が大きいです。痛みや機能障害がなければ様子を見る選択肢も考えられます。
注射で膝ガングリオンの液体を抜けば再発しませんか?
液体を抜くと一時的に症状が軽減することが多いですが、袋の壁が残っているため再発の可能性があります。再発を繰り返す場合は手術での摘出が検討に入ります。
運動を続けても大丈夫でしょうか?
痛みがなければ軽い運動は構いませんが、しこりを強く圧迫するような動きは避けたほうが無難です。関節に負担がかかりすぎる場合はサポーターなどで保護すると安心です。
放置すると関節が変形することはありますか?
ガングリオン自体で骨が変形することはほとんどありません。しかし、痛みをかばって不自然な歩き方になり、他の部位に悪影響が出るケースは考えられます。
気になる症状があるときは医師に相談してください。
以上
参考文献
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