足立慶友医療コラム

膝関節のリハビリテーション|専門医が指導する効果的な方法

2025.03.28

膝に関する痛みや不調は、日常生活に大きな影響を及ぼします。膝関節は歩行や階段の上り下りなど、身体を支える多くの動作に関わる重要な部位です。

そのため、不適切なケアやトレーニング不足が続くと症状の悪化を招く恐れがあります。膝関節運動を通して筋力や柔軟性を高めると、変形性膝関節症リハビリにも役立ちます。

日常生活の中でできる方法やクリニックでの専門的な指導を組み合わせると、膝の状態を安定させ、再発予防にもつながります。

本記事では、専門医の視点から効果的な方法や具体的なトレーニングなどを解説します。

膝関節の構造と役割

膝の不調をケアするうえで、まずは構造を知ることが大切です。膝関節は大腿骨、脛骨、膝蓋骨が組み合わさっており、人体最大の関節といわれます。

周囲の靱帯や筋肉、半月板が衝撃を和らげながら安定性を維持しています。

骨・軟骨・靱帯の特徴

膝は骨どうしが直接こすれないように軟骨を持ち、滑液が循環しています。大腿骨側と脛骨側の両方に軟骨があり、半月板が衝撃を吸収します。

また、複数の靱帯が連携し、前後左右にずれるのを抑えます。

半月板の役割

半月板は半月状の形をした繊維軟骨で、大腿骨と脛骨の間に位置します。衝撃を吸収するとともに、膝の動きに合わせて変形し、安定性を高めます。

損傷すると痛みや可動域の制限が生じやすく、適切なリハビリを要します。

関節包と滑液

関節包は関節を覆う膜で、内側にある滑膜が滑液を分泌します。滑液は関節の潤滑油として働き、軟骨の摩擦を減らし、栄養を届けます。炎症が起きると滑液の分泌が乱れ、腫れや痛みが出現します。

膝を支える主な筋肉

大腿四頭筋とハムストリングスが中心となり、膝の曲げ伸ばしをコントロールします。

これらの筋肉の柔軟性や筋力が低下すると、膝への負担が増して変形性膝関節症リハビリの難度が上がります。

膝周辺の主な筋肉の一覧

筋肉名主な役割代表的な動き
大腿四頭筋膝の伸展歩行時の膝の安定
ハムストリングス膝の屈曲走行時の踏み切り・ブレーキ
内転筋群下肢の内転・安定膝の内側のサポート
下腿三頭筋足首の底屈(つま先立ち)階段昇降での推進力

膝の不調と原因

膝の痛みや機能障害にはさまざまな要因があります。加齢、運動不足、姿勢の乱れ、関節に負荷をかける生活習慣などが複雑に絡み合って症状が進行することも少なくありません。

加齢に伴う変化

軟骨の弾力性が低下し、血流も衰えるため、疲労や傷害からの回復が遅れます。大腿四頭筋などをはじめとする筋力も落ちるため、膝を支える力が弱まりやすくなります。

過度な負荷

スポーツや重量物の持ち上げなどで膝を酷使すると、軟骨や靱帯に負担が集中します。特に瞬発力が求められる動きが続くと、摩耗や炎症が起き、痛みの原因になります。

運動不足

動かさない時間が長いと、関節周囲の筋力が衰え、柔軟性も損なわれます。血行も滞りやすくなり、老廃物の排出が滞ることで慢性的な疲労感や痛みを覚える場合があります。

体重増加

体重が増えると、歩行や立位での膝への負担が増大します。特に膝は体重を直接支える部位ですので、肥満が進むほど膝へのストレスが高まります。

膝の不調に関係しやすいリスク要因一覧

リスク要因具体例
体重増加肥満、急激な体重増加
運動不足座りっぱなし、筋力低下
長時間の立位立ち仕事、姿勢不良
過度な運動ジャンプ動作の反復、激しいスポーツ
加齢軟骨のすり減り、血行不良

変形性膝関節症リハビリの基本

変形性膝関節症リハビリを行う際には、ただ膝だけを見るのではなく、全身の状態や生活習慣を考慮することが重要です。

医師や理学療法士の指導を受けながら進めると回復が円滑になります。

目標設定の大切さ

膝の可動域や痛みの程度は個人差があります。歩行距離をどの程度伸ばしたいのか、階段を何段まで楽に上れるようになりたいのかなど、具体的な目標を設定すると励みになります。

運動・物理療法

関節を動かす運動療法や筋力強化、ストレッチなどを組み合わせる方法が一般的です。痛みが強い場合にはアイシングや温熱療法を適宜取り入れ、炎症を抑えながら可動域を拡大していきます。

痛みのコントロール

痛みが激しいと膝関節運動の継続が難しくなるため、消炎鎮痛薬や注射などの治療法も活用します。緩和を図りながらリハビリを進めると、必要以上に休む時間を減らせます。

自宅でのケア

クリニックでのリハビリだけでなく、自宅でも軽めの運動やマッサージなどを取り入れると効果が高まります。正しいフォームを学んだうえで、無理のない範囲で実施しましょう。

変形性膝関節症リハビリにおける主なアプローチ一覧

アプローチ具体的内容効果
運動療法筋力強化、可動域拡大、ストレッチ関節の安定、痛み軽減、姿勢改善
物理療法温熱療法、電気刺激、アイシング血行促進、炎症緩和、疼痛コントロール
生活習慣の改善体重コントロール、適度な運動習慣膝への負担軽減、再発予防
サポーターの活用サポート力のある装具の装着関節の安定、筋肉への負荷軽減

日常生活での膝関節運動の取り入れ方

膝に負担をかけにくい日常的な動きから始めると、膝関節運動を継続しやすくなります。小さな積み重ねでも、筋力や柔軟性の維持・向上につながる可能性があります。

立ち上がりや座り方の工夫

いきなり立ち上がるのではなく、背筋を伸ばし、手すりやテーブルの縁を活用して支えを確保しながら立つと膝への衝撃を和らげられます。座る際にも同様で、ゆっくり体重を移動する意識が大切です。

歩行の見直し

長時間歩くときは、靴選びや地面との接地方法を見直すと疲労を軽減できます。かかとから着地して足先へと体重移動する正しい歩行を心がけるだけでも膝の負担を減らします。

自宅で簡単にできるエクササイズ

ソファやベッドで足首をゆっくり動かしたり、太もも周辺の筋肉を軽く収縮させたりといった運動でも一定の効果があります。

大きく動かさなくても、こまめに関節を動かすと循環が良くなります。

階段の上り下り

上るときは前の膝を伸ばし切る前に次の段へ踏み出すと、関節の負担を分散しやすくなります。降りるときはゆっくり膝を曲げながら重心を下げると衝撃を抑えられます。

膝への衝撃を減らす動作の工夫一覧

動作工夫したいポイント
立ち上がり手すりで支持、背筋を伸ばす
座るゆっくり体重移動、膝を急激に曲げすぎない
歩行かかと→足先へ重心移動、足裏全体で地面を感じる
階段上り膝を伸ばし切る前に次の段へ進む、呼吸を合わせる
階段下りゆっくり重心を移動、膝を痛めないように手すりを活用

医療機関での専門的アプローチ

より高い効果を目指すには、医師や理学療法士による評価と指導が欠かせません。

痛みや可動域の状態などを踏まえて、個々の症状に合わせたプログラムを提案してもらうと、変形性膝関節症リハビリの質が高まります。

評価と検査

レントゲン検査やMRIを用い、軟骨や半月板の状態を確認したうえで、関節のアライメントや筋力バランスなどを総合的に評価します。

痛みが強い場合は血液検査で炎症や感染の有無を調べることもあります。

専門的な運動療法

医療機関では、エルゴメーターやレッグプレスなどを活用して安全に筋力強化を行う機会があります。痛みを感じにくい範囲内で徐々に負荷を高め、筋力と柔軟性を育てます。

注射や薬物療法との併用

ヒアルロン酸注射で関節を潤滑させたり、消炎鎮痛薬で痛みを緩和しつつリハビリを進めたりすると、膝関節運動の効果が高まりやすいです。痛みをコントロールしながら継続することが肝要です。

指導とフォローアップ

専門医や理学療法士から正しいフォームや注意点を繰り返し学ぶことが、最終的に症状改善と再発予防につながります。定期的な通院と自宅でのトレーニングを両立する姿勢が必要です。

医療機関で用いられる主なリハビリ機器一覧

機器名特徴と目的
エルゴメーター有酸素運動と下肢の筋力維持が可能
レッグプレス大腿四頭筋やハムストリングスの強化
バランスボードバランス感覚と関節の位置感覚の向上
超音波治療器深部組織へのアプローチによる痛み軽減
電気刺激装置筋肉の収縮を促し、血流を改善

自宅で取り組む具体的トレーニング

医師や理学療法士から基本的なやり方を教わったうえで、日常の合間に行えるトレーニングを紹介します。関節の状態に応じて回数や強度を調整してください。

大腿四頭筋の強化運動

椅子に腰かけ、背もたれに軽くもたれた姿勢で行います。片脚ずつ膝を伸ばし、ゆっくり下ろす動作を繰り返すと大腿四頭筋を鍛えやすくなります。

伸ばすときに脚がぶれないように意識しましょう。

ハムストリングスの強化運動

立ったままの姿勢で、片足を後方へゆっくり曲げていき、膝が最大限曲がったところで数秒キープします。太ももの裏側に程よい緊張が感じられるまで曲げたら、ゆっくり戻します。

スクワットの注意点

下半身全体を鍛える手軽な方法ですが、膝への負担が大きくならないよう、膝がつま先より前に出過ぎない姿勢を心がけましょう。

痛みが出る場合は深く沈み込まず、軽い角度で止める程度でも十分な効果が期待できます。

ストレッチ

運動後はももの裏やふくらはぎなどをゆっくり伸ばします。呼吸を止めず、痛みが出ない範囲で実施することが大切です。

自宅で行えるトレーニングの例

トレーニング名主に鍛える部位ポイント
レッグエクステンション大腿四頭筋椅子を使い、ゆっくり脚を伸ばす
レッグカールハムストリングス立位やうつぶせの姿勢で脚を後方に曲げる
スクワット(浅め)大腿四頭筋・臀部膝を深く曲げない、痛みがある場合は角度調節
もも裏ストレッチハムストリングス・殿筋安定した場所で身体を支えながらゆっくり伸ばす

実践しやすい動きを意識したまとめ

  • 関節を深く曲げすぎない軽い動きで様子を見る
  • 痛みが出るときは回数を減らすか別メニューに切り替える
  • 運動中の呼吸は自然に行い、止めない
  • 無理に負荷を上げず、徐々に慣らしていく

膝を保護する生活習慣

リハビリを続けやすい環境を整えることは、クリニックでの治療効果を維持するうえでも重要です。膝を保護する生活習慣を身につけると、痛みの緩和や再発予防につながります。

適度な休息と睡眠

休息と睡眠が不足すると、筋肉や関節の回復が遅れ、疲労が蓄積します。痛みの増幅にもつながるため、夜はゆっくり休み、日中もこまめに足を伸ばして血行を促しましょう。

体重管理

体重が増えると膝への負担が大きくなるため、適度な運動とバランスの良い食事の組み合わせが大切です。

タンパク質やカルシウム、ビタミンDなどを含む食材を意識的に摂取すると筋肉や骨の健康維持に役立ちます。

サポーターや装具の活用

膝に安定感を持たせるため、専門家の判断のもとでサポーターや装具を使用することがあります。膝を保温し、動きを補助する効果が期待できる一方で、過信は禁物です。

正しい装着方法を学んだうえで使用するとトラブルを防げます。

日常動作の整理

膝への負担が大きい姿勢や動きを見直して、段差や階段を使う頻度を必要に応じて調整することも有効です。歩行時の荷物の持ち方や座る椅子の高さにも気を配るとより安心です。

膝への負担を抑える工夫のまとめ

  • 足に合った靴を選ぶ
  • 長時間の立ち仕事や座り仕事は適度に休憩を挟む
  • 体重コントロールを意識する
  • サポーターや杖などを適切に活用する

体重管理に役立つ食材の例

食材カテゴリー具体例効果
タンパク質鶏むね肉、魚、大豆製品筋肉・組織の修復、免疫力維持
カルシウム牛乳、ヨーグルト、小魚骨の健康維持、神経伝達の調節
ビタミンDきくらげ、きのこ類、鮭カルシウム吸収を助ける
抗酸化物質緑黄色野菜、果物(ベリー類など)炎症抑制、細胞の酸化ストレス軽減

よくある質問

膝に痛みがある場合でも運動したほうがよいですか?

痛みがあるときも、完全に動かさないと筋力の低下や関節のこわばりが進む可能性があります。ただし、痛みが強いときは医師に相談しながら負荷を調整した運動を選ぶと安全です。

歩行は膝への負担が大きいでしょうか?

歩行は膝への負担が一定程度ありますが、正しいフォームで行えば筋力維持や循環改善に役立ちます。体重が重い場合は短い距離から始めて、徐々に歩く時間を延ばすと取り組みやすいです。

サポーターは毎日使い続けても大丈夫でしょうか?

医療用サポーターは専門家の指導のもとで使用するのが望ましいです。長時間装着し続けると筋肉がサポートを怠り、かえって弱ってしまう恐れもあります。状況に応じて外すタイミングを相談してください。

変形性膝関節症リハビリにはどれくらいの期間が必要ですか?

個人差がありますが、数か月から年単位で見守ることが多いです。症状の進行度合い、年齢、生活習慣、筋力などによって異なります。定期的な受診とフォローアップで適切な方針を決定すると進めやすいです。

以上

参考文献

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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