足立慶友医療コラム

膝の捻挫が起きたときの症状と治療 – 専門医の解説

2025.05.10

膝の捻挫は、スポーツ活動中や日常生活での転倒、不意なひねり動作などで誰にでも起こりうる怪我です。急な痛みや腫れに戸惑う方も多いでしょう。

この記事では、膝の捻挫が起きた際の症状、適切な応急処置、医療機関で行う診断と治療法、そして予防策について、専門的な観点から分かりやすく解説します。

膝の痛みに悩む方が、ご自身の状態を理解し、適切な対応をとるための一助となれば幸いです。

膝の捻挫とは何か

膝の捻挫は、膝関節を支える靭帯や関節包といった軟部組織が、許容範囲を超える外力によって損傷することを指します。

多くの場合、スポーツ中の急な方向転換、ジャンプの着地、相手選手との接触プレー、あるいは日常生活での転倒や階段の踏み外しなどが原因で発生します。

膝関節は体重を支え、複雑な動きを可能にする重要な関節であるため、捻挫を起こすと日常生活に大きな支障をきたすことがあります。

膝関節の構造と役割

膝関節は、大腿骨(太ももの骨)、脛骨(すねの骨)、そして膝蓋骨(膝のお皿)の3つの骨で構成されています。これらの骨の表面は軟骨で覆われ、衝撃を吸収し、滑らかな動きを助けています。

関節の安定性を高め、動きを制御するために、膝には主に4つの主要な靭帯が存在します。

膝の主要な靭帯とその役割

靭帯の名称位置主な役割
前十字靭帯 (ACL)膝関節の中央脛骨が前方にずれるのを防ぐ、回旋運動の制御
後十字靭帯 (PCL)膝関節の中央脛骨が後方にずれるのを防ぐ
内側側副靭帯 (MCL)膝の内側膝が外側に反る(外反する)のを防ぐ
外側側副靭帯 (LCL)膝の外側膝が内側に反る(内反する)のを防ぐ

これらの靭帯が連携して働くことで、膝関節は安定し、スムーズな曲げ伸ばしや複雑な動きが可能になります。

捻挫は、これらの靭帯が許容範囲を超えて引き伸ばされたり、部分的にまたは完全に断裂したりすることで発生します。

捻挫が起こる原因

膝の捻挫は、膝関節に異常な方向への強い力が加わることで発生します。具体的な原因としては、以下のような状況が挙げられます。

  • スポーツ中の急停止や方向転換(バスケットボール、サッカー、スキーなど)
  • ジャンプからの着地時の失敗
  • ラグビーや柔道など、コンタクトスポーツでの直接的な衝撃
  • 交通事故による膝への外力
  • 日常生活での転倒や階段の踏み外し
  • 膝を強くひねる動作

これらの動作や状況により、特定の靭帯に過度なストレスがかかり、損傷に至ります。特に、足が地面に固定された状態で膝がひねられると、前十字靭帯や半月板を損傷しやすくなります。

膝の捻挫の種類(損傷部位による分類)

膝の捻挫は、主にどの靭帯が損傷したかによって分類されます。最も頻度が高いのは内側側副靭帯損傷で、次いで前十字靭帯損傷が多く見られます。

複数の靭帯が同時に損傷することもあります。

代表的な膝の靭帯損傷

損傷靭帯典型的な受傷機転特徴的な症状
前十字靭帯損傷スポーツ中の急停止、方向転換、ジャンプ着地時受傷時の断裂音(ポップ音)、膝崩れ、強い不安定感
後十字靭帯損傷膝を強くぶつける(ダッシュボード損傷など)、膝の過伸展膝後方の痛み、不安定感は軽度な場合も
内側側副靭帯損傷膝の外側からの衝撃(外反強制)膝内側の痛み、圧痛、不安定感
外側側副靭帯損傷膝の内側からの衝撃(内反強制)膝外側の痛み、圧痛、不安定感

これらの靭帯損傷は単独で起こることもあれば、半月板損傷や軟骨損傷を合併することもあります。正確な診断には専門医の診察が重要です。

膝の捻挫でみられる主な症状

膝の捻挫の症状は、損傷した靭帯の種類や損傷の程度によって異なりますが、一般的に以下のような症状が現れます。

症状の現れ方には個人差があり、受傷直後から強い症状が出る場合もあれば、数時間後から徐々に悪化する場合もあります。

受傷直後の症状

膝を捻挫した直後には、特徴的な症状がいくつか現れます。これらの初期症状を把握することが、早期の適切な対応につながります。

痛み

最も一般的な症状は痛みです。損傷した靭帯の部位に一致して、ズキズキとした鋭い痛みや、押すと痛む圧痛を感じます。体重をかけると痛みが強くなるため、歩行が困難になることもあります。

特に前十字靭帯断裂のような重度の損傷では、受傷時に「ブチッ」という断裂音(ポップ音)を感じ、激痛を伴うことがあります。

腫れ(関節内血腫・浮腫)

靭帯が損傷すると、炎症反応や内出血により膝関節が腫れてきます。この腫れは、受傷後数時間から数日で顕著になることが多いです。

前十字靭帯や後十字靭帯など関節内の靭帯が損傷した場合、関節内に出血(関節内血腫)が起こり、膝全体がパンパンに腫れ上がることがあります。

側副靭帯の損傷では、関節外の皮下組織に腫れ(浮腫)が見られることがあります。

内出血(皮下出血斑)

靭帯や周囲の組織からの出血が皮膚の下に広がり、青紫色や赤紫色のあざ(皮下出血斑)として現れることがあります。

これは受傷後数日してから目立ってくることもあり、膝の周囲だけでなく、太ももやふくらはぎにまで広がることもあります。

時間経過とともに現れる症状

受傷直後の急性期症状が落ち着いた後も、膝の捻挫による影響は続くことがあります。これらの症状は、日常生活やスポーツ活動への復帰に影響を与える可能性があります。

関節の不安定感

損傷した靭帯が関節を十分に支えられなくなることで、膝がグラグラするような不安定感を感じることがあります。

特に、歩行中や階段の上り下り、方向転換時などに、「膝が抜けるような感じ」「膝がガクッとなる感じ」として自覚されることが多いです。

これは前十字靭帯損傷で特に顕著に見られる症状です。

可動域制限

痛みや腫れ、あるいは損傷した組織が物理的に邪魔をすることで、膝の曲げ伸ばしがしにくくなる状態(可動域制限)が生じることがあります。

特に、膝を完全に伸ばせない、または深く曲げられないといった症状が現れます。無理に動かそうとすると痛みが強まるため、注意が必要です。

膝崩れ

歩行中や運動中に、不意に膝の力が抜けてガクッと崩れる現象を「膝崩れ」と呼びます。これは、主に前十字靭帯が機能不全に陥った場合に起こりやすく、関節の不安定性が原因です。

膝崩れを繰り返すと、半月板や軟骨など他の組織への二次的な損傷を引き起こすリスクが高まります。

膝の捻挫における症状の進行

時期主な症状注意点
受傷直後(急性期)激しい痛み、急速な腫れ、可動域制限、断裂音(場合による)無理に動かさず、RICE処置を行う
数時間~数日後痛みの持続、腫れの増悪、内出血の出現医療機関の受診を検討
数日~数週間後(亜急性期・慢性期)痛みの軽減、腫れの改善、不安定感、膝崩れ、可動域制限の残存適切な治療とリハビリテーションが重要

膝の捻挫が疑われる場合の応急処置 RICE処置

膝を捻挫してしまった場合、医療機関を受診するまでの間に行う応急処置として「RICE処置」が基本となります。

RICEとは、Rest(安静)、Ice(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)の頭文字をとったもので、これらの処置を適切に行うことで、痛みや腫れを軽減し、損傷の拡大を防ぐ効果が期待できます。

安静(Rest)

損傷した膝関節を動かさないようにし、体重をかけないようにします。無理に動かすと、損傷が悪化したり、治癒が遅れたりする可能性があります。

スポーツ活動中であれば直ちに中止し、安全な場所に移動します。必要に応じて松葉杖を使用することも検討します。

冷却(Ice)

ビニール袋に氷と少量の水を入れ、タオルで包んで患部に当てます。冷却することで、炎症や内出血を抑え、痛みを和らげる効果があります。

1回の冷却時間は15分から20分程度を目安とし、凍傷を避けるために直接氷を皮膚に当てないように注意します。これを1日に数回繰り返します。

冷却スプレーは表面的な冷却効果しかなく、深部まで冷やすには氷が適しています。

圧迫(Compression)

弾性包帯やテーピング、サポーターなどで患部を適度に圧迫します。圧迫することで、内出血や腫れが広がるのを抑える効果があります。

ただし、強く圧迫しすぎると血行障害や神経麻痺を引き起こす可能性があるため、しびれや変色がないか確認しながら、適度な強さで巻くことが重要です。

挙上(Elevation)

患部を心臓より高い位置に保ちます。クッションや座布団などを利用して膝の下に入れ、足を高くすることで、重力を利用して腫れや内出血を軽減する効果があります。

特に就寝時や安静にしている時に行うと効果的です。

RICE処置のポイント

処置目的注意点
安静 (Rest)損傷の悪化防止、治癒促進無理に動かさない、体重をかけない
冷却 (Ice)炎症・内出血の抑制、鎮痛1回15-20分、直接当てない、凍傷注意
圧迫 (Compression)内出血・腫れの抑制強く圧迫しすぎない、血行障害注意
挙上 (Elevation)腫れ・内出血の軽減患部を心臓より高く保つ

RICE処置はあくまで応急処置です。これらの処置を行った上で、できるだけ早く専門の医療機関を受診し、正確な診断と適切な治療を受けることが大切です。

医療機関での膝の捻挫の診断方法

膝の捻挫が疑われる場合、医療機関ではまず問診や身体診察を行い、必要に応じて画像検査を実施して診断を確定します。

正確な診断は、適切な治療方針を決定するために非常に重要です。

問診と視診・触診

医師はまず、いつ、どこで、どのようにして膝を痛めたか(受傷機転)、どのような症状があるか(痛み、腫れ、不安定感の程度など)、過去に膝の怪我をしたことがあるかなどを詳しく尋ねます(問診)。

次に、膝の状態を視覚的に確認します(視診)。腫れの程度や範囲、内出血の有無、変形の有無などを観察します。

その後、実際に膝に触れて、圧痛の部位、熱感の有無、関節の不安定性(徒手ストレス検査)、可動域などを評価します(触診)。

徒手ストレス検査では、特定の靭帯にストレスをかけることで、その靭帯の損傷度合いを評価します。

例えば、前十字靭帯損傷を疑う場合はラックマンテストや前方引き出しテスト、内側側副靭帯損傷を疑う場合は外反ストレステストなどを行います。

画像検査の重要性

問診や身体診察だけでは診断が難しい場合や、骨折、半月板損傷、軟骨損傷などの合併損傷が疑われる場合には、画像検査を行います。

画像検査は、損傷の部位や程度を客観的に評価するために役立ちます。

レントゲン検査(X線検査)

レントゲン検査は、主に骨の状態を確認するために行います。

靭帯そのものはレントゲンには写りませんが、靭帯が付着する部分の骨が剥がれてしまう剥離骨折や、他の骨折の有無を確認することができます。

また、関節の隙間の広さや骨の位置関係から、間接的に靭帯損傷の重症度を推測することもあります。

ストレスレントゲンといって、膝に一定の力を加えながら撮影することで、関節の不安定性を評価する方法もあります。

MRI検査

MRI(磁気共鳴画像)検査は、靭帯、半月板、軟骨、筋肉といった軟部組織の状態を詳細に描出することができる非常に有用な検査です。

靭帯の断裂の有無や程度、半月板損傷や軟骨損傷の合併などを正確に評価できます。特に前十字靭帯損傷や後十字靭帯損傷、半月板損傷の診断には欠かせない検査と言えます。

ただし、検査に時間がかかることや、費用が高額になること、体内に金属がある場合は検査できないなどの制約があります。

超音波検査(エコー検査)

超音波検査は、リアルタイムに関節や靭帯の状態を観察できる簡便な検査です。

特に内側側副靭帯や外側側副靭帯といった表在性の靭帯の損傷評価や、関節内の水腫(水が溜まること)の確認に有用です。

MRI検査ほど詳細な情報は得られませんが、放射線被曝がなく、手軽に行える利点があります。動かしながら評価できる(ダイナミック評価)のも特徴です。

膝の捻挫における主な画像検査

検査方法主な目的特徴
レントゲン検査骨折の有無、骨の位置関係の確認簡便、安価、靭帯は直接描出不可
MRI検査靭帯、半月板、軟骨などの軟部組織の詳細な評価高精度、被曝なし、高価、時間かかる
超音波検査表在性靭帯の評価、関節水腫の確認簡便、リアルタイム、被曝なし、深部評価は困難

靭帯損傷の重症度分類

靭帯損傷の程度は、一般的に以下のように分類されます。この重症度分類は、治療方針の決定や予後の予測に役立ちます。

膝の靭帯損傷の重症度

重症度靭帯の状態主な症状・所見
I度(軽症)靭帯線維の微細な損傷(引き伸ばされた状態、断裂なし)軽い痛み、腫れは軽度、関節の不安定感はほとんどない
II度(中等症)靭帯の部分断裂中程度の痛み、腫れ、圧痛、軽度~中等度の不安定感を伴うことがある
III度(重症)靭帯の完全断裂強い痛み、著しい腫れ、明らかな関節の不安定感、機能障害

これらの診察と検査結果を総合的に判断し、最終的な診断と治療方針が決定されます。

膝の捻挫の治療法

膝の捻挫の治療法は、損傷した靭帯の種類、損傷の程度(重症度)、年齢、活動レベル、合併損傷の有無などを総合的に考慮して決定します。

治療法は大きく分けて、手術を行わない「保存療法」と、手術を行う「手術療法」があります。

保存療法

靭帯の損傷が軽度から中等度(I度~II度)の場合や、高齢者、活動性が低い方、手術を希望しない場合などには、保存療法が選択されることが一般的です。

内側側副靭帯損傷や外側側副靭帯損傷の多くは保存療法で良好な結果が期待できます。

薬物療法

痛みを和らげ、炎症を抑えるために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の内服薬や外用薬(湿布、塗り薬)を使用します。

腫れや痛みが強い場合には、関節内に溜まった血液や関節液を穿刺して吸引することもあります。

装具療法

損傷した靭帯を保護し、膝関節の安定性を高めるために、サポーターやギプス、装具などを使用します。

軽症の場合は伸縮性のあるサポーター、中等症以上の場合は固定性の高いギプスやヒンジ付きの装具など、損傷の程度に応じて選択します。装着期間は損傷の程度や回復状態によって異なります。

物理療法

温熱療法(ホットパックなど)、寒冷療法(アイシング)、電気刺激療法、超音波療法などを行い、血行を改善し、痛みや腫れを軽減し、組織の修復を促します。

これらの治療は、リハビリテーションと並行して行われることが多いです。

運動療法(リハビリテーション)

膝の捻挫治療において、リハビリテーションは非常に重要です。急性期の炎症が落ち着いたら、徐々に膝関節の可動域を回復させる訓練や、膝周囲の筋力を強化する訓練を開始します。

特に太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)や後ろの筋肉(ハムストリングス)を鍛えることで、膝関節の安定性を高めます。

また、バランス能力や固有受容覚(関節の位置や動きを感じる感覚)を改善する訓練も行い、再発予防やスポーツ復帰を目指します。

手術療法

靭帯が完全に断裂している場合(III度損傷)、特に前十字靭帯損傷や複数の靭帯が損傷している場合、あるいは保存療法で十分な効果が得られず、膝の不安定感が強く日常生活やスポーツ活動に支障をきたす場合には、手術療法が検討されます。

手術が検討されるケース

  • 前十字靭帯の完全断裂で、スポーツ活動への復帰を強く希望する場合
  • 複数の靭帯損傷を合併している場合
  • 保存療法を行っても膝の不安定感が改善しない場合
  • 半月板損傷や軟骨損傷など、手術が必要な合併損傷がある場合
  • 若年者で活動性が高い場合

代表的な手術方法

損傷した靭帯の種類や状態に応じて、様々な手術方法があります。

代表的なものとしては、靭帯修復術(断裂した靭帯を縫い合わせる手術)や靭帯再建術(自分の他の部位の腱や人工靭帯を移植して、新しい靭帯を作る手術)があります。

前十字靭帯損傷に対しては、関節鏡を用いた低侵襲な靭帯再建術が一般的に行われます。この手術では、膝屈筋腱(ハムストリング腱)や膝蓋腱などを移植腱として使用します。

主な靭帯損傷に対する手術的治療

損傷靭帯主な手術方法備考
前十字靭帯 (ACL)靭帯再建術(自家腱移植が一般的)関節鏡視下手術で行われることが多い
後十字靭帯 (PCL)靭帯再建術(自家腱または同種腱移植)保存療法が選択されることも多い
側副靭帯 (MCL/LCL)靭帯修復術または再建術単独損傷では保存療法が多いが、複合損傷や重度不安定性では手術検討

手術後のリハビリテーション

手術療法を選択した場合、術後のリハビリテーションが極めて重要です。

手術で再建した靭帯がしっかりと機能するためには、適切な時期に適切な負荷をかけながら、関節可動域の回復、筋力強化、バランス能力の向上などを段階的に進めていく必要があります。

リハビリテーションのプログラムは、手術方法や個人の状態によって異なりますが、通常、スポーツ復帰までには数ヶ月から1年程度かかることが一般的です。

医師や理学療法士の指導のもと、根気強く取り組むことが大切です。

膝の捻挫の予防と再発防止

一度膝の捻挫を経験すると、再発しやすい傾向があるため、予防と再発防止策を講じることが非常に重要です。

日常生活やスポーツ活動において、いくつかの点に注意することで、膝への負担を軽減し、捻挫のリスクを減らすことができます。

日常生活で気をつけること

日常生活の中にも、膝に負担をかける動作は潜んでいます。意識的に膝に優しい生活を送ることが予防につながります。

正しい体の使い方

重い物を持ち上げる際や、立ち座りの動作、階段の上り下りなどで、膝に負担のかからない正しい体の使い方を意識します。

例えば、物を持ち上げる際は膝を曲げて腰を落とし、体幹を使うようにします。急な方向転換やひねり動作を避けることも大切です。

適切な靴の選択

自分の足に合った、クッション性があり安定した靴を選びます。特にヒールの高い靴や底の薄い靴は、膝への負担が大きくなるため、長時間の使用は避けるようにしましょう。

運動時には、そのスポーツに適したシューズを使用することが重要です。

体重管理

体重が増加すると、その分膝関節への負荷も大きくなります。適正体重を維持することは、膝の捻挫予防だけでなく、変形性膝関節症などの他の膝疾患の予防にもつながります。

バランスの取れた食事と適度な運動を心がけましょう。

スポーツ活動における注意点

スポーツ活動は膝の捻挫の主な原因の一つですが、適切な準備とケアを行うことでリスクを低減できます。

ウォーミングアップとクールダウン

運動前には必ず十分なウォーミングアップを行い、筋肉や関節を温め、柔軟性を高めます。特に膝周りのストレッチや軽いジョギングなどが効果的です。

運動後にはクールダウンを行い、疲労した筋肉をほぐし、整理運動をすることで、怪我の予防につながります。

筋力トレーニング

膝関節を支える太ももの筋肉(大腿四頭筋、ハムストリングス)やお尻の筋肉(殿筋群)、体幹の筋肉をバランス良く鍛えることが重要です。

これらの筋力が向上すると、膝関節の安定性が高まり、衝撃吸収能力も向上するため、捻挫のリスクを軽減できます。スクワットやランジなどのトレーニングが有効です。

膝の安定性を高める筋力トレーニング例

トレーニング種類鍛えられる主な筋肉ポイント
スクワット大腿四頭筋、ハムストリングス、殿筋群膝がつま先より前に出ないように、正しいフォームで行う
ランジ大腿四頭筋、ハムストリングス、殿筋群踏み出した足の膝が90度になるように、バランスを保つ
カーフレイズ腓腹筋、ヒラメ筋(ふくらはぎ)かかとをゆっくり上げ下げする、足首の安定性向上

サポーターやテーピングの活用

膝に不安がある場合や、過去に捻挫をしたことがある場合は、スポーツ活動中に膝用のサポーターやテーピングを使用することも有効です。

これらは関節の動きを適切に制限し、安定性を高めることで、再発防止に役立ちます。ただし、頼りすぎると筋力低下を招く可能性もあるため、専門家のアドバイスを受けながら適切に使用することが大切です。

  • 適切なウォーミングアップとクールダウンを必ず行う
  • 膝周りの筋力(特に大腿四頭筋、ハムストリングス)を強化する
  • バランス能力や協調性を高めるトレーニングを取り入れる
  • 疲労が蓄積している状態での無理な運動は避ける
  • 必要に応じてサポーターやテーピングを使用する

膝の捻挫から回復までの期間とリハビリテーション

膝の捻挫からの回復期間は、損傷の重症度、治療法、年齢、個人の治癒能力など多くの要因によって異なります。

適切なリハビリテーションを行うことが、スムーズな回復と機能回復、そして再発予防のために非常に重要です。

回復期間の目安

一般的な回復期間の目安は以下の通りですが、あくまで目安であり、個人差が大きいことを理解しておく必要があります。医師や理学療法士の指示に従い、焦らず治療を進めることが大切です。

軽症(I度損傷)の場合

通常、数日から2週間程度で痛みや腫れが引き、日常生活に支障がなくなることが多いです。スポーツ復帰には2週間から4週間程度かかる場合があります。

中等症(II度損傷)の場合

回復には4週間から8週間程度を要することが一般的です。装具による固定が必要な場合もあります。スポーツ復帰には、筋力や関節機能が十分に回復してからとなり、2ヶ月から3ヶ月以上かかることもあります。

重症(III度損傷、手術なし)の場合

後十字靭帯単独損傷などで保存療法が選択された場合、回復には3ヶ月から6ヶ月以上かかることがあります。長期的なリハビリテーションが必要です。

重症(III度損傷、手術あり)の場合

前十字靭帯再建術などの手術を行った場合、スポーツ復帰までには通常6ヶ月から12ヶ月程度かかります。リハビリテーションの進行状況によって大きく左右されます。競技レベルや種目によっても復帰時期は異なります。

膝の捻挫 回復期間の目安(損傷程度別)

損傷程度治療法日常生活復帰目安スポーツ復귀目安
軽症 (I度)保存療法数日~2週間2~4週間
中等症 (II度)保存療法4~8週間2~3ヶ月以上
重症 (III度)保存療法 (PCLなど)3~6ヶ月6ヶ月以上
重症 (III度)手術療法 (ACLなど)術後リハビリによる (日常生活は比較的早期)6~12ヶ月

リハビリテーションの段階と内容

リハビリテーションは、損傷の状態や時期に応じて段階的に進められます。各段階で目標を設定し、それをクリアしながら次の段階へ移行します。

急性期のリハビリテーション(受傷直後~数週間)

この時期の主な目的は、痛みと腫れのコントロール、関節可動域の維持・改善、筋力低下の予防です。

RICE処置を継続し、医師の指示のもとで松葉杖などを使用し免荷(体重をかけない)または部分荷重とします。

痛みのない範囲での関節可動域訓練(膝の曲げ伸ばし)や、大腿四頭筋の筋力維持のための等尺性運動(力を入れても関節は動かさない運動)などを行います。

回復期のリハビリテーション(数週間~数ヶ月)

痛みや腫れが軽減してきたら、より積極的に関節可動域の改善と筋力強化に取り組みます。

軽い負荷での筋力トレーニング(レッグエクステンション、レッグカールなど)、固定式自転車こぎ、水中ウォーキングなどを開始します。

また、バランス能力や固有受容覚を養うための訓練(片足立ち、バランスマット上での運動など)も重要です。徐々に体重をかけた運動へと移行していきます。

スポーツ復帰に向けたリハビリテーション(数ヶ月~)

筋力や関節機能が十分に回復してきたら、スポーツ特有の動作を取り入れたトレーニングを開始します。

ジョギング、ランニング、ジャンプ、カッティング動作(方向転換)などを段階的に行い、徐々に強度と複雑性を高めていきます。

この時期には、再受傷予防のためのフォーム修正や動作指導も重要になります。最終的には、医師や理学療法士が筋力テストや機能テストを行い、スポーツ復帰の可否を判断します。

  • 急性期:疼痛・腫脹管理、関節可動域維持、筋力低下予防
  • 回復期:関節可動域改善、筋力強化、バランス訓練、段階的荷重
  • 復帰準備期:スポーツ特有動作訓練、持久力向上、再発予防教育

リハビリテーションは専門家の指導のもと、個々の状態に合わせて計画的に行うことが、安全かつ効果的な回復への近道です。

膝の捻挫に関するよくある質問(Q&A)

膝の捻挫に関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q. 膝の捻挫は放置しても治りますか?

A. 軽度の捻挫であれば、安静にしているだけで症状が改善することもあります。

しかし、自己判断で放置してしまうと、靭帯が緩んだまま治癒してしまい、後々膝の不安定感が残ったり、変形性膝関節症などの二次的な問題を引き起こしたりする可能性があります。

特に中等度以上の損傷や、前十字靭帯損傷のような重度の損傷の場合は、適切な治療を受けないと機能回復が難しくなります。症状がある場合は、早めに専門医の診察を受けることを強く推奨します。

Q. 温めるのはいつからが良いですか?

A. 受傷直後の急性期(通常は受傷後24~72時間程度)は、炎症や腫れを抑えるために冷却(アイシング)が基本です。この時期に温めると、炎症が悪化する可能性があります。

炎症が落ち着き、腫れや熱感が引いてきた慢性期(亜急性期以降)には、温熱療法が有効な場合があります。

温めることで血行が促進され、筋肉の緊張が和らぎ、組織の修復を助ける効果が期待できます。ただし、温めるタイミングについては自己判断せず、医師や理学療法士の指示に従うようにしてください。

Q. 膝の捻挫を繰り返しやすいのはなぜですか?

A. 一度膝の捻挫を起こすと、靭帯が伸びたり緩んだりして関節の支持性が低下し、不安定な状態になりやすいため、再発しやすくなることがあります。

また、損傷した靭帯の機能が完全に回復していない状態で無理に運動を再開したり、膝周りの筋力やバランス能力が低下したままだったりすることも再発の要因となります。

固有受容覚(関節の位置や動きを感じるセンサーのような機能)が低下することも影響します。

適切なリハビリテーションを行い、筋力やバランス能力を十分に回復させ、正しい体の使い方を身につけることが再発予防には重要です。

Q. サポーターはいつまで必要ですか?

A. サポーターの使用期間は、捻挫の重症度、治療内容、回復状態、活動レベルなどによって異なります。

急性期には関節を保護し安定させるために固定力の強いサポーターや装具を使用することがありますが、回復とともに徐々に簡易なものへ移行したり、使用時間を減らしたりしていきます。

筋力や関節機能が十分に回復すれば、日常生活ではサポーターが不要になることが多いです。ただし、スポーツ活動時など、膝に大きな負担がかかる場面では、再発予防のために継続してサポーターの使用を推奨されることもあります。

自己判断で中止せず、医師や理学療法士と相談しながら、適切な時期に使用を終えるようにしましょう。

この記事は、膝の捻挫に関する一般的な情報提供を目的としています。個々の症状や状態に応じた診断・治療については、必ず専門の医療機関を受診し、医師の指示に従ってください。

もし膝の捻挫が疑われる場合は、自己判断せずに最寄りの医療機関にご相談ください。

以上

参考文献

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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