頚椎症性神経根症とは – 症状と原因を詳しく解説
頚椎症性神経根症は、首の骨である頚椎の加齢性変化により、神経の通り道が狭くなり、腕や手へ向かう神経根が圧迫されて発症する疾患です。
多くの場合、首の痛みだけでなく、肩から腕、指先にかけての痛みやしびれ、力の入りにくさといった症状が現れます。
この記事では、頚椎症性神経根症の基本的な知識から、具体的な症状、考えられる原因、そして診断や治療法、日常生活での注意点に至るまで、詳しく解説します。
目次
頚椎症性神経根症の基礎知識
頚椎症性神経根症を理解するためには、まず首の構造と神経の役割について知ることが大切です。
頚椎や神経根がどのような働きをしているのか、そしてこの疾患がどのようにして起こるのか、基本的な情報を解説します。
頚椎の構造と役割
頚椎は、頭蓋骨と胸椎の間にある7つの骨で構成されています。これらの骨は椎間板というクッションのような組織でつながっており、首を曲げたり回したりする動きを可能にしています。
また、頚椎の中には脊柱管というトンネルがあり、脳から続く重要な神経である脊髄が通っています。
頚椎の主な機能
機能 | 説明 | 重要性 |
---|---|---|
頭部の支持 | 約5kgもある重い頭部を支えます。 | 姿勢維持に不可欠 |
可動性 | 首を前後左右に曲げたり、回したりする動きを可能にします。 | 日常生活の動作に必要 |
神経の保護 | 脊髄や神経根を衝撃から守ります。 | 身体機能の維持に重要 |
神経根とは何か
神経根は、脊髄から枝分かれして、頚椎の骨の間(椎間孔)から左右に出る神経の根元の部分です。
それぞれの神経根は、特定の領域の感覚や運動を支配しており、肩、腕、手、指先へとつながっています。頚椎には8対の神経根(C1からC8)があります。
神経根の主な役割
- 腕や手の感覚(触覚、痛覚、温度覚など)を脳に伝える
- 脳からの指令を腕や手の筋肉に伝え、運動を制御する
頚椎症性神経根症の定義
頚椎症性神経根症とは、主に加齢による頚椎の変形(椎間板の膨隆、骨棘の形成など)によって、神経根が圧迫されたり刺激されたりすることで起こる一連の症状の総称です。
「頚椎症」は頚椎の加齢性変化全般を指し、その中で特に神経根の症状が主体となる場合を「頚椎症性神経根症」と呼びます。多くの場合、片側の腕や手に症状が現れます。
他の頚椎疾患との違い
首や腕の痛み、しびれを引き起こす疾患は他にもあります。頚椎症性神経根症と症状が似ているものの、原因や病態が異なる疾患について理解しておくことは、適切な対応を知る上で役立ちます。
頚椎症性神経根症と区別が必要な主な疾患
疾患名 | 主な特徴 | 神経根症との違い |
---|---|---|
頚椎椎間板ヘルニア | 椎間板の中の髄核が突出し神経を圧迫します。比較的若い世代にも起こります。 | 急性に発症することが多く、痛みが強い傾向があります。 |
頚椎症性脊髄症 | 頚椎の変形により脊髄自体が圧迫されます。 | 両手足のしびれ、歩行障害、排尿障害など、より広範囲な症状が出ます。 |
胸郭出口症候群 | 首から腕へ向かう神経や血管が、鎖骨周辺で圧迫されます。 | 腕を上げる動作で症状が悪化しやすいです。 |
頚椎症性神経根症の主な症状
頚椎症性神経根症の症状は、圧迫される神経根の部位や程度によって様々です。初期には首の違和感程度でも、進行すると日常生活に支障をきたすこともあります。
どのような症状が現れるのか、具体的に見ていきましょう。「頚椎症性神経根症 症状」というキーワードで検索される方が多いように、症状の理解は非常に重要です。
首の痛みや肩こり
首の痛みは、頚椎症性神経根症の初期症状としてよく見られます。安静時には感じなくても、首を特定の方向に動かしたときや、長時間同じ姿勢を続けた後に痛みが強まることがあります。
慢性的な肩こりとして自覚されることも少なくありません。
痛みの特徴
ズキズキとした痛み、鈍い痛み、電気が走るような痛みなど、感じ方は人それぞれです。首の後ろ側や肩甲骨周囲に痛みを感じることが多いです。
肩こりとの関連
神経根が圧迫されると、首周りの筋肉が緊張しやすくなり、これが肩こりの原因となることがあります。通常の肩こりと思っていても、実は神経根症が隠れている場合もあります。
手や腕のしびれ・痛み
頚椎症性神経根症の代表的な症状の一つが、片側の腕から手、指先にかけてのしびれや痛みです。どの神経根が圧迫されているかによって、症状が出る範囲(皮膚分節:デルマトーム)が異なります。
しびれの範囲と性質
「ジンジン」「ピリピリ」といった異常感覚や、触った感覚が鈍くなる感じが現れます。例えば、第6頚神経根(C6)が障害されると親指側に、第7頚神経根(C7)では中指側に症状が出やすい傾向があります。
痛みの放散
痛みは、首から肩、腕、そして指先へと広がるように感じることがあります。これを放散痛と呼びます。咳やくしゃみ、首を後ろに反らす動作で痛みが強まることも特徴的です。
頚椎症性神経根症の症状が現れやすい部位
圧迫される神経根 | 主な症状の範囲 | 感覚障害の例 |
---|---|---|
C5 | 肩、上腕の外側 | 肩のあたりの感覚が鈍い |
C6 | 上腕の外側から前腕の親指側、親指・人差し指 | 親指や人差し指のしびれ |
C7 | 上腕の後ろ側から前腕の後ろ側、中指 | 中指のしびれ、腕を伸ばす力の低下 |
C8 | 前腕の小指側、薬指・小指 | 薬指や小指のしびれ、握力の低下 |
筋力低下や感覚障害
神経根の圧迫が続くと、その神経が支配する筋肉の力が弱くなったり、感覚が鈍くなったりします。これらの症状は、日常生活の動作に影響を与えることがあります。
握力の低下
物を掴む力が弱くなったり、持っている物を落としやすくなったりします。瓶の蓋が開けにくい、字が書きにくいといった訴えも聞かれます。
細かい作業の困難
指先の感覚が鈍くなったり、力が入りにくくなったりすることで、ボタンをかける、箸を使う、パソコンのキーボードを打つといった細かい作業が難しくなることがあります。
感覚の鈍麻
触った感じが分かりにくい、熱さや冷たさを感じにくいなど、感覚が鈍くなることがあります。怪我をしても気づきにくい場合もあるため注意が必要です。
筋力低下の具体例
- 腕が上がりにくい(C5神経根)
- 肘を曲げる力が弱くなる(C5, C6神経根)
- 手首を反らす力が弱くなる(C6神経根)
- 指を伸ばす、握る力が弱くなる(C7, C8神経根)
その他の症状
頻度は高くありませんが、頚椎症性神経根症では上記以外にも様々な症状が現れることがあります。
頭痛やめまい
首の筋肉の過度な緊張や自律神経の乱れから、頭痛(特に後頭部痛)やめまい、耳鳴りなどを伴うことがあります。ただし、これらの症状は他の原因も考えられるため、慎重な判断が必要です。
自律神経症状
稀に、神経根の圧迫が自律神経に影響を及ぼし、腕の冷感や発汗異常などを引き起こすことも報告されています。
頚椎症性神経根症の主な原因
頚椎症性神経根症は、なぜ起こるのでしょうか。「頚椎症性神経根症 原因」と検索される方も多いように、その背景には様々な要因が関わっています。
最も大きな原因は加齢に伴う頚椎の変化ですが、日常生活の習慣も影響を与えることがあります。
加齢による頚椎の変化
年齢を重ねるとともに、頚椎には様々な変化が生じます。これらの変化が積み重なることで、神経根が圧迫されやすくなります。
椎間板の変性
椎間板は、水分を多く含んだ弾力性のある組織ですが、加齢とともに水分が失われて薄くなったり、硬くなったりします(変性)。
変性した椎間板はクッションとしての機能が低下し、潰れて外に膨らみやすくなります。この膨らみが神経根を圧迫することがあります。
骨棘の形成
頚椎が不安定になると、それを支えようとして骨の一部がトゲのように変形することがあります。これを骨棘(こつきょく)と呼びます。
骨棘が神経根の出口である椎間孔の近くにできると、神経根を刺激したり圧迫したりする原因となります。
椎間関節の変形や靭帯の肥厚
頚椎の骨同士をつなぐ椎間関節も加齢により変形し、分厚くなることがあります。
また、脊柱管の後ろ側にある黄色靭帯などが厚くなる(肥厚する)こともあり、これらが神経の通り道を狭める要因となります。
日常生活における要因
加齢だけでなく、日々の生活習慣や特定の動作が頚椎に負担をかけ、症状の発症や悪化に関与することがあります。
長時間同じ姿勢での作業
デスクワークやスマートフォンの長時間使用など、うつむいた姿勢や前かがみの姿勢を長く続けることは、頚椎に大きな負担をかけます。
特に、頭の重さは体重の約10%と言われており、不適切な姿勢はその負荷を増大させます。
猫背などの不良姿勢
猫背や反り腰といった不良姿勢は、頚椎の自然なカーブ(S字カーブ)を乱し、特定の部位に負担を集中させます。この状態が続くと、頚椎の変性を早める可能性があります。
スポーツや事故による外傷
ラグビーや柔道などのコンタクトスポーツ、あるいは交通事故によるむちうちなどで頚椎に強い衝撃が加わると、椎間板や靭帯を損傷し、将来的に頚椎症性神経根症の発症リスクを高めることがあります。
頚椎への負担が大きいと考えられる日常動作や習慣
動作・習慣 | 頚椎への影響 | 対策のポイント |
---|---|---|
長時間のスマホ操作(うつむき姿勢) | 首の前方への傾きが強くなり、頚椎下部への負荷増大 | 画面を目線の高さに近づける、こまめに休憩する |
高さの合わない枕の使用 | 睡眠中に頚椎が不自然な角度になり、筋肉の緊張や椎間板への圧迫 | 首のカーブを自然に支える高さ・硬さの枕を選ぶ |
重い荷物を片側で持つ習慣 | 身体のバランスが崩れ、頚椎が傾き、片側の筋肉に過度な負担 | リュックサックを利用する、左右交互に持つ |
その他の要因
上記以外にも、頚椎症性神経根症の発症に関与する可能性のある要因がいくつか考えられています。
遺伝的要素
頚椎の形状や椎間板の変性のしやすさには、遺伝的な素因が関わっている可能性も指摘されていますが、まだ明確にはなっていません。
喫煙の影響
喫煙は、血管を収縮させて血流を悪化させるため、椎間板の栄養状態を低下させ、変性を早める可能性があります。また、炎症を引き起こしやすい体質にもつながると考えられています。
頚椎症性神経根症の検査と診断
首や腕の痛み、しびれといった症状がある場合、それが本当に頚椎症性神経根症によるものなのか、またどの程度進行しているのかを正確に把握するためには、専門医による適切な検査と診断が必要です。
ここでは、主な検査方法について解説します。
問診と身体所見
診断の第一歩は、患者さんから詳しくお話を聞くことです。どのような症状が、いつから、どこに、どんな時に現れるのかなどを丁寧に確認します。
症状の確認
痛みの性質(ズキズキ、ジンジンなど)、しびれの範囲、力の入りにくさ、日常生活での困りごとなどを具体的に聞き取ります。また、過去の病歴や怪我、仕事内容や生活習慣なども重要な情報となります。
神経学的検査
医師が患者さんの首や腕を動かしたり、特定の部位を叩いたり押したりすることで、痛みが誘発されるか、あるいは軽減するかを調べるテスト(誘発テスト:スパーリングテスト、ジャクソンテストなど)を行います。
また、ハンマーで腱を叩いて反射を見たり、感覚(触覚、痛覚)の異常がないか、筋力が低下していないかなどを系統的に評価します。
画像検査
頚椎の状態や神経の圧迫の程度を視覚的に確認するために、画像検査を行います。複数の検査を組み合わせて総合的に判断します。
レントゲン検査(X線検査)
頚椎全体の並び(アライメント)、骨の変形(骨棘の有無など)、椎間板腔の狭小化などを確認する基本的な検査です。
首を前後屈させた状態での撮影(動態撮影)も行い、頚椎の不安定性を評価することもあります。
MRI検査
磁気を利用して体の断面を撮影する検査で、レントゲンでは見えない椎間板、脊髄、神経根などの軟部組織の状態を詳しく調べることができます。
椎間板の突出(ヘルニア)の有無や、神経根がどの程度圧迫されているかを評価するのに非常に有用です。
CT検査
X線を使って体の断面を撮影する検査です。骨の細かい形状や骨棘の形成、椎間孔の狭窄などを詳細に評価するのに優れています。MRI検査を補完する目的で行われることがあります。
主な画像検査の種類と特徴
検査名 | 主な観察対象 | 利点 |
---|---|---|
レントゲン検査 | 骨の形状、配列、椎間板腔 | 簡便、全体像の把握 |
MRI検査 | 椎間板、脊髄、神経根、靭帯 | 軟部組織の描出に優れる、神経圧迫の直接的評価 |
CT検査 | 骨の詳細な形状、骨棘、石灰化 | 骨病変の評価に優れる、短時間で撮影可能 |
電気生理学的検査
神経の機能がどの程度障害されているかを客観的に評価するために行われる検査です。画像検査だけでは判断が難しい場合や、他の疾患との鑑別に役立ちます。
針筋電図検査
筋肉に細い針電極を刺し、筋肉が安静にしている時や力を入れた時の電気的な活動を記録します。神経の障害によって筋肉に異常な電気活動が現れていないかを調べます。
神経伝導速度検査
皮膚の上から神経を電気で刺激し、その刺激が神経を伝わる速度や強さを測定します。神経の伝導が遅くなっていたり、弱くなっていたりする部位を特定するのに役立ちます。
頚椎症性神経根症の治療法
頚椎症性神経根症の治療は、症状の程度や患者さんの状態、ライフスタイルなどを考慮して、いくつかの選択肢の中から適切な方法を選びます。
多くの場合、まずは手術をしない保存療法から開始し、症状の改善を目指します。
保存療法
保存療法は、手術以外の方法で症状の軽減と機能回復を図る治療法です。いくつかの方法を組み合わせて行うことが一般的です。
安静と生活指導
症状が強い急性期には、まず首を安静に保つことが大切です。頚椎に負担のかかる姿勢や動作を避け、症状を悪化させないように注意します。
医師や理学療法士から、日常生活での正しい姿勢や動作について指導を受け、実践することが重要です。
薬物療法
痛みやしびれを和らげるために薬を使用します。症状の種類や強さに応じて、いくつかの薬剤が使い分けられます。
鎮痛薬の種類
炎症を抑え痛みを軽減する非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や、中枢神経に作用して痛みを和らげるアセトアミノフェンなどが用いられます。
痛みが強い場合には、弱オピオイド鎮痛薬が考慮されることもあります。
神経障害性疼痛治療薬
神経の圧迫や損傷によって生じる特有の痛み(神経障害性疼痛)に対しては、プレガバリンやミロガバリンといった薬剤が有効な場合があります。
これらの薬は、過敏になった神経の興奮を鎮める作用があります。
保存療法で用いられる主な薬剤
薬剤の種類 | 主な作用 | 代表的な薬剤名(一般名) |
---|---|---|
非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs) | 炎症を抑え、痛みを和らげる | ロキソプロフェン、ジクロフェナク |
アセトアミノフェン | 中枢性に解熱・鎮痛作用を示す | アセトアミノフェン |
神経障害性疼痛治療薬 | 神経の過剰な興奮を抑え、痛みを和らげる | プレガバリン、ミロガバリン |
筋弛緩薬 | 筋肉の緊張を和らげる | エペリゾン、チザニジン |
装具療法(頚椎カラー)
頚椎カラーと呼ばれる装具を首に装着することで、頚椎の動きを制限し、安静を保ちます。これにより、神経根への刺激を軽減し、痛みを和らげる効果が期待できます。
ただし、長期間の使用は首周りの筋力低下を招く可能性もあるため、医師の指示に従って適切に使用することが大切です。
理学療法(リハビリテーション)
理学療法士の指導のもと、温熱療法、電気療法、牽引療法、運動療法などを行います。これらの治療は、痛みの軽減、血行改善、筋肉の緊張緩和、可動域の改善、筋力強化などを目的としています。
温熱療法・電気療法
患部を温めたり、低周波電流を流したりすることで、血行を促進し、筋肉の緊張を和らげ、痛みを軽減します。
運動療法・ストレッチ
首や肩周りの筋肉の柔軟性を高めるストレッチや、頚椎を支える筋力を強化するトレーニングを行います。正しい方法で行うことが重要で、自己流は症状を悪化させる危険性もあるため、専門家の指導を受けるようにしましょう。
薬物療法の主な目的
- 痛みの軽減
- 炎症の抑制
- 筋肉の緊張緩和
神経ブロック療法
痛みが非常に強い場合や、薬物療法などで十分な効果が得られない場合に検討される治療法です。痛みの原因となっている神経の近くに局所麻酔薬やステロイド薬を注射し、神経の興奮を抑えて痛みを軽減します。
ブロック注射の種類
圧迫されている神経根を特定し、その神経根に直接注射する「神経根ブロック」や、脊髄を包む硬膜の外側の空間に注射する「硬膜外ブロック」などがあります。
どのブロックを行うかは、症状や原因によって医師が判断します。
効果と注意点
神経ブロック療法は、即効性があり、強い痛みを劇的に改善させることがあります。しかし、効果の持続時間には個人差があり、根本的な原因を取り除く治療ではないため、他の治療法と組み合わせて行うことが一般的です。
注射に伴う合併症のリスクもわずかながら存在するため、事前に医師から十分な説明を受けることが大切です。
手術療法
保存療法を3ヶ月から6ヶ月程度行っても症状の改善が見られない場合や、筋力低下が進行して日常生活に大きな支障が出ている場合、あるいは耐え難い痛みが続く場合には、手術療法が検討されます。
手術が検討される場合
手術の目的は、神経根を圧迫している原因(椎間板ヘルニア、骨棘など)を取り除き、神経への圧迫を解除(除圧)することです。
手術を行うかどうかは、症状の重症度、画像所見、患者さんの年齢や全身状態、そして患者さん自身の希望などを総合的に考慮して決定します。
代表的な手術方法
頚椎症性神経根症に対する手術には、いくつかの方法があります。首の前方からアプローチする方法と、後方からアプローチする方法に大別されます。
前方除圧固定術
首の前側から切開し、原因となっている椎間板や骨棘を切除して神経の圧迫を取り除いた後、頚椎の安定性を保つために、切除した部分にご自身の骨や人工物(ケージ)を挿入し、金属製のプレートなどで固定する手術です。
一般的に、1~2箇所の神経根圧迫に適しています。
後方除圧術
首の後ろ側から切開し、神経の通り道である椎弓の一部を切除したり、椎間孔を拡大したりすることで神経の圧迫を取り除く手術です。椎弓形成術や椎間孔拡大術などがあります。
広範囲にわたる圧迫や、複数の神経根が障害されている場合に選択されることがあります。
主な手術療法の種類と概要
手術方法 | アプローチ | 主な手技 |
---|---|---|
頚椎前方除圧固定術 (ACDF) | 前方(首の前面) | 椎間板・骨棘の切除、骨移植・ケージ挿入、プレート固定 |
頚椎後方椎弓形成術 | 後方(首の後面) | 椎弓を縦割して拡大し、脊柱管を広げる |
頚椎後方椎間孔拡大術 | 後方(首の後面) | 神経根の出口(椎間孔)を削って広げる |
頚椎症性神経根症の予防とセルフケア
頚椎症性神経根症の発症を完全に防ぐことは難しいかもしれませんが、日常生活での注意点や適切なセルフケアによって、頚椎への負担を軽減し、症状の悪化を防いだり、発症リスクを低減したりすることが期待できます。
「頸椎神経根症」の予防に関心のある方も多いでしょう。
日常生活での注意点
日々の習慣を見直すことが、頚椎を守る第一歩です。無意識に行っている動作が、実は首に負担をかけているかもしれません。
正しい姿勢を保つ
立っている時も座っている時も、背筋を伸ばし、顎を軽く引いた姿勢を意識しましょう。耳、肩、腰が一直線になるのが理想的です。
特にデスクワーク中は、モニターの位置を調整し、目線が下がりすぎないように工夫することが大切です。
長時間同じ姿勢を避ける
長時間同じ姿勢で作業を続けると、首周りの筋肉が緊張し、血行が悪くなります。30分から1時間に一度は休憩を取り、軽いストレッチや首を回すなどして筋肉をほぐしましょう。
首への負担を軽減する工夫
スマートフォンを使用する際は、画面を目線の高さに近づけるように意識し、うつむき姿勢が長時間続かないように注意します。就寝時の枕は、高すぎたり低すぎたりせず、首の自然なカーブを支えるものを選びましょう。
重い荷物を持つ際は、片側に偏らず、リュックサックを利用するなどして左右均等に負荷がかかるように工夫します。
日常生活での予防ポイント
- PCモニターは目線の高さかやや下方に
- スマートフォンは顔の高さで操作する
- 適度な高さと硬さの枕を選ぶ
- 重いものは体幹を使って持ち上げる
効果的なストレッチと運動
首周りの筋肉の柔軟性を保ち、頚椎を支える筋力を維持することは、頚椎症性神経根症の予防や症状軽減に役立ちます。
ただし、痛みやしびれがある場合は無理をせず、医師や理学療法士に相談してから行いましょう。
首周りの筋肉をほぐすストレッチ
ゆっくりと首を前後左右に倒したり、回したりするストレッチは、筋肉の緊張を和らげ、血行を促進します。肩甲骨周りのストレッチも合わせて行うとより効果的です。
痛みを感じる場合は、その方向へのストレッチは避けるか、可動域を小さくしてください。
頚椎を支える筋力トレーニング
首の深層筋(インナーマッスル)を鍛えることで、頚椎の安定性が高まり、負担を軽減することができます。顎を引いて首の後ろを伸ばす運動(チンインエクササイズ)などが代表的です。
これらの運動も、正しいフォームで行うことが重要です。
首のストレッチを行う際の注意点
ポイント | 具体的な内容 | 理由 |
---|---|---|
ゆっくりと行う | 反動をつけず、じっくりと筋肉を伸ばす | 急な動きは筋肉や神経を痛める可能性があるため |
痛みを感じたら中止 | 無理のない範囲で行い、痛みやしびれが増強する場合はすぐにやめる | 症状を悪化させる危険性があるため |
呼吸を止めない | 自然な呼吸を続けながら行う | 筋肉の緊張を和らげ、リラックス効果を高めるため |
生活習慣の見直し
全身の健康状態を良好に保つことも、頚椎の健康維持につながります。
禁煙の重要性
喫煙は、椎間板の変性を促進し、血行を悪化させるため、頚椎症性神経根症のリスクを高める可能性があります。禁煙は、頚椎だけでなく全身の健康にとって多くのメリットがあります。
バランスの取れた食事
骨や筋肉、神経の健康を維持するためには、バランスの取れた食事が大切です。特に、カルシウム、ビタミンD、タンパク質などを十分に摂取するよう心がけましょう。
十分な睡眠
睡眠中に体は修復されます。質の高い睡眠を十分にとることで、筋肉の疲労回復や椎間板への栄養供給が促されます。自分に合った寝具を選び、快適な睡眠環境を整えることが重要です。
頚椎症性神経根症に関するよくある質問(Q&A)
頚椎症性神経根症について、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
Q1. 頚椎症性神経根症は自然に治りますか?
A1. 症状の程度や原因にもよりますが、軽症の場合、安静や生活習慣の改善、適切な保存療法によって症状が自然に軽快したり、治癒したりすることはあります。多くの場合、数週間から数ヶ月で症状が改善する傾向が見られます。
しかし、症状が長引いたり、悪化したりする場合には、医療機関での適切な診断と治療が必要です。自己判断せずに、専門医に相談することをお勧めします。
Q2. どのような枕を選べば良いですか?
A2. 枕選びは頚椎の健康にとって非常に重要です。理想的な枕は、仰向けに寝たときに首の自然なS字カーブを保ち、横向きに寝たときに首の骨が背骨と一直線になる高さのものです。
高すぎる枕は首が前に屈曲し、低すぎる枕は首が後ろに反ってしまい、どちらも頚椎に負担をかけます。素材の硬さも好みがありますが、頭が沈み込みすぎず、適度な反発力で首を支えてくれるものが良いでしょう。
実際に試してみて、リラックスできるものを選ぶことが大切です。
Q3. マッサージや整体は効果がありますか?
A3. マッサージや整体は、首周りの筋肉の緊張を和らげ、血行を促進することで、一時的に症状が楽になることがあります。しかし、頚椎症性神経根症の根本的な原因である神経の圧迫を解消するものではありません。
施術方法や施術者によっては、かえって症状を悪化させてしまう可能性も否定できません。特に、首を強く捻ったり、急激な力を加えたりするような施術は避けるべきです。
マッサージや整体を受ける場合は、まず医師に相談し、国家資格を持つ専門家(あん摩マッサージ指圧師、柔道整復師など)に、頚椎症性神経根症であることを伝えた上で、慎重に施術を受けるようにしましょう。
Q4. 症状が悪化する前に気づくサインはありますか?
A4. 初期には、首や肩のこり、軽い痛み、動かしにくさといった比較的軽微な症状から始まることが多いです。これらの症状が持続したり、徐々に強くなったりする場合、あるいは腕や手にしびれや放散痛が出現してきた場合は、頚椎症性神経根症が進行している可能性があります。
また、以前はできていた細かい作業(字を書く、箸を使うなど)がしにくくなったり、握力が低下したりするのも注意すべきサインです。
このような変化に気づいたら、早めに専門医の診察を受けることをお勧めします。早期発見・早期対応が、症状の悪化を防ぐために重要です。
以上
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