足立慶友医療コラム

変形性膝関節炎の症状と治療|専門医の見解

2025.09.25

膝の痛みや動かしにくさを感じていませんか。それは「変形性膝関節炎」のサインかもしれません。

この病気は、膝関節のクッションである軟骨がすり減ることで痛みや腫れが生じ、進行すると歩行など日常生活に支障をきたすことがあります。

特に中高年の方に多く見られ、決して珍しい病気ではありません。

この記事では、変形性膝関節炎がどのような病気なのか、その原因や症状、専門医が行う診断方法、そして具体的な治療法について詳しく解説します。

変形性膝関節炎とはどのような病気か

変形性膝関節炎について理解を深めるために、まずは膝の基本的な構造から見ていきましょう。

膝関節がどのように機能し、なぜ問題が起きるのかを知ることは、ご自身の状態を把握する上でとても大切です。

ここでは、病気の全体像を掴むための基礎知識を解説します。

膝の構造と軟骨の役割

膝関節は、太ももの骨である「大腿骨(だいたいこつ)」、すねの骨である「脛骨(けいこつ)」、そしてお皿の骨である「膝蓋骨(しつがいこつ)」の3つの骨で構成されています。

これらの骨の表面は、「関節軟骨」という滑らかで弾力のある組織で覆われています。

関節軟骨は、関節にかかる衝撃を吸収するクッションの役割と、関節の動きを滑らかにする潤滑油のような役割を担っています。

この関節軟骨のおかげで、私たちは痛みを感じることなくスムーズに膝を曲げ伸ばしできます。

また、関節は「関節包(かんせつほう)」という袋で包まれており、その内側は滑膜(かつまく)で覆われています。

滑膜からは関節液が分泌され、軟骨に栄養を与えたり、関節の動きをより滑らかにしたりする働きがあります。

なぜ関節軟骨がすり減るのか

変形性膝関節炎の主な原因は、長年にわたる膝への負担の蓄積による関節軟骨の摩耗です。加齢に伴い、軟骨の水分量が減少して弾力性が失われ、すり減りやすくなります。

また、肥満は膝への負担を増大させ、軟骨の摩耗を加速させる大きな要因です。

過去の骨折や靭帯損傷といった膝の怪我も、関節の安定性を損ない、将来的に変形性膝関節炎を発症するきっかけとなることがあります。

これらの要因が複合的に絡み合い、クッションである軟骨が徐々にすり減り、骨同士が直接こすれ合うことで痛みや炎症が生じます。この状態が変形性膝関節炎です。

関節軟骨がすり減る主な要因

要因内容膝への影響
加齢軟骨の水分量低下、弾力性の喪失衝撃吸収能力が低下し、摩耗しやすくなる
肥満体重による関節への過度な負荷歩行時に体重の数倍の負担がかかり、軟骨のすり減りを早める
外傷歴骨折、靭帯損傷、半月板損傷など関節の不安定性や変形が残り、特定の部位に負担が集中する

病気の進行段階

変形性膝関節炎は、症状や関節の状態によって初期、進行期、末期の3つの段階に分けられます。初期の段階では、立ち上がりや歩き始めなど、動き始めに軽い痛みを感じる程度です。

この段階では安静にすると痛みは和らぎます。進行期になると、階段の上り下りや正座が困難になり、痛みが持続するようになります。

関節の動きも制限され、膝に水がたまる(関節水腫)こともあります。末期になると、安静時にも痛みが取れず、夜間に痛みで目が覚めることもあります。

関節の変形が著しくなり、O脚が目立つようになります。このことにより、歩行が困難になり、日常生活に大きな支障をきたします。

日本人における有病率と特徴

日本において、変形性膝関節炎は非常に一般的な病気の一つです。

レントゲン検査による診断基準では、国内に約2,530万人の患者数がいると推定されており、特に高齢になるほどその数は増加します。

男女比では女性に多く、その背景には、女性ホルモンの影響や、男性に比べて筋力が弱いことなどが関係していると考えられています。

また、日本人の生活様式や骨格の特徴から、膝の内側の軟骨がすり減りやすい傾向があり、結果としてO脚変形を呈する方が多いのが特徴です。

長年の正座や和式トイレの使用なども、膝への負担を増大させる一因であったと考えられます。

変形性膝関節炎の主な症状

変形性膝関節炎が進行するにつれて、さまざまな症状が現れます。初期のわずかな違和感から、日常生活に大きな影響を及ぼす強い痛みまで、その現れ方は多様です。

ここでは、病気の進行段階ごとに見られる代表的な症状について解説します。

初期症状の特徴

最も多く見られる初期症状は、膝のこわばりや、動き始めの痛みです。例えば、朝起きたときや、長時間座った後からの立ち上がり、歩き始めの数歩で膝に痛みや動かしにくさを感じます。

しかし、少し動いているうちに症状が軽くなるのが特徴です。この段階では、痛みはそれほど強くなく、長時間の歩行や激しい運動をしない限り、日常生活に大きな支障はありません。

そのため、単なる年齢のせいだと見過ごしてしまう方も少なくありません。

初期症状のチェックリスト

  • 立ち上がる時に膝が痛む
  • 歩き始めに膝がこわばる
  • 長時間歩くと膝がだるくなる
  • 膝を動かすとギシギシ音がする

進行期に見られる症状

病気が進行すると、痛みがより頻繁に、そして強くなります。初期のように動き始めだけでなく、歩行中も痛みが続くようになります。

特に階段の上り下りは、膝への負担が大きいため、痛みを強く感じます。膝の曲げ伸ばしが困難になり、正座や深くしゃがみ込む動作ができなくなることもあります。

また、関節内部で炎症が強くなると、膝が腫れて熱っぽく感じたり、関節液が過剰に分泌されて「膝に水がたまる」状態になったりします。

この水がたまると、膝がパンパンに張って曲げにくくなり、強い痛みを伴います。

進行期における症状の変化

症状初期との違い具体的な状態
痛み持続的になる歩行中も痛みが続き、安静にしても痛むことがある
関節の動き制限が強くなる正座ができない、膝が完全に伸びない・曲がらない
関節の腫れ顕著になる炎症により熱感を伴い、水がたまって膝が重く感じる

末期症状と生活への影響

末期になると、関節軟骨の大部分が失われ、骨同士が直接ぶつかるようになります。

このため、何もしなくても膝が痛む「安静時痛」や、夜間に痛む「夜間痛」が現れ、睡眠が妨げられることもあります。関節の変形は外見からも明らかになり、O脚やX脚が進行します。

膝がまっすぐに伸びない「屈曲拘縮(くっきょくこうしゅく)」という状態になると、歩行が不安定になり、杖や歩行器などの補助具が必要になります。

日常生活のさまざまな動作、例えば着替えや入浴、トイレなども困難になり、行動範囲が狭まることで、生活の質(QOL)が著しく低下します。

症状が現れやすい場面

変形性膝関節炎の痛みは、特定の動作や状況で感じやすい傾向があります。膝に体重がかかる動作、または膝を深く曲げる動作で症状が出やすいのが特徴です。

これらの場面を知ることで、日常生活での注意点を意識しやすくなります。

痛みを誘発しやすい日常動作

動作理由具体的な場面
立ち上がり・座る膝に体重をかけながら深く曲げ伸ばしするため椅子やソファ、トイレからの立ち座り
階段の上り下り平地の歩行よりも大きな負荷が膝にかかるため駅の階段、自宅の階段、歩道橋
長時間の歩行膝への負担が長時間続くため買い物、散歩、旅行

変形性膝関節炎の原因と危険因子

変形性膝関節炎は、単一の原因で発症するわけではなく、複数の要因が絡み合って起こります。どのような人がなりやすいのか、その危険因子を知ることは、予防や早期対策につながります。

ここでは、発症に関わる主な原因と危険因子を詳しく解説します。

加齢による影響

最も大きな危険因子は加齢です。年齢を重ねるにつれて、関節軟骨の主成分である水分やコラーゲンが減少し、弾力性が失われていきます。

これにより、長年の使用による摩耗や、日常的な衝撃に対する抵抗力が弱まり、軟骨がすり減りやすくなります。また、加齢は膝を支える筋力の低下も招きます。

特に太ももの筋肉(大腿四頭筋)が衰えると、膝関節が不安定になり、軟骨への負担が増大します。これらの加齢に伴う身体の変化が、変形性膝関節炎の引き金となります。

肥満と膝への負担

体重の増加は、膝関節に直接的な負担をかけます。平地を歩くだけでも膝には体重の約3倍、階段の上り下りでは約6〜7倍もの負荷がかかると言われています。

つまり、体重が5kg増えれば、歩行時には15kg、階段では30kg以上もの余分な負担が膝にかかる計算になります。この過剰な負荷が、軟骨のすり減りを著しく早めます。

さらに、脂肪組織からは炎症を引き起こす物質が分泌されることも知られており、これが関節の炎症を悪化させる一因となる可能性も指摘されています。

過去の怪我や病気との関連

若い頃のスポーツ活動などで経験した膝の怪我、例えば前十字靭帯損傷や半月板損傷、骨折などは、将来の変形性膝関節炎発症のリスクを高めます。

これらの怪我によって関節の構造がわずかに変化したり、不安定性が残ったりすると、特定の部位の軟骨に負担が集中し、摩耗が進みやすくなります。

また、関節リウマチや痛風といった他の関節疾患も、関節軟骨にダメージを与え、二次的に変形性膝関節炎を引き起こすことがあります。

変形性膝関節炎の主な危険因子

  • 加齢(50歳以上)
  • 女性
  • 肥満(BMIが高い)
  • 膝の外傷歴(骨折、靭帯・半月板損傷)
  • 遺伝的素因

性別や遺伝的要因

変形性膝関節炎は男性よりも女性に多く見られます。

その理由は完全には解明されていませんが、閉経後の女性ホルモン(エストロゲン)の減少が骨や軟骨の健康に影響を与えることや、一般的に女性の方が男性よりも膝を支える筋力が弱いことなどが関係していると考えられています。

また、家族にこの病気の方がいる場合、自身も発症しやすい傾向があることから、遺伝的な要因も関与しているとみられています。

特定の遺伝子が軟骨の脆弱性に関わっている可能性が研究されています。

専門医による診断方法

膝の痛みが変形性膝関節炎によるものなのか、また、どの程度進行しているのかを正確に判断するためには、専門医による診断が必要です。

診断は、患者さんのお話を詳しく聞く問診から始まり、身体診察、画像検査などを組み合わせて総合的に行います。

問診で確認する内容

診断の第一歩は、患者さんの訴えを丁寧に聞くことです。医師は、以下のような点について質問します。

これらの情報は、症状の原因を探り、適切な診断を下すための重要な手がかりとなります。

問診における主な質問項目

確認項目質問の例診断上の意義
症状の性質「いつから、どこが、どのように痛みますか?」痛みの原因や部位を特定する
症状の経緯「どのような時に痛みが強まりますか?」病気の進行度や活動性との関連を把握する
既往歴・職歴「過去に膝を怪我したことはありますか?」危険因子の有無を確認する

身体診察(視診・触診)

次に、医師が膝の状態を直接見て、触って調べます。視診では、膝の腫れや変形(O脚など)の有無、皮膚の色などを確認します。

触診では、膝のどの部分に圧痛(押したときの痛み)があるか、関節に水がたまっていないか、熱感はないかを調べます。

また、患者さんに膝を曲げ伸ばししてもらったり、医師が膝を動かしたりして、関節の可動域(動く範囲)や、動かした際の痛み、不安定性(ぐらつき)がないかなどを評価します。

これらの所見は、病気の重症度を判断する上で重要です。

画像検査(レントゲン・MRI)

変形性膝関節炎の診断を確定するために、画像検査は非常に重要です。一般的にまず行われるのがレントゲン(X線)検査です。レントゲン検査では、骨の状態を詳しく確認できます。

関節の隙間(関節裂隙)が狭くなっていないか、骨の縁に「骨棘(こつきょく)」とよばれるトゲができていないか、骨が硬くなっていないか(骨硬化)などを評価し、病気の進行度を分類します。

一方、MRI検査は、レントゲンでは写らない軟骨や半月板、靭帯といった軟部組織の状態を詳細に観察できます。初期の軟骨の変化や、半月板損傷の合併などを調べる際に有用です。

関節液検査や血液検査

膝に関節液(水)がたまっている場合、注射器で関節液を抜いて調べる「関節液検査」を行うことがあります。

関節液の色や濁り、粘り気などを観察し、成分を分析することで、炎症の程度を評価したり、痛風や偽痛風、関節リウマチなど、他の病気との鑑別を行ったりします。

例えば、変形性膝関節炎の関節液は通常、黄色で透明ですが、細菌感染を起こしている場合は濁っています。

また、関節リウマチが疑われる場合には、血液検査で特有の抗体や炎症反応の数値を確認することもあります。

保存療法による治療アプローチ

変形性膝関節炎の治療は、まず手術以外の方法(保存療法)から始めるのが基本です。保存療法の目的は、痛みを和らげ、膝の機能を改善・維持し、病気の進行を遅らせることです。

ここでは、保存療法の中心となる治療法について解説します。

運動療法の重要性

保存療法の基本であり、最も重要なのが運動療法です。膝の痛みをかばって動かさないでいると、膝周りの筋力が低下し、関節が硬くなってしまいます。

このことが、かえって膝を不安定にし、症状を悪化させる悪循環につながります。運動療法では、膝に負担をかけずに筋力を強化し、関節の可動域を広げることを目指します。

特に、太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)を鍛えることは、膝の安定性を高め、軟骨への負担を軽減する上で非常に効果的です。

ウォーキングや水中運動などの有酸素運動も、体重管理や全身の健康維持に役立ちます。

代表的な運動療法の種類

  • 筋力増強運動(大腿四頭筋訓練など)
  • 可動域訓練(ストレッチング)
  • 有酸素運動(ウォーキング、水中運動、自転車)

薬物療法(内服薬・外用薬)

痛みが強い場合には、薬物療法を併用します。主な目的は、痛みや炎症を抑えて、運動療法をスムーズに行えるようにすることです。

治療の中心となるのは、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)です。飲み薬のほか、湿布や塗り薬などの外用薬もあります。

外用薬は、内服薬に比べて全身への副作用が少ないという利点があります。痛みの種類や強さ、患者さんの持病などを考慮して、適切な薬を選択します。

変形性膝関節炎で用いる主な薬剤

種類主な薬剤期待される効果
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)ロキソプロフェン、ジクロフェナクなど鎮痛、抗炎症
アセトアミノフェンカロナールなど鎮痛
外用薬湿布、塗り薬、貼り薬局所的な鎮痛、抗炎症

物理療法と装具療法

物理療法は、温熱療法や電気療法などを用いて、膝周りの血行を改善し、痛みを和らげる治療法です。膝を温めることで筋肉の緊張がほぐれ、痛みが軽減する効果が期待できます。

装具療法では、サポーターや足底板(インソール)などを使用します。

膝関節サポーターは、膝を安定させ、ぐらつきを抑えることで、歩行時の安心感を得たり、痛みを軽減したりする目的で用います。

O脚が強い場合には、靴の中に入れる足底板を使って足の傾きを調整し、膝の内側にかかる負担を軽くすることもあります。

ヒアルロン酸などの関節内注射

痛みが強い場合や、膝に水がたまっている場合には、関節内に直接薬剤を注射する治療法があります。最も一般的に行われるのが「ヒアルロン酸注射」です。

ヒアルロン酸は、もともと関節液に含まれている成分で、関節の動きを滑らかにしたり、軟骨を保護したりする役割があります。

変形性膝関節炎の膝では、このヒアルロン酸が減少しているため、外部から補充することで、痛みの軽減や関節機能の改善を期待します。

通常、1〜2週間に1回の間隔で数回行います。

炎症と痛みが非常に強い場合には、ステロイド注射を行うこともありますが、頻繁な使用は軟骨に悪影響を及ぼす可能性があるため、慎重に行う必要があります。

手術療法という選択肢

さまざまな保存療法を試しても痛みが改善せず、日常生活に大きな支障が出ている場合には、手術療法を検討します。

手術と聞くと不安に感じる方も多いかもしれませんが、痛みの根本的な原因を取り除き、生活の質を大きく改善できる可能性があります。ここでは代表的な手術方法を紹介します。

手術を検討するタイミング

手術に踏み切るかどうかの判断は、レントゲン上の進行度だけでなく、患者さん自身の痛みや生活の不自由さがどの程度かによって決まります。

一般的には、保存療法を数ヶ月以上続けても効果がなく、安静時や夜間にも痛みが続く、歩行が困難で外出が億劫になる、といった状態が手術を検討する目安となります。

最終的な決定は、年齢や活動レベル、全身の状態などを総合的に考慮し、医師と患者さんが十分に話し合って行います。

手術の目的は、単に痛みを取るだけでなく、その人らしい活動的な生活を取り戻すことにあります。

関節鏡視下手術(デブリードマン)

関節鏡という内視鏡を用いた、身体への負担が少ない手術です。

数ミリ程度の小さな切開部からカメラや器具を挿入し、関節内の様子をモニターで見ながら、傷んだ半月板や剥がれかけた軟骨のささくれなどを取り除きます(デブリードマン)。

関節内の「お掃除」のようなもので、引っかかり感などの症状を改善する効果が期待できます。

ただし、すり減った軟骨そのものを再生させる手術ではないため、効果は一時的である場合も多く、主に比較的若年で、症状の原因がはっきりしている場合に選択されます。

高位脛骨骨切り術(HTO)

主にO脚変形が進行した比較的活動性の高い若年〜中年層の患者さんに行われる手術です。

すねの骨(脛骨)の一部をくさび状に切り、骨の角度を変えて固定し直すことで、体重がかかるラインを膝の内側から外側へ移動させます。

これにより、傷んでいる内側の軟骨への負担を軽減し、痛みを和らげます。自分の関節を温存できる点が最大のメリットで、術後もスポーツなどの活動が可能です。

ただし、骨が癒合するまでに時間がかかり、入院期間やリハビリ期間が長くなる傾向があります。

人工膝関節置換術(TKA)

変形性膝関節炎の手術療法として最も一般的に行われている方法です。傷んだ関節の表面を金属やポリエチレンなどでできた人工の関節(インプラント)に置き換えます。

痛みの原因となる部分を根本的に取り除くため、除痛効果が非常に高く、多くの場合で歩行能力が劇的に改善します。進行期から末期の患者さんで、特に高齢の方に適しています。

近年、インプラントの性能や手術技術が向上し、より自然に近い膝の動きが再現できるようになってきています。

人工関節には耐用年数がありますが、最近のものは20年以上の長期的な成績も期待できます。

代表的な手術療法の比較

手術方法対象メリット
関節鏡視下手術比較的若年、半月板損傷など身体への負担が少ない
高位脛骨骨切り術若年〜中年、O脚変形自分の関節を温存できる
人工膝関節置換術進行期〜末期、主に高齢者除痛効果が非常に高い

日常生活で心がけたいセルフケア

変形性膝関節炎の治療において、医療機関で行う治療と同じくらい重要なのが、日常生活における自己管理(セルフケア)です。

日々の少しの工夫や心がけが、膝への負担を減らし、症状の悪化を防ぐことにつながります。ここでは、すぐに実践できるセルフケアのポイントを紹介します。

膝に優しい生活習慣

日常生活の何気ない動作が、膝に負担をかけていることがあります。和式の生活様式は膝への負担が大きいため、できるだけ洋式の生活スタイルを取り入れることをお勧めします。

例えば、床に座る生活から椅子やソファを使う生活に変える、布団からベッドに変える、和式トイレから洋式トイレに改修する、といった工夫が有効です。

これらの変更により、膝を深く曲げる動作や、立ち上がりの際の負担を大幅に減らすことができます。

生活様式の見直しポイント

場面和式スタイル(負担大)洋式スタイル(負担小)
居間床に座る、座椅子椅子、ソファ
寝室布団ベッド
トイレ和式トイレ洋式トイレ

自宅でできる筋力トレーニング

膝を支える筋力を維持・向上させることは、セルフケアの柱です。

特に太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)は、膝の安定に直接関わる重要な筋肉です。テレビを見ながらでもできる簡単な運動を習慣にしましょう。

椅子に座った状態で、片方の足をゆっくりと床と平行になるまで上げ、5〜10秒程度静止してからゆっくり下ろす運動(レッグエクステンション)がお勧めです。

痛みが出ない範囲で、毎日少しずつ続けることが大切です。

適切な靴選びと歩き方

外出時に履く靴も、膝の負担に大きく影響します。靴底が厚く、クッション性の高いウォーキングシューズなどを選ぶと、地面からの衝撃を和らげることができます。

かかとが不安定な靴や、ハイヒールは避けるべきです。歩き方も重要で、大股で歩くと膝への負担が増えるため、歩幅は小さめを意識しましょう。

痛みが強い場合は、杖を使うことも有効です。杖は、痛い方の足と反対側の手で持つのが基本です。杖を使うことで、患側への荷重を減らし、歩行の安定性を高めることができます。

靴選びのポイント

  • かかとがしっかりしている
  • クッション性が高い
  • つま先が広く、指が自由に動く
  • 靴ひもやベルトで甲を調整できる

体重管理のポイント

体重をコントロールすることは、膝への負担を直接的に減らす、非常に効果的なセルフケアです。体重を1kg減らすだけで、歩行時の膝への負担は約3kgも軽減されます。

肥満気味の方は、まずは現在の体重から少しずつ減らすことを目標にしましょう。食事療法が基本となりますが、過度な食事制限は筋力低下につながる可能性があるため注意が必要です。

バランスの取れた食事を心がけ、摂取カロリーが消費カロリーを上回らないように管理します。先に述べた運動療法と組み合わせることで、より効果的な体重管理が可能になります。

変形性膝関節炎に関するよくある質問

痛みがあるときは温めるべきか、冷やすべきか

これは多くの患者さんが迷う点です。基本的な考え方として、急に痛み出した、腫れて熱を持っているといった「急性期」の症状の場合は、炎症を抑えるために冷やすのが効果的です。

保冷剤などをタオルで包み、15分程度を目安に患部を冷やします。一方、慢性的な痛みやこわばりに対しては、温める方が有効です。

血行を促進し、筋肉の緊張を和らげることで痛みが軽くなります。入浴やホットパックなどを利用して、心地よいと感じる程度に温めましょう。

どちらが適切か迷う場合は、自己判断せず医師に相談してください。

サプリメントは効果があるのか

グルコサミンやコンドロイチン、ヒアルロン酸などのサプリメントが膝の健康に良いとして市販されています。

これらの成分が軟骨の構成要素であることは事実ですが、サプリメントとして摂取した場合に、すり減った軟骨を再生させたり、痛みを確実に改善したりするという質の高い科学的根拠は、現在のところ十分に確立されていません。

効果の感じ方には個人差があり、お守りのように考えて服用している方もいます。ただし、治療の基本はあくまで運動療法や体重管理、適切な薬物療法です。

サプリメントに過度な期待をせず、治療の補助的なものとして考えるのが良いでしょう。

正座はしてもよいか

変形性膝関節炎の患者さんにとって、正座は膝を最大まで深く曲げるため、関節に非常に大きな負担をかける動作です。

軟骨がすり減っている状態で正座をすると、痛みを誘発したり、症状を悪化させたりする可能性があります。そのため、基本的には避けるべき動作です。

冠婚葬祭などでやむを得ない場合は、携帯用の小さな椅子を持参するなど、できるだけ膝に負担がかからない工夫をすることをお勧めします。

痛みを我慢して無理に正座を続けることは避けましょう。

どのような運動を避けるべきか

膝の筋力をつけるための運動は重要ですが、やり方を間違えると逆効果になることがあります。避けるべきは、膝に急激な衝撃やねじれが加わる運動です。

例えば、ジャンプや急な方向転換を伴うスポーツ(バスケットボール、バレーボール、テニスなど)や、深くしゃがみ込む動作を繰り返すウェイトトレーニングなどは、膝への負担が大きいため推奨されません。

また、下り坂を走る、硬いアスファルトの上を長時間走るといった行為も膝に強い衝撃を与えます。運動を選ぶ際は、水中ウォーキングやエアロバイクなど、膝への負担が少ないものから始めるのが安全です。

どのような運動が自分に適しているか、医師や理学療法士に相談しましょう。

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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