変形膝関節症の治療法選択 – 症状に応じた対応
膝の痛みは、日常生活の質に大きく影響します。「歩き始めが痛い」「階段の上り下りがつらい」「正座ができない」など、変形性膝関節症が原因で悩んでいる方は少なくありません。
この病気は加齢とともに進行することが多く、多くの方が「この痛みとどう付き合っていけば良いのか」と不安を感じています。
治療法にはさまざまな選択肢があり、ご自身の症状の程度や生活様式に合わせて選んでいくことが大切です。
この記事では、変形性膝関節症の基本的な知識から、症状の進行度に応じた具体的な治療法まで、分かりやすく解説します。
目次
変形性膝関節症とは?痛みの原因と進行度
まず、変形性膝関節症がどのような状態で、なぜ痛みを生じるのか、基本的な知識を深めていきましょう。
ご自身の膝の中で何が起きているのかを理解することは、治療法を選択する上でとても重要です。
膝の構造と軟骨の役割
膝関節は、太ももの骨である「大腿骨」、すねの骨である「脛骨」、そしてお皿の骨である「膝蓋骨」の3つの骨で構成されています。
これらの骨の表面は、「関節軟骨」という弾力性のある滑らかな組織で覆われています。この関節軟骨は、衝撃を吸収するクッションの役割と、関節の動きを滑らかにする役割を担っています。
関節軟骨があるおかげで、私たちは痛みを感じることなくスムーズに膝を曲げ伸ばしできます。また、関節は「関節包」という袋に包まれており、その内側は「滑膜」で覆われています。
滑膜からは「関節液」が分泌され、軟骨に栄養を与えたり、潤滑油のように関節の動きを助けたりしています。
なぜ軟骨がすり減るのか
変形性膝関節症の主な原因は、加齢による関節軟骨の質の変化と、長年にわたる膝への負担の蓄積です。軟骨は年齢とともに弾力性が失われ、すり減りやすくなります。
肥満や、重労働、激しいスポーツなどで膝に過度な負担がかかることや、O脚・X脚、過去の怪我(骨折や靭帯損傷など)も、軟骨がすり減る要因となります。
軟骨がすり減ってくると、そのかけらが滑膜を刺激して炎症が起こります。この炎症が、痛みや腫れ、関節液の過剰な分泌(いわゆる「膝に水がたまる」状態)を引き起こすのです。
さらに進行すると、軟骨の下の骨が露出し、骨同士が直接こすれ合うことで、より強い痛みや関節の変形につながります。
症状の進行度(初期・中期・末期)
変形性膝関節症の症状は、その進行度によって異なります。一般的に「初期」「中期」「末期」の3段階に分けられます。
ご自身の症状がどの段階にあるのかを把握することは、適切な治療法を選択する上で目安となります。
進行度別の主な症状
進行度 | 主な症状 | 日常生活への影響 |
---|---|---|
初期 | 立ち上がりや歩き始めの軽い痛み、長時間歩いた後の疲労感やこわばり。 | 日常生活に大きな支障はないが、違和感を覚えることがある。 |
中期 | 階段の上り下りや正座が困難になる。膝の曲げ伸ばしがしにくくなる。膝が腫れて水がたまることがある。 | 痛みのために外出をためらうなど、行動範囲が狭くなることがある。 |
末期 | 安静時にも痛みがある。膝が完全に伸びず、歩行が困難になる。関節の変形が外見からも分かる(O脚など)。 | 杖や手すりがないと歩行が難しい。日常生活の多くの場面で介助が必要になる場合がある。 |
治療法の全体像-保存療法と手術療法
変形性膝関節症の治療は、大きく「保存療法」と「手術療法」の2つに分けられます。
どちらの治療法を選ぶかは、症状の進行度、年齢、活動量、そしてご自身がどのような生活を送りたいかといった希望を総合的に考慮して決定します。
保存療法とは
保存療法は、手術以外の方法で症状の緩和と進行の抑制を目指す治療法の総称です。主に、症状が比較的軽い初期から中期の段階で行います。
運動療法、物理療法、装具療法、薬物療法などが含まれます。これらの治療は、痛みを和らげ、膝関節の機能を維持・改善し、病気の進行を遅らせることを目的としています。
多くの場合は、まず保存療法から治療を開始し、その効果を見ながら次の対応を考えていきます。
手術療法とは
手術療法は、保存療法では十分な効果が得られない場合や、症状が進行して日常生活に著しい支障が出ている場合に検討する治療法です。
すり減った軟骨や傷んだ骨を取り除いたり、関節の向きを調整したり、関節そのものを人工のものに置き換えたりすることで、痛みの根本的な原因を取り除き、歩行能力の改善を目指します。
手術にはいくつかの種類があり、関節の状態や年齢などに応じて適切な方法を選択します。
治療法を選択する上での考え方
治療法を選択する際には、まず専門医による正確な診断が必要です。レントゲン検査などで関節の状態を詳しく調べ、現在の進行度を把握します。
その上で、医師と相談しながら、ご自身のライフスタイルや治療に対する希望を伝え、納得のいく治療法を見つけていくことが大切です。
例えば、「趣味の旅行を続けたい」「痛みを気にせず孫と遊びたい」といった具体的な目標を持つことで、よりご自身に合った治療計画を立てやすくなります。
保存療法と手術療法の比較
項目 | 保存療法 | 手術療法 |
---|---|---|
目的 | 症状の緩和、進行の抑制 | 痛みの原因除去、機能の回復 |
主な対象 | 初期~中期 | 中期~末期 |
体への負担 | 比較的少ない | 比較的大きい(入院が必要) |
初期段階で中心となる保存療法
症状が比較的穏やかな初期段階では、手術以外の方法で痛みをコントロールし、膝の機能を維持することが治療の中心となります。
ここでは、具体的な保存療法の種類とその目的について解説します。
運動療法-筋力トレーニングとストレッチ
運動療法は、変形性膝関節症の保存療法の基本となる重要な治療法です。
膝周りの筋肉、特に太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)を鍛えることで、膝関節への負担を軽減し、安定性を高める効果が期待できます。
また、ストレッチで関節の動く範囲を広げ、柔軟性を保つことも痛みの緩和につながります。運動は一度にたくさん行うのではなく、無理のない範囲で毎日継続することが大切です。
痛みが強いときは無理をせず、症状に合わせて運動の強度や内容を調整しましょう。
膝に負担の少ない運動の例
運動の種類 | 主な目的 | 注意点 |
---|---|---|
水中ウォーキング | 浮力で膝への負担を減らしつつ、筋力と心肺機能を向上させる。 | 転倒に注意し、無理のないペースで行う。 |
椅子に座っての膝伸ばし | 大腿四頭筋を安全に強化する。 | 反動をつけず、ゆっくりと行う。 |
自転車エルゴメーター | 膝への衝撃が少なく、関節の動きを滑らかにする。 | サドルの高さを適切に調整し、軽い負荷から始める。 |
物理療法-温熱療法と寒冷療法
物理療法は、熱や電気などの物理的なエネルギーを利用して、痛みの緩和や血行の改善を図る治療法です。
温熱療法は、ホットパックや入浴などで膝を温めることで、血行を良くし、筋肉のこわばりを和らげます。慢性的な鈍い痛みに効果的です。
一方、寒冷療法は、アイスパックなどで膝を冷やすことで、炎症や腫れを抑えます。
急に痛み出したときや、運動後で熱を持っているときに有効です。どちらの方法が適しているかは、痛みの種類や状態によって異なるため、ご自身の症状に合わせて使い分けることが重要です。
装具療法-サポーターや足底板の活用
装具療法は、サポーターや足底板(インソール)などの装具を用いて膝への負担を軽減する方法です。膝関節サポーターは、膝を固定して安定させ、ぐらつきを抑えることで痛みを和らげます。
また、保温効果によって血行を促進する働きもあります。足底板は、靴の中に入れて使用するもので、足の裏のアーチを支えたり、O脚を矯正したりすることで、膝への負担を軽くします。
特に、足の外側に傾きがあるO脚の方には、外側が高くなった足底板が有効な場合があります。これらの装具は、ご自身の足や膝の形に合ったものを選ぶことが大切です。
- タオルやクッションを膝の下に置く
- 床からの立ち座りには椅子や手すりを使う
- 重い荷物は分けて持つ
- 和式の生活様式から洋式に変える
薬物療法による痛みの管理
保存療法の一環として、薬を用いて痛みをコントロールする方法があります。薬物療法は痛みを直接和らげることで、運動療法などを続けやすくする目的もあります。
使用する薬にはいくつかの種類があり、症状の強さや体の状態に応じて使い分けます。
内服薬の種類と特徴
痛みを和らげるための飲み薬として、主に非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンが用いられます。
非ステロイド性抗炎症薬は、炎症を抑える作用と痛みを鎮める作用を併せ持ち、比較的強い痛みに有効です。ただし、胃腸障害などの副作用に注意が必要です。
アセトアミノフェンは、炎症を抑える作用は弱いものの、痛みを鎮める効果があり、副作用が比較的少ないとされています。
これらの薬は、痛みが強いときに一時的に使用するのが基本で、漫然と長期間使用することは避けるべきです。医師の指示に従い、適切に使用することが重要です。
主な内服薬の種類と注意点
薬の種類 | 主な作用 | 注意すべき点 |
---|---|---|
非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs) | 抗炎症作用、鎮痛作用 | 胃腸障害、腎機能障害などの副作用の可能性がある。 |
アセトアミノフェン | 鎮痛作用、解熱作用 | 副作用は少ないが、過剰摂取は肝機能障害のリスクがある。 |
デュロキセチンなど | 神経の痛み信号を抑制する | 眠気や吐き気などの副作用が出ることがある。 |
外用薬(湿布・塗り薬)の使い方
外用薬は、皮膚から有効成分を吸収させて、膝の痛みを和らげる薬です。湿布薬(パップ剤、テープ剤)や、塗り薬(ゲル、クリーム、ローション)などがあります。
これらの多くは非ステロイド性抗炎症薬を含んでおり、内服薬と比べて全身への影響が少なく、副作用のリスクが低いのが特徴です。
そのため、比較的軽い痛みに対しては、まず外用薬から試すことが推奨されます。
使用する際は、皮膚のかぶれなどに注意し、長時間貼り続けたり、広範囲に使いすぎたりしないようにしましょう。
関節内注射(ヒアルロン酸など)
関節内注射は、膝関節の中に直接薬剤を注入する治療法です。代表的なものにヒアルロン酸注射があります。
ヒアルロン酸は、もともと関節液に含まれている成分で、関節の動きを滑らかにし、軟骨を保護する役割があります。
変形性膝関節症ではこのヒアルロン酸が減少・劣化しているため、注射で補充することで、痛みを和らげ、関節の動きを改善する効果が期待できます。
通常、1〜2週間に1回の間隔で数回行います。効果には個人差がありますが、比較的安全性の高い治療法とされています。痛みが非常に強い場合には、ステロイド注射を行うこともあります。
ステロイドは強力な抗炎症作用がありますが、頻繁に使用すると軟骨や骨に悪影響を及ぼす可能性があるため、使用は限定的にします。
再生医療という新しい選択肢
近年、従来の保存療法や手術療法とは異なるアプローチとして、再生医療が注目されています。
これは、患者さん自身の血液や細胞を利用して、傷ついた組織の修復を促し、痛みを和らげることを目指す治療法です。
ここでは代表的な再生医療について紹介します。
PRP(多血小板血漿)療法
PRP療法は、患者さん自身の血液を採取し、遠心分離機で血小板を多く含んだ成分(PRP)を抽出して、膝関節に注射する治療法です。
血小板には、組織の修復を促す「成長因子」が豊富に含まれています。この成長因子の働きによって、関節内の炎症を抑え、痛みを和らげる効果が期待されます。
日帰りで行うことができ、自身の血液を用いるため、アレルギーや拒絶反応などのリスクが低いのが特徴です。変形性膝関節症の初期から中期の方が主な対象となります。
APS(自己タンパク質溶液)療法
APS療法は、PRP療法をさらに進化させた治療法と位置づけられています。PRPから炎症を抑える働きを持つタンパク質と、組織修復を促す成長因子を高濃度に抽出して関節内に注射します。
PRPに比べて、抗炎症作用がより長く持続することが期待されています。この治療法も自身の血液を使用するため、安全性が高いと考えられています。
幹細胞治療
幹細胞治療は、患者さん自身の脂肪や骨髄などから「幹細胞」を採取し、培養して増やしてから膝関節に投与する治療法です。
幹細胞には、さまざまな細胞に変化する能力(分化能)と、組織の修復を助ける物質を放出する能力があります。
関節に投与することで、炎症を抑え、痛みを軽減し、軟骨の変性を抑制する効果が期待されています。
他の再生医療と同様に、自身の細胞を用いるため安全性が高い治療ですが、現状では実施できる医療機関が限られています。
再生医療の比較
治療法 | 用いるもの | 主な期待される効果 |
---|---|---|
PRP療法 | 自身の血液(血小板) | 抗炎症作用、組織修復促進 |
APS療法 | 自身の血液(濃縮した血小板とタンパク質) | より持続的な抗炎症作用 |
幹細胞治療 | 自身の脂肪や骨髄(幹細胞) | 抗炎症作用、組織修復促進、軟骨変性の抑制 |
症状が進行した場合の手術療法
保存療法を続けても痛みが改善せず、歩行や日常生活に大きな支障をきたすようになった場合には、手術療法を検討します。
手術によって痛みの原因を根本的に取り除き、再び活動的な生活を取り戻すことを目指します。
関節鏡視下手術(デブリードマン)
関節鏡視下手術は、関節に数ミリの小さな穴をいくつか開け、そこから「関節鏡」と呼ばれるカメラを挿入して、関節内の様子をモニターで見ながら行う手術です。
この手術では、剥がれかけた軟骨や、炎症の原因となっている滑膜の増殖部分を切除したり、ささくれた半月板を整えたりします(デブリードマン)。
比較的、体への負担が少ない手術ですが、すり減った軟骨そのものを再生させるわけではないため、効果は一時的である場合も多いです。
主に、関節内に軟骨のかけらなどが挟まって急激に痛みが強くなった場合(ロッキング)などに選択されます。
高位脛骨骨切り術
高位脛骨骨切り術は、O脚変形が強い場合に行われることが多い手術です。
すねの骨(脛骨)の膝に近い部分を意図的に切り、骨の角度を変えて固定し直すことで、膝の内側にかかっていた体重の負担を外側に移動させます。
このことにより、痛みの強い内側の軟骨への負担を減らし、痛みを和らげます。ご自身の関節を温存できる点が大きな利点で、手術後もスポーツなどの活動的な生活が期待できます。
比較的若い年齢(60代前半まで)で、活動性の高い方が良い対象となります。
人工膝関節置換術
人工膝関節置換術は、変形性膝関節症が末期まで進行し、軟骨がすり減って骨が変形してしまった場合に行われる代表的な手術です。
傷んだ関節の表面を削り取り、金属やポリエチレンなどでできた人工の関節(インプラント)に置き換えます。
痛みの原因となる部分そのものを除去するため、除痛効果が非常に高いのが特徴です。手術後は、痛みが大幅に改善し、歩行能力が大きく向上することが期待できます。
人工関節には、関節全体を置き換える「全置換術(TKA)」と、傷んでいる部分だけを置き換える「単顆置換術(UKA)」があります。
主な手術療法の対象と特徴
手術法 | 主な対象 | 特徴 |
---|---|---|
関節鏡視下手術 | ロッキング症状がある場合など | 体への負担が少ないが、効果は限定的な場合がある。 |
高位脛骨骨切り術 | O脚変形が強く、比較的活動的な若年者 | 自分の関節を温存できる。スポーツ活動への復帰も可能。 |
人工膝関節置換術 | 末期の変形性膝関節症で、痛みが強い高齢者 | 除痛効果が非常に高く、安定した歩行が期待できる。 |
自分に合った治療法を見つけるために
ここまで様々な治療法を紹介してきましたが、数多くの選択肢の中からご自身にとってより良いものを見つけるためには、いくつかの大切な点があります。
治療は医師任せにするのではなく、主体的に関わっていく姿勢が重要です。
医師との相談の重要性
最も重要なのは、整形外科の専門医と十分に相談することです。医師はレントゲンなどの検査結果から客観的な膝の状態を評価し、専門的な知識に基づいて治療法の選択肢を提示します。
分からないことや不安なことがあれば、遠慮せずに質問しましょう。
治療法のメリットだけでなく、デメリットやリスクについても説明を受け、全ての情報を理解した上で判断することが大切です。
医師との良好な関係を築くことが、納得のいく治療への第一歩となります。
自分の症状と生活様式を伝える
正確な診断と適切な治療計画のためには、ご自身の状態をできるだけ具体的に医師に伝えることが必要です。
「いつから、どこが、どのように痛むのか」「どんな時に痛みが強くなるのか」といった症状の詳細に加え、ご自身の生活様式や仕事の内容、趣味などを伝えることも重要です。
「畑仕事でしゃがむことが多い」「毎日犬の散歩で長い距離を歩く」「階段の多い家に住んでいる」など、具体的な情報を共有することで、医師はより現実に即した治療の提案ができます。
治療の目標を明確にする
「なぜ治療を受けたいのか」という目的をはっきりさせることも、治療法選択の助けになります。治療のゴールは人それぞれです。
「とにかく今の痛みを取りたい」という方もいれば、「また山登りができるようになりたい」「旅行に行って不自由なく歩き回りたい」といった具体的な目標を持つ方もいるでしょう。
この治療の目標を医師と共有することで、例えば、スポーツ復帰を目指すなら骨切り術、安定した日常生活を望むなら人工関節、といったように、目標達成に適した治療法を選びやすくなります。
医師に伝えるべきことの例
カテゴリ | 伝える内容の例 | なぜ重要か |
---|---|---|
症状について | いつから痛むか、痛みの強さ(10段階評価)、痛む場面(歩行時、安静時など) | 病状の正確な把握につながる。 |
生活様式について | 仕事内容、趣味、住環境(階段の有無など)、普段の活動量 | 生活への影響度を評価し、治療目標を設定する参考になる。 |
治療への希望 | 痛みをどの程度まで減らしたいか、治療後にできるようになりたいこと | 患者の満足度を高める治療法を選択する上で指針となる。 |
変形性膝関節症の治療に関するよくある質問
最後に、変形性膝関節症の治療について、多くの方が疑問に思う点についてお答えします。治療に関する不安や疑問の解消にお役立てください。
質問1: 治療にはどのくらいの期間がかかりますか?
回答1: 治療期間は、選択する治療法や症状の程度によって大きく異なります。保存療法の場合、運動療法や薬物療法は基本的に継続して行うものであり、明確な「終わり」はありません。
症状が安定すれば、通院の間隔を空けながら経過を見ていきます。関節内注射は数ヶ月間続くことがあります。
一方、手術療法の場合は、入院期間が数週間から1ヶ月程度、その後のリハビリテーションを含めると、元の生活に戻るまでには数ヶ月から半年程度を要するのが一般的です。
質問2: サプリメントは効果がありますか?
回答2: グルコサミンやコンドロイチン、ヒアルロン酸などのサプリメントが膝の健康に良いとして市販されています。
これらの成分が膝の痛みを和らげたという研究報告もありますが、一方で効果を否定する報告も多く、医学的な評価はまだ定まっていません。
現在のところ、整形外科の診療ガイドラインでは、これらのサプリメントの摂取を強く推奨するには至っていません。
使用を考える場合は、あくまで食事を補うものとして捉え、過度な期待はせず、基本となる治療(運動療法など)と並行して試すのが良いでしょう。
質問3: 一度すり減った軟骨は元に戻りますか?
回答3: 残念ながら、現在の医療では、加齢などですり減ってしまった関節軟骨を完全に元の状態に戻すことは困難です。
関節軟骨には血管が通っていないため、自己修復能力が非常に低い組織だからです。
変形性膝関節症の治療の主な目的は、軟骨を再生させることではなく、残っている軟骨を長持ちさせ、痛みをコントロールして膝の機能を維持・改善することにあります。
ただし、再生医療の分野では軟骨の修復を目指す研究が進んでおり、将来的に新たな治療法が登場する可能性はあります。
質問4: どのタイミングで専門医に相談すべきですか?
回答4: 膝に痛みや違和感を覚えたら、なるべく早い段階で整形外科を受診することをお勧めします。「年のせいだから」と自己判断で放置せず、まずは専門医の診断を受けることが大切です。
特に、「朝、起き上がるときに膝がこわばる」「以前より長く歩けなくなった」「階段の上り下りがつらくなった」といった症状は、変形性膝関節症の初期サインかもしれません。
早期に治療を開始することで、症状の進行を遅らせ、良好な関節機能を長く保つことにつながります。
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