足立慶友医療コラム

変形性膝関節症の予防方法 – 生活習慣の改善ポイント

2025.09.29

膝の痛みは、多くの方にとって活動的な毎日を送る上での大きな悩みです。特に、加齢とともにリスクが高まる変形性膝関節症は、決して他人事ではありません。

この病気は、膝関節の軟骨がすり減ることで痛みや腫れ、変形を引き起こし、進行すると歩行が困難になるなど、生活の質を大きく低下させる可能性があります。

しかし、発症する前や症状が軽いうちから適切な対策を講じることで、その進行を遅らせたり、発症自体を防いだりすることが期待できます。

この記事では、変形性膝関節症を予防するために、今日から始められる生活習慣の改善ポイントを、食事や運動、日常の動作など、多角的な視点から詳しく解説します。

変形性膝関節症とは何か?

私たちの膝関節がスムーズに動くのはなぜでしょうか。そこには、骨の表面を覆う「関節軟骨」という滑らかな組織が重要な役割を果たしています。

このセクションでは、変形性膝関節症の基本的な知識として、膝の構造から発症の原因、そして症状がどのように進行していくのかを解説します。

ご自身の膝の状態を理解し、予防への意識を高めるための第一歩です。

膝の構造と関節軟骨の役割

膝関節は、太ももの骨である大腿骨(だいたいこつ)と、すねの骨である脛骨(けいこつ)、そしてお皿と呼ばれる膝蓋骨(しつがいこつ)の3つの骨で構成されています。

これらの骨の表面は、厚さ数ミリの関節軟骨で覆われています。

関節軟骨は水分を豊富に含んだ弾力性のある組織で、骨同士が直接ぶつかるのを防ぐクッションの役割と、関節の動きを滑らかにする潤滑油のような役割を担っています。

また、関節軟骨には血管や神経が通っていないため、一度すり減ってしまうと、自然に元通りになることはほとんどありません。

この関節軟骨が、膝の健康を維持する上で非常に重要な組織なのです。

変形性膝関節症が起こる原因

変形性膝関節症は、単一の原因で発症するわけではなく、複数の要因が複雑に絡み合って起こります。最も大きな要因は「加齢」です。

長年使い続けることで、関節軟骨が少しずつ弾力性を失い、すり減りやすくなります。次に影響が大きいのが「肥満」です。

体重が増加すると、歩行時や階段の上り下りの際に膝にかかる負担が何倍にも増え、軟骨の摩耗を早めます。

その他にも、膝を支える太ももの筋力低下、過去の骨折や靭帯損傷などの怪我、O脚やX脚といった骨格の歪み、そして遺伝的な要因も関与することがあります。

特に女性は男性に比べて筋力が弱い傾向にあるため、発症しやすいと言われています。

初期症状を見逃さないために

変形性膝関節症は、初期の段階では自覚症状がほとんどないことも少なくありません。しかし、注意深く観察すると、いくつかのサインに気づくことができます。

最も多い初期症状は、立ち上がりや歩き始めなど、動き出す時に感じる膝のこわばりや軽い痛みです。しばらく動いているうちに症状が和らぐことが多いため、見過ごされがちです。

また、長時間歩いた後や、階段の上り下りで膝に違和感や重だるさを感じることもあります。

正座がしにくくなったり、膝の曲げ伸ばしが以前よりスムーズでなくなったりするのも、注意すべき変化の一つです。

変形性膝関節症の進行度と主な症状

進行度主な症状特徴
初期動作開始時の痛み、こわばり休むと痛みが和らぐことが多い
中期階段昇降時の痛み、正座が困難膝が腫れたり、水がたまったりする
末期安静時痛、歩行困難関節の変形が外見からもわかる

進行するとどうなるのか

初期症状を放置して変形性膝関節症が進行すると、症状はより深刻になります。関節軟骨のすり減りが進むと、クッション機能が失われ、骨同士が直接こすれ合うようになります。

このことにより、炎症が強まり、安静にしていてもズキズキと痛むようになります。

また、関節の隙間が狭くなることで、膝の曲げ伸ばしができる範囲が制限され、日常生活の動作に大きな支障をきたします。膝に水がたまって腫れる「関節水腫」を繰り返すことも多くなります。

さらに進行すると、骨の変形が顕著になり、O脚が目立つようになります。最終的には、自力での歩行が困難になり、杖や歩行器が必要になったり、手術を検討したりすることになります。

なぜ予防が重要なのか

変形性膝関節症は、一度発症すると完治が難しい病気です。だからこそ、症状が現れる前から、あるいは症状が軽いうちから「予防」に取り組むことが非常に重要になります。

ここでは、なぜ予防が大切なのか、その理由を生活の質、医療費、そして全身の健康という3つの側面から掘り下げていきます。

予防の意義を深く理解することで、日々の生活習慣を見直す動機付けになるはずです。

生活の質(QOL)を維持するために

膝は、私たちの「動く」という基本的な活動を支える重要な関節です。膝に痛みや動かしにくさが生じると、これまで当たり前にできていたことが一つ、また一つと難しくなっていきます。

例えば、友人と旅行に出かける、趣味のスポーツを楽しむ、孫と公園で遊ぶといった楽しみが制限されるかもしれません。

また、買い物や掃除といった日常的な家事さえも、苦痛を伴う作業に変わってしまう可能性があります。活動範囲が狭まることは、社会的な孤立や精神的なストレスにもつながりかねません。

将来にわたって自分らしく、いきいきとした生活を送るために、膝の健康を守り、生活の質(Quality of Life)を高く維持することが予防の最大の目的です。

将来的な医療費の負担を減らす

変形性膝関節症が進行すると、定期的な通院や薬代、湿布代、ヒアルロン酸注射などの治療費が継続的に発生します。

痛みを和らげるためにサポーターや杖などの補助具が必要になることもあるでしょう。

さらに症状が悪化し、人工膝関節置換術などの手術を受けることになれば、高額な医療費と入院期間が必要になります。

これらの費用は、家計にとって決して小さな負担ではありません。

早期から予防に努めることは、将来の自分への健康投資であると同時に、経済的な負担を軽減することにも直結する、賢明な選択と言えるでしょう。

全身の健康への影響

膝の痛みが原因で外出を控え、運動不足の状態が続くと、全身の健康にも悪影響が及ぶ可能性があります。

活動量が低下すると、消費エネルギーが減るため体重が増加しやすくなり、膝への負担がさらに増えるという悪循環に陥ります。

また、筋力の低下は膝だけでなく、全身の代謝機能の低下にもつながります。このことにより、生活習慣病である糖尿病や高血圧、脂質異常症などのリスクを高める可能性があります。

膝の健康は、単に関節だけの問題ではなく、私たちの体全体の健康を維持するための土台でもあるのです。

膝の不調が引き起こす可能性のある二次的な問題

問題の種類具体的な内容理由
身体的な問題肥満、筋力低下、生活習慣病活動量の低下によるもの
精神的な問題ストレス、孤立感、うつ傾向行動範囲の制限や社会参加の減少
社会的な問題趣味の断念、就労の困難痛みや可動域制限によるもの

体重管理と食生活の見直し

変形性膝関節症の予防と進行抑制において、体重の管理は最も基本的で効果的な対策の一つです。膝は常に私たちの体重を支えており、体重が重ければ重いほど、その負担は大きくなります。

ここでは、適正体重を維持することの重要性と、そのための具体的な食生活の改善ポイントについて詳しく解説します。毎日の食事を見直すことが、膝を守る大きな一歩となります。

肥満が膝にかける負担

膝関節には、ただ立っているだけでも体重そのものの負荷がかかります。歩行時には体重の約3倍、階段の上り下りでは約6〜7倍もの負荷がかかると言われています。

つまり、もし体重が5kg増えれば、歩くたびに膝には15kg、階段では30kg以上の余分な負担が常にかかり続けることになるのです。

この過剰な負荷が、関節軟骨のすり減りを加速させる最大の要因の一つとなります。逆に言えば、体重を少し減らすだけでも、膝への負担を劇的に軽減させることが可能です。

体重減少と膝への負荷軽減の関係

体重減少量歩行時の負荷軽減量階段昇降時の負荷軽減量
-1kg約-3kg約-6kg
-3kg約-9kg約-18kg
-5kg約-15kg約-30kg

バランスの取れた食事の基本

健康的な体重管理と関節の健康維持のためには、バランスの取れた食事が重要です。

特定の食品だけを食べるのではなく、主食(ごはん、パン、麺類)、主菜(肉、魚、卵、大豆製品)、副菜(野菜、きのこ、海藻類)をそろえることを意識しましょう。

特に、筋肉や骨、軟骨の材料となるタンパク質、骨を丈夫にするカルシウム、そして体の調子を整えるビタミンやミネラルを過不足なく摂取することが大切です。

これらの栄養素を意識的に食事に取り入れることで、体の中から膝を支える力を養います。

膝の健康を支える栄養素

栄養素主な働き多く含む食品
タンパク質筋肉や軟骨の材料となる肉、魚、卵、大豆製品、乳製品
カルシウム骨を丈夫にする牛乳、チーズ、小魚、豆腐、小松菜
ビタミンDカルシウムの吸収を助けるきのこ類、鮭、さんま、卵黄

食事で気をつけたいポイント

日々の食事では、いくつかの点に注意することで、より効果的に膝の健康をサポートできます。まず、塩分の摂りすぎに注意しましょう。

塩分の過剰摂取は高血圧の原因となり、体の炎症を促進する可能性があります。加工食品やインスタント食品、外食は塩分が多くなりがちなので、頻度を減らす工夫が必要です。

また、揚げ物などの脂っこい食事や、糖分の多いお菓子やジュースの摂りすぎは、カロリーオーバーにつながりやすいため、適量を心がけましょう。

食事はよく噛んでゆっくり食べることで、満腹感を得やすくなり、食べ過ぎを防ぐ効果も期待できます。

無理のない減量計画の立て方

減量に取り組む際は、急激な体重減少を目指すのではなく、長期的な視点で無理のない計画を立てることが成功の鍵です。

短期間で大幅に体重を落とそうとすると、筋肉まで減少してしまい、かえって膝の安定性を損なうことになりかねません。

目標としては、まずは現在の体重の3〜5%を、3〜6ヶ月かけてゆっくりと減らすことを目指しましょう。具体的な方法としては、一日の摂取カロリーを現状より200〜300kcal程度減らすことから始めます。

これは、ごはんを軽く一杯減らす、間食を低カロリーなものに変える、といった小さな工夫で達成できる範囲です。記録をつけることで、自分の食生活の傾向を把握しやすくなります。

膝に優しい運動習慣

「膝が痛いから動かない方が良い」と考えるのは間違いです。安静にしすぎると、かえって膝周りの筋力が衰え、関節が硬くなり、症状を悪化させる可能性があります。

もちろん、痛みが強い時に無理は禁物ですが、適切な運動を習慣にすることは、変形性膝関節症の予防と改善に非常に効果的です。

このパートでは、膝の健康を維持するための運動の重要性と、具体的な方法について解説します。

運動不足がもたらすリスク

運動不足の状態が続くと、まず膝を支える太ももやお尻の筋肉が衰えていきます。これらの筋肉は、膝関節にかかる衝撃を吸収し、関節を安定させる重要な役割を担っています。

筋力が低下すると、その分の負担が直接関節軟骨にかかるようになり、摩耗を早めてしまいます。また、体を動かさないと関節の可動域が狭くなり、血行も悪化します。

血行不良は、痛みを感じやすくさせたり、筋肉の回復を遅らせたりする原因にもなります。さらに、運動不足は体重増加の大きな要因であり、これも膝への負担を増やすことにつながります。

膝周りの筋力を鍛える重要性

膝関節を安定させるためには、特に太ももの前側にある「大腿四頭筋(だいたいしとうきん)」と、裏側にある「ハムストリングス」をバランス良く鍛えることが重要です。

大腿四頭筋は、膝を伸ばす時に働く筋肉で、体重を支え、着地時の衝撃を和らげる天然のサポーターのような役割を果たします。

ハムストリングスは、膝を曲げる時に働き、大腿四頭筋と連携して膝の動きをコントロールします。これらの筋肉を強化することで、関節のぐらつきを防ぎ、軟骨への負担を軽減することができます。

膝を支える主な筋肉

筋肉名場所主な役割
大腿四頭筋太ももの前側膝を伸ばす、衝撃を吸収する
ハムストリングス太ももの裏側膝を曲げる、動きを制御する
大臀筋お尻体を支え、歩行を安定させる

おすすめの運動の種類

膝に負担をかけずに筋力を向上させるためには、運動の選び方が大切です。ジャンプや急な方向転換を伴う激しいスポーツは避け、膝への衝撃が少ない運動を選びましょう。

代表的なものに、水中ウォーキングやサイクリングがあります。水中では浮力によって膝への負担が大幅に軽減されるため、痛みがある方でも安心して運動できます。

また、自宅で手軽にできる太ももの筋力トレーニングもおすすめです。例えば、椅子に座って片足をゆっくりと上げ下げする運動は、大腿四頭筋を効果的に鍛えることができます。

運動の種類と膝への負担度

運動の種類膝への負担ポイント
水中ウォーキング低い水の抵抗で筋力アップも期待できる
サイクリング(固定式)低いサドルの高さを適切に調整する
ウォーキング中程度クッション性の良い靴を履き、平坦な道を選ぶ
ジョギング高い予防段階ではあまり推奨されない

運動を行う際の注意点

運動は、ただやみくもに行えば良いというものではありません。安全に、そして効果的に行うためには、いくつかの注意点を守ることが重要です。

まず、運動を始める前には必ずウォーミングアップを行い、筋肉や関節をほぐしておきましょう。

運動中や運動後に膝に強い痛みを感じた場合は、無理をせず中止し、運動の強度や内容を見直す必要があります。また、運動後にはクールダウンとして、使った筋肉を中心にストレッチングを行い、疲労回復を促しましょう。

一度に長時間行うよりも、短い時間でも継続することが大切です。「痛いけど気持ちいい」と感じる程度の強度で、毎日少しずつ続けることを目指しましょう。

日常生活での膝への配慮

私たちは無意識のうちに、日常生活の中で膝に負担をかける動作を繰り返していることがあります。

変形性膝関節症の予防には、運動や食事だけでなく、日々の何気ない動作や習慣を見直すことも非常に大切です。

ここでは、立ち方や歩き方、靴の選び方、住環境の工夫など、今日から実践できる膝への配慮について具体的に解説します。小さな意識の変化が、将来の膝の健康を大きく左右します。

正しい姿勢と動作を意識する

猫背や反り腰などの悪い姿勢は、体の重心バランスを崩し、膝に余計な負担をかけてしまいます。椅子に座る時は深く腰掛け、背筋を伸ばすことを意識しましょう。

立つ時や歩く時も、頭のてっぺんから糸で吊られているようなイメージで、体をまっすぐに保つことが大切です。また、床から物を拾う際には、膝を曲げて腰を落とすようにしましょう。

膝を伸ばしたまま前かがみになる動作は、膝だけでなく腰にも大きな負担をかけます。日常のささいな動作一つひとつに気を配ることが、膝を守ることにつながります。

日常動作における膝への負担比較

動作負担の少ない方法負担の大きい方法
物を拾う膝を曲げ、腰を落として拾う膝を伸ばしたまま前かがみになる
椅子から立つ浅く座り、机などに手をついて立つ深く座った状態から反動で立つ
階段を上る手すりを使い、一段ずつゆっくり上る前かがみで急いで上る

靴選びのポイント

毎日履く靴は、膝の健康に直接的な影響を与えます。靴の重要な役割は、歩行時の地面からの衝撃を吸収することです。

そのため、靴底が薄くて硬い靴や、かかとが高すぎるハイヒールは避けるべきです。選ぶべきは、クッション性に優れ、かかとをしっかりと支えてくれるスニーカーのような靴です。

靴底には適度な厚みがあり、足の指が自由に動かせるくらいのゆとりがあるものが理想です。

また、靴紐やマジックテープで足にしっかりとフィットさせることができるタイプを選ぶと、歩行が安定し、膝への負担を軽減できます。

床での生活習慣を見直す

日本の伝統的な生活様式である床に座る、布団で寝起きするといった習慣は、実は膝に大きな負担をかけます。特に、正座やあぐらは膝を深く曲げるため、関節内の圧力を高め、軟骨にダメージを与える可能性があります。

また、床から立ち上がる動作は、膝に大きな力が必要となり、痛みを誘発する原因にもなります。

可能であれば、生活様式を洋式に切り替え、椅子やテーブル、ベッドを使用することをおすすめします。

このことにより、膝を深く曲げたり、大きな負担をかけて立ち上がったりする機会を大幅に減らすことができます。

生活様式と膝への負担

項目和式生活(負担大)洋式生活(負担小)
座る正座、あぐら椅子、ソファ
食事座卓ダイニングテーブル
就寝布団ベッド

膝を冷やさない工夫

膝関節が冷えると、周囲の筋肉が硬くなり、血行が悪化します。血行不良は、痛みを増強させる一因となるため、膝を温めて血の巡りを良くすることが大切です。

特に夏場の冷房や冬場の寒さには注意が必要です。服装は、膝が隠れる長さのズボンやスカートを選び、必要に応じてサポーターやひざ掛けなどを活用しましょう。

入浴時は、シャワーだけで済ませるのではなく、湯船にゆっくりと浸かって体を芯から温めるのが効果的です。温めることで筋肉の緊張がほぐれ、痛みの緩和につながります。

ただし、膝が赤く腫れて熱を持っている場合は、炎症を起こしている可能性があるため、温めるのは避け、冷やすようにしてください。

危険信号?こんな症状には注意

変形性膝関節症はゆっくりと進行するため、初期のサインを見逃しがちです。しかし、体の発する小さな危険信号に早めに気づき、適切に対処することが、重症化を防ぐためには重要です。

ここでは、どのような症状に注意すべきか、そして専門医への相談を考えるべきタイミングについて解説します。自己判断で放置せず、ご自身の膝の状態と向き合うきっかけとしてください。

痛みの特徴と変化

変形性膝関節症の痛みは、進行度によってその特徴が変わります。初期段階では、「動き始め」に痛むのが特徴で、しばらく動くと楽になります。

これが進行すると、階段の上り下りや長距離の歩行など、膝に負担がかかる特定の動作で常に痛むようになります。さらに悪化すると、何もしていない時や夜寝ている時にも痛む「安静時痛」が現れるようになります。

痛みの感じ方も、「重だるい」「こわばる」といった違和感から、「ズキズキ」「ジンジン」といった鋭い痛みに変化していくことがあります。

痛みが長引く、または徐々に強くなっている場合は注意が必要です。

膝の動きにくさと腫れ

痛みと並行して現れる重要なサインが、膝の動きにくさ、すなわち「可動域制限」です。

以前は問題なくできていた正座ができなくなったり、膝が完全に伸びきらなかったり、深く曲げられなくなったりします。

これは、関節軟骨のすり減りや骨の変形によって、関節の構造そのものが変化していることを示唆します。

また、膝が腫れて熱っぽく感じたり、膝に水がたまる(関節水腫)症状が繰り返し起こる場合も、関節内部で炎症が起きている証拠です。

これらの症状は、病気が進行しているサインである可能性が高いです。

専門医への相談を考えるタイミング

市販の湿布や鎮痛薬で一時的に痛みが和らいでも、症状の根本的な原因が解決したわけではありません。

以下のような症状が一つでも当てはまる場合は、自己判断で様子を見るのではなく、一度整形外科を受診することをおすすめします。

早期に専門医の診断を受けることで、正確な状態を把握し、今後の適切な対策や治療方針を立てることができます。

  • 膝の痛みが2週間以上続いている
  • だんだんと痛みが強くなっている
  • 膝が腫れて、熱を持っている
  • 膝の曲げ伸ばしがしにくい
  • 歩行時に膝がぐらつく感じがする

自己判断のリスク

膝の痛みの原因は、変形性膝関節症だけとは限りません。関節リウマチや半月板損傷、靭帯損傷など、他の病気が隠れている可能性もあります。原因が異なれば、当然、対処法も変わってきます。

例えば、炎症が強い時期に無理な運動をすると、かえって症状を悪化させてしまうこともあります。

また、「年のせいだから仕方ない」と諦めて放置してしまうと、気づいた時には症状がかなり進行してしまい、治療の選択肢が限られてしまうことも少なくありません。

正しい診断に基づいた適切な対応こそが、膝の健康を守るための最も確実な道筋です。

変形性膝関節症と間違えやすい他の膝の病気

病名主な特徴変形性膝関節症との違い
関節リウマチ朝のこわばりが強い、複数の関節が腫れる自己免疫疾患であり、血液検査で診断可能
半月板損傷膝の引っかかり感、急に膝が動かなくなるスポーツや外傷がきっかけになることが多い
靭帯損傷受傷時に断裂音、強い痛みと不安定感急な方向転換やジャンプ着地などで発生

変形性膝関節症の予防に関するよくある質問

変形性膝関節症の予防について、多くの方が抱く疑問や不安にお答えします。

サプリメントの効果から、痛みがある時の運動の是非、遺伝との関係まで、気になるポイントをQ&A形式で解説します。正しい知識を身につけ、日々の予防策に役立ててください。

Q. サプリメントは予防に効果がありますか?

A. グルコサミンやコンドロイチン、ヒアルロン酸といった成分を含むサプリメントが、膝の健康に良いとして広く販売されています。

これらの成分は関節軟骨の構成要素であるため、理論的には効果が期待されます。

しかし、現時点では、サプリメントの摂取が変形性膝関節症の予防や治療に有効であるという、質の高い科学的根拠は十分に確立されていません。

効果の感じ方には個人差が大きく、補助的なものと考えるのが良いでしょう。

サプリメントに頼るだけでなく、基本となる体重管理、筋力トレーニング、食生活の改善といった、効果が証明されている方法にしっかりと取り組むことが最も重要です。

Q. 痛みがある場合でも運動は続けるべきですか?

A. 痛みの程度によって対応が異なります。膝が腫れて熱を持っているような強い痛みの場合は、炎症が起きているサインですので、運動は休止して安静にすることが第一です。

この時期に無理をすると、症状を悪化させる可能性があります。

一方、動かし始めに少し痛む程度で、動いているうちに楽になるような場合は、膝に負担の少ない水中ウォーキングや椅子に座っての足上げ運動などを、痛みのない範囲で続ける方が良いでしょう。

適度に動かすことで、関節が硬くなるのを防ぎ、血行を促進する効果が期待できます。判断に迷う場合は、自己判断せず専門医に相談してください。

Q. 若い人でも変形性膝関節症になりますか?

A. 変形性膝関節症は主に加齢が原因で起こるため、高齢者に多い病気ですが、若い人が発症することもあります。

その多くは、スポーツによる半月板損傷や靭帯損傷、あるいは交通事故などによる骨折といった、過去の膝の怪我が原因となる「二次性」のものです。

膝に大きなダメージを受けた後、数年から数十年経ってから発症することがあります。また、肥満や過度な運動負荷も、若年での発症リスクを高める要因となります。

若いからといって安心せず、膝に過度な負担をかけない生活を心がけることが大切です。

Q. 遺伝は関係しますか?

A. 遺伝的要因が変形性膝関節症の発症に関与する可能性は指摘されています。

例えば、生まれつき関節軟骨が傷つきやすい体質や、O脚になりやすい骨格などが遺伝することがあり、これらが発症リスクを高める一因となることがあります。

家族にこの病気の方がいる場合は、そうでない方と比べて発症しやすい傾向があるかもしれません。しかし、遺伝は数ある要因の一つに過ぎません。

たとえ遺伝的な素因があったとしても、体重管理や運動習慣、生活習慣の改善といった後天的な努力によって、発症のリスクを大幅に下げることは十分に可能です。

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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