脊柱側弯症の早期発見と治療開始の目安について
脊柱側弯症は、背骨が横に曲がってしまう病気で、特に成長期のお子さんに見られることがあります。早期に発見し、適切な対応を始めることが、その後の進行を抑える上でとても重要です。
この記事では、脊柱側弯症とはどのような病気か、ご家庭でのチェックポイント、そしてどのような場合に医療機関を受診し、治療を検討すべきかについて、わかりやすく解説します。
脊柱側弯症の症状や治療法について関心のある方々にとって、この記事が正しい知識を得る一助となれば幸いです。
目次
脊柱側弯症とはどのような病気か
脊柱側弯症(せきちゅうそくわんしょう)は、正面または背面から見たときに、背骨(脊柱)が横方向に曲がってしまう状態を指します。
健康な背骨は、横から見るとS字カーブを描いていますが、正面から見るとほぼまっすぐです。しかし、脊柱側弯症では、この正面からのラインがC字型やS字型に弯曲し、時にはねじれ(回旋)を伴うこともあります。
この弯曲やねじれが進行すると、見た目の問題だけでなく、腰痛や背部痛、さらには呼吸器機能や循環器機能に影響を及ぼす可能性も出てきます。
脊柱側弯症の基本的な定義
医学的には、レントゲン検査で背骨の弯曲角度(コブ角と呼ばれます)が10度以上ある場合に脊柱側弯症と診断します。
ごく軽度の弯曲は誰にでも見られることがありますが、一定以上の角度になると治療の対象となることがあります。
脊柱側弯症は、単に横に曲がるだけでなく、椎体(背骨を構成する個々の骨)のねじれを伴う三次元的な変形であることが特徴です。
脊柱側弯症の種類と特徴
脊柱側弯症は、その原因や発症様式によっていくつかの種類に分類されます。代表的なものを理解することで、それぞれの脊柱側弯症の症状や対応について把握しやすくなります。
機能性側弯症
機能性側弯症は、脊柱自体には構造的な異常がないものの、一時的に弯曲が生じている状態です。
例えば、左右の脚の長さの違い(脚長差)、椎間板ヘルニアなどによる痛みを避けるための姿勢(疼痛性側弯)、習慣的な不良姿勢などが原因で起こります。
この場合、原因となっている問題が解決すれば、側弯も自然に矯正されることが多いです。つまり、背骨そのものの病気ではありません。
構築性側弯症
構築性側弯症は、脊柱の構造自体に異常があり、簡単には矯正できない側弯です。こちらが一般的に「脊柱側弯症」として治療の対象となることが多いタイプです。
構築性側弯症の中でも、原因が不明な「特発性側弯症」が全体の約80~85%を占め、最も多いタイプです。
その他、生まれつき椎骨の形に異常がある「先天性側弯症」や、神経や筋肉の病気が原因で起こる「神経筋性側弯症」などがあります。
脊柱側弯症の主な種類の比較
種類 | 主な原因 | 特徴 |
---|---|---|
機能性側弯症 | 脚長差、痛み、不良姿勢など | 原因除去で改善、脊柱自体の異常なし |
構築性側弯症(特発性) | 不明 | 最も多く、進行の可能性あり |
構築性側弯症(先天性) | 生まれつきの椎骨の異常 | 早期発見と慎重な経過観察が必要 |
構築性側弯症(神経筋性) | 神経・筋疾患(脳性麻痺など) | 進行しやすく、呼吸機能障害を伴うことも |
発症しやすい年齢と性別
脊柱側弯症の中で最も多い特発性側弯症は、発症する年齢によって乳幼児期側弯症(3歳以下)、学童期側弯症(4~9歳)、思春期側弯症(10歳以降、骨成長完了まで)に分けられます。
このうち、思春期側弯症が最も頻度が高く、特に小学校高学年から中学生にかけての女子に多く見られます。男女比は約1:7~10と、女子に圧倒的に多いのが特徴です。
成長期に発見されることが多いため、学校の運動器検診などが早期発見の重要な機会となります。
脊柱側弯症の主な症状とセルフチェック
脊柱側弯症は、初期の段階では自覚症状がほとんどないことが多く、見た目の変化から気づかれることが一般的です。ご家庭でも注意して観察することで、早期発見につながる可能性があります。
脊柱側弯症の症状を理解し、定期的なチェックを心がけましょう。
見た目でわかる変化
脊柱の弯曲やねじれは、体表にもいくつかの特徴的な変化として現れます。これらの変化は、特に裸になったときや薄着のとき、また特定の姿勢をとったときに気づきやすいです。
肩の高さの左右差
まっすぐに立ったときに、左右の肩の高さが違うことがあります。どちらか一方の肩が下がって見える、あるいは上がって見えるといった状態です。
洋服の肩線がずれる、ブラジャーの紐が片方だけ落ちやすいといったことからも気づくことがあります。
ウエストラインの非対称性
背中側から見て、ウエストのくびれの位置や深さが左右で異なることがあります。片方のくびれが深く、もう片方が浅く見える、あるいはくびれがほとんどないように見えることもあります。
この非対称性は、脊柱の側方への弯曲を反映している場合があります。
背中のふくらみの左右差(前屈時)
これは「前屈テスト(アダムステスト)」と呼ばれる方法で確認できる重要な所見です。両足をそろえて立ち、膝を伸ばしたままゆっくりと深くおじぎをします。
このとき、背中側から見て、肩甲骨のあたりや腰の高さに左右差がある場合、つまり片側が盛り上がって見える場合は、脊柱のねじれを伴う側弯症の可能性があります。
この盛り上がりを「肋骨隆起」または「腰部隆起」と呼びます。
家庭でできる体表変化のチェックポイント
- 肩の高さが左右で違うか
- 肩甲骨の高さや突出具合が左右で違うか
- ウエストラインのくびれが左右対称か
- 前屈したときに背中や腰の高さに左右差があるか
自覚症状について
軽度から中等度の脊柱側弯症では、痛みなどの自覚症状がないことがほとんどです。
しかし、弯曲が進行したり、成人になってから変形が強くなったりすると、腰痛や背部痛、肩こりなどを感じるようになることがあります。
また、非常に高度な側弯症では、胸郭の変形によって肺活量が減少し、息切れしやすくなるなど呼吸器系の症状や、まれに消化器系の不調が現れることもあります。
脊柱側弯症の症状は、弯曲の程度や部位、年齢などによって個人差が大きいです。
家庭でできる簡単なチェック方法
学校検診だけでなく、ご家庭でも定期的にお子さんの背中をチェックする習慣を持つことが大切です。
特に成長期のお子さんに対しては、半年に一度程度、以下のポイントを確認すると良いでしょう。
チェック時のポイント
確認項目 | 観察の仕方 | 注意点 |
---|---|---|
肩の高さ | まっすぐ立った状態で後ろから見る | 左右の肩のラインが水平か |
肩甲骨 | まっすぐ立った状態で後ろから見る | 左右の肩甲骨の下端の高さや、浮き出し方に差がないか |
ウエストライン | まっすぐ立った状態で後ろから見る | 左右のくびれの形や深さが対称か |
前屈テスト | 両足を揃え、膝を伸ばしたままお辞儀させる | 背中や腰の左右どちらかが盛り上がっていないか |
これらのチェックで何らかの異常に気づいた場合は、自己判断せずに専門医に相談することが重要です。特に、脊柱側弯症の症状は進行することがあるため、早期の対応が求められます。
脊柱側弯症の原因として考えられること
脊柱側弯症は、その原因によっていくつかのタイプに分類されますが、残念ながら最も多い「特発性側弯症」については、まだ明確な原因がわかっていません。
しかし、その他のタイプについては、原因が特定されているものもあります。
特発性側弯症が最も多い
特発性側弯症は、脊柱側弯症全体の約80~85%を占める最も一般的なタイプです。「特発性」とは「原因不明」という意味で、現在の医学でもその発症の詳しい理由は解明されていません。
遺伝的な要因、ホルモンの影響、成長に関連する要因、神経系の異常など、様々な説が研究されていますが、単一の原因ではなく複数の因子が関与していると考えられています。
日常生活での姿勢の悪さや、スポーツの種類、重いランドセルなどが直接的な原因で特発性側弯症になるわけではないとされています。
しかし、これらの要因が既存の側弯を悪化させる可能性については議論があります。
先天性側弯症の原因
先天性側弯症は、生まれつき背骨を構成する椎骨の形に異常があるために起こる側弯症です。
胎児期に椎骨が正常に形成されなかったことが原因で、椎骨の一部が欠けていたり(形成不全)、隣り合う椎骨がくっついてしまっていたり(分節不全)します。
これらの異常な形の椎骨があると、背骨が成長するにつれて弯曲が進行しやすくなります。
先天性側弯症は、他の先天的な奇形(心臓や腎臓の異常など)を合併することもあるため、全身的な検査が必要になる場合があります。
神経筋性側弯症の原因
神経筋性側弯症は、神経や筋肉の病気によって、体を支える筋肉のバランスが崩れることが原因で発症します。代表的な原因疾患としては、脳性麻痺、脊髄性筋萎縮症、筋ジストロフィー、二分脊椎などがあります。
これらの病気では、体幹の筋力低下や麻痺、筋緊張の異常などが起こり、その結果として脊柱が弯曲します。
神経筋性側弯症は、特発性側弯症に比べて進行しやすく、高度な変形に至ることが多い傾向があります。また、呼吸機能障害を合併しやすいのも特徴です。
その他の原因による側弯症
上記以外にも、マルファン症候群やエーラス・ダンロス症候群などの結合組織の病気、神経線維腫症(レックリングハウゼン病)などの特定の疾患に伴って側弯症が発症することがあります。
また、外傷や脊椎の腫瘍、感染症などが原因で二次的に側弯が生じることもあります。これらの場合、原因となる疾患の治療が側弯症の管理にも影響します。
原因別の側弯症の特徴
原因分類 | 代表的な疾患・状態 | 主な特徴 |
---|---|---|
特発性 | (原因不明) | 最も多い、思春期女子に好発 |
先天性 | 椎骨の形成異常、分節異常 | 出生時から存在、進行しやすい場合あり |
神経筋性 | 脳性麻痺、筋ジストロフィーなど | 基礎疾患あり、進行性で高度な変形も |
その他 | マルファン症候群、神経線維腫症など | 特定の疾患に伴う、原因疾患の管理が重要 |
脊柱側弯症の検査と診断の流れ
脊柱側弯症が疑われた場合、整形外科、特に脊椎を専門とする医師による診察と検査が必要です。正確な診断と重症度の評価は、その後の治療方針を決定する上で非常に重要となります。
問診と視診・触診
まず、医師は患者さんや保護者から詳しい話を聞きます(問診)。
いつ頃からどのような変化に気づいたか、家族に側弯症の人がいるか(家族歴)、痛みなどの自覚症状はあるか、他に病気はないかなどを確認します。 その後、視診と触診を行います。
視診では、立っている状態で体の左右対称性(肩の高さ、肩甲骨の位置、ウエストラインなど)を観察し、前屈テストで背中の隆起の有無や程度を確認します。
触診では、背骨の棘突起を一つ一つ触れて、弯曲の部位や柔軟性を評価します。
レントゲン検査の重要性
脊柱側弯症の診断と重症度評価に最も重要な検査がレントゲン検査です。通常、立った状態で背骨全体の正面像と側面像を撮影します。
これにより、弯曲の部位、方向、大きさを正確に把握できます。
コブ角の測定
レントゲン写真上で、弯曲の最も傾いている上下の椎体から線を引き、その線が交わる角度を測定します。この角度を「コブ角(Cobb角)」と呼び、側弯の程度を示す客観的な指標となります。
コブ角が10度以上で脊柱側弯症と診断され、この角度が大きいほど重症と判断されます。治療方針の決定や経過観察において、コブ角の変化を定期的に追跡することが重要です。
コブ角による重症度の目安
コブ角 | 重症度 | 一般的な対応 |
---|---|---|
10度~25度未満 | 軽度 | 経過観察、運動療法 |
25度~40度未満 | 中等度 | 装具療法を検討 |
40度~50度以上 | 重度 | 手術療法を検討(年齢や進行による) |
ただし、この分類はあくまで目安であり、年齢、骨の成熟度、進行の速さ、症状などを総合的に考慮して治療方針を決定します。
MRI検査やCT検査を行う場合
通常、特発性側弯症の診断にはレントゲン検査で十分ですが、以下のような場合にはMRI検査やCT検査などの精密検査を追加することがあります。
- 非常に若年で発症した場合(乳幼児期・学童期側弯症)
- 弯曲の形が非典型的である場合(左凸の胸椎カーブなど)
- 進行が非常に速い場合
- 神経症状(痛み、しびれ、麻痺など)を伴う場合
- 先天性側弯症や神経筋性側弯症が疑われる場合
MRI検査は、脊髄や神経の異常、椎間板の状態などを詳しく調べるのに役立ちます。CT検査は、骨の形態異常をより詳細に評価する場合に有用です。
診断確定までの一般的な手順
学校検診や家庭でのチェックで異常を指摘された場合、まずは整形外科を受診します。そこでの問診、視診、触診、そしてレントゲン検査の結果を総合的に評価し、脊柱側弯症の診断に至ります。
原因や重症度に応じて、専門医への紹介や追加検査が行われることもあります。診断が確定した後は、定期的な経過観察や適切な治療へと進みます。
脊柱側弯症の進行度と治療法の選択
脊柱側弯症の治療は、側弯の進行度(コブ角の大きさ)、患者さんの年齢や骨の成熟度、側弯のタイプ、そして将来的な進行リスクなどを総合的に判断して決定します。
すべての側弯症が治療を必要とするわけではなく、軽度の場合は経過観察のみで済むこともあります。
進行度に応じた治療の考え方
脊柱側弯症の治療の主な目的は、弯曲の進行を防ぎ、高度な変形による機能障害(呼吸機能障害など)や痛みの発生を予防することです。また、見た目の改善も重要な目標の一つとなります。
軽度の場合の対応
コブ角が20~25度未満の軽度な側弯症で、特に骨の成長がまだ活発でない場合は、定期的なレントゲン検査による経過観察が基本となります。
成長期のお子さんの場合は、3~6ヶ月ごとの診察とレントゲン検査で進行の有無を確認します。この段階で、姿勢指導や側弯症に特化した運動療法(体操)を勧めることもあります。
中等度の場合の対応
コブ角が25度以上で、骨の成長がまだ期待できる(成長期である)場合には、装具療法が検討されます。装具は、側弯の進行を抑制することを目的として、医師の指示のもと専門の義肢装具士が作製します。
装着時間や種類は、側弯のタイプや程度、医師の方針によって異なります。装具療法と並行して運動療法も行うことが一般的です。
重度の場合の対応
コブ角が40~50度を超え、進行性である場合や、保存的治療(装具療法など)で進行を抑えられない場合、また成人で高度な変形により痛みや機能障害がある場合には、手術的治療法が検討されます。
手術の目的は、弯曲を矯正し、固定することで、さらなる進行を防ぎ、症状を改善することです。
保存的治療法について
保存的治療法は、手術以外の方法で側弯の進行を抑えたり、症状を緩和したりすることを目指す治療です。主に経過観察、装具療法、運動療法があります。
経過観察
特に軽度の側弯症や、成長がほぼ終了している場合の側弯症では、定期的な診察とレントゲン検査で弯曲の進行がないかを確認します。進行が見られなければ、特別な治療は行いません。
装具療法
装具療法は、成長期にある進行性の側弯症に対して行われる主要な保存的治療法です。
体幹に合わせた硬い素材のコルセット(装具)を装着し、脊柱の弯曲を矯正する力を加えることで進行を抑制します。効果を得るためには、医師の指示に従い、1日のうち長時間(多くは18時間以上、入浴時以外など)装着する必要があります。
骨の成長が終了するまで続けるのが一般的です。装具には様々な種類があり、側弯のタイプや部位によって選択されます。
装具療法の概要
項目 | 内容 |
---|---|
目的 | 成長期における側弯の進行抑制 |
対象 | コブ角25~40度程度で進行性の成長期側弯症 |
方法 | 個別に作製した装具を長時間装着 |
期間 | 骨成長終了まで(通常数年間) |
運動療法(体操)
運動療法は、脊柱側弯症の治療において補助的な役割を果たします。
特定の体操やエクササイズが直接的に弯曲を矯正するという科学的根拠はまだ十分ではありませんが、体幹の筋力や柔軟性を維持・向上させ、正しい姿勢を意識づけること、また装具装着による不快感を軽減する効果などが期待されます。
近年では、シュロス法など、側弯症に特化した専門的な運動療法も注目されていますが、実施できる施設は限られています。
一般的なストレッチや体幹トレーニングも、医師や理学療法士の指導のもとで行うことが推奨されます。
- 体幹筋力の強化
- 脊柱の柔軟性の維持
- 正しい姿勢の意識づけ
手術的治療法を検討する場合
手術的治療法は、保存的治療では進行を止められない高度な側弯症や、成人で痛みや機能障害が強い場合に検討されます。
手術の主な目的は、弯曲をできる限り矯正し、その状態を金属製のインプラント(スクリュー、ロッドなど)を用いて固定することです。
これにより、さらなる変形の進行を防ぎ、場合によっては呼吸機能の改善や痛みの軽減が期待できます。
手術は大きな侵襲を伴うため、その必要性やリスク、期待できる効果について、専門医と十分に話し合って決定することが重要です。
手術を検討する主な基準
基準 | 詳細 |
---|---|
コブ角 | 成長期で40~50度以上、進行性の場合。成人では50度以上で症状がある場合など。 |
進行の有無 | 保存療法にもかかわらず進行が止まらない場合。 |
症状 | 高度な変形による痛み、呼吸機能障害、神経症状などがある場合。 |
整容的な問題 | 本人が見た目の変形を強く気にしている場合(心理的影響)。 |
治療開始の目安とタイミング
脊柱側弯症の治療を開始するタイミングは、画一的に決まるものではなく、いくつかの要素を総合的に評価して判断します。
早期発見が重要であることはもちろんですが、発見された側弯症がすべて治療を必要とするわけではありません。適切な時期に、適切な治療介入を行うことが、良好な結果を得るために大切です。
年齢と成長段階の考慮
特に特発性側弯症の場合、骨の成長期に進行しやすいという特徴があります。
そのため、患者さんの年齢と、骨がどの程度成熟しているか(骨成熟度)は、治療方針を決定する上で非常に重要な要素です。
一般的に、骨が未成熟で成長の余地が大きいほど、側弯が進行するリスクは高くなります。初経の時期(女子の場合)や、手のレントゲンで骨端線の閉鎖具合を確認するなどして骨成熟度を評価し、進行リスクを予測します。
成長期が終了に近づくと、側弯の進行も緩やかになるか停止する傾向があります。
側弯の角度(コブ角)による判断
前述の通り、レントゲン検査で測定されるコブ角の大きさは、治療法選択の大きな指標となります。
一般的に、コブ角が20度未満であれば経過観察、20~25度以上で進行が見られる場合や、初診時すでに25~40度程度であれば装具療法の適応を検討します。
そして、40~50度を超える高度な側弯で、さらに進行が予想される場合や、成人で強い症状がある場合には手術療法が選択肢に入ってきます。
ただし、これらの角度はあくまで目安であり、他の要素と合わせて総合的に判断します。
進行速度と症状の程度
側弯が発見された時点での角度だけでなく、その後の進行速度も治療開始のタイミングを左右します。例えば、軽度の側弯であっても、短期間で急速に角度が増大する場合は、より積極的な治療介入が必要になることがあります。
定期的なレントゲン検査でコブ角の変化を注意深く追跡し、進行のパターンを把握することが大切です。 また、腰痛や背部痛、呼吸困難などの自覚症状の有無や強さも考慮されます。
特に成人例では、痛みが日常生活に支障をきたすようであれば、角度がそれほど大きくなくても治療(保存療法や場合によっては手術)を検討することがあります。
専門医との相談の重要性
脊柱側弯症の診断と治療は専門的な知識と経験を要します。
もし脊柱側弯症が疑われたり、検診で指摘されたりした場合は、自己判断せずに、まずは整形外科、できれば脊椎疾患を専門とする医師に相談することが最も重要です。
専門医は、個々の患者さんの状態を正確に評価し、最新の知見に基づいて最適な治療方針や治療開始のタイミングを提案してくれます。
治療法にはそれぞれメリットとデメリットがあり、患者さんやご家族が十分に理解し、納得した上で治療を進めることが大切です。
このため、医師との良好な関係を築き、疑問や不安な点は遠慮なく質問するようにしましょう。
脊柱側弯症と日常生活での注意点
脊柱側弯症と診断された場合、あるいはその疑いがある場合、日常生活でどのような点に気をつければ良いのか、不安に思う方も多いでしょう。
適切な治療を受けることと並行して、日常生活でのいくつかのポイントに留意することで、症状の管理やQOL(生活の質)の維持に役立つことがあります。
日常生活で気をつけること
脊柱側弯症の進行を直接的に止めるような特別な生活習慣はありませんが、一般的な健康維持の観点からも、以下の点に留意することは有益です。
姿勢について
日常的に正しい姿勢を意識することは、背骨にかかる負担を軽減する上で役立つ可能性があります。長時間同じ姿勢でいることを避け、適度に体を動かすことが推奨されます。
ただし、過度に姿勢を気にしすぎることがストレスにならないように注意も必要です。
特定の座り方や寝方が側弯症を悪化させるという明確な証拠はありませんが、バランスの取れた楽な姿勢を心がけるのが良いでしょう。
運動について
脊柱側弯症があっても、ほとんどの場合、運動を制限する必要はありません。むしろ、適度な運動は全身の筋力や柔軟性を維持し、健康増進に繋がります。
ただし、接触の激しいスポーツや、脊柱に大きな負担がかかる可能性のある運動については、事前に主治医に相談することが賢明です。
側弯症に特化した運動療法(体操)については、医師や理学療法士の指導のもとで行うことが重要です。
精神的なサポート
特に思春期のお子さんの場合、側弯症による見た目の変化や装具治療の必要性などが、心理的な負担になることがあります。ご家族や周囲の理解とサポートが非常に大切です。
本人の気持ちに寄り添い、不安や悩みを共有できる環境を作ることが求められます。必要に応じて、専門医やカウンセラーに相談することも検討しましょう。
定期的な検診の必要性
脊柱側弯症、特に成長期のお子さんの場合は、定期的な専門医による検診が非常に重要です。検診では、レントゲン検査でコブ角の変化を確認し、側弯の進行度合いを評価します。
この結果に基づいて、治療方針の見直しや調整が行われます。検診の間隔は、年齢や側弯の程度、進行リスクによって異なりますが、医師の指示に従い、必ず受診するようにしましょう。
成長が終了した後も、状態によっては定期的なフォローアップが必要な場合があります。
定期検診の主な内容
検査・評価項目 | 目的 |
---|---|
問診 | 自覚症状の変化、生活状況の確認 |
視診・触診 | 体表変化の確認、柔軟性の評価 |
レントゲン検査 | コブ角の測定、進行度の評価 |
治療方針の確認・調整 | 検査結果に基づく治療計画の見直し |
学校生活における配慮
学校生活においては、体育の授業や部活動への参加について、主治医と相談し、適切な指示を受けることが大切です。
多くの場合、過度な制限は不要ですが、状態によっては配慮が必要な活動もあります。
また、装具を装着している場合は、着替えや体育の授業などで周囲の理解と協力が得られるよう、事前に学校側(担任教師や養護教諭)と情報を共有しておくことが望ましいです。
重い荷物を持つことについては、直接的に側弯を悪化させるという証拠はありませんが、バランスを崩しやすいなどの影響も考えられるため、リュックサックタイプにするなど工夫すると良いでしょう。
よくある質問
脊柱側弯症に関して、患者さんやご家族からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
Q. 成長が終われば側弯症は進行しませんか?
A. 一般的に、特発性側弯症は骨の成長が終了すると進行も止まるか、非常に緩やかになることが多いです。
しかし、成長終了時にコブ角が30度を超えている場合、特に50度を超えるような大きな弯曲の場合は、成人後も年に0.5~1度程度、ゆっくりと進行する可能性があると言われています。
そのため、成長が終了した後も、定期的な検診が必要となる場合があります。特に、妊娠・出産や加齢に伴う骨粗しょう症などが進行に影響を与える可能性も指摘されています。
Q. 側弯症は遺伝しますか?
A. 特発性側弯症の発症には、遺伝的な要因が関与していると考えられています。家族内(親子や姉妹など)に側弯症の方がいる場合、発症リスクが一般よりも高くなることが報告されています。
しかし、必ず遺伝するというわけではなく、遺伝子だけで決まるものでもありません。複数の遺伝子が関与し、そこに何らかの環境因子が加わって発症すると考えられていますが、詳細はまだ解明されていません。
ご家族に側弯症の方がいる場合は、お子さんの背中の状態に注意を払い、学校検診などを活用して早期発見に努めることが大切です。このことにより、早期の対応が可能になります。
Q. どのような運動が効果的ですか?
A. 現時点では、特定の運動が脊柱側弯症の弯曲を確実に矯正したり、進行を予防したりするという質の高い科学的根拠は確立されていません。
しかし、体幹の筋力や柔軟性を維持・向上させる運動、バランス能力を高める運動は、一般的な健康維持や良好な姿勢の保持に役立つと考えられます。水泳やストレッチ、ヨガ、ピラティスなどは、全身運動として推奨されることがあります。
ただし、自己流で行うのではなく、医師や理学療法士に相談し、個々の状態に合った適切な運動プログラムの指導を受けることが望ましいです。
近年注目されているシュロス法などの側弯症に特化した専門的運動療法については、実施できる施設が限られているため、主治医とよく相談してください。
Q. 治療期間はどのくらいですか?
A. 治療期間は、側弯症の種類、重症度、治療法、そして患者さんの年齢(特に骨の成長度合い)によって大きく異なります。 経過観察の場合は、骨の成長が終了するまで、あるいは成人後も定期的なチェックが続くことがあります。
装具療法を行う場合、一般的には骨の成長がほぼ終了するまで(女子で15~16歳、男子で17~18歳頃までが目安)継続します。これは数年間に及ぶことが多いです。 手術療法を行った場合は、術後のリハビリテーション期間があり、その後も定期的なフォローアップが必要となります。
いずれの治療法を選択するにしても、長期的な視点での管理が必要となることを理解しておくことが大切です。具体的な期間については、主治医とよく話し合い、治療計画を確認してください。
治療法別の一般的な期間の目安
治療法 | 一般的な期間の目安 | 備考 |
---|---|---|
経過観察 | 骨成長終了まで、またはそれ以降も定期的 | 進行がなければ治療介入なし |
装具療法 | 骨成長終了まで(数年間) | 1日の装着時間も重要 |
運動療法 | 治療期間中や、生涯を通じて継続を推奨 | 他の治療と並行して行うことが多い |
手術療法 | 術後数ヶ月のリハビリ、その後も定期フォロー | インプラントは通常生涯留置 |
以上
参考文献
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