膝の変形関節症とはどのような病気なのか
膝の痛みや動かしにくさを感じて、「もしかしたら変形性膝関節症かもしれない」と不安に思っていませんか。
変形性膝関節症は、加齢とともに多くの人が経験する可能性のある身近な病気の一つです。
この記事では、変形性膝関節症がどのような病気で、なぜ起こるのか、そしてどのような症状が現れるのかを詳しく解説します。
また、検査方法や治療の選択肢、ご自身でできるケアの方法についても触れていきます。病気について正しく理解することは、不安を和らげ、適切な対処への第一歩となります。
ご自身の膝の状態を把握し、今後の健康管理に役立てていきましょう。
目次
そもそも変形性膝関節症とは
ここでは、変形性膝関節症という病気の基本的な概念について掘り下げていきます。
私たちの膝関節がどのような仕組みで動いているのか、そして、この病気がその仕組みにどのような変化をもたらすのかを理解することで、ご自身の体で何が起こっているのかをより深く把握できます。
膝の構造と関節軟骨の役割
膝関節は、太ももの骨である「大腿骨(だいたいこつ)」、すねの骨である「脛骨(けいこつ)」、そしてお皿の骨である「膝蓋骨(しつがいこつ)」の3つの骨で構成されています。
これらの骨の表面は、「関節軟骨」と呼ばれる滑らかで弾力性のある組織で覆われています。
関節軟骨は、衝撃を吸収するクッションの役割と、関節の動きを滑らかにする潤滑油のような役割を担っています。
この関節軟骨のおかげで、私たちは痛みを感じることなくスムーズに膝を曲げたり伸ばしたりできます。
関節全体は「関節包(かんせつほう)」という袋に包まれており、その内側は「滑膜(かつまく)」で覆われています。滑膜からは関節の栄養源であり、潤滑油の働きもする「関節液」が分泌されます。
膝関節を構成する主な組織
組織名 | 主な役割 | 特徴 |
---|---|---|
関節軟骨 | 衝撃吸収、関節の動きを滑らかにする | 血管や神経がない、弾力性がある |
滑膜 | 関節液を分泌する | 関節包の内側を覆う薄い膜 |
関節液 | 栄養供給、潤滑 | ヒアルロン酸を含み粘り気がある |
関節軟骨がすり減ることで起こる変化
変形性膝関節症は、主にこの関節軟骨が長年の使用によってすり減ってしまうことで発症します。
軟骨がすり減ると、クッション機能が低下し、骨同士が直接こすれ合うようになります。この状態になると、滑膜に炎症が起こり、痛みや腫れといった症状が現れます。
炎症が続くと、関節液が過剰に分泌され、「膝に水がたまる」状態(関節水腫)になることもあります。
さらに病気が進行すると、骨の縁に「骨棘(こつきょく)」と呼ばれるトゲのようなものができたり、骨そのものが変形したりして、膝の動きがさらに悪化し、痛みが強くなります。
日本人における有病率と特徴
日本国内において、変形性膝関節症は非常に一般的な病気です。
特に高齢者に多く、レントゲン検査を基準とした場合、自覚症状がない人も含めると、60歳以上の男女の半数以上が該当するともいわれています。
男女比では女性に多く見られ、その背景には、女性ホルモンの影響や、男性に比べて筋力が弱いことなどが関係していると考えられています。
また、日本人の生活様式や骨格の特徴から、膝の内側の軟骨がすり減りやすい傾向があり、その結果としてO脚変形を伴うことが多いのも特徴です。
変形性膝関節症の主な原因
変形性膝関節症は、単一の原因で発症するわけではなく、複数の要因が複雑に絡み合って起こると考えられています。
ここでは、どのような要因が膝への負担を増やし、発症につながるのかを具体的に見ていきましょう。ご自身の生活習慣や体質と照らし合わせてみてください。
加齢による関節の変化
最も大きな原因の一つが「加齢」です。年齢を重ねるとともに、関節軟骨の水分量が減少し、弾力性が失われていきます。
また、長年にわたって膝を使い続けることで、軟骨は少しずつ摩耗していきます。軟骨には血管が通っていないため、一度すり減ってしまうと自然に修復される能力は非常に低いのです。
さらに、加齢に伴い膝周りの筋力も低下しやすく、関節を支える力が弱まることも、軟骨への負担を増大させる一因となります。
肥満が膝に与える影響
体重の増加は、膝関節に直接的な負担をかけます。歩行時、膝には体重の約3倍の負荷がかかるといわれています。
例えば、体重が5kg増えると、歩くだけで膝には15kgもの余分な負荷がかかる計算になります。階段の上り下りではさらにその負荷は大きくなります。
この過剰な負荷が、関節軟骨の摩耗を早める大きな要因となるのです。
肥満は、単に物理的な負荷を増やすだけでなく、脂肪組織から分泌される物質が関節の炎症を引き起こすことも指摘されており、二重の意味で膝の健康に影響を与えます。
体重増加による膝への負荷
動作 | 膝にかかる負荷の目安 | 体重が5kg増えた場合の追加負荷 |
---|---|---|
平地の歩行 | 体重の約3倍 | 約15kg |
階段の上り | 体重の約4〜5倍 | 約20〜25kg |
階段の下り | 体重の約6〜7倍 | 約30〜35kg |
過去の怪我や病気との関連
過去に膝の靭帯や半月板を損傷した経験がある場合、関節の安定性が損なわれ、特定の部位の軟骨に負担が集中しやすくなります。
このことにより、将来的に変形性膝関節症を発症する可能性が高まります。
また、骨折などの外傷後に関節面がずれたまま治癒した場合も、同様に関節への負担が偏り、軟骨の摩耗を早める原因となります。
関節リウマチや痛風といった他の関節疾患も、関節軟骨にダメージを与え、二次的に変形性膝関節症を引き起こすことがあります。
O脚・X脚などの骨格の問題
生まれつきの骨格や、長年の生活習慣によって生じたO脚やX脚も、変形性膝関節症の要因となります。O脚の場合、体重が膝の内側に偏ってかかるため、内側の関節軟骨がすり減りやすくなります。
逆にX脚では、膝の外側に負担が集中し、外側の軟骨が摩耗しやすくなります。
このようなアライメント(骨の配列)の異常は、無意識のうちに膝関節の特定の部分に過剰なストレスをかけ続け、軟骨のすり減りを加速させてしまいます。
こんな症状に心当たりはありませんか?変形性膝関節症のサイン
変形性膝関節症は、ゆっくりと進行するため、初期の段階では症状に気づきにくいことがあります。
しかし、病気の進行を遅らせるためには、早期にサインを察知し、対策を始めることが重要です。ここでは、病気の進行度別に現れる代表的な症状を紹介します。
初期症状 こわばりや軽い痛み
最も早い段階で現れる症状は、朝起きた時や長時間座った後などに感じる膝のこわばりです。動き始めに膝が固まったように感じますが、少し動かすと和らぐことが多いです。
また、立ち上がる時、歩き始める時、階段の上り下りの時など、動作の開始時に軽い痛みを感じるようになります。この段階では、痛みは一時的で、休むとすぐに治まることがほとんどです。
「年のせいかな」と見過ごしてしまいがちですが、これらは膝からの重要なサインです。
- 立ち上がる時の痛み
- 歩き始めの痛み
- 朝のこわばり
- 長時間の正座後の痛み
中期症状 動作時の強い痛みと可動域制限
病気が進行すると、痛みが慢性化し、平地を歩くだけでも痛みを感じるようになります。特に階段の上り下りや坂道では、痛みが強くなり、日常生活に支障をきたし始めます。
また、関節の変形が進むことで、膝をまっすぐに伸ばしにくくなったり、深く曲げられなくなったりする「可動域制限」が現れます。
正座ができない、和式トイレが使いにくいといった具体的な問題として自覚されることが多いです。この時期になると、膝の見た目もO脚変形が目立つようになってくることがあります。
末期症状 安静時痛と歩行困難
さらに進行が進んだ末期の状態では、関節軟骨がほとんどなくなり、骨同士が直接ぶつかるようになります。
このため、何もしていない安静時や、夜寝ている時にもズキズキとした強い痛み(安静時痛)を感じるようになります。膝の変形もさらに顕著になり、歩くことが非常に困難になります。
杖や手すりがないと歩けなくなり、外出の機会が減るなど、生活の質(QOL)が著しく低下します。この段階まで進行すると、日常生活を送ること自体が大きな負担となります。
進行度による症状の変化
進行度 | 痛みの特徴 | 日常生活への影響 |
---|---|---|
初期 | 動作開始時の軽い痛み、こわばり | ほとんど支障はないが、違和感がある |
中期 | 歩行時や階段昇降時の強い痛み | 正座ができないなど、一部動作に制限が出る |
末期 | 安静時や夜間にも強い痛み | 歩行が困難になり、杖などが必要になる |
膝に水がたまる「関節水腫」
変形性膝関節症の症状の一つに、「膝に水がたまる」状態、医学的には関節水腫(かんせつすいしゅ)と呼ばれるものがあります。
これは、すり減った軟骨のかけらなどによって滑膜が刺激され、炎症を起こすことで、関節液が過剰に分泌されるために起こります。
膝が腫れぼったくなり、重だるい感じや、膝を曲げにくいといった症状が現れます。水がたまると痛みが強くなることもあります。
この症状は、病気の進行度にかかわらず、膝に負担がかかった時などに繰り返し起こることがあります。
進行度を把握するための検査と診断
膝の痛みや違和感で医療機関を受診した場合、正確な診断のためにいくつかの検査を行います。
これらの検査は、痛みの原因が変形性膝関節症であるかを確認し、もしそうであればどの程度進行しているのかを客観的に評価するために重要です。
ここでは、整形外科で行われる一般的な検査について説明します。
医師による問診と視診・触診
診断の第一歩は、医師による詳しい問診から始まります。いつから、どのような時に、膝のどのあたりが痛むのか、過去の怪我の有無、普段の生活習慣などについて詳しく尋ねられます。
これらの情報は、痛みの原因を探る上で重要な手がかりとなります。続いて、視診と触診を行います。視診では、膝の腫れや変形の有無、O脚になっていないかなどを目で見て確認します。
触診では、膝のどの部分を押すと痛むのか(圧痛)、熱感がないか、水がたまっていないか、関節の動きはスムーズかなどを、医師が直接手で触れて確かめます。
レントゲン(X線)検査でわかること
変形性膝関節症の診断において、レントゲン検査は最も基本的で重要な検査です。立った状態で膝に体重をかけた姿勢で撮影することで、関節の状態を正確に評価します。
レントゲン画像では、関節軟骨そのものは写りませんが、骨と骨の隙間の広さ(関節裂隙)を見ることで、軟骨のすり減り具合を間接的に判断できます。
軟骨がすり減っていると、この隙間が狭くなります。また、骨棘の有無や骨の変形の程度なども確認でき、これらを総合的に評価して病気の進行度を分類します。
レントゲンによる進行度分類(Kellgren-Lawrence分類)
グレード | レントゲン所見 | 状態 |
---|---|---|
1 | 骨棘形成の疑い | ごく初期の変形 |
2 | 明らかな骨棘形成 | 初期の変形性膝関節症 |
3 | 中等度の関節裂隙狭小化 | 進行中の変形性膝関節症 |
4 | 高度な関節裂隙狭小化、骨の変形 | 末期の変形性膝関節症 |
MRI検査でより詳しく調べる
レントゲン検査だけでは診断が難しい場合や、半月板や靭帯といった他の組織の損傷が疑われる場合には、MRI検査が行われることがあります。
MRI検査は、磁気を利用して体の断面を撮影する検査で、レントゲンでは見ることのできない関節軟骨の状態や、半月板、靭帯、筋肉といった軟部組織を詳しく観察できます。
この検査により、軟骨のすり減りの程度をより正確に評価したり、痛みの原因となっている他の損傷を見つけ出したりすることが可能です。
関節液の検査
膝に関節液(水)がたまっている場合には、注射器で関節液を抜くことがあります。
この処置は、腫れや痛みを和らげる治療的な意味合いと同時に、抜いた関節液を調べる検査としての目的もあります。
正常な関節液は透明で黄色味を帯びていますが、変形性膝関節症では炎症によって少し濁ることがあります。
また、関節液を分析することで、痛風や偽痛風、関節リウマチなど、他の病気との区別をつけるためにも役立ちます。
変形性膝関節症の治療法
変形性膝関節症の治療目標は、痛みをコントロールし、病気の進行を遅らせ、膝の機能を維持・改善することです。
すり減った軟骨を元に戻す根本的な治療法はまだ確立されていませんが、様々な治療法を組み合わせることで、症状を和らげ、より快適な日常生活を送ることが可能になります。
治療は大きく分けて「保存療法」と「手術療法」の二つがあります。
保存療法 生活習慣の改善
治療の基本となるのが保存療法であり、その中でも特に重要なのが生活習慣の見直しです。まず、肥満傾向にある場合は減量が最も効果的な対策の一つです。
体重を減らすことで膝への直接的な負担を軽減し、痛みの緩和と病気の進行抑制につながります。また、日常生活の動作を見直すことも大切です。
例えば、長時間の正座や和式の生活様式を避けて椅子やベッドを使う、重いものを持つ機会を減らす、杖を使用するなど、膝に負担をかけない工夫を心がけます。
保存療法の主な柱
療法の種類 | 目的 | 具体的な内容 |
---|---|---|
生活習慣の改善 | 膝への負担軽減 | 減量、動作の工夫、和式から洋式へ |
運動療法 | 筋力強化、可動域改善 | 筋力トレーニング、ストレッチ |
薬物療法 | 痛みの緩和、炎症抑制 | 内服薬、外用薬、関節内注射 |
保存療法 運動療法と物理療法
運動療法は、保存療法の中心的な役割を担います。膝周りの筋力、特に太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)を鍛えることで、膝関節が安定し、軟骨への負担を減らすことができます。
自宅でできる簡単な筋力トレーニングや、関節に負担の少ない水中ウォーキング、エアロバイクなどが推奨されます。
また、硬くなった筋肉や関節をほぐし、膝の可動域を広げるためのストレッチも有効です。
物理療法では、温熱療法で血行を良くして痛みを和らげたり、電気刺激で筋肉を動かしたりする治療が行われることもあります。
保存療法 薬物療法と装具療法
痛みが強い場合には、薬物療法を行います。まずは炎症を抑え痛みを和らげるための湿布や塗り薬といった外用薬や、アセトアミノフェンなどの内服薬が用いられます。
それでも効果が不十分な場合は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などが処方されます。また、関節内にヒアルロン酸を注射する方法もあります。
これは、関節液の粘り気や弾力性を補い、関節の動きを滑らかにして痛みを和らげる効果が期待されます。
装具療法としては、膝のぐらつきを抑えるサポーターや、O脚を矯正するための足底板(インソール)などが用いられます。
主な薬物療法の種類
種類 | 形態 | 主な作用 |
---|---|---|
外用薬 | 湿布、塗り薬 | 局所の炎症や痛みを抑える |
内服薬 | 飲み薬 | 全身的に炎症や痛みを抑える |
関節内注射 | 注射 | 関節の潤滑、痛みや炎症を抑える |
手術療法という選択肢
様々な保存療法を試しても痛みが改善せず、日常生活に大きな支障が出ている場合には、手術療法が検討されます。
手術にはいくつかの種類があり、年齢や活動レベル、変形の程度などを総合的に考慮して最適な方法が選択されます。
代表的な手術には、関節鏡を使って関節内を掃除する「関節鏡視下手術」、骨を切ってO脚などを矯正する「高位脛骨骨切り術」、そして傷んだ関節を人工の関節に置き換える「人工膝関節置換術」があります。
- 関節鏡視下手術
- 高位脛骨骨切り術
- 人工膝関節置換術
痛みを和らげ進行を遅らせるセルフケア
医療機関での治療と並行して、ご自身で日常生活の中で行えるセルフケアも、変形性膝関節症と上手に付き合っていく上で非常に重要です。
日々の少しの心がけが、膝への負担を減らし、痛みの緩和につながります。ここでは、すぐに始められるセルフケアのポイントをいくつか紹介します。
日常生活で膝への負担を減らす工夫
意識的に膝をいたわる生活を送ることが基本です。床に座る生活は膝に大きな負担をかけるため、できるだけ椅子やソファ、ベッドを利用する洋式の生活に切り替えましょう。
重い荷物を持つ際は、カートを利用したり、小分けにして運んだりする工夫も大切です。階段の上り下りはできるだけ避け、エレベーターやエスカレーターを利用するように心がけてください。
また、膝を冷やすと血行が悪くなり痛みが強くなることがあるため、夏場の冷房対策や冬場の保温にも気を配りましょう。
膝に良い運動と避けたい運動
推奨される運動 | 避けた方が良い運動 | 理由 |
---|---|---|
ウォーキング、水中運動 | ジョギング、ジャンプ | 膝への衝撃が少ないため |
サイクリング(固定式) | 急な方向転換を伴うスポーツ | 関節に負担が少ないため |
ストレッチ、ヨガ | 登山、長距離の階段昇降 | 柔軟性を高め、血行を促進するため |
自宅でできる筋力トレーニング
膝の安定性を高めるためには、太ももの筋肉を鍛えることが効果的です。
椅子に座った状態で、片方の脚をゆっくりと床と平行になるまで持ち上げ、5秒ほど静止してからゆっくり下ろす運動は、膝に負担をかけずに大腿四頭筋を鍛えることができます。
また、仰向けに寝て、片膝を立て、もう一方の脚を伸ばしたままゆっくりと10cmほど持ち上げて静止する運動も有効です。
これらの運動を、痛みが出ない範囲で毎日少しずつ続けることが筋力維持につながります。
適切な靴選びのポイント
毎日履く靴も、膝の健康に大きく影響します。靴を選ぶ際は、かかとが安定し、衝撃を吸収してくれるクッション性の高いものを選びましょう。
靴底が硬すぎたり、薄すぎたりする靴は避けるべきです。また、足の指が自由に動かせるよう、つま先に適度なゆとりのあるデザインが良いでしょう。
ヒールの高い靴は、体の重心が前に傾き、膝への負担が増加するため、できるだけ避けることをお勧めします。
専門家のアドバイスを受けながら、自分の足に合ったインソール(足底板)を使用するのも一つの方法です。
靴選びのチェックポイント
ポイント | 確認事項 | 理由 |
---|---|---|
クッション性 | 靴底に十分な厚みと弾力があるか | 着地時の衝撃を吸収するため |
安定性 | かかと部分がしっかりしているか | 歩行時の足のぐらつきを防ぐため |
フィット感 | つま先に余裕があり、甲が圧迫されないか | 足のトラブルを防ぎ、正しく歩くため |
整形外科を受診するタイミング
膝に痛みや違和感を感じ始めた時、「このくらいで病院に行くべきか」と迷うことがあるかもしれません。
しかし、変形性膝関節症は早期に対処を始めることで、良好な状態を長く保つことが期待できる病気です。
ここでは、どのような症状があれば整形外科の受診を検討すべきか、その目安について解説します。
痛みが続く場合
一時的な筋肉痛などとは異なり、膝の痛みが数週間以上続く場合は、一度専門医の診察を受けることをお勧めします。
特に、「休んでも痛みがなかなか引かない」「特定の動作をすると必ず痛む」「だんだんと痛みが強くなってきた」といった場合は、関節の内部で何らかの問題が起きている可能性があります。
痛みを我慢していると、無意識にかばうような歩き方になり、他の部位にも負担がかかってしまうことがあります。
膝の動きが悪くなったと感じる時
以前は問題なくできていた動作がしにくくなった時も、受診を考えるタイミングです。
「膝が完全に伸びなくなった」「正座ができなくなった」「しゃがみ込むのがつらい」など、関節の可動域に制限が出てきたと感じる場合は、関節の変形が進行しているサインかもしれません。
このような症状は、日常生活の質に直接影響するため、早めに原因を特定し、対策を講じることが重要です。
膝が腫れてきた時
明らかな原因がないのに膝が腫れてきた、熱感がある、水がたまっている感じがするといった症状は、関節内部で炎症が起きていることを示しています。
炎症は痛みを引き起こし、長引くと関節組織にダメージを与える可能性があります。自己判断で湿布を貼るだけで済ませず、なぜ炎症が起きているのかを専門医に診断してもらうことが大切です。
他の病気の可能性も考えられるため、正確な診断を受けるためにも受診が勧められます。
変形性膝関節症に関するよくある質問
ここでは、変形性膝関節症について多くの方が疑問に思う点について、質問と回答の形でお答えします。
変形性膝関節症は治りますか?
残念ながら、一度すり減ってしまった関節軟骨を完全に元の状態に戻すことは現在の医療では困難です。
しかし、治療の目的は「完治」させることだけではありません。適切な治療やセルフケアによって痛みをコントロールし、病気の進行を緩やかにし、膝の機能を維持・改善することは十分に可能です。
症状と上手に付き合いながら、快適な生活を送ることを目指します。
サプリメントは効果がありますか?
グルコサミンやコンドロイチン、ヒアルロン酸などの成分を含むサプリメントが市販されていますが、変形性膝関節症に対する医学的な有効性については、明確な結論が出ていないのが現状です。
一部の方には痛みの緩和効果が見られることもありますが、効果には個人差が大きいとされています。サプリメントはあくまで健康食品であり、治療の基本は運動療法や生活習慣の改善です。
使用を考える場合は、まず主治医に相談することをお勧めします。
痛みがある時も運動した方が良いですか?
回答:痛みが非常に強い時や、膝が腫れて熱を持っているような急性期には、無理に運動するのは避けて安静にすることが大切です。
しかし、痛みが少し落ち着いている慢性期には、むしろ積極的に運動療法を行うことが推奨されます。膝に負担の少ない運動で筋力を維持・向上させることが、長期的に見て膝を安定させ、痛みを和らげることにつながります。
どのような運動をどの程度行うべきかについては、医師や理学療法士の指導のもとで進めるのが安全です。
手術を勧められましたが、決断できません。
手術は、あくまで治療の一つの選択肢です。
手術を受けるかどうかは、ご自身の年齢、活動性、痛みの程度、そして「これからどのような生活を送りたいか」という希望などを総合的に考えて決めるべきことです。
医師から手術の必要性や内容、利点とリスクについて十分に説明を受け、ご自身が納得した上で決断することが何よりも大切です。
すぐに決める必要はありませんので、家族ともよく相談し、疑問点があれば何度でも医師に質問してください。
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