足立慶友医療コラム

骨粗鬆症の予防と治療の可能性について

2025.05.19

骨粗鬆症は、骨がもろくなり骨折しやすくなる状態です。特に閉経後の女性や高齢者に多く見られますが、若い世代でも起こり得ます。

「骨粗鬆症は治るのか」「どうすれば予防できるのか」といった疑問や不安を感じる方も少なくないでしょう。

この記事では、骨粗鬆症の基本的な知識から、予防方法、そして治療の可能性について、分かりやすく解説します。

骨粗鬆症とは何か

骨粗鬆症は、骨の量(骨量)が減少し、骨の質が劣化することで骨の強度が低下し、骨折のリスクが高まる病気です。

自覚症状がないまま進行することが多く、転倒などのわずかな衝撃で骨折してしまうこともあります。

骨の健康と骨密度の重要性

私たちの骨は、常に古い骨が壊され(骨吸収)、新しい骨が作られる(骨形成)という新陳代謝を繰り返しています。このバランスが保たれることで、骨の強度が維持されます。

骨密度とは、骨の単位面積あたりのミネラル量を示す指標で、骨の強さを測る重要な手がかりとなります。骨密度が高いほど骨は強く、低いほど骨折しやすくなります。

骨粗鬆症が引き起こす問題

骨粗鬆症による最も大きな問題は骨折です。特に、背骨(脊椎椎体骨折)、手首(橈骨遠位端骨折)、太ももの付け根(大腿骨近位部骨折)、腕の付け根(上腕骨近位部骨折)などが骨折しやすい部位です。

これらの骨折は、痛みだけでなく、日常生活の質(QOL)を著しく低下させる原因となります。場合によっては、寝たきりにつながることもあり、注意が必要です。

骨粗鬆症になりやすい人

骨粗鬆症は誰にでも起こりうる病気ですが、特にリスクが高いとされる方々がいます。閉経後の女性は、女性ホルモン(エストロゲン)の減少により骨吸収が亢進し、骨密度が急速に低下するため、注意が必要です。

また、高齢者、カルシウム摂取不足の方、運動不足の方、喫煙者、過度な飲酒をする方、やせ型の方などもリスクが高いと考えられています。

骨粗鬆症のリスク要因

要因カテゴリ具体的な要因影響
ホルモン関連閉経、早期閉経エストロゲン減少による骨吸収亢進
生活習慣カルシウム不足、ビタミンD不足、運動不足、喫煙、過度な飲酒骨形成の低下、骨吸収の亢進
その他高齢、遺伝的体質、特定の薬剤(ステロイドなど)の長期使用骨代謝バランスの乱れ

骨粗鬆症のサイレントな進行

骨粗鬆症は「サイレントキラー(静かなる病気)」とも呼ばれ、初期には自覚症状がほとんどありません。身長が縮んだり、背中や腰が丸くなったり、腰痛を感じたりする頃には、すでに病状が進行している可能性があります。

そのため、リスクを感じる方は早めに検査を受けることが大切です。症状がないからといって安心せず、定期的なチェックを心がけましょう。

骨粗鬆症の主な原因

骨粗鬆症の発症には、様々な要因が複雑に関与しています。主な原因を理解することで、より効果的な予防や対策につなげることができます。

加齢とホルモンバランスの変化

加齢は骨粗鬆症の最大の原因の一つです。年齢とともに骨を作る細胞の働きが衰え、骨吸収のスピードに骨形成が追いつかなくなります。

特に女性の場合、閉経を迎えると女性ホルモンであるエストロゲンの分泌量が急激に減少し、骨吸収が促進されるため、骨密度が著しく低下します。

男性も加齢に伴い男性ホルモンが減少することで、骨密度が低下する傾向にあります。

生活習慣との関連

日々の生活習慣も骨の健康に大きな影響を与えます。偏った食生活や運動不足は、骨粗鬆症のリスクを高める要因となります。

食生活の偏り

骨の主成分であるカルシウムの摂取不足は、骨密度の低下に直結します。また、カルシウムの吸収を助けるビタミンDや、骨の形成を促すビタミンKなどの栄養素も重要です。

これらの栄養素が不足すると、骨はもろくなりやすくなります。インスタント食品や加工食品に偏った食事、極端なダイエットも骨の健康には好ましくありません。

運動不足の影響

骨は、適度な負荷がかかることで強くなります。運動不足の状態が続くと、骨にかかる刺激が減少し、骨を作る働きが弱まってしまいます。

特に成長期に十分な運動をしないと、将来的に骨量が十分に蓄えられず、骨粗鬆症のリスクが高まります。

また、筋肉量が減少すると体を支える力が弱まり、転倒しやすくなるため、間接的に骨折のリスクも高まります。

特定の病気や薬の影響

特定の病気や、その治療のために使用する薬が骨粗鬆症の原因となることもあります。

例えば、関節リウマチ、糖尿病、慢性腎臓病、甲状腺機能亢進症、副甲状腺機能亢進症などは、骨代謝に影響を与え、骨密度を低下させる可能性があります。

また、ステロイド薬の長期使用は、骨形成を抑制し骨吸収を促進するため、骨粗鬆症の重要な原因の一つです。

骨密度に影響を与える可能性のある薬剤

薬剤の種類主な用途骨への影響(可能性)
ステロイド(副腎皮質ホルモン)炎症性疾患、免疫抑制など骨形成抑制、骨吸収促進
一部の抗てんかん薬てんかんビタミンD代謝異常など
一部のホルモン療法薬乳がん、前立腺がんなど性ホルモン低下による骨密度低下

遺伝的要因

骨の強さや骨密度には、遺伝的な要因も関わっていると考えられています。

家族(特に母親)に骨粗鬆症の人がいる場合や、若くして骨折した経験がある近親者がいる場合は、自身も骨粗鬆症になりやすい可能性があります。

遺伝的要因が全てではありませんが、リスクの一つとして認識し、より積極的に予防に取り組むことが大切です。

骨粗鬆症の予防策

骨粗鬆症は、生活習慣の見直しや適切な対策によって、発症のリスクを減らすことが可能です。若い頃からの積み重ねが重要ですが、何歳からでも予防を始めることに遅すぎることはありません。

食生活で気をつけること

バランスの取れた食事は、骨の健康を維持するための基本です。特に骨の材料となる栄養素を積極的に摂取しましょう。

カルシウムを多く含む食品

カルシウムは骨の主成分であり、丈夫な骨を作るために必要です。牛乳や乳製品、小魚、緑黄色野菜、大豆製品などに多く含まれています。

食品群代表的な食品目安量(1日)
乳製品牛乳、ヨーグルト、チーズ牛乳コップ1杯(約200ml)など
小魚類しらす干し、めざし、桜えびしらす干し大さじ2杯など
大豆製品豆腐、納豆、油揚げ豆腐1/2丁、納豆1パックなど
緑黄色野菜小松菜、チンゲン菜、水菜小松菜1/2束など

ビタミンDの役割と摂取方法

ビタミンDは、腸管でのカルシウム吸収を助け、骨の形成を促進する働きがあります。

魚介類(特に青魚)、きのこ類、卵黄などに多く含まれています。また、日光浴によって皮膚でも合成されます。

ビタミンKの重要性

ビタミンKは、骨にあるタンパク質を活性化し、骨の質を高める働きがあります。納豆、緑黄色野菜(ほうれん草、ブロッコリーなど)、海藻類に多く含まれています。

腸内細菌によっても作られます。

運動習慣の確立

適度な運動は骨に刺激を与え、骨を強くします。また、筋力を維持し、バランス感覚を高めることで転倒予防にもつながります。

骨を強くする運動の種類

骨量を増やすためには、骨に体重がかかるような運動が効果的です。ウォーキング、ジョギング、エアロビクス、ダンスなどが推奨されます。

また、筋力トレーニングも骨の健康維持に役立ちます。

  • ウォーキング
  • ジョギング
  • スクワット
  • 片足立ち(バランス運動)

運動時の注意点

運動は無理のない範囲で、継続することが大切です。膝や腰に痛みがある場合は、医師や専門家に相談し、適切な運動を選びましょう。運動前後のストレッチも忘れずに行いましょう。

日光浴のすすめ

適度な日光浴は、体内でビタミンDを合成するために重要です。ビタミンDはカルシウムの吸収を助けるため、骨の健康維持に役立ちます。

夏場は木陰で15分程度、冬場は30分から1時間程度、顔や手に日光を浴びるだけでも効果が期待できます。ただし、日焼け止めを過剰に使用するとビタミンDの合成が妨げられることがあるため、注意が必要です。

禁煙と節度ある飲酒

喫煙は骨密度を低下させる大きなリスク要因です。タバコに含まれるニコチンやカドミウムは、骨を作る細胞の働きを妨げ、カルシウムの吸収も悪くします。禁煙は骨粗鬆症予防の第一歩です。

また、過度なアルコール摂取も骨の健康に悪影響を及ぼします。アルコールはカルシウムの吸収を阻害したり、尿からのカルシウム排泄を増やしたりする可能性があります。飲酒は適量を守ることが大切です。

骨粗鬆症の検査と診断

骨粗鬆症は自覚症状が乏しいため、早期発見・早期対応のためには検査を受けることが重要です。いくつかの検査方法を組み合わせて総合的に診断します。

骨密度測定(DXA法など)

骨密度測定は、骨粗鬆症の診断に最も重要な検査です。

DXA(デキサ)法(二重エネルギーX線吸収測定法)が標準的な検査方法として用いられ、腰椎や大腿骨近位部の骨密度を正確に測定できます。

検査結果は、若年成人平均値(YAM値)と比較して評価され、YAM値の70%未満で骨粗鬆症と診断されることが多いです。痛みもなく、短時間で検査できます。

レントゲン検査の役割

レントゲン(X線)検査は、骨折の有無を確認したり、骨の変形(脊椎の圧迫骨折など)を見つけたりするのに役立ちます。骨密度がある程度低下しないとレントゲン写真では変化が分かりにくいため、骨密度測定と併用されます。

過去の骨折歴や、気づかないうちに起きていた骨折(いつの間にか骨折)を発見する手がかりにもなります。

血液検査・尿検査でわかること

血液検査や尿検査では、骨代謝マーカーを測定します。骨代謝マーカーとは、骨吸収や骨形成の際に血液中や尿中に出てくる物質のことで、骨の新陳代謝のバランスを知る手がかりとなります。

これにより、骨がどのくらいの速さで壊され、作られているのかを評価でき、治療薬の選択や効果判定に役立ちます。

主な骨代謝マーカー

検査項目種類何を示すか
血中NTX、尿中NTX骨吸収マーカー骨が壊れる速さ
血中TRACP-5b骨吸収マーカー骨が壊れる速さ(より特異的)
血中BAP、P1NP骨形成マーカー骨が作られる速さ

早期発見の重要性

骨粗鬆症は、骨折してから気づくケースも少なくありません。しかし、骨折を起こす前に発見し、適切な対応を始めることで、骨折のリスクを大幅に減らすことができます。

特に閉経後の女性や高齢者、リスク因子を持つ方は、定期的に骨密度検査を受けることを検討しましょう。早期発見と早期対応が、健康寿命を延ばす鍵となります。

骨粗鬆症は治るのか 治療の選択肢

「骨粗鬆症は治るのか」という疑問を持つ方は多いでしょう。骨粗鬆症と診断された場合でも、適切な治療を行うことで骨密度を改善し、骨折のリスクを低減させることが可能です。

完治というよりは、骨の状態をより良くし、骨折を防ぎながら病気と上手に付き合っていくことが治療の目標となります。

治療の目標と基本的な考え方

骨粗鬆症治療の最大の目標は、骨折を防ぎ、生活の質(QOL)を維持・向上させることです。そのために、骨密度を増加させ、骨質を改善し、骨強度を高めることを目指します。

治療は、薬物療法、食事療法、運動療法を組み合わせ、個々の患者さんの状態に合わせて行います。医師とよく相談し、納得のいく治療法を選択することが大切です。

薬物療法の種類と効果

骨粗鬆症の薬物療法には、骨の破壊(骨吸収)を抑える薬と、骨の形成を促す薬、そして骨の材料となるカルシウムやビタミンDを補給する薬などがあります。

患者さんの年齢、性別、骨密度の状態、骨折歴、他の病気の有無などを考慮して、適切な薬が選択されます。

主な骨粗鬆症治療薬

薬剤の系統主な作用代表的な薬剤(一般名)
ビスホスホネート製剤骨吸収抑制アレンドロン酸、リセドロン酸、ミノドロン酸など
SERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)骨吸収抑制(エストロゲン様作用)ラロキシフェン、バゼドキシフェン
抗RANKLモノクローナル抗体製剤骨吸収抑制デノスマブ
副甲状腺ホルモン(PTH)製剤骨形成促進テリパラチド、アバロパラチド
抗スクレロスチン抗体製剤骨形成促進・骨吸収抑制ロモソズマブ
活性型ビタミンD3製剤カルシウム吸収促進、骨形成促進アルファカルシドール、エルデカルシトール
ビタミンK2製剤骨形成促進、骨質改善メナテトレノン

骨吸収抑制薬

骨を壊す破骨細胞の働きを抑えることで、骨密度の低下を防ぎます。ビスホスホネート製剤、SERM、抗RANKLモノクローナル抗体製剤などがあります。

経口薬や注射薬など、さまざまな投与方法があります。

骨形成促進薬

骨を作る骨芽細胞の働きを活発にし、新しい骨の形成を促します。

副甲状腺ホルモン(PTH)製剤や抗スクレロスチン抗体製剤などがあり、骨密度を積極的に増やしたい場合や、重症の骨粗鬆症患者さんに用いられます。多くは自己注射薬です。

ビタミンD製剤・カルシウム製剤

食事だけでは不足しがちなビタミンDやカルシウムを補給し、骨の健康をサポートします。他の骨粗鬆症治療薬と併用されることが多いです。

食事療法と運動療法

薬物療法と並行して、食事療法と運動療法も継続して行うことが重要です。食事では、カルシウム、ビタミンD、ビタミンKなどをバランス良く摂取することを心がけます。

運動は、ウォーキングや筋力トレーニングなど、骨に適切な負荷をかける運動を無理のない範囲で続けましょう。これらの生活習慣の改善は、薬の効果を高め、骨折予防に大きく貢献します。

治療期間と定期的な検査

骨粗鬆症の治療は、効果が現れるまでに時間がかかり、長期にわたることが一般的です。自己判断で治療を中断せず、医師の指示に従って根気強く続けることが大切です。

治療中は、定期的に骨密度検査や骨代謝マーカーの検査を行い、治療効果を確認したり、副作用の有無をチェックしたりします。この検査結果により、治療計画が見直されることもあります。

骨粗鬆症と上手に付き合うために

骨粗鬆症と診断されても、適切な対策と工夫で、活動的で質の高い生活を送ることは可能です。日常生活での注意点を守り、前向きに病気と向き合いましょう。

転倒予防の重要性

骨粗鬆症の方にとって、転倒は骨折の最大の原因です。骨がもろくなっているため、わずかな転倒でも大きな骨折につながる可能性があります。

日常生活の中で転倒しないための工夫をすることが非常に重要です。

住環境の整備

家の中の危険箇所を見直し、安全な住環境を整えましょう。

  • 床の段差をなくす、またはスロープを設置する
  • 滑りやすい床材を避ける、カーペットやマットは固定する
  • 浴室やトイレに手すりを設置する
  • 足元を照らす照明を設置する(夜間など)

バランス感覚を養う運動

バランス能力を高める運動は転倒予防に効果的です。片足立ちや太極拳などが推奨されます。無理のない範囲で、安全に注意しながら行いましょう。

痛みの管理と対処法

骨粗鬆症による骨折は、強い痛みを伴うことがあります。特に脊椎の圧迫骨折は、慢性的な腰痛の原因となることもあります。痛みがある場合は我慢せず、医師に相談しましょう。

適切な鎮痛薬の使用や、コルセットなどの装具療法、リハビリテーションなどで痛みを和らげることができます。温熱療法やマッサージなども、症状によっては有効です。

日常生活での注意点

骨に負担をかけないような動作を心がけることも大切です。重い物を持ち上げる際は、腰を落として膝の力を使う、急な動作を避けるなどの工夫をしましょう。

日常生活で注意したい動作

動作注意点理由
重い物を持ち上げる膝を曲げ、腰を落としてから持ち上げる腰椎への負担軽減
くしゃみ・咳壁や手すりにつかまる、軽く前かがみになる急な衝撃による圧迫骨折予防
前かがみの姿勢長時間の前かがみを避け、背筋を伸ばすことを意識する脊椎への持続的な負担軽減

精神的なサポートと情報収集

骨粗鬆症と診断されると、将来への不安を感じることがあるかもしれません。

一人で抱え込まず、家族や友人に相談したり、医師や看護師などの医療スタッフに話を聞いてもらったりすることが大切です。

また、患者会などに参加して同じ悩みを持つ人と交流することも、精神的な支えになることがあります。

信頼できる情報源から正しい知識を得て、病気への理解を深めることも、不安の軽減につながります。

骨粗鬆症の予防と治療に関する誤解

骨粗鬆症については、さまざまな情報が飛び交っており、中には誤解も少なくありません。正しい知識を持つことが、適切な予防や治療につながります。

「牛乳を飲んでいれば大丈夫」という誤解

牛乳はカルシウムが豊富で、骨の健康に良い食品ですが、牛乳だけを飲んでいれば骨粗鬆症を完全に予防できるわけではありません。

カルシウムの吸収を助けるビタミンDや、骨の形成に必要な他の栄養素もバランス良く摂取することが重要です。また、運動や日光浴なども併せて行う必要があります。

「高齢者だけの病気」という誤解

骨粗鬆症は高齢者、特に閉経後の女性に多い病気ですが、若い人でも発症する可能性があります。無理なダイエットによる栄養不足、運動不足、特定の病気や薬の影響などで、若年層でも骨密度が低下することがあります。

年齢に関わらず、骨の健康を意識した生活を送ることが大切です。

「骨粗鬆症の薬は一度始めたらやめられない」という誤解

骨粗鬆症の薬物治療は長期にわたることが多いですが、必ずしも一生やめられないわけではありません。

治療効果や骨密度の改善度合い、副作用の有無などを考慮し、医師が治療薬の種類を変更したり、一時的に休薬したり(ドラッグホリデー)、治療を終了したりする場合があります。

自己判断で中断せず、必ず医師と相談してください。

薬物治療の継続と見直し

ポイント内容医師との連携
定期的な効果測定骨密度検査、骨代謝マーカー検査など治療計画の調整に必要
副作用の確認体調変化の報告薬剤変更や中止の判断材料
治療目標の共有患者と医師間での目標設定治療継続のモチベーション維持

「症状がないから治療は不要」という誤解

骨粗鬆症は初期には自覚症状がほとんどないため、「症状がないから大丈夫」「治療は必要ない」と考えるのは危険です。骨密度が低下していても、骨折するまでは痛みなどの症状が出ないことが多いのです。

骨折して初めて骨粗鬆症と診断されるケースも少なくありません。症状がなくても、リスクが高いと判断された場合は、予防的な観点からも検査や、必要であれば治療を検討することが重要です。

よくある質問

骨粗鬆症の予防や治療に関して、多くの方が抱く疑問にお答えします。

骨粗鬆症の薬に副作用はありますか

どのような薬にも副作用の可能性があります。骨粗鬆症の薬も例外ではありません。例えば、ビスホスホネート製剤では、服用方法を守らないと食道や胃に負担がかかることがあります。

また、まれに顎骨壊死や非定型大腿骨骨折といった重篤な副作用が報告されていますが、その頻度は非常に低いです。

医師は副作用のリスクと治療のメリットを総合的に判断して薬を選択し、定期的なチェックを行います。気になる症状があれば、すぐに医師や薬剤師に相談しましょう。

主な薬剤と注意すべき副作用(例)

薬剤系統主な副作用(可能性)対処・注意点
ビスホスホネート製剤(経口)消化器症状(胸やけ、吐き気など)起床後すぐにコップ1杯の水で服用、服用後30-60分は横にならない
デノスマブ(注射)低カルシウム血症、皮膚症状適切なカルシウム・ビタミンD補充、定期的な血液検査
テリパラチド(自己注射)吐き気、頭痛、めまい、高カルシウム血症投与初期に起こりやすい、定期的な血液検査

骨密度はどのくらいの頻度で測るべきですか

骨密度を測定する頻度は、個人の年齢、性別、骨密度の初期値、治療の有無、リスク因子の数などによって異なります。

一般的には、治療を開始する際や治療効果を判定するために、1年から2年に1回程度の測定が推奨されることが多いです。

ただし、骨折リスクが高い場合や、特定の薬剤を使用している場合は、より短い間隔で検査を行うこともあります。医師の指示に従い、適切なタイミングで検査を受けましょう。

サプリメントだけで骨粗鬆症は予防できますか

カルシウムやビタミンDなどのサプリメントは、食事からの摂取が不十分な場合に補助的に役立ちますが、サプリメントだけで骨粗鬆症を完全に予防することは難しいです。

骨の健康には、バランスの取れた食事、適度な運動、日光浴、禁煙、節度ある飲酒といった総合的な生活習慣の改善が重要です。サプリメントはあくまで補助として考え、基本的な生活習慣を見直すことが優先されます。

使用する際は、過剰摂取にならないよう注意し、医師や薬剤師に相談することをおすすめします。

骨粗鬆症でも運動して大丈夫ですか

骨粗鬆症と診断された方でも、適切な運動は骨密度の維持・改善や転倒予防に効果的であり、推奨されます。ただし、骨がもろくなっているため、激しい運動や転倒のリスクが高い運動は避けるべきです。

ウォーキング、水中運動、軽い筋力トレーニング、バランス訓練などが適しています。どのような運動が自分に合っているか、どの程度の強度が適切かについては、必ず医師や理学療法士などの専門家に相談し、指導を受けるようにしましょう。

無理のない範囲で、安全に注意しながら継続することが大切です。

以上

参考文献

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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