足立慶友医療コラム

膝をひねった時の痛み|症状と治療の選択肢

2025.05.28

日常生活やスポーツ中に、不意に膝をひねってしまい、「ズキッ」とした痛みに襲われることは誰にでも起こり得ます。

特に、膝を曲げると痛みが強くなる場合、どのような怪我の可能性があるのか、どう対処すれば良いのか不安に感じる方も多いでしょう。

この記事では、膝をひねった際の痛みの原因、考えられる症状、ご自身でできる応急処置、医療機関を受診する目安、そして主な治療法について、分かりやすく解説します。

適切な知識を持つことで、万が一の事態にも落ち着いて対応できるようになり、早期回復への一歩を踏み出す助けとなれば幸いです。

膝をひねるとなぜ痛むのか

膝関節は、体重を支え、歩行や走行、ジャンプといった多様な動きを可能にする人体の中でも特に重要な関節の一つです。しかし、その複雑な構造ゆえに、ひねるなどの予期せぬ外力に対して脆弱な側面も持っています。

膝をひねった際に痛みが生じるのは、関節内の組織が損傷したり、炎症を起こしたりするためです。

膝関節の構造と役割

膝関節は、大腿骨(太ももの骨)、脛骨(すねの骨)、そして膝蓋骨(膝のお皿)の3つの骨で構成されています。これらの骨の表面は軟骨で覆われており、衝撃を吸収し、スムーズな動きを助けています。

また、関節の内側と外側には半月板というC型をした軟骨組織があり、クッションの役割と関節の安定性を高める働きをしています。

さらに、膝関節は複数の靭帯によって補強されており、前後左右への過度な動きを制限しています。

膝関節を構成する主な要素

構成要素主な役割ひねりによる影響
骨(大腿骨、脛骨、膝蓋骨)体重支持、運動の基盤稀に骨折や骨挫傷
関節軟骨衝撃吸収、滑らかな動き損傷、すり減り
半月板衝撃吸収、安定性向上断裂、損傷
靭帯関節の安定化、動きの制御断裂、損傷(捻挫)

ひねりによる膝への負担

膝関節は、主に曲げ伸ばしの運動を得意としていますが、ひねる動作には比較的弱い構造です。

スポーツ中の急な方向転換、ジャンプの着地時のバランスの崩れ、あるいは日常生活での不意な体勢の変化などで、膝に許容範囲を超えるひねりが加わると、半月板や靭帯、軟骨といった組織に大きな負担がかかります。

これらの組織が引き伸ばされたり、ねじ切れたりすることで損傷し、痛みや腫れ、不安定感といった症状が現れます。

痛みの発生しやすい状況

膝をひねって痛みを引き起こしやすい状況は、多岐にわたります。特に注意が必要なのは、以下のような場面です。

  • スポーツ活動(バスケットボール、サッカー、スキー、バレーボールなど)
  • 階段の上り下り
  • 急な方向転換や停止
  • ジャンプからの着地
  • 転倒

これらの状況では、膝に不自然な力が加わりやすく、特に体重がかかった状態でひねると、より重篤な損傷につながる可能性があります。

普段から膝への負担を意識し、適切な身体の使い方を心がけることが予防には大切です。

膝をひねった際に考えられる怪我の種類

膝をひねった際に生じる痛みは、損傷した部位や程度によって様々です。代表的な怪我を理解することで、ご自身の状態を把握する一助となります。

ただし、自己判断は禁物であり、正確な診断は医療機関で行う必要があります。

代表的な膝の怪我

膝をひねることで損傷しやすい代表的な組織と、それによって起こる怪我について解説します。

半月板損傷

半月板は、膝関節の内側と外側にあるC字型の軟骨様組織で、クッションの役割を果たしています。膝をひねる動作で半月板に過度な力が加わると、断裂したり、傷ついたりすることがあります。

特に、体重がかかった状態で膝をひねった際に起こりやすい怪我です。症状としては、膝の曲げ伸ばし時の痛み、ひっかかり感、「ロッキング」と呼ばれる膝が動かなくなる現象などが見られます。

また、関節内に水がたまる(関節水腫)こともあります。

靭帯損傷(前十字靭帯、内側側副靭帯など)

靭帯は、骨と骨をつなぎ、関節の安定性を保つ強靭な組織です。膝関節には主に4つの主要な靭帯があります。ひねり方や外力の方向によって、損傷する靭帯が異なります。

  • 前十字靭帯(ACL)損傷:スポーツ活動中に多く見られ、ジャンプの着地時や急な方向転換時に「ブツッ」という断裂音(ポップ音)を感じることがあります。受傷直後から強い痛みと腫れが現れ、膝が不安定になる(膝くずれ)のが特徴です。
  • 内側側副靭帯(MCL)損傷:膝の外側から内側への力(外反力)が加わった際に起こりやすい損傷です。膝の内側に痛みや圧痛、腫れが見られます。重症度によっては不安定感も生じます。
  • 後十字靭帯(PCL)損傷:膝を強くぶつけたり、すねの骨が後方に押し込まれるような力が加わった際に損傷します。前十字靭帯損傷ほど頻度は高くありませんが、膝の不安定感や後面の痛みが特徴です。
  • 外側側副靭帯(LCL)損傷:膝の内側から外側への力(内反力)で損傷します。膝の外側に痛みや腫れ、不安定感が生じます。

軟骨損傷

関節軟骨は、骨の表面を覆い、衝撃を和らげる滑らかな組織です。強い外力や繰り返される負担によって、軟骨がすり減ったり、剥がれたりすることがあります。

これを関節軟骨損傷と呼びます。症状としては、動作時の痛み、腫れ、ひっかかり感などがあります。軟骨には血管や神経がないため、一度損傷すると自然治癒しにくいという特徴があります。

膝の代表的な怪我と主な症状

怪我の種類主な原因特徴的な症状
半月板損傷体重をかけた状態でのひねり曲げ伸ばし時の痛み、ひっかかり感、ロッキング、関節水腫
前十字靭帯損傷ジャンプ着地、急な方向転換断裂音、強い痛みと腫れ、膝くずれ
内側側副靭帯損傷膝への外反力膝内側の痛み、圧痛、腫れ、不安定感

怪我の種類による症状の違い

膝をひねった際の症状は、どの組織がどの程度損傷したかによって大きく異なります。

例えば、靭帯損傷では膝の不安定感が強く出ることが多いのに対し、半月板損傷では特定の動作での痛みやひっかかり感が特徴的です。

また、関節軟骨の損傷では、初期には症状が軽微でも、進行すると持続的な痛みや可動域制限が生じることがあります。

痛みの部位、種類(ズキズキ、ジンジンなど)、どのような時に痛むかなどを詳しく観察することが、診断の手がかりとなります。

緊急性の高い症状とは

以下のような症状が見られる場合は、重篤な損傷の可能性があり、速やかに医療機関を受診することが重要です。

速やかな受診が必要な症状

  • 膝が明らかに腫れ上がり、熱を持っている
  • 体重をかけることが全くできないほどの激しい痛み
  • 膝が異常な方向に曲がっている、または変形している
  • 膝が動かせない、または特定の角度で固まってしまう(ロッキング)
  • 「ブツッ」という断裂音を聞いた後の強い痛みと不安定感

これらの症状は、骨折、靭帯の完全断裂、重度の半月板損傷などを示唆している場合があります。

放置すると症状が悪化したり、後遺症が残ったりする可能性があるため、自己判断せずに専門医の診察を受けてください。

膝をひねった直後の応急処置 RICE処置

膝をひねってしまった直後は、パニックにならず、まずは落ち着いて応急処置を行うことが大切です。適切な応急処置は、その後の回復を早め、症状の悪化を防ぐ上で非常に重要です。

一般的に推奨される応急処置として「RICE処置」があります。

RICE処置とは

RICE処置は、怪我をした際の基本的な応急手当の方法で、4つの処置の頭文字をとったものです。

これらの処置を適切に行うことで、痛みや腫れを軽減し、内出血を最小限に抑える効果が期待できます。

Rest(安静)

損傷した部位を動かさず、安静に保つことが最も重要です。無理に動かすと、損傷が悪化したり、治癒が遅れたりする可能性があります。

体重をかけずに、楽な体勢で休みましょう。必要であれば、松葉杖などを使用することも検討します。

Ice(冷却)

患部を冷やすことで、炎症や腫れを抑え、痛みを和らげます。ビニール袋に氷と少量の水を入れ、タオルで包んで患部に当てます。

1回15分から20分程度を目安に、感覚がなくなったら一旦中止し、数時間おきに繰り返します。凍傷を避けるため、直接氷を皮膚に当てないように注意してください。

Compression(圧迫)

患部を弾性包帯やテーピングで軽く圧迫することで、内出血や腫れを抑制します。ただし、強く圧迫しすぎると血行が悪くなるため、しびれや変色がないか確認しながら行います。

圧迫の強さは、心地よい程度が目安です。

Elevation(挙上)

患部を心臓より高い位置に保つことで、重力を利用して腫れや内出血を軽減します。横になる場合は、足の下にクッションや枕などを入れて高くします。

座っている場合でも、足を台に乗せるなどして工夫しましょう。

RICE処置のポイント

処置目的具体的な方法
Rest (安静)損傷の悪化防止患部を動かさず、体重をかけない
Ice (冷却)炎症・腫れの抑制、鎮痛氷嚢などで15-20分冷却、数時間おき
Compression (圧迫)内出血・腫れの抑制弾性包帯などで軽く圧迫
Elevation (挙上)腫れの軽減患部を心臓より高く保つ

RICE処置の具体的な方法と注意点

RICE処置は、受傷後できるだけ早く開始することが効果的です。特に受傷後24時間から72時間は、炎症反応が強く出る時期なので、積極的に行いましょう。

冷却に関しては、冷やしすぎによる凍傷に注意が必要です。また、圧迫も血行障害を引き起こさない程度の強さに留めることが大切です。

これらの処置はあくまで応急的なものであり、痛みが強い場合や症状が改善しない場合は、必ず医療機関を受診してください。

やってはいけないこと

膝をひねった直後に、良かれと思って行った行為が、かえって症状を悪化させてしまうことがあります。以下の行為は避けるようにしましょう。

受傷直後に避けるべきこと

  • 患部を温める(入浴、カイロなど)
  • アルコールを摂取する
  • 無理に動かす、マッサージをする
  • 自己判断で放置する

これらの行為は、炎症を助長したり、損傷を拡大させたりする可能性があります。特に、受傷直後の飲酒や入浴は血行を促進し、腫れや内出血を悪化させるため厳禁です。

痛みが強い場合は、無理せず安静にし、RICE処置を行いながら専門医の指示を仰ぎましょう。

医療機関を受診する目安

膝をひねった後、どの程度の症状であれば医療機関を受診すべきか迷うことがあるかもしれません。

軽度の捻挫であれば自然に回復することもありますが、適切な診断と治療を受けずに放置すると、症状が悪化したり、慢性的な問題につながったりする可能性があります。

ここでは、受診の目安となる症状やタイミングについて解説します。

こんな症状があれば医療機関へ

以下のような症状が一つでも当てはまる場合は、自己判断せずに整形外科などの専門医を受診することを強く推奨します。

受診を検討すべき症状

  • 痛みが強く、日常生活に支障が出ている
  • 膝が明らかに腫れている、または熱感がある
  • 体重をかけると痛い、または体重をかけられない
  • 膝の曲げ伸ばしが困難、または特定の角度で動かせない
  • 膝がグラグラする、不安定な感じがする(膝くずれ)
  • 「ブツッ」という音を聞いた後、急激な痛みや腫れが出た
  • 数日経っても症状が改善しない、または悪化している

これらの症状は、半月板損傷、靭帯損傷、骨折など、専門的な治療が必要な怪我のサインである可能性があります。

早期に適切な診断を受けることが、早期回復と後遺症の予防につながります。

受診のタイミング

理想的な受診のタイミングは、怪我の状態や症状の強さによって異なります。

激しい痛みや明らかな変形、動かせないなどの重篤な症状がある場合は、できるだけ早く、可能であれば当日中に受診することが望ましいです。

そこまで重篤でない場合でも、2~3日様子を見ても症状が改善しない、あるいは悪化するようであれば、医療機関を受診しましょう。

特に、スポーツをされている方で早期の競技復帰を目指す場合は、速やかな診断と治療計画の立案が重要です。

受診タイミングの目安

症状の程度受診の目安考えられる対応
激しい痛み、明らかな変形、動かせないできるだけ早く(当日中)緊急性の高い処置が必要な可能性
強い腫れ、体重をかけられない1~2日以内詳細な検査と診断
症状が数日続く、または悪化する2~3日様子を見て改善なければ原因の特定と治療方針の決定

何科を受診すべきか

膝の痛みや怪我を専門的に診療するのは「整形外科」です。整形外科では、骨、関節、筋肉、靭帯、神経といった運動器の疾患を扱います。

膝をひねった場合は、まず整形外科医の診察を受けるようにしましょう。スポーツによる怪我の場合は、スポーツ整形外科を専門とする医師がいる医療機関を選ぶのも良いでしょう。

医師に伝えるべきこと

診察を受ける際には、医師に正確な情報を伝えることが、適切な診断と治療のために非常に重要です。以下の点を整理しておくと、スムーズに診察が進みます。

  • いつ、どこで、何をしている時に膝をひねったか(受傷機転)
  • ひねった瞬間にどのような感覚があったか(例:「ブツッ」という音、激痛など)
  • 現在の主な症状(痛みの場所、種類、程度、どのような時に痛むか)
  • これまでの経過(症状の変化、自分で行った処置など)
  • 過去の膝の怪我や病気の経験
  • 普段行っているスポーツや仕事の内容
  • アレルギーや持病、服用中の薬について

これらの情報をメモしておくと、伝え忘れを防ぐことができます。遠慮せずに、気になることは全て医師に相談しましょう。

膝の痛みの診断方法

医療機関では、膝の痛みの原因を特定するために、様々な検査を行います。正確な診断が、適切な治療法の選択につながります。主に問診、視診・触診、そして画像検査が行われます。

問診と視診・触診

まず、医師が患者さんから症状や怪我の状況について詳しく話を聞きます(問診)。いつ、どのようにして痛めたか、どのような症状があるか、痛みの程度や性質などを具体的に伝えます。

その後、医師が膝の状態を目で見て(視診)、手で触れて(触診)確認します。腫れや熱感の有無、圧痛点(押すと痛む場所)、関節の可動域、不安定性などを評価します。

特定のテスト(徒手検査)を行い、靭帯や半月板の損傷の可能性を探ることもあります。

問診で確認される主な内容

確認項目質問例
受傷機転「いつ、どのようにして痛めましたか?」
症状「どこが、どのように痛みますか?」「膝がグラグラしますか?」
既往歴「以前にも膝を痛めたことはありますか?」

画像検査の種類と特徴

問診や診察の結果、さらに詳しい情報が必要と判断された場合、画像検査が行われます。代表的な画像検査には、レントゲン検査、MRI検査、超音波(エコー)検査などがあります。

レントゲン検査

レントゲン検査(X線検査)は、骨の状態を評価する基本的な画像検査です。骨折や脱臼の有無、骨の変形などを確認できます。

関節の隙間の広さから軟骨のすり減り具合を推測することもできますが、靭帯や半月板、軟骨そのものを直接見ることはできません。比較的簡便に行える検査です。

MRI検査

MRI(磁気共鳴画像)検査は、磁気と電波を利用して体内の詳細な断面像を得る検査です。レントゲンでは描出できない半月板、靭帯、軟骨、筋肉といった軟部組織の状態を詳しく評価することができます。

膝の怪我の診断において非常に有用な検査であり、損傷の部位や程度を正確に把握するのに役立ちます。

検査には時間がかかり、強力な磁場を使用するため、体内に金属がある場合などは検査を受けられないことがあります。

超音波(エコー)検査

超音波検査は、超音波を体に当て、その反響を画像化する検査です。靭帯や筋肉、腱などの軟部組織の状態をリアルタイムで観察できます。

関節内に関節液が溜まっているか(関節水腫)なども確認できます。MRI検査に比べて手軽に行え、放射線被曝の心配もありません。ただし、骨の内部や関節の深部までは評価が難しい場合があります。

主な画像検査の比較

検査方法主な評価対象メリットデメリット
レントゲン検査骨(骨折、変形)簡便、安価軟部組織の評価は困難
MRI検査軟部組織(靭帯、半月板、軟骨)詳細な情報が得られる時間がかかる、費用が高い、禁忌事項あり
超音波検査軟部組織(表層)、関節水腫手軽、リアルタイム、非侵襲深部や骨内部の評価は困難、術者の技量に左右される

その他の検査

上記の検査以外にも、必要に応じて関節穿刺(かんせつせんし)や血液検査などが行われることがあります。関節穿刺は、関節内に注射針を刺して関節液を採取する検査です。

関節液の性状(色や濁り、血液の混入など)を調べることで、炎症の種類や程度、出血の有無などを判断するのに役立ちます。また、関節液を抜くことで、腫れによる痛みを軽減する効果も期待できます。

血液検査は、感染症やリウマチなどの全身性疾患が疑われる場合に行われます。

膝の痛みの治療法

膝をひねった際の痛みに対する治療法は、損傷の種類や程度、患者さんの年齢や活動レベル、生活様式などを総合的に考慮して決定されます。

大きく分けて、手術を行わない「保存療法」と、手術による「手術療法」があります。

保存療法

多くの場合、まずは保存療法から治療を開始します。保存療法は、身体への負担が少ない治療法であり、安静、薬物療法、リハビリテーション、装具療法などを組み合わせて行います。

安静と固定

損傷した組織の修復を促すためには、患部の安静が基本です。痛みを伴う動作を避け、膝に負担をかけないようにします。症状によっては、ギプスやシーネ、サポーターなどで膝関節を固定し、安定性を高めることもあります。

固定期間は損傷の程度によって異なりますが、長期間の固定は関節の拘縮(固まって動きが悪くなること)や筋力低下を招くため、医師の指示に従い、適切な時期にリハビリテーションを開始することが重要です。

薬物療法(内服薬・外用薬)

痛みを和らげ、炎症を抑えるために薬物療法を行います。一般的には、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の内服薬や外用薬(湿布、塗り薬)が用いられます。

痛みが強い場合には、より強力な鎮痛薬を使用することもあります。また、関節内にヒアルロン酸注射やステロイド注射を行うこともあります。

ヒアルロン酸は関節の潤滑を高め、痛みを軽減する効果が期待できます。ステロイド注射は強力な抗炎症作用がありますが、頻繁な使用は副作用のリスクもあるため、医師の判断のもと慎重に行われます。

保存療法の主な薬剤

薬剤の種類主な効果使用方法の例
非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs)鎮痛、抗炎症内服、湿布、塗り薬
ヒアルロン酸注射関節潤滑、疼痛軽減関節内注射
ステロイド注射強力な抗炎症関節内注射(慎重投与)

リハビリテーション

リハビリテーションは、膝の機能回復と再発予防のために非常に重要な治療法です。理学療法士などの専門家の指導のもと、痛みの軽減、関節可動域の改善、筋力の強化、バランス能力の向上などを目的とした運動療法を行います。

初期には炎症を抑えるための物理療法(温熱療法、寒冷療法、電気刺激療法など)も併用されることがあります。筋力トレーニングでは、特に太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)や後ろの筋肉(ハムストリングス)を強化することが、膝の安定性向上に役立ちます。

リハビリテーションは、個々の状態に合わせて段階的に進められます。

装具療法

膝関節の安定性を高め、負担を軽減するために、サポーターやブレースといった装具を使用することがあります。靭帯損傷や半月板損傷後、あるいは変形性膝関節症などに対して用いられます。

装具の種類は様々で、症状や目的に応じて適切なものが選択されます。医師や理学療法士の指示に従い、正しく装着することが大切です。

手術療法

保存療法で十分な効果が得られない場合や、損傷の程度が大きい場合、あるいは早期のスポーツ復帰を強く希望する場合などには、手術療法が検討されます。

手術の目的は、損傷した組織を修復・再建し、膝関節の機能を取り戻すことです。

手術が必要となるケース

一般的に手術が検討されるのは、以下のようなケースです。

  • 靭帯が完全に断裂し、膝の不安定性が著しい場合(特に前十字靭帯損傷)
  • 半月板が大きく断裂し、ロッキング症状を繰り返す場合や、保存療法で改善しない場合
  • 関節軟骨の損傷が広範囲で、痛みが強い場合
  • 若年者や活動性の高い人で、早期の機能回復とスポーツ復帰を目指す場合

手術を行うかどうかは、患者さんの年齢、活動レベル、社会的背景、そして本人の希望などを総合的に考慮し、医師と十分に話し合って決定します。

代表的な手術方法

膝の怪我に対する代表的な手術方法には、関節鏡視下手術(かんせつきょうしかしゅじゅつ)があります。これは、数カ所の小さな切開部から、関節鏡と呼ばれる細いカメラと手術器具を挿入して行う低侵襲な手術です。

半月板の切除術や縫合術、靭帯の再建術などがこの方法で行われます。関節鏡視下手術は、従来の切開手術に比べて、傷が小さく、術後の痛みが少なく、回復が早いといったメリットがあります。

手術後の経過

手術後は、感染予防や疼痛管理が行われ、その後リハビリテーションを開始します。

リハビリテーションのプログラムは、手術の種類や患者さんの状態によって異なりますが、一般的には、関節可動域訓練、筋力増強訓練、バランス訓練などを段階的に進めていきます。

スポーツ復帰までには数ヶ月から1年程度かかることもあり、焦らずに医師や理学療法士の指示に従ってリハビリテーションに取り組むことが重要です。

手術療法と保存療法の比較(一例)

項目保存療法手術療法
身体への負担少ない比較的大きい
適応軽度~中等度の損傷、高齢者など重度の損傷、保存療法で改善しない場合、活動性の高い人
治療期間数週間~数ヶ月数ヶ月~1年以上(リハビリ含む)

再発予防のためにできること

一度膝を痛めると、再発しやすい傾向があります。治療後も、膝に負担をかけない生活習慣を心がけ、適切な筋力トレーニングやストレッチを継続することが再発予防には大切です。

特に、太ももや体幹の筋力をバランス良く鍛えることで、膝関節の安定性が高まります。

また、スポーツを行う際には、ウォーミングアップやクールダウンを十分に行い、正しいフォームを意識することも重要です。

日常生活で気をつけること

膝の痛みを抱えている方や、一度膝を痛めた経験のある方は、日常生活での膝への負担を軽減する工夫が必要です。些細なことでも、積み重ねることで膝の健康維持につながります。

膝に負担をかけない動作

日常生活の様々な動作の中で、膝に負担がかかりやすい場面があります。以下のような点に注意しましょう。

  • 床からの立ち座り:できるだけ椅子や手すりを利用し、膝への急な負荷を避けます。正座やあぐらは膝に負担をかけるため、できるだけ避けるか、短時間にとどめましょう。
  • 階段昇降:手すりを利用し、一段ずつゆっくりと昇り降りします。痛む方の足から降り、痛くない方の足から昇ると負担が軽減されることがあります。
  • 物の持ち運び:重い物を持つ際は、膝を曲げて腰を落とし、体に近づけて持ち上げます。膝だけで支えようとすると大きな負担がかかります。

動作時の注意点

動作注意点工夫
立ち座り急な動作、膝への直接的な負荷椅子や手すりの利用、ゆっくりとした動作
階段昇降膝のねじれ、衝撃手すりの利用、一段ずつ昇降
物の持ち運び膝だけで支える膝を曲げ腰を落とす、体に近づけて持つ

適切な靴選び

靴は、歩行時の衝撃を吸収し、足元を安定させる重要な役割を担っています。膝に問題を抱えている場合は、特に靴選びが大切です。

クッション性が高く、足にフィットし、かかとが安定する靴を選びましょう。ヒールの高い靴や底の薄い靴は、膝への負担が大きくなるため、長時間の使用は避けるのが賢明です。

必要であれば、インソール(中敷き)を利用して足のアーチをサポートしたり、衝撃を和らげたりすることも有効です。

体重管理の重要性

体重が増加すると、膝関節にかかる負担も増大します。歩行時には体重の約3~5倍、階段昇降時には約7~8倍の負荷が膝にかかると言われています。

体重を適切にコントロールすることは、膝の痛みの軽減や進行予防に非常に効果的です。バランスの取れた食事と適度な運動を心がけ、健康的な体重を維持しましょう。

急激なダイエットは体に負担をかけるため、無理のない範囲で計画的に行うことが大切です。

運動習慣の見直し

膝に痛みがある場合でも、全く運動しないのは筋力低下や関節の拘縮を招くため、必ずしも良いことではありません。

医師や理学療法士と相談の上、膝に負担の少ない運動(水中ウォーキング、自転車こぎなど)を適切な範囲で行うことが推奨されます。運動前後のストレッチやウォーミングアップ、クールダウンも忘れずに行いましょう。

痛みが強い時や、運動後に痛みが増すような場合は無理をせず、運動内容や強度を見直すことが必要です。

よくある質問

膝をひねった際の痛みに関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

ただし、これらは一般的な情報であり、個々の症状や状態によって異なる場合があるため、最終的な判断は必ず専門医にご相談ください。

Q. 膝をひねってからどれくらいで治りますか?

A. 治癒期間は、損傷の種類や程度、年齢、治療法、リハビリテーションの状況などによって大きく異なります。

軽度の捻挫であれば数週間程度で改善することもありますが、靭帯損傷や半月板損傷の場合は数ヶ月から1年以上かかることもあります。

特に手術を行った場合は、リハビリテーションを含めて長期間の治療が必要となることが一般的です。焦らず、医師の指示に従って治療を進めることが大切です。

Q. 温めるのと冷やすのはどちらが良いですか?

A. 一般的に、怪我をした直後(急性期)は炎症を抑えるために冷やす(アイシング)のが基本です。RICE処置でも冷却が推奨されています。受傷後24時間から72時間程度は冷やすことを優先しましょう。

一方、慢性的な痛みや炎症が落ち着いた時期(慢性期)には、血行を促進し、筋肉の緊張を和らげるために温める(温熱療法)のが効果的な場合があります。

ただし、自己判断は禁物です。どちらが良いか迷う場合は、医師や理学療法士に相談してください。

温めるか冷やすかの目安

時期状態推奨される対応
急性期(受傷直後~72時間程度)腫れ、熱感、ズキズキする痛み冷やす(アイシング)
慢性期(炎症が落ち着いた後)鈍い痛み、こわばり温める(医師の指示による)

Q. サポーターは効果がありますか?

A. サポーターは、膝関節の安定性を高め、動きを補助し、安心感を得る効果が期待できます。また、保温効果によって血行を促進し、痛みを和らげることもあります。

ただし、サポーターに頼りすぎると、自身の筋力が低下してしまう可能性も指摘されています。サポーターの種類も様々で、症状や目的に合ったものを選ぶことが重要です。

使用については、医師や理学療法士に相談し、適切な指導を受けるようにしましょう。あくまで補助的なものであり、根本的な治療にはなりません。

Q. 放置するとどうなりますか?

A. 膝をひねった際の痛みを放置すると、様々な問題が生じる可能性があります。

軽微な損傷であれば自然に治癒することもありますが、靭帯損傷や半月板損傷など、適切な治療が必要な怪我の場合、放置することで以下のような事態を招くことがあります。

  • 症状の悪化・慢性化:痛みが長引いたり、日常生活に支障が出続けたりします。
  • 膝の不安定性の進行:膝くずれを繰り返しやすくなり、転倒のリスクが高まります。
  • 二次的な損傷の発生:不安定な膝で生活を続けることで、他の靭帯や半月板、軟骨などを新たに痛めてしまう可能性があります。
  • 変形性膝関節症への進行:長期的には、関節軟骨のすり減りが進み、変形性膝関節症を発症・悪化させるリスクが高まります。

自己判断で放置せず、症状が気になる場合は早めに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが、将来的な膝の健康を守るために重要です。

以上

参考文献

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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