変形性膝関節症はどんな人に多い?年齢別の傾向
膝の痛みやこわばりを感じ、「もしかして変形性膝関節症かも?」と不安に思っている方はいませんか。この病気は、多くの方が悩まされる可能性のある身近な関節疾患の一つです。
特に年齢を重ねるにつれて、そのリスクは高まると言われています。
この記事では、変形性膝関節症がどのような人に多く見られるのか、そして年齢によってどのような傾向があるのかを、分かりやすく解説します。
目次
変形性膝関節症とは?基本的な知識
変形性膝関節症は、膝関節のクッションである関節軟骨がすり減ったり、骨の変形が生じたりする病気です。進行すると膝に痛みが生じ、日常生活に支障をきたすこともあります。
まずは、この病気の基本的な部分を理解しましょう。
膝の構造と関節軟骨の役割
私たちの膝関節は、太ももの骨(大腿骨)、すねの骨(脛骨)、そしてお皿の骨(膝蓋骨)で構成されています。これらの骨の表面は、弾力性のある「関節軟骨」という組織で覆われています。
関節軟骨は、衝撃を吸収するクッションのような役割と、関節の動きを滑らかにする潤滑油のような役割を担っています。
この関節軟骨のおかげで、私たちはスムーズに膝を曲げ伸ばししたり、歩いたりすることができるのです。
また、膝関節の内部には「半月板」というC型をした軟骨組織もあり、これも衝撃吸収や関節の安定性を高めるのに役立っています。
これらの組織が正常に機能することで、膝関節は体重を支え、複雑な動きに対応できるのです。
膝関節の主な構成要素
構成要素 | 主な役割 | 変形性膝関節症との関連 |
---|---|---|
関節軟骨 | 衝撃吸収、関節運動の円滑化 | 摩耗や変性により痛みや動きの制限が生じる |
半月板 | 衝撃吸収、関節の安定化 | 損傷すると軟骨への負担が増加する |
滑膜 | 関節液の産生、栄養供給 | 炎症を起こすと痛みや腫れの原因になる |
変形性膝関節症が起こる仕組み
変形性膝関節症は、主に長年の使用による関節軟骨の摩耗や質の低下が原因で起こります。関節軟骨には血管が通っていないため、一度すり減ってしまうと自然に修復されることは難しいとされています。
軟骨がすり減ると、骨同士が直接こすれ合うようになり、炎症や痛みが生じます。
さらに、病気が進行すると、関節の縁に「骨棘(こつきょく)」と呼ばれるトゲのような骨ができることがあります。また、関節を包む滑膜(かつまく)という組織に炎症が起こり、関節液が過剰に分泌されて膝が腫れる(水がたまる)こともあります。
これらの変化が複合的に絡み合い、症状を悪化させていきます。
初期症状と進行による症状の変化
変形性膝関節症の初期には、自覚症状がほとんどない場合もあります。しかし、徐々に以下のような症状が現れ始めます。
- 動き始めの痛み(立ち上がり、歩き始めなど)
- 階段の上り下りでの痛み
- 膝のこわばり
病気が進行すると、痛みが持続するようになり、安静時にも痛むことがあります。また、膝の曲げ伸ばしが困難になったり、O脚やX脚といった脚の変形が目立ってきたりすることもあります。
最終的には、歩行が困難になるなど、日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。
症状の進行段階の目安
進行段階 | 主な症状 | 日常生活への影響 |
---|---|---|
初期 | 動き始めの軽い痛み、こわばり | あまり支障はないが、違和感を感じる |
中期 | 階段昇降時の痛み、正座が困難、膝の腫れ | 長距離の歩行や特定の動作が辛くなる |
末期 | 安静時痛、夜間痛、著しい可動域制限、O脚変形 | 歩行困難、日常生活動作全般に支障 |
放置するリスクと早期対応の重要性
変形性膝関節症は、放置しても自然に治ることは稀で、多くの場合、徐々に進行していきます。症状が悪化すると、痛みが強くなるだけでなく、関節の変形が進み、治療の選択肢が限られてしまうこともあります。
また、膝の痛みをかばうことで、反対側の膝や腰など他の部位にも負担がかかり、新たな痛みが生じる可能性も考えられます。
そのため、膝に違和感や初期の症状を感じたら、早めに専門医に相談することが重要です。
早期に適切な診断を受け、個々の状態に合わせた対処法を開始することで、症状の進行を遅らせたり、痛みを和らげたりすることが期待できます。
変形性膝関節症になりやすい人の特徴
変形性膝関節症は誰にでも起こりうる病気ですが、特定の要因を持つ人は発症しやすい傾向があります。どのような人がこの病気になりやすいのか、主な特徴を見ていきましょう。
加齢との関連性
変形性膝関節症の最も大きなリスク因子の一つが「加齢」です。長年にわたり膝関節を使い続けることで、関節軟骨が徐々にすり減り、弾力性を失っていきます。
統計的にも、年齢が上がるにつれて有病率は高くなることが示されています。特に50歳代以降で発症する人が増え始め、高齢になるほどその割合は増加します。
ただし、加齢だけが原因ではありません。同じ年齢でも、発症する人としない人がいるのは、他の要因が複雑に関与しているためです。
性別による違い(女性に多い理由)
変形性膝関節症は、男性よりも女性に多く見られる傾向があります。その理由は完全には解明されていませんが、いくつかの要因が考えられています。
- ホルモンバランスの変化(特に閉経後の女性ホルモンの減少)
- 男性に比べて筋肉量が少ない傾向
- 骨盤の形状や関節の構造の違い
これらの要因が複合的に影響し、女性の膝関節に負担がかかりやすくなっている可能性があります。特に閉経を迎える50歳代以降の女性は注意が必要です。
男女別の有病率の比較(推定)
年代 | 男性の推定有病率 | 女性の推定有病率 |
---|---|---|
40代 | 比較的低い | やや低い |
60代 | 約20-30% | 約40-50% |
80歳以上 | 約40-50% | 約60-70% |
※上記は一般的な傾向を示す推定値であり、調査によって数値は異なります。
肥満の影響と体重管理
体重が増加すると、膝関節にかかる負担も大きくなります。歩行時には体重の約3~5倍、階段の上り下りでは約7~8倍もの負荷が膝にかかると言われています。
肥満の人は、標準体重の人に比べて関節軟骨の摩耗が進みやすく、変形性膝関節症を発症するリスクが高まります。
また、肥満は炎症を引き起こす物質の産生を促すとも考えられており、このことも関節の健康に悪影響を与える可能性があります。
体重を適切に管理することは、膝への負担を軽減し、変形性膝関節症の予防や進行抑制に繋がります。
遺伝的要因の可能性
変形性膝関節症の発症には、遺伝的な要因も関与していると考えられています。
家族(特に母親や姉妹)に変形性膝関節症の人がいる場合、自身も発症するリスクがやや高くなるという報告があります。
これは、骨の形や軟骨の質、関節の構造などが遺伝的に似ているためではないかと考えられています。
ただし、遺伝的要因だけで発症が決まるわけではありません。
生活習慣や環境要因も大きく影響するため、遺伝的な素因があると思われる場合でも、予防的な対策を講じることで発症リスクを低減できる可能性があります。
年齢別の傾向と注意点
変形性膝関節症の発症や進行の仕方は、年齢によっても特徴が見られます。ここでは、年代ごとの傾向と、特に注意したい点について解説します。
40代・50代の初期症状と対策
40代や50代は、変形性膝関節症の初期症状が現れ始めることが多い年代です。まだ日常生活に大きな支障はないものの、膝の違和感や軽い痛みを感じ始める人が増えてきます。
40代に見られる兆候
40代では、明らかな痛みよりも「なんとなく膝の調子が悪い」「長時間歩くと膝が重だるい」「以前より膝がこわばる感じがする」といった、はっきりしない症状として現れることがあります。
この段階では、レントゲン検査をしても明らかな異常が見つからないことも少なくありません。しかし、このような初期のサインを見逃さず、膝に負担をかけない生活を意識することが大切です。
50代で気をつけたいこと
50代になると、立ち上がりや歩き始めの痛み、階段昇降時の痛みなど、より具体的な症状を自覚する人が増えます。特に女性は閉経の影響で骨や関節が弱くなりやすいため、注意が必要です。
この時期に適切なケアを始めることで、症状の悪化を防ぎ、将来的なQOL(生活の質)の維持につながります。
この年代では、体重コントロールや膝周りの筋力トレーニング、適切な靴選びなどが特に重要になります。
40代・50代の初期症状とセルフケアのポイント
年代 | よく見られる初期症状 | セルフケアのポイント |
---|---|---|
40代 | 膝の違和感、こわばり、軽いだるさ | 体重管理、適度な運動習慣、膝に優しい動作 |
50代 | 動き始めの痛み、階段での痛み、軽い腫れ | 筋力維持(特に太もも)、ストレッチ、保温 |
60代・70代の進行と日常生活への影響
60代・70代になると、変形性膝関節症が進行し、日常生活に影響が出始める人が多くなります。痛みが慢性化し、関節の動きも悪くなる傾向が見られます。
60代の一般的な症状
60代では、膝の痛みが日常的になり、正座ができない、深くしゃがめないなど、関節の可動域制限が顕著になることがあります。
また、膝に水がたまりやすくなったり、O脚変形が目立ってきたりする人もいます。この時期には、痛みをコントロールしながら、いかに活動性を維持するかが課題となります。
70代以降の注意点
70代以降では、さらに症状が進行し、歩行が困難になるケースも少なくありません。
杖や歩行器などの補助具が必要になったり、外出がおっくうになったりすることで、活動範囲が狭まり、筋力低下や全身の健康状態の悪化につながることも懸念されます。
この年代では、転倒予防も非常に重要です。安全な生活環境を整え、無理のない範囲で体を動かすことが求められます。
若年層で発症するケースはある?
変形性膝関節症は主に中高年以降の病気と考えられていますが、稀に若年層でも発症することがあります。
その多くは、過去のスポーツによる膝の怪我(半月板損傷や靭帯損傷など)や、生まれつき関節の形状に問題がある場合など、明らかな原因があるケースです。「二次性変形性膝関節症」とも呼ばれます。
若年で発症した場合、将来的に関節機能が悪化するリスクが高いため、より早期からの積極的な管理と、専門医との連携が重要になります。
各年代における予防意識の高め方
どの年代においても、変形性膝関節症の予防や進行抑制のためには、膝をいたわる意識を持つことが大切です。
若い頃からの適切な運動習慣や体重管理は、将来の膝の健康を守る上で非常に有効です。また、年齢を重ねてからは、現在の膝の状態を正しく把握し、無理のない範囲で活動を続け、必要に応じて医療機関のサポートを受けることが重要です。
定期的な健康診断の機会などを利用して、膝の状態についても相談してみるのも良いでしょう。
生活習慣と変形性膝関節症のリスク
日々の生活習慣も、変形性膝関節症の発症や進行に大きく関わっています。どのような習慣が膝に影響を与えるのか、具体的に見ていきましょう。
運動不足が膝に与える影響
運動不足は、膝関節にとっていくつかの点でマイナスに作用します。まず、膝を支える太ももやお尻の筋力が低下します。
これらの筋力が弱まると、膝関節にかかる衝撃をうまく吸収できなくなり、軟骨への負担が増加します。また、運動不足は体重増加にもつながりやすく、これも膝への負荷を増やす原因となります。
さらに、関節を動かさないでいると、関節の柔軟性が失われ、血行も悪くなりがちです。このことが、関節軟骨の栄養状態にも影響を与える可能性があります。
- 筋力低下による関節不安定性の増大
- 体重増加による負荷の増大
- 関節可動域の低下と血行不良
逆に過度な運動や特定のスポーツのリスク
適度な運動は膝の健康に良い影響を与えますが、過度な運動や膝に大きな負担をかける特定のスポーツは、逆に関節を痛める原因となることがあります。
例えば、ジャンプや急な方向転換を繰り返すスポーツ(バスケットボール、バレーボール、サッカーなど)や、長時間膝を酷使するマラソンなどは、膝への負荷が大きくなりがちです。
スポーツを行う場合は、適切なウォーミングアップやクールダウン、正しいフォームの習得、そして膝に過度な負担がかからないようなトレーニング計画が重要です。
過去に膝を痛めた経験がある場合は、特に注意が必要です。
膝への負担が大きい可能性のある活動例
活動の種類 | 膝への影響 | 注意点 |
---|---|---|
長時間の正座・あぐら | 膝関節の過度な屈曲、血行不良 | できるだけ避ける、時々足を伸ばす |
重い荷物の持ち運び | 膝への直接的な荷重増加 | 荷物を分ける、台車などを利用する |
急な方向転換やジャンプ動作 | 半月板や靭帯へのストレス | 準備運動、サポーターの使用検討 |
日常生活での膝に負担をかける動作
日常生活の中にも、気づかないうちに膝に負担をかけている動作が潜んでいます。これらの動作を意識的に避けるか、工夫することで、膝への負担を軽減できます。
長時間の立ち仕事
調理師や販売員など、長時間立ちっぱなしの仕事は、膝に持続的な負荷がかかります。体重を支え続けることで、関節軟骨への圧迫が続き、疲労が蓄積しやすくなります。
可能であれば、時々座って休憩を取ったり、足踏みをしたりして、膝への負担を軽減する工夫をしましょう。
重い荷物の運搬
重い荷物を持つと、その分だけ膝にかかる負荷が増加します。特に、荷物を持って階段を昇り降りする際は、さらに大きな負担がかかります。
荷物はできるだけ小分けにする、カートを利用するなどの工夫が必要です。
不適切な靴の選択
靴選びも膝の健康に影響します。底の薄すぎる靴や硬すぎる靴、ヒールの高い靴などは、地面からの衝撃が直接膝に伝わりやすかったり、不安定で膝に変な力がかかったりすることがあります。
クッション性があり、足にフィットする安定した靴を選ぶことが大切です。
食生活と関節の健康
食生活が直接的に変形性膝関節症を引き起こすわけではありませんが、関節の健康を維持するためにはバランスの取れた食事が重要です。
特に、骨や軟骨の材料となるタンパク質、カルシウム、ビタミンD、ビタミンCなどを十分に摂取することが推奨されます。
また、抗炎症作用のあるとされるオメガ3系脂肪酸(青魚などに多く含まれる)や、抗酸化作用のあるビタミンEやポリフェノール(野菜や果物に多く含まれる)なども、関節の健康維持に役立つ可能性があります。
一方で、過度な飲酒や高カロリー・高脂肪な食事は体重増加や炎症を助長する可能性があるため、控えることが望ましいです。
関節の健康維持に役立つとされる栄養素例
栄養素 | 期待される役割 | 含まれる食品例 |
---|---|---|
タンパク質 | 筋肉・軟骨の構成成分 | 肉、魚、卵、大豆製品 |
カルシウム | 骨の主要構成成分 | 乳製品、小魚、緑黄色野菜 |
ビタミンD | カルシウムの吸収促進 | 魚介類、きのこ類、卵黄 |
膝の過去の怪我と変形性膝関節症
過去に膝の怪我を経験した人は、そうでない人に比べて将来的に変形性膝関節症を発症するリスクが高まることが知られています。
これを「二次性変形性膝関節症」と呼びます。どのような怪我が影響しやすいのでしょうか。
半月板損傷の既往歴
半月板は、膝関節の中でクッションの役割を果たす重要な軟骨組織です。スポーツや事故などで半月板を損傷すると、膝関節の衝撃吸収能力が低下し、関節軟骨への負担が増加します。
半月板損傷の治療を受けた後でも、長期的には変形性膝関節症に移行するリスクが残ることがあります。特に、半月板を切除する手術を受けた場合は、そのリスクが高まるとされています。
靭帯損傷の影響
膝関節には、前十字靭帯や後十字靭帯、内側側副靭帯、外側側副靭帯など、関節の安定性を保つための重要な靭帯があります。
これらの靭帯を損傷すると、膝関節が不安定になり、歩行時などに関節軟骨に異常なストレスがかかりやすくなります。
この状態が長く続くと、軟骨の摩耗が進行し、変形性膝関節症を引き起こす可能性があります。適切な治療とリハビリテーションが重要です。
骨折後の関節変化
膝関節周囲の骨折(大腿骨顆部骨折や脛骨高原骨折など)は、関節面に影響を及ぼすことがあります。
骨折が治癒しても、関節面の形状がわずかに変化したり、関節の適合性が悪くなったりすると、特定の部位に負荷が集中しやすくなり、将来的に変形性膝関節症を発症する原因となることがあります。
骨折治療後のリハビリで、関節機能の回復をしっかり行うことが大切です。
膝の代表的な怪我と変形性膝関節症への移行リスク
怪我の種類 | 主な原因 | 将来的な変形性膝関節症リスク |
---|---|---|
半月板損傷 | スポーツ時の捻り、ジャンプ着地など | 中~高(特に切除術後) |
前十字靭帯損傷 | スポーツ時の急停止、方向転換など | 中~高 |
関節内骨折 | 交通事故、転落など高エネルギー外傷 | 高 |
怪我の後の適切なケアの重要性
膝の怪我をした後は、初期の適切な治療はもちろんのこと、その後のリハビリテーションや長期的なフォローアップが非常に重要です。
怪我の種類や程度に応じて、筋力トレーニング、可動域訓練、バランス訓練などを行い、膝関節の機能を最大限に回復させることを目指します。
また、定期的に専門医の診察を受け、膝の状態を確認することも、二次性の変形性膝関節症の発症予防や早期発見につながります。
自己判断でリハビリを中断したり、無理な運動を再開したりすることは避けるべきです。
変形性膝関節症のサインを見逃さないために
変形性膝関節症は、早期に発見し、適切な対処を始めることで、症状の進行を遅らせることが期待できます。どのようなサインに注意すればよいのでしょうか。
こんな症状があったら要注意
以下のような症状が続く場合は、変形性膝関節症の可能性があります。一つでも当てはまる場合は、一度専門医に相談することを検討しましょう。
- 朝起きたときや、長時間座った後に立ち上がる際に膝がこわばる、または痛む。
- 歩き始めに膝が痛むが、しばらく歩くと楽になる。
- 階段の上り下り、特に下りる際に膝が痛む。
- 正座や深くしゃがみ込む動作が辛い、またはできない。
- 膝が腫れたり、熱感を持ったりすることがある。
- 膝を動かすと「ゴリゴリ」「ミシミシ」といった音がする。
これらの症状は、初期の段階では一時的なものとして見過ごされがちですが、重要なサインである可能性があります。
自己判断せずに専門医に相談する目安
「年のせいだろう」「そのうち治るだろう」と自己判断してしまうのは禁物です。
特に、痛みが2週間以上続く場合や、徐々に痛みが強くなっている場合、日常生活に支障が出始めている場合は、整形外科などの専門医を受診する目安と考えましょう。
また、上記の「要注意な症状」が複数当てはまる場合も、早めの相談をおすすめします。
専門医は、問診や視診、触診、そしてレントゲン検査などを用いて、膝の状態を正確に評価します。
診断の流れと検査方法
医療機関では、まず詳しい問診(いつから、どんな時に、どの程度痛むかなど)が行われます。その後、医師が膝の状態を直接見て、触って確認します(視診・触診)。
膝の腫れや熱感、圧痛点(押して痛む場所)、関節の動きの範囲、O脚などの変形の有無などを調べます。
画像検査としては、レントゲン(X線)検査が基本となります。レントゲンでは、関節軟骨のすり減り具合(関節の隙間の狭さ)、骨棘の有無、骨の変形などを評価します。
必要に応じて、MRI検査(軟骨や半月板、靭帯などの状態をより詳しく見るため)や関節液検査(炎症の程度や他の病気との鑑別のため)などが行われることもあります。
変形性膝関節症の進行度分類(ケルグレン・ローレンス分類の簡略版)
グレード | レントゲン所見の目安 | 主な自覚症状 |
---|---|---|
0 (正常) | 明らかな異常なし | なし、またはごく軽微 |
1 (疑い) | わずかな骨棘形成の疑い | 症状がないか、軽いこわばり |
2 (軽度) | 明らかな骨棘、関節裂隙の軽度狭小化の可能性 | 動き始めの痛み、軽い動作時痛 |
3 (中等度) | 中等度の骨棘、明らかな関節裂隙狭小化 | 持続的な痛み、可動域制限 |
4 (高度) | 大きな骨棘、著しい関節裂隙狭小化、骨硬化、骨嚢胞 | 安静時痛、著しい機能障害 |
※上記は一般的な目安であり、実際の診断は総合的に行われます。
早期発見・早期対処のメリット
変形性膝関節症を早期に発見し、適切な対処を開始することには多くのメリットがあります。まず、痛みを軽減し、日常生活の質を維持・向上させることが期待できます。
また、病気の進行を遅らせることで、将来的に手術が必要になるリスクを低減できる可能性もあります。
早期であれば、保存療法(運動療法、薬物療法、物理療法など)で症状をコントロールできる場合が多く、患者さん自身の負担も少なくて済みます。
膝の不調を感じたら、放置せずに早めに専門医の扉を叩く勇気が大切です。
よくある質問 (Q&A)
変形性膝関節症に関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
Q. 痛み止めだけで様子を見ても良いですか?
A. 痛み止めは一時的に症状を和らげる効果がありますが、変形性膝関節症そのものを治すわけではありません。痛みが軽減されると、つい無理をしてしまい、かえって膝に負担をかけてしまう可能性もあります。
痛み止めを使用する場合でも、必ず専門医の指示に従い、運動療法など他の治療法と組み合わせて行うことが重要です。自己判断で長期間使用し続けることは避け、定期的に医師の診察を受けましょう。
Q. サプリメントは効果がありますか?
A. グルコサミンやコンドロイチン、ヒアルロン酸などのサプリメントが膝の健康に良いという情報がありますが、現在のところ、これらのサプリメントが変形性膝関節症の進行を抑制したり、軟骨を再生させたりするという明確な科学的根拠は確立されていません。
効果を感じる人もいるかもしれませんが、個人差が大きいと考えられます。
サプリメントに頼りすぎるのではなく、まずはバランスの取れた食事を心がけ、医師に相談の上で、補助的なものとして考えるのが良いでしょう。
セルフケア方法の種類と注意点
ケア方法 | 期待できること | 注意点・ポイント |
---|---|---|
膝周りの筋力トレーニング | 膝関節の安定化、衝撃吸収 | 痛みがない範囲で、太もも前後の筋肉を鍛える |
ストレッチ | 関節可動域の維持、柔軟性向上 | ゆっくりと、反動をつけずに行う |
体重コントロール | 膝への負荷軽減 | バランスの取れた食事と適度な運動 |
膝の保温・冷却 | 血行促進(保温)、炎症抑制(冷却) | 慢性的な痛みには保温、急性炎症には冷却が一般的 |
Q. 自分でできる膝のケア方法はありますか?
A. はい、いくつかあります。まず、膝に負担をかけない生活習慣を心がけることが基本です。具体的には、体重コントロール、長時間の正座やあぐらを避ける、適切な靴を選ぶなどです。
また、膝周りの筋力を維持・向上させるための運動(太ももの筋肉を鍛える体操など)や、関節の柔軟性を保つためのストレッチも有効です。
ただし、痛みが強いときや、どのような運動が自分に適しているかわからない場合は、自己判断せず専門医や理学療法士に相談しましょう。
Q. どのタイミングで医療機関を受診すべきですか?
A. 膝の痛みが2週間以上続く場合、痛みが徐々に強くなっている場合、日常生活(歩行、階段昇降、立ち座りなど)に支障が出始めた場合は、医療機関(整形外科)を受診することをおすすめします。
また、膝が腫れたり、熱感があったり、明らかな変形が見られる場合も受診の目安です。
早期に診断を受け、適切なアドバイスや治療を受けることが、症状の悪化を防ぎ、より良い状態を保つために重要です。
以上
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