足立慶友医療コラム

股関節の炎症が引き起こす症状と治療方法

2025.07.24

股関節の痛みに悩んでいませんか?その痛み、もしかしたら股関節の「炎症」が原因かもしれません。

股関節は私たちの体を支え、歩く、座る、立つといった基本的な動作を可能にする重要な関節です。この部分に炎症が起きると、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。

この記事では、股関節の炎症がなぜ起こるのか、どのような症状が現れるのか、そしてご自身でできるセルフケアから専門的な治療法まで、詳しく解説します。

股関節の炎症とは何か?その基本的な理解

股関節の痛みや不調を感じたとき、「炎症」という言葉を耳にすることがあるかもしれません。

しかし、具体的にどのような状態を指すのか、正確に理解している方は少ないのではないでしょうか。

この部分では、股関節の構造と機能から説き起こし、なぜ炎症が発生するのかを分かりやすく説明します。

股関節の炎症がどのような状態なのかを理解することで、ご自身の症状と向き合うための基礎知識を得ることができます。

股関節の構造と役割

股関節は、骨盤の寛骨臼(かんこつきゅう)というくぼみに、大腿骨の先端にある球状の骨頭(こっとう)がはまり込む形をしています。

この構造は「球関節」と呼ばれ、非常に広い可動域を持つのが特徴です。これにより、私たちは脚を前後左右、そして回すといった複雑な動きができます。

関節の表面は、弾力性のある「関節軟骨」で覆われています。この軟骨は、衝撃を吸収するクッションの役割と、関節の動きを滑らかにする潤滑油のような役割を担っています。

そして、関節全体は「関節包(かんせつほう)」という袋状の組織で包まれており、その内側は「滑膜(かつまく)」で裏打ちされています。

滑膜からは関節液が分泌され、軟骨に栄養を与えたり、潤滑を助けたりしています。この精巧なつくりのおかげで、私たちは体重を支えながらもスムーズに活動できるのです。

炎症が起こる体の仕組み

そもそも「炎症」とは、体に異常が生じた際に起こる防御反応の一種です。

例えば、けがや細菌感染など、体に有害な刺激が加わると、その部分のダメージを最小限に食い止め、修復を促すために体が反応します。

この反応には、「発赤(ほっせき)」「熱感」「腫脹(しゅちょう)」「疼痛(とうつう)」といった兆候が伴うことが多く、これらを炎症の4主徴と呼びます。

炎症には、急激に症状が現れる「急性炎症」と、穏やかな症状が長く続く「慢性炎症」があります。急性炎症は、原因が取り除かれれば比較的短期間で治まります。

しかし、原因が取り除かれなかったり、体の修復機能がうまく働かなかったりすると、炎症が慢性化し、組織の変性や破壊がじわじわと進行してしまうことがあります。

股関節の悩みでは、この慢性炎症が問題となるケースが少なくありません。

股関節で炎症が起きやすい理由

では、なぜ股関節は炎症を起こしやすいのでしょうか。その理由はいくつか考えられます。

第一に、股関節は立っているだけでも体重を支え、歩行時にはその数倍もの負荷がかかる、体の中でも特に負担の大きい関節である点です。

このため、長年の使用によってクッション役の関節軟骨がすり減りやすいのです。軟骨がすり減ると、その破片が滑膜を刺激し、炎症を引き起こすことがあります。

また、加齢に伴う筋力の低下も一因です。股関節周りの筋肉が衰えると、関節を安定させる力が弱まり、歩行時の衝撃が直接関節に伝わりやすくなります。

このことも、炎症を誘発する要因となります。

股関節を構成する主要な組織

組織名主な役割炎症との関連
関節軟骨衝撃を吸収し、関節の動きを滑らかにする摩耗や損傷により生じた破片が滑膜を刺激し、炎症を引き起こす。
滑膜関節液を分泌し、関節の栄養や潤滑を担う軟骨の破片や自己免疫反応などにより、炎症(滑膜炎)を起こしやすい。
関節唇寛骨臼の縁にあり、関節を安定させる損傷すると痛みや炎症の原因となる。

股関節の炎症を引き起こす主な原因

股関節の炎症は、単一の原因ではなく、様々な要因が複雑に絡み合って発症します。加齢による自然な変化が関わることもあれば、特定の病気やけがが引き金になることもあります。

ここでは、代表的な原因をいくつか取り上げ、それぞれがどのようにして炎症につながるのかを掘り下げていきます。ご自身の生活習慣や体の状態と照らし合わせてみてください。

変形性股関節症

股関節の炎症を引き起こす最も一般的な原因が、変形性股関節症です。これは、長年の負荷によって関節軟骨がすり減り、骨の変形が生じる病気です。

軟骨がすり減る過程で生じた軟骨の微細な破片が、関節を包む滑膜を刺激します。この刺激により滑膜に炎症が起こり(滑膜炎)、痛みや関節液の過剰な分泌(水腫)を引き起こします。

日本では、生まれつき股関節の屋根(臼蓋)のかぶりが浅い「臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)」が原因で、若いうちから変形性股関節症を発症するケースが多いことが知られています。

関節リウマチなどの自己免疫疾患

関節リウマチは、免疫システムが誤って自分自身の組織を攻撃してしまう自己免疫疾患の一つです。関節リウマチの場合、攻撃の主な標的となるのが関節の滑膜です。

免疫細胞が滑膜を異物とみなして攻撃を仕掛けることで、滑膜に強い炎症が起こります。この炎症が持続すると、滑膜が増殖し、軟骨や骨を破壊していきます。

股関節だけでなく、手足の指など複数の関節で同時に症状が現れるのが特徴です。

スポーツや事故による外傷

スポーツ活動中の急な方向転換や、転倒・交通事故などの強い衝撃によって、股関節に外傷を負うことも炎症の原因となります。代表的なものに「股関節唇損傷」があります。

関節唇は、寛骨臼の縁を取り巻く軟骨組織で、関節を安定させる役割を担っています。これが損傷すると、痛みとともに炎症が生じます。

また、大腿骨頚部骨折などの骨折も、当然ながら強い急性炎症を引き起こします。

細菌感染による化膿性股関節炎

頻度は高くありませんが、非常に重篤な状態となるのが、細菌が関節内に侵入して起こる化膿性股関節炎です。

体内の他の場所で起きた感染症から細菌が血流に乗って股関節に到達する場合や、けがによって直接細菌が侵入する場合があります。

細菌に対して体の免疫系が激しく反応するため、強い痛み、高熱、腫れといった激しい急性炎症症状が現れます。

この状態は、迅速な治療を行わないと関節が短期間で破壊されてしまうため、緊急の対応が必要です。

日常生活に潜むリスク要因

リスク要因具体的な行動例股関節への影響
長時間の同一姿勢デスクワーク、立ち仕事、長距離運転関節内の血行が悪くなり、軟骨の栄養状態が低下する。
運動不足筋力低下、体重増加関節を支える力が弱まり、関節への直接的な負担が増加する。
不適切な靴の使用クッション性のない靴、ハイヒール地面からの衝撃が直接股関節に伝わりやすくなる。

股関節の炎症でみられる代表的な症状

股関節に炎症が起きると、痛みだけでなく、様々なサインが体に現れます。初期の段階では些細な変化かもしれませんが、見過ごしていると症状が進行してしまう可能性があります。

これらの症状に早期に気づくことが、悪化を防ぎ、適切な対処を始める上で非常に重要です。どのような症状があるのか、具体的に見ていきましょう。

痛みの特徴と現れる場所

股関節の炎症における最も代表的な症状は「痛み」です。初期には、立ち上がりや歩き始めなど、動き始めの際に足の付け根(鼠径部)に痛みを感じることが多いです。

これは「始動時痛」と呼ばれます。しばらく動いていると痛みが和らぐこともありますが、病状が進行すると、長時間歩いた後や、階段の上り下りなど、負荷がかかる動作で常に痛むようになります。

さらに悪化すると、何もしていない安静時にも痛む「安静時痛」や、夜眠れないほどの痛み「夜間痛」が現れることもあります。

また、痛みは足の付け根だけでなく、お尻や太ももの外側、さらには膝にまで放散することがあり、腰痛と間違われるケースも少なくありません。

可動域の制限

炎症が続くと、痛みから関節を動かさなくなったり、関節包が硬くなったりして、股関節の動きが悪くなります。

これを「可動域制限」といいます。具体的には、以下のような動作が困難になります。

  • 靴下を履く
  • 足の爪を切る
  • あぐらをかく
  • 和式トイレでしゃがむ

これらの動作がしにくくなったと感じたら、股関節に何らかの問題が起きているサインかもしれません。

初めはわずかな動かしにくさでも、進行すると脚が十分に開かなくなり、歩幅が狭くなるなど、歩行そのものにも影響が出てきます。

その他の随伴症状

痛みや可動域制限の他にも、いくつかの症状が見られることがあります。炎症が強い時期には、関節部分に腫れや熱っぽさを感じることがあります。

また、無意識に痛い方の脚をかばって歩くため、体が左右に揺れるような特徴的な歩き方(跛行)が見られるようになります。

関節リウマチなどの全身性の疾患が原因である場合は、股関節の症状に加えて、微熱や全身の倦怠感、食欲不振といった症状を伴うこともあります。

症状のセルフチェック

チェック項目解説
足の付け根(鼠径部)に痛みがあるか股関節の異常で最も多い痛みの場所です。
歩き始めや立ち上がりに痛むか変形性股関節症の初期によく見られる症状です。
靴下を履く、爪を切る動作が難しいか股関節の曲げ伸ばしや開く動きが制限されているサインです。

股関節の炎症に対する検査と診断

股関節の痛みの原因を突き止め、適切な治療方針を立てるためには、正確な診断が欠かせません。

医療機関では、患者さんからのお話をもとに、身体の診察や各種検査を組み合わせて総合的に判断します。

ここでは、股関節の炎症を診断するために行われる主な検査方法とその目的について解説します。

どのような検査で何が分かるのかを知っておくことで、安心して検査に臨むことができるでしょう。

医師による問診と身体所見

診断の第一歩は、医師による丁寧な問診です。

「いつから、どこが、どのように痛むのか」「どのような時に痛みが強くなるか」「過去のけがや病気の経験」「仕事やスポーツなどの生活習慣」といった情報を詳しく伝えることが重要です。この情報をもとに、医師は原因の見当をつけます。

次に、身体所見として、股関節の状態を直接確認します。

具体的には、目で見て腫れや変形がないかを確認(視診)し、患部を触って圧痛点や熱感がないかを調べ(触診)、実際に脚を動かしてどの範囲まで動くか、動かした際に痛みが出るかなどを評価します(可動域測定)。

画像検査

問診と身体所見で得られた情報をもとに、より詳しく関節内部の状態を調べるために画像検査を行います。代表的なものには以下の検査があります。

レントゲン(X線)検査

骨の状態を評価する基本的な検査です。関節の隙間(関節裂隙)の広さから軟骨のすり減り具合を推測したり、骨の変形(骨棘形成)や骨嚢胞の有無を確認したりします。

股関節の全体像を把握するために、立った状態と寝た状態で撮影することがあります。

MRI検査

磁気と電波を使って体の断面を撮影する検査です。レントゲンでは写らない関節軟骨や関節唇、筋肉、靭帯といった軟部組織の状態を非常に詳しく評価できます。

炎症による滑膜の増殖や、関節液の貯留(水腫)、骨内部の微細な変化(骨髄浮腫)なども捉えることができ、初期の変形性股関節症や関節唇損傷、大腿骨頭壊死症などの診断に極めて有用です。

超音波(エコー)検査

超音波を体に当て、その反響を画像化する検査です。

リアルタイムで関節の状態を観察できるのが特徴で、特に関節液が溜まっているか、滑膜に炎症が起きて血流が増加していないかなどを評価するのに役立ちます。

体に負担がなく、簡便に行える利点があります。

血液検査

関節リウマチなどの自己免疫疾患や、化膿性股関節炎が疑われる場合には、血液検査を行います。

体内の炎症の程度を示すCRP(C反応性タンパク)や赤沈(血沈)の数値を調べたり、関節リウマチに特有の自己抗体(リウマトイド因子や抗CCP抗体)の有無を確認したりします。

これらの検査は、診断の補助や、治療効果の判定に用いられます。

各画像検査の比較

検査方法主な評価対象特徴
レントゲン骨の形状、関節の隙間基本的な検査。被ばくはごく微量。軟骨自体は写らない。
MRI軟骨、関節唇、筋肉、骨髄軟部組織の情報が豊富。検査に時間がかかる。狭い場所が苦手な人は注意。
超音波関節液の貯留、滑膜の炎症リアルタイムで観察可能。体に負担がない。骨の内部は見えない。

股関節の炎症に対する治療法の選択肢

股関節の炎症に対する治療は、その原因、症状の重さ、年齢、そして患者さん自身の活動レベルやライフスタイルを総合的に考慮して決定します。

治療の主な目的は、痛みをコントロールし、炎症を鎮め、関節の機能を維持・改善することです。

ここでは、大きく分けて「保存療法」と「手術療法」の二つのアプローチについて、具体的な治療法の選択肢を紹介します。

保存療法

多くの場合、まずは体に負担の少ない保存療法から治療を開始します。これは、手術以外の方法で症状の改善を目指すアプローチです。

薬物療法

痛みの主な原因である炎症を抑えるために薬を使用します。まずは、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)の飲み薬や貼り薬、塗り薬が用いられることが一般的です。

胃腸障害などの副作用に注意しながら使用します。痛みが強い場合には、関節内に直接注射を行うこともあります。

関節の潤滑を助けるヒアルロン酸注射や、強力な抗炎症作用を持つステロイド注射が選択されます。

運動療法(リハビリテーション)

保存療法の中心となるのが運動療法です。痛いからといって動かさないでいると、関節周りの筋力が低下し、関節が硬くなってしまいます。

この悪循環を断ち切るために、専門家の指導のもとで適切な運動を行います。

股関節周りの筋力(特に殿筋群)を強化する訓練や、硬くなった筋肉をほぐすストレッチ、関節の動きを良くするための可動域訓練などを、痛みのない範囲で継続することが重要です。

このことにより、関節の安定性が増し、負担が軽減されます。

物理療法

物理療法は、温熱や電気などの物理的なエネルギーを利用して、痛みの緩和や血行改善を図る治療法です。

ホットパックなどで患部を温める温熱療法や、低周波の電気を流す電気刺激療法などがあり、運動療法と組み合わせて行われることが多いです。

生活習慣の改善指導

薬やリハビリと並行して、日常生活における股関節への負担を減らす工夫も非常に大切です。

体重が重いと股関節への負担が大きくなるため、適正体重を維持するための食事指導や体重コントロールが求められます。

また、杖を使用することで、痛い方の股関節にかかる負担を大幅に軽減できます。

その他、床に座る和式の生活から椅子やベッドを使う洋式の生活へ切り替える、重い荷物を持たないようにするなど、具体的な動作指導も行います。

手術療法

保存療法を数ヶ月続けても症状が改善しない場合や、変形が進行して日常生活に著しい支障が出ている場合には、手術療法が検討されます。

代表的な手術には、自分の骨を活かして関節の形を整える「骨切り術」や、傷んだ関節を金属やポリエチレンなどでできた人工の関節に置き換える「人工股関節置換術」があります。

近年では、関節鏡という内視鏡を使った低侵襲な手術も行われるようになっています。

保存療法の主な目的

治療法主な目的
薬物療法痛みと炎症の直接的な抑制
運動療法関節の安定化と機能改善
生活習慣改善股関節への物理的な負担軽減

自宅でできる股関節の炎症対策とセルフケア

医療機関での専門的な治療と並行して、日常生活の中でご自身でできるケアも症状の緩和にはとても大切です。

日々の少しの工夫や心がけが、股関節への負担を減らし、痛みをコントロールする上で大きな力となります。

ここでは、無理のない範囲で毎日の生活に取り入れられる、具体的なセルフケア方法を紹介します。

痛みを悪化させないための注意点

まずは、股関節に過度な負担をかけないように意識することが基本です。特に以下の点に注意しましょう。

  • 長時間の立ち仕事や歩行、同じ姿勢でのデスクワークを避ける。
  • 重いものを持つ際は、カートを利用するなど工夫する。
  • 体が冷えると血行が悪くなり、痛みを感じやすくなるため、夏場の冷房対策や冬場の防寒を心がける。

これらの注意点を守ることで、不要な痛みの発生を防ぎ、炎症の悪化を食い止めることにつながります。

股関節に優しいストレッチ

痛みのない範囲で関節を動かし、周りの筋肉の柔軟性を保つことは非常に重要です。硬くなった筋肉は関節の動きを妨げ、さらなる痛みの原因となります。

ただし、無理は禁物です。気持ち良いと感じる範囲で、ゆっくりと行いましょう。

お尻周りの筋肉をほぐすストレッチ

仰向けに寝て、片方の膝を両手で抱え、ゆっくりと胸に引き寄せます。お尻の筋肉が伸びているのを感じながら、20〜30秒キープします。これを左右交互に行います。

股関節の回旋ストレッチ

椅子に浅く腰掛け、片方の足首を反対側の膝の上に乗せます。背筋を伸ばしたまま、ゆっくりと体を前に倒していくと、お尻から太ももの外側にかけて伸びを感じます。

このストレッチも、痛みが出ないように注意深く行いましょう。

筋力を維持するための簡単な運動

股関節を安定させるためには、お尻や太ももの筋力を維持することが大切です。

プールの中で歩く水中ウォーキングは、浮力によって股関節への負担を減らしながら、効果的に筋力と持久力を高めることができるため、特におすすめの運動です。

お尻の筋力トレーニング

うつ伏せになり、片方の膝を90度に曲げます。その状態から、かかとを天井に向かってゆっくりと持ち上げ、お尻の筋肉が収縮するのを感じたら、ゆっくりと下ろします。

この運動を左右それぞれ10回程度繰り返します。

日常生活での動作のポイント

場面推奨される動作や工夫解説
椅子からの立ち座り机や手すりに手をつき、腕の力も使って立つ。股関節への急激な負荷を避けることができます。
入浴浴槽内に滑り止めマットや椅子を設置する。転倒を防止し、またぐ動作の負担を軽減します。
靴を履くとき長い靴べらを使用するか、椅子に座って履く。深くかがむ動作は股関節に大きな負担をかけます。

よくある質問

最後に、股関節の炎症に関して多くの方が抱く疑問について、Q&A形式でお答えします。ただし、ここに記載する内容は一般的な情報です。

ご自身の症状に関する具体的な相談は、必ず医療機関の専門家にお尋ねください。

Q. 股関節がポキポキ鳴るのは炎症のサインですか?

A. 股関節を動かしたときに音が鳴る現象は、必ずしも異常や炎症のサインとは限りません。

「弾発股(だんぱつこ)」といって、関節の周りにある筋肉や腱が、骨の出っ張りに引っかかって弾かれるときに鳴ることが多いです。

痛みを伴わない場合は、特に心配する必要はありません。

しかし、音が鳴る際に痛みや違和感がある場合や、以前より音が大きくなったり頻繁になったりする場合は、関節内で何らかの問題が起きている可能性も考えられるため、一度専門家に相談することをお勧めします。

Q. 湿布は温かいものと冷たいもの、どちらが良いですか?

A. 湿布の使い分けは、症状の時期によって考えると良いでしょう。転んだ直後や急に強い痛みが出たときなど、熱感や腫れがある「急性期」には、炎症を鎮める目的で冷湿布が適しています。

一方、長引く鈍い痛みで、動かすと楽になるような「慢性期」には、温湿布で血行を促進することで痛みが和らぐことがあります。

ただし、これはあくまで一般的な目安です。ご自身が心地よいと感じる方を優先して使用しても問題ありません。どちらを使うべきか迷う場合は、薬剤師や医師に相談してください。

Q. サプリメントは効果がありますか?

A. 股関節の健康をサポートするとされるサプリメントには、グルコサミンやコンドロイチン、ヒアルロン酸などがあります。これらは関節軟骨の構成成分であり、その補給が期待されています。

しかし、これらのサプリメントを摂取することによる明確な痛み改善や軟骨再生効果については、科学的な結論が出ていないのが現状です。

治療の基本は、あくまで運動療法、薬物療法、生活習慣の改善といった、効果が確立された方法です。

サプリメントは、これらの治療を補う補助的な位置づけと考え、使用する際は過度な期待をせず、かかりつけの医師や薬剤師に相談の上で判断することが賢明です。

Q. どのような運動を避けるべきですか?

A. 股関節に炎症や痛みがある場合、関節に強い衝撃やひねりが加わる運動は、症状を悪化させる可能性があるため避けるべきです。具体的には、以下のような運動が挙げられます。

  • ランニングやジョギング
  • ジャンプを多用するスポーツ(バレーボール、バスケットボールなど)
  • 急な方向転換を伴うスポーツ(サッカー、テニスなど)
  • 深くしゃがみ込む動作(スクワットなど)

運動を始める前や、新しいスポーツに挑戦する際には、自己判断せず、リハビリの専門家や医師に相談することが大切です。

治療法に関する質問

質問回答のポイント
Q. すぐに手術をした方が良いですか?A. いいえ、多くの場合、まずは保存療法を十分に行います。手術は、保存療法で改善が見られず、痛みによって生活の質(QOL)が著しく低下している場合の選択肢です。
Q. リハビリはどのくらいの期間続ければ良いですか?A. 症状や目的によって期間は異なりますが、筋力や柔軟性の維持は長期的な視点が必要です。生活の一部として、無理なく続けられる運動習慣を身につけることが理想です。
Q. 注射は癖になりますか?A. ヒアルロン酸注射は体の成分なので癖になることはありません。ステロイド注射は強力ですが、頻繁な使用は副作用のリスクがあるため、医師が計画的に間隔を空けて行います。

以上

参考文献

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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