足立慶友医療コラム

股関節の臼蓋における形態異常と治療方針

2025.07.22

股関節は、私たちの「歩く」「立つ」「座る」といった基本的な動作を支える、体の中で最も大きな関節です。

この重要な関節の一部である「臼蓋(きゅうがい)」は、大腿骨の先端(大腿骨頭)を受け止めるお皿のような役割を担っています。

しかし、この臼蓋の形に生まれつき異常があると、将来的に痛みや歩行障害の原因となることがあります。

この記事では、股関節の臼蓋に焦点を当て、その形態異常、特に「臼蓋形成不全」がどのような状態であり、どのような症状を引き起こすのかを詳しく解説します。

また、診断方法から、ご自身の関節を守るための保存的治療、そして必要に応じた手術的治療まで、治療方針の全体像を分かりやすく紹介します。

股関節と臼蓋の基本的な構造

私たちの体を支え、活動的な毎日を可能にする股関節は、非常に精巧なつくりをしています。その中でも「臼蓋」は、股関節の安定性と滑らかな動きを保つ上で中心的な役割を果たします。

ここでは、股関節の基本的な仕組みと、臼蓋が持つ重要な機能について見ていきましょう。

股関節を構成する骨と軟骨

股関節は、骨盤側の「寛骨臼(かんこつきゅう)」と、太ももの骨である「大腿骨」の先端にある球状の「大腿骨頭(だいたいこっとう)」によって構成される関節です。

寛骨臼の中でも、特に大腿骨頭の受け皿として機能する部分を「臼蓋」と呼びます。

これらの骨の表面は、衝撃を吸収し、動きを滑らかにするための「関節軟骨」という弾力性のある組織で覆われています。

この関節軟骨のおかげで、私たちは体重がかかった状態でもスムーズに股関節を動かすことができるのです。

臼蓋の役割と重要性

臼蓋の最も大切な役割は、大腿骨頭をしっかりと包み込み、股関節を安定させることです。

深いお椀がボールを安定して支えるように、正常な臼蓋は大腿骨頭の大部分を覆い、歩行時や走行時にかかる大きな力が加わっても、骨頭がずれたり外れたりしないように支えています。

この安定性があるからこそ、私たちは体重を預けて力強く地面を蹴り出すことができます。

臼蓋による適切な支持がなければ、股関節は不安定になり、周囲の軟骨や組織に過剰な負担がかかってしまいます。

臼蓋の正常な形状とは

正常な臼蓋は、大腿骨頭を適切に覆うだけの深さと広がりを持っています。この「被り具合」は、股関節の健康を評価する上で非常に重要な指標となります。

被りが浅すぎると関節が不安定になり、逆に深すぎても動きの妨げになることがあります。

医師はレントゲン画像を用いて、この被りの程度を客観的な角度で計測し、臼蓋の形状が正常範囲内にあるかどうかを評価します。

臼蓋の形状を評価する指標

指標の名称評価する内容簡単な説明
CE角 (Center-Edge Angle)臼蓋の外側の被り具合大腿骨頭の中心と臼蓋の外端を結ぶ線がなす角度。小さいと被りが浅いことを示す。
Sharp角臼蓋の傾き具合臼蓋の屋根部分(臼蓋底)の傾斜を示す角度。大きいと臼蓋が傾いていることを示す。
VCA角臼蓋の前方の被り具合関節の前方での安定性に関わる指標。

関連する靭帯と筋肉

股関節の安定性は、骨の形状だけで決まるわけではありません。関節を包む「関節包」や、それを補強する強靭な「靭帯」が、骨同士を強固に結びつけています。

さらに、お尻の筋肉(殿筋群)や太ももの筋肉などが、股関節を動かすだけでなく、動的な安定性を高める役割も担っています。

これらの筋肉が適切に機能することで、臼蓋にかかる負担を分散させ、関節を保護することにつながります。

臼蓋の形態異常「臼蓋形成不全」とは

股関節の痛みの原因として、特に日本人女性に多く見られるのが「臼蓋形成不全」です。

これは臼蓋の形状に先天的な異常がある状態で、多くの場合は自覚症状がないまま過ごし、後年になってから問題が明らかになります。

ここでは、臼蓋形成不全の定義や原因、そして将来的なリスクについて掘り下げていきます。

臼蓋形成不全の定義

臼蓋形成不全とは、大腿骨頭に対する臼蓋の被りが不十分で、屋根が浅くなっている状態を指します。

正常な股関節では、臼蓋が屋根のように大腿骨頭を深く覆っていますが、臼蓋形成不全ではその屋根が小さく、傾斜が急になっています。

このため、体重を支える面積が狭くなり、関節軟骨の特定の部分に荷重が集中してしまいます。この状態は、関節の不安定性を引き起こし、軟骨がすり減りやすくなる大きな要因となります。

臼蓋形成不全の主な原因

臼蓋形成不全の主な原因は、生まれつきの骨の発育の問題、つまり先天的な要因と考えられています。家族に股関節の悪い方がいる場合など、遺伝的な背景が関与することもあります。

また、出生後の環境要因として、乳児期に股関節を無理に伸ばすようなおむつの当て方や抱き方をすることも、正常な発育を妨げる一因となる可能性が指摘されています。

赤ちゃんの股関節が自然なM字型に開くのを妨げないようにすることが、健全な発育には大切です。

年齢による症状の変化

臼蓋形成不全があっても、多くの人は若年期には特に症状を感じません。これは、若いうちは軟骨や筋肉がしっかりしており、形態的な問題をカバーできているためです。

しかし、年齢を重ね、体重の増加や筋力の低下、長年の負担の蓄積などが加わると、徐々に症状が現れ始めます。

思春期頃に激しいスポーツなどをきっかけに痛みを感じる人もいれば、30代から40代、あるいは更年期以降に日常生活での痛みとして自覚する人もいます。

年代別の主な症状の傾向

年代主な症状や状態解説
10代〜20代無症状または運動時の違和感多くは無症状。激しい運動後にだるさや軽い痛みを感じることがある。
30代〜40代立ち上がりや歩き始めの痛み軟骨の摩耗が始まり、初期の変形性股関節症の症状が出始めることがある。
50代以降持続的な痛み、可動域制限変形性股関節症が進行し、安静時にも痛みを感じたり、動きが制限されたりする。

臼蓋形成不全と変形性股関節症の関係

臼蓋形成不全は、それ自体が直接的な痛みの原因になることもありますが、より大きな問題は、将来的に「変形性股関節症」へと進行するリスクが非常に高いことです。

臼蓋の被りが浅いと、体重を支える接触面が狭くなるため、単位面積あたりの圧力が非常に高くなります。

この過剰な圧力が長年にわたって関節軟骨に加わり続けることで、軟骨がすり減り、骨の変形(骨棘の形成など)が進んでしまうのです。

日本における変形性股関節症の原因の約8割は、この臼蓋形成不全が背景にあると言われています。

臼蓋の形態異常によって生じる症状

臼蓋の形態異常があると、股関節にはどのようなサインが現れるのでしょうか。初期の些細な違和感から、生活に支障をきたすほどの強い痛みまで、症状は段階的に進行することが一般的です。

ご自身の状態と照らし合わせながら、症状の具体的な内容を確認していきましょう。

初期に現れるサイン

最も初期に現れる症状は、痛みよりも「だるさ」や「疲労感」であることが多いです。長時間歩いた後や、立ち仕事が続いた後に、股関節の周りや太ももの付け根が重く感じられます。

また、あぐらをかこうとしたり、靴下を履こうと足を曲げたりした際に、付け根に詰まるような感じや違和感を覚えることもあります。

この段階では、少し休むと症状が和らぐため、見過ごされがちです。

症状が進行した場合の変化

臼蓋形成不全を基盤として変形性股関節症が進行すると、症状はより明確になります。

まず、立ち上がる時や歩き始める時など、動作の開始時に「キリッ」とした鋭い痛みを感じるようになります。これを「始動時痛」と呼びます。

さらに進行すると、痛みが持続するようになり、安静にしていてもジンジンと痛む「安静時痛」や、夜間に痛みで目が覚める「夜間痛」が現れることもあります。

同時に、関節の動きも悪くなり、股関節が開きにくくなったり、深く曲げられなくなったりする「可動域制限」が顕著になります。

日常生活への具体的な影響

股関節の症状は、日常生活の様々な場面で困難をもたらします。痛みが強くなると、長い距離を歩くのがつらくなり、外出がおっくうになるかもしれません。

階段の上り下りでは、手すりがないと不安を感じるようになります。和式のトイレや床からの立ち座りは、特に強い痛みを伴う動作です。

爪切りや靴下の着脱、足先の清掃といった、股関節を深く曲げる動作も難しくなります。

影響が出やすい日常生活動作

動作具体的な困難さ理由
歩行長距離歩けない、足を引きずる体重がかかるたびに痛みが生じるため。
階段昇降手すりが必要、一段ずつしか進めない片足に全体重を乗せて体を持ち上げるため。
立ち座り特に低い椅子や床からはつらい股関節を深く曲げ、強い力が必要なため。

痛み以外の症状

痛みが主な症状ですが、それ以外にも変化が現れることがあります。痛い方の足をかばって歩くことで、びっこを引くような歩き方、いわゆる「跛行(はこう)」が見られるようになります。

これは、痛い足に体重がかかる時間を無意識に短くしようとするためです。また、関節の炎症が強い時期には、股関節の周りが腫れたり、熱っぽく感じたりすることもあります。

臼蓋形態異常の検査と診断方法

股関節の不調を感じて医療機関を受診した場合、正確な状態を把握するためにいくつかの検査を行います。

医師による診察から始まり、画像診断を組み合わせて総合的に判断することで、適切な治療方針を立てることができます。ここでは、診断に至るまでの一般的な検査の流れを解説します。

医師による問診と身体所見

診断の第一歩は、患者さんから詳しくお話を聞く「問診」です。

いつから、どこが、どのように痛むのか、どのような時に痛みが強くなるのか、日常生活で困っていることは何か、といった情報を丁寧に聞き取ります。

その後、医師が直接股関節の状態を診る「身体所見」を行います。股関節を動かして、どの角度で痛みが出るか、どのくらい動くか(可動域)を確認します。

また、特徴的な痛みや動きの制限を誘発するテスト(徒手検査)を行い、痛みの原因を探ります。

画像診断の基本「レントゲン検査」

股関節の診断において、レントゲン(X線)検査は最も基本的で重要な検査です。

立った状態で体重をかけた時の骨の状態を見ることで、臼蓋の被りの程度(臼蓋形成不全の有無)や、大腿骨頭との隙間(関節軟骨の厚み)、骨の変形(骨棘)の有無などを評価します。

この検査により、CE角などの指標を計測し、臼蓋の形態を客観的に評価することが可能です。変形性股関節症の進行度も、主にレントゲン所見によって分類します。

より詳細な情報を得るための画像診断

レントゲン検査だけでは分からない情報を得るために、追加の画像診断を行うことがあります。

MRI検査は、レントゲンでは写らない関節軟骨や、その周辺にある関節唇(かんせつしん)という軟部組織の状態を詳しく見るのに優れています。

CT検査は、骨の立体的な形状や骨棘の位置などをより詳細に把握するのに役立ちます。これらの検査は、特に手術を検討する際に、より正確な情報を得るために重要となります。

各画像診断でわかること

検査方法主な評価項目特徴
レントゲン検査骨の形状、関節の隙間、骨棘基本的な情報を得るための第一選択の検査。
MRI検査関節軟骨、関節唇、筋肉、靭帯軟部組織の描出に優れ、初期の変化を捉えやすい。
CT検査骨の立体構造、骨折、骨嚢胞骨を3次元的に詳細に評価できる。

鑑別が必要な他の疾患

股関節周辺の痛みの原因は、臼蓋形成不全や変形性股関節症だけではありません。

例えば、腰の神経が圧迫されて起こる腰椎疾患(椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症)でも、お尻や太ももに痛みやしびれが出ることがあります。

また、大腿骨頭への血流が悪くなる大腿骨頭壊死症や、スポーツ選手に多い疲労骨折なども、股関節痛の原因となります。

これらの他の疾患の可能性も考慮し、慎重に診断を進めることが大切です。

形態異常に対する保存的治療

臼蓋の形態異常や、それに伴う初期の変形性股関節症と診断された場合、すぐに手術が必要になるわけではありません。

多くの場合、まずは手術以外の方法で症状を和らげ、病気の進行を緩やかにすることを目指します。これを「保存的治療」と呼び、日常生活の工夫、運動、薬物療法が三つの柱となります。

日常生活での注意点と工夫

保存的治療の基本は、股関節への負担を減らすことです。日々の生活習慣を見直すだけでも、痛みの軽減につながります。特に重要なのが体重管理です。

体重が1kg増えるだけで、歩行時には股関節にその3〜4倍の負荷がかかると言われています。適正体重を維持することは、最も効果的な負担軽減策の一つです。

また、床に座る、正座する、和式トイレを使用するといった動作は股関節に大きな負担をかけるため、椅子やベッド、洋式トイレを中心とした洋式の生活スタイルへ変更することを推奨します。

股関節への負担を減らす工夫

  • 痛みが強い時は杖を使用する
  • 重い物を持たない、台車などを利用する
  • 長時間の立ち仕事や歩行を避ける
  • クッション性の良い靴を選ぶ

運動療法の目的と内容

痛いからといって動かさないでいると、関節周りの筋肉が衰え、関節が硬くなり、かえって症状を悪化させてしまいます。

適切な運動療法は、筋力を維持・向上させて股関節を安定させ、痛みを和らげる効果が期待できます。重要なのは、股関節に体重の負荷をかけすぎない運動を選ぶことです。

プールの中で歩く水中ウォーキングや、エアロバイク(自転車こぎ)は、関節への負担が少なく、筋力強化と持久力向上に効果的です。

また、股関節周りの筋肉をゆっくり伸ばすストレッチも、関節の動きを滑らかに保つために大切です。

推奨される運動と期待される効果

運動の種類具体的な運動例期待される効果
筋力トレーニング仰向けでの足上げ、お尻上げ股関節の安定性向上、負担の分散
有酸素運動水中ウォーキング、自転車体重管理、心肺機能の向上
ストレッチお尻や太ももの筋肉を伸ばす関節可動域の維持・改善、筋肉の柔軟性向上

薬物療法による痛みの管理

痛みが強く、日常生活に支障が出ている場合には、薬物療法を併用します。主に使われるのは、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の飲み薬や貼り薬、塗り薬です。

これらの薬は、炎症を抑えて痛みを和らげる効果があります。ただし、胃腸障害などの副作用の可能性もあるため、医師の指示に従って正しく使用することが重要です。

また、関節の潤滑油のような役割を期待して、関節内にヒアルロン酸の注射を行うこともあります。

これらの薬物療法は、あくまで痛みをコントロールするための対症療法であり、病気の根本を治すものではないことを理解しておく必要があります。

手術的治療の選択肢と判断基準

保存的治療を続けても痛みが改善せず、日常生活に大きな支障が生じている場合には、手術的治療が検討されます。

手術には、ご自身の関節を温存する方法と、人工の関節に置き換える方法があります。どちらの方法を選択するかは、年齢や活動性、関節の状態などを総合的に考慮して、慎重に決定します。

手術を検討するタイミング

手術に踏み切るべきかどうかの判断は、レントゲン写真の悪化具合だけで決めるものではありません。最も重要なのは、「患者さん自身が痛みによってどのくらい困っているか」です。

例えば、「痛みのために仕事や趣味を続けられない」「夜も眠れないほど痛い」「杖なしでは外出できない」といった状況であれば、手術を前向きに考える時期かもしれません。

年齢や今後のライフプラン、仕事の内容なども含めて、医師と十分に話し合い、納得のいくタイミングで決断することが大切です。

骨切り術の種類と特徴

骨切り術は、比較的若く、まだ関節軟骨が多く残っている患者さんに対して行われることが多い、自分の関節を温存する手術です。

臼蓋形成不全に対しては、骨盤の骨を切って臼蓋を移動させ、大腿骨頭への被りを良くする「寛骨臼回転骨切り術(RAO)」や「骨盤骨切り術(PAOなど)」が代表的です。

この手術の利点は、自分の関節が残るため、術後の活動制限が少なく、スポーツなども含めた高い活動性を維持できる可能性があることです。

一方で、リハビリ期間が比較的長く、骨が癒合するまでには時間が必要です。

主な骨切り術の比較

手術名(略称)主な対象年齢手術の目的
寛骨臼回転骨切り術 (RAO)20代〜40代臼蓋を回転させ、前外方の被りを改善する。
骨盤骨切り術 (PAOなど)10代〜40代臼蓋を含む骨盤の一部を切り、より立体的に移動させる。

人工股関節置換術(THA)

人工股関節置換術(Total Hip Arthroplasty, THA)は、すり減って変形した関節の表面を取り除き、金属やセラミック、ポリエチレンなどでできた人工の関節(インプラント)に置き換える手術です。

この手術の最大の利点は、痛みの原因となる部分そのものを除去するため、非常に高い除痛効果が期待できることです。

また、術後の回復も比較的早く、早期の社会復帰が可能です。

主に変形性股関節症が進行した高齢の患者さんに行われますが、近年ではインプラントの耐久性が向上したため、より若い世代にも適用されるケースが増えています。

手術方法の選択における重要事項

骨切り術と人工股関節置換術のどちらを選ぶかは、非常に重要な決断です。

その判断は、様々な要素を考慮して行います。例えば、年齢が若く活動性が高い方で、軟骨の状態が良ければ、自分の関節を温存できる骨切り術が良い選択肢となる可能性があります。

一方で、変形がかなり進んでおり、とにかく早く痛みから解放されたいと望む方には、人工股関節置換術が適しているかもしれません。

最終的には、それぞれのメリット・デメリットを医師から十分に説明してもらい、自身の価値観や生活スタイルに合った方法を選択することが重要です。

手術選択の考慮点

考慮する点判断への影響解説
年齢若い場合は骨切り術を優先的に検討人工関節の耐用年数を考慮し、再手術の可能性を避けるため。
活動量高い活動性を望む場合は骨切り術も選択肢人工関節では脱臼のリスクなどから一部動作に注意が必要なため。
関節の状態変形が高度な場合は人工股関節軟骨がほぼなくなり骨同士がぶつかる状態では骨切り術の効果は限定的。

よくある質問(Q&A)

最後に、臼蓋の形態異常や股関節の治療に関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。ご自身の疑問や不安の解消に役立ててください。

Q. 症状がなくても治療は必要ですか?

A. レントゲン検査で臼蓋形成不全を指摘されても、全く症状がない場合は、すぐに積極的な治療を開始する必要はありません。

しかし、将来的に変形性股関節症へ進行するリスクがあることは事実です。

そのため、股関節に負担をかけない生活習慣(体重管理、適切な靴選びなど)を心がけ、股関節周りの筋力を維持する運動を続けることが大切です。

また、症状がなくても定期的に医療機関で検診を受け、関節の状態を確認していくことをお勧めします。

Q. どのようなスポーツを避けるべきですか?

A. 股関節に形態異常がある場合、ジャンプや着地、急な方向転換を繰り返すような、関節に強い衝撃やひねりが加わるスポーツは、症状を悪化させる可能性があるため注意が必要です。

一方で、水泳や自転車のように、関節への負担が少ないスポーツは、筋力維持や全身の健康のために推奨されます。

どのようなスポーツなら可能か、どの程度までなら問題ないかは、個人の関節の状態によって異なりますので、専門医に相談することが望ましいです。

股関節への負担度によるスポーツ分類

負担度スポーツの例注意点
サッカー、バスケットボール、バレーボール、マラソンジャンプや急な切り返しが多い。
テニス、ゴルフ、軽いジョギング体のひねりや、ある程度の衝撃が加わる。
水泳、水中ウォーキング、自転車体重の負荷が少なく、関節に優しい。

Q. サプリメントは効果がありますか?

A. 関節に良いとされるサプリメントとして、グルコサミンやコンドロイチン、ヒアルロン酸などが市販されています。

これらの成分が関節の健康に役立つ可能性はありますが、すり減った軟骨を再生させたり、変形した骨を元に戻したりするような、病気を根本的に治す効果は科学的に証明されていません。

あくまで健康食品の一つとして捉え、治療の基本である生活習慣の改善や運動療法を疎かにしないことが重要です。使用する場合は、主治医に相談することをお勧めします。

Q. 手術後のリハビリはどのくらいかかりますか?

A. 手術後のリハビリテーションの期間は、行った手術の種類や個人の回復力によって大きく異なります。

一般的に、骨切り術の場合は、切った骨が癒合するまでの期間、体重をかけることを制限する必要があるため、リハビリ期間は長くなる傾向にあります。

松葉杖を使う期間も数ヶ月に及ぶことがあります。一方、人工股関節置換術の場合は、手術の翌日から歩行訓練を開始することが多く、入院期間も比較的短く、社会復帰も早いのが特徴です。

いずれの手術においても、専門の理学療法士の指導のもと、焦らず着実にリハビリを進めることが、良好な術後成績を得るために大切です。

以上

参考文献

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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