足立慶友医療コラム

骨頭壊死の早期発見と進行予防のための対策

2025.08.22

股関節に突然、あるいは持続的な痛みを感じると、日常生活に大きな不安を覚えるものです。

特に「大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)」という病名は、その響きから深刻な印象を受けるかもしれません。

この病気は、太ももの付け根にある大腿骨の先端部分(骨頭)への血の巡りが悪くなることで、骨の組織が死んでしまう状態を指します。

進行すると骨が潰れてしまい、強い痛みや歩行の困難につながることがあります。

しかし、早い段階でご自身の状態を正しく知り、適切な対策を講じることで、病気の進行を穏やかにし、股関節の機能を長く保つことも期待できます。

この記事では、大腿骨頭壊死症の基本的な知識から、早期発見の重要性、そして進行を予防するために日常生活でできる工夫まで、分かりやすく解説します。

大腿骨頭壊死症とはどのような病気か

大腿骨頭壊死症について理解を深めることは、不安を和らげ、今後の対策を考える上での第一歩となります。

この病気は、骨がもろくなる骨粗しょう症とは異なり、骨への血流が途絶えることで骨組織が死んでしまう(壊死する)という特徴があります。

血が通わなくなった骨は強度を失い、体重がかかることで徐々に潰れてしまうことがあります。ここでは、この病気の基本的な性質について詳しく見ていきましょう。

骨が「壊死」するとはどういうことか

私たちの体の骨は、絶えず新陳代謝を繰り返しています。古い骨は壊され、新しい骨が作られることで、骨の強度や健康が保たれています。

この新陳代謝には、栄養や酸素を運ぶ血液の流れが欠かせません。大腿骨頭壊死症は、大腿骨頭へ向かう血管が何らかの理由で詰まったり、血流が著しく減少したりすることで起こります。

血流が途絶えると、骨の細胞は栄養や酸素を受け取れなくなり、活動を停止して死んでしまいます。これが「骨壊死」です。

壊死した範囲が小さい場合は症状が出ないこともありますが、広範囲に及ぶと骨の強度が保てなくなります。

血流障害が根本的な問題

大腿骨頭は、限られた数の血管からしか血液の供給を受けていないため、もともと血流障害が起こりやすい部位です。

股関節を脱臼したり、骨折したりといった怪我で血管が損傷して発症することもありますが、多くの場合は明らかな怪我なく発症します。

血流がなぜ悪くなるのか、そのはっきりとした理由はまだ完全には解明されていません。

しかし、後述するいくつかの危険因子が、骨頭内の細い血管の流れを滞らせる一因になると考えられています。

進行性の病気としての特徴

大腿骨頭壊死症は、一度発症すると壊死した骨が自然に元通りになることは難しい、進行性の病気です。壊死が起きてもすぐには症状が出ず、数ヶ月から数年かけてゆっくりと進行します。

進行の過程は、壊死の発生、骨頭の強度低下、そして体重負荷による骨頭の圧潰(つぶれ)、最終的には関節の変形という流れをたどります。

進行の速さには個人差が大きく、すべての方が圧潰に至るわけではありません。早期に発見し、股関節への負担を減らす生活を送ることが、進行を遅らせる上でとても重要です。

#### 病気の進行段階

進行ステージ主な状態自覚症状の目安
ステージ1壊死が発生した初期。骨頭の形は正常。無症状の場合が多い。
ステージ2壊死部分の修復反応が起きる。骨頭の形は正常。痛みを感じ始めることがある。
ステージ3壊死部分に体重がかかり、骨頭の一部が潰れ始める。痛みが強くなり、動きに制限が出る。
ステージ4骨頭の圧潰が進行し、関節の隙間が狭くなる。常に痛みがあり、歩行が困難になる。

壊死の範囲と場所が予後を左右する

大腿骨頭壊死症の進行度合いや将来的な見通し(予後)は、壊死が起きた範囲の広さと場所によって大きく影響を受けます。

特に、体重が最もかかる骨頭の上前方に広範囲の壊死があると、骨が潰れやすく、症状が進行しやすい傾向があります。

逆に、壊死の範囲が狭く、体重のかかりにくい場所にとどまっている場合は、生涯にわたって大きな問題なく過ごせることも少なくありません。

MRIなどの画像検査によって壊死の範囲と場所を正確に把握することが、今後の見通しを立てる上で大切です。

なぜ大腿骨頭壊死症が起こるのか?主な原因と危険因子

大腿骨頭壊死症は、大腿骨頭への血流が不足することで発症しますが、その血流障害を引き起こす原因は多岐にわたります。

明らかな原因がなく発症する場合も多く、「特発性大腿骨頭壊死症」と呼ばれます。これは国の指定難病にもなっています。

しかし、研究によっていくつかの危険因子が発症と強く関連していることが分かってきました。ご自身の生活習慣や既往歴と照らし合わせながら、関連する要因について理解を深めましょう。

ステロイド薬の大量使用

大腿骨頭壊死症の最も関連が深い危険因子として知られているのが、副腎皮質ステロイド薬の使用です。

喘息、膠原病、関節リウマチ、臓器移植後など、様々な病気の治療のためにステロイド薬を内服または注射で大量に使用した場合に、発症のリスクが高まることが報告されています。

ステロイドがなぜ血流障害を引き起こすのか、その詳細な理由はまだ研究段階ですが、血液の凝固作用を高めたり、血液中の脂肪の代謝に影響を与えたりすることが一因と考えられています。

ただし、ステロイドを使用したすべての人に発症するわけではありません。

アルコールの過剰摂取

日常的なアルコールの多量摂取も、ステロイドと並んで主要な危険因子です。

明確な基準はありませんが、一般的に日本酒換算で1日に3合以上を長期間飲み続けるような場合にリスクが高まるとされています。

アルコールもステロイドと同様に、肝臓での脂肪代謝に影響を与え、血液中の脂肪粒子が血管を詰まらせる原因になるのではないか、と考えられています。

飲酒習慣のある方は、特に注意が必要です。

主な危険因子とその関連性

危険因子関連性の強さ考えられる理由
ステロイド薬の大量使用非常に強い血液凝固亢進、脂質代謝異常など
アルコールの過剰摂取非常に強い脂質代謝異常、血管内皮細胞の障害など
喫煙関連ありニコチンによる血管収縮、血流低下

その他の関連が指摘される要因

ステロイドやアルコール以外にも、いくつかの要因が関連している可能性が指摘されています。

例えば、喫煙はニコチンの血管収縮作用により、全身の血流を悪化させるため、大腿骨頭への血流にも悪影響を及ぼす可能性があります。

また、血液が固まりやすくなる病気(血液凝固異常)や、血管の炎症を起こす病気(血管炎)なども、血流障害の原因となり得ます。

  • 喫煙
  • 血液凝固異常
  • 高脂血症
  • 放射線治療の既往

原因が特定できない「特発性」

危険因子に全く心当たりがないにもかかわらず、大腿骨頭壊死症を発症するケースも少なくありません。このような原因不明のものを「特発性」と呼びます。

日本では、この特発性大腿骨頭壊死症が全体の約90%を占めています。

特発性の中にも、ステロイドやアルコールが関連しているものが多く含まれるため、これらの危険因子がない純粋な特発性はさらに少なくなります。

原因が分からないことは不安に感じるかもしれませんが、危険因子の有無にかかわらず、早期発見と進行予防という対策の重要性は変わりません。

見逃さないで!大腿骨頭壊死症の初期症状と進行

大腿骨頭壊死症は、発症してすぐには症状が現れない「サイレント期間」があるのが特徴です。そのため、気づかないうちに病状が進行してしまうこともあります。

どのような症状に注意すればよいのか、そして症状が進行するとどう変化していくのかを知っておくことは、早期発見と適切な対応のために非常に重要です。

ここでは、症状の現れ方とその変化について解説します。

初期段階で見られるサイン

最も多い初期症状は、急に始まる股関節周辺の痛みです。特に、太ももの付け根(鼠径部)に痛みを感じることが多く、時にはお尻や太もも、膝のあたりに痛みが出ることもあります。

この痛みは、安静にしている時には感じず、歩いたり、立ち上がったり、階段を上り下りしたりといった、体重がかかる動作の時に現れるのが特徴です。

初期の痛みは、数週間で自然に軽くなることもあるため、「ただの筋肉痛だろう」と見過ごしてしまうケースも少なくありません。

症状が進行するとどうなるか

壊死した部分に体重がかかり続け、骨頭の圧潰が始まると、痛みは持続的かつ強くなります。安静にしていても痛みが取れなくなり、夜間に痛みで目が覚めることもあります。

また、股関節の動きが悪くなる「可動域制限」も現れます。特に、あぐらをかく動作や靴下を履く動作、足の爪を切る動作などがしにくくなります。

さらに進行すると、左右の足の長さに差が生じ、歩く時に体を引きずるような「跛行(はこう)」が見られるようになります。

症状の進行に伴う変化

段階痛みの特徴日常生活への影響
初期(圧潰前)動作開始時の急な痛み。安静にすると和らぐ。長時間の歩行や特定の動作で違和感がある。
進行期(圧潰後)持続的な痛み。安静時や夜間にも痛みがある。歩行が困難になり、杖が必要になることがある。
末期(関節症)常に強い痛みがあり、動かすのがつらい。日常生活の多くの動作に介助が必要になる。

痛みの特徴と出現パターン

大腿骨頭壊死症の痛みにはいくつかの特徴があります。まず、前述の通り「体重をかけた時に痛む」という点が挙げられます。

また、初期には痛みが数週間で一旦治まることがあるため、治ったと勘違いしやすい点も注意が必要です。しかし、病気自体が治ったわけではなく、しばらくすると再び痛みが現れることが多いです。

痛みの感じ方には個人差があり、「ズキズキする」「重だるい」「電気が走るよう」など様々です。股関節以外の場所、特にお尻や膝が痛む場合、腰の病気などと間違われることもあります。

日常生活への具体的な影響

症状が進行すると、日常生活の様々な場面で不便を感じるようになります。例えば、以下のような状況が考えられます。

  • 和式トイレの使用や床からの立ち座りがつらい
  • 車やバスの乗り降りがスムーズにできない
  • 長距離の歩行が困難になり、外出がおっくうになる
  • 仕事や家事など、立っている時間が長い作業が続けられない

これらの症状に心当たりがある場合は、我慢せずに専門の医療機関を受診することを検討しましょう。

早期発見のための重要な検査と診断方法

股関節の痛みの原因を正確に突き止め、大腿骨頭壊死症を早期に発見するためには、専門的な検査が必要です。

医療機関では、患者さんのお話を詳しく聞く「問診」から始まり、身体の診察、そして画像検査へと進んでいきます。

特に、症状が出にくい初期段階の壊死を見つけるためには、画像検査が決定的な役割を果たします。ここでは、診断に至るまでの流れと、それぞれの検査の目的について解説します。

まずは問診と身体所見から

診察の第一歩は、医師による問診です。いつから、どこが、どのように痛むのか、痛みのきっかけ、持病の有無、ステロイド薬の使用歴、飲酒や喫煙の習慣などについて詳しく質問されます。

これらの情報は、痛みの原因を探る上で重要な手がかりとなります。その後、医師が股関節を実際に動かして、痛みの出る角度や動きの制限の程度を確認する「身体所見」を行います。

これにより、痛みの原因が股関節にあるのか、あるいは他の場所にあるのかをある程度絞り込むことができます。

レントゲン(X線)検査の役割と限界

レントゲン検査は、骨の形を簡便に確認できる基本的な画像検査です。骨頭の圧潰や変形が始まっていれば、レントゲンでも診断が可能です。

しかし、大腿骨頭壊死症の初期段階、つまり骨壊死は起きているものの骨頭の形がまだ保たれている状態では、レントゲン写真に異常は写りません。

そのため、初期の段階で「レントゲンに異常なし」と言われても、大腿骨頭壊死症の可能性が否定されたわけではない、ということを知っておくことが大切です。

主な画像検査の特徴

検査方法分かること早期発見の有用性
レントゲン検査骨頭の圧潰、変形、関節の隙間の状態初期段階での発見は困難
MRI検査骨壊死の有無、範囲、場所非常に有用。最も早期に診断可能
骨シンチグラフィ骨の血流や代謝の状態有用だが、MRIほど詳細ではない

MRI検査が早期発見の鍵

大腿骨頭壊死症の早期発見において、最も重要なのがMRI(磁気共鳴画像)検査です。

MRIは、磁気と電波を使って体の内部を断面像として写し出す検査で、レントゲンでは分からない骨の中の状態を詳しく見ることができます。

骨壊死が起きると、その部分の骨組織の性質が変化するため、MRI画像では健康な骨とは異なる信号として写し出されます。

このことにより、症状が出る前やレントゲンで異常が見られないごく初期の段階でも、壊死の有無やその範囲を正確に診断することが可能です。

股関節の痛みが続き、レントゲンで異常がない場合には、MRI検査を検討することが強く推奨されます。

他の病気との見分け方

股関節の痛みを引き起こす病気は、大腿骨頭壊死症だけではありません。

例えば、軟骨がすり減る「変形性股関節症」や、関節に炎症が起きる「関節リウマチ」、スポーツなどで起こる「股関節唇損傷」など、様々な病気が考えられます。

これらの病気と正確に見分ける(鑑別診断する)ためにも、問診や身体所見、そしてMRIをはじめとする画像検査が重要な役割を果たします。

正確な診断が、その後の適切な対策につながります。

進行を防ぐために自分でできる生活上の工夫

大腿骨頭壊死症と診断された場合、病気の進行を完全に止めることは難しいですが、日常生活の中で股関節への負担を減らす工夫をすることで、骨頭の圧潰を防いだり、進行を遅らせたりすることが期待できます。

痛みを管理し、できるだけ長くご自身の股関節機能を保つために、今日から始められる生活上の注意点や工夫について考えてみましょう。

これらの対策は、医師や理学療法士などの専門家と相談しながら進めることが大切です。

股関節への負担を減らす動作を心がける

日常生活の何気ない動作が、股関節に大きな負担をかけていることがあります。

特に、床からの立ち座り、重い物を持つ、階段の上り下りといった動作は、体重の何倍もの負荷が股関節にかかります。

  • 生活様式を和式から洋式へ(布団からベッド、畳から椅子へ)
  • 重い物は台車を使ったり、小分けにして運ぶ
  • 階段は手すりを使い、昇る時は痛くない方の足から、降りる時は痛い方の足から

これらの小さな工夫を習慣にすることが、股関節を守ることにつながります。

動作別の股関節への負荷

動作股関節にかかる負荷(体重比)負担を減らす工夫
立っている約0.3倍長時間の立ちっぱなしを避ける
歩いている約3〜4倍杖を使用する、歩幅を小さくする
階段を昇る約4〜5倍手すりを利用する

体重管理の重要性

体重が重ければ重いほど、歩行時や起立時に股関節にかかる負担は大きくなります。体重を1kg減らすと、歩行時の股関節への負荷は約3kg減ると言われています。

適正体重を維持することは、股関節への負担を軽減し、痛みを和らげる上で非常に効果的です。

急激な減量は体に負担をかけるため、食事内容の見直しや、水泳や水中ウォーキングなど股関節に負担のかからない運動を組み合わせ、無理のない範囲で継続的に取り組むことが重要です。

杖の使用を積極的に検討する

「杖を使うのは抵抗がある」と感じる方もいるかもしれませんが、杖は股関節への負担を大幅に軽減してくれる有効な道具です。

痛い方の足と反対側の手で杖を持つことで、歩行時にかかる負荷を20〜30%程度減らすことができます。このことにより、痛みが和らぎ、より長い距離を楽に歩けるようになります。

また、バランスを保ちやすくなり、転倒を予防する効果も期待できます。専門家に相談し、ご自身の身長に合った長さの杖を正しく使うことが大切です。

股関節周辺の筋力を維持する

痛みがあると、つい動かなくなりがちですが、過度な安静は股関節を支える筋力の低下を招き、逆に関節を不安定にしてしまうことがあります。

股関節に負担をかけずに筋力を維持・向上させる運動(例えば、仰向けに寝て行う足上げ運動など)を、専門家の指導のもとで行うことが推奨されます。

筋肉は関節を安定させ、衝撃を吸収するクッションの役割も果たします。適切な運動は、進行予防だけでなく、痛みの軽減にもつながります。

保存的治療の選択肢と限界

大腿骨頭壊死症の治療方針は、病気の進行度、壊死の範囲、年齢、活動レベルなどを総合的に考慮して決定します。

骨頭の圧潰が起きていない、あるいは軽度な場合には、手術をせずに症状の進行を抑える「保存的治療」が中心となります。

ここでは、保存的治療の主な内容とその目的、そして限界について解説します。これらの治療は、あくまで進行を遅らせ、症状を和らげることが目的です。

基本となる「免荷」と生活指導

保存的治療の基本は、前述した「生活上の工夫」でも触れたように、股関節への負担を減らすこと、すなわち「免荷(めんか)」です。

具体的には、杖や松葉杖を使用して体重がかかるのを防ぎます。壊死範囲が小さく、圧潰のリスクが低いと判断された場合に選択されます。

日常生活での動作指導や体重管理なども併せて行い、骨頭の圧潰が起こらないように努めます。定期的に画像検査を行い、病状に変化がないかを確認していくことが重要です。

痛みを和らげるための薬物療法

痛みが強い場合には、薬を使って症状を和らげます。一般的には、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの消炎鎮痛薬が用いられます。

これらの薬は、痛みを抑える効果はありますが、病気の進行そのものを止めるものではありません。

あくまで対症療法として、痛みのために日常生活に支障が出ている場合に補助的に使用します。薬の使用にあたっては、胃腸障害などの副作用にも注意が必要です。

保存的治療の主な方法

治療法目的主な内容
免荷・生活指導骨頭の圧潰予防、進行抑制杖の使用、体重管理、動作改善
薬物療法痛みの緩和消炎鎮痛薬の内服や外用
運動療法筋力維持、可動域改善股関節周辺の筋力トレーニング、ストレッチ

筋力と可動域を保つ運動療法

理学療法士の指導のもとで行う運動療法も、保存的治療の重要な柱の一つです。

股関節周辺の筋力を鍛えることで関節の安定性を高め、ストレッチなどで関節の動く範囲(可動域)を維持することで、日常生活の動作をスムーズにします。

ただし、誤った運動はかえって股関節に負担をかけてしまう可能性があるため、必ず専門家の指導を受けて、ご自身の状態に合ったプログラムを実践することが大切です。

保存的治療の限界と手術への移行

これらの保存的治療を行っても、残念ながら壊死の範囲が広い場合などでは、骨頭の圧潰が進行してしまうことがあります。

圧潰が進行し、痛みが強く日常生活に大きな支障をきたすようになった場合には、手術的治療が検討されます。

保存的治療は、あくまで手術までの期間を延ばしたり、症状をコントロールしたりするための手段であり、壊死した骨を再生させるものではないという限界があります。

定期的な診察と画像検査で進行度を正確に評価し、適切なタイミングで次の治療法を検討していくことが重要です。

手術が必要になった場合の治療法

保存的治療で痛みのコントロールが難しくなったり、骨頭の圧潰が進行してしまったりした場合には、手術による治療が選択肢となります。

手術と聞くと不安を感じるかもしれませんが、現在の医療技術は進歩しており、患者さんの年齢や病状に合わせて様々な方法が開発されています。

手術の目的は、痛みの原因を取り除き、再びスムーズに歩けるように股関節の機能を取り戻すことです。ここでは、代表的な手術方法について、その特徴を解説します。

骨頭を温存する「骨切り術」

比較的若年で、骨頭の圧潰がまだ軽度な場合に検討されるのが、自分の関節を温存する手術です。代表的なものに「大腿骨骨切り術」があります。

これは、大腿骨の骨の一部を切り、骨頭の向きを変えて体重がかかる部分を、壊死していない健康な骨の部分に移動させる手術です。

自分の関節を残せるという大きな利点がありますが、手術後のリハビリに時間がかかり、元の生活に戻るまでには数ヶ月を要します。

また、将来的に変形が進行した場合は、再手術が必要になる可能性もあります。

主な手術方法の比較

手術方法対象となる主な患者さん特徴
骨切り術比較的若年で、骨頭の圧潰が軽度な方自分の関節を温存できるが、リハビリ期間が長い
人工股関節置換術高齢の方や、骨頭の圧潰が進行した方痛みの改善効果が高く、早期の社会復帰が可能

痛みの改善効果が高い「人工股関節置換術」

骨頭の圧潰が進行し、変形が強くなってしまった場合に最も一般的に行われるのが「人工股関節置換術」です。

これは、傷んだ股関節を、金属やセラミック、ポリエチレンなどでできた人工の関節に置き換える手術です。

この手術の最大の利点は、痛みの改善効果が非常に高く、術後早期から歩行訓練を開始でき、社会復帰が早いことです。

人工関節の耐久性も向上しており、現在では20年以上の長期にわたって問題なく使用できるケースも増えています。

その他の手術的アプローチ

上記の二つが代表的な手術ですが、その他にもいくつかの方法があります。

例えば、骨頭が圧潰する前に、壊死部に骨を移植して補強する「骨移植術」や、骨頭に小さな穴を開けて血流の改善と再生を促す「骨穿孔術(ドリルリング)」などがあります。

これらの手術は、適応となる病状が限られており、実施している医療機関も多くはありません。どの手術方法が最も適しているかは、個々の患者さんの状態によって異なります。

手術後のリハビリテーションの重要性

どの手術方法を選択したとしても、術後のリハビリテーションは股関節機能の回復に極めて重要です。手術で関節の形を整えても、それを支える筋力がなければ、スムーズに歩くことはできません。

理学療法士の指導のもと、手術翌日から少しずつ関節を動かす訓練や筋力トレーニングを開始します。

入院期間やリハビリの内容は手術方法によって異なりますが、焦らず着実にリハビリに取り組むことが、より良い回復への近道です。

大腿骨頭壊死症に関するよくある質問

ここまで大腿骨頭壊死症について解説してきましたが、患者さんからは様々な質問が寄せられます。

ここでは、特に多くの方が疑問に思う点について、Q&A形式でお答えします。ご自身の状況と照らし合わせながら、病気への理解をさらに深める一助としてください。

Q. 遺伝することはありますか?

A. 大腿骨頭壊死症が、親から子へ直接遺伝するという医学的な証拠は現在のところありません。

しかし、体質、例えば骨の強さや血管の構造、アルコールの分解能力などは遺伝的な要素が関与する可能性があります。

そのため、血縁者にこの病気の方がいる場合は、同じような生活習慣(特に飲酒)を避けるなど、危険因子に対してより注意を払うことが望ましいかもしれません。

Q. スポーツや運動は続けても良いですか?

A. 診断された病期や症状の程度によって異なります。骨頭の圧潰が起きていない初期段階であれば、ジャンプや急な方向転換など、股関節に強い衝撃がかかる運動は避けるべきです。

一方で、水泳や水中ウォーキング、エアロバイクなど、股関節への負担が少ない運動は、筋力維持や体重管理の面から推奨されることがあります。

どのような運動が適切か、どの程度まで許容されるかについては、必ず主治医や理学療法士に相談し、自己判断で行わないようにしてください。

運動の可否の目安

運動の種類推奨度理由
水泳、水中ウォーキング高い浮力により股関節への負荷が少ない
ウォーキング(平地)要相談杖の使用や時間制限など条件付きで可能な場合がある
ランニング、ジャンプ低い股関節への衝撃が大きく、圧潰を助長するリスクがある

Q. 反対側の股関節も発症する可能性はありますか?

A. はい、その可能性はあります。

特に、ステロイドやアルコールが原因と考えられる場合、血流障害は全身に影響を及ぼす可能性があるため、片方の股関節に発症した後、時間をおいて反対側にも発症するケースが少なくありません。

報告によって差はありますが、約半数の方で両側に発症すると言われています。

そのため、片側の診断がついた場合でも、定期的に反対側の股関節の状態も画像検査などでチェックしていくことが重要です。

Q. 自然に治ることはありますか?

A. 残念ながら、一度壊死してしまった骨組織が完全に元の健康な状態に自然治癒することは、現在の医学では難しいと考えられています。

ただし、壊死の範囲が非常に小さく、体重のかかりにくい場所にある場合は、骨頭が圧潰することなく、生涯にわたって症状が出ないまま経過することもあります。

これは「治った」というよりは「進行しなかった」と捉えるのが適切です。進行するかどうかは自己判断できないため、専門医による定期的な経過観察が大切です。

参考文献

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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