足立慶友医療コラム

膝の痛みの治療選択 – 症状に応じた適切な対応

2025.09.08

膝の痛みに悩んでいるものの、どのような治療法があるのか、自分には何が合っているのかわからず、一歩を踏み出せずにいる方は少なくありません。

膝の痛みは、年齢や生活習慣、あるいは怪我など、さまざまな原因によって引き起こされます。そして、その原因や症状の程度によって、選ぶべき治療法も大きく異なります。

この記事では、膝の痛みの原因から、ご自身でできるセルフケア、専門医による保存療法、そして手術療法に至るまで、幅広い治療の選択肢を詳しく解説します。

膝の痛みの主な原因と症状の段階

膝の痛みに向き合うためには、まずその痛みがどこから来るのか、そしてどの程度の状態なのかを把握することが第一歩です。原因は一つではなく、複数の要因が絡み合っていることもあります。

ここでは、代表的な原因と、症状がどのように進行していくのかについて解説します。ご自身の状態を客観的に見つめ直すきっかけにしてください。

痛みを引き起こす代表的な疾患

膝の痛みと一言でいっても、その背景にはさまざまな疾患が隠れている可能性があります。特に多く見られるのが、加齢に伴い膝の軟骨がすり減ることで発症する「変形性膝関節症」です。

また、スポーツなどで膝をひねった際に起こる「半月板損傷」や「靭帯損傷」も、急な痛みの原因となります。

その他、関節が炎症を起こす「関節リウマチ」なども膝の痛みを引き起こす疾患の一つです。

主な膝関節疾患

疾患名主な原因特徴的な症状
変形性膝関節症加齢、体重増加、過去の怪我動き始めの痛み、階段昇降時の痛み
半月板損傷スポーツ外傷、加齢による変性ひっかかり感、膝が伸びない・曲がらない
靭帯損傷スポーツ外傷、交通事故膝の不安定感、腫れ、痛み

症状の進行度と見極め方

膝の痛みは、進行度によって「初期」「中期」「末期」の3つの段階に大別できます。

初期段階では、長時間の歩行後や立ち上がりの際に軽い痛みを感じる程度ですが、進行するにつれて痛みが常態化し、日常生活に支障をきたすようになります。

ご自身の症状がどの段階にあるのかを把握することは、適切な治療法を選択する上で非常に重要です。

症状の進行段階

段階主な症状日常生活への影響
初期動き始めに痛むが、休むと治まる大きな支障はないが、違和感がある
中期階段の上り下りや正座がつらい特定の動作が制限される
末期安静にしていても痛む、膝が変形する歩行が困難になる

痛みの種類から原因を探る

痛みの感じ方にもいくつかの種類があり、それが原因を推測する手がかりになることがあります。

「ズキズキするような鋭い痛み」は炎症や急性の損傷を示唆している場合が多く、「ジンジンするような鈍い痛み」は軟骨のすり減りなどが考えられます。

また、膝のどの部分が痛むのか(内側、外側、お皿の周りなど)も、原因を特定するための重要な情報です。

治療を開始する前の準備と心構え

膝の痛みの治療を効果的に進めるためには、医療機関を受診する前の準備が大切です。

ご自身の症状を正確に伝え、医師と協力して治療方針を決めていくという姿勢が、より良い結果につながります。

ここでは、受診前に整理しておくべきことや、治療に臨む上での心構えについて説明します。

専門医に相談するタイミング

「このくらいの痛みで病院に行くのは大げさだろうか」と迷う方もいるかもしれません。

しかし、痛みが2週間以上続く場合や、急に強い痛みや腫れが生じた場合、歩行が困難になった場合は、早めに整形外科を受診することをお勧めします。

早期に診断を受けることで、治療の選択肢が広がり、症状の悪化を防ぐことにつながります。

症状を正確に伝えるためのポイント

医師に症状を的確に伝えることは、正しい診断の第一歩です。いつから痛むのか、どのような時に痛むのか、どのような痛みなのか、といった情報を事前にメモしておくと良いでしょう。

過去の怪我や病気の経験、現在服用している薬なども重要な情報となります。

医師に伝えるべき情報

  • 痛みが始まった時期
  • 痛みの具体的な場所
  • 痛みが強くなる動作
  • 痛みの性質(鋭い、鈍いなど)

治療目標を明確にする

治療を通じてどのような状態になりたいのか、具体的な目標を設定することも重要です。

「痛みをなくして旅行に行きたい」「趣味のスポーツを再開したい」「杖なしで買い物に行けるようになりたい」など、ご自身の生活に即した目標を医師と共有することで、治療への意欲も高まります。

この目標が、数ある治療法の中からご自身に合ったものを選択する際の指針となります。

保存療法-手術を選ばない治療の選択肢

膝の痛みの治療は、多くの場合、手術をしない「保存療法」から始めます。保存療法は、身体への負担が少なく、日常生活を送りながら取り組めるのが特徴です。

運動療法や物理療法、装具の活用など、さまざまなアプローチを組み合わせることで、痛みの緩和と機能の改善を目指します。

運動療法で膝を支える力を養う

膝関節の安定には、太ももの筋肉(特に大腿四頭筋)の強化が欠かせません。筋肉が膝への負担を軽減し、痛みを和らげる効果が期待できます。

ただし、自己流で無理な運動をするとかえって症状を悪化させることもあるため、専門家の指導のもとで、ご自身の状態に合った運動を継続することが大切です。

代表的な運動療法

運動の種類目的注意点
筋力トレーニング膝周りの筋肉を強化し、関節を安定させる膝に負担の少ない方法で行う
ストレッチング筋肉や関節の柔軟性を高め、動きを滑らかにする痛みを感じない範囲でゆっくりと行う
有酸素運動体重管理、全身の血行促進水中ウォーキングや自転車などが推奨される

物理療法による痛みの緩和

物理療法は、温熱、寒冷、電気などを用いて痛みを和らげる治療法です。温熱療法は血行を促進して筋肉のこわばりをほぐし、慢性的な痛みに効果的です。

一方、寒冷療法は炎症や腫れを抑える効果があり、急性の痛みに用いられます。これらの治療は、医療機関のリハビリテーション室などで受けることができます。

装具療法で膝への負担を減らす

サポーターや足底板(インソール)といった装具を使用することで、膝関節の安定性を高め、歩行時の負担を軽減できます。

特にO脚が原因で膝の内側に痛みが集中している場合、足底板で足の傾きを調整することが有効な場合があります。ご自身の足の形や症状に合った装具を選ぶことが重要です。

装具の主な種類と役割

装具の種類主な役割選択のポイント
膝サポーター関節の保温、固定、安定化症状や使用目的に合った固定力の製品を選ぶ
足底板(インソール)足裏のアーチを支え、歩行バランスを整える専門家による評価のもと、個人に合ったものを作成する

薬物療法による痛みの管理

保存療法の中でも、薬物療法は痛みを直接的にコントロールするための重要な手段です。飲み薬や貼り薬、そして関節内への注射など、さまざまな形で用いられます。

ただし、薬はあくまで症状を緩和するためのものであり、根本的な原因を治すものではないことを理解しておく必要があります。医師の指示に従い、正しく使用することが大切です。

内服薬の種類と特徴

痛みを抑える内服薬としてまず用いられるのが、アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)です。これらは炎症を抑え、痛みを和らげる効果があります。

ただし、非ステロイド性抗炎症薬は胃腸障害などの副作用に注意が必要です。痛みが強い場合には、より強力な鎮痛薬が処方されることもあります。

外用薬(湿布・塗り薬)の活用

湿布や塗り薬などの外用薬は、皮膚から有効成分が吸収され、痛む場所に直接作用します。内服薬に比べて全身への影響が少ないため、副作用の心配が少なく、手軽に使えるのが利点です。

炎症を抑える成分や血行を促進する成分が含まれたものなど、さまざまな種類があります。

主な薬剤の種類と作用

薬剤の形態主な作用使用上の注意
内服薬全身の炎症や痛みを抑える胃腸障害などの副作用に留意する
外用薬局所の炎症や痛みを抑える皮膚のかぶれなどに注意する
注射関節内の炎症を強力に抑える繰り返し行う場合は関節への影響を考慮する

関節内注射による直接的なアプローチ

痛みが強い場合や、飲み薬や貼り薬で効果が不十分な場合には、関節内に直接薬剤を注射する治療が行われます。代表的なものに、ヒアルロン酸注射とステロイド注射があります。

ヒアルロン酸は関節の動きを滑らかにし、痛みを和らげる効果が期待されます。

ステロイドは非常に強力な抗炎症作用を持ちますが、頻繁に使用すると軟骨を傷める可能性があるため、使用間隔には注意が必要です。

手術療法-痛みの根本的な解決を目指す

保存療法を続けても痛みが改善されず、日常生活に大きな支障が出ている場合には、手術療法が検討されます。

手術は身体への負担も大きいため、その必要性やリスク、そして手術によって得られる効果について、医師と十分に話し合い、納得した上で決断することが重要です。

ここでは代表的な手術方法について解説します。

関節鏡視下手術(デブリードマン・半月板切除など)

関節鏡という内視鏡を用いた手術で、数ミリ程度の小さな切開で行うため、身体への負担が少ないのが特徴です。

関節内を洗浄したり、損傷した半月板やささくれた軟骨を切除したりすることで、痛みの原因を取り除きます。主に半月板損傷などが原因の痛みに対して行われることが多い手術です。

高位脛骨骨切り術

O脚が進行した変形性膝関節症に対して行われる手術です。すねの骨(脛骨)の一部を切り、角度を調整して固定することで、膝の内側にかかっていた体重の負荷を外側へ移動させます。

この手術により、ご自身の関節を温存したまま痛みを軽減させることが可能です。比較的活動性の高い、若い年齢層の患者さんによく行われます。

人工膝関節置換術

変形性膝関節症などが末期まで進行し、軟骨がすり減ってしまった場合に行われる手術です。傷んだ関節の表面を金属やポリエチレンなどでできた人工の関節に置き換えます。

痛みを大幅に改善し、歩行能力を取り戻すことが期待できる有効な治療法です。人工関節の耐久性も向上しており、多くの方がこの手術によって快適な生活を取り戻しています。

代表的な手術療法の比較

手術方法主な対象特徴
関節鏡視下手術半月板損傷、軟骨損傷など低侵襲で回復が早い
高位脛骨骨切り術O脚を伴う変形性膝関節症(比較的若年)自分の関節を温存できる
人工膝関節置換術末期の変形性膝関節症、関節リウマチ除痛効果が高く、歩行能力が改善する

治療法の選択における重要な判断基準

ここまで様々な治療法を紹介してきましたが、どの治療法がご自身にとって最も良い選択なのかは、一概には言えません。

年齢や日々の活動量、そして何よりもご自身がどのような生活を送りたいのか、といった点を総合的に考慮して、医師と共に最適な方針を決定していく必要があります。

年齢や活動レベルを考慮する

治療法の選択は、年齢や普段どのくらい体を動かすかによっても変わってきます。

例えば、まだ若くスポーツなどの活動を続けたい方であれば、自分の関節を温存する骨切り術が選択肢になることがあります。

一方、ご高齢で歩行時の痛みを確実に取り除きたいという希望が強い場合は、人工膝関節置換術がより適している可能性があります。

症状の進行度とライフプラン

症状が初期段階であれば、まずは運動療法や薬物療法といった保存療法で様子を見ることが一般的です。

しかし、痛みが強く日常生活に支障が出ている場合は、より積極的な治療を検討する必要があります。

また、仕事や家庭の事情など、ご自身のライフプランも治療選択に影響します。手術を受ける場合は、入院やリハビリの期間も考慮に入れることが大切です。

治療法選択の考慮点

  • 年齢
  • 活動量(仕事、趣味など)
  • 症状の重症度
  • 生活上の希望

医師との相談を通じて決定する

最終的な治療方針は、専門家である医師の診断と助言に基づいて決定することが重要です。

医師は、検査結果や患者さんの状態を客観的に評価し、医学的な観点から最も効果的と考えられる治療法を提案します。

その提案に対し、ご自身の希望や不安な点を率直に伝え、十分に話し合うことで、納得のいく治療選択が可能になります。

リハビリテーションの重要性と回復に向けた取り組み

どの治療法を選んだとしても、その効果を最大限に引き出し、円滑な回復を遂げるためにはリハビリテーションが欠かせません。

特に手術後のリハビリは、再び快適な日常生活を取り戻すための重要な期間となります。ここでは、リハビリの目的と具体的な取り組みについて解説します。

治療効果を高めるリハビリの役割

リハビリテーションの目的は、単に痛みがなくなった状態に戻すことだけではありません。

膝関節の動く範囲(可動域)を回復させ、低下した筋力を取り戻し、正しい歩き方を再習得することで、膝の機能を総合的に改善させることを目指します。

この地道な取り組みが、再発の予防にもつながります。

手術後の回復段階に応じたケア

手術後のリハビリは、段階的に進められます。手術直後はベッドの上でできる運動から始め、徐々に車椅子、松葉杖での歩行、そして自立歩行へと移行していきます。

理学療法士などの専門家の指導を受けながら、焦らず着実に進めることが大切です。

手術後の一般的なリハビリの流れ

時期主な目的リハビリ内容の例
手術直後(入院中)関節の拘縮予防、筋力低下の防止ベッド上での足首の運動、膝の曲げ伸ばし
退院後歩行能力の向上、日常生活動作の獲得筋力トレーニング、バランス訓練
社会復帰後機能の維持・向上、再発予防定期的な運動の継続

自宅でできるセルフケアと注意点

リハビリは医療機関だけで行うものではありません。退院後も、指導された運動を自宅で継続することが回復を早める鍵となります。

また、日常生活においては、膝に負担をかけない工夫も必要です。

例えば、床での生活から椅子やベッドを使った生活に変える、体重を適切に管理するなど、日々の小さな心がけが膝を守ることにつながります。

膝の痛みの治療に関するよくある質問

最後に、膝の痛みの治療に関して多くの方が抱く疑問について、Q&A形式でお答えします。治療への不安を少しでも解消し、前向きに取り組むための参考にしてください。

治療期間はどのくらいかかりますか

治療期間は、症状の原因や重症度、選択する治療法によって大きく異なります。

保存療法の場合は数ヶ月から年単位で継続的に行うことが多く、手術療法の場合は入院期間に加えて数ヶ月のリハビリ期間が必要です。

具体的な期間については、担当の医師に確認することが重要です。

治療にかかる費用はどの程度ですか

費用も治療内容によって変動します。保存療法であれば、定期的な通院費や薬代が主になります。

手術を受ける場合は、高額療養費制度などを利用することで自己負担額を抑えることが可能です。公的な制度の活用も含め、事前に医療機関の相談窓口などで確認しておくと安心です。

一度良くなっても再発することはありますか

残念ながら、再発の可能性はあります。特に変形性膝関節症のように、加齢が関係する疾患は進行性であることが多いです。

治療後も、体重管理や定期的な運動を続けるなど、膝に負担をかけない生活を心がけることが再発予防につながります。

再発予防のためのポイント

項目具体的な内容期待される効果
体重管理適正体重を維持する歩行時の膝への負担を軽減する
運動習慣膝に負担の少ない運動を継続する筋力を維持し、関節を安定させる
生活習慣の見直し膝に負担のかかる動作を避ける関節の摩耗や損傷を防ぐ

以上

参考文献

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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