足立慶友医療コラム

膝のスコア評価による状態把握 – 専門医による診断基準

2025.10.04

「最近、膝が痛くて歩くのがつらい」「階段の上り下りで膝に違和感がある」といったお悩みを抱えていませんか。

多くの方が経験する膝の痛みですが、その原因や状態を自分自身で正確に把握するのは難しいものです。

この記事では、整形外科の専門医が膝の状態を客観的に評価するために用いる「JOAスコア」をはじめとした診断基準について、分かりやすく解説します。

ご自身の膝がどのような状態にあるのかを知ることは、今後の適切な対処法を考える上で非常に重要です。スコア評価の意味を理解し、膝の健康と向き合うための一助としてください。

変形性膝関節症(OA)とは?膝の痛みの原因を探る

膝の痛みを引き起こす代表的な疾患の一つに、変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)、通称OAがあります。

ここでは、多くの中高年の方を悩ませるこの疾患の基本的な知識や、症状がどのように進行していくのかについて解説します。

膝に痛みやこわばりを感じていませんか

変形性膝関節症の初期症状としてよく見られるのが、朝起きた時や長時間座った後などに感じる膝のこわばりです。

動き始めると症状は和らぎますが、病状が進行すると、歩行時や階段昇降時にも痛みが現れるようになります。

安静にしていても痛みが続く、膝が腫れて熱を持つ、水がたまるなどの症状が出ることもあります。これらのサインを見逃さず、膝の状態に関心を持つことが大切です。

変形性膝関節症が起こる仕組み

膝関節は、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)の表面を覆う「関節軟骨」と、その間にある「半月板」によって、スムーズな動きと衝撃吸収を実現しています。

しかし、加齢や体重の増加、過去の怪我などの影響で関節軟骨がすり減ったり、半月板が損傷したりすると、骨同士が直接こすれ合うようになります。

この摩擦によって関節に炎症が起こり、痛みや腫れ、変形が生じるのが変形性膝関節症です。

変形性膝関節症の進行段階

進行度主な状態代表的な症状
初期軟骨が少しすり減り始める立ち上がりや歩き始めの痛み
中期軟骨のすり減りが進行し、骨の棘(骨棘)ができる階段昇降時の痛み、正座が困難になる
末期軟骨がほぼなくなり、骨が直接接触する安静時も痛む、膝が変形する(O脚など)

年齢や性別による特徴

変形性膝関節症は、一般的に年齢とともに発症リスクが高まります。特に50歳代以降の女性に多く見られる傾向があります。

これは、女性ホルモンの減少が骨や軟骨の健康に影響を与えることや、男性に比べて筋肉量が少ないことなどが関係していると考えられています。

また、遺伝的な要因や、肥満、特定の職業やスポーツによる膝への負担も発症に影響を与えます。

なぜ膝の状態をスコアで評価するのか

痛みの感じ方や生活への支障は人それぞれ異なります。そのため、医療現場では患者さんの状態を客観的に、そして誰もが同じ基準で評価するための「物差し」が必要です。

ここでは、なぜスコアを用いた評価が重要なのか、その目的と意義について掘り下げていきます。

主観的な症状を客観的な指標に

「とても痛い」「少し痛い」といった言葉だけでは、痛みの程度を正確に伝えることは困難です。

スコア評価は、痛みや歩行能力、日常生活の動作といった項目を点数化することで、患者さんの主観的な訴えを客観的なデータに変換します。

このことにより、医療者は膝の状態をより正確に把握できます。

治療方針を決めるための重要な情報

スコア評価によって得られた客観的なデータは、治療方針を決定する上で極めて重要な情報源となります。

例えば、スコアが比較的高い(症状が軽い)場合は運動療法や薬物療法などの保存療法を選択し、スコアが著しく低い(症状が重い)場合は手術療法を検討するなど、患者さん一人ひとりの状態に応じた適切な治療計画を立てるのに役立ちます。

治療方針決定におけるスコアの役割

スコアの状態考えられる治療方針主な目的
高得点(軽症)運動療法、生活習慣の改善、薬物療法症状の進行予防、痛みの緩和
中等度(中等症)保存療法に加え、関節内注射などを検討痛みの管理、機能の維持・改善
低得点(重症)手術療法(人工関節置換術など)を検討痛みの根本的解消、歩行能力の再獲得

治療効果を測定する物差しとして

治療を開始した後も、定期的にスコアを測定することで、その治療がどの程度の効果を上げているのかを客観的に評価できます。

例えば、運動療法を続けた結果、歩行能力のスコアが改善したことが分かれば、治療の有効性が証明され、患者さんのモチベーション維持にもつながります。

思うような改善が見られない場合は、治療法を見直すきっかけにもなります。

患者と医療者が共通認識を持つために

スコアという共通の指標を用いることで、患者さんと医療者との間で膝の状態に対する認識を共有しやすくなります。

「現在のスコアは○○点なので、まずは△△点を目指してこの治療を頑張りましょう」というように、具体的な目標を設定することが可能です。

この共通認識は、信頼関係を築き、治療を円滑に進める上で大きな助けとなります。

JOAスコアとは?日本整形外科学会の診断基準を詳しく解説

日本国内で変形性膝関節症の評価に広く用いられているのが、「日本整形外科学会 膝疾患治療成績判定基準」、通称「JOAスコア」です。

ここでは、JOAスコアがどのようなもので、何を目的としているのか、その全体像を解説します。

JOAスコアの概要と目的

JOAスコアは、1994年に日本整形外科学会によって作成された、変形性膝関節症および関節リウマチによる膝関節障害の重症度を評価するための基準です。

主に「疼痛」「歩行能力」「関節の可動域」「腫脹」の4つの観点から膝の状態を点数化し、合計100点満点で評価します。点数が高いほど状態が良く、低いほど重症であることを示します。

治療前後の状態を比較し、治療効果を客観的に判定することを大きな目的としています。

評価項目の全体像

JOAスコアは、患者さんの日常生活に密接に関わる4つの大きな項目で構成されています。それぞれの項目には配点が定められており、患者さんの状態に応じて細かく点数が付けられます。

これにより、膝の問題がどの部分に最も影響を及ぼしているのかを多角的に分析できます。

JOAスコアの評価項目と配点

評価項目満点主な評価内容
疼痛(痛み)30点安静時、歩行時、階段昇降時の痛みの程度
歩行能力30点連続歩行時間や歩行補助具の使用状況
関節の可動域30点膝の曲げ伸ばしができる範囲
腫脹(腫れ)10点膝関節の腫れの有無

スコアの採点方法と満点の意味

採点は、専門医による問診や診察に基づいて行います。

例えば、「痛み」の項目では、「階段の上り下りの際に痛みがあるか」「平地を歩くときに痛みがあるか」といった具体的な質問を通じて点数を決定します。

すべての項目で最も良い状態である場合、スコアは100点満点となります。この100点という状態は、痛みや腫れがなく、歩行にも支障がなく、膝の曲げ伸ばしも正常範囲であることを意味します。

JOAスコアの4つの評価項目を徹底分析

JOAスコアを構成する4つの項目は、それぞれが膝の機能と日常生活の質を測る上で重要な意味を持っています。

ここでは、各項目が具体的にどのように評価されるのかを、一つひとつ詳しく見ていきます。

「疼痛」に関する評価

「疼痛(とうつう)」は、患者さんが最も強く自覚する症状であり、生活の質に直接影響するため、30点という高い配点がされています。

評価は、安静時、歩行時、そして階段昇降時という3つの異なる状況における痛みの有無と程度に基づいて行われます。全く痛みがない状態が満点です。

疼痛スコアの評価基準(一部抜粋)

状況点数状態の例
階段昇降10点痛みなく昇降できる
平地歩行10点痛みなく歩ける
安静時10点痛みはない

「歩行能力」に関する評価

「歩行能力」も疼痛と同様に30点が配点されており、移動能力という基本的な機能を示す重要な指標です。

この項目では、杖などの補助具を使わずにどれくらいの時間、あるいは距離を連続して歩けるかを評価します。補助具が必要な場合は減点となります。

歩行能力スコアの評価基準(一部抜粋)

点数状態の例
30点30分以上、または2km以上の連続歩行が可能
20点15~30分未満、または1~2km未満の連続歩行が可能
0点歩行不能、またはほとんど歩けない

「関節の可動域」に関する評価

「関節の可動域(かどういき)」は、膝がどれだけスムーズに曲げ伸ばしできるかを示す指標で、30点が配点されています。

日常生活における正座やしゃがみ込み、立ち上がりといった動作に大きく関わります。評価は、膝が完全に伸びるか(伸展)、そしてどれだけ深く曲がるか(屈曲)の角度を測定して行います。

可動域が狭くなるほど点数は低くなります。

  • 伸展制限:膝がまっすぐに伸びない状態
  • 屈曲角度:膝が曲がる最大の角度

「腫脹」に関する評価

「腫脹(しゅちょう)」は、膝の関節に炎症が起きていることを示すサインであり、10点が配点されています。関節内に過剰な関節液(いわゆる「水」)が溜まることで生じます。

診察時に、膝に明らかな腫れが認められない場合に満点の10点となります。腫れが見られる場合は0点と評価されます。

スコア評価と専門医による総合的な診断

JOAスコアは膝の状態を把握するための非常に有用なツールですが、それだけで診断が確定するわけではありません。

専門医は、スコア評価に加えて問診や各種画像検査の結果を組み合わせ、総合的に膝の状態を判断します。ここでは、診断に至るまでの流れを見ていきます。

スコア評価と問診の重要性

診察では、まず患者さんから詳しい話を聞く「問診」を行います。

いつから、どのような時に、どのあたりが痛むのか、過去の怪我の有無、普段の生活習慣や仕事内容など、多岐にわたる情報が診断の手がかりとなります。

この問診の内容が、JOAスコアの各項目を評価する際の基礎情報にもなります。患者さんの言葉と客観的なスコアを照らし合わせることが、正確な診断への第一歩です。

レントゲン(X線)検査でわかること

レントゲン検査は、変形性膝関節症の診断において基本的な検査です。この検査により、骨の状態を詳しく確認できます。

関節の隙間(関節裂隙)が狭くなっていないか、軟骨の下の骨が硬くなっていないか(骨硬化)、骨の縁にトゲのようなものができていないか(骨棘)などを観察し、病気の進行度を判定します。

レントゲン検査による重症度分類(ケルグレン・ローレンス分類)

グレード所見
1(疑い)わずかな骨棘形成の疑いがある
2(軽度)明らかな骨棘形成がある
3(中等度)関節裂隙の狭小化が見られる
4(重度)関節裂隙が著しく狭小化し、骨硬化が見られる

MRI検査などの画像診断

レントゲン検査では骨の状態は分かりますが、軟骨や半月板、靭帯といった柔らかい組織(軟部組織)の状態を詳しく見ることはできません。

これらの状態を確認する必要がある場合には、MRI(磁気共鳴画像)検査を追加で行うことがあります。MRI検査は、初期の軟骨の損傷や半月板損傷、靭帯損傷の診断に非常に有効です。

総合的な診断で治療方針を決定

最終的な診断と治療方針の決定は、これらすべての情報を統合して行います。

JOAスコアが示す患者さんの自覚症状や生活機能の状態、レントゲンやMRIが示す関節内部の器質的な変化、そして患者さんの年齢や活動レベル、将来の希望などを総合的に考慮し、一人ひとりに合った治療計画を立てていきます。

スコア結果から考える今後の膝との向き合い方

JOAスコアの結果は、ご自身の膝の現在地を知るための貴重な情報です。その結果を基に、今後どのように膝と向き合い、どのような対策を考えていけばよいのか。

ここでは、スコアの結果を踏まえた日常生活での工夫や、治療の選択肢について解説します。

スコアが示す重症度の目安

一般的に、JOAスコアは重症度を判断する一つの目安として用いられます。点数が高いほど軽症、低いほど重症と考えられます。

ただし、これはあくまで目安であり、実際の治療方針は他の検査結果や患者さん本人の希望を考慮して決定します。

JOAスコアと重症度の一般的な目安

スコア重症度の目安考えられる状態
80点以上軽症日常生活に大きな支障はないが、時々痛みを感じる
60~79点中等症歩行や階段昇降で痛みを伴い、生活に支障が出始める
59点以下重症安静にしていても痛み、歩行が困難になる

日常生活で心がけるべきこと

スコアの結果にかかわらず、変形性膝関節症の進行を抑え、症状を和らげるためには日々の生活習慣が重要です。膝への負担を減らす工夫を取り入れましょう。

  • 適正体重の維持
  • 膝周りの筋力トレーニング(特に大腿四頭筋)
  • 膝を冷やさない
  • クッション性の高い靴を選ぶ

保存療法という選択肢

多くの場合、治療はまず保存療法から開始します。保存療法は、手術以外の方法で症状の緩和と進行の抑制を目指すもので、様々な種類があります。

これらの療法を組み合わせ、症状の改善を図ります。

手術療法を検討するタイミング

保存療法を続けても痛みが改善せず、日常生活に大きな支障をきたす場合には、手術療法が検討されます。

代表的な手術には、関節鏡(内視鏡)を用いて関節内をきれいにする手術や、O脚などを矯正する骨切り術、そして最も重症な場合に行われる人工膝関節置換術などがあります。

どの手術を選択するかは、年齢や活動量、関節の変形の程度などを考慮して慎重に判断します。

膝のスコア評価に関するよくある質問

ここでは、膝のスコア評価や変形性膝関節症に関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

自分でJOAスコアを計算することはできますか?

JOAスコアの評価項目には、関節の可動域の測定など、専門的な知識と技術を要する部分が含まれます。また、痛みの評価も客観的な視点が必要です。

そのため、ご自身で正確なスコアを算出することは困難です。あくまで参考程度に自己チェックすることは可能ですが、正確な評価と診断のためには、必ず整形外科の専門医に相談してください。

JOAスコアが低いと、必ず手術が必要になりますか?

いいえ、スコアが低いことが直ちに手術を意味するわけではありません。スコアは治療方針を決める上での重要な判断材料の一つですが、すべてではありません。

患者さんの年齢、仕事や生活スタイル、体力、そして何よりもご本人が何を望んでいるかを総合的に考慮して、治療方針を決定します。保存療法で症状をコントロールできる場合も多くあります。

一度下がったスコアを改善させることは可能ですか?

はい、可能です。変形性膝関節症は進行性の疾患ですが、適切な治療や生活習慣の改善によって症状を和らげ、スコアを改善させることは十分に期待できます。

特に、膝周りの筋力を強化する運動療法や体重管理は、膝への負担を軽減し、痛みや歩行能力のスコア改善に効果的です。専門医や理学療法士の指導のもと、根気強く取り組むことが大切です。

JOAスコア以外にも膝の評価方法はありますか?

はい、あります。JOAスコアは日本で広く使われていますが、国際的には「WOMAC(ウーマック)スコア」や「KSS(Knee Society Score)」といった評価方法も有名です。

これらは質問項目や評価の観点が少しずつ異なりますが、いずれも膝の状態を多角的に評価し、治療に役立てることを目的としています。

どの評価方法を用いるかは、医療機関や医師の方針によって異なります。

参考文献

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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