膝が痛い病気は何?症状と治療法の選び方
「歩き始めに膝が痛む」「階段の上り下りがつらい」「正座ができない」など、膝の痛みは多くの人が経験する症状です。
しかし、その原因は一つではありません。加齢による軟骨のすり減りや、スポーツによる怪我、あるいは全身性の病気が隠れていることもあります。
痛みを放置すると、症状が悪化して日常生活に大きな支障をきたす可能性もあります。
この記事では、膝の痛みを引き起こす代表的な病気や怪我について、それぞれの症状の特徴や原因を詳しく解説します。
また、医療機関を受診する目安や、どのような治療法があるのか、自分に合った治療を選ぶためのポイントも紹介します。
ご自身の症状と照らし合わせながら、膝の健康について理解を深めていきましょう。
目次
膝の痛みを引き起こす主な要因
膝の痛みと一言でいっても、その背景には様々な要因が隠されています。原因を正しく理解することは、適切な対処への第一歩です。
主に「加齢による変化」「外傷(怪我)」「病気」の三つに大別できます。これらが単独、あるいは複合的に絡み合って痛みを引き起こします。
加齢による関節の変化
年齢を重ねると、膝関節のクッションの役割を果たす「関節軟骨」がすり減り、骨同士が直接こすれることで痛みや炎症が生じやすくなります。
また、膝を支える筋力の低下も、関節への負担を増やす一因です。特に中高年以降に発症する膝の痛みの多くは、この加齢による変化が関係しています。
スポーツや事故による外傷
スポーツ活動中の急な方向転換やジャンプ、あるいは交通事故などで膝に強い力が加わると、靭帯や半月板といった組織が損傷することがあります。
若い世代の膝の痛みに多く見られ、受傷直後から強い痛みや腫れ、関節の不安定感を伴うのが特徴です。どの組織を痛めたかによって、症状の現れ方や治療法が異なります。
関節の炎症や代謝の病気
関節リウマチのような自己免疫疾患や、痛風のように尿酸値が関係する代謝性の病気も、膝に強い炎症と痛みを引き起こすことがあります。
これらの病気は膝だけでなく、他の関節にも症状が現れることが多いのが特徴です。単なる膝の問題としてではなく、全身の状態を考慮した治療が必要になります。
膝の痛みの性質と原因の関連
痛みの性質 | 考えられる主な原因 | 特徴的な症状 |
---|---|---|
動かし始めに痛む | 変形性膝関節症(初期) | 歩き始めや立ち上がり時に痛み、少し動くと楽になる |
ズキズキと疼く | 炎症(関節リウマチ、痛風など) | 安静時や夜間にも痛み、熱感や腫れを伴うことがある |
膝がガクッと崩れる | 靭帯損傷、半月板損傷 | 歩行中や方向転換時に不安定感や膝折れを感じる |
加齢に伴う代表的な膝の病気「変形性膝関節症」
中高年以降の膝の痛みの原因として、最も代表的なものが「変形性膝関節症」です。
これは、長年の使用によって関節軟骨がすり減り、関節の骨が変形することで痛みや動かしにくさが生じる病気です。日本の患者数は非常に多く、特に女性に多く見られます。
変形性膝関節症の主な症状
初期の段階では、立ち上がりや歩き始めなど、動作の開始時にのみ痛みを感じることが多いです。
しかし、病状が進行するにつれて、階段の上り下りや長距離の歩行が困難になり、安静にしていても痛みが続くようになります。
また、膝に水がたまって腫れたり、関節の動きが制限されて正座ができなくなったり、O脚変形が目立つようになることもあります。
発症の要因と進行
主な要因は加齢ですが、それ以外にも肥満、過去の膝の怪我、遺伝的な要因、仕事やスポーツによる膝への過度な負担などが関係します。
軟骨のすり減りが進むと、関節の隙間が狭くなり、最終的には骨同士が直接ぶつかるようになります。この骨の変形が痛みをさらに悪化させるという悪循環に陥ります。
進行度による症状の違い
変形性膝関節症は、その進行度によって初期、中期、末期に分けられます。それぞれの段階で症状の現れ方が異なるため、ご自身の状態を把握する目安になります。
変形性膝関節症の進行度と主な症状
進行度 | 軟骨の状態 | 主な自覚症状 |
---|---|---|
初期 | 少しすり減り始めている | 立ち上がり、歩き始めの痛み。長時間の歩行後の鈍い痛み。 |
中期 | すり減りが進み、骨の一部が見える | 階段昇降時の痛みが強い。膝の曲げ伸ばしが困難になる。 |
末期 | 軟骨がほぼなくなり、骨が変形 | 安静時も痛む。歩行が著しく困難になる。O脚が目立つ。 |
スポーツや外傷で起こる膝の痛み
スポーツ活動や日常生活での転倒など、急激な外力によって膝の組織が損傷することがあります。特に、膝の安定性を保つ靭帯や、衝撃を吸収する半月板は損傷しやすい部位です。
これらの外傷は、年代を問わず誰にでも起こる可能性があります。
半月板損傷
半月板は、膝関節の大腿骨と脛骨の間にあるC型をした軟骨組織で、クッションの役割を担っています。
スポーツなどで膝をひねる動作をした際に損傷することが多く、膝の曲げ伸ばしの際に引っかかり感や痛みが生じます。
症状が強い場合、膝が動かなくなる「ロッキング」という状態になることもあります。
靭帯損傷
膝には、前後左右の安定性を保つための4本の主要な靭帯があります。中でも、スポーツで損傷しやすいのが「前十字靭帯」です。
ジャンプの着地や急な方向転換で損傷することが多く、「ブチッ」という断裂音を感じることもあります。
受傷直後は激しい痛みと腫れが生じ、その後は歩行時の膝の不安定感(膝崩れ)が主な症状となります。
その他の外傷
その他にも、膝のお皿(膝蓋骨)が外れる「膝蓋骨脱臼」や、軟骨が骨ごと剥がれてしまう「離断性骨軟骨炎」など、様々な外傷があります。
いずれも放置すると変形性膝関節症の原因となる可能性があるため、早期の適切な対応が重要です。
スポーツで起こりやすい膝の怪我
怪我の種類 | 起こりやすい場面 | 特徴的な症状 |
---|---|---|
半月板損傷 | 体重がかかった状態でのひねり動作 | 引っかかり感、痛み、ロッキング |
前十字靭帯損傷 | ジャンプの着地、急な方向転換 | 受傷時の断裂音、膝崩れ、不安定感 |
膝蓋骨脱臼 | 膝を伸ばした状態でのひねり動作 | 激痛、膝の変形、動かせなくなる |
炎症や代謝が関わる膝の病気
膝の痛みは、関節そのものの摩耗や外傷だけでなく、全身性の病気の一症状として現れることもあります。
代表的なものに関節リウマチや痛風があり、これらは膝関節に強い炎症を引き起こします。適切な治療を受けないと、関節の破壊が進行する可能性があるため注意が必要です。
関節リウマチ
関節リウマチは、免疫システムの異常により、自分自身の関節を攻撃してしまう自己免疫疾患です。
膝だけでなく、手足の指の関節など、複数の関節に対称的に痛みや腫れ、朝のこわばりが生じるのが特徴です。進行すると関節が破壊され、変形をきたします。
早期診断と、薬物による適切なコントロールが非常に重要です。
痛風・偽痛風
痛風は、血液中の尿酸値が高くなることで、関節内に尿酸の結晶がたまり、突然激しい炎症を引き起こす病気です。
足の親指の付け根に発症することが多いですが、膝関節に起こることもあります。偽痛風は、ピロリン酸カルシウムという別の結晶が原因で、高齢者の膝に発症しやすい特徴があります。
どちらも、ある日突然、関節が赤く腫れ上がり、耐えがたいほどの激痛に襲われます。
変形性膝関節症と関節リウマチの主な違い
項目 | 変形性膝関節症 | 関節リウマチ |
---|---|---|
主な原因 | 加齢、体重、外傷など | 自己免疫の異常 |
好発部位 | 膝、股関節など荷重関節が中心 | 手足の指、手首、膝など多関節 |
症状の特徴 | 動かし始めに痛む、左右非対称も多い | 朝のこわばり、安静時痛、左右対称性 |
- 膝の痛みを引き起こす主な要因
- 加齢による関節軟骨のすり減り
- スポーツや事故による靭帯・半月板の損傷
- 関節リウマチや痛風などの全身性の病気
若年層や子どもに見られる膝の痛み
膝の痛みは高齢者だけの問題ではありません。成長期の子どもや、スポーツに打ち込む若者にも特有の膝の痛み(スポーツ障害)があります。
これらは骨の成長や、特定の動作の繰り返しによるオーバーユース(使いすぎ)が原因で起こることがほとんどです。
オスグッド・シュラッター病
小学校高学年から中学生くらいの、成長期の男子に多く見られる病気です。
膝のお皿の下の骨(脛骨結節)が、太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)に繰り返し引っ張られることで、突出して痛みます。
ジャンプやボールを蹴る動作で痛みが増強するのが特徴で、安静にすると痛みは和らぎます。多くは成長が終わると自然に治ります。
ジャンパー膝(膝蓋腱炎)
バレーボールやバスケットボールなど、ジャンプを繰り返すスポーツ選手に多く発生します。膝のお皿とすねの骨をつなぐ膝蓋腱に炎症が起こり、運動時に膝のお皿の下あたりに痛みが出ます。
オスグッド病と似ていますが、骨の突出は見られません。使いすぎが原因であるため、十分な休養とストレッチが重要です。
成長期に多い膝のスポーツ障害
疾患名 | 好発年齢 | 痛みの主な場所 |
---|---|---|
オスグッド・シュラッター病 | 10~15歳 | 膝のお皿のすぐ下の骨 |
ジャンパー膝(膝蓋腱炎) | 10代~20代 | 膝のお皿のすぐ下(腱の部分) |
腸脛靭帯炎(ランナー膝) | 長距離ランナーに多い | 膝の外側 |
医療機関を受診するべき膝の痛みのサイン
軽い膝の痛みであれば、しばらく安静にすることで改善することもあります。しかし、中には専門的な診断や治療を必要とするケースも少なくありません。
どのような症状があれば医療機関、特に整形外科の受診を検討するべきか、具体的な目安を知っておくことが大切です。
痛みが続く、あるいは悪化する場合
数日休んでも痛みが引かない、あるいは日に日に痛みが強くなる場合は、単なる筋肉痛ではなく、関節内部に何らかの問題が起きている可能性があります。
特に、日常生活の動作(歩く、立つ、座るなど)に支障が出始めたら、早めに相談しましょう。
腫れや熱感を伴う場合
膝が明らかに腫れている、触ると熱を持っている、赤みを帯びている、といった症状は、関節内部で炎症が起きているサインです。
変形性膝関節症の悪化や、関節リウマチ、痛風、細菌感染症などの可能性も考えられるため、専門医による診断が必要です。
膝が不安定、または動かせない場合
歩いている時に急に膝がガクッと崩れる(膝崩れ)、膝が引っかかって伸びも曲がりもしなくなる(ロッキング)、怪我をしてから明らかに膝がぐらぐらする、といった症状は、靭帯や半月板の損傷が強く疑われます。
放置すると他の組織にも悪影響を及ぼすため、速やかな受診が望まれます。
- 放置すると危険な膝の痛みのサイン
- 安静にしていてもズキズキ痛む
- 膝が腫れて熱を持っている
- 歩行中に膝がガクッと崩れる
- 膝が完全に曲がらない、または伸びない
膝の病気の診断と治療法の選び方
整形外科では、まず丁寧な問診と身体診察を行い、痛みの原因を探ります。その上で、必要に応じて画像検査などを追加し、正確な診断を下します。
診断結果に基づき、患者さん一人ひとりの年齢や活動レベル、ライフスタイルを考慮しながら、最適な治療方針を一緒に考えていきます。
診断のために行われる検査
診断の基本は、医師が患者さんの話を詳しく聞き、膝の状態を直接見て、触って確認することです。関節の動きや腫れの有無、圧痛点(押して痛い場所)などを調べます。
補助的な検査として、骨の状態を確認するためにレントゲン撮影を、軟骨や靭帯、半月板などの柔らかい組織を詳しく見るためにMRI検査を行うことがあります。
関節リウマチなどが疑われる場合は、血液検査も実施します。
- 医師に伝えるべきポイント
- いつから痛むか(きっかけはあるか)
- どこが痛むか(膝の内側、外側、お皿の周りなど)
- どんな時に痛むか(歩くと痛い、じっとしていても痛いなど)
- これまでにかかった病気や、現在治療中の病気
主な治療法の選択肢「保存療法」
手術以外の方法で症状の改善を目指す治療法を総称して「保存療法」と呼びます。膝の痛みの治療は、多くの場合この保存療法から開始します。
生活指導や運動療法、薬物療法、装具療法などを組み合わせて行います。
保存療法の主な種類と目的
治療法の種類 | 主な内容 | 目的 |
---|---|---|
運動療法 | 筋力トレーニング、ストレッチ | 膝の安定化、関節の動きの改善 |
薬物療法 | 内服薬、外用薬、関節内注射 | 痛みや炎症の緩和 |
装具療法 | サポーター、足底板(インソール) | 膝への負担軽減、安定性の向上 |
もう一つの選択肢「手術療法」
保存療法を続けても症状が改善しない場合や、外傷による損傷が大きく、日常生活やスポーツ活動への復帰が困難な場合には、手術療法を検討します。
手術には、損傷した組織を修復するものから、関節そのものを人工のものに置き換えるものまで、様々な方法があります。
手術療法の主な種類
手術名 | 対象となる主な疾患・状態 | 手術の概要 |
---|---|---|
関節鏡視下手術 | 半月板損傷、靭帯損傷 | 小さなカメラで関節内を観察し、損傷部を切除・縫合する |
高位脛骨骨切り術 | 変形性膝関節症(比較的若年) | すねの骨を切って角度を変え、O脚を矯正し荷重を分散させる |
人工膝関節置換術 | 変形性膝関節症(末期) | 傷んだ関節表面を削り、金属やポリエチレン製の人工関節に置き換える |
- 治療法選択の際に考慮すべきこと
- 病気の進行度や損傷の程度
- 年齢や身体活動のレベル
- 仕事や趣味などのライフスタイル
- 治療によるメリットとデメリット
膝の痛みに関するよくある質問
ここでは、膝の痛みに関して患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。治療法や日常生活での注意点について、参考にしてください。
サプリメントは膝の痛みに効果がありますか?
グルコサミンやコンドロイチンなどのサプリメントが、膝の痛みに効果があるという科学的根拠は、現在のところ十分に確立されていません。
効果を感じる人もいますが、すべての人に有効とは言えません。基本的には、バランスの取れた食事を心がけることが大切です。
サプリメントの利用を考える場合は、まず主治医に相談することをお勧めします。
膝が痛いとき、温めるのと冷やすのはどちらが良いですか?
これは痛みの原因や時期によって異なります。怪我をした直後や、膝が腫れて熱を持っているような急性の炎症期には、冷やす(アイシング)ことで炎症や腫れを抑える効果が期待できます。
一方、変形性膝関節症のような慢性的な痛みで、腫れや熱感がない場合は、温めることで血行が良くなり、筋肉の緊張がほぐれて痛みが和らぐことがあります。
迷った場合は、自己判断せず医師に確認しましょう。
体重を減らすと膝の痛みは楽になりますか?
体重のコントロールは、膝の痛みの管理において非常に重要です。歩行時、膝には体重の約3倍の負荷がかかるといわれています。
つまり、体重が1kg減るだけで、膝への負担は3kgも軽減される計算になります。特に変形性膝関節症の進行予防や症状緩和には、適正体重を維持することが効果的です。
食事の見直しや、膝に負担の少ない運動(水中ウォーキングなど)から始めてみましょう。
痛みがあっても運動はしたほうが良いですか?
痛みが強い時期に無理な運動は禁物ですが、症状が落ち着いているのであれば、適度な運動は膝の周りの筋力を維持・強化し、関節を安定させるために推奨されます。
膝に負担の少ない、太ももの筋肉を鍛えるトレーニングやストレッチが効果的です。ただし、どのような運動をどの程度行うべきかは、個々の状態によって異なります。
必ず医師や理学療法士の指導のもとで、自分に合った運動プログラムを実践してください。
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