足立慶友医療コラム

膝の捻挫を早く治すためのポイントと注意点

2025.10.18

急な方向転換やジャンプの着地時、あるいは転倒した際に膝をひねってしまい、「膝の捻挫」と診断された経験はありませんか。

膝の捻挫は、スポーツの現場だけでなく日常生活の中でも起こりうる身近な怪我の一つです。

しかし、適切な対処法を知らないと、痛みが長引いたり、膝の不安定さが残ってしまったりする可能性があります。

この記事では、膝の捻挫をできるだけ早く治し、元の生活に復帰するために知っておきたいポイントと注意点を詳しく解説します。

受傷直後の応急処置から、回復を早めるための過ごし方、食事、そして再発予防のためのリハビリテーションまで、順を追って理解を深めていきましょう。

そもそも膝の捻挫とは?原因と症状を理解する

膝の捻挫からの早期回復を目指すためには、まずどのような怪我なのかを正しく理解することが大切です。

膝関節は、太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)を靭帯でつなぎとめることで安定性を保っています。

膝の捻挫とは、この靭帯が許容範囲を超えて強く伸ばされたり、部分的に、あるいは完全に断裂してしまったりする状態を指します。

ここでは、膝の捻挫が起こる原因と、それによって現れる症状について詳しく見ていきましょう。

膝の捻挫が起こる主な原因

膝の捻挫は、膝関節に急激な外力が加わることで発生します。特に、スポーツ活動中は膝に大きな負担がかかる場面が多く、捻挫のリスクが高まります。

例えば、バスケットボールやサッカーでの急な方向転換やストップ動作、バレーボールやスキーでのジャンプからの着地、ラグビーや柔道などでのコンタクトプレーが代表的です。

また、日常生活においても、階段の踏み外しや転倒、交通事故など、予期せぬ出来事が原因で膝の捻那を引き起こすことがあります。

膝の捻挫を引き起こす状況の例

分類具体的な状況解説
スポーツ活動急な方向転換、ストップ、ジャンプからの着地膝にねじれの力が加わりやすく、靭帯を損傷するリスクが高いです。
コンタクトスポーツタックルなど他者との接触膝の外側や内側から直接的な衝撃が加わることで発生します。
日常生活転倒、階段の踏み外し不意にバランスを崩した際に、不自然な形で膝をひねることがあります。

膝の捻挫で現れる代表的な症状

膝の捻挫を発症すると、いくつかの特徴的な症状が現れます。最も一般的なのは「痛み」です。損傷した靭帯の周辺に、鋭い痛みや圧迫した際の痛み(圧痛)を感じます。

また、靭帯や周辺組織からの出血により、関節内に血液が溜まることで「腫れ(関節内血腫)」が生じます。この腫れは、受傷後数時間で顕著になることが多いです。

さらに、痛みや腫れの影響で、膝を曲げたり伸ばしたりする動きが制限される「可動域制限」も見られます。

重症の場合には、歩行中に膝がガクッと崩れるような「不安定感(giving way)」を感じることもあります。

損傷しやすい膝の靭帯

膝関節は、主に4本の靭帯によって安定性が保たれています。損傷する靭帯によって、症状の現れ方や治療法が異なります。

膝の内側にある「内側側副靭帯(MCL)」、外側にある「外側側副靭帯(LCL)」は、膝の横方向へのブレを防ぎます。

一方、膝の中心部で十字に交差している「前十字靭帯(ACL)」と「後十字靭帯(PCL)」は、主に膝の前後方向への動きを制御する重要な役割を担っています。

膝関節を支える主要な靭帯

靭帯の名称位置主な役割
前十字靭帯(ACL)膝関節の中心(前方)脛骨が前方へずれるのを防ぐ。
後十字靭帯(PCL)膝関節の中心(後方)脛骨が後方へずれるのを防ぐ。
内側側副靭帯(MCL)膝関節の内側膝が外側に開く(外反)のを防ぐ。
外側側副靭帯(LCL)膝関節の外側膝が内側に反る(内反)のを防ぐ。

症状の重症度による分類

膝の捻挫は、靭帯の損傷程度によって一般的に3つの度合いに分類されます。軽度(I度)は、靭帯が一時的に伸びた状態で、微細な断裂はあるものの、関節の不安定性はほとんどありません。

中等度(II度)は、靭帯の部分断裂を指し、痛みや腫れが強く、関節に若干の不安定性が生じます。

最も重い重度(III度)は、靭帯の完全断裂を意味し、著しい痛みと腫れ、明確な関節の不安定性を伴います。

重症度を正確に把握することが、適切な治療方針を決定する上で重要です。この判断には専門的な知識が必要なため、自己判断は禁物です。

膝の捻挫 直後に行うべき応急処置「RICE処置」

膝を捻挫してしまった直後に、どのような応急処置を行うかが、その後の回復速度を大きく左右します。炎症や内出血を最小限に抑え、痛みを和らげるために、基本となるのが「RICE処置」です。

これは、Rest(安静)、Ice(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)の4つの処置の頭文字を取ったものです。ここでは、それぞれの処置の具体的な方法とポイントを解説します。

安静(Rest)の重要性

怪我をした直後は、まず患部を動かさないようにすることが第一です。無理に動かすと、損傷が悪化したり、内出血が広がったりする可能性があります。

体重をかけずに済むように、楽な姿勢で座るか横になりましょう。移動が必要な場合は、松葉杖を使用したり、誰かに肩を借りたりして、患部に負担がかからないように注意します。

スポーツ活動中であれば、すぐにプレーを中止し、安全な場所へ移動してください。

冷却(Ice)の方法と時間

患部を冷やすことで、血管が収縮し、内出血や腫れ、痛みを抑える効果が期待できます。氷をビニール袋に入れ、タオルで包んだもの(アイスパック)を患部に当てます。

直接氷を当てると凍傷のリスクがあるため、必ずタオルなどを一枚挟んでください。冷却時間は1回あたり15分から20分程度を目安とし、感覚がなくなってきたら一度中断します。

そして、痛みが再び出てきたら冷却を再開するというサイクルを、受傷後24時間から72時間程度は続けることが推奨されます。

圧迫(Compression)のポイント

患部を適度に圧迫することで、内出血や腫れの広がりを防ぎます。弾性包帯やテーピング、サポーターなどを使って、腫れている部分を中心に圧迫固定します。

ただし、強く巻きすぎると血行障害を引き起こす可能性があるため注意が必要です。圧迫した部分の末端(足先など)がしびれたり、変色したりした場合は、すぐに緩めてください。

圧迫は、冷却している時間以外も継続して行うと効果的です。就寝時など、長時間監視できない場合は少し緩めに巻くと良いでしょう。

挙上(Elevation)の効果

患部を心臓より高い位置に保つことで、重力を利用して内出血や腫れを軽減させることができます。

横になる際は、足元にクッションや座布団、折りたたんだ毛布などを置いて、膝の下から足首あたりまでを高くします。

座っている場合でも、椅子や台の上に足を乗せるなどして、できるだけ心臓の高さに近づけるよう工夫しましょう。この挙上は、安静にしている間、常に意識して行うことが大切です。

RICE処置の各項目の要点

項目目的具体的な方法
安静 (Rest)損傷の悪化を防ぐ患部を動かさず、体重をかけない。
冷却 (Ice)腫れ、痛み、内出血を抑える1回15〜20分、タオルを介して氷で冷やす。
圧迫 (Compression)腫れ、内出血の広がりを防ぐ弾性包帯などで適度に圧迫する。
挙上 (Elevation)腫れ、内出血を軽減する患部を心臓より高い位置に保つ。

膝の捻挫を早く治すための回復期間の過ごし方

応急処置を終えた後の過ごし方も、膝の捻挫を早く治すためには非常に重要です。回復期間は、大きく「急性期」「亜急性期」「回復期」の3つに分けられます。

それぞれの時期で、身体の状態や行うべきことが異なります。

自分の膝がどの段階にあるのかを理解し、その時期に適したケアを心がけることで、スムーズな回復を促し、競技や日常生活への復帰を早めることができます。

急性期(受傷直後〜72時間)の過ごし方

受傷直後からおよそ3日間は「急性期」と呼ばれ、炎症が最も強い時期です。この期間の目標は、炎症を最小限に抑えることです。前述したRICE処置を徹底し、患部を安静に保つことが最優先です。

痛みや腫れを悪化させる可能性があるため、飲酒や長時間の入浴、患部を温めるような行為は避けてください。痛みが強い場合は、無理せず医療機関を受診し、適切な指示を仰ぎましょう。

  • RICE処置の継続
  • 患部の安静維持
  • 飲酒・長時間の入浴を避ける

亜急性期(数日後〜数週間)の過ごし方

急性期を過ぎ、激しい痛みや腫れが少しずつ引いてくる時期が「亜急性期」です。この時期からは、炎症を抑えつつ、関節が硬くならないように少しずつ動かし始めることが大切になります。

ただし、無理は禁物です。痛みのない範囲で、ゆっくりと膝の曲げ伸ばしを行うなど、軽度の運動から開始します。

温めることで血行が促進され、組織の回復を助ける温熱療法を取り入れることもありますが、タイミングについては専門家の指示に従うことが重要です。

回復期(数週間後〜)の過ごし方

痛みが大幅に軽減し、日常生活に支障がなくなってくる時期が「回復期」です。

この段階では、低下した筋力や関節の機能を取り戻し、再発を予防するためのリハビリテーションが中心となります。

ストレッチで関節の柔軟性(可動域)を高め、太もも周りの筋肉を中心にトレーニングを行います。また、バランス能力を向上させる訓練も、膝の安定性を高める上で効果的です。

焦らず、段階的に運動の強度を上げていくことが、安全で確実な回復につながります。

回復段階に応じたケアの概要

時期期間の目安主な目的とケア
急性期受傷後〜72時間炎症の抑制(RICE処置、安静)
亜急性期数日後〜数週間関節拘縮の予防(痛みのない範囲での運動)
回復期数週間後〜機能回復と再発予防(リハビリ、筋力強化)

回復をサポートする食事と栄養素

膝の捻挫を早く治すためには、適切な処置やリハビリテーションと並行して、身体の内側からのアプローチ、すなわち栄養管理も大切です。

損傷した靭帯などの組織を修復するためには、その材料となる栄養素を食事から十分に摂取する必要があります。

ここでは、膝の捻挫の回復をサポートするために、積極的に摂りたい栄養素や食事、そして逆に避けるべきものについて解説します。

靭帯の修復を助ける栄養素

靭帯の主成分はコラーゲンというタンパク質です。

このため、まずは良質なタンパク質を十分に摂取することが基本となります。肉、魚、卵、大豆製品などを毎日の食事にバランス良く取り入れましょう。

そして、体内でコラーゲンを合成する際に必要となるのがビタミンCです。ビタミンCは、果物や野菜に多く含まれています。

さらに、亜鉛はタンパク質の合成を助ける働きがあり、組織の修復に貢献します。これらの栄養素を意識的に摂取することで、治癒の促進が期待できます。

靭帯修復に役立つ栄養素を含む食材

栄養素主な働き多く含む食材の例
タンパク質靭帯など体の組織の材料となる肉類、魚介類、卵、大豆製品、乳製品
ビタミンCコラーゲンの合成を助けるピーマン、ブロッコリー、キウイ、柑橘類
亜鉛タンパク質の合成を助ける牡蠣、レバー、牛肉、チーズ

炎症を抑える効果が期待できる栄養素

怪我の直後は炎症反応が起こりますが、これが長引くと回復の妨げになることもあります。オメガ3系脂肪酸(DHA、EPA)には、過剰な炎症を抑える働きがあると言われています。

青魚に多く含まれるので、サバやイワシ、サンマなどを食事に取り入れるのがおすすめです。

また、ビタミンEも抗酸化作用を持ち、炎症から細胞を守る働きが期待できます。ナッツ類や植物油に豊富に含まれています。

炎症抑制作用が期待される栄養素

栄養素主な働き多く含む食材の例
オメガ3系脂肪酸過剰な炎症反応を抑えるサバ、イワシ、サンマ、アジなどの青魚
ビタミンE抗酸化作用により細胞を保護するアーモンド、かぼちゃ、アボカド、植物油

回復期に避けたい食事

回復を促進する食事がある一方で、回復を妨げる可能性のある食事も存在します。

特に、過剰な糖質や脂質を含む加工食品、スナック菓子、清涼飲料水などは、体内の炎症を助長する可能性があるため、摂取は控えめにするのが賢明です。

また、アルコールは血行を促進し、急性期の炎症や腫れを悪化させる原因となります。少なくとも受傷後数日間は、飲酒を避けるようにしましょう。

バランスの取れた食事を基本とし、身体の回復を第一に考えた食生活を心がけてください。

  • インスタント食品や加工食品
  • スナック菓子
  • 糖分の多い清涼飲料水
  • アルコール飲料

医療機関を受診するタイミングと診断

膝の捻挫は軽症で済む場合もありますが、中には靭帯の断裂など、専門的な治療を必要とする重症例も少なくありません。

自己判断で放置してしまうと、後遺症が残るリスクもあります。適切な治療を受け、後悔しないためにも、医療機関を受診すべきタイミングを見極めることが非常に重要です。

ここでは、どのような場合に医療機関を受診すべきか、そして整形外科で行われる主な検査について解説します。

すぐに医療機関を受診すべき症状

以下のような症状が見られる場合は、靭帯の完全断裂や骨折などを伴っている可能性が考えられます。できるだけ早く整形外科を受診してください。

特に、受傷時に「ブチッ」という断裂音(ポップ音)が聞こえた場合や、膝が明らかに不安定で力が入らない場合は、前十字靭帯断裂などの重篤な損傷が疑われます。

また、痛みが非常に強く、まったく体重をかけることができない場合も、速やかな受診が必要です。

  • 歩けないほどの強い痛みがある
  • 膝が大きく腫れあがっている
  • 膝に力が入らず、ガクッと崩れる感じがする
  • 膝が不自然な方向に曲がっている

整形外科で行う主な検査

整形外科では、まず問診でいつ、どこで、どのように怪我をしたのかを詳しく確認します。

その後、視診や触診で膝の状態をチェックし、徒手検査法(ストレステスト)で靭帯の緩み具合を評価します。これらの診察に加え、より正確な診断のために画像検査を行います。

レントゲン(X線)検査では、骨折の有無を確認します。靭帯の損傷を詳しく調べるためには、MRI検査が非常に有効です。

超音波(エコー)検査も、靭帯や周辺組織の状態を手軽に確認できるため、多くの施設で活用されています。

整形外科での診断に用いられる検査

検査方法主な目的特徴
問診・触診受傷状況の把握、圧痛部位の確認診断の基本となる最も重要な情報源です。
徒手検査靭帯の不安定性の評価医師が直接膝を動かして靭帯の損傷度合いを判断します。
レントゲン検査骨折の有無の確認靭帯そのものは写りませんが、骨の異常を発見できます。
MRI検査靭帯や半月板など軟部組織の評価靭帯損傷の確定診断に非常に有効な検査です。

専門家による診断の重要性

膝の捻挫の重症度は、外見だけでは判断が難しい場合があります。例えば、軽度の捻挫だと思っていても、実際には半月板損傷などを合併しているケースもあります。

専門家による正確な診断を受けることで、現在の膝の状態を正しく把握し、個々の症状に合わせた最適な治療計画を立てることができます。

この適切な初期対応が、結果的に治療期間を短縮し、後遺症のリスクを減らすことにつながるのです。膝に異変を感じたら、安易に自己判断せず、まずは整形外科医に相談しましょう。

膝の捻挫の再発を防ぐためのリハビリテーション

痛みが和らぎ、腫れが引いてくると、つい治ったかのように感じてしまいがちです。しかし、一度損傷した靭帯やその周辺の組織は、筋力やバランス感覚が低下している状態にあります。

このままの状態でスポーツや活動的な日常生活に戻ると、再び同じ怪我を繰り返すリスクが高まります。

膝の捻挫を根本的に治し、再発を防ぐためには、計画的なリハビリテーションが欠かせません。ここでは、リハビリの目的と具体的な内容について説明します。

リハビリテーションを開始する時期

リハビリテーションを開始する適切なタイミングは、膝の損傷程度や回復状況によって異なります。一般的には、急性期の強い炎症が治まった亜急性期から、痛みのない範囲で徐々に開始します。

早すぎると症状を悪化させる可能性があり、逆に遅すぎると関節が硬くなったり筋力が著しく低下したりします。

自己判断で開始するのではなく、必ず医師や理学療法士などの専門家の指導のもと、適切な時期と方法で進めることが重要です。

可動域を取り戻すストレッチ

怪我の後は、痛みや固定によって関節が硬くなり、膝の曲げ伸ばしがしにくくなる「関節拘縮」が起こりがちです。

まずは、この硬くなった関節の柔軟性を取り戻すためのストレッチを行います。

例えば、椅子に座ってゆっくりと膝を曲げたり伸ばしたりする運動や、タオルを使って足を引き寄せる運動などがあります。

重要なのは、「痛気持ちいい」と感じる範囲で行い、決して無理に動かさないことです。毎日少しずつでも継続することで、徐々に可動域が改善していきます。

筋力を強化するトレーニング

膝関節の安定性には、太ももの筋肉、特に前面の「大腿四頭筋」と後面の「ハムストリングス」の筋力が大きく関わっています。

怪我によってこれらの筋力が低下すると、靭帯への負担が増え、再発しやすくなります。リハビリでは、これらの筋肉を重点的に鍛えるトレーニングを行います。

最初は、仰向けで膝を伸ばしたまま脚を上げる運動(SLR)など、自重を利用した負荷の軽いものから始め、徐々にゴムチューブや軽い重りを使うなどして強度を高めていきます。

バランス感覚を養う訓練

膝の捻挫は、関節の位置などを脳に伝える「固有受容器」というセンサーの機能も低下させます。

この機能が低下すると、体のバランスが取りにくくなり、不安定な場所で踏ん張りが効かなくなります。このため、バランス能力を回復させる訓練もリハビリの重要な要素です。

片足立ちから始め、慣れてきたら目を閉じて行ったり、不安定なクッションの上で行ったりすることで、バランス感覚を効果的に養うことができます。

この訓練により、予期せぬ動きに対する膝の対応力が高まります。

膝の捻挫を早く治す上での注意点

一日でも早い回復を願うあまり、焦って行動してしまうことが、かえって治癒を遅らせてしまうことがあります。

膝の捻挫を早く、そして確実に治すためには、回復を妨げる可能性のある行動を理解し、避けることが大切です。

ここでは、回復期間中に特に注意すべきいくつかの点について解説します。正しい知識を持つことが、回復への近道となります。

無理な自己判断は避ける

「このくらいの痛みなら大丈夫だろう」「少し良くなったからもう動いても平気だ」といった自己判断は危険です。

前述の通り、膝の捻挫は見た目以上に重症である可能性や、他の損傷を合併している可能性があります。

特に、痛みが長引く場合や、膝の不安定感が続く場合は、必ず医療機関を受診してください。専門家による正確な診断に基づいた治療計画に従うことが、安全で確実な回復につながります。

受傷後の飲酒や長時間の入浴

アルコールには血管を拡張させ、血行を促進する作用があります。また、熱いお風呂に長時間浸かることも同様です。

これらの行為は、受傷直後の炎症が強い時期に行うと、内出血や腫れを悪化させ、結果的に回復を遅らせる原因となります。

少なくとも受傷後3日間(急性期)は、飲酒を控え、入浴はシャワーで軽く済ませるようにしましょう。この時期は、患部を温めるのではなく、冷やすことが基本です。

不適切なマッサージ

痛みを和らげようとして、自己流で患部を強く揉んだりマッサージしたりすることも避けるべきです。

特に炎症が起きている急性期に強い刺激を加えると、損傷した組織をさらに傷つけ、内出血を広げてしまう可能性があります。

マッサージが有効な場合もありますが、それは回復の段階に応じて専門家が判断するものです。良かれと思って行った行為が逆効果にならないよう、注意が必要です。

サポーターの正しい使い方

サポーターは、膝の安定性を高め、安心感を与えてくれる便利な道具です。しかし、その使用法には注意が必要です。

例えば、四六時中サポーターに頼りきってしまうと、膝周りの筋肉が本来の働きを忘れ、筋力低下につながる可能性があります。

また、サイズが合っていなかったり、締め付けが強すぎたりすると、血行不良の原因にもなります。

サポーターは、運動時など膝に負担がかかる場面で補助的に使用するのが基本です。使用するタイミングや種類については、医師や理学療法士に相談すると良いでしょう。

回復を遅らせる可能性のある行動とその理由

避けるべき行動理由推奨される対応
無理な自己判断重症例の見逃しや悪化のリスク専門医の診断を仰ぐ
急性期の飲酒・長時間の入浴炎症や腫れを悪化させるシャワーで済ませ、飲酒を控える
不適切なマッサージ組織の損傷や内出血を助長する自己流で行わず、専門家に相談する
サポーターへの過度な依存筋力低下や血行不良の原因となる必要な場面での補助的な使用に留める

膝の捻挫に関するよくある質問

最後に、膝の捻挫に関して多くの方が抱く疑問や不安について、質問形式でお答えします。正しい知識を身につけ、安心して治療やリハビリに取り組んでいきましょう。

Q. 膝の捻挫は癖になりますか?

A. 「捻挫が癖になる」とよく言われますが、これは一度損傷した靭帯が緩んだままになったり、膝周りの筋力やバランス能力が十分に回復しないうちに活動を再開したりすることで、再受傷しやすくなる状態を指します。

靭帯そのものが弱くなるわけではありません。適切な治療と十分なリハビリテーションを行い、膝の機能性を完全に取り戻すことができれば、再発のリスクを大幅に減らすことは可能です。

焦らず、最後までしっかりとリハビリに取り組むことが重要です。

Q. 湿布は冷たいものと温かいもののどちらが良いですか?

A. これは怪我からの時期によって使い分けます。受傷直後から数日間の急性期は、炎症を抑えるために冷湿布(または冷却)が適しています。

一方、腫れや熱感が引き、痛みが慢性期に移行した亜急性期以降は、血行を促進して組織の回復を助けるために温湿布が有効な場合があります。

ただし、温めるタイミングは症状によって異なるため、自己判断に迷う場合は医師や薬剤師に相談することをおすすめします。

Q. 痛みが引いたら運動を再開しても良いですか?

A. 痛みがなくなったことをもって「治癒した」と判断し、すぐに元のレベルの運動を再開するのは危険です。

痛みがないことと、膝が運動の負荷に耐えられる状態であることはイコールではありません。

筋力や関節の可動域、バランス能力などが十分に回復していない段階で復帰すると、再発のリスクが非常に高くなります。

運動の再開は、ジョギングなどの軽いものから始め、徐々に強度を上げていく必要があります。復帰のタイミングについては、医師や理学療法士による専門的な判断を仰ぐのが最も安全です。

Q. サポーターは常に着けていた方が良いですか?

A. サポーターは膝を安定させる上で有効ですが、常に装着していると、膝周りの筋肉を使う機会が減り、かえって筋力低下を招く可能性があります。

また、サポーターに頼ることで、身体が本来持つバランス能力を養う機会を失ってしまうことも考えられます。

基本的には、スポーツをする時や、重いものを持つ時など、膝に大きな負担がかかることが予想される場面で補助的に使用するのが望ましいです。

日常生活ではなるべく外し、自分の筋力で膝を支えることを意識しましょう。

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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