足立慶友医療コラム

整形外科で行う股関節痛の診断と治療計画

2025.11.10

股関節に痛みを感じると、歩行や立ち座りといった日常の基本的な動作にも支障をきたし、生活の質(QOL)が大きく低下することがあります。

「この痛みは一時的なものだろうか」「どのタイミングで病院に行けばいいのか」と悩む方も少なくありません。

特に「股関節の痛み」で「整形外科」の受診を考えるとき、どのような検査が行われ、どのような治療法が提案されるのか、不安に思うこともあるでしょう。

この記事では、整形外科で股関節痛の診断を受ける際の流れや、主な治療計画について、基本的な情報を分かりやすく解説します。

ご自身の症状を理解し、医師と相談しながら適切な一歩を踏み出すための参考にしてください。

股関節の痛みが気になったら?整形外科を受診する目安

股関節の痛みを覚えた場合、整形外科を受診するタイミングは、痛みの強さ、持続期間、そして日常生活への影響度によって判断します。

安静にしていても痛みが続く、歩くのが困難、痛みが徐々に強くなっている、といった場合は、早めに専門医に相談することが重要です。

こんな症状が出たら要注意

股関節の異常を示すサインは、痛みだけではありません。以下のような症状が見られた場合、整形外科の受診を検討してください。

例えば、「歩き始めに足の付け根が痛む」「長時間歩くと痛みが強くなる」「靴下を履く動作や足の爪切りが難しくなった」「股関節が固まったように感じ、開脚やあぐらができない」「安静時や夜間にズキズキと痛む」といった症状です。

また、痛みだけでなく、「股関節周辺の違和感」や「クリック音(引っかかるような音)」、「左右の足の長さに違いを感じる」場合も注意が必要です。

これらの症状は、股関節の病気の初期段階である可能性もあります。

痛みの種類と特徴

股関節の痛みは、その原因によって現れ方が異なります。「鋭い痛み」「鈍い痛み」「ズキズキする痛み」「重だるい痛み」など、感じ方は様々です。

また、痛むタイミングも重要です。「動かし始めだけ痛い」「特定の動作(階段の上り下り、立ち上がりなど)で痛い」「安静にしていても痛い」「夜、寝ているときに痛む(夜間痛)」など、いつ、どのような状況で痛むのかを把握しておくと、診断の助けになります。

痛みの場所による違い

「股関節が痛い」と感じる場所は、人によって微妙に異なります。

足の付け根(そけい部)が痛む場合が最も一般的ですが、お尻の横(大転子部)、お尻の奥、太ももの前面や内側、時には膝に痛みを感じることもあります(関連痛)。

痛む場所が股関節から離れているように感じても、原因は股関節にある可能性があります。どこがどのように痛むのかを正確に把握することが大切です。

市販薬で様子を見るべきか、すぐに受診すべきか

軽い痛みや筋肉痛のような一時的な痛みであれば、市販の湿布薬や鎮痛薬を使用しながら安静にし、数日間様子を見ることも一つの方法です。

しかし、市販薬を使用しても痛みが改善しない、または悪化する場合、痛みが1週間以上続く場合、日常生活に支障が出ている場合は、自己判断を続けずに整形外科を受診してください。

特に、転倒などの外傷後や、急に激しい痛みが出現した場合は、骨折などの可能性も否定できないため、速やかな受診が必要です。

痛みの原因を特定し、適切な治療を開始することが、症状の悪化を防ぎ、早期回復につながります。

整形外科における股関節痛の診断の流れ

整形外科を受診すると、股関節痛の原因を特定するために、まずは詳しい問診と診察を行います。その後、必要に応じて画像検査やその他の検査を進め、総合的に診断を確定していきます。

正確な診断が、適切な治療計画の第一歩です。

まずは問診から始まる

診察室に入ると、医師があなたの症状について詳しく尋ねます。問診は、痛みの原因を探る上で非常に重要な情報源です。

いつから痛むのか、どこが痛むのか、どのような時に痛むのか、痛みの強さ、過去の病歴やケガ、現在服用中の薬、職業やスポーツ歴など、多岐にわたる質問があります。

これらの情報から、医師は考えられる病気を絞り込んでいきます。

医師に伝えるべき情報

問診をスムーズに進め、より正確な診断につなげるためには、事前に情報を整理しておくと良いでしょう。

確認項目具体的に伝える内容の例
症状の開始時期「3ヶ月前から」「先週の○○の後から急に」
痛む場所「足の付け根の内側」「お尻の横」「歩くと太ももまで響く」
痛む状況・動作「立ち上がる時」「階段を上る時」「長時間座った後」
症状の経過「だんだん痛みが強くなっている」「良くなったり悪くなったりを繰り返す」
日常生活への影響「靴下が履きにくい」「10分以上歩けない」「痛みで目が覚める」

身体の動きを確認する診察

問診の次は、医師が直接股関節の状態を調べる「身体診察(視診・触診・徒手検査)」を行います。

まず、立っている姿勢や歩き方(跛行:はこう、足を引きずること)を観察します。

次に、ベッドに横になり、医師が患者の足を動かして股関節の可動域(どれくらい動くか)や、特定の動作で痛みが出るか(誘発テスト)を確認します。

また、股関節周辺を押して圧痛(押したときの痛み)の有無や、筋肉の張り具合、左右の足の長さに違いがないかなども調べます。

この診察によって、股関節のどの部分に問題があるのか、より具体的に把握します。

画像検査で原因を探る

問診と身体診察で得られた情報をもとに、股関節内部の状態を視覚的に確認するため、画像検査を行います。痛みの原因となっている骨や軟骨、筋肉、靭帯などの状態を評価します。

レントゲン(X線)検査

整形外科で最も一般的に行われる画像検査です。主に骨の状態を確認するために用います。

股関節の骨の形、骨と骨の隙間(関節裂隙:かんせつれつげき)の幅、骨棘(こつきょく:骨のトゲ)の有無、骨折や脱臼がないかなどを評価します。

変形性股関節症の進行度を判断する上で基本となる検査です。複数の角度から撮影することが一般的です。

MRI検査・CT検査

レントゲン検査だけでは診断が難しい場合や、より詳細な情報が必要な場合に行います。 MRI(磁気共鳴画像)検査は、磁力と電波を使って体の断面図を撮影する検査です。

レントゲンでは映らない軟骨、関節唇(かんせつしん)、筋肉、靭帯、腱などの軟部組織の状態を詳しく調べることができます。

関節唇損傷や、骨の内部の微細な変化(骨壊死など)の診断に有用です。

CT(コンピュータ断層撮影)検査は、X線を使って体の断面図を撮影する検査です。レントゲンよりも骨の形状を3次元的かつ詳細に把握することができます。

複雑な骨折や、骨の形態異常(大腿骨寛骨臼インピンジメントなど)の評価に役立ちます。

必要に応じて行うその他の検査

上記の検査でも診断が確定しない場合や、他の病気(例えば、感染症やリウマチ性の病気)が疑われる場合には、追加の検査を行うことがあります。

血液検査は、体内の炎症反応や、特定の病気に関連するマーカー(リウマチ因子など)を調べるために行います。

また、痛みの原因が股関節内部にあることを確認するため、局所麻酔薬を股関節に注射する「関節ブロック注射」を行い、痛みが軽減するかどうかを見ることもあります。

股関節の痛みを引き起こす主な病気

整形外科で診断される股関節痛の原因は多岐にわたりますが、中高年以降で最も多いのは「変形性股関節症」です。

その他にも、スポーツ活動などに関連する病気や、外傷によるものなどがあります。

変形性股関節症

股関節の軟骨がすり減り、骨の変形が生じる病気です。中高年の女性に多く見られます。

初期は立ち上がりや歩き始めに足の付け根に痛みを感じる程度ですが、進行すると安静時や夜間にも痛むようになり、股関節の動きが悪くなります(可動域制限)。

生まれつき股関節の骨盤側の受け皿(寛骨臼)が浅い「臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)」が背景にある場合が多いとされています。

股関節唇損傷

股関節の受け皿(寛骨臼)の縁にある、軟骨でできた「関節唇」という組織が損傷する病気です。スポーツや日常生活での繰り返す動作、または一度の外傷によって起こることがあります。

股関節を深く曲げたり、ひねったりする動作で足の付け根に鋭い痛みや「引っかかり感」を感じることが特徴です。変形性股関節症の初期段階である場合もあります。

大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)

股関節を動かしたときに、太ももの骨(大腿骨)の首の部分と、骨盤の受け皿(寛骨臼)の縁が衝突(インピンジメント)することで、痛みや関節唇損傷を引き起こす状態です。

骨の形態的な異常(骨の出っ張りなど)が原因で起こります。特に股関節を深く曲げる動作(しゃがみ込みなど)で痛みが出やすいのが特徴です。

比較的若い世代や、スポーツ選手に見られることもあります。

その他の考えられる原因

股関節の痛みの原因は、上記以外にも様々です。年齢や活動レベル、症状の出方によって疑われる病気は異なります。

病名・状態主な特徴どのような人に見られやすいか
大腿骨頭壊死症大腿骨の先端(骨頭)への血流が悪くなり、骨が壊死する病気。急に強い痛みが出現することがある。アルコール多飲やステロイド薬の使用に関連することがある。
関節リウマチ免疫の異常により関節に炎症が起こる病気。股関節だけでなく、他の関節(手足の指など)にも症状が出ることが多い。朝のこわばりを伴うことが多い。
スポーツヘルニア(鼠径部痛症候群)サッカーや陸上競技など、体をひねる動作やキック動作を繰り返すスポーツ選手に多い。鼠径部周辺の痛み。スポーツ選手。
腰椎由来の痛み腰の神経が圧迫されること(腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症など)で、お尻や太もも、足の付け根に痛みが出ることがある(関連痛)。腰痛を伴うことが多いが、腰痛がない場合もある。

整形外科での股関節痛に対する保存的治療

診断の結果、手術を必要としない場合や、まずは症状の緩和を目指す場合、「保存的治療」を行います。

保存的治療は、手術以外の治療法全般を指し、主に薬物療法、リハビリテーション、日常生活の指導の3つが柱となります。

薬物療法

痛みを和らげ、炎症を抑えることを目的として薬を使用します。症状の強さや患者の状態に合わせて、内服薬(飲み薬)、外用薬(貼り薬や塗り薬)を使い分けます。

痛みが強い場合には、股関節に直接注射(関節内注射)を行うこともあります。

ただし、薬物療法は根本的な原因を治すものではなく、あくまで症状を緩和するため(対症療法)のものです。リハビリや日常生活の改善と並行して行うことが大切です。

飲み薬・貼り薬・塗り薬の種類

使用する薬剤にはいくつかの種類があり、それぞれの特徴や注意点があります。

薬剤の種類主な目的具体例
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)痛みと炎症を抑える内服薬、湿布薬、塗り薬(ゲル・クリーム)
アセトアミノフェン痛みを和らげる(鎮痛)内服薬
その他(補助薬)神経性の痛みや慢性的な痛みを和らげる医師の判断により処方される場合がある

リハビリテーション(運動療法)

保存的治療の中核となるのがリハビリテーションです。理学療法士などの専門家の指導のもと、股関節の状態に合わせた運動を行います。

目的は、痛みの軽減、股関節の可動域の維持・改善、股関節周囲の筋力強化です。筋力をつけることで股関節への負担を減らし、安定性を高めることができます。

また、関節が硬くなるのを防ぎ、よりスムーズな動きを可能にします。

股関節周囲の筋力トレーニング

股関節を支える筋肉、特にお尻の筋肉(中殿筋など)や太ももの筋肉を鍛えることが重要です。自宅でも継続して行うことが大切です。

運動の例目的簡単な方法
中殿筋トレーニング歩行時の股関節の安定性を高める横向きに寝て、上側の脚をまっすぐ伸ばしたままゆっくり持ち上げる
大腿四頭筋トレーニング膝を支え、股関節の動きを助ける椅子に浅く座り、片脚の膝をまっすぐ伸ばして数秒間保持する
水中ウォーキング浮力により股関節への負担を減らして筋力を鍛えるプールで(可能であれば)行う

可動域訓練(ストレッチ)

痛みによって股関節を動かさなくなると、関節が硬くなり(拘縮:こうしゅく)、さらに動きが悪くなるという悪循環に陥ることがあります。

痛みが出ない範囲で、股関節をゆっくりと大きく動かすストレッチを行い、関節の柔軟性を保つことが大切です。

ただし、無理に行うと逆効果になることもあるため、どの方向にどれくらい動かして良いかは、医師や理学療法士の指導を受けるようにしてください。

日常生活の指導と工夫

股関節に負担をかける生活習慣を見直すことも、症状の悪化を防ぐために重要です。体重が重いと、歩くだけで股関節に大きな負担がかかります。

適正体重を維持するための食事指導や、運動の工夫が求められます。また、和式トイレや床に座る生活(正座、あぐら)は、股関節を深く曲げるため負担が大きくなります。

できるだけ洋式の生活(椅子、ベッド、洋式トイレ)に変える工夫も有効です。

股関節に負担をかけない動作

日常の何気ない動作も、少し意識を変えるだけで股関節への負担を減らすことができます。

動作負担の少ない工夫
床の物の拾い方膝をついて拾う、またはマジックハンドなど道具を使う
立ち上がり手すりやテーブルに手をつき、腕の力も使って立つ
靴下・靴の履き方椅子に座って履く、靴べらやソックスエイドを使う
歩行痛みが強い時は杖(T字杖)を痛い側と反対の手に持つ

症状が改善しない場合の外科的治療(手術)

保存的治療を一定期間(通常3ヶ月〜6ヶ月程度)続けても痛みが改善しない、日常生活への支障が大きい、または画像検査で明らかな構造的な問題(進行した変形、大きな関節唇損傷など)がある場合、外科的治療(手術)を検討します。

手術を検討するタイミング

手術を決定する上で最も重要なのは、患者自身が「痛みや生活の不便さをどの程度解消したいか」という点です。

年齢や活動レベル、仕事の内容、将来的にどのような生活を送りたいかを考慮し、医師と十分に話し合って決定します。

保存的治療で痛みがコントロールできており、日常生活に大きな不満がなければ、すぐに手術を選ぶ必要はありません。

逆に、痛みのために仕事や趣味をあきらめている、夜も眠れないほどの痛みがあるといった場合は、手術が有効な選択肢となります。

主な手術方法の種類

股関節の手術には、病気の種類や進行度、年齢などに応じていくつかの方法があります。それぞれの手術には特徴があり、目指すゴールが異なります。

関節鏡視下手術

関節鏡(かんせつきょう)と呼ばれる細い内視鏡(カメラ)を股関節に挿入し、モニターで見ながら行う手術です。

小さな傷(数カ所)から器具を挿入して、損傷した関節唇の修復や、衝突の原因となる骨の出っ張り(インピンジメント)の切除などを行います。

比較的侵襲(体への負担)が少なく、早期の社会復帰が期待できます。主に、股関節唇損傷やFAI(大腿骨寛骨臼インピンジメント)が対象となります。

人工股関節置換術

変形性股関節症や大腿骨頭壊死症などが進行し、軟骨がすり減り、骨の変形が著しい場合に行われる手術です。

損傷した股関節(大腿骨頭と寛骨臼)を取り除き、金属やセラミック、ポリエチレンなどでできた人工の関節に置き換えます。

除痛効果(痛みが取れる効果)が非常に高く、多くの場合、手術後は痛みなく歩行できるようになります。

人工関節の耐久性も向上しており、長期的な成績も安定しています。

骨切り術

自分の関節を温存する手術の一つです。骨盤側(寛骨臼)や大腿骨側の骨を切り、股関節のかみ合わせを良くするように骨の向きを変えて固定します。

変形性股関節症の初期から中期で、臼蓋形成不全など骨の形態に問題がある、比較的若い患者が対象となることが多いです。

自分の関節が残るため、術後の活動性に制限が少ない利点がありますが、リハビリ期間は長くなる傾向があります。

手術のメリットとリスク

手術は痛みの根本的な原因にアプローチできる可能性がある一方で、どのような手術にも一定のリスクが伴います。

メリットとリスクを天秤にかけ、納得した上で治療法を選択することが大切です。

項目メリット(期待できること)リスク・注意点(起こりうること)
共通痛みの劇的な改善
可動域の改善
日常生活の質の向上
感染症
血栓症(エコノミークラス症候群)
出血、神経・血管損傷
人工関節特有早期からの歩行練習が可能脱臼
人工関節のゆるみ・摩耗(将来的な再手術の可能性)
活動(スポーツなど)への一部制限
骨切り術特有自分の関節が温存される
スポーツ復帰の可能性が高い
骨がつくまでの時間がかかる(リハビリが長期)
変形が残る、または再発の可能性

治療計画の立て方と医師との関わり

股関節痛の治療は、医師が一方的に決めるものではありません。

患者自身の生活背景や希望を踏まえ、医師と相談しながら、一人ひとりに合った治療計画を立てていくことが、治療を成功させる鍵となります。

患者の状態に合わせた個別計画

股関節痛の原因、進行度、年齢、性別、職業、どの程度活動的か(スポーツや趣味)、さらには痛みに対する考え方(「多少痛くても動きたい」「とにかく痛みをゼロにしたい」)は、人によって全く異なります。

整形外科では、問診や検査の結果に基づき、これらの個人的な要因をすべて考慮して、その人にとって最も望ましいと考えられる治療の選択肢を提示します。

例えば、同じ変形性股関節症でも、初期で痛みが軽ければリハビリ中心、進行期で痛みが強ければ手術を検討、といった具合です。

治療目標の設定

治療計画を立てる上で、「何を目指すのか」というゴールを医師と共有することが非常に重要です。

「痛みを今の半分にしたい」「杖なしで旅行に行けるようになりたい」「趣味のゴルフを再開したい」など、具体的な目標を設定します。

この目標(ゴール)が明確であるほど、治療(リハビリや生活改善)への意欲も高まります。また、達成可能な現実的な目標を設定することで、治療の進捗を確認しやすくなります。

定期的な診察と計画の見直し

一度立てた治療計画が、最後までずっと同じとは限りません。

治療を開始した後も定期的に整形外科を受診し、症状がどのように変化したか、治療(薬やリハビリ)の効果は出ているか、副作用はないかなどを医師が確認します。

もし、保存的治療を続けても痛みが改善しない、あるいは悪化するようであれば、治療計画を見直す必要があります。

例えば、薬の種類を変更する、リハビリの内容を調整する、あるいは手術治療へ方針を変更するなど、その時々の状態に応じて柔軟に対応していきます。

医師に確認すべきこと

医師から診断や治療方針の説明を受ける際は、分からないことや不安なことは遠慮せずに質問することが大切です。

納得して治療を受けるために、以下のような点は確認しておくと良いでしょう。

  • 自分の股関節痛の正確な病名
  • なぜこの治療法(薬、リハビリ、手術)を勧めるのか
  • その治療の具体的な内容と期待できる効果
  • 治療に伴う可能性のあるリスクや副作用
  • 治療を受けなかった場合、今後どうなる可能性があるか
  • 他の治療法の選択肢はあるか

股関節の痛みを悪化させないためのセルフケア

整形外科での治療と並行して、自分自身でできること(セルフケア)に取り組むことも、股関節痛の管理には欠かせません。

股関節への負担を減らし、良い状態を維持するための日常的な工夫が、症状の悪化を防ぎます。

適正体重の維持

体重が重いと、立ったり歩いたりする際に、股関節にかかる負担が何倍にも増大します。体重が1kg増えるだけでも、股関節にはその数倍の負荷がかかると言われています。

もし体重が標準よりも多い場合は、減量するだけでも股関節の痛みが和らぐことが期待できます。

ただし、無理な食事制限は筋力低下につながるため、バランスの取れた食事を心がけ、医師や栄養士の指導を受けながら健康的に体重をコントロールすることが重要です。

適切な靴選び

足元(靴)の状態も、股関節に影響を与えます。かかとが不安定な靴や、クッション性のない硬い靴底の靴は、歩行時の地面からの衝撃が直接股関節に伝わりやすくなります。

靴を選ぶ際は、かかとがしっかりしていて、足の甲が固定でき(紐やベルトがあるものが望ましい)、クッション性が良く、つま先に適度な余裕がある靴を選びましょう。

自分の足に合っていない靴は、歩行バランスを崩し、股関節だけでなく膝や腰にも負担をかける原因となります。

股関節を冷やさない工夫

股関節周囲が冷えると、筋肉が硬くなり、血行が悪くなることで痛みが強くなることがあります。特に寒い季節や、夏場の冷房が効いた室内では注意が必要です。

股関節を冷やさないように温める(保温する)ことは、痛みの緩和に有効なセルフケアの一つです。

日常でできる簡単な工夫

特別な道具を使わなくても、日常の少しの心がけで股関節を温かく保つことができます。

場面保温の工夫
入浴時シャワーだけでなく、湯船にゆっくり浸かり、股関節までしっかり温める
服装夏場でも薄手の腹巻きやサポーター、レッグウォーマーなどを着用する
室内冷房の風が直接当たらないようにし、膝掛けなどを使って下半身を冷やさない

よくある質問

股関節の痛みの原因は、レントゲンだけでわかりますか?

レントゲン(X線)検査は、骨の変形や関節の隙間の状態を評価するのに非常に有効で、変形性股関節症の診断には欠かせません。

しかし、レントゲンには軟骨や関節唇、筋肉といった軟部組織は映らないため、これらの組織の異常が痛みの原因である場合(例:初期の変形性股関節症、関節唇損傷など)、レントゲンだけでは異常なしと判断されることもあります。

問診や身体診察、必要に応じてMRI検査などを組み合わせて総合的に診断します。

リハビリはどのくらいの頻度で通う必要がありますか?

リハビリ(運動療法)の適切な頻度は、患者さんの股関節の状態、痛みの強さ、生活環境(通院のしやすさ)などによって異なります。

病院やクリニックで理学療法士の指導を週に1〜2回程度受け、それ以外の日は指導された内容(自主トレーニング)を自宅で行う、という形式が一般的です。

重要なのは、病院でリハビリを受けること自体よりも、正しい運動の方法を学び、それを日常生活の中で継続することです。

手術を勧められましたが、すぐに決断できません。

手術は大きな決断です。医師から手術を勧められた場合でも、その場で即決する必要はありません。

まずは、なぜ手術が必要なのか、手術によってどのような改善が期待できるのか、そして手術に伴うリスクは何か、といった情報を医師から十分に説明してもらうことが大切です。

その上で、ご自身の生活や価値観と照らし合わせ、家族とも相談しながら、納得いくまで考える時間を持つことが重要です。

セカンドオピニオン(他の医師の意見を聞くこと)も選択肢の一つです。

治療期間はどれくらいかかりますか?

治療期間は、股関節痛の原因となっている病気の種類、重症度、選択する治療法(保存的治療か手術か)によって大きく異なります。

保存的治療の場合、症状が安定するまでに数ヶ月単位の時間がかかることも珍しくありません。リハビリや生活改善は、長期的に継続する必要があります。

手術(例えば人工股関節置換術)の場合、入院期間は病院の方針にもよりますが数週間程度で、術後のリハビリを経て社会復帰するまでには数ヶ月程度を見込むのが一般的です。

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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