足立慶友医療コラム

股関節の痛みが起こる原因と治癒までの過程

2025.11.07

股関節の痛みに悩んでいませんか?「なぜ痛むのだろう」「この痛みは治るのか」と不安を感じている方も多いでしょう。

股関節の痛みの原因は、日常生活のささいな癖から、加齢による変化、特定の病気まで様々です。

この記事では、『股関節の痛みが起こる原因と治癒までの過程』というテーマで、痛みの背景にある要因を深掘りし、身体が回復していく一般的な流れを分かりやすく解説します。

ご自身の状態を正しく理解し、不安を和らげるための一助として、ぜひお役立てください。

股関節の痛みとは? まず知っておきたい基本

股関節は私たちの体を支え、活動的な生活を送るために非常に重要な役割を担っています。しかし、その重要性ゆえに負担もかかりやすく、痛みが出やすい部位でもあります。

まずは股関節の基本的な構造と、痛みが発生したときのサインについて理解を深めましょう。

股関節の役割と重要性

股関節は、太ももの骨(大腿骨)の先端にある球状の部分(大腿骨頭)が、骨盤のくぼみ(臼蓋)にはまり込む形をしている、体で最も大きな関節の一つです。

この球関節という構造のおかげで、足を前後、左右、そして回すといった非常に自由度の高い動きが可能になります。

この関節は、単に足を動かすだけでなく、上半身の体重を支え、それを両足に分散させるという重大な役目も担っています。

歩く、走る、立つ、座るといった日常のあらゆる動作は、股関節が正常に機能することによって成り立っています。

歩行時には体重の数倍の負荷がかかることもあり、その衝撃を吸収し、スムーズな動きを生み出すために、関節の表面は滑らかな軟骨で覆われ、周囲は強力な筋肉や靭帯で支えられています。

股関節の主な働き

  • 体重の支持
  • 歩行や走行時の衝撃吸収
  • 脚の多方向への動き(曲げる、伸ばす、開く、閉じる、回す)

痛みが出やすい場所と特徴

「股関節が痛い」と感じる場所は、人によって様々です。最も一般的には、足の付け根(鼠径部)に痛みを感じるケースが多いです。

しかし、痛みの原因によっては、お尻の横(太ももの付け根の外側)、お尻の後ろ側、または太ももの前面や膝のあたりにまで痛みが放散することもあります。

これは、股関節に関連する神経が、お尻や太もも、膝の周辺にも分布しているためです。

そのため、膝が痛いと思っていても、調べてみると原因は股関節にあった、というケースも少なくありません。

痛みの感じ方も、「ズキズキする」「ジンジンする」「動かし始めが痛い」「特定の角度で電気が走るように痛む」など、多岐にわたります。

痛みの感覚と場所の例

痛みの場所感覚の特徴考えられる背景
足の付け根(鼠径部)動かし始めの痛み、鈍い痛み関節自体の問題(軟骨のすり減りなど)
お尻の横・外側押すと痛い、歩くと痛い筋肉や腱(中殿筋など)の炎症
太もも・膝しびれるような痛み、だるさ神経の圧迫、関連痛

「痛み」以外のサインに注意

股関節の問題は、必ずしも「痛み」として最初に現れるとは限りません。初期段階では、痛みよりも「違和感」や「動かしにくさ」として自覚することがあります。

例えば、「靴下を履く動作がやりにくくなった」「足の爪が切りにくい」「あぐらをかくのがつらい」「階段の上り下りで足が上がりにくい」といった、関節の可動域(動く範囲)の制限が先に現れることもあります。

また、歩いていると「何となく股関節がカクカクする」「力が入りにくい」と感じるのも、注意すべきサインです。

これらの小さな変化は、股関節が何らかの不調を抱えていることを示しており、痛みの前兆である可能性も考えられます。

なぜ痛む? 股関節の痛みを引き起こす主な原因

股関節の痛みの原因は一つではありません。日常生活の習慣が積み重なって起こるものから、加齢による変化、あるいは特定の病気が背景にあるものまで、非常に多岐にわたります。

ここでは、股関節の痛みを引き起こす代表的な原因をいくつか紹介します。

姿勢や動作の癖による負担

私たちの体は、日々の無意識な癖や姿勢のアンバランスから影響を受けます。

例えば、いつも同じ側でカバンを持つ、足を組む癖がある、片足に体重をかけて立つことが多い、といったことです。

これらの癖は、骨盤の歪みや左右の筋力バランスの偏りを生み出します。

骨盤が歪むと、股関節のはまり具合にも微妙なズレが生じ、特定の筋肉に過剰な緊張がかかったり、関節の特定の部分にだけ負担が集中したりします。

長期間にわたりこのようなアンバランスな状態が続くと、筋肉が硬くなって血流が悪くなったり、関節の周囲で炎症が起きたりして、痛みを引き起こす原因となります。

加齢に伴う軟骨のすり減り(変形性股関節症)

股関節の痛みの原因として非常に多いのが「変形性股関節症」です。

これは、長年にわたって股関節を使い続けることで、衝撃を吸収するクッションの役割を果たしていた関節軟骨がすり減っていく状態を指します。

軟骨がすり減ると、骨と骨が直接こすれ合うようになり、関節の中で炎症が起こります。

この炎症が痛みの主な原因です。進行すると、関節の隙間が狭くなったり、骨の縁に「骨棘(こつきょく)」と呼ばれるトゲのようなものができたりして、関節の変形が進みます。

この状態になると、動かせる範囲が狭くなったり、安静にしていても痛んだりすることがあります。

特に日本では、生まれつき骨盤のくぼみ(臼蓋)が浅い「臼蓋形成不全」の人が多く、この場合、軟骨にかかる負担が大きいため、比較的若い年齢から変形性股関節症を発症しやすい傾向があります。

臼蓋形成不全と変形性股関節症

状態特徴股関節への影響
正常な股関節大腿骨頭が臼蓋でしっかり覆われている体重が広範囲に分散され、負担が少ない
臼蓋形成不全臼蓋のくぼみが浅く、骨頭の覆いが不十分狭い範囲に体重が集中し、軟骨がすり減りやすい
変形性股関節症軟骨がすり減り、骨が変形している炎症による痛み、可動域の制限

筋肉や腱の炎症

股関節の痛みは、必ずしも骨や軟骨だけの問題ではありません。

股関節の周りには、お尻の筋肉(殿筋群)や太ももの筋肉、関節を安定させる小さな筋肉(深層外旋六筋)など、多くの筋肉や腱(筋肉が骨に付着する部分)が存在します。

スポーツや仕事での繰り返しの動作、急な運動による使いすぎ(オーバーユース)によって、これらの筋肉や腱に炎症が起こることがあります。

例えば、ランニングやジャンプ動作を繰り返すことで、股関節の外側にある「大転子」という骨の部分で炎症が起こる「大転子部痛症候群(または中殿筋腱炎)」などがあります。

この場合、関節自体に異常がなくても、特定の動作をしたり、炎症部分を押したりすると強い痛みを感じます。

特定の病気や外傷

頻度は多くありませんが、他の病気が原因で股関節が痛むこともあります。

例えば、関節リウマチのような自己免疫疾患は、全身の関節で炎症を引き起こし、股関節もその対象となることがあります。

また、「大腿骨頭壊死症」という、大腿骨頭への血流が悪くなり、骨の組織が壊死してしまう病気もあります。

これは、ステロイド剤の大量使用やアルコールの多飲が関連するといわれますが、原因不明の場合もあります。

その他、転倒や事故による「骨折」や「脱臼」などの外傷は、当然ながら強い痛みの原因となります。

特に高齢者の場合、骨粗しょう症で骨がもろくなっていると、軽く尻もちをついただけでも股関節の付け根(大腿骨頚部)を骨折することがあり、注意が必要です。

日常生活に潜む股関節痛のリスク要因

股関節の痛みは、ある日突然始まるように感じるかもしれませんが、実は長年の生活習慣が深く関わっていることが少なくありません。

どのような行動が股関節への負担を増やしているのか、ご自身の生活を振り返ってみましょう。

長時間同じ姿勢を続ける仕事

デスクワークで長時間座りっぱなし、あるいは立ち仕事でずっと同じ場所に立ち続ける。こうした「同じ姿勢」の維持は、股関節にとって大きな負担となります。

特に座っている姿勢では、股関節は常に曲がった状態になります。この状態が長く続くと、股関節の前側にある筋肉(腸腰筋など)が縮こまって硬くなり、血流も悪化します。

硬くなった筋肉は、立ち上がろうとするときにスムーズに伸びず、股関節や腰に負担をかけて痛みを引き起こすことがあります。

また、悪い姿勢(猫背、反り腰、浅く腰掛けるなど)で座っていると、骨盤が後ろに倒れたり、逆に前に傾きすぎたりして、股関節の正常な位置関係が崩れ、負担がさらに増大します。

運動不足による筋力低下

股関節は、多くの強力な筋肉によって支えられ、安定しています。

お尻の筋肉(大殿筋、中殿筋)、太ももの筋肉(大腿四頭筋、ハムストリングス)、お腹のインナーマッスル(腹横筋など)が連携して働くことで、体重を支え、スムーズな動きを可能にしています。

しかし、運動不足の状態が続くと、これらの「股関節を支える筋肉」が衰えていきます。筋力が低下すると、股関節の安定性が損なわれ、歩行時などの衝撃を筋肉で十分に吸収できなくなります。

その結果、衝撃が直接、関節の軟骨や骨にかかることになり、摩耗や炎症を早める原因となります。

また、筋力が弱いと正しい姿勢を維持するのも難しくなり、姿勢の崩れからさらなる負担を招くという悪循環に陥りやすくなります。

股関節の安定に関わる主な筋肉

筋肉群主な役割低下すると起こりやすいこと
殿筋群(お尻)股関節を伸ばす、外に開く、安定させる歩行時のふらつき、姿勢の崩れ
腸腰筋(股関節前面)股関節を曲げる(もも上げ)つまずきやすい、歩幅が狭くなる
内転筋群(太もも内側)股関節を閉じる、安定させるO脚の進行、歩行時の不安定感

過度なスポーツや体重の負荷

運動不足が問題になる一方で、過度な運動も股関節を痛める原因となり得ます。

ランニング、ジャンプ、急な方向転換を伴うスポーツ(サッカー、テニス、バスケットボールなど)は、股関節に繰り返し強い衝撃とねじれのストレスを与えます。

十分なウォームアップやクールダウン、正しいフォームの習得、適切な筋力トレーニングを行わずにこれらの運動を続けると、筋肉や腱、軟骨を痛めるリスクが高まります。

また、体重の管理も非常に重要です。先に述べたように、股関節は体重を支える重要な関節です。体重が増加すると、その分、股関節にかかる負荷は直接的に増大します。

歩行時でさえ体重の3〜4倍の負荷がかかるといわれており、体重が1kg増えるだけで、股関節への負担は数kg単位で増加します。

この持続的な過剰負荷は、軟骨のすり減りを加速させ、変形性股関節症の発症や進行を早める大きな要因となります。

痛みの段階と進行 自分の状態を知る

股関節の痛みは、多くの場合、ゆっくりと進行します。初期のわずかな違和感から、日常生活に支障をきたすほどの強い痛みまで、その段階は様々です。

ご自身の痛みがどの段階にあるのかを把握することは、現状を理解し、適切に対処するために役立ちます。

初期症状 感じ始めの違和感

最も早い段階では、「痛み」というよりも「違和感」や「こわばり」として感じることが多いです。

例えば、朝起きたときや、長時間座っていてから立ち上がる「動作の開始時」に、股関節のあたりがギシギシする、重だるい、スムーズに動かない、といった感覚です。

少し動いているうちにその違和感は消えてしまうため、「年のせいかな」「ちょっと疲れているだけかな」と見過ごしてしまいがちです。

この段階では、まだ軟骨のすり減りは軽度か、あるいは筋肉の疲労やこわばりが主な原因であることも多いです。

しかし、これは股関節が「少し負担がかかりすぎているよ」と発している最初のサインであり、生活習慣を見直す良い機会でもあります。

中期症状 日常動作への支障

初期症状を放置していると、違和感がだんだんと明確な「痛み」に変わってきます。

動作の開始時だけでなく、歩いている途中や、階段の上り下りといった特定の動作で痛みを感じるようになります。

この段階になると、日常生活にも具体的な支障が出始めます。

「靴下を履くのがつらい」「あぐらがかけない」「車の乗り降りが painful」「長い距離を歩くと痛くなって休まなければならない(間欠性跛行)」といった症状です。

これは、関節の炎症が強くなったり、軟骨のすり減りが進行して関節の動きが制限されたりするために起こります。

痛みをかばうために、無意識に歩き方が変わり、反対側の腰や膝にまで負担がかかってしまうこともあります。

痛みの進行と日常動作の変化

段階痛みの特徴支障が出やすい日常動作
初期動作開始時の違和感、こわばり、重だるさ長時間座った後の立ち上がり
中期歩行時や階段昇降時の明確な痛み靴下履き、爪切り、長距離歩行、あぐら
後期安静時痛(夜間痛)、持続的な強い痛みほぼ全ての動作、睡眠

後期症状 安静時にも痛む

さらに進行が進むと、関節の変形が著しくなり、炎症が常態化します。

この段階では、何か動作をしているときだけでなく、じっとしていても痛む「安静時痛」や、夜寝ているときに痛みで目が覚めてしまう「夜間痛」が現れることがあります。

股関節の動かせる範囲は極端に狭くなり、杖や歩行器などの補助具なしでは歩行が困難になることもあります。

痛みが常にあるため、精神的なストレスも大きくなり、活動量が減ることで筋力はさらに低下し、社会的な活動への参加も難しくなるなど、生活の質(QOL)が大きく低下してしまう可能性があります。

ここまで進行する前に、適切な対処を始めることが非常に重要です。

痛みを和らげ、治癒へ導くための考え方

股関節に痛みを感じたとき、多くの人が「どうすれば治るのか」と不安に思うでしょう。治癒への道は、痛みの原因や進行度によって異なりますが、基本的な考え方は共通しています。

痛みを正確に評価し、負担を減らし、体全体のバランスを整えることが鍵となります。

まずは安静と負担の軽減

股関節に強い痛みや熱感がある場合、それは「炎症」が起きているサインです。このような急性期には、無理に動かしたり、マッサージをしたりすると逆効果になることがあります。

まずは、痛みを引き起こす動作を避け、股関節を休ませることが最優先です。

スポーツや長距離の歩行など、股関節に負担をかける活動は一時的に中断します。

日常生活でも、重いものを持たない、階段の使用を避ける、痛む側を上にして横になるなど、できるだけ負担を減らす工夫をします。

炎症が強い場合は、アイシング(冷却)が痛みの緩和に有効なこともあります。この「負担を減らす」という初期対応が、その後の回復をスムーズにするための第一歩です。

専門家による適切な評価の重要性

「股関節の痛み」と一口に言っても、前述の通り、その原因は変形性股関節症、筋肉の炎症、臼蓋形成不全、あるいは他の病気など様々です。

自己判断で「ただの筋肉痛だろう」「年のせいだ」と放置してしまうと、知らず知らずのうちに状態を悪化させてしまう危険性があります。

痛みが続く場合や、日常生活に支障が出始めた場合は、必ず医療機関を受診し、医師や理学療法士などの専門家による適切な評価を受けることが重要です。

問診、触診、可動域の確認、そして必要に応じてレントゲン(X線)やMRIなどの画像検査を通じて、痛みの根本的な原因が何であるかを特定します。

この「原因の特定」こそが、適切な治癒への道筋を立てるために絶対に欠かせないことです。

身体全体のバランスを整える

股関節は、体幹(胴体)と脚をつなぐ「かなめ」のような存在です。

そのため、股関節自体の問題だけでなく、骨盤の歪み、背骨のカーブ、足首の状態、さらには上半身の使い方まで、身体全体のバランスの影響を強く受けます。

例えば、猫背の姿勢が常態化していると、骨盤が後ろに倒れやすくなり、股関節が正常に機能しにくくなります。

また、足首が硬いと、歩行時の衝撃を足首で吸収できず、その負担が膝や股関節にまで及ぶこともあります。

したがって、痛みの治癒を目指す上では、痛む股関節だけに着目するのではなく、体全体の連動性を見直し、姿勢や動作の癖を修正し、全体のバランスを整えていくという視点が非常に大切になります。

回復をサポートするセルフケアと生活改善

股関節の痛みの原因が特定され、専門家の指導を受けたら、次は日常生活の中で自分自身でできることに取り組む段階です。

日々の小さな積み重ねが、股関節への負担を減らし、回復を力強く後押しします。

股関節に優しい座り方・立ち方

私たちは一日のうちで「座る」「立つ」という動作を何度も繰り返します。この基本的な動作を見直すだけでも、股関節への負担は大きく変わります。

座るときは、椅子に深く腰掛け、骨盤を立てる(背筋を伸ばす)ことを意識します。

足の裏全体が床にしっかりと着き、膝の角度が90度か、股関節よりも少し低くなるくらいの椅子の高さが理想的です。

低すぎるソファや床にあぐら・横座りをするのは、股関節に大きな負担をかけるため、できるだけ避けるようにします。

立ち上がるときは、浅く腰掛けてから、足をお尻に近づけ、お辞儀をするように上体を前に傾けてから立つと、股関節への負担が少なくスムーズに立てます。

日常生活での姿勢の工夫

動作推奨される工夫避けるべきこと
椅子に座る深く腰掛け、骨盤を立てる。足裏全体を床につける浅く腰掛ける、足を組む、低すぎる椅子
床に座る(なるべく避け)正座や椅子を使用するあぐら、横座り、長時間のしゃがみ込み
立ち上がり一度浅く座り直し、上体を前に倒してから立つ反動をつける、片足に体重をかけて立つ

負担をかけないストレッチと筋力維持

痛みが強い時期(急性期)を過ぎたら、専門家の指導のもと、股関節の柔軟性を保つためのストレッチや、股関節を支える筋力を維持・向上させる運動(セルフエクササイズ)を行います。

重要なのは、「痛みを感じない範囲で、無理なく行う」ことです。ストレッチは、お尻、太ももの前裏、内側などを中心に、反動をつけずにゆっくりと伸ばします。

「気持ちいい」と感じる程度が適切です。筋力トレーニングは、寝たままできるような、股関節に体重がかからない(非荷重)状態での運動から始めるのが安全です。

例えば、仰向けに寝てお尻を持ち上げる「ヒップリフト」や、横向きに寝て上の足をゆっくりと持ち上げる「サイドリフト(中殿筋の運動)」などがあります。

これらの運動は、股関節の安定性を高め、再発を防ぐためにも重要です。

股関節周りの主なストレッチ対象

  • 殿筋群(お尻の筋肉)
  • 大腿四頭筋(太ももの前)
  • ハムストリングス(太ももの裏)
  • 内転筋群(太ももの内側)

体重管理と食生活の見直し

体重が股関節に与える影響は非常に大きいため、もし体重が標準よりも多い場合は、適正な体重に近づける努力が求められます。

体重をコントロールすることで、股関節への負荷を直接減らすことができ、痛みの軽減や軟骨のすり減りの進行予防に大きく貢献します。

体重管理の基本は、食事と運動のバランスです。食事においては、単に量を減らすだけでなく、栄養バランスを考えることが大切です。

特に、骨や軟骨、筋肉の材料となるタンパク質(肉、魚、大豆製品、乳製品など)や、カルシウム、ビタミンD、ビタミンKなどを意識して摂取することが推奨されます。

揚げ物や甘いものの摂りすぎに注意し、野菜や海藻類も豊富に取り入れ、バランスの良い食生活を心がけましょう。

靴選びと歩き方の工夫

足元からの衝撃は、足首、膝、そして股関節へと伝わります。この衝撃を和らげるために、靴選びは非常に重要です。

選ぶべきは、クッション性が高く、かかとが安定し、足の甲をしっかりとホールドできる靴です。

ヒールが高い靴や、底が薄すぎる靴、脱げやすいサンダルなどは、不安定な歩行を招き、股関節への負担を増やすため避けた方が賢明です。

歩き方(歩容)も意識します。痛みをかばって小股ですり足のように歩いていると、かえって筋力低下を招きます。

専門家のアドバイスを受けながら、できるだけかかとから着地し、足の裏全体を使って地面を蹴るように、大股で歩くことを意識すると、股関節周りの筋肉が適切に使われ、安定した歩行につながります。

股関節に優しい靴選びの視点

  • 十分なクッション性があるか
  • かかと部分がしっかりしているか
  • 紐やベルトで甲を固定できるか
  • つま先に余裕があるか

治癒までの一般的な流れ

股関節の痛みが治癒していく過程は、原因や個人の状態によって様々ですが、一般的にはいくつかの段階を踏んで回復していきます。

焦らず、一つひとつの段階を丁寧に進めることが、確実な回復と再発予防につながります。

痛みの原因特定

治癒への第一歩は、前にも述べた通り「なぜ痛むのか」を正確に知ることです。医療機関での詳細な検査(問診、身体所見、画像診断など)により、痛みの根本原因を突き止めます。

この「診断」が、いわば治癒へのロードマップの基盤となります。変形性股関節症なのか、筋肉の炎症(腱炎)なのか、あるいは腰からの関連痛なのか。

原因が違えば、当然ながらその後の対処法や回復にかかる時間の見通しも全く異なります。

この段階で、ご自身の体の状態について専門家から十分な説明を受け、理解を深めることが、不安を減らし、前向きに取り組むための土台となります。

炎症を抑える時期

痛みが強い「急性期」は、まず炎症を鎮めることが最優先されます。この時期の主な目的は「痛みのコントロール」です。

前述の通り、痛む動作を避けて安静を保つことが基本です。

必要に応じて、消炎鎮痛剤(内服薬や外用薬)を使用したり、物理療法(冷却、電気治療など)を行ったりして、炎症と痛みを和らげます。

この時期に無理をして動くと、炎症が長引いてしまい、かえって回復が遅れることがあります。

痛みは体からの「休んでほしい」というサインと捉え、焦らずに炎症が落ち着くのを待つことが重要です。

股関節の機能を取り戻す時期

炎症が落ち着き、痛みが和らいできたら(「亜急性期」から「慢性期」)、いよいよ股関節本来の機能を取り戻すためのリハビリテーションを開始します。

この時期の目的は、「失われた可動域(動く範囲)と筋力の回復」です。安静にしていた期間が長いほど、関節は硬く(拘縮)、筋肉は痩せて(萎縮)います。

理学療法士などの専門家の指導のもと、まずは痛みを感じない範囲で、股関節を動かすストレッチや、体重をかけない状態での筋力トレーニング(例:水中ウォーキング、エアロバイクなど)から始めます。

徐々に負荷を上げ、最終的には正しいフォームでの歩行や、日常生活の動作(しゃがむ、階段など)がスムーズに行えるように訓練していきます。

回復の段階と主な取り組み

段階主な目的具体的な取り組み
急性期(炎症期)炎症を鎮める、痛みの軽減安静、冷却、薬物療法
回復期(リハビリ期)可動域の回復、筋力の再教育ストレッチ、非荷重での筋トレ、動作練習
維持期(再発予防期)機能の維持・向上、再発防止生活習慣の継続、セルフエクササイズの習慣化

再発を防ぐための維持期

痛みがなくなり、日常生活に不自由がなくなると、そこで治癒は完了したと考えがちです。

しかし、特に変形性股関節症や生活習慣が原因であった場合、「再発を防ぐ」または「進行を遅らせる」ための取り組みは、その後も継続する必要があります。

この時期の目的は、「良い状態を維持し、再び痛みを引き起こさないこと」です。

リハビリ期に獲得した柔軟性や筋力を維持するためのセルフエクササイズを習慣化し、体重管理や、股関節に優しい生活動作(正しい座り方、靴選びなど)を続けます。

股関節に負担をかけていた根本的な原因(姿勢の癖、運動不足など)が改善されていなければ、痛みは再発しやすくなります。

治癒とは、単に痛みが取れることではなく、痛みが出にくい体と生活習慣を手に入れることでもあるのです。

股関節の痛みに関するよくある質問

ここでは、股関節の痛みに関して多くの方が抱く疑問について、一般的な情報を提供します。

Q: 股関節がポキポキ鳴るのは問題ありますか?

A: 股関節を動かしたときに「ポキッ」や「コキッ」といった音(クリック音)が鳴ることは、多くの人が経験します。

痛みを伴わない場合、その多くは生理的なものであり、過度に心配する必要はありません。

これは、関節の中のわずかな気泡が弾ける音や、腱や靭帯が骨の出っ張りを乗り越えるときの音(弾発股)であると考えられています。

ただし、その音が鳴るときに必ず痛みを伴う場合や、何かが引っかかるような感覚(キャッチング)がある場合、あるいは徐々に音が頻繁になったり痛みが強くなったりする場合は、注意が必要です。

関節の軟骨が傷ついていたり、関節唇(臼蓋の縁にある軟骨)が損傷していたりする可能性も考えられるため、専門家に相談することをお勧めします。

Q: 痛いとき、温めるのと冷やすのどちらが良いですか?

A: これは非常に多く受ける質問ですが、「痛みの時期や性質による」というのが答えになります。

一般的に「冷やす(アイシング)」のが適しているのは、急性の痛み、つまり「痛めた直後」や「運動後に熱を持っている」場合です。

炎症が強く、ズキズキと脈打つように痛むときは、冷却することで炎症と痛みを抑える効果が期待できます。

一方、「温める(温熱療法)」のが適しているのは、慢性的(こわばり、重だるさ)な痛みです。

急性期を過ぎて炎症が落ち着いた後は、温めることで筋肉の緊張がほぐれ、血流が良くなり、痛みの物質を洗い流す効果が期待できます。

お風呂で湯船に浸かると楽になる、と感じる場合はこちらに当てはまります。

どちらがよいか迷う場合、あるいは温めてみて痛みが強くなるような場合は、基本的には冷やす方が安全です。自己判断が難しい場合は、専門家のアドバイスを仰ぎましょう。

Q: どのような運動を避けるべきですか?

A: 股関節に痛みがあるときに避けるべき運動は、股関節に強い「衝撃」と「ねじれ」を加える動作です。

具体的には、ランニング、ジャンプ、急なストップや方向転換を伴うスポーツ(テニス、サッカー、バスケットボールなど)は、股関節への負担が非常に大きいため、痛みが強い時期は中断すべきです。

また、深くしゃがみ込む動作(スクワット)や、あぐら・横座りなどの股関節を大きくねじるストレッチも、関節の内部を圧迫し、痛みを悪化させる可能性があります。

運動は筋力維持に重要ですが、行う場合は股関節に体重がかからない、あるいは衝撃の少ない運動、例えば「水中ウォーキング」や「エアロバイク(サドルの高さを調整して股関節が深く曲がりすぎないようにする)」、「仰向けや横向きでの筋力トレーニング」などを、専門家の指導のもとで痛みが出ない範囲で行うことが推奨されます。

Q: 完全に元の状態に戻りますか?

A: これは、痛みの「原因」と「進行度」、そして「治癒」をどのように定義するかによります。

例えば、筋肉や腱の一時的な炎症(使いすぎ)が原因であれば、適切な休養とケアによって炎症が治まれば、痛みは解消し、多くの場合、元の運動レベルに戻ることが可能です。

一方で、変形性股関節症のように、加齢や長年の負担によってすり減ってしまった関節軟骨は、残念ながら現在の医療では元のツルツルした状態に再生させることはできません。

この場合の「治癒」とは、軟骨が元に戻ることではなく、「痛みをコントロールし、残された関節の機能を最大限に活かして、日常生活を不自由なく送れるようになること」を指します。

適切な運動療法で股関節を支える筋力を強化し、生活習慣を改善することで、軟骨がすり減っていても痛みなく生活できる状態(=機能的な治癒)を目指すことは十分に可能です。

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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