股関節の左側にのみ痛みが出る原因と治療法
歩き始めや立ち上がる瞬間、左の股関節にズキッとした痛みが走る。あるいは、長時間座っていると左側だけが重く感じる。
このように、股関節の痛みがなぜか左側に集中していると感じる方はいませんか。右側はそうでもないのに、どうして左だけが痛むのか、不安に思うかもしれません。
この記事では、股関節の痛みが左側にのみ現れる場合に考えられる主な原因を、日常生活の習慣から考えられる疾患まで幅広く解説します。
また、ご自身でできるセルフケアや、専門家による治療法についても分かりやすく紹介します。痛みの背景を理解し、適切な対処法を見つけるための一助としてください。
目次
左股関節の痛みとは?まず知っておきたい基本
左側の股関節に痛みを感じる場合、まずは股関節そのものの仕組みと、なぜ片側だけに症状が出やすいのかを知ることが大切です。
痛みの原因を探る第一歩として、基本的な知識を確認しましょう。
股関節の構造と役割
股関節は、太ももの骨である「大腿骨」の先端にある球状の「骨頭」が、骨盤の「寛骨臼」というお椀のようなソケットにはまり込む形をしています。
この構造は「球関節」と呼ばれ、非常に広い可動域を持っています。
主な役割は、体重を支えながら「立つ」「歩く」「座る」といった基本的な動作を滑らかに行うことです。
歩行時には体重の数倍の負荷がかかるため、関節の表面は弾力のある「軟骨」で覆われ、衝撃を吸収しています。また、関節の周りは強靭な「靭帯」や多くの「筋肉」によって安定させています。
なぜ左側だけに痛みが出ることがあるのか
人間は左右対称に見えますが、完全な対称ではありません。日常生活での無意識な癖や、利き手・利き足の影響で、左右の身体の使い方には偏りが生じやすいです。
例えば、いつも左足に体重をかけて立つ癖がある人や、カバンを常に左肩にかける人は、骨盤が傾き、左の股関節に過度な負担がかかり続けることがあります。
また、内臓の位置(心臓がやや左寄り、肝臓が右側にあるなど)が身体の重心バランスに微妙な影響を与え、結果として左側の股関節に負担が集中するという説もあります。
このように、身体の使い方のアンバランスが蓄積し、左側の股関節周辺の筋肉や軟骨、靭帯などに炎症や摩耗が起こり、痛みとして現れるケースが少なくありません。
痛み以外のサイン
痛みだけでなく、以下のようなサインが左股関節に出ていないか注意してみましょう。これらは股関節に何らかの問題が起き始めている兆候かもしれません。
- 動かしにくさ(靴下を履く、足の爪を切る動作がしにくい)
- 違和感や引っかかり感(動かすと「ゴリゴリ」と音がする感じ)
- 可動域の制限(あぐらをかきにくい、開脚しにくい)
- 力が入りにくい(左足で踏ん張れない)
左股関節が痛む主な原因
左股関節の痛みの背景には、特定の疾患だけでなく、日々の生活習慣が大きく関わっていることが多くあります。
無意識に行っている動作や姿勢が、左股関節への負担を増やしている可能性を探ってみましょう。
日常生活の癖や姿勢の影響
私たちの身体は、日々の小さな癖の積み重ねによって歪みを生じます。特に股関節は、骨盤と連動しているため、姿勢の影響を受けやすい部位です。
例えば、座るときにいつも左足を上にして組む癖があると、骨盤がねじれ、左の股関節に負担が集中します。
また、立つときに無意識に左足に重心をかける「片足重心」も同様です。このようなアンバランスな負荷が長期間続くと、関節や周囲の組織が悲鳴を上げ、痛みとして現れます。
日常生活で見直したい癖
| 癖の例 | 左股関節への影響 | 見直しのポイント |
|---|---|---|
| 足を組む(左足が上) | 骨盤が歪み、左股関節にねじれの力が加わる | 足を組まないように意識する。組む場合は左右交互にする |
| 片足重心(左足) | 左側の股関節や中殿筋に持続的な負荷がかかる | 両足に均等に体重をかけるように意識する |
| 横座り・ぺたんこ座り | 股関節が内側や外側に過度にねじれる | できるだけ避け、椅子に座るか、あぐらや長座にする |
筋肉のアンバランスや疲労
股関節は多くの筋肉によって支えられています。しかし、前述のような癖や姿勢の偏りがあると、特定の筋肉ばかりが使われ、他の筋肉が弱くなるという「筋肉のアンバランス」が生じます。
特に左股関節に負担がかかる生活をしていると、左側のお尻の筋肉(中殿筋など)や太ももの筋肉が過度に緊張し、硬くなります。
疲労が蓄積して硬くなった筋肉は、血流が悪くなり、痛み物質を放出しやすくなります。これが「筋肉由来の痛み」です。
また、硬くなった筋肉が股関節の滑らかな動きを妨げ、さらに関節への負担を増やす悪循環にも陥ります。
加齢による関節の変化
年齢を重ねると、関節の軟骨は水分を失い、弾力性が低下していきます。長年、体重を支えてきた股関節の軟骨は、徐々にすり減っていきます。
特に、若い頃から身体の使い方の偏りがあった場合、負担が大きかった左側の軟骨が先にすり減り始めることがあります。
軟骨がすり減ると、骨同士が直接こすれ合い、炎症が起きて痛みが出ます。これが「変形性股関節症」の始まりであることも少なくありません。
スポーツや仕事による特定の負荷
特定のスポーツや職業も、左股関節痛の原因となります。
例えば、ゴルフや野球など、身体を一定方向にひねる動作を繰り返すスポーツでは、軸足となる側の股関節に大きな負担がかかります。
左打ちのゴルファーであれば、左股関節に体重移動と回旋の負荷が集中します。
仕事で重い荷物を繰り返し運ぶ場合や、長時間不自然な姿勢(例えば、左側を向いて作業し続けるなど)をとる場合も、左股関節周辺の筋肉や関節に疲労が蓄積し、痛みを引き起こすことがあります。
特定の動作と負荷のかかり方
| 動作の例 | 主な負荷 | 左股関節への影響(例) |
|---|---|---|
| ゴルフ(右利き) | 回旋、体重移動 | フォロースルーで左股関節に強い回旋ストレスがかかる |
| サッカー | キック、切り返し | 左足で強く踏み込む、または左足でボールを蹴る動作の繰り返し |
| 長時間の運転 | 同じ姿勢の維持 | 左足(クラッチ操作など)や、座り姿勢による持続的圧迫 |
考えられる股関節の疾患
左股関節の痛みが続く場合、単なる筋肉疲労や姿勢の問題ではなく、股関節自体の疾患が隠れている可能性もあります。股関節痛を引き起こす代表的な疾患を紹介します。
自己判断せず、専門家による正確な診断が重要です。
変形性股関節症
股関節の疾患の中で最も多いのが、変形性股関節症です。これは、関節の軟骨がすり減り、骨が変形していく疾患です。
日本では、生まれつき股関節の受け皿(寛骨臼)が浅い「寛骨臼形成不全」が背景にある場合が多いとされています。
初期症状としては、立ち上がりや歩き始めの痛み(特に足の付け根)が現れます。
進行すると、安静時や夜間にも痛むようになり、可動域が制限されて日常生活(靴下を履く、爪を切るなど)に支障が出ます。
左側の形成不全が強い場合や、左側に負担をかける生活を続けていた場合、左側から症状が進行することがあります。
股関節唇損傷
股関節の受け皿(寛骨臼)の縁には、「関節唇」という軟骨組織があり、関節を安定させる役割を担っています。この関節唇が、繰り返しの負荷や外傷によって損傷(断裂)することがあります。
スポーツ選手や、股関節を深く曲げる動作(あぐら、しゃがみ込み)を多用する人に見られます。
症状としては、股関節の奥の方で「ズキッ」とする鋭い痛みや、特定の角度で動かしたときの「引っかかり感」が特徴です。
痛みが左側に限定される場合、左股関節に負担がかかる動作が原因となっている可能性があります。
大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)
FAI(Femoroacetabular Impingement)は、大腿骨(太ももの骨)と寛骨臼(骨盤の受け皿)の骨の形状がわずかに異常であるために、動かしたときにお互いが衝突(インピンジメント)し、痛みや関節唇損傷を引き起こす状態です。
骨の形状異常が左側にあれば、左側に症状が出ます。
特に股関節を深く曲げたり内側にひねったりする動作(スポーツやあぐらなど)で、足の付け根に詰まるような痛みや鋭い痛みを感じることが多いです。
主な疾患の初期症状比較
| 疾患名 | 痛みの特徴 | 痛みが出やすい動作 |
|---|---|---|
| 変形性股関節症 | 足の付け根(前面)の鈍い痛み | 立ち上がり、歩き始め |
| 股関節唇損傷 | 股関節の奥の鋭い痛み、引っかかり感 | 深く曲げる、ひねる動作 |
| FAI | 足の付け根の詰まるような痛み | 深く曲げる、あぐら |
その他の可能性
上記以外にも、股関節痛の原因となる疾患はいくつかあります。
- 滑液包炎: 関節の周りにある「滑液包」という袋が炎症を起こす。股関節の外側(大転子)に痛みが出やすい。
- 関節リウマチ: 自己免疫疾患により、関節が炎症を起こす。股関節だけでなく、他の関節(手足の指など)にも症状が出ることが多い。
- 大腿骨頭壊死症: 大腿骨の骨頭部分への血流が悪くなり、骨が壊死する疾患。急激な痛みが特徴。
左股関節の痛みに関連する身体の部位
「股関節が痛い」と感じていても、実はその原因が股関節そのものではなく、隣接する別の部位にあるケースも少なくありません。
特に骨盤や腰は股関節と密接に連動しており、お互いに影響を与え合っています。
骨盤の歪みとの関係
骨盤は身体の中心に位置し、上半身の重みを支え、下半身からの衝撃を受け止める土台の役割を担っています。
この骨盤が、前述したような日常生活の癖(足を組む、片足重心など)によって傾いたり、ねじれたりすることがあります。
例えば、骨盤が左側に傾くと、左足が実質的に短くなったような状態(脚長差)になり、左の股関節や膝にかかる負担が増大します。
また、骨盤が歪むと、骨盤についているお尻や腰の筋肉がアンバランスに緊張し、それが左股関節周囲の痛みとして感じられることがあります。
骨盤の歪みチェック
簡単なセルフチェックを紹介しますが、あくまで目安です。
| チェック項目 | 歪みの可能性(例) |
|---|---|
| 仰向けで寝たとき、足先の開きが左右で違う | 足先がより外側に開く方の骨盤が歪んでいる可能性 |
| 左右のウエストのくびれが違う | くびれが少ない方の骨盤が上がっている(傾いている)可能性 |
| 椅子に座ると膝の高さが違う | 膝が低い方の骨盤が後ろに傾いている可能性 |
腰(腰椎)の問題が股関節痛を引き起こすことも
腰(腰椎)と股関節は、連動して動く「協調関係」にあります。例えば、前かがみになるとき、腰が曲がるだけでなく、股関節も曲がることでスムーズな動作が可能になります。
しかし、腰椎(背骨の腰の部分)の動きが悪くなったり、腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの疾患があったりすると、腰で吸収すべき衝撃や動作の負担を、股関節が過剰に代償しようとします。
また、腰の神経(腰神経叢)は、股関節やお尻、太ももにも分布しています。
そのため、腰椎で神経が圧迫されると、その痛みが股関節周辺(特に左側など)に「関連痛」として放散することがあります。
この場合、股関節自体を調べても異常が見つからず、原因が腰にあることが判明するケースもあります。
膝や足首の影響
股関節、膝、足首は「下肢(かし)」として一連の動きを担っています。足首の捻挫の経験や、膝の痛み(変形性膝関節症など)があると、無意識にその部位をかばうような歩き方になります。
例えば、左膝が痛いのをかばって歩くと、着地時の衝撃を吸収するために左の股関節が余計に働く必要があり、負担が増加します。
また、足首の関節が硬い(可動域が狭い)と、歩行時に地面からの衝撃をうまく吸収できず、その衝撃が上にある股関節にまで伝わり、痛みの原因となることがあります。
自分でできるセルフケアと予防法
左股関節の痛みの原因が、日常生活の癖や筋肉のアンバランスにある場合、セルフケアによって症状が和らぐ可能性があります。
ただし、痛みが強い場合や疾患が疑われる場合は、無理をせず専門家に相談してください。
股関節周りのストレッチ
股関節に負担がかかっている場合、お尻や太もも、股関節の内側の筋肉が硬くなっていることが多いです。
これらの筋肉をゆっくりと伸ばし、柔軟性を取り戻すことで、股関節の動きがスムーズになり、痛みの軽減が期待できます。
ストレッチは、お風呂上がりなど身体が温まっている時に行うのが効果的です。「痛気持ちいい」と感じる程度で止め、呼吸を止めずに20〜30秒ほどゆっくり伸ばしましょう。
お尻のストレッチ(中殿筋・梨状筋)
- 椅子に浅すぎず深すぎず座ります。
- 左足首を右膝の上に乗せ、左膝をできるだけ水平に開きます(数字の「4」の形)。
- 背筋を伸ばしたまま、ゆっくりと上半身を前に倒していきます。
- 左のお尻が伸びているのを感じたら、その位置で深呼吸をしながら20秒キープします。
太もも前側のストレッチ(大腿四頭筋)
- 壁や椅子の背もたれなどに右手を添えて立ち、バランスをとります。
- 左膝を曲げ、左手で左足の甲を持ちます。
- かかとをお尻に近づけるように、ゆっくりと引き寄せます。
- 左の太ももの前側が伸びているのを感じたら、20秒キープします。この時、腰が反らないように注意します。
筋力トレーニング(股関節安定化)
ストレッチで筋肉をほぐすだけでなく、股関節を支える筋肉を鍛えることも重要です。特に股関節の外側にある「中殿筋」は、歩行時に骨盤を安定させる重要な役割を果たします。
中殿筋のトレーニング(横向きお尻上げ)
- 床に横向きに寝て、下側の腕で頭を支えます。
- 両膝を軽く曲げます(股関節と膝が90度になるイメージ)。
- かかとはくっつけたまま、上側(左側)の膝だけをゆっくりと持ち上げます。この時、骨盤が後ろに倒れないように注意します。
- 左のお尻の外側に力が入るのを感じながら、ゆっくりと下ろします。
- これを10〜15回、2〜3セット行います。
日常生活での注意点
せっかくストレッチやトレーニングを行っても、痛みの原因となった日常生活の癖が改善されなければ、再発の可能性があります。
左股関節への負担を減らすため、日々の動作を見直しましょう。
日常生活での工夫
| 場面 | 見直したい癖(左負担増) | 改善のポイント |
|---|---|---|
| 座る時 | 左足を上にして組む、横座り | 深く腰掛け、骨盤を立てる。両足の裏を床につける |
| 立つ時 | 左足への片足重心 | 両足に均等に体重をかける意識を持つ |
| 荷物を持つ時 | いつも左肩・左手で持つ | 左右交互に持つ、リュックサックを利用する |
体重管理の重要性
股関節には、歩行時に体重の約3〜5倍、階段の上り下りではそれ以上の負荷がかかります。体重が1kg増えるだけでも、股関節への負担は大きく増加します。
もし体重が標準よりも多い場合は、適度な運動(股関節に負担の少ない水泳やエアロバイクなど)と食事の見直しによって、体重をコントロールすることが、股関節痛の予防と改善に非常に重要です。
専門家による検査と診断
セルフケアを試みても左股関節の痛みが改善しない場合や、痛みが悪化する場合、または日常生活に支障が出ている場合は、我慢せずに医療機関(整形外科など)を受診することが必要です。
正確な診断が、適切な治療への第一歩となります。
どのような場合に医療機関を受診すべきか
痛みの感じ方には個人差がありますが、以下のようなサインが見られる場合は、早めに専門家に相談することをお勧めします。
受診の目安
| 症状の目安 | 考えられる状態 |
|---|---|
| 安静にしていても痛む、夜間に痛みで目が覚める | 炎症が強い可能性、または他の疾患の可能性 |
| 痛みが徐々に強くなっている | 症状が進行している可能性(変形性股関節症など) |
| 歩行が困難(杖が必要など) | 関節の変形や筋力低下が著しい可能性 |
| 股関節が特定の角度で引っかかる、力が入らない | 関節唇損傷やFAIなどの構造的な問題の可能性 |
行われる主な検査
医療機関では、痛みの原因を特定するために、いくつかの検査を組み合わせて行います。
- 問診: いつから、どのような時に、どのあたりが痛むのか、過去の怪我や病気の有無、日常生活の様子などを詳しく聞きます。左側だけが痛むという情報も重要です。
- 触診・視診: 痛む場所を直接触れて確認したり、歩き方や姿勢、股関節の可動域(どれくらい動くか)、筋力などを調べたりします。
- 画像検査:
- レントゲン(X線)検査: 骨の状態を確認する基本的な検査です。軟骨のすり減り具合(関節の隙間の狭さ)、骨の変形(骨棘)、骨盤の形状(寛骨臼形成不全)などを評価します。
- MRI検査: 軟骨や関節唇、筋肉、靭帯といった、レントゲンでは映らない軟部組織の状態を詳しく見るために行います。関節唇損傷や炎症、大腿骨頭壊死などの診断に有効です。
- CT検査: 骨の立体的な形状や、FAIにおける骨の衝突具合などを詳細に評価するために行われることがあります。
診断までの流れ
まず問診と身体所見(触診や可動域チェック)で、痛みの原因が股関節にあるのか、あるいは腰など他の場所から来ているのかを大まかに判断します。
次に、レントゲン検査で骨の異常がないかを確認します。この時点で変形性股関節症などの診断がつくこともあります。
レントゲンで明らかな異常がなくても痛みが強い場合や、関節唇損傷、FAIなどが疑われる場合には、さらにMRI検査などで詳しく調べ、最終的な診断を下します。
この一連の検査により、なぜ左側だけに痛みが出ているのか、その背景にある原因を突き止めます。
一般的な治療法
左股関節の痛みの原因が特定されたら、その診断に基づいて治療を開始します。
治療法は、症状の程度、年齢、活動レベル、そして原因となっている疾患によって異なりますが、一般的にはまず身体への負担が少ない「保存療法」から始めます。
保存療法(薬物療法、運動療法)
保存療法は、手術以外の方法で症状の改善を目指す治療法です。痛みの管理と機能の回復を目的とします。
保存療法の主な種類と目的
| 治療法 | 主な内容 | 目的 |
|---|---|---|
| 薬物療法 | 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の飲み薬や湿布薬、関節内注射(ヒアルロン酸、ステロイドなど) | 炎症を抑え、痛みを和らげる(対症療法) |
| 運動療法 | ストレッチ、筋力トレーニング(中殿筋など)、可動域訓練 | 股関節の柔軟性を高め、筋力で関節を安定させる |
| 生活指導 | 体重管理、姿勢や動作の改善(杖の使用など) | 股関節への負担を根本的に減らす |
痛みが強い時期は、まず薬物療法で炎症と痛みをコントロールします。痛みが少し和らいだら、運動療法(リハビリテーション)を開始し、股関節の機能を高めていきます。
並行して、左股関節に負担をかけていた生活習慣の見直しも行います。
物理療法やリハビリテーション
リハビリテーションは、保存療法の中心的な役割を担います。理学療法士などの専門家が、個々の状態に合わせて計画的に行います。
単に筋力を鍛えるだけでなく、硬くなった筋肉や関節包(関節を包む袋)をほぐして可動域を改善したり、骨盤の歪みを調整したりします。
また、左股関節に負担のかからない正しい歩き方や動作の指導も受けられます。
物理療法としては、温熱療法(ホットパックなど)で血流を改善して痛みを和らげたり、電気刺激で筋肉の緊張をほぐしたりすることもあります。
リハビリテーションの主な内容
| 内容 | 詳細 |
|---|---|
| 関節可動域訓練 | 専門家が股関節を動かし、硬くなった関節の動きを滑らかにする |
| 筋力増強訓練 | 中殿筋やインナーマッスルなど、股関節を安定させる筋肉を鍛える |
| 動作指導 | 立ち座り、歩行、階段昇降など、負担の少ない動作を習得する |
手術療法
保存療法を数ヶ月続けても痛みが改善しない場合や、変形性股関節症が進行して日常生活に大きな支障が出ている場合、あるいは関節唇損傷やFAIが原因で痛みが強く、活動レベルの維持が困難な場合には、手術療法が検討されます。
どの手術を選択するかは、疾患の種類、進行度、年齢、本人の希望などを総合的に考慮して決定します。
主な手術療法の比較
| 手術名 | 対象となる主な疾患 | 手術の概要 |
|---|---|---|
| 関節鏡視下手術 | 股関節唇損傷、FAI(軽度〜中等度) | 小さなカメラ(関節鏡)を入れ、損傷した関節唇の修復や、衝突する骨の切除を行う |
| 骨切り術 | 寛骨臼形成不全、FAI(骨の変形が強い場合) | 骨盤や大腿骨の骨を切り、関節のかみ合わせを良くするように角度を変えて固定する |
| 人工股関節置換術 | 進行した変形性股関節症、大腿骨頭壊死症 | 損傷した股関節を、金属やポリエチレンなどでできた人工の関節に置き換える |
よくある質問
左股関節の痛みを放置するとどうなりますか?
痛みの原因によります。筋肉の疲労など一時的なものであれば自然に治まることもありますが、変形性股関節症や関節唇損傷などが背景にある場合、放置すると症状が進行する可能性があります。
軟骨のすり減りが進んだり、損傷が大きくなったりすると、将来的に歩行が困難になることも考えられます。痛みが続く場合は、一度原因を特定することが重要です。
痛みがあるとき、運動はしても良いですか?
痛みの程度によります。強い痛みがあるときや、動かすと痛みが悪化する場合は、無理に運動するのは避け、安静にすることが先決です。
ただし、安静にしすぎると逆に関節が硬くなったり筋力が低下したりすることもあるため、痛みが落ち着いてきたら、ストレッチや股関節に負担の少ない運動(水中ウォーキング、エアロバイクなど)から徐々に再開するのが良いでしょう。
どのような運動が適しているか、専門家に相談することをお勧めします。
どのような寝方が股関節に良いですか?
一般的には、仰向けで寝るのが股関節に最も負担がかかりにくいとされています。膝の下にクッションや丸めたタオルを入れると、腰や股関節がリラックスしやすいです。
横向きで寝る場合は、痛い方(左側)を上にし、両膝の間にクッションを挟むと、股関節が安定し、骨盤がねじれるのを防ぐことができます。
うつ伏せは、腰や首に負担がかかるため、あまりお勧めできません。
痛みの改善にはどれくらいの期間がかかりますか?
これも原因や症状の重さ、治療法によって大きく異なります。筋肉の炎症や疲労であれば、数週間程度の安静やセルフケアで改善することも多いです。
変形性股関節症などの疾患で保存療法を行う場合は、痛みの軽減や機能の改善を実感できるまで数ヶ月単位でのリハビリテーションが必要になることもあります。
手術療法の場合は、リハビリ期間を含めて回復までのスケジュールが組まれます。焦らず、ご自身の状態に合わせた治療を継続することが大切です。
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