足立慶友医療コラム

股関節の変形による症状と進行を防ぐための対策

2025.11.22

股関節の違和感や痛みは、日常生活の質を大きく左右する深刻な悩みです。

「もしかして変形しているのではないか」「このまま歩けなくなるのではないか」という不安は、正しい知識と早期の対策によって軽減できます。

股関節の変形は、加齢や生活習慣など様々な要因が重なって進行しますが、適切なケアを行うことで痛みをコントロールし、進行を緩やかにすることは十分に可能です。

この記事では、股関節の変形が起こる原因から、今日から自分で始められる具体的な対策、そして医療機関での治療選択肢までを網羅的に解説します。

ご自身の股関節の状態を正しく理解し、長く健康な足で歩き続けるための第一歩としてお役立てください。

股関節の変形とはどのような状態か

股関節の変形とは、長年の使用や構造的な特徴によって関節内の軟骨がすり減り、骨同士が直接ぶつかり合うことで形状が変化してしまう状態であり、早期に自身の状態を把握することが対策の基本となります。

股関節は、骨盤のくぼみである寛骨臼(かんこつきゅう)と、太ももの骨の先端である大腿骨頭(だいたいこっとう)が組み合わさってできています。

健康な状態では、これらの表面は弾力のある軟骨で覆われており、衝撃を吸収したり滑らかな動きを助けたりしています。

しかし、何らかの原因でこの軟骨が摩耗すると、骨が硬くなったり、骨棘(こつきょく)と呼ばれるトゲのような骨の増殖が起きたりして、関節全体の形が変わっていきます。

これが一般的に変形性股関節症と呼ばれる病態です。

軟骨の摩耗と骨の変形

関節軟骨は、水分とコラーゲンなどを主成分とする組織で、クッションの役割を果たしています。

この軟骨には血管や神経が通っていないため、初期の段階で摩耗が始まっても痛みを感じにくいという特徴があります。これが発見を遅らせる一因ともなっています。

軟骨が徐々に薄くなり、その下にある骨が露出するようになると、骨は防御反応として硬くなる「骨硬化」や、関節の隙間を埋めようとして余分な骨ができる「骨棘形成」を引き起こします。

さらに進行すると、骨の中に空洞ができる「骨嚢胞(こつのうほう)」が生じることもあります。

これらの変化は、関節の滑らかな動きを阻害し、炎症を引き起こす直接的な原因となります。

一度すり減った軟骨は自然に元の状態に戻ることはないため、残っている軟骨をいかに守るかが重要です。

変形性股関節症の進行度合い

進行段階股関節の状態日常への影響
前期・初期関節の隙間がわずかに狭くなる、軟骨の摩耗が始まる動き始めや長時間の歩行後に違和感が生じる
進行期軟骨が明らかに減り、骨棘や骨硬化が見られる靴下の着脱や階段の昇り降りが辛くなる
末期軟骨がほぼ消失し、骨同士が直接接する安静時にも痛みがあり、歩行が困難になる

変形性股関節症の進行段階

股関節の変形は、ある日突然起こるものではなく、長い時間をかけて段階的に進行していきます。一般的には「前期」「初期」「進行期」「末期」という4つのステージに分類されます。

前期では、まだ軟骨の厚みは保たれていますが、生まれつきの股関節の形状などにより、将来的に変形を起こすリスクが高い状態を指します。

初期に入ると関節の隙間が狭くなり始め、起き上がりや立ち上がり動作の瞬間に痛みを感じることが増えます。

進行期になると、レントゲン画像でもはっきりと骨の変化が確認できるようになり、その影響で関節の動きが悪くなる「可動域制限」が顕著になります。

そして末期では、関節の隙間が消失し、骨と骨が擦れ合う状態となるため、激しい痛みにより歩行そのものが困難になります。

どの段階にあるかによって、選択すべき治療法や対策は異なります。

女性に多い理由と臼蓋形成不全

日本において変形性股関節症は女性に多く見られる疾患であり、その背景には「臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)」という骨格の特徴が大きく関与しています。

臼蓋形成不全とは、骨盤側の受け皿である寛骨臼の発育が不十分で、屋根の被りが浅い状態のことを指します。

被りが浅いと、大腿骨頭を支える面積が小さくなるため、狭い範囲に体重の負荷が集中してしまいます。その結果、通常よりも早いペースで軟骨が摩耗してしまうのです。

ホルモンバランスの変化や、骨盤の形状、筋肉量の違いなども女性に多い要因として挙げられますが、もっとも大きな要因はこの骨格的な構造の弱さにあります。

幼少期に股関節脱臼の既往がある場合や、親族に股関節が悪い人がいる場合は、特に注意が必要です。

変形が引き起こす主な症状と日常生活への影響

股関節の変形によって生じる症状は、単なる痛みだけでなく、関節の動きの制限や歩き方の変化など多岐にわたり、生活の活動範囲を徐々に狭めてしまうため注意が必要です。

初期の段階では、「なんとなく足の付け根が重だるい」「長く歩くと疲れる」といった曖昧な違和感から始まることが多く、この時点で見過ごしてしまうことも少なくありません。

しかし、変形が進むにつれて痛みは明確になり、痛みが出る頻度や持続時間も増えていきます。

また、痛みによる恐怖心から無意識に活動量を減らしてしまい、それがさらなる筋力低下や関節の硬さを招くという悪循環に陥りやすくなります。

初期に感じる違和感と運動時痛

病気の始まりにおいて特徴的なのは、動作を開始する瞬間に感じる痛み、いわゆる「始動時痛」です。

例えば、朝起きて布団から出る時、椅子から立ち上がる時、車から降りる時などに、股関節周辺にズキッとした鋭い痛みや、引っかかるような違和感を覚えます。

この痛みは、少し動いて体が温まってくると消失または軽減することが多いため、「治った」と勘違いしやすいのが難点です。

また、運動時痛も顕著になり、長時間歩いたり、重い荷物を持って階段を登ったりした後に痛みが強くなります。

この段階では安静にしていれば痛みは治まることがほとんどですが、これは股関節からの「負担がかかりすぎている」という重要なサインです。

痛みが現れやすい主な動作

  • 椅子やソファから立ち上がる瞬間
  • 足の爪を切る、靴下を履くなどの前屈動作
  • 階段の昇り降り、特に降りる際の着地
  • 長時間立って家事をしている最中

進行期に現れる安静時痛と夜間痛

変形が中程度以上に進行すると、動いていなくても痛む「安静時痛」が現れるようになります。

関節内部の炎症が慢性化し、骨自体の変形も進んでいるため、体重をかけていなくてもジンジンとした持続的な痛みを感じることがあります。

さらに深刻なのが「夜間痛」です。夜寝ている時に、寝返りを打った際の痛みで目が覚めてしまったり、どんな体勢をとっても股関節が痛んで眠れなかったりすることがあります。

睡眠が十分に取れないことは、身体的な疲労回復を妨げるだけでなく、精神的なストレスや不安を増大させ、痛みをより敏感に感じさせる原因にもなります。

この段階になると、日常生活の質が著しく低下するため、早急な医療的介入が必要になります。

可動域制限と日常生活動作の困難

痛みに加えて大きな問題となるのが、股関節の「可動域制限」つまり関節が硬くなって動かせる範囲が狭くなることです。

股関節は本来、前後左右に大きく動く関節ですが、変形や炎症によって関節包(かんせつほう)などの組織が癒着し、硬くなります。

特に、足を外に開く動き(開排)や、内側にひねる動き(内旋)が制限されやすくなります。

このため、あぐらがかきにくくなる、足の爪が切りにくい、和式トイレが使えない、正座ができないといった具体的な不便が生じます。

また、股関節が伸びきらなくなると、常に前傾姿勢のような状態で歩くことになり、これを補うために腰に過度な負担がかかり、二次的に腰痛を引き起こすケースも多く見られます。

股関節の変形が進行する原因とリスク要因

股関節の変形が進行する背景には、加齢という避けられない要素以外にも、体重や生活習慣、過去の病歴など、複数のリスク要因が複雑に絡み合っています。

変形性股関節症は「一次性」と「二次性」に分けられます。

原因が特定できない加齢に伴うものを一次性と呼びますが、日本人の場合は何らかの基礎疾患や形態異常が原因となる二次性が大半を占めています。

これらのリスク要因を正しく理解し、コントロールできる要素に対して対策を講じることが、進行を食い止めるための鍵となります。

自分に当てはまるリスクを知ることは、これからの生活スタイルを見直す良いきっかけとなります。

加齢と体重増加による負担

年齢を重ねることは、関節軟骨の水分量が減少し、弾力性が失われる大きな要因です。長年使い続けたタイヤがすり減るのと同様に、股関節も経年的な変化を避けることはできません。

しかし、それ以上に直接的な影響を与えるのが「体重」です。歩行時には体重の約3倍から4倍、階段の昇降時には約6倍から7倍もの負荷が股関節にかかると言われています。

つまり、体重が1キログラム増加するだけで、歩くたびに股関節には数キログラム分の余計な負担が掛かり続けることになります。

この過剰な負荷は軟骨の摩耗を加速させ、変形を早める直接的な原因となります。逆に言えば、適正な体重を維持することは、もっとも効果的かつ安全な治療法の一つと言えます。

動作ごとの股関節への負荷倍率

動作股関節にかかる負荷(体重比)具体的な負荷の例(体重50kgの場合)
ゆっくり歩く約3倍約150kg
早歩き約4倍約200kg
階段昇降約6倍〜7倍約300kg〜350kg

過去の怪我や過度なスポーツ活動

過去に股関節周辺の怪我をした経験がある場合、それが将来的な変形の引き金になることがあります。

例えば、股関節脱臼や骨盤骨折、大腿骨頚部骨折などの外傷は、関節の適合性を悪化させたり、軟骨にダメージを与えたりしている可能性があります。

また、スポーツ活動も諸刃の剣です。

適度な運動は推奨されますが、股関節に衝撃の強い動作を繰り返すスポーツ(サッカー、バスケットボール、長距離ランニングなど)を、十分な休息やケアなしに長期間続けることは、軟骨の摩耗を早めるリスクとなります。

特に、股関節の形成不全がある状態で激しいスポーツを行うことは、関節の寿命を縮めることにつながりかねないため、自身の骨格に適した運動強度を知ることが大切です。

遺伝的要素と骨格の特徴

股関節の形状や骨の質には、遺伝的な要素が少なからず影響します。

親や兄弟姉妹に変形性股関節症の人がいる場合、体質や骨格が似ている可能性があるため、発症のリスクは統計的に高くなります。

特に前述した臼蓋形成不全は、家族内での発生頻度が高い傾向にあります。ただし、遺伝子だけで全てが決まるわけではありません。

遺伝的なリスク要因を持っていたとしても、体重管理や筋力トレーニング、生活習慣の工夫によって、発症を遅らせたり、症状を出にくい状態に保ったりすることは十分に可能です。

「遺伝だから仕方がない」と諦めるのではなく、遺伝的素因があるからこそ、より一層の予防意識を持つことが大切です。

自分でできる進行を防ぐための日常生活の工夫

日常生活の中にある何気ない動作を見直し、股関節への負担を減らす工夫を積み重ねることが、変形の進行を抑えるためのもっとも確実な手段です。

医療機関での治療も重要ですが、1日の大半を占める自宅や職場での過ごし方が、股関節の予後を決定づけるといっても過言ではありません。

痛みが出ない動作、負担のかからない姿勢を習慣化することで、生活の質を維持しながら病気と付き合っていくことができます。

ここでは、特別な器具を使わずに、今日からすぐに実践できる具体的な生活の知恵を紹介します。

股関節に負担をかけない座り方と立ち方

日本の伝統的な生活様式である畳に座るスタイルは、実は股関節にとって大きな負担となります。

正座、あぐら、横座りなどは、股関節を深く曲げたり捻ったりするため、関節内圧を高め、痛みを誘発しやすい姿勢です。

可能な限り、椅子とテーブル中心の洋式スタイルへの切り替えをお勧めします。椅子に座る際は、股関節が膝よりも高い位置にくるように高さを調節すると、立ち上がる際の負担が軽減されます。

座面が低いソファは、深く沈み込んで立ち上がりが困難になるため、硬めのクッションを敷くなどの工夫が必要です。

また、長時間同じ姿勢で座り続けることも関節を固まらせる原因となるため、30分に1回は立ち上がって軽く足踏みをするなど、こまめに姿勢を変える意識を持つことが大切です。

生活環境の改善ポイント

改善項目推奨される対策避けるべき環境
座る環境座面が高めの椅子(膝よりお尻が高くなる位置)低いソファ、床への直座り、こたつ
寝具ベッド(乗り降りがスムーズな高さ)床に敷いた布団(起き上がりの負担大)
トイレ洋式トイレ(必要に応じて手すり設置)和式トイレ(深い屈伸が必要)

適正体重の維持と食事管理

前述の通り、体重は股関節への最大の負荷要因です。体重を1キロ減らすことは、歩行時の股関節への負担を数キロ分減らすことと同義であり、非常に効率的な除圧効果があります。

適正体重を目指すためには、極端な食事制限ではなく、栄養バランスの取れた食事を継続することが必要です。

特に、骨や軟骨の健康を保つために、カルシウム、タンパク質、ビタミンD、ビタミンKなどを積極的に摂取しましょう。

一方で、筋肉の材料となるタンパク質が不足すると、体重が減っても筋力が落ちてしまい、逆に関節への負担が増す恐れがあります。

筋肉量を維持しながら脂肪を減らすような、賢い食事管理が求められます。

杖や靴選びによる歩行サポート

「杖を使うのは年寄りくさい」と敬遠される方も多いですが、杖は股関節を守るための非常に強力な武器です。

痛む側の足と反対側の手に杖を持つことで、股関節にかかる荷重を分散させ、痛みを大幅に軽減できます。

また、正常な歩行パターン(跛行の防止)を維持する助けにもなり、腰や反対側の足への二次的な被害を防ぎます。靴選びも重要です。

クッション性が高く、衝撃を吸収してくれるスニーカーやウォーキングシューズを選びましょう。ヒールの高い靴や底が硬い革靴は、着地衝撃が直接股関節に伝わるため避けるべきです。

インソール(中敷き)を調整して足のアーチを支えることも、下肢全体のバランスを整え、股関節への突き上げを和らげるのに役立ちます。

効果的な運動療法と筋力トレーニング

運動療法は、股関節周囲の筋肉を鍛えて関節を安定させ、進行を防ぐための中心的な治療法であり、継続することで確実な効果が期待できます。

変形してしまった骨や軟骨を元に戻すことはできませんが、周囲の筋肉は天然のコルセットとして機能し、関節にかかる衝撃を吸収してくれます。

痛いからといって動かさずにいると、筋肉はあっという間に衰え、関節はさらに硬くなり、痛みが強くなるという負の連鎖に陥ります。

無理のない範囲で、正しい方法の運動を継続することが大切です。ただし、痛みが増強する場合は運動強度が合っていない可能性があるため、医師や理学療法士に相談しながら進めてください。

水中ウォーキングのメリット

股関節に不安がある方に特にお勧めしたいのが、プールでの水中ウォーキングです。

水の中では浮力が働くため、水位が胸のあたりまであれば、体重による股関節への負荷は約3分の1から10分の1程度まで軽減されます。

この環境下であれば、陸上では痛くてできないような動きもスムーズに行えることが多く、関節に過度な負担をかけずに筋力トレーニングと有酸素運動を同時に行うことができます。

また、水の抵抗を利用することで、無理なく全身の筋肉をバランスよく鍛えることが可能です。

温水プールであれば、リラクゼーション効果や血行促進効果も期待でき、痛みの緩和にも寄与します。

自宅でできる中殿筋トレーニング

股関節の安定性にもっとも寄与するのが、お尻の横にある「中殿筋(ちゅうでんきん)」という筋肉です。

この筋肉が弱まると、歩くときに骨盤が安定せず、身体が左右に揺れてしまい、股関節への負担が増大します。

自宅で簡単にできるトレーニングとして、横向きに寝て上の足をゆっくりと持ち上げる「外転運動(アブダクション)」があります。

反動を使わずに、お尻の横の筋肉を意識しながらゆっくりと行うのがコツです。また、仰向けで膝を立ててお尻を持ち上げる「ブリッジ」も、大殿筋やハムストリングスを鍛えるのに有効です。

これらの運動を1日の中で隙間時間を見つけて少しずつ行う習慣をつけることが重要です。

トレーニング実施時の注意点

  • 痛みが強い時は無理に行わず休息を取る
  • 反動をつけず、呼吸を止めずにゆっくり動かす
  • 運動後は患部を少し冷やすなどのケアを行う
  • 正しいフォームで行わないと逆効果になることがある

ストレッチで柔軟性を保つ重要性

筋力トレーニングと並んで重要なのが、関節の柔軟性を保つためのストレッチです。

股関節周りの筋肉(特に太ももの前側、内側、お尻の筋肉)が硬くなると、骨盤の動きが悪くなり、股関節への圧迫力が強まります。

お風呂上がりなど体が温まっている時に、ゆっくりと時間をかけて筋肉を伸ばすストレッチを行いましょう。

例えば、椅子に座って片足をもう片方の膝の上に乗せ、体を前に倒すストレッチは、お尻の筋肉を効果的に伸ばせます。ただし、痛みを我慢して無理やり伸ばすのは禁物です。

「痛気持ちいい」と感じる程度で止めることが、組織を傷つけずに柔軟性を高めるポイントです。

医療機関で行う保存療法のアプローチ

保存療法とは、手術以外の方法で症状の改善を目指す治療の総称であり、変形性股関節症治療の第一選択となります。

多くの患者様は、適切な保存療法を行うことで痛みをコントロールし、日常生活を維持できています。

医療機関では、患者様の重症度、ライフスタイル、痛みの程度に合わせて、薬物療法、理学療法、物理療法などを組み合わせたオーダーメイドの治療計画が立てられます。

自己判断で痛みを我慢したり、市販薬だけで対処しようとしたりせず、専門家の指導の下で体系的な治療を受けることが、長期的な関節の健康維持につながります。

薬物療法による痛みのコントロール

痛みがある状態で無理に運動をしようとしても、かえって患部の炎症を悪化させたり、痛みを避けるために不自然な動きになってしまったりします。

そのため、まずは薬を使って痛みを適切なレベルまで抑えることが重要です。一般的には、消炎鎮痛剤(NSAIDs)の内服薬や湿布などの外用薬が処方されます。

これらは炎症を抑え、痛みを感じさせる物質の生成をブロックします。

痛みが強い場合には、効果の持続時間は短いものの即効性のある、関節内への局所麻酔薬やステロイドの注射が行われることもあります。

最近では、慢性的な痛みに効く新しいタイプの鎮痛薬も登場しており、胃腸への負担や副作用を考慮しながら、医師が最適な薬を選択します。

主な保存療法の種類と目的

治療法主な内容期待される効果
薬物療法内服薬、湿布、座薬、関節内注射炎症の沈静化、痛みの緩和
運動器リハビリ可動域訓練、筋力強化、歩行指導関節機能の改善、動作の安定
物理療法温熱療法、電気治療、超音波血流改善、筋緊張の緩和

理学療法士による専門的なリハビリ

整形外科などの医療機関では、理学療法士というリハビリテーションの専門家による個別指導を受けることができます。

理学療法士は、患者様一人ひとりの身体の癖、筋力のバランス、関節の硬さを評価し、もっとも効率的で安全な運動プログラムを立案します。

自分一人では気づきにくい「歩き方の悪い癖」や「かばい動作」を修正し、正しい身体の使い方を習得することは、股関節への負担を減らす上で非常に有益です。

また、自宅で行うべきセルフエクササイズの正しい方法や、日常生活での動作指導(家事の姿勢、階段の登り方など)も受けることができるため、生活全体を通じたケアが可能になります。

温熱療法や物理療法の活用

物理療法は、物理的なエネルギーを利用して痛みを和らげ、組織の回復を促す治療法です。

慢性的な痛みや筋肉のこわばりがある場合、ホットパックや赤外線などで患部を温める「温熱療法」が効果的です。

温めることで血行が良くなり、痛みを引き起こす発痛物質が洗い流されやすくなるとともに、筋肉が緩んでリラックス効果が得られます。

また、電気刺激を与える低周波治療や干渉波治療などは、神経の働きに作用して痛みの伝達をブロックしたり、筋肉をマッサージしたりする効果があります。

これらは根本的な変形を治すものではありませんが、痛みの悪循環を断ち切り、運動療法を行いやすい環境を整えるための補助的な手段として有用です。

手術を検討するタイミングと術後の生活

保存療法を十分に続けても症状が改善せず、日常生活に大きな支障が出る場合は、手術療法を検討するタイミングとなります。

手術はあくまで「生活の質を取り戻すための手段」であり、レントゲン上の変形が強いからといって必ずしもすぐに手術が必要なわけではありません。

「痛くて外出するのが億劫になった」「夜も眠れない」「短距離しか歩けない」といった、患者様自身が感じる生活の不自由さが手術を決める最大の基準となります。

近年、手術技術や人工関節の性能は飛躍的に向上しており、術後は痛みのない生活を取り戻し、旅行や軽いスポーツを楽しめるようになる方も多くいらっしゃいます。

保存療法で改善が見られない場合

まずは減量、筋力トレーニング、薬物療法、生活様式の改善といった保存療法を少なくとも数ヶ月間は継続して行います。

それでも痛みがコントロールできず、歩行距離が短くなったり、痛み止めが手放せなかったりする場合は、次のステップとして手術を視野に入れます。

また、若年層であっても変形の進行スピードが非常に速い場合や、将来的に重度の障害が予測される場合には、早めの手術が推奨されることもあります。

手術を受けるかどうかは、医師の判断だけでなく、患者様自身の「どのような生活を送りたいか」という希望や社会的背景(仕事、家庭環境など)を総合的に考慮して決定されます。

人工股関節置換術の特徴

変形性股関節症の手術でもっとも一般的なのが「人工股関節置換術」です。

これは、変形して傷んだ大腿骨頭と寛骨臼を取り除き、金属やセラミック、ポリエチレンなどでできた人工の関節に置き換える手術です。

この手術の最大のメリットは、痛みの劇的な改善です。関節の擦れ合いがなくなるため、術後早期から痛みが消失し、歩行能力が回復します。

入院期間も短縮傾向にあり、手術翌日からリハビリを開始し、2〜3週間程度で退院できるケースが一般的です。

人工関節の耐久性も向上しており、現在は20年から30年以上持つと言われています。ただし、感染症や脱臼などのリスクもゼロではないため、術後は定期的な検診が必要です。

主な手術方法の比較

術式名対象となる主なケース特徴
人工股関節置換術変形が進行した中高年の方除痛効果が高い、早期のリハビリが可能
骨切り術(こつきりじゅつ)変形が初期〜進行期の若年層自分の関節を温存できる、リハビリ期間は長め
関節鏡視下手術初期で関節唇損傷などがある場合傷が小さい、適応が限られる

骨切り術の適応とメリット

比較的若く(一般的に50代くらいまで)、変形が初期から進行期の前半で、軟骨がある程度残っている場合には「骨切り術(こつきりじゅつ)」という選択肢があります。

これは、自分の骨盤や大腿骨の一部を切って角度を変え、体重がかかる位置をずらすことで、関節の適合性を良くする手術です。

最大のメリットは、自分の関節(骨と軟骨)を温存できる点です。

人工物ではないため、感染や摩耗のリスクが少なく、将来的には激しいスポーツや肉体労働への復帰も可能になる場合があります。

ただし、骨が癒合するまで時間がかかるため、人工関節に比べてリハビリ期間や社会復帰までの期間が長くなる傾向があります。

よくある質問

変形性股関節症と診断されましたが、将来必ず手術が必要になりますか?

必ずしも手術が必要になるわけではありません。

多くの患者様は、適切な保存療法(運動療法、体重管理、生活習慣の改善など)を継続することで、痛みをコントロールしながら日常生活を送ることができています。

変形があっても痛みが強くない場合もあります。手術は、保存療法を行っても痛みが取れず、生活に著しい支障が出た場合に初めて検討される最終手段です。

早期に対策を始めれば、一生自分の股関節で過ごせる可能性も十分にあります。

運動をすると痛いのですが、それでも続けたほうがいいですか?

痛みが強い時に無理に運動を続けることはお勧めしません。炎症が悪化する恐れがあります。ただし、全く動かないでいると筋力が低下し、かえって病状を進行させてしまいます。

重要なのは「痛みの出ない範囲」や「翌日に痛みが残らない程度」で行うことです。例えば、体重のかからないプールでの運動や、寝ながら行う筋トレなどが有効です。

痛みの種類や程度によって適切な運動内容は異なるため、自己判断せず医師や理学療法士に相談してください。

グルコサミンやコンドロイチンなどのサプリメントは効果がありますか?

サプリメントの効果については、医学的なエビデンス(科学的根拠)が確立されているとは言い難いのが現状です。

「痛みが和らいだ」と感じる方もいらっしゃいますが、すり減った軟骨がサプリメントによって再生することは期待できません。

サプリメントはあくまで食品であり、補助的なものと捉えてください。もっとも確実な対策は、やはり体重管理と適切な運動療法です。

サプリメントに頼りすぎず、基本的な生活習慣の改善を優先することが重要です。

股関節に悪い座り方はありますか?

股関節を深く曲げる姿勢や、ねじる姿勢は負担になります。具体的には、床に座る「正座」「あぐら」「横座り(お姉さん座り)」「体育座り」などは避けたほうが良いでしょう。

また、低い椅子やソファも立ち上がる際に強い負荷がかかります。

生活様式を「和式」から「洋式」へ変え、椅子とテーブル、ベッドを使用する生活に切り替えることが、股関節を守るためには非常に有効です。

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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