股関節の変形症における原因と予防法
股関節の痛みや違和感は、長年の生活習慣や生まれ持った骨の形が深く関係して発生します。
変形性股関節症の原因を正しく理解することは、進行を食い止め、将来の生活の質を守るための第一歩です。
本記事では、なぜ股関節が変形してしまうのかという根本的な原因から、日本人に多い特有の背景、そして今日から始められる具体的な予防法までを網羅的に解説します。
痛みのない快適な生活を取り戻すための知識としてお役立てください。
目次
変形性股関節症とはどのような病気か
変形性股関節症は、長期間にわたる負荷や構造的な問題により関節軟骨がすり減り、骨そのものが変形してしまう疾患であり、早期発見と適切な対処が進行を遅らせるために重要です。
関節は本来、滑らかに動くように設計されていますが、クッションの役割を果たす軟骨が摩耗することで、骨同士が直接ぶつかり合うようになります。
この物理的な摩擦が炎症を引き起こし、痛みや可動域の制限といった症状を招きます。
原因を特定し、病態の進行度合いに合わせた対策を講じることが、生涯自身の足で歩き続けるためには必要です。
軟骨の磨耗と骨の変化
股関節は、大腿骨の先端にある球状の「骨頭」と、骨盤側にある受け皿の「臼蓋」から成り立っています。
健康な状態では、これらの骨の表面は弾力性のある軟骨で覆われており、衝撃を吸収するとともに関節の滑らかな動きを助けています。
しかし、変形性股関節症が始まると、この軟骨が徐々に薄くなり、表面が毛羽立ったり亀裂が入ったりします。
軟骨には神経や血管が通っていないため、初期の段階では痛みを感じにくいという特徴があります。これが発見を遅らせる一因となります。
摩耗が進行して軟骨がなくなると、その下の骨が露出し、硬化したり「骨棘(こつきょく)」と呼ばれる棘のような骨の増殖が起きたりします。
骨自体には神経が通っているため、この段階になると強い痛みを感じるようになります。
また、骨頭や臼蓋の形が変わることで関節の噛み合わせが悪くなり、さらに摩耗が加速するという悪循環に陥ります。
病期ごとの関節内部の状態変化
| 病期(ステージ) | 軟骨の状態 | 骨の変化 |
|---|---|---|
| 前期・初期 | 厚みが維持されているか、わずかに薄くなる | 関節の隙間がわずかに狭くなる程度 |
| 進行期 | 明らかに磨耗し、薄くなっている | 骨硬化や骨棘の形成が見え始める |
| 末期 | ほぼ消失し、骨同士が接触する | 著しい変形と関節裂隙の消失 |
進行する痛みと可動域制限
変形性股関節症の症状は、時間の経過とともに変化します。初期には「動き始めの違和感」が主で、歩き始めや椅子から立ち上がる瞬間に脚の付け根に重だるさや軽い痛みを感じます。
この痛みは、しばらく動いていると治まることが多いため、つい放置してしまいがちです。
しかし、病気が進行すると痛みは持続的になり、長い距離を歩くことが困難になったり、階段の昇り降りが辛くなったりします。
さらに症状が進むと、安静にしていても痛む「安静時痛」や、夜寝ていても痛む「夜間痛」が現れることがあります。これらは日常生活の質を大きく低下させる要因となります。
また、痛みに加えて顕著になるのが可動域の制限です。
関節包が炎症を起こして硬くなったり、骨の変形によって物理的な動きが妨げられたりすることで、足の爪切りが難しくなる、靴下が履きにくくなる、正座ができなくなるといった具体的な不便が生じます。
初期症状を見逃さないポイント
股関節の異常は、痛みとして現れる前に、日常の些細な動作の変化として現れることがあります。
これらのサインを早期にキャッチすることが、保存療法で長く関節を維持するための鍵となります。
例えば、歩いているときに左右の肩の高さが違う、靴の底の減り方が左右で極端に異なるといった現象は、股関節の動きの悪さを他の部位がかばっている証拠かもしれません。
また、お尻や太ももの筋肉が以前より痩せてきたと感じる場合も注意が必要です。
痛みから無意識に患側(悪い方の足)をかばい、使わなくなることで筋力が低下している可能性があります。
股関節そのものの痛みではなく、膝の上や腰に痛みが出る「関連痛」として症状が現れることも珍しくありません。
膝が痛いと思って検査を受けたら、実は原因が股関節にあったというケースは非常に多く見られます。
自己チェックで確認したい初期サイン
- 立ち上がる時や歩き始めに脚の付け根に違和感がある
- 足の爪を切る姿勢や靴下を履く動作がきつくなった
- 長時間歩いた後、太ももや膝にだるさを感じる
- 仰向けに寝た時、片方の足が開きにくい
先天的な要因が大きく関わる股関節の形状
日本人の変形性股関節症において最も大きな原因となっているのは、生まれつき、あるいは発育過程で生じる股関節の形状異常であり、これを「臼蓋形成不全」と呼びます。
正常な股関節では、骨盤側の受け皿(臼蓋)がボール状の大腿骨頭を約80%ほど包み込んでいますが、臼蓋形成不全ではこの被覆率が低く、被りが浅い状態になっています。
この構造的な弱点が、長年の使用によって関節に過度な負担をかけ、変形を引き起こす主要な要因となります。
臼蓋形成不全の影響
臼蓋形成不全があると、体重を支える面積が通常よりも極端に狭くなります。
物理学的に考えると、同じ重量を支える場合、面積が狭ければ狭いほど、単位面積あたりにかかる圧力は増大します。
正常な股関節であれば全体に分散されるはずの体重負荷が、臼蓋の縁などの一部に集中してしまうため、その部分の軟骨が集中的にすり減っていきます。
この状態は、若いうちは筋力や軟骨の弾力性によってカバーされていることが多く、症状が出ないこともあります。
しかし、30代、40代と年齢を重ね、軟骨の老化が始まる時期や、出産や体重増加などの環境変化が重なる時期に、突然痛みが発症することが多いです。
臼蓋形成不全は、単に骨の形の問題にとどまらず、関節の不安定性を引き起こし、周囲の筋肉や靭帯にも過剰な負担を強いることになります。
正常な股関節と臼蓋形成不全の比較
| 比較項目 | 正常な股関節 | 臼蓋形成不全 |
|---|---|---|
| 臼蓋の被覆率 | 骨頭の約4/5を覆っている | 被りが浅く、骨頭が外にはみ出し気味 |
| 体重の分散 | 広い面で均等に分散される | 狭い範囲に圧力が集中する |
| 発症リスク | 加齢のみでは発症しにくい | 若年層でも軟骨磨耗が起きやすい |
生まれつきの脱臼とその後遺症
かつて日本で多く見られた「先天性股関節脱臼」も、将来的な変形性股関節症の原因となります。現在では「発育性股関節形成不全」と呼ばれることが一般的です。
乳児期に股関節が脱臼していた、あるいは脱臼しやすい状態(亜脱臼)にあった場合、適切な治療を受けて整復されたとしても、臼蓋の発育が不十分になることがあります。
乳児期のおむつの巻き方や抱き方が改善されたことで、完全な脱臼は減少しましたが、依然として臼蓋の形成が不完全なケースは見られます。
幼少期に股関節の治療歴がある方や、検診で股関節の開きが硬いと指摘されたことがある方は、成人してからの変形性股関節症のリスクが高いグループに入ります。
過去の既往歴を把握し、早めに専門的なチェックを受けることが、将来の重症化を防ぐためには大切です。
日本人に多い骨盤の形
欧米人と比較して、日本人は骨盤の形状や生活様式の違いから、変形性股関節症の原因内訳が異なります。
欧米では肥満や過体重による「一次性」の股関節症が多いのに対し、日本では骨格的な要因による「二次性」の股関節症が全体の約8割を占めています。
これは遺伝的な要素も含まれますが、農耕民族としての歴史的背景や、畳の上での生活、正座やあぐらといった文化的な姿勢も、骨盤や股関節の発達に何らかの影響を与えてきたと考えられています。
特に日本人の女性は、男性に比べて骨盤が広く平たい形状をしている傾向があり、これが臼蓋の被りを浅くする一因とも言われています。
自分が日本人特有の「発症しやすい骨格」を持っている可能性があると認識することは、無駄な不安を感じるためではなく、より積極的な予防行動をとるための動機付けとして非常に有益です。
後天的な要因と日常生活での負担
生まれ持った骨の形だけでなく、年齢を重ねる中での生活習慣や身体の変化も、股関節の状態を悪化させる大きな要因となります。
特に体重管理と活動量の調整は、関節への物理的負荷を直接的に左右するため、変形の進行を抑制する上で極めて重要です。
軟骨は消耗品であるという側面を持っており、日々の生活の中でどれだけの負荷をかけ続けているかが、変形の進行スピードを決定づけます。
加齢による軟骨の質の変化
年齢を重ねると肌の水分量が減って弾力が失われるのと同様に、関節軟骨も加齢とともに水分含有量が減少し、弾力性を失っていきます。
若い頃の軟骨は瑞々しいクッションのような役割を果たしていますが、老化により硬く脆くなった軟骨は、同じ衝撃を受けても傷つきやすくなります。
また、関節を満たしている関節液のヒアルロン酸濃度や粘度も加齢とともに低下する傾向にあります。
その結果、潤滑機能が低下し、摩擦係数が高まることで、軟骨の摩耗が促進されます。
加齢そのものを止めることはできませんが、適度な運動で関節液の循環を促し、軟骨への栄養供給を維持することで、質の低下を緩やかにすることは十分に可能です。
体重増加が股関節に与える物理的ストレス
股関節は、歩行時に体重の約3倍から4倍の負荷がかかると言われています。つまり、体重が1kg増えると、股関節にかかる負担は3kgから4kgも増加することになります。
これは、わずかな体重増加であっても、積もり積もれば関節にとって破壊的なダメージとなることを意味します。
肥満は、単に物理的な重さの問題だけではありません。
脂肪組織からは炎症を促進する物質(アディポサイトカイン)が分泌されており、これが関節内の微細な炎症を持続させ、軟骨の破壊を早める可能性があることも近年の研究で示唆されています。
適正体重を維持することは、物理的な負荷を減らすだけでなく、生化学的な観点からも関節を守るために極めて重要です。
動作別にみる股関節への負荷倍率
| 日常の動作 | 体重に対する負荷の倍率 | 体重60kgの人の場合の負荷 |
|---|---|---|
| ゆっくり歩く | 約3倍 | 約180kg |
| 早歩き | 約4倍〜5倍 | 約240kg〜300kg |
| 階段の昇降 | 約6倍〜7倍 | 約360kg〜420kg |
重労働や激しいスポーツの影響
職業的な要因や趣味の活動も、股関節症の発症に関与します。
重量物を頻繁に持ち上げる仕事、長時間立ち続ける仕事、あるいは農作業のように中腰姿勢を長時間続ける作業は、股関節に持続的な圧力をかけ続けます。
これらの動作は、骨盤と大腿骨の特定の位置関係で強い圧力がかかり続けるため、局所的な軟骨摩耗を引き起こしやすくなります。
スポーツに関しては、過度な衝撃が繰り返される競技(長距離ランニング、ジャンプを伴う競技、コンタクトスポーツなど)はリスク因子となります。
適度な運動は推奨されますが、プロレベルやそれに準ずる強度でのトレーニングは、関節の修復能力を超えたダメージを蓄積させる可能性があります。
特に、過去に股関節の怪我をした経験がある場合、その古傷がきっかけとなって変形性股関節症へと移行するケースも少なくありません。
性別による発症リスクの違い
変形性股関節症は、圧倒的に女性に多い疾患であり、その背景には女性特有の骨格構造やホルモンバランスの変化が密接に関係しています。
女性特有の骨格構造やライフステージごとの身体変化を理解し、筋力維持などの対策を講じることがリスク軽減につながります。
統計的に見ても、患者の8割から9割は女性であると言われています。
女性に多い理由とホルモンバランス
女性に股関節症が多い最大の理由は、前述した「臼蓋形成不全」が女性に多く発症するためです。
これに加え、女性ホルモン(エストロゲン)の影響も無視できません。
エストロゲンには骨や軟骨の代謝を助け、関節を保護する作用がありますが、閉経を迎えてこのホルモンの分泌が急激に減少すると、骨密度が低下(骨粗鬆症)しやすくなると同時に、軟骨の質も低下しやすくなります。
また、妊娠・出産時には、産道を広げるために骨盤周りの靭帯を緩める「リラキシン」というホルモンが分泌されます。この作用によって一時的に関節が不安定になります。
出産後、適切なケアを行わずに育児による重労働が加わることで、股関節に歪みや負担が残ってしまうことも、中年期以降の股関節症の遠因となることがあります。
筋力差が関節を守る力に及ぼす影響
関節を安定させ、衝撃を吸収する役割を果たしているのは、関節周りの筋肉です。
特に、骨盤と大腿骨をつなぐ「中殿筋(ちゅうでんきん)」などの筋肉群は、歩行時に骨盤を水平に保つために重要な働きをしています。
一般的に、男性に比べて女性は筋肉量が少なく、加齢による筋肉の減少率も高い傾向にあります。
筋肉という天然のコルセットが弱くなると、歩行や運動の衝撃がダイレクトに骨や軟骨に伝わるようになります。
この筋力差が、同じような骨格条件であっても女性の方が症状が悪化しやすい理由の一つです。
逆に言えば、筋力を維持・強化することは、性別によるハンディキャップを克服するための最も確実な手段となり得ます。
ライフステージごとのリスク変化
女性の股関節リスクは年齢とともに変化します。思春期には臼蓋形成不全による初期の痛みが出ることがあり、妊娠・出産期には体重増加とホルモンによる関節の緩みがリスクとなります。
そして更年期以降は、エストロゲンの減少と筋力の低下、それに長年の負荷の蓄積が重なり、発症のピークを迎えます。
40代から50代にかけて「急に股関節が痛くなった」と訴える方が多いのは、これらの要因が複合的に重なり合う時期だからです。
この時期に「ただの老化現象」と片付けず、適切な診断と対策を講じることが、60代以降の歩行機能を守ることにつながります。
二次性の股関節症を引き起こす他の疾患
変形性股関節症には、原因が特定できない「一次性」と、何らかの明らかな原因疾患があって続発する「二次性」があります。
日本では二次性が大半を占めますが、その原因は臼蓋形成不全だけではありません。
過去の怪我や別の病気が引き金となって股関節が破壊されるケースも存在するため、これらは一般的な変形性股関節症とは治療方針や進行速度が異なる場合があり、鑑別が必要です。
過去の怪我や外傷の影響
交通事故や転落などによる「股関節脱臼骨折」や「寛骨臼骨折」などの重度な外傷は、治癒した後も関節の形状に不整(デコボコ)を残すことがあります。
このわずかな段差が、関節を動かすたびに軟骨を削るやすりのような役割を果たし、数年から数十年かけて変形性股関節症を引き起こします(外傷性股関節症)。
また、スポーツによる股関節唇損傷(関節の縁にある軟骨組織の損傷)も、放置すると関節の安定性を損ない、変形性股関節症へと進行するリスク因子となります。
過去に股関節周りの大きな怪我をした経験がある方は、現在は痛みがなくても、定期的なレントゲン検査などで関節の状態を確認しておくことが推奨されます。
感染症や炎症性疾患との関連
「化膿性股関節炎」は、細菌が股関節内に侵入して感染を起こす病気です。かつては乳幼児に多く見られましたが、成人の場合でも免疫力が低下している際などに発症することがあります。
感染による激しい炎症は、短期間で軟骨や骨を破壊してしまいます。炎症が治まった後も、破壊された関節構造が原因で変形が進行することがあります。
また、関節リウマチも股関節に病変を及ぼす代表的な疾患です。リウマチは自己免疫の異常により滑膜(かつまく)が増殖し、軟骨や骨を溶かしてしまう病気です。
リウマチによる股関節症は、一般的な変形性股関節症とは異なり、骨が委縮して脆くなる傾向があり、薬物療法による全身的なコントロールが重要になります。
特発性大腿骨頭壊死症との違い
よく混同されがちな疾患に「特発性大腿骨頭壊死症(とくはつせいだいたいこっとうえししょう)」があります。
これは、大腿骨頭への血流が何らかの原因で途絶え、骨組織が壊死してしまう難病です。
ステロイド薬の大量投与やアルコールの多飲などがリスク因子として知られていますが、原因が不明な場合もあります。
壊死した部分が潰れてしまう(圧潰)と、骨頭の形がいびつになり、結果として変形性股関節症と同様の痛みや機能障害を引き起こします。
ただし、発症のメカニズムが異なるため、初期段階でのMRI検査などによる正確な診断が必要です。
原因が骨の壊死にあるのか、軟骨の摩耗にあるのかによって、選択すべき治療法や生活指導の内容が変わってきます。
自分でできる日常生活での予防アプローチ
股関節の変形を予防し、進行を遅らせるために最も効果的なのは、毎日の生活習慣の見直しです。
手術が必要な段階になる前に、あるいは手術を回避するために、日々の動作一つ一つにおける股関節への負担を減らす工夫を取り入れることが大切です。
「貧乏ゆすり」が実は股関節に良いとされるように、医学的な観点に基づいた正しい生活様式を身につけることで、関節の寿命を延ばすことができます。
股関節への負担を減らす座り方と立ち方
和式生活から洋式生活への切り替えは、股関節を守るための基本です。
畳に座る、正座をする、横座りをするといった床での生活は、股関節を深く曲げたり捻ったりするため、関節内圧を高め負担を増大させます。
可能な限り椅子とベッドの生活に移行することをお勧めします。
椅子の高さも重要です。座った時に股関節が膝よりも高い位置に来るような、座面の高い椅子やソファーを選ぶと、立ち上がる際の負担が軽減されます。
また、立つときは片足に重心をかける「休めの姿勢」を避け、両足に均等に体重を乗せるよう意識しましょう。
キッチンでの立ち仕事の際は、高めの椅子を用意して時々座るなど、連続して荷重がかかる時間を減らす工夫も有効です。
生活様式と股関節への負担比較
| 生活シーン | 推奨される動作(負担小) | 避けるべき動作(負担大) |
|---|---|---|
| 座る時 | 高さのある椅子、洋式トイレ | 正座、あぐら、横座り、低いソファー |
| 寝る時 | ベッド(立ち上がりやすい高さ) | 布団(床からの立ち上がりが負担) |
| 荷物を持つ時 | リュックサック、キャリーバッグ | 重い手提げ鞄(片側荷重になる) |
適正体重の維持と食事の工夫
前述の通り、体重コントロールは最強の予防薬です。現在の体重から数キロ減らすだけでも、歩行時の関節負荷は何十キロ単位で軽減されます。
急激なダイエットは筋肉量を減らしてしまうリスクがあるため、月に1キロ程度の緩やかな減量を目指すのが理想的です。
食事に関しては、骨を強くするカルシウムやビタミンD、軟骨の材料となるタンパク質を積極的に摂取することが基本です。
特に高齢の女性は骨粗鬆症のリスクも高いため、乳製品、小魚、大豆製品などをバランスよく摂る必要があります。
サプリメントに頼りすぎず、毎日の食事から栄養を摂ることが、全身の健康維持にもつながります。
杖や靴選びで関節を守る
「杖を使うのは年寄りくさい」と抵抗を感じる方も多いですが、杖は股関節を守る非常に優れた道具です。
痛む足と反対側の手に杖を持つことで、股関節にかかる負荷を30%から40%も軽減できるというデータがあります。
痛みが強い時期や長距離を歩く時だけでも杖を使用することで、炎症の悪化を防ぐことができます。
靴選びも重要です。クッション性の高いスニーカーやウォーキングシューズを選び、ヒールの高い靴や底の硬い革靴は避けましょう。
衝撃吸収インソールを使用するのも効果的です。足元からの衝撃を和らげることは、そのまま股関節への優しさにつながります。
運動療法による筋力強化とストレッチ
安静にしすぎることは、かえって股関節症を悪化させる原因になります。関節を動かさないと筋肉が衰え、関節自体も硬く拘縮してしまうからです。
痛みのない範囲で適切に体を動かすことは、天然のコルセットである筋肉を強化し、関節液の循環を良くして軟骨に栄養を届けるために不可欠な取り組みです。
中殿筋を鍛えるトレーニング
股関節の安定性に最も寄与するのが、お尻の横にある「中殿筋」です。この筋肉が弱いと、歩くたびに骨盤が傾き、股関節への剪断力(ずれる力)が強まります。
中殿筋を鍛える代表的な運動に、横向きに寝て上側の足を天井に向かってゆっくり持ち上げる「外転運動」があります。
この運動を行う際は、反動を使わずにゆっくりと動かすことがポイントです。足の重さを利用するだけでも十分な負荷になります。
テレビを見ながらCMの間だけ行うなど、日常生活の中に組み込むことで継続しやすくなります。
筋力トレーニングは即効性はありませんが、数ヶ月続けることで確実に歩行の安定性が増し、痛みの軽減につながります。
股関節の柔軟性を保つストレッチ
変形性股関節症が進行すると、関節包や周りの筋肉が硬くなり、股関節が伸びにくくなります(屈曲拘縮)。股関節が伸びないと、歩幅が狭くなり、前かがみの姿勢になりがちです。
これを防ぐために、股関節の前側(腸腰筋)を伸ばすストレッチが有効です。
仰向けに寝て、片方の膝を抱え込み、もう片方の足をまっすぐ伸ばすストレッチや、うつ伏せに寝るだけでも股関節の前側を伸ばす効果があります。
ただし、痛みを我慢して無理やり広げるようなストレッチは逆効果です。「痛気持ちいい」と感じる範囲で、呼吸を止めずにリラックスして行うことが大切です。
水中ウォーキングのメリット
股関節への負担を最小限に抑えつつ、筋力強化と可動域訓練を同時に行える理想的な運動が「水中ウォーキング」です。
水中では浮力が働くため、体重による負荷が陸上の数分の一から十分の一程度まで軽減されます。そのため、陸上では痛みで歩けない方でも、水中であれば楽に運動できる場合が多いのです。
また、水の抵抗が適度な筋力トレーニングの効果をもたらします。温水プールであれば、温熱効果による血行促進や筋肉の弛緩効果も期待でき、疼痛緩和にも役立ちます。
週に2回から3回、30分程度の水中歩行を行うことは、全身の有酸素運動としても優れており、体重管理の観点からも非常に推奨される運動療法です。
よくある質問
股関節の変形症に関する疑問は多岐にわたります。医学的な知見に基づいた正しい知識を持つことが、不安の解消と適切な対処につながります。
ウォーキングは股関節のためにたくさん歩いたほうが良いですか?
歩くことは筋力維持に有効ですが、痛みを我慢してまで長時間歩くことは逆効果です。痛みが強い時期に無理に歩くと炎症が悪化し、軟骨の磨耗を早めてしまいます。
痛みの出ない範囲での短時間の歩行や、水中ウォーキングなど関節負荷の少ない運動を選ぶことが大切です。翌日に痛みが残るような運動量は多すぎると判断し、量を調整してください。
股関節の痛みは温めるべきですか冷やすべきですか?
基本的には、慢性的な痛みやこわばりがある場合は「温める」のが有効です。温めることで血流が良くなり、筋肉の緊張がほぐれ、痛みが和らぎます。
入浴などが効果的です。一方で、急に痛みが強くなった時や、熱感を持って腫れているような急性期には、一時的に「冷やす」ことで炎症を抑えることができます。
状態に合わせて使い分けることが必要です。
変形性股関節症は遺伝しますか?
病気そのものが直接遺伝するわけではありませんが、股関節の形状(臼蓋形成不全になりやすい骨盤の形など)は遺伝する傾向があります。
母親や祖母が股関節が悪かった場合、娘も似たような骨格を受け継いでいる可能性があります。
ただし、必ず発症するわけではなく、生活習慣や体重管理によって発症を防いだり遅らせたりすることは十分に可能です。
一度すり減った軟骨は元に戻りますか?
残念ながら、現在の医療技術では、一度完全にすり減って消失した軟骨を元の状態に自然再生させることは困難です。
しかし、再生医療の研究が進んでおり、将来的には新たな治療法が確立される可能性があります。
現時点では、残っている軟骨をいかに温存するか、これ以上減らさないようにするかが治療と予防の主眼となります。
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