股関節の付け根が痛む症状と原因の関係 – 診断基準
股関節の付け根に生じる痛みは、日常生活の質を大きく低下させる要因となりますが、その原因は加齢による変形から骨格の形状異常まで多岐にわたります。
痛みを放置すると歩行困難などの深刻な状態へ進行する可能性があるため、早期に正しい原因を特定し対策を講じることが重要です。
本記事では、股関節の付け根が痛む際に考えられる具体的な病気や、医師が用いる診断基準、そして年代別の傾向について詳しく解説します。
自身の症状と照らし合わせ、適切な医療機関への受診や生活習慣の見直しのきっかけとして活用してください。
目次
股関節の付け根に痛みが出る場所と痛みの種類の見分け方
痛む場所と痛みの質を正確に特定することで、原因となる病気や組織の損傷部位をある程度推測することが可能です。
股関節そのものに異常がある場合、最も痛みが出やすいのは足の付け根である鼠径部(そけいぶ)ですが、お尻や太ももの外側に痛みが放散することもあります。
痛みの発生源が骨や軟骨にあるのか、それとも筋肉や腱にあるのかによって対処法が異なるため、まずは自分の痛みがどこで、どのように起こっているのかを観察することが大切です。
鼠径部とお尻と太ももの外側の痛みの違い
股関節疾患の多くは、足の付け根の前方部分である鼠径部に痛みを感じます。
これは股関節の前方が関節包と呼ばれる袋で覆われており、炎症や負担を感じ取る神経が豊富に分布しているためです。
一方で、お尻の痛みは股関節の後方にある筋肉の緊張や、腰椎からの神経痛が関連している場合も少なくありません。
また、太ももの外側が痛む場合は、大転子と呼ばれる骨の出っ張り部分にある滑液包の炎症などが疑われます。
痛む場所が一点に集中しているのか、広い範囲に広がっているのかも重要な判断材料です。
痛む部位と疑われる股関節の状態
| 痛む部位 | 可能性が高い状態 | 特徴的な症状 |
|---|---|---|
| 足の付け根(鼠径部) | 関節内病変(変形性股関節症など) | 立ち上がりや歩き始めに鋭い痛みを感じる。深く曲げると痛む。 |
| お尻(臀部) | 筋肉疲労、梨状筋症候群、腰椎疾患 | 座っていると痛む、また足にしびれを伴うことがある。 |
| 太ももの外側 | 大転子滑液包炎、腸脛靭帯炎 | 横向きで寝ると痛む、歩行時に外側が引っ張られる感覚がある。 |
鋭い痛みと鈍い痛みが示す危険信号
痛みの感じ方は、病気の進行度や炎症の強さを反映しています。「ズキッ」とする鋭い痛みは、急性の炎症が起きているサインであり、関節包や滑膜が強く刺激されている状態を示唆します。
特に、何か動作をした瞬間に走る鋭い痛みは、関節唇損傷などの組織損傷の可能性も考慮する必要があります。
対して、「重だるい」「なんとなく痛い」といった鈍痛は、慢性的な炎症や筋肉の持続的な緊張によって引き起こされることが多いです。
鈍痛だからといって軽視せず、長期間続く場合は骨の変形が静かに進行している可能性を疑う必要があります。
動作時痛と安静時痛による進行度の判断
股関節の病気は、初期段階では動き始めにのみ痛みを感じる「始動時痛」が特徴です。
椅子から立ち上がる瞬間や、歩き出しの一歩目で痛みを感じますが、少し動くと痛みが和らぐ傾向にあります。
しかし症状が進行すると、歩いている間ずっと痛む「歩行時痛」へと変化し、最終的には寝ていても痛む「安静時痛」や、夜も痛みで目が覚める「夜間痛」が現れます。
安静にしていても痛む場合は、炎症が非常に強いか、骨自体の崩壊が進んでいる危険性があるため、早急な医療機関への相談が必要です。
股関節の付け根が痛くなる主な病気と原因
股関節の付け根が痛む原因として最も頻度が高いのは変形性股関節症ですが、それ以外にも骨の形状異常や血流障害など、さまざまな病気が隠れており、早期の原因特定が重要です。
単なる筋肉痛と自己判断して放置してしまうと、関節の破壊が進み、手術が必要になるまで悪化してしまうこともあります。
それぞれの病気には特徴的な発症パターンやリスク要因が存在するため、自分の症状がどの病気に当てはまるかを知ることは、適切な治療への第一歩です。
変形性股関節症の進行と軟骨の摩耗
変形性股関節症は、関節のクッションである軟骨がすり減り、骨と骨が直接ぶつかり合うことで痛みや変形が生じる病気です。
日本では、生まれつき股関節の受け皿が浅い「寛骨臼形成不全」が原因となって、中高年以降に発症するケースが多く見られます。
軟骨には神経が通っていないため、初期の摩耗段階では痛みを感じにくいですが、進行して滑膜に炎症が及ぶと強い痛みが出現します。
進行すると関節の隙間がなくなり、骨棘(こつきょく)という骨のトゲができ、足の長さが変わったり、可動域が著しく制限されたりします。
変形性股関節症の病期と状態の変化
| 病期分類 | 関節内部の状態 | 自覚症状の変化 |
|---|---|---|
| 前期・初期 | 軟骨が少し摩耗し、関節の隙間がわずかに狭くなる。 | 立ち上がりや歩き始めに違和感や軽い痛みがあるが、休むと治まる。 |
| 進行期 | 軟骨の摩耗が進み、骨に嚢胞(空洞)や骨棘ができ始める。 | 歩行中も痛みが続き、靴下の着脱や爪切りが困難になり始める。 |
| 末期 | 軟骨がほぼ消失し、骨同士が直接擦れ合う。 | 常に痛みがあり、夜間痛も生じる。歩行が困難になり生活に支障が出る。 |
大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)の影響
近年注目されているのが、大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)という病態です。
これは、大腿骨(太ももの骨)と寛骨臼(骨盤の受け皿)の骨の形状に微妙な異常があり、股関節を深く曲げたり捻ったりした際に骨同士が衝突(インピンジメント)してしまう状態を指します。
繰り返される衝突により、関節唇や軟骨が傷つき、痛みが発生します。
スポーツ選手や活動的な若年層にも多く見られ、放置すると将来的に変形性股関節症へと移行するリスクがあるため、早期の発見と運動内容の調整が大切です。
特発性大腿骨頭壊死症という難病
特発性大腿骨頭壊死症は、大腿骨の頭部分への血流が途絶え、骨組織が死んでしまう(壊死する)病気です。
はっきりとした原因は不明な部分も多いですが、ステロイド薬の大量投与歴や、アルコールの多飲がリスク要因として知られています。
壊死しただけでは痛みはありませんが、体重をかけた際に壊死した脆い骨が潰れる(圧潰する)ことで急激な激痛が生じます。
突発的に痛みが始まるのが特徴で、徐々に痛くなる変形性股関節症とは発症の仕方が異なります。
関節唇損傷とその他の原因
股関節には、骨盤の受け皿の縁を取り囲むように「関節唇」という軟骨組織が存在し、関節の安定性を保つゴムパッキンのような役割を果たしています。
この関節唇が、スポーツによる激しい動きや加齢、あるいは前述のFAIによって切れたりささくれたりするのが関節唇損傷です。
股関節を動かした際の引っ掛かり感や、特定の角度での痛みが特徴です。
その他、腰椎椎間板ヘルニアによる神経の圧迫が股関節周辺の痛みとして感じられる場合や、婦人科系疾患、鼠径ヘルニアなどが痛みの原因となることもあり、鑑別が必要です。
医師が用いる診断基準と検査の流れ
医師は問診、身体所見、画像検査(レントゲン・MRI)を組み合わせ、痛みの原因が骨、軟骨、筋肉のいずれにあるかを特定し確定診断を行います。
詳細な問診に加え、徒手検査による身体所見の確認、そしてレントゲンやMRIなどの画像検査を組み合わせることで、痛みの原因を確定します。
診断基準は学会のガイドラインなどに沿って定められており、客観的な証拠に基づいて治療方針が決定されます。
問診と身体所見によるスクリーニング
診断の入り口となるのが問診です。いつから痛いのか、どの動作で痛むのか、過去に股関節の病気をしたことがあるかなどを詳しく聞き取ります。
続いて、医師が患者の足を動かして可動域を確認したり、特定の姿勢をとらせて痛みを誘発させたりする理学所見をとります。
例えば、仰向けで膝を曲げて外側に開くパトリックテストなどは、股関節の異常を検知する代表的な検査法です。
これらの身体検査により、痛みの原因が関節内にあるのか、筋肉や脊椎にあるのかをある程度振り分けます。
レントゲン検査で判明する骨の異常
股関節疾患の診断において基本かつ重要なのが単純X線(レントゲン)検査です。この検査では、骨の形、関節の隙間の広さ、骨棘の有無、骨の密度の変化などを確認します。
変形性股関節症であれば、関節裂隙(隙間)の狭小化や骨硬化像が明瞭に写ります。また、日本人に多い寛骨臼形成不全の程度を測るために、CE角という角度を計測することもあります。
立った状態で撮影することで、体重がかかった時の関節の状態をより正確に評価することができます。
MRIとCT検査の役割分担
レントゲンは骨の状態を見るのには優れていますが、軟骨や関節唇、筋肉、靭帯などの柔らかい組織は写りません。
そこで、レントゲンでは異常が見つからない場合や、より精密な評価が必要な場合にMRI検査が行われます。
MRIは関節唇損傷や初期の大腿骨頭壊死症、関節内の水腫(水たまり)などを発見するのに極めて有用です。
一方、CT検査は骨の形状を立体的に把握するのに適しており、手術計画を立てる際や、複雑な骨変形を詳細に確認する際に用いられます。
各種検査の目的と分かること
| 検査の種類 | 主な目的 | 発見できる主な所見 |
|---|---|---|
| 単純X線(レントゲン) | 骨の形状と位置関係の把握 | 関節の隙間の狭さ、骨棘、寛骨臼形成不全、骨折の有無 |
| MRI検査 | 軟部組織と骨内部の評価 | 関節唇損傷、初期の骨頭壊死、筋肉の炎症、滑液包炎 |
| CT検査 | 骨構造の三次元的評価 | 微細な骨折、骨嚢胞の広がり、インピンジメントの骨形状 |
自分でできる股関節のチェック方法
可動域の制限や特定の動作における痛みの有無をセルフチェックすることで、股関節の異常を早期に発見し、医師への正確な症状伝達に役立てることができます。
日常生活の何気ない動作の中に、股関節の異常を示すサインは隠れています。
特別な器具を使わなくても、自宅で簡単な動作確認を行うことで、股関節の可動域制限や痛みの誘発動作をチェックすることができます。
無理のない範囲で試し、左右差があるかどうかに注目して確認を行います。
可動域の制限を確認する動作
股関節の健康度を測るバロメーターの一つが可動域です。仰向けに寝て片膝を抱え込み、胸に近づける動作を行ってみてください。
正常であれば太ももが胸につきますが、股関節に問題があると途中で止まったり、痛みが出たり、足が勝手に外側に開いたりします。
また、うつ伏せに寝て膝を曲げ、足を左右に倒す動作で内旋・外旋の動きを確認します。特に内側への捻り(内旋)が制限されている場合、変形性股関節症やFAIの可能性があります。
あぐらがかきにくい、足が開かないといった症状も重要なチェックポイントです。
日常生活に現れる危険サイン
特定の動作テストだけでなく、日々の生活動作のしにくさも診断の助けになります。無意識のうちに痛い足をかばうような動作をしていないか振り返ります。
例えば、靴下を履くときに足が上がらず苦労する、足の爪を切る姿勢が辛い、和式トイレのような深いしゃがみ込みができないといった症状は、股関節の屈曲制限を示唆しています。
また、階段の上り下りで手すりが必要になる、長時間歩くと足を引きずるといった変化も、筋力低下や痛みの回避行動として現れます。
股関節異常のセルフチェックリスト
- 足の爪切りや靴下の着脱が、以前よりやりにくくなった。
- あぐらをかくと、左右で膝の高さが大きく違い、片側が高い。
- 仰向けで膝を抱えたとき、太ももが胸につかない、または痛い。
- 歩き始めに足の付け根に痛みを感じるが、しばらく歩くと楽になる。
歩き方と姿勢のチェックポイント
家族や友人に歩き方を見てもらうことも有効です。痛い側の足に体重を乗せる時間を短くしようとして、リズミカルに歩けない「逃避性跛行(とうひせいはこう)」になっていないか確認します。
また、片足立ちをしたときに、骨盤が水平を保てず、浮かせた足の方へ骨盤が下がってしまう現象(トレンデレンブルグ徴候)が見られる場合、中殿筋という股関節を支える筋肉が弱っているか、股関節の構造的な破綻を示しています。
鏡の前で立ち、肩の高さや骨盤の高さに左右差がないかを見ることも大切です。
年代と性別による症状の傾向とリスク
年齢や性別により発症しやすい疾患傾向は異なり、中高年女性は変形性股関節症、若年層はスポーツ障害が主な原因となる傾向があるため、属性に応じたリスク管理が重要です。
女性は骨盤の形状やホルモンバランスの影響を受けやすく、男性は労働やスポーツによる負荷が原因となることが多い傾向にあります。
自分の属性に当てはまるリスクを知ることで、より警戒すべき病気を予測し、適切な予防や早期対応につなげることができます。
女性に多い寛骨臼形成不全の影響
日本人の股関節疾患における最大の特徴は、女性に圧倒的に多いということです。これは、生まれつき股関節の屋根の部分(寛骨臼)が浅い「寛骨臼形成不全」を持つ割合が女性に多いためです。
若い頃は筋力でカバーできていても、40代、50代と年齢を重ねて筋力が低下し、更年期でホルモンの影響を受けるようになると、支えきれなくなった関節に負担が集中し、変形性股関節症を発症します。
したがって、中高年女性が股関節の付け根に痛みを感じた場合は、まずこの構造的な問題を疑うことが一般的です。
中高年と若年層の原因の違い
中高年の股関節痛の多くが、長年の使用による退行変性(老化現象)としての変形性股関節症であるのに対し、10代から30代の若年層の痛みは、スポーツ障害や骨の成長に関連したトラブルが中心です。
若年層では、激しい運動によるオーバーユース、関節唇損傷、FAIなどが痛みの原因となります。
また、子供の場合はペルテス病や大腿骨頭すべり症といった成長期特有の病気も考慮する必要があります。
若くても痛みが続く場合は、「成長痛だろう」「使いすぎだろう」と放置せず、専門医の診断を受けることが大切です。
属性別・股関節痛の主なリスク要因
| 属性 | 主なリスク・原因 | 注意すべき背景 |
|---|---|---|
| 中高年女性 | 寛骨臼形成不全からの変形性股関節症 | 女性ホルモンの減少、筋力低下、過去の股関節脱臼既往。 |
| 中高年男性 | 一次性変形性股関節症、大腿骨頭壊死症 | アルコールの多飲、ステロイド使用歴、重労働。 |
| スポーツ選手・若年層 | 関節唇損傷、FAI、鼠径部痛症候群 | 過度なキック動作やランニング、柔軟性の不足。 |
生活習慣やスポーツ歴との関連
過去のスポーツ歴や現在の生活習慣も診断のヒントになります。
サッカーやバレエ、新体操など、股関節を極端に広げたり捻ったりする動作が多いスポーツを経験している人は、関節唇や軟骨に微細な損傷が蓄積している可能性があります。
また、肥満は股関節への物理的な負担を増大させる最大の敵です。歩行時には体重の約3倍、階段昇降時には数倍の力が股関節にかかるため、体重の増加はダイレクトに痛みの悪化につながります。
長時間のデスクワークや立ち仕事など、同じ姿勢を取り続けることも血流を悪化させ、痛みを誘発する要因となります。
痛みを緩和するための保存療法と生活指導
手術を行わない保存療法として、体重管理による負荷軽減と運動療法による筋力強化を組み合わせることが、痛みの緩和と進行予防に最も有効です。
股関節の診断がついたからといって、すぐに手術となるわけではありません。多くの場合は、まず手術を行わない「保存療法」から開始します。
痛みを取り除き、病気の進行を遅らせることを目的として、薬物療法、運動療法、そして日常生活の改善を組み合わせて行います。
自己判断でのケアは逆に症状を悪化させることもあるため、医師や理学療法士の指導のもとで正しく行うことが重要です。
体重コントロールと負担の軽減
保存療法の基本にして最も効果が高いのが体重管理です。体重を1キロ減らすだけでも、歩行時に股関節にかかる負担は3キロから4キロ分軽減されると言われています。
適正体重に近づけることは、痛み止めの薬を飲むこと以上に根本的な負荷軽減につながります。また、痛みが強い時期は杖を使用することも有効です。
杖を痛い足の反対側の手で突くことで、テコの原理を利用し股関節にかかる圧力を大幅に逃がすことができます。
洋式トイレやベッドの使用など、股関節を深く曲げなくて済む生活環境を整えることも大切です。
運動療法とリハビリテーションの重要性
痛いからといって動かさないでいると、関節はさらに硬くなり、支える筋肉も衰えて痛みが悪化する悪循環に陥ります。
運動療法では、股関節周りの筋肉(特に中殿筋や腸腰筋)を強化して関節の安定性を高めると同時に、ストレッチを行って可動域を維持・拡大させます。
水中ウォーキングは浮力が働くため、関節への負担を最小限に抑えつつ筋力を鍛えられる優れた運動です。
貧乏ゆすり(ジグリング)も、関節液の循環を良くし軟骨に栄養を届ける効果があるとして、医療現場で推奨されることがあります。
主な保存療法の種類と狙い
| 療法の種類 | 具体的な内容 | 期待される効果 |
|---|---|---|
| 運動療法 | 筋力トレーニング、ストレッチ、水中運動 | 関節の安定化、可動域維持、血流改善 |
| 薬物療法 | 消炎鎮痛剤(内服・湿布)、ヒアルロン酸注射 | 炎症の鎮静化、痛みの緩和による活動性維持 |
| 装具療法・生活指導 | 杖の使用、足底板(インソール)、体重管理 | 関節への物理的負荷の軽減、歩行バランスの補正 |
薬物療法と注射による疼痛管理
痛みが強く日常生活やリハビリに支障が出る場合は、薬の力を借ります。非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)の内服や湿布で炎症を抑えるのが一般的です。
長期間の服用で胃腸障害などの副作用が懸念される場合は、アセトアミノフェンなどの穏やかな薬に変更することもあります。
また、痛みのポイントがはっきりしている場合や炎症が強い場合は、関節内にステロイドや局所麻酔薬、ヒアルロン酸などを直接注射することもあります。
これらは根本治療ではありませんが、痛みの悪循環を断ち切るために有効な手段です。
医療機関を受診すべきタイミングと注意点
安静時や夜間の痛み、歩行困難、発熱を伴う場合は緊急性が高いため、速やかに専門医を受診し、不可逆的な骨の破壊を防ぐ必要があります。
股関節の痛みには、様子を見てよいものと、一刻も早く専門医の診断を受けるべきものがあります。
我慢強い人ほど受診が遅れ、来院時には骨の変形がかなり進行してしまっているケースも少なくありません。
自分の体の感覚を信じ、「いつもと違う」「おかしい」と感じたら迷わず整形外科を受診することが、将来の自分の足を守ることにつながります。
歩行困難や休息時の痛みがある場合
痛みのために足を引きずらないと歩けない、あるいは数メートル歩くだけで休まなければならない状態は、関節の機能が著しく低下しているサインです。
また、前述したように、じっとしていても痛い、寝ていても痛いという「安静時痛・夜間痛」がある場合は、炎症が高度であるか、骨頭壊死などの急性疾患の可能性があります。
これらは緊急性が高く、保存療法での改善が難しい段階に入っている可能性があるため、早急な受診が必要です。
発熱や全身症状を伴う場合
股関節の痛みに加えて、発熱や悪寒、全身の倦怠感を伴う場合は、「化膿性股関節炎」という細菌感染による病気を疑う必要があります。
これは関節内に細菌が入り込んで膿が溜まり、軟骨や骨を急速に破壊する病気です。
特に乳幼児や高齢者、免疫力が低下している人に発症しやすく、数日の遅れが関節の予後に致命的な影響を与えることがあります。
単なる関節痛とは思わずに、内科的な症状が重なっていないか確認することが重要です。
緊急性が高い症状リスト
- 転倒や事故の後、強い痛みで全く足に体重をかけられない。
- 発熱があり、股関節部分が熱を持って赤く腫れている。
- 安静にしていてもズキズキとした激痛が続き、眠れない。
- 急速に痛みが悪化し、日常生活が突然送れなくなった。
早期発見が予後を左右する理由
変形性股関節症などの進行性の病気において、早期受診は非常に大きな意味を持ちます。
初期段階であれば、生活習慣の改善やリハビリによって進行を食い止め、手術を回避して一生自分の足で歩き続けることも可能です。
また、手術が必要になった場合でも、骨の変形が少ない段階であれば、骨切り術などの自分の関節を残す手術法を選択できる余地が広がります。
手遅れにならないうちに、専門家の意見を聞き、自分の股関節の状態を正しく把握しておくことが推奨されます。
股関節の付け根が痛む症状と原因の関係 - 診断基準に関するFAQ
股関節の痛みに関して患者さんから頻繁に寄せられる疑問に対し、医学的な観点と日常生活での実践に基づいた回答を示します。
誤った自己判断を避け、正しい知識を持って治療に取り組むための参考にしてください。
痛みがあるときは温めるべきですか、冷やすべきですか?
痛みの時期や性質によって異なります。急に痛みが出た直後や、熱を持って腫れている急性期の場合は、冷やして炎症を抑えるのが一般的です。
一方、長期間続いている慢性的な痛みや、筋肉の張りが強い場合、お風呂上がりなど体が温まっているときに楽になる場合は、温めて血行を良くする方が効果的です。
温めると痛む場合は炎症が強い可能性があるため、温めるのを中止し医師に相談してください。
グルコサミンやコンドロイチンなどのサプリメントは効果がありますか?
サプリメントの効果については、科学的な医学的根拠(エビデンス)は確立されていません。
服用することで痛みが和らぐと感じる方もいらっしゃいますが、すり減った軟骨がサプリメントによって再生し、元通りになることは医学的には考えにくいです。
サプリメントはあくまで補助的な食品として捉え、治療の基本は体重管理や運動療法であることを忘れないでください。
どのような寝具や寝方を選べばよいですか?
柔らかすぎるマットレスは体が沈み込み、寝返りが打ちにくくなるため、股関節への負担が増すことがあります。
適度な硬さがあり、寝返りが打ちやすい寝具を選ぶことが大切です。
寝る姿勢については、痛いほうを上にして横向きになり、足の間に抱き枕やクッションを挟むと、股関節が安定し痛みが和らぐことが多いです。
仰向けで寝る場合は、膝の下にクッションを入れて軽く膝を曲げると、関節包が緩んで楽になります。
病院で「手術が必要」と言われましたが、絶対に手術しなければなりませんか?
手術は最終手段であり、絶対にしなければならないというわけではありません。
痛みの感じ方や生活スタイル、年齢、職業などは人それぞれ異なるため、レントゲン画像だけで手術が決まるわけではありません。
しかし、痛みが強くて日常生活がままならない場合や、これ以上放置すると他の関節や腰への悪影響が大きいと判断される場合は、手術が推奨されます。
不安がある場合は、セカンドオピニオンを利用して別の医師の意見を聞くことも一つの方法です。
ウォーキングは股関節に良いのでしょうか?
ウォーキングは全身運動として優れていますが、股関節に痛みがある場合、過度なウォーキングは逆効果になることがあります。
痛みが出る距離や時間を超えて無理に歩くと、軟骨の摩耗を早めたり炎症を悪化させたりする原因になります。
痛みが強い時期は水中ウォーキングなどの免荷運動に切り替えるか、痛みの出ない範囲での短時間の歩行にとどめ、筋力トレーニングを中心に行うなど、医師や理学療法士と相談して運動内容を調整することが大切です。
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