両側の股関節が痛むときの症状と診断基準
両方の股関節に同時に、あるいは時期をずらして痛みを感じる場合、それは単なる筋肉疲労ではなく、骨格の構造的な問題や全身性の炎症、あるいは腰など別の部位からの関連痛である可能性が高い状態です。
片側だけの痛みとは異なり、歩行や日常生活への支障が大きくなりやすいため、早期に原因を特定し、適切な対処を行うことが生活の質を守るために重要です。
この記事では、両側の股関節が痛む主な原因となる疾患、それぞれの特徴的な症状、そして医師が確定診断を下す際の基準について詳しく解説します。
痛みの正体を知ることは、不安を解消し、正しい治療へと進むための第一歩となります。
目次
両側の股関節に痛みが生じる主な原因と全体像
両側の股関節が痛む場合、変形性股関節症の進行、関節リウマチなどの全身性疾患、あるいは腰部脊柱管狭窄症による神経圧迫が主な原因として考えられ、これらは痛むタイミングや付随する症状によって区別することが可能です。
左右同時に発症することもあれば、片側をかばう動作を続けることで反対側にも痛みが生じるケースもあります。
変形性股関節症による両側の影響
最も多くの人が経験する原因の一つに、変形性股関節症があります。これは関節軟骨がすり減り、骨同士が直接ぶつかり合うことで炎症や痛みが生じる疾患です。
日本では、生まれつき股関節の受け皿が浅い「臼蓋形成不全」を持つ人が多く、これが原因で年齢とともに軟骨が摩耗しやすくなります。
臼蓋形成不全は両側に認められることが多く、片方の股関節に変形が始まると、無意識のうちにもう一方の股関節へ体重をかけるようになります。
その結果、本来は健常であったはずの反対側の股関節にも負担が集中し、時間差をおいて両側に痛みが生じるパターンが多く見られます。
発症パターンによる分類
| 発症タイプ | 特徴 | 痛みの広がり方 |
|---|---|---|
| 同時進行型 | 両側の軟骨摩耗がほぼ同じ速度で進む | 左右同時に違和感や痛みが強まる |
| 対側発症型 | 片側の痛みをかばうことで反対側が悪化 | 数ヶ月から数年の時間差で反対側も痛む |
| 二次性要因型 | 体重増加や活動量変化が両側に影響 | 生活習慣の変化に伴い両側が痛み出す |
全身性の炎症性疾患の可能性
関節そのものの変形ではなく、体の中の免疫システムや代謝の異常が原因で、両側の股関節に炎症が起こる場合があります。代表的なものが関節リウマチです。
リウマチは手や指の関節に症状が出やすいイメージがありますが、股関節などの大きな関節にも影響を及ぼします。
リウマチの場合、片側だけでなく両側の関節に同時に滑膜炎という炎症が生じることが特徴です。
朝起きた時に関節がこわばって動かしにくい、微熱が続く、全身のだるさがあるといった症状を伴う場合は、単なる使いすぎではなく全身性の病気を疑う必要があります。
腰椎疾患からの関連痛と鑑別
股関節そのものには異常がないにもかかわらず、両側の股関節周辺に痛みを感じるケースも頻繁にあります。
これは「関連痛」や「放散痛」と呼ばれ、主に腰の神経障害が原因です。腰部脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアでは、腰から足へと伸びる神経が圧迫されます。
この神経の走行に沿って痛みが走るため、患者自身はお尻や股関節の横側が痛いと感じます。
特に脊柱管狭窄症は高齢者に多く、歩行時に両側の太ももや股関節付近が痺れるように痛むことが典型的です。
この場合、股関節を動かしても可動域に制限がないことが、股関節疾患との大きな違いとなります。
変形性股関節症が両側に進行する場合の症状
変形性股関節症が両側に進行すると、歩行時の左右のバランスが崩れ、「揺れるような歩き方」になることが多く、安静時よりも動き始めや長時間活動した後に痛みが顕著になる傾向があります。
初期段階では立ち上がり動作のみで痛みますが、進行するにつれて持続的な痛みへと変化します。
初期段階における違和感と可動域制限
病気の始まりは、激痛ではなく「なんとなく重だるい」「詰まるような感じがする」という違和感からスタートすることがほとんどです。
椅子から立ち上がるときや、車から降りるときなど、動作の開始時に両側の足の付け根(鼠径部)に鋭い痛みが走ります。
しかし、少し歩いていると痛みが和らぐため、受診を先延ばしにする人が少なくありません。
また、爪切りがしにくくなったり、和式トイレのような深いしゃがみ込みが困難になったりするなど、関節の動く範囲(可動域)が徐々に狭くなっていきます。
両側で同時に可動域制限が進むと、靴下を履く動作などが著しく不便になります。
進行度合いと自覚症状の変化
| 病期(ステージ) | 主な症状 | 日常生活への影響 |
|---|---|---|
| 前期・初期 | 動作開始時痛、長時間の歩行後の疲労感 | 日常生活は自立、スポーツ後に痛む |
| 進行期 | 歩行時痛の常態化、階段昇降の困難 | 家事や仕事に休憩が必要になる |
| 末期 | 安静時痛、夜間痛、著しい可動域制限 | 杖なしでの歩行が困難、睡眠障害 |
筋力低下と歩行障害の進行
痛みを避けるために無意識に歩く量が減ると、股関節を支えるお尻の筋肉(中殿筋など)や太ももの筋肉が衰えていきます。
両側の股関節が悪い場合、片側をかばうことができないため、上半身を左右に揺らしながら歩く「鶏歩(けいほ)」と呼ばれる独特の歩き方になることがあります。
この歩き方は見た目の問題だけでなく、腰や膝への負担を倍増させます。
両足で踏ん張る力が弱くなるため、階段の上り下りが怖くなったり、信号が変わる前に横断歩道を渡りきることが難しくなったりと、移動能力が低下することで活動範囲が狭まってしまうリスクがあります。
夜間痛と安静時の痛み
炎症が強くなると、体重をかけていない状態でも痛みを感じるようになります。これを安静時痛と呼びます。特に辛いのが夜間痛です。
寝返りを打つたびに股関節に痛みが走り目が覚めてしまう、あるいは仰向けで寝ようとしても足が伸びきらずに痛むため、睡眠不足に陥ることがあります。
両側に症状がある場合、痛くない方の側を下にして寝るという逃げ場がないため、精神的にも追い詰められやすくなります。
ここまで症状が進んでいる場合は、保存療法だけでなく手術療法も含めた検討が必要な段階に来ていると言えます。
リウマチ性疾患や膠原病による股関節痛の特徴
自己免疫疾患による股関節痛は、関節の破壊速度が変形性股関節症よりも速い場合があり、朝のこわばりや発熱といった全身症状を伴うことが診断の重要な手がかりとなります。早期に薬物療法を開始することで関節破壊を食い止めることが可能です。
関節リウマチにおける破壊のメカニズム
関節リウマチは、免疫細胞が誤って自分の関節にある「滑膜」を攻撃してしまう病気です。
股関節で滑膜炎が起こると、関節液が過剰に分泌されて腫れ上がり、増殖した滑膜組織(パンヌス)が軟骨や骨を浸食していきます。
変形性股関節症が数年かけてゆっくり進行するのに対し、リウマチによる破壊は活動性が高い場合、数ヶ月単位で急速に進むことがあります。
両側の股関節が同時に侵されることが多く、骨頭が内側にめり込むような変形(中心性脱臼)をきたしやすいのも特徴です。
痛みの性質としては、ズキズキとうずくような痛みを感じることが多いです。
リウマチ性多発筋痛症との鑑別
高齢者に多く見られる病気として、リウマチ性多発筋痛症があります。この病気も両側の肩や股関節周辺に強い痛みとこわばりが生じます。
関節そのものの破壊は起きにくいですが、筋肉痛のような激しい痛みが突然現れ、寝返りが打てない、起き上がれないほどの症状が出ることがあります。
血液検査で炎症反応(CRPなど)が高い値を示す一方で、リウマチ因子(RF)は陰性であることが多いのが特徴です。
ステロイド薬が劇的に効くことが診断の一助ともなりますが、放置すると動脈炎を併発するリスクもあるため、専門医による診断が必要です。
炎症性疾患の識別ポイント
| 疾患名 | 痛みの特徴 | 好発年齢と性別 |
|---|---|---|
| 関節リウマチ | 朝のこわばり、手指などの多関節痛 | 30〜50代の女性に多い |
| リウマチ性多発筋痛症 | 筋肉痛に近い痛み、急激な発症 | 60歳以上の高齢者に多い |
| 強直性脊椎炎 | 腰背部痛を伴う、運動で改善する痛み | 若年男性に比較的多い |
強直性脊椎炎と股関節の関わり
比較的若い男性に多い強直性脊椎炎も、股関節に症状が出やすい病気です。
本来は背骨や骨盤の仙腸関節に炎症が起き、骨がくっついて固まってしまう病気ですが、初期症状として股関節や臀部の痛みから始まるケースがあります。
この痛みは「安静にしていると痛みが強く、動くと少し楽になる」という特徴があり、一般的な整形外科疾患(動くと痛い)とは逆のパターンを示します。
両側の股関節の可動域が早期から制限されやすく、あぐらがかけなくなる、足が開かなくなるといった症状が見られます。
特発性大腿骨頭壊死症のリスクと症状
大腿骨頭への血流が途絶えて骨組織が壊死する大腿骨頭壊死症は、ステロイド投与歴やアルコール多飲歴がある場合に発症リスクが高まり、突発的な鋭い痛みで発症するのが典型的なパターンです。
両側に発生する頻度が高いため注意が必要です。
発症のきっかけとリスク因子
この病気は、骨盤の受け皿にはまっている大腿骨の頭(ボール部分)へ栄養を送る血管が詰まることで起こります。
原因がはっきりしないものを特発性と呼びますが、統計的にリスクが高い因子は明確です。
一つは全身性エリテマトーデスなどの治療でステロイド薬を大量に投与された経験がある場合、もう一つは日常的に多量のアルコールを摂取している場合です。
これらの背景がある人が、ある日突然、股関節に痛みを覚えた場合は、この病気を疑う必要があります。
骨が壊死しただけでは痛みはありませんが、壊死した部分が体重に耐えきれずに「圧潰(つぶれる)」した瞬間に激痛が走ります。
急速な進行と圧潰による痛み
壊死した骨が圧潰すると、股関節の適合性が一気に悪くなります。痛みは急激で、歩くのが困難になるレベルの痛みが突然襲ってくることが多いです。
初期のレントゲンでは変化が捉えにくいため、見逃されることもありますが、MRI検査を行えば早期に壊死範囲を確認できます。
両側に発生する場合でも、同時に両方が潰れるとは限らず、片方が発症した後、数年以内にもう片方が発症することもあります。
壊死範囲が広い場合は、保存療法での改善が難しく、人工関節置換術などの手術が必要になる可能性が高まります。
大腿骨頭壊死症の病期分類
| 病期 | X線・MRI所見 | 臨床症状 |
|---|---|---|
| Stage 1 | X線は正常、MRIで特徴的変化あり | 無症状、または軽い違和感 |
| Stage 2 | X線で硬化像や嚢胞が見える(圧潰なし) | 無症状、または時折痛む |
| Stage 3 | 大腿骨頭の圧潰(骨折線)を確認 | 急激な発症、持続的な歩行時痛 |
保存療法が可能かどうかの判断
大腿骨頭壊死症と診断されたからといって、必ずしもすぐに手術が必要なわけではありません。
壊死した範囲が小さく、体重のかかる主要な部分を避けている場合は、痛みが出ないまま一生を終えることもあります。
また、若年者で骨の再生能力が期待できる場合や、圧潰が進行していない段階であれば、松葉杖を使って体重をかけないようにする免荷療法を行うことがあります。
定期的な画像検査で圧潰の進行具合を慎重にモニタリングし、痛みのコントロールができている間は自分の骨を温存する治療方針をとることが一般的です。
腰部脊柱管狭窄症などによる関連痛の見分け方
股関節そのものには異常がなく、腰の神経圧迫が原因で両側の股関節周辺が痛む場合、間欠性跛行などの特徴的な歩行障害や、姿勢による痛みの変化を確認することで、股関節疾患と区別することができます。
神経圧迫による痛みの放散パターン
腰の骨(腰椎)の中を通る神経の通り道が狭くなる腰部脊柱管狭窄症では、圧迫される神経の高さによって痛む場所が変わります。
特に第4・第5腰椎付近の神経が圧迫されると、お尻の外側から太ももの横、さらにはすねの外側にかけて痛みが走ります。
これを坐骨神経痛と呼びますが、患者自身の感覚としては「股関節が痛い」と表現することがよくあります。
この痛みは、股関節を回したり曲げたりしても増強せず、むしろ腰を反らしたり、長く立っていたりすることで悪化するのが特徴です。
間欠性跛行(かんけつせいはこう)の特徴
脊柱管狭窄症の最大の特徴は「間欠性跛行」です。
これは、歩き始めは順調でも、しばらく歩いていると両足やお尻に痺れや痛みが生じて歩けなくなり、少し前かがみになって休むと再び歩けるようになる症状です。
変形性股関節症の場合、歩き始めが痛く、歩いていると多少楽になる、あるいは歩けば歩くほど痛みが強くなり休んでもすぐには回復しない、といったパターンをとりますが、数分休むだけで劇的に回復してまた歩けるようになるのは脊柱管狭窄症特有の現象です。
股関節痛と腰由来の痛みの比較
| チェック項目 | 変形性股関節症 | 腰部脊柱管狭窄症 |
|---|---|---|
| 靴下を履く動作 | 困難(足が開かない) | 比較的容易(関節は動く) |
| 痛む姿勢 | 動き始め、体重荷重時 | 直立位、腰を反らす姿勢 |
| 楽になる姿勢 | 安静にする | 前かがみになる、しゃがむ |
画像診断による確定と合併例の存在
症状だけでは完全に区別できないこともあります。その場合、腰椎のMRI検査を行い、神経の圧迫部位を確認します。
注意が必要なのは、「Hip-Spine Syndrome(股関節-脊椎症候群)」と呼ばれる状態です。これは変形性股関節症と腰部脊柱管狭窄症を両方とも合併しているケースです。
高齢になるほど両方の疾患を持っている確率は上がります。
どちらが主な痛みの原因なのかを見極めるために、股関節内に局所麻酔薬を注射し、痛みが消えれば股関節由来、消えなければ腰由来と判断する「ブロック注射による診断」を行うこともあります。
病院で行われる診断の基準と検査の流れ
確定診断のためには、問診による痛みの履歴確認に加え、レントゲンで骨の形状を確認し、必要に応じてMRIやCT、血液検査を組み合わせることで、構造的な異常から炎症性疾患までを総合的に評価し判断します。
問診と理学所見の重要性
診断の入り口となるのは詳細な問診です。「いつから痛いか」「どのような動作で痛むか」「安静時にも痛むか」「ステロイドの使用歴はあるか」といった情報が、疾患を絞り込む鍵となります。
続いて、医師が実際に患者の足を動かして可動域を確認したり、特定の方向に力を加えたときに痛みが誘発されるかをチェックする理学所見をとります。
例えば、仰向けで膝を曲げ、内側に倒したときに鼠径部に痛みが出る場合は、股関節自体の病変が強く疑われます。これらは画像検査を行う前の予測を立てる上で非常に役立ちます。
- パトリックテスト:股関節の開排制限や痛みを確認
- FADIRテスト:股関節インピンジメントの確認
- トーマステスト:股関節の屈曲拘縮(伸びにくさ)を確認
単純X線(レントゲン)での評価基準
股関節疾患の診断において基本となるのがレントゲン検査です。ここでは骨の形、関節の隙間(裂隙)の広さ、骨棘(こつきょく)と呼ばれる骨の出っ張りがあるかなどを確認します。
変形性股関節症の診断基準では、関節の隙間が狭くなっていることや、骨硬化像(骨が白く硬く写る)が重要な指標となります。
また、CE角やシャープ角といった角度を計測することで、臼蓋形成不全の程度を数値化し、将来的な進行リスクを予測することも行います。
両側の比較が容易であるため、片側の異常を発見する際にも有効です。
MRI・CT・血液検査の役割分担
レントゲンだけでは見えない情報を得るために精密検査を行います。CT検査は骨の形状を3次元的に把握するのに優れており、手術計画を立てる際などに詳細な骨の状態を知るために用います。
一方、MRI検査は骨だけでなく、軟骨、筋肉、靭帯、関節液の状態、そして大腿骨頭壊死の初期病変を描出するのに極めて優れています。
レントゲンで異常がないのに痛みが強い場合はMRIが必須です。
また、関節リウマチや感染症が疑われる場合は、血液検査を行い、炎症反応(CRP)やリウマチ因子、特定抗体などを調べて全身の状態を評価します。
各検査でわかることのまとめ
| 検査方法 | 主な目的 | 得意とする検出対象 |
|---|---|---|
| レントゲン | 全体像の把握、スクリーニング | 骨の変形、関節裂隙の狭小化 |
| MRI | 軟部組織と初期病変の評価 | 軟骨損傷、骨頭壊死、炎症の広がり |
| CT | 骨構造の精密な3D評価 | 複雑な骨変形、骨棘の詳細な位置 |
受診すべきタイミングとセルフチェック
一時的な筋肉痛と放置してはいけない病的な痛みを区別し、安静にしていても痛む場合や発熱を伴う場合、歩行に支障が出始めた段階で速やかに整形外科専門医を受診することが、将来的な歩行能力を守るために重要です。
危険な兆候(レッドフラッグ)を見逃さない
股関節の痛みの中には、緊急性が高いものが存在します。
例えば、転倒した直後から立てなくなった場合は骨折の可能性があり、高齢者では特に注意が必要です。
また、原因不明の発熱とともに股関節が激しく痛む場合は、化膿性股関節炎という細菌感染の可能性があります。
これは数日で関節が破壊される緊急事態です。さらに、がんの既往歴がある人で、安静にしていても日に日に痛みが強くなる場合は、骨転移の可能性も否定できません。
こうした「レッドフラッグ」と呼ばれる危険信号がある場合は、様子を見ずに直ちに医療機関へ行く必要があります。
- 発熱を伴う急激な股関節の腫れと激痛
- 安静にしていても痛みが治まらず、夜も眠れない
- 足に力が入らず、排尿や排便のコントロールが難しい
日常生活での観察ポイント
緊急性がない場合でも、日常生活の中で「おかしいな」と感じる変化があれば受診の目安となります。
例えば、以前はスムーズにできていた靴下の着脱が苦痛になった、爪切りができなくなった、階段を手すりなしでは降りられなくなった、といった変化は可動域制限が進んでいる証拠です。
また、15分程度の歩行で股関節が痛み出し、休憩しないと歩けなくなる場合も、生活の質が低下し始めています。
痛みを我慢して変な歩き方を続けると、腰や膝、反対側の股関節へダメージが連鎖するため、我慢できる痛みであっても機能的な制限が出た時点で専門医に相談することをお勧めします。
専門医への情報の伝え方
正確な診断を受けるためには、医師へ自身の症状を正しく伝える準備が大切です。
「いつから痛いか」「どんな動作で痛いか」だけでなく、「過去に大きな病気をしたか(ステロイド使用歴など)」「家族に股関節が悪い人はいるか」といった情報は診断の助けになります。
また、痛みの場所を指で指し示せるかどうかも重要です。股関節の前(鼠径部)なのか、横(大転子部)なのか、後ろ(お尻)なのかによって疑われる病気が異なります。
可能であれば、痛みの強さを0から10の数値で記録したり、痛む時間帯をメモしておいたりすると、診察がスムーズに進みます。
よくある質問
股関節の痛みは遺伝しますか?
変形性股関節症の原因となる「臼蓋形成不全(股関節の屋根が浅い状態)」は、遺伝的な要素が関与することがあります。
母親や祖母が股関節の手術を受けていたり、股関節が悪かったりする場合、骨盤の形状が似ている可能性があるため、痛みがなくても一度レントゲン検査を受けておくと安心です。
ただし、必ず発症するわけではなく、生活習慣や体重管理によって発症を予防・遅延させることは可能です。
痛みがあるときは運動しても良いですか?
痛みの種類と時期によります。激しい炎症がある急性期(熱感がある、安静にしていてもズキズキ痛む)には、無理な運動は避けて安静にする必要があります。
しかし、慢性期で動かし始めが痛い程度であれば、過度な安静は筋力を低下させ、かえって病状を悪化させます。
プールでの歩行など、浮力を利用して股関節への荷重負担を減らした運動や、痛みが出ない範囲でのストレッチなどは推奨されます。
具体的な運動内容は主治医や理学療法士の指導を受けてください。
サプリメントで軟骨は再生しますか?
現在の医学的見地からは、グルコサミンやコンドロイチンなどのサプリメントを摂取することで、すり減った軟骨が元通りに再生するという明確なエビデンス(科学的根拠)は確立されていません。
一部の方で痛みが緩和したと感じるケースはありますが、あくまで補助的なものと考え、根本的な治療は整形外科での診断と治療(運動療法、薬物療法、手術療法)をベースに考えることが重要です。
両側の手術を同時に行うことはできますか?
両側の変形性股関節症が進行し、手術(人工股関節置換術など)が必要と判断された場合、病院の設備や患者さんの体力、年齢、内科的合併症の有無などを総合的に判断して、両側同時の手術を行うことがあります。
両側同時に行うメリットは、入院期間やリハビリ期間が一度で済むこと、脚長差(足の長さの違い)の調整がしやすいことなどが挙げられます。
ただし、手術時間が長くなり身体への負担も増えるため、担当医と十分に相談して決定します。
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