今回は、日本で最も盛んなスポーツの一つである野球で多く認める『投球障害肘』のうち、成長期の疾患である『離断性骨軟骨炎』についてお話させていただきます。離断性骨軟骨炎は英語でosteochondritis dissecansと表記することからその頭文字を取って『OCD』と呼ばれています。
選手の未来を守るためにも、親御さんや投球指導を行っている方々にぜひ読んでいただきたいです。
目次
今回の10秒まとめ
① 離断性骨軟骨炎とは、投球動作を繰り返すことで生じる野球肘の一つで、肘の外側が障害されます。進行するとスポーツだけではなく日常生活にも支障をきたす可能性がある疾患です。
② 離断性骨軟骨炎の症状は、ボールを投げた時の痛み、肘外側を押した時の痛み、肘関節の曲げ伸ばしの制限などです。
③ 離断性骨軟骨炎の診断は、問診、肘の可動域(関節が動く範囲)評価、圧痛(肘を押した時の痛み)、肘にストレスをかけた時の痛みなどによって行われます。
④ 離断性骨軟骨炎の治療は疾患の進行度合いに応じて決定され、初期と進行期では保存療法、終末期では手術療法が選択されます。
⑤ 保存療法では、安静にすることで病巣部位の修復を待ち、リハビリを行いながら段階的に競技復帰することが重要となります。
離断性骨炎とは?
投球動作は、からだの各部位の運動を通じて全身を動かし、下半身から生み出された力を指先からボールへ伝えていく動作です。
そのため、からだの機能(関節の柔軟性や筋力など)が低下すると全身運動のつながりが崩れて肘関節にかかる負担が増えてしまいます。
関節の柔軟性や筋力が低下することで悪いフォームになったり、投げ過ぎにより肘に多くのストレスがかかったりすることで肘に痛みが生じ、投球が困難になることを投球障害肘(野球肘)と言います。
野球肘についての説明は以下のコラムをご参照下さい。
OCDは前述した野球肘のうちの一つであり、肘の外側が障害される疾患です。
進行するとスポーツだけではなく、日常生活にも支障をきたす可能性があります。
大規模な野球肘検診などで障害が見つかる確率は2〜3%とも言われているため数としては少ないですが、野球をしているお子さんをもつ親御さんや学童期の野球選手に携わる方は必ず押さえておきたい疾患のうちの一つです。
離断性骨軟骨炎の症状
✔︎ ボールを投げた時の肘の痛み
✔︎ 肘の外側を押した時の痛み
✔︎ 肘の曲げ伸ばしの制限(可動域制限)
OCDの病期は初期(透亮期)、進行期前期(分離前期)、進行期後期(分離後期)、終末期(遊離期)という順に進んでいきます。
初期は痛みや可動域制限といった自覚的症状が出にくいことが特徴です。
進行期以降になるとボールを投げた時の肘外側の痛みや可動域制限が出てくるようになります。
終末期になると肘の軟骨が剥がれてしまい、その剥がれた軟骨が遊離体(関節鼠:かんせつねずみ)となり、骨の間に挟まって強い痛みを生じたり、肘の完全な曲げ伸ばしができなくなったりします。
離断性骨軟骨炎の原因
OCDの発生要因については未だ不明な点が多いのが現状です。
OCDは野球選手や体操選手で多く発見されることから、ボールを投げる動作や体重を支える動作などによる持続的な力が大きな発生要因と考えられています。
しかし、少年サッカー選手における検診においてもOCDの発生が報告されていることからも、純粋な力学的刺激から考えることは難しいと考えられます。
選手個人における内的な要因として、局所の血流障害や遺伝性体質素因などが考えられています。
離断性骨軟骨炎の診断
離断性骨軟骨炎の診断には医師による診察と画像診断を用います。
診察では問診、肘の可動域(関節が動く範囲)評価、圧痛(肘を押した時の痛み)、肘に外反ストレスをかけた時の痛みなどを医師がチェックしていきます。
画像診断では、単純X線(レントゲン)、CT、MRI、エコーが用いられています。初期においては通常のレントゲン撮影では写りにくく病変部の詳細な評価や立体的な拡がりを診るためには限界があるため、MRI検査で確定診断を行います。
離断性骨軟骨炎の治療
OCDの治療は、手術をせずにリハビリのみで治していく”保存療法”と、”手術療法”の2つから選択されます。
- 疾患の進み具合(病期)
- 障害されている部位の範囲・大きさ
- 骨の成熟度
- 症状
- 関節面の適合性
などをもとに決定していきます。
原則として初期と進行期では保存療法、終末期では手術療法が選択されることが多いです。
保存療法が選択された場合、少なくとも3ヵ月は肘に負担がかかる動作を禁止して画像所見をもとに病巣部位(障害されていう場所)の変化を観察していきます。
投球やバッティングだけではなく、体育、カバンなどの重い物を持つ動作、拭き掃除なども禁止となります。
”箸と鉛筆以外は持たない”くらいの安静が必要と言われています。
痛みなどの症状は投球を中止することで比較的早く無くなってきますが、OCDでは画像上での修復が確認できるまでは保存療法を継続することが重要です。
投球再開時期の目安に関しては
・手術療法:術後3~5ヵ月以降投球開始
となっています。
ボールを投げない時期はただ休んでいれば良いというわけではなく、リハビリが重要になります。
リハビリでは何をするの?
通常、治療においてはまず疾患が生じた原因を取り除くことが重要となりますが、OCDは未だ原因が特定できていないのが現状です。
したがって、疾患が悪化していく原因となる”増悪因子”を減らすという対症療法になります。
野球であれば投球やバッティング動作などで生じる外力(メカニカルストレス)を増悪因子として一番に挙げることができます。
局所を安静にして、しっかりと病巣部位の修復を待つことが重要になります。
リハビリテーションでは、肘に負担がかかる原因となりうる因子を取り除いていきます。
肘まわりだけではなく、肩関節、体幹、下半身の柔軟性や筋力を向上させるためにストレッチや筋力トレーニングを実施します。
シャドーピッチングの許可が出た後であれば、肘に負担がかからないように投球フォームの確認・修正を行います。
✔︎ 肘が下がっていないか
✔︎ 肘を突き出すようなフォームになっていないか
✔︎ 腕や上半身に頼ったフォームになっていないか
✔︎ 身体の開きが早くなっていないか
などを理学療法士がチェックしていきます。
自宅でできるようなストレッチやトレーニングもしっかりとご指導させていただきます。
野球肘検診について
学童期の野球選手を病院で診察すると、OCDなどの野球肘、リトルリーガーズショルダー、腰椎分離症、膝のオスグッド・シュラッター病などが見つかることがあります。
OCD以外の障害は痛みなどの症状を伴うことが多く、症状が出たときに外来を受診すれば手遅れになることはありません。
しかし、OCDの初期は自覚症状が出にくいため外来で早期に発見することが難しくなります。そこで、学童期の野球肘検診では、OCDを早期に見つけることを第一の目的としています。
野球肘検診では、アンケートによる問診、身体機能のチェック(関節の可動域、肘を押したときやストレスをかけたときの痛み、エコー検査)などを主に実施します。OCDなどの所見が認められた場合は、関連する医療機関でレントゲンやCT・MRIなどの検査を行います。
病院や少年野球連盟が主催で野球肘検診を実施していますので、野球をしているお子さんは是非参加していただくことをおすすめします。
まとめ
OCDに関しては、症状が出た時には病期が進行してしまっていることがほとんどです。
重要なのは、可能な限り早期に発見することと時期に応じた適切な治療を行うことです。
保存治療を進めるなかで痛みや可動域制限が無くなれば、一度くらいなら投げてもいいかと思ってしまうこともあるかと思います。
しかし、治療においてはレントゲン撮影やエコー検査を行って経過を追っていく中で段階的に復帰していくことが非常に大切になります。
未来ある野球選手たちの身体を守るためにも、是非とも一度考えていただければと思います。
もし野球をしていて肘に痛みや違和感が出た場合は決して我慢せず、医療機関を受診して下さい。
上記のような症状でお悩みの方は、一度当院までご相談ください。
当院のご紹介
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